平成 28 年 10 月 11 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結の日平成 28 年 7 月 7 日 判 決 原 告 オーガスタナショナルインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 中 村 稔 同 松 尾 和 子 同 田 中 伸 一 郎 同訴訟代

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指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

同法 46 条 1 項 1 号により, 無効とすることはできない, というものである 第 3 当事者の主張 1 審決の取消事由に関する原告の主張 (1) 取消事由 1( 商標法 3 条 1 項柱書該当性判断の誤り ) 審決は, 本件商標に関し, 願書に記載された指定商品又は指定役務に使用していること

平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

最高裁○○第000100号

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

原告は, 平成 26 年 12 月 9 日, 指定役務を第 35 類 市場調査又は分析, 助産師のあっせん, 助産師のための求人情報の提供, 第 41 類 セミナーの企画 運営又は開催, 電子出版物の提供, 図書及び記録の供覧, 図書の貸与, 書籍の制作, 教育 文化 娯楽 スポーツ用ビデオの制作

(1) 被告は, 次の商標 ( 以下 本件商標 という ) に係る商標権 ( 以下 本件商標権 という ) を有している ( 甲 25) 商標登録第 号商標の構成千鳥屋 ( 標準文字 ) 登録出願日平成 23 年 12 月 21 日設定登録日平成 25 年 2 月 8 日指定商品第

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

最高裁○○第000100号

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

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平成 29 年 5 月 15 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 3 月 6 日 判 決 原 告 BERNARD FRANCE SERVICE 合同会社 訴訟代理人弁護士笹本摂 向多美子 訴訟代理人弁理士木村高明 被 告 ラボラ

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1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

本件は, 商標登録取消審判請求に対する審決の取消訴訟である 争点は,1 被告又は通常実施権者による標章使用の有無及び2 使用された標章と登録商標との同一性の有無である 1 本件商標商標登録第 号商標 ( 以下, 本件商標 という ) は, 下記の構成からなり, 第 25 類 運動靴,

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

基本的な考え方の解説 (1) 立体的形状が 商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は 特段の事情のない限り 商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する 解説 商品等の形状は 多くの場合 機能をより効果的に発揮させたり 美感をより優れたものとしたりするなどの目的で

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

( 以下 プロバイダ責任制限法 という )4 条 1 項に基づき, 被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) (1) 当事者 原告は, 肩書地に居住する者である ( 甲 1) 被告は,

年 1 月 9 日に第 40 類 布地 被服又は毛皮の加工処理 ( 乾燥処理を含む ), 裁縫, ししゅう, 木材の加工, 竹 木皮 とう つる その他の植物性基礎材料の加工 ( 食物原材料の加工を除く ), 食料品の加工, 廃棄物の再生, 印刷 を指定役務 ( 以下 本件指定役務 という ) とし

審決取消判決の拘束力

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

異議の決定 異議 東京都荒川区東日暮里 3 丁目 27 番 6 号商標権者株式会社エドウイン 東京都渋谷区広尾 商標異議申立人 EVISU JAPAN 株式会社 東京都港区西新橋 1 丁目 18 番 9 号西新橋ノアビル4 階朝比 増田特許事務所代理人弁理士朝比

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

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平成 25 年 12 月 17 日判決言渡 平成 25 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 10 月 17 日 判 決 原告エイトマイハートイン コーポレイテッド 訴訟代理人弁護士 五十嵐 敦 出 田 真樹子 弁理士 稲 葉 良 幸 石 田 昌 彦 右

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

1 原告の請求を棄却する 2 訴訟費用は原告の負担とする 事実及び理由第 1 請求の趣旨 1 特許庁が無効 号事件について平成 25 年 5 月 9 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ( 当事者間に争い

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間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

31 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 第 1 原告の求めた裁判 主文同旨 事実及び理由 第 2 事案の概要 本件は, 商標登録を無効とした審決の取消訴訟である 争点は, 商標法 4 条 1 項 10 号該当性 ( 引用商標の周知性の有無 ) である 1 特許庁における手続の経

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

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原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

83155C0D6A356F E6F0034B16

平成  年(オ)第  号

最高裁○○第000100号

令和元年 5 月 30 日判決言渡 平成 30 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 31 年 4 月 23 日 判 決 原告ジー エス エフ ケー シー ピー株式会社 被告ケーシーピーヘビーインダスト リーズカンパニーリミテッド 訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫

(イ係)

(Microsoft Word \224\255\225\\\201yMSH\201z \224\273\214\210\201i\217\244\225W\201j.doc)

主文第 1 項と同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は, 平成 24 年 6 月 14 日, 発明の名称を 遊技機 とする特許出願をし ( 特願 号 請求項数 3 ), 平成 26 年 5 月 12 日付けで拒絶理由通知 ( 甲 8 以下 本件

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

第 1 控訴の趣旨 控訴人は, 原判決取消しとともに, 被控訴人らの請求をいずれも棄却する判決を 求めた 第 2 事案の概要 被控訴人らは日本舞踊の普及等の事業活動をしている 控訴人はその事業活動に 一般社団法人花柳流花柳会 の名称 ( 控訴人名称 ) を使用している 被控訴人ら は, 花柳流 及び

日から支払済みまで年 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団であ る原告が, 被告株式会社シーエム ( 以下 被告シーエム という ) が企画, 編集

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

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平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

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平成 30 年 6 月 15 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 5939 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 5 月 9 日 判 決 5 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 被告は, 別紙対象目録の 原告 欄記載の各原告に対し,

1 前提となる事実等 ( 証拠の摘示のない事実は, 争いのない事実又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実である ) (1) 当事者原告は, X1 の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり, 被告は, 不動産業を主な業務としている特例有限会社である (2) 原告によるプログラムの制

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

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の商標権者である ( 甲 1,45) 登録商標 : 別紙 1 本件商標目録記載のとおり登録出願 : 平成 26 年 3 月 14 日登録査定日 : 平成 26 年 8 月 22 日設定登録 : 平成 26 年 9 月 26 日指定役務 : 第 35 類 広告業, 経営の診断又は経営に関する助言, 市

1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は, 平成 25 年 11 月 19 日, 山岸一雄 の文字を標準文字で表して成る商標 ( 以下 本願商標 という ) について, 商標登録出願をした ( 商願 号 以下 本願 という 甲 7) (2) 原告は, 上記商標登録出願に対

一括して買い受けた なお, 本件商品である コンタクトレンズ は, 本件商標の指定商品 眼鏡 に含まれる商品である (3) 使用商標は, ハートO2EXスーパー の文字からなるところ, 本件商品の容器に表示された使用商標は, ハート の文字部分だけが赤い字で, かつデザイン化されており, これに続く

本件は, 商標法 50 条 1 項に基づく商標登録取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 1 本件商標及び特許庁における手続の経緯等被告は, 下記の KIRIN の欧文字を横書きしてなり, 平成 19 年 6 月 25 日に出願され, 第 35 類 酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧

11総法不審第120号

淡路町知財研究会 (松宮ゼミ)

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

求める事案である 1 本件商標被告は, 平成 17 年 3 月 7 日, rhythm の文字を横書きしてなる商標 ( 以下 本件商標 という ) について, 第 25 類 履物, 乗馬靴 を指定商品として, 商標登録出願し, 同年 9 月 16 日に設定登録を受けた ( 登録第 号

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

第 4 審理員意見書の結論 本件各審査請求は理由がないから 行政不服審査法 4 5 条 2 項に より いずれも棄却すべきである 第 5 調査審議の経過審査会は 本件諮問について 以下のように審議した 年月日審議経過 平成 30 年 3 月 6 日 諮問 平成 30 年 4 月 26 日審議 ( 第

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1DD CC A CA

1 特許庁における手続の経緯等 ( 後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実 ) (1) 被告は, 次の商標 ( 以下 本件商標 という ) の商標権者である ( 甲 1, 2) 登録番号第 号登録出願日平成 26 年 3 月 27 日設定登録日平成 28 年 4 月 22 日登録

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

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た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

<4D F736F F D F B CB48D EE688F882CC8EC08FEE F4390B394C5816A6F6E672E646F63>

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

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平成 30 年 3 月 29 日判決言渡同日原本受領裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 9 日 判 決 5 原告株式会社フィールドアロー 同訴訟代理人弁護士 青 山 友 和 被 告 ソ メ ヤ 株 式 会 社 同訴訟代理

2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人株式会社バイオセレンタック, 同 Y1 及び同 Y2は, 控訴人コスメディ製薬株式会社に対し, 各自 2200 万円及びこれに対する平成 27 年 12 月 1 日から支払済みまで年 5 分の割

2018 年 2 月 8 日第一東京弁護士会総合法律研究所知的所有権法部会担当 : 弁護士佐竹希 バカラ電子カードシュー 事件 知財高裁平成 29 年 9 月 27 日判決 ( 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号 ) I. 事案の概要原告 ( エンゼルプレイングカード株式会社 : カー

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して, 損害賠償金 330 万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成 28 年 月 21 日 ( 原告が被告に本件請求の通知を送付した日の翌日 ) から支払済みまで民法所定の年 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

平成 25 年 4 月 24 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 3 月 11 日 判 決 原 告 X 訴訟代理人弁理士 松 下 昌 弘 被 告 特 許 庁 長 官 指定代理人 井 出 英一郎 同 水 莖 弥 同 堀 内 仁 子

職選挙法等の改正により一部改められたものの,1 人別枠方式は維持されたまま, 衆議院が解散され, 選挙区割りの未了を理由に, 従前の選挙区割りに基づいて本件選挙を施行するものとされたことにより, 投票価値の平等が害されたまま投票を行わざるを得ないという重大な損害を被ることとなったのであり, 憲法違反

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平成 28 年 10 月 11 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 10083 号審決取消請求事件 口頭弁論終結の日平成 28 年 7 月 7 日 判 決 原 告 オーガスタナショナルインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 中 村 稔 同 松 尾 和 子 同 田 中 伸 一 郎 同訴訟代理人弁理士 井 滝 裕 敬 同 苫 米 地 正 啓 被告コナミホールディングス株式会社 ( 旧商号コナミ株式会社 ) 同訴訟代理人弁護士小宮山展隆 主 文 1 特許庁が無効 2015-890053 号事件について平成 2 7 年 12 月 1 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 事実及び理由 第 1 請求 主文同旨 1

第 2 前提事実 ( いずれも当事者間に争いがない ) 1 本件商標商標登録第 5707700 号の商標 ( 以下 本件商標 という ) は, コナミスポーツクラブマスターズ の文字を標準文字により表してなり, 平成 2 6 年 5 月 30 日に登録出願, 第 41 類 教育 文化 娯楽 スポーツ用ビデオの制作 ( 映画 放送番組 広告用のものを除く ), スポーツの興行の企画 運営又は開催, ゲーム大会の企画 運営又は開催, その他の興行の企画 運営又は開催 ( 映画 演芸 演劇 音楽の演奏の興行及びスポーツ 競馬 競輪 競艇 小型自動車競走の興行に関するものを除く ), 運動施設の提供, 運動用具の貸与, レコード又は録音済み磁気テープの貸与, 録画済み磁気テープの貸与 を指定役務として, 同年 9 月 5 日に登録査定, 同年 10 月 3 日に設定登録されたものである 2 特許庁における手続の経緯等原告は, 平成 27 年 6 月 18 日, 本件商標の登録を無効とする, 審判費用は被請求人 ( 被告 ただし, 同年 10 月 1 日に現商号に変更するまでの商号は旧商号である ) の負担とするとの審決を求め, 本件商標は商標法 ( 以下 法 という )4 条 1 項 15 号, 同 19 号及び同 7 号に該当し, 法 46 条 1 項 1 号の規定に基づき無効にすべきものであるとして, 審判を請求した 特許庁は, 本件審判請求を無効 2015-890053 号事件 ( 以下 本件審判事件 といい, また, その手続を 本件審判手続 という ) として審理し, 同年 12 月 1 日, 本件審判の請求は, 成り立たない との審決 ( 出訴期間として90 日を附加 以下 本件審決 という ) をし, その謄本は, 同月 10 日, 原告に送達された なお, 本件審判事件において, 被告は, 原告の主張に対し何ら答弁しなかった 原告は, 平成 28 年 4 月 5 日, 本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した 2

3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は, 別紙審決書 ( 写し ) 記載のとおりであり, その要旨は, 以下のとおりである (1) Masters 及び マスターズ の周知性について Masters 及び マスターズ ( 以下, 両者を合わせて 原告各商標 という ) は, 本件商標の登録出願時及び登録査定時において, 米国ジョージア州オーガスタにある原告が経営するゴルフクラブにおいて開催される世界の4 大ゴルフトーナメントの一つである The Master s Tournament( マスターズトーナメント ) の略称として広く使用されており, また, 当該ゴルフクラブにおいて提供される原告の業務にかかる役務を表示するものとして, 我が国のゴルフに関連する役務の取引者, 需要者の間で広く認識されていたということができる (2) 法 4 条 1 項 15 号該当性について本件商標は, コナミスポーツクラブマスターズ の文字からなるところ, 該文字は, 同書, 同大, 等間隔で一体にまとまりよく表してなるものであって, これより生ずる コナミスポーツクラブマスターズ の称呼は, やや冗長であるとしても, 一連に称呼し得るものである また, 本件商標の構成中 スポーツクラブ の文字は, 学校の運動部 また, 企業や地域のスポーツ活動を行う組織 スポーツの講習や施設を提供する会員制組織 の意味を有するものであり, マスターズ の文字は, (Masters Tournament) アメリカのジョージア州オーガスタで毎年 4 月に行われるゴルフ競技会 1934 年, 世界の名手の招待競技として発足 (World Masters Games) 中高年のための国際スポーツ大会 女子 30 歳 男子 35 歳以上の参加者が5 歳きざみの年齢別で競技 世界マスターズ大会 中高年のための競技会の総称 の意味を有するものである 3

さらに, 被告は, スポーツ施設を実際に運営しており, 当該スポーツ施設の名称である コナミスポーツクラブ の語は, その活動内容から相当程度知られていることがうかがえる してみると, 本件商標は, その構成中 コナミスポーツクラブ の文字部分からは, コナミが運営する会員制のスポーツ組織 の意味合いを理解させるものである ところで, 職権によりインターネット調査 ( スポーツクラブ 及び マスターズ の語を複合キーワード検索 以下 本件職権証拠調べ という ) したところ, マスターズ の語が, スポーツクラブにおけるクラス分けの一つとして使用されている例が, 多数確認された 以上のことを踏まえると, 本件商標の構成中 コナミスポーツクラブ の文字は, コナミが運営する会員制のスポーツ組織 の意味合いを想起させるものであり, また, マスターズ の文字は, スポーツクラブ の文字と結合した場合には, スポーツクラブにおけるクラス分けの一つ 程の意味合いを容易に理解させるものといえるから, 役務の質を表示したと理解されるにとどまるものであって, 自他役務の識別力がないか極めて弱いものである かかる構成態様の本件商標にあって, マスターズ の文字部分のみを殊更に強く印象し記憶して, 当該部分に相応した称呼や観念のみをもって取引に資されるとする理由はない そうすると, 本件商標は, その構成全体をもって取引に資されるほか, 出所表示として強い識別力を発揮し得る コナミスポーツクラブ の文字部分をもって印象され記憶されるものというのが相当であり, これに接する需要者をして, 直ちに原告各商標を連想, 想起させるとまではいえない してみれば, 本件商標は, コナミスポーツクラブマスターズ 又は コナミスポーツクラブ の称呼を生じ, マスターズ( 中高年 ) のためのクラスあるいはプログラムを有するコナミが運営する会員制のスポーツ組織 4

又は コナミが運営する会員制のスポーツ組織 の観念が生ずるものというべきであり, その構成中の マスターズ の文字部分が役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえないから, マスターズ の文字部分だけを, 原告各商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されないというべきである たとえ, 原告各商標が, 我が国のゴルフに関連する役務の取引者, 需要者の間で広く認識されているとしても, 本件商標と原告各商標とは非類似の商標であって, 別異の商標といえるものであり, また, 本件商標中の マスターズ の文字部分から直ちに原告各商標を連想, 想起するとまではいえないから, 本件商標は, これをその指定役務について使用しても, これに接する需要者において, 該役務が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように, その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるということはできない したがって, 本件商標は, 法 4 条 1 項 15 号に該当するものではない (3) 法 4 条 1 項 19 号該当性について本件商標と原告各商標とは, 上記 (2) のとおり, 判然と区別し得る別異の商標というべきものであり, また, たとえ原告各商標が我が国のゴルフに関連する役務の取引者, 需要者の間で広く認識されているとしても, 本件商標中の マスターズ の文字は, スポーツクラブ の文字と結合した場合には, スポーツクラブにおけるクラス分けの一つ 程の意味合いを容易に理解させるものといえるから, 役務の質を表示したと理解されるにとどまるものである してみれば, 本件商標は, 原告各商標の持つ顧客吸引力を利用し, 不当に利益を上げるなど, 不正の目的をもって使用をするものとはいえず, また, 不正の目的をもって使用をするものであることを認めるに足る証拠も提出されていない 5

したがって, 本件商標は, 法 4 条 1 項 19 号に違反してされたものとはいえない (4) 法 4 条 1 項 7 号該当性について本件商標と原告各商標とは, 上記 (2) のとおり, 判然と区別し得る別異の商標というべきものであり, また, たとえ, 原告各商標が我が国のゴルフに関連する役務の取引者, 需要者の間で広く認識されているとしても, 本件商標中の マスターズ の文字は, 上記 (3) のとおりであるから, 役務の質を表示したと理解されるにとどまるものであって, マスターズ の名声や顧客吸引力に便乗するものであるとはいえず, 本件商標を商標登録することが, その名声や顧客吸引力の希釈化をするおそれもない そうすると, 本件商標をその指定役務に使用することが社会一般の道徳観念に反し, 公正な取引秩序を乱すものとはいえない その他, 本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標であると認めるに足りる事情及びその証拠の提出もない したがって, 本件商標は, 法 4 条 1 項 7 号に該当しない (5) 以上のとおり, 本件商標は, 法 4 条 1 項 7 号, 同 15 号及び同 19 号に違反して登録されたものとは認められないから, 法 46 条 1 項の規定によってその登録を無効とすることはできない 第 3 当事者の主張 1 原告の主張 (1) 取消事由 1( 手続上の瑕疵 ) 本件審判手続においては, 職権によりスポーツクラブにおける マスターズ の語の使用に関するインターネット調査に基づく証拠調べ ( 本件職権証拠調べ ) がされたが, その結果について請求人である原告に対し何ら通知されず, 平成 27 年 11 月 16 日付けで書面審理通知書が, 同月 17 日付けで審理終結通知書が発送され, そのまま本件審決がされた 6

法 56 条が準用する特許法 150 条において, 審判に関しては, 職権で, 証拠調べをすることができる (1 項 ), 審判長は, 職権で証拠調べ をしたときは, その結果を当事者 に通知し, 相当の期間を指定して, 意見を申し立てる機会を与えなければならない (5 項 ) と定められているところ, 本件審判手続は明らかに法 56 条の準用する特許法 150 条 1 項及び5 項に違反してされた違法なものである (2) 取消事由 2( 法 4 条 1 項 15 号該当性 ) ア本件審決は, 職権により実施したインターネット調査の結果, マスターズ の語がスポーツクラブにおけるクラス分けの一つとして使用されている例が多数確認されたとするところ, スポーツクラブにより マスターズ の文字をクラス分けに使用している事例は存在するものの, この仕分けは各スポーツクラブが自由にそれぞれの判断で決めていることであり, 外部の者には マスターズ が何を意味するかは全くわからない また, スポーツクラブ ( フィットネスクラブ ) の事業者数及び会員数等を考慮すれば, スポーツクラブにおいて マスターズ の語に接する人数は僅かであり, そのような限られた人々の認識に基づいて マスターズ の語に識別力がない又は乏しいと判断することには合理性がない 他方, 原告各商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知著名であったことは, 本件審決も認定している このような状況において, 社会的に見てごく例外的な, 極めて限られた範囲でしか知られていない用例を根拠に マスターズ の語が スポーツクラブにおけるクラス分けの一つ 程の意味合いを容易に理解させ, 役務の質を表示したと理解されるにとどまり, 自他役務の識別力がないか極めて弱いと認定することは, およそ社会常識に反する イ マスターズ の語については, 多くの国語辞書に マスターズトー 7

ナメント に由来する, その略称である旨が記載されており, 複数の語義を有するとしている辞書でも常に真っ先にこの意義が記載されている しかも,1980 年代には既に国語辞書に掲載され始め,1990 年代にほとんどの中型辞書に,2000 年代に入ると小型辞書にも掲載されるに至っている このように, 多くの国語辞書に掲載されている事実は, マスターズ という語が単にゴルフの取引者, 需要者だけでなく, 広く一般的に用いられ, 社会的に定着している事実を示すものである また, マスターズ の語は, 古くからゴルフ愛好家のための専門誌だけでなく, 一般公衆を読者とする一般全国紙及び各種の雑誌において, マスターズトーナメント の略称として, 記事, 報道, 読み物等に広く使用されてきた Masters 及び マスターズ の語が, このように社会的に広く, 限られた読者層だけでなく一般公衆に知られてきたことが, 上記のように各種の辞書に記載される基礎ともなっている さらに, 毎年 4 月第 2 週に開催される マスターズトーナメント は, 多年にわたり全国的にテレビで同時放映されており, 例年, 高い視聴率を上げているところ, マスターズトーナメント と完全に呼ぶことは稀であり, マスターズ の略称がふんだんに放映に際して発言されている こうした状況から見て, マスターズ が原告の主催する マスターズトーナメント の略称として我が国一般公衆の間に広く認識され, 周知, 著名となっていることには疑問の余地はない ウ コナミスポーツクラブマスターズ という15 音からなる語を一連に, 換言すれば一息に発音することは至難であり, 通常であれば, コナミ スポーツ クラブ マスターズ と4 語に, 又は コナミ スポーツクラブ マスターズ と3 語に区切って発音すると考えられる した 8

がって, 本件商標は, コナミスポーツクラブ という部分と マスターズ とを結合した商標であり, 本件商標から マスターズ という称呼, 観念も, コナミスポーツクラブ という称呼, 観念とともに生じると考えるのが常識的である したがって, 本件商標に接する者が, 本件商標から コナミスポーツクラブ が マスターズトーナメント ないし マスターズトーナメント を主催している原告と経営的, 人的等何らかの関係があるものと理解することは当然に予測されるところであり, 役務の出所について混同を生じることは必至である エ以上より, 本件商標は法 4 条 1 項 15 号に該当し, 無効とされるべきものである (3) 取消事由 3( 法 4 条 1 項 19 号該当性 ) 被告は, 各種のゴルフ講習会を常設し, また, ゴルフの競技会の企画, 運営等をその事業の一部として行っている そのような被告が マスターズ の周知著名性を知らないはずはなく, 殊更に マスターズ を末尾に含む本件商標を登録したのは, マスターズ の持つ顧客吸引力を利用し, 不当に利益を上げる, 不正目的の使用を行うものであることは明らかである したがって, 本件商標は法 4 条 1 項 19 号に該当し, 無効とされるべきものである (4) 取消事由 4( 法 4 条 1 項 7 号該当性 ) 上記のとおり, 本件商標は法 4 条 1 項 19 号に該当し, マスターズ の名声, 顧客吸引力に便乗するものであるから, 社会一般の道徳観念に反し, 公正な取引秩序を乱すものであり, 法 4 条 1 項 7 号に該当し, 無効とされるべきものである 2 被告の主張 (1) 上記原告の主張のうち, 被告の子会社である株式会社コナミスポーツ 9

( 以下 コナミスポーツ という ) が大人向け, 子供向けの各ゴルフスクールを運営し, スクール利用者を対象とするゴルフ競技会を開催していること, 複数のスポーツクラブにおいて マスターズ という名称がスポーツクラブの提供するサービスの種類を示す名称として使用されていることは認め, その余は否認ないし争う (2) コナミスポーツは, 施設数, 会員数の両面において日本最大のスポーツクラブを運営する会社であり, 日本全国において著名であることは疑いなく, 出所表示として強い識別力を発揮し得る コナミスポーツクラブ の文字部分をもって印象され記憶されるものというのが相当 とした本件審決の判断は適切である また, 被告は, コナミスポーツが社団法人日本マスターズ水泳協会の公認を得て コナミスポーツクラブマスターズ水泳競技会 との名称で水泳競技会を開催していることから, 当該名称を確実に使用できる状況を確保するべく本件商標を取得したものであって, マスターズ の持つ顧客吸引力を利用し, 不当に利益を上げるといった目的で本件商標を使用するものではない 第 4 当裁判所の判断 1 取消事由 1( 手続上の瑕疵 ) について (1) 前記認定 ( 第 2,3,(2)) のとおり, 特許庁は, 本件審判手続において本件職権証拠調べを行ったものであるところ, 証拠 ( 甲 78,79) によれば, 特許庁は, 原告に対し, 平成 27 年 11 月 16 日に書面審理通知書 ( 起案日は同月 12 日 ) を発送した上で, 同月 17 日, 審理終結通知書 ( 起案日は同月 12 日 ) を発送したことが認められるものの, 本件職権証拠調べの結果を原告に対して通知し, 相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えたことをうかがわせる証拠は全くなく, これらの手続は行われなかったことが推認される 10

(2) ア法 56 条が準用する特許法 150 条は, 審判に関しては, 職権で, 証拠調べをすることができる (1 項 ) とする一方で, 審判長は, 職権で証拠調べ をしたときは, その結果を当事者 に通知し, 相当の期間を指定して, 意見を申し立てる機会を与えなければならない (5 項 ) と定める ところが, 本件審判手続において, 特許庁は, 上記 (1) のとおり, 原告に対し, 本件職権証拠調べの結果につき通知し, 相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなかったのであり, この点で本件審判手続には上記規定に違反するという瑕疵があったものというべきである イまた, 本件職権証拠調べは, 具体的にはインターネットにより スポーツクラブ 及び マスターズ の語を複合キーワード検索することで スポーツクラブ における マスターズ の語の使用例を調査したものであるが, 本件審決は, 本件商標の法 4 条 1 項 15 号該当性を論ずる中で, 本件商標の称呼及び観念につき判断するに当たり, 本件商標のように スポーツクラブ の文字と マスターズ の文字が結合した場合の マスターズ の文字部分が持つ出所識別機能の程度を評価する根拠の一つとして, このような本件職権証拠調べの結果である5 件のスポーツクラブのホームページに存在する記載を利用している さらに, 法 4 条 1 項 19 号及び同 7 号該当性の判断に当たっても, 本件審決は, 本件職権証拠調べの結果を利用して, 本件商標中の マスターズ の文字部分が持つ出所識別機能の程度につき検討している ウそうすると, 本件審判手続には瑕疵があり, その瑕疵は, 審判の結果である審決の結論に一般的に見て影響を及ぼすものであったものというべきである このような場合, その瑕疵は, 審決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであると認められる特別の事情, すなわち, たとえ職権証拠調べの結果の通知がなくとも, これに対する反論, 反証の機会が実質的に与えられていたものと評価し得るか, 又は当事者に対する不意打 11

ちとならないと認められる事情がない限り, 審決取消事由となるものと解される ( 最高裁判所第一小法廷昭和 51 年 5 月 6 日判決 判例時報 8 19 号 35 頁, 最高裁判所第三小法廷平成 14 年 9 月 17 日判決 判例時報 1801 号 108 頁参照 ) そこで, 本件における上記特段の事情の有無を検討すると, 本件職権証拠調べは, 上記のとおり具体的にはインターネットによる スポーツクラブ 及び マスターズ の語の複合キーワード検索であり, その手法それ自体は必ずしも目新しいものではなく, 一般的かつ容易に行われ得るものではある しかし, 原告において, そのような証拠調べが行われることを当然に予期していたとか, 予期すべきであったと認めるに足りる証拠はない上, そもそも, 本件審判事件においては, 被告は原告の主張に対し何ら答弁せず ( 前記第 2の2), また, その審理は職権により書面審理とされていた ( 前記 (1)) のであるから, 本件職権証拠調べの事実を知らない原告にとっては, 何らかの追加主張ないし立証が必要であること自体, 全く予期し得なかったと考えられるのである また, 本件職権証拠調べの結果それ自体も, 本件審決の引用するホームページ上の記載の存在そのものはともかく, これを受けた反証活動や本件証拠調べの結果の評価に関する反論の余地がないとはいい難い そうである以上, 本件においては本件職権証拠調べの結果に対する反論, 反証の機会が原告に対し実質的に与えられていたものとは評価し得ず, また, 原告に対する不意打ちとならないと認めるべき事情も見当たらない すなわち, 上記特段の事情の存在は認められない したがって, 本件職権証拠調べの結果の原告に対する通知等を欠くという手続上の瑕疵は, 本件審決の取消事由となるものというべきである (3) 以上より, 本件審判手続は法 56 条の準用する特許法 150 条 5 項所定の手続を欠く違法なものであり, その結果としてされた本件審決については, 12

これを取り消すのが相当である 2 結論よって, その余の点につき論ずるまでもなく, 原告の請求は理由があるからこれを認容することとし, 主文のとおり判決する 知的財産高等裁判所第 3 部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官杉浦正樹 裁判官寺田利彦 13