Jpn J Gen Hosp Psychiatry(JGHP) Copyright c 2015 by The Japanese Society of General Hospital Psychiatry Vol. 27, No. 4 Printed in Japan 経 験 Clinical report 特集 医療従事者の健康支援と総合病院精神医学 黒木宣夫桂川修一 The new mandatory stress check system and medical workers mental health support Nobuo Kuroki, Shuichi Katsuragawa Toho University Sakura Hospital Psychiatric Medicine Research Department, 564-1 Shimoshizu, Sakura City, Chiba 285-8741, Japan Abstract:From December 2015 the Ministry of Labor and Welfare s new Stress Check law will go into effect. Businesses with more than 50 employees will be required to give the new stress check to all employees. I have been conducting the same kind of stress check at Toho University Sakura Hospital since 2010. My purpose for establishing this safety measure was to provide hospital workers in a high stress jobs with preventive primary care before developing work related mental illness and physical illness caused by stress. I will be explaining how the new Stress Check System can be best implemented in companies. Key words:industrial safety and health act, The new stress check system はじめに 近年, 医療機関では目標管理制度や電子カルテが導入され, 在院日数短縮, 稼働率アップが求められる現状があり, 病院で働く労働者には厳しい過重負荷がかかっていると同時に医療機関に対する国民の目はますます厳しくなり, 必然的に病院は安全管理対策に取り組まざるを得ない時代と 1) なった 精神障害の労災請求件数は毎年, 過去最高を更新し,2013 年度は 1,409 件, 支給決定件数は 436 件であり, 医療, 福祉関係者の請求件数は 219 件で 2 番目に多く, 支給決定件数は 54 件で 3 番目に多かった また改正労働安全衛生法が 2014 年 6 月 25 日に公布され,2015 年 12 月より 50 人以上の事業所東邦大学医学部精神医学講座 ( 佐倉 )( 285-8741 佐倉市下志津 564-1) 5) にストレスチェック制度が義務化される 筆者は 2004 年度に某大学病院で従業員の自殺企図を契機に相談室を開設し,2010 年度より WEB 上でストレスチェック ( 職業性ストレス簡易調査票 ) を年 1 回実施しているが, その具体的取り組みと高ストレス者の判定方法に言及し, 改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の概要に関して報告する 職場の健康度と高ストレス者への取り組み 2010 年度より当院では毎年, 厚生労働省の委託研究グループの開発による 職業性ストレス簡易調査票 と 仕事のストレス判定図 をベースにした, ストレス対策の運用を支援するためのメンタルチェックシステム 2, 3) を使用している 今回,2013 年度に実施した内容を報告する 最終実施率は,89.8%(794 名 ) であり, 職種, 職場 290
ごとの集団分析の結果を報告する 衛生委員会, さらに病院執行部でも承認, 病院の了解も得て, 法人本部の了解も得たうえで全職員に公表している 1. 当院医師の集団分析結果 Fig. 1 に当院医師の集団分析結果を示す 2. 当院他職種の集団分析結果 Fig. 2 に当院他職種の集団分析結果を示す 3. 当院看護師の集団分析結果 Fig. 3 に当院看護師の集団分析結果を示す Fig. 1 3 においては, 健康問題の危険度 ( 健康リスク ) を, 標準集団の平均を 100 とした数値で示している 120 のライン上に平均点が位置する職場では健康問題が 20% 多めに,80 のライン上では 20% 少なく発生すると推定, 健康リスクが 150 を超えたケースでは健康問題が顕在化している例が多く, 早急な改善が必要な状態と判定されるが, 今回のストレスチェックでは, そのような職場は見当たらなかった 高ストレスの判定に関して 当職場では, 衛生委員会を毎月開催しているが, ストレスチェック調査を導入するため慎重に検討を重ねて,WEB 上で簡易ストレス調査を導入した (Fig. 4) 当院では, 職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル 3) を参考にしている これは, 調査票の各項目の質問項目がいくつかのまとまりごとに 尺度 としてまとめられた 素点換算表 に尺度ごとの点数を当てはめ, 尺度ごとに 5 段階評価の評価点を算出する方法である 計算が複雑で分析ツール ( プログラム ) が必要な半面, 質問の数の影響が排除されるため, 尺度ごとの評価が考慮されたストレスの状況を把握できるというメリットがある すなわち, それぞれの尺度 ( 全体 19) を 1 5 段階で評価, 1 が最も高く 5 が最も低く判定されている 本職 場では 19 尺度を評価しているが, 一番ストレスの低い評価は 95 点 (5 19) となり, ストレスが一番高い評価は 19 点 (1 19) となる したがって, 当職場では院内衛生委員会で審議した結果, 50 点以下かつ抑うつ尺度が 1 と評価された従業員を高ストレス者として面接に導入している この解析法はストレスプロフィールのストレス表示と連動, つまりレーダーチャート形式ではレーダーが小さく中心を向いているほど, 表形式では端の影のかかった枠に があるほどストレス状況は良くないことを示すという, ストレス表示と高ストレス者の選定が一致している点は利点である 2015 年 12 月にストレスチェック制度が義務化された後は, 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル 9) を参考に高ストレス者が選定されることとなる < 2013 年度のストレスチェックの結果 > ストレスチェックを受検した 794 名中高ストレスに該当した 37 名 (4.7%) に, 院内相談室に面談に来室するよう院内メールで連絡した 2013 年度は 16 名から返事をもらい,9 名と面談, そのうち 4 名と 1 年間継続面接を行い, 事後措置を講じた職員は 1 名であった また健康リスク 100 以上の 11 部署にストレスの聞き取りを実施したが, 下記に要約できた 1 仕事が多忙な職場であるが, 皆頑張っている それを上層部は認めて欲しい 2 年度の途中で, 退職や休職による人員減になる場合, 負担増への対処を求めたい 3 所属長としては, 職員の話しをよく聞いて, 負担が掛からないようにしているが, 関わり方の難しさも痛感している ストレスチェック制度 改正労働安全衛生法 1. ストレスチェック制度創設の背景 2010 年 4 月にうつ病チェックが企業健診で義務化されることが報道され, 一気に健康診断時におけるメンタルチェック問題が急浮上した その後, 厚生労働省労働衛生課は 職場におけるメン 291
Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 27 No. 4 (2015) Fig. 1. 当院医師の集団分析結果 タルヘルス対策検討会 4) を2010 年 5 月より開催, 同年 9 月に検討会報告書がまとめられ公表された 同報告書では, 医師による高ストレスの労働者に対する面接指導制度および医師からの意見聴取を行うことを事業者の義務とする 新たな枠組み を導入することが提案された そして労働政策審議会安全衛生分科会で審議された後, 同年 12 月に労働安全衛生法一部改正案 精神的健康の状況を把握するための検査と面接指導の制度 が国会に上程されたが,2012 年 11 月 16 日国会解散に伴い廃案となった しかし, 厚生労働省は, 高ストレスと評価された労働者に対しては, 適切な事後対応を行うとと もに, 職場のストレスに関するリスク要因を把握 評価し, 職場環境の改善を図ることについての再検討を進め, 再度, 労働安全衛生法の一部を改正する法律案 心理的な負担の程度を把握するための検査等 ( 法律案の要綱 ) 5) が2014 年 3 月に上程され,2014 年 6 月 19 日可決成立, 同年 6 月 25 日に公布された 労働者に受診義務はなく, 従業員 50 人未満の事業場については当分の間努力義務とされた 6-8) 2. ストレスチェック制度の概要常時使用する労働者に対して, 医師, 保健師らによる心理的な負担の程度を把握するための検査 ( ストレスチェック ) を実施することが事業者の 292
Fig. 2. 当院他職種の集団分析結 義務となる 検査結果は, 検査を実施した医師, 保健師らから直接本人に通知され, 本人の同意なく事業者に提供することは禁止される そして検査の結果, 一定の要件に該当する労働者 ( 高ストレス者 ) から申し出があった場合, 医師による面接指導を実施することが事業者の義務となり, 申し出を理由とする不利益な取り扱いは禁止されている また面接指導の結果に基づき, 医師の意見を聴き, 必要に応じて就業上の措置を講じることが事業者の義務となった この法律の目的はあくまでも一次予防であり, 職場環境改善を目的としたことはいうまでもない 検査項目は, 職業性ストレス簡易調査票 (57 項目による検査 ) を標準とし,23 項目も示されている 検査の頻度は,1 年ごとに 1 回とすることを想定されている 厚生労働省令 (94 号第 52 条 18 の 2 項 ) には, 事業者は, 面接指導の結果に基づき当該面接指導の結果の記録を作成して, 5 年間保存しなければならないとされ,1 面接指導の実施年月日,2 当該労働者の氏名,3 面接指導を行った医師の氏名,4 当該労働者の勤務の状況,5 当該労働者の心理的な負担の状況,6その他の当該労働者の心身の状況,7 当該労働者の健康を保持するために必要な措置についての医師の意見 ( 法第 66 条の 10 第 5 項 ) の規定による医師の意見を保存しなければならないとされた 293
Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 27 No. 4 (2015) Fig. 3. 当院看護師の集団分析結果 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書 ( 様式第 6 号の 2) を所轄労働基準監督署長に提出することになるが, その内容は1 検査実施年月日,2 事業所の名称 所在地,3 事業の種類,4 検査を実施した者,5 面接指導を実施した医師,5 在籍労働者数,6 検査を受けた労働者数,7 面接指導を受けた労働者数,8 集団分析の 有無などである 受検しない労働者, ストレスチェック結果を事業者に提供することに同意しない労働者, 面接指導の要件を満たしているにも関わらず, 面接指導の申し出を行わない労働者に対して懲戒, 解雇, 不当配置転換などの不利益な取り扱いをしてはいけないこととなっている ストレスチェック制度 294
Fig. 4.WEB 上簡易ストレス調査結果 A ストレスの原因 : 仕事の負担 ( 量 ), 仕事の負担 ( 質 ), 身体負担度, 対人関係, 職場環境, 仕事のコントロール度, 技能活用度, 仕事の適性度, 働きがい < 9 項目 > B 心身の反応 : 活気, イライラ感, 疲労感, 不安感, 抑うつ感, 身体愁訴 < 6 項目 > C 他の要因 : 上司のサポート, 同僚のサポート, 家族や友人のサポート, 仕事や生活の満足度 < 4 項目 > に関する労働者の健康情報の保護に関しては, ストレスチェック制度に関する労働者の健康情報の保護が適切に行われることがきわめて重要であり, 事業者がストレスチェック制度に関する労働者の秘密を不正に入手するようなことがあってはならない 法第 66 条の 10 第 2 項の規定により労働者の同意なくストレスチェック結果が事業者には提供されない仕組みとされている 2015 年 12 月以降, ストレスチェックが義務化されるが, ストレスチェックを実施すると同時に, 高ストレス者が相談しやすい職場環境, ならびに健康支援室の相談体制を充実させることが, 労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止し, 事業場におけるメンタルヘルスケアを実施するうえで不可欠といえる 医師, 看護師らの医療従事者のメンタルヘルスは, 医療の専門家であるがゆえにセルフケアという面で他業種の労働者よりも優れているという見解が存在することも事実であると思われるが, 他労働者と同様に, ストレスチェックを契機にストレスチェック実施後の医師面談へつなぐ過程 ( 流れ ) を明確化していく作業が必要になると思われる そして病院の規模や専門性 特 殊性を考慮したうえで, その病院のストレスチェック実施に伴う課題を衛生委員会などで審議し, 保健師, 心理職らの多職種で健康支援体制を構築していくことが重要であることは論をまたない おわりに メンタルヘルス不調の未然防止のためには,1 職場環境の改善などにより心理的負担を軽減させること ( 職場環境改善 ),2 労働者のストレスマネジメントの向上を促すこと ( セルフケア ) が重要であり,2014 年 6 月労働安全衛生法一部改正が行われ, ストレスチェック制度が創設された 2010 年度より筆者が WEB 上でストレスチェック ( 職業性ストレス簡易調査票 ) を年 1 回実施しているが, その具体的取り組みと高ストレス者の判定方法に言及し, 改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の概要に関して報告した 295
Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 27 No. 4 (2015) 文献 1) 厚生労働省労働基準局補償課職業病認定対策室 : 精神障害等の労災補償状況,2014.6 2) 富士通 : ストレス対策の運用を支援するためのメンタルチェックシステム 厚生労働省 平成 11 年度作業関連疾患の予防に関する研究 職業性ストレス簡易調査票 3) 下光輝一 : 職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル より効果的な職場環境等の改善対策のために. 平成 14 年 16 年度厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究,2005.6 4) 厚生労働省 : 職場におけるメンタルヘルス対策検討会報告書,2010.9 5) 厚生労働省労働衛生課 : 労働安全衛生法の一部 改正, ストレスチェック ( 心理的な負担の程度を把握する検査 ) 制度,2014. 6 6) 厚生労働省労働衛生課 : 厚生労働省令第九十四号,2015. 4. 15 7) 厚生労働省労働衛生課 : 厚生労働省告示第二百五十一号,2015. 4. 15 8) 厚生労働省労働衛生課 : 心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針,2015. 4. 15 9) 厚生労働省労働衛生課 : 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル, 平成 27 年 5 月受理日 :2015 年 11 月 9 日 要約 改正労働安全衛生法が 2014 年 6 月 25 日に公布され,2015 年 12 月より 50 人以上の事業所に義務化される 筆者は 2004 年度に某大学病院で従業員の自殺企図を契機に相談室を開設し,2010 年度より筆者が WEB 上でストレスチェック ( 簡易ストレス調査 ) を年 1 回実施しているが, その具体的取り組みと高ストレス者の判定方法に言及し, 改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の概要に関して報告する キーワード : 労働安全衛生法, ストレスチェック制度 296