地域のエネルギー自立に向けて ~ ヒートポンプと未利用エネルギーの活用による熱効率の向上 ~ 2014 年 2 月 21 日 広島大学大学院工学研究科金田一清香 (Sayaka Kindaichi) kindaichi@hiroshima-u.ac.jp
発表内容 はじめに 建築分野における省エネルギー施策 再生可能エネルギーについて ヒートポンプについて 仕組みとメリット 性能評価の方法 未利用エネルギーの活用 未利用熱の特性 上手に利用するには 地域に眠る未利用エネルギー 地域のエネルギー自立にむけて 2
日本の最終エネルギー消費の構成比 建築分野 出所 : エネルギー白書 2013( 経済産業省資源エネルギー庁 ) 3
省エネルギー基準 の改正 ( 平成 25 年 ) 正式名 エネルギーの使用の合理化に関する建築主及び特定建築物の所有者の判断の基準 出所 : 住宅 建築物の省エネルギー基準平成 25 年改正のポイント ( 国土交通省住宅局 ) 外皮 ( 断熱や気密 ) 性能主体の個別評価から 各種設備を含めた建物全体の総合評価へ (2020 年義務化を視野に ) 4
一次エネルギーで評価するということは ガス ( 都市ガス LPG 等 )?MJ 発電所?MJ? m3油 ( 重油 灯油等 )?MJ?l 給湯 冷暖房 照明 厨房 動力?kWh 電気 どのエネルギーを使った どんな効率の設備を用いるか? 設備の種類や使い方で一次エネルギー消費量は大きく変わる! 5
再生可能エネルギーも考慮 出所 : 建築研究所ホームページ http://www.kenken.go.jp/becc/index.html#energyprogram 6
再生可能エネルギーの定義 * エネルギー供給構造高度化法 ( 正式名 : エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律 ) による エネルギー源として永続的に利用することができると認められるもの 太陽光 風力 水力 地熱 バイオマス 太陽熱 大気中の熱その他の自然界に存する熱 電気エネルギーを取り出すもの ( 発電用途 ) 熱エネルギーを取り出すもの 7
用途別エネルギー消費の構成比 家庭部門業務部門 ( オフィスビル ) 熱需要熱需要 出所 : エネルギー白書 2013( 経済産業省資源エネルギー庁 ) 8
再生可能エネルギーから 熱 を得る? 大気中の熱 ( 空気熱 ) 熱熱熱熱熱 その他の自然界に存する熱 ( 未利用熱 ) たとえば地中熱 熱 熱 熱 熱 河川水 湖沼水 海水 通常 冷房 / 暖房や給湯等の熱的用途にそのまま利用するのは難しい ヒートポンプの利用 9
ヒートポンプとは? 少ないエネルギーで効率的に熱を取り出す技術 エアコン CO2 ヒートホ ンフ 給湯機 ( エコキュート ) 冷凍冷蔵庫 乾燥機 一般的なのは空気熱を用いる手法 元来は 冷凍機 として 冷熱用途に使われてきたが 現在は 温熱用途にも多く利用されている 10
ヒートポンプの仕組み < エアコン暖房の場合 > 室内へ放熱 Q 2 4 冷媒管 大気から採熱熱 熱 3 高温源 熱交換器 ( 凝縮器 ) 熱交換器 ( 蒸発器 ) 低温源 投入エネルギー E 1 ( ここでは電気 ) 効率 (COP) 作動流体 ( 冷媒 ) が圧縮または膨張するときの状態変化を利用し 高温側 ( または低温側 ) へ熱を移動 Q 2 =4.0 E 11
トップランナー基準 民生 運輸部門の省エネルギー対策として 99 年に制定 エアコンは 97 年度から 04 年度実績で約 68% 省エネ化 トップランナー特定機器 (23 品目 ) 1. 常用自動車 2. 貨物自動車 3. エアコンディショナー 4. 電気冷蔵庫 5. 電気冷凍庫 6. ジャー炊飯器 7. 電子レンジ 8. 蛍光灯器具 9. 電気便座 10. テレビジョン受信機 11. ヒ テ オテーフ レコータ ー 12. DVDレコーダー 13. 電子計算機 14. 磁気ディスク装置 15. 複写機 16. ストーブ 17. ガス調理機器 18. ガス温水機器 19. 石油温水機器 20. 自動販売機 21. 変圧器 22. ルーティング機器 23. スイッチング機器 出所 : トップランナー基準世界最高の省エネルギー機器の創出に向けて 2010 年 3 月版 ( 経済産業省資源エネルギー庁 ) 12
省エネルギーラベリング制度 エアコンのエネルギー消費効率 COP( 期間平均効率 ) APF( 年間効率 ) 定格時だけでなく 低負荷 ~ 高負荷まで 年間を通したエネルギー消費が考慮される 年間一次エネルギー消費量算出の概念と一致 出所 : トップランナー基準世界最高の省エネルギー機器の創出に向けて 2010 年 3 月版 ( 経済産業省資源エネルギー庁 ) 13
ヒートポンプは絶対に省エネか? 例 : 住宅の暖房用エネルギー 灯油ストーブ 暖房負荷 10 GJ/ 年 灯油 効率 0.8 エネルギー消費量 10/0.8=12.5GJ 14
ヒートポンプは絶対に省エネか? 例 : 住宅の暖房用エネルギー エアコン 一次エネルギー消費量 * 2.0*2.77=5.5GJ 発電所 暖房負荷 10 GJ/ 年 電気 効率 5.0 ( 二次 ) エネルギー消費量 10/5.0=2.0GJ *: 一次エネルギー換算係数を 9.97 MJ/kWh とした場合 15
ヒートポンプは絶対に省エネか? 例 : 住宅の暖房用エネルギー エアコン 一次エネルギー消費量 * 5.0*2.77=13.8GJ 発電所 暖房負荷 10 GJ/ 年 電気 効率 2.0 ( 二次 ) エネルギー消費量 10/2.0=5.0GJ 少なくとも年間効率で 2.5 を超えなければ 燃焼系設備と比した省エネルギー性は確保できない *: 一次エネルギー換算係数を 9.97 MJ/kWh とした場合 16
未利用熱を熱源とするヒートポンプシステム 地中熱 東京スカイツリー 東京国際空港国際線旅客ターミナルビル 出所 :http://www.ikea.com/jp/ja/store/fukuoka/sustainability#setsubi IKEA 福岡新宮 基本的には場所や用途を選ばない 地中側の工事を伴うが 建物側の空調システムは通常のセントラル方式と同様 近年 シンボリックな建物 施設への導入が見られる 住宅用であれば 深さ100m 程のボアホールで暖冷房が可能 17
未利用熱を熱源とするヒートポンプシステム 海水 下水 http://www.sony.co.jp/sonyinfo/csr/eco/special/artist/05_1.html サンポート高松 ソニー本社ビル 海水や河川水 下水の利用は大規模なシステムに限られる 複数の建物や地域 街区に熱を供給する 地域熱供給事業 での採用例が多い ( 地域熱供給事業の認定は加熱能力 21GJ/h 以上 ) 18
未利用熱の特性 深さ [m] 0 5 10 15 20 ( 各月の平均分布 ) 12 12 311 4105 6978 一定に近づく 地中温 [ºC] 冬 未利用エネルギー温度 夏 外気温 ヒートポンプの熱源として有効な温度差エネルギー 通常 未利用熱は 地盤 や 水 の形で存在 19
未利用熱の特性 蓄熱容量の比較 (20 C) * 伝熱工学資料改訂第 5 版による 空気 :0.119 kg/(m 3 K)* 水 :4,169 kg/(m 3 K)* 地盤 ( 飽和した砂礫層 ) :3,000 kg/(m 3 K) 未利用熱は空気に比べて数万倍 熱を蓄える 20
空気熱の場合 冷房時 大気から冷熱を採る = 大気に温熱を放出 暖房時 大気から温熱を採る = 大気に冷熱を放出 空気の特性 莫大な容積 軽い = 蓄熱性はほとんど無視できる 21
地中熱の場合 冷房時 暖房時 地盤から冷熱を採る 地盤から温熱を採る 地中温度は上がる ( 温蓄熱状態 ) 地中温度は下がる ( 冷蓄熱状態 ) 夏 昼 季節間 昼夜間の 冬 夜 蓄熱 / 放熱 22
地中熱利用時の熱源温度 計算例 ( ボアホール 12 本 ) ( ピーク日 :8 月 1 日 ) 温度 [ ] 35 30 25 20 15 停止 外気温 冷房運転 地中熱利用時 停止 0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 不易層温度 地下水流れが無い ( 考慮しない ) 場合には 冷房時には熱源温度は上がる ( 暖房時は下がる ) 計算条件地盤の有効熱伝導率 1.5 W/(m K) 不易層温度 17.5 ボアホール1 本当り深さ100 m ヒートポンプの効率 : 現状レベル 二次側出力 50 kw 送水温度 7 23
地中熱利用時の熱源温度 計算例 ( ボアホール 24 本 ) ( ピーク日 :8 月 1 日 ) 温度 [ ] 35 30 25 20 15 停止冷房運転停止外気温地中熱利用時 (12 本 ) 地中熱利用時 (24 本 ) 不易層温度 0:00 6:00 12:00 18:00 0:00 12 本 コスト増 24 本 熱源水温度安定 24
未利用エネルギーを上手く利用するには 空気熱や未利用熱はヒートポンプとの組み合わせにより 高い効果を発揮する ただし 太陽光や風力 水力 地熱など 発電を行う他の再生可能エネルギーと異なり 設備の導入がエネルギー自立に直結するわけではない 年間を通して高い効率を発揮するような システム設計や運用等のエンジニアリングが重要な鍵となる 特に 広く普及している空気熱の場合と異なり ( 流れの少ない ) 未利用熱を用いるときには 地盤や水の熱容量を考慮した設計が必要である 25
地域に眠る未利用エネルギー 瀬戸内地方に点在する農業用貯水池や調整池の水を熱源とできないか? Wikipedia ため池 より画像引用 立地 自然湖沼に比べ 熱需要地が近接している 都市部でなくても 未利用エネルギーが活用できる! 地中熱 地下水熱と比べ 水の自然対流による熱拡散が期待できる ( 効率が良い ) くみあげ規制の対象外 その他 間接方式にすることで 水利権や漁業権の問題をクリアできる ( 可能性が高い ) 海水や河川水に比べ 施工コストが抑えられる 26
地域のエネルギー自立にむけて 建物の用途により エネルギーの消費形態は大きく異なる 消費大 コンビニ 病院 スーパー 宿泊施設 事務所 学校 消費小 温熱 住宅 * 日本サステナブル建築協会の DECC 基礎データベースによる単位延べ床面積当りの年間一次エネルギー消費量を参考に作成 冷熱 27
地域のエネルギー自立にむけて 貯水池の熱を主体とする地域熱供給ネットワークはできないか? 熱需要の形態が異なる複数の建物用途を組み合わせれば 貯水池の熱を有効に使える ( 貯水池の温度レベルは特に冷熱利用に効果大 ) 東広島は再生可能エネルギーの宝庫! 身近な未利用エネルギーを上手に使えるシステムの開発に取り組みたいと思っています 温熱 冷熱 冷却 加熱 28