社会動向レポート コンサルタント 環境エネルギー第 1 部 貴志孝洋 2013 年 9 月 欧州においてこれまで施行されていたバイオサイド製品指令に替わり バイオサイド製品規制の施行が開始された 規制対象が拡大するなど 影響力が大きい一方で構成が複雑であり理解が難しい 本稿ではバイオサイド製品規制の概要及び特徴について述べる はじめに欧州では2007 年に化学物質の登録 評価 認可に関する規制 (REACH 規則 ) が施行された後 2009 年には 分類 ラベル 包装に関する規則 (CLP 規則 ) が施行された さらに 2013 年にはバイオサイド製品指令 (Biocidal Product Directive, BPD) が廃止され 新たにバイオサイド製品規則 (Biocidal Product Regulation, BPR) が 2013 年に施行されるなど 化学物質対策制度が近年急速に整備されている これは 2002 年に開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議において合意された 予防的取組方法に留意しつつ 透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価手順と科学的根拠に基づくリスク管理手順を用いて 化学物質が 人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用 生産されることを2020 年までに達成する との国際目標 (WSSD2020 年目標 ) が掲げられたことを受けたアクションのひとつである 特にBPRは 構成が複雑であり かつ ( バイオサイド製品で ) 処理された成形品 (treated article) が新たに規制対象となるなど BPD では対象外であった業界まで影響が広がる懸念 が生じており その動向が注目されている 本稿では BPRの概要を述べるとともに 処理された成形品 を取り巻く状況などについて最新情報を整理する なお バイオサイド製品とは 活性物質 ( 有害生物に対して作用 または反する作用を有する物質または微生物 ) の働きによって 害虫や細菌などの有害生物 ( 人間やその活動もしくは人間が利用 生産する製品などによって望ましくない存在など ) から人体 材料 成形品を保護するために使われる製品を指し 活性物質または活性物質をひとつ以上含む調剤などの形で提供される 1. バイオサイド製品規制の制定経緯バイオサイドに対する規制は 米国で1972 年に施行された連邦殺虫剤 殺菌剤 殺鼠剤法 (Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act, FIFRA) をきっかけに先進国を中心に広がり その流れを受けて 欧州では1998 年にバイオサイドの統一管理を目的としてBPD(98/8/ EC) が制定され バイオサイドの分野においても農薬と同様な審査制度を導入した 既存の活性物質についてはBPDにおいて再審査規則が制定され 既存活性物質の再審査 1
vol.10 2015 が行われて来たが 遅々として進まないでいる間に 中国から輸入されたソファーなどに含まれていたフマル酸ジメチル (DMF) により 多数の健康被害がイギリス フランス ポーランド フィンランド スウェーデンで確認されていることなどを受けて 2009 年 3 月 17 日に欧州委員会は COMMISION DECISIONを公表し DMFが革製品 ( ソファー 靴等 ) に防腐剤として使用されていたことで多数の皮膚障害が発生していることを指摘した さらにイギリスでは 1,000 万ユーロを超える訴訟に発展した その後も靴 乗馬用ヘルメット等 被害が止まらず 規制を強化せざるを得ない状況となった そこで 事故を踏まえ 図表 1の目的でBPD を強化し BPR(( EU)528/2012) が BPDに置き換わるものとして 2012 年に欧州委員会にて採択され これまでBPDを所管していたEU 環境総局及びバイオサイドの管理を進めていた欧州委員会協同研究センター (Joint Research Centre, JRC) から REACH CLPの推進で実績がある欧州化学品庁 (ECHA) に所管が移されることになり ウェブサイト情報のシフトも行われた ECHAは40 数名の人員と手数料収入を基に 再審査期間も2024 年まで大幅延長して体制を整えた 欧州委員会環境総局ピエール氏は 化学工業日報のインタビュー (2013 年 11 月 14 日 EUバイオサイド製品規制 (BPR) 発効 ) に対し BPRの原則は 承認なくして上市なし 図表 1 BPR の目的 EU のバイオサイド市場の機能の改善 人の健康及び環境の高水準の保護を確保 プロセスの簡略化及び効率化 動物試験の削減 ( 強制的なデータ共有 / 費用分担 試験へのより柔軟かつ賢明な取り組みの奨励 ) *BPR 第 1 条 目的及び主題 は文末 (1) 参照 ( 資料 )ECHAホームページ Understanding BPR より抜粋 と述べており バイオサイド製品の上市のためには バイオサイド製品の類型ごとに承認された活性物質を用いる必要がある 2. バイオサイド製品規制の概要 (1) 関係省庁及び関連組織 BPRは前述のとおり ECHA が所管している また 各加盟国から任命された委員 ( 各国 1 名 ) から構成されるバイオサイド製品委員会 ( Biocidal Products Committee, BPC) が ECHA に設置されており 欧州化学物質生態毒性および毒性センター (European Center for Ecotoxicology and Toxicology of Chemicals, ECETOC) 欧州化学工業連盟(European Chemical Industrial Council, CEFIC) などの業界団体を含めた会合が定期的に開催されている BPCは 図表 2に示す ECHA の意見作成に対して責任を負っている (2) バイオサイドの定義 BPRにおけるバイオサイド製品は 図表 3のとおり定義されており その適用範囲はBPD よりも拡大されており 新たにバイオサイド機能を主とする 処理された成形品 などが対象となった 具体的な対象範囲は図表 4のとおりである (3) バイオサイド製品の製品類型 BPR 附属書 Vにおいて 22に分類されたバイオサイド製品の類型が掲載されており バイオサイド製品の上市のためには製品類型ごとに承認された活性物質を用いる必要がある そのため 活性物質そのものが承認されていても バイオサイド製品の製品類型との組み合わせが一致していない場合 上市は出来ない 具体的な製品類型を図表 5に示す 2
(4) バイオサイド製品の上市バイオサイド製品の上市は BPR17 条 バイオサイド製品の市場における利用及び使用 ( 文末 ( 5) 参照 ) に基づき厳しく規制が課されており ECHAのWebサイトにも BPRは 人 動物 財産あるいは物品を有害な生物から守るために使用されるバイオサイド製品の上市 ( place on the market) と使用に関する規制である としており バイオサイド製品の上市には 活性物質の承認 ( Approval) 及びバイオサイド製品の認可 (Authorisation) が必要である また 処理された成形品についても 活性物質が承認された製品類型及び使用方法で用いられ かつ承認にあたり指定された条件及び制限を満たさない限り上市は禁止されている バイオサイド製品の認可には BPDにおいても BPRと同様 2 段階の認証手続き ( 活性物質の承認とバイオサイド製品認可 ) を採用しており 各段階でリスク評価を実施しているが BPRでは 活性物質の承認やバイオサイド製品認可にあたって 図表 6に示すような活性物質の除外要件などを導入するなどして 簡素化が図られている 1 活性物質の承認前述のとおり BPRは バイオサイド製品の上市のため 活性物質の承認と 承認された活性物質を用いたバイオサイド製品の認可という2 段階の認証システムを採用しており 各段階でリスク評価を実施している リスク評価は申請者が実施し 加盟国の所管当局がリスク評価結果について審査を行う ECHA は リスク評価は行わず ドシエ ( 技術書類一式 登録 図表 2 BPC が責任を負う ECHA の意見作成事項 活性物質の承認及び承認の更新の申請 活性物質の承認の再審査 第 28 条既定の条件 ( 文末 (2) 参照 ) を満たす活性物質の付属書 I への収載の申請及び収載の再審査 代替の候補となる活性物質の特定 バイオサイド製品の欧州連合認可及びその更新 取消 修正の申請 ( ただし 管理上の変更申請を除く ) 相互承認に関する科学的 技術的内容 技術的手引きまたは人の健康 / 環境リスクに関する 本規則の運用から生じる疑問 ( 資料 )BPR 第 75 条 バイオサイド製品専門委員会 1 項より抜粋 図表 3 バイオサイド製品の定義 (ECHA ホームページ Understanding BPR より抜粋 ) 1 物理的 機械的以外の効力で有害な有機体を無力化する もしくは被害を発生させないようにコントロールする目的で 使用者に提供する形態において 1つもしくはそれ以上の活性物質を構成 含有 生成する物質 または混合 2 物理的 機械的以外の効力で有害な有機体を無力化する もしくは被害を発生させないようにコントロールする目的で そのものとしては1に属さない物質 混合物から生み出された物質もしくは混合物 ( その場で (in-situ) で生成する活性物質 バイオサイド製品を指す ) 3 処理された成形品 (treated article): 処理された成形品とはひとつもしくはそれ以上のバイオサイド製品を処理するかもしくは意図的に組み入れた物質 混合物もしくは成形品 (BPRにて追加された定義 ) *BPR 第 3 条 定義 1 項 (a)( バイオサイド製品 ) は 文末 (3) 参照 ( 資料 )ECHAホームページ Understanding BPR より抜粋 3
vol.10 2015 や評価に必要な物質情報などが記載された文書やデータなど ) に関するバイオサイド委員会の議論をコーディネートすることで認証システムに参加している なお 申請された活性物質が 代替候補物質 ( 代替物質で置き換えられるべき活性物質を指す ) である場合 ECHA が承認の意見を作成する前に公開協議を行う 承認された活性物質は BPR 第 9 条 活性物 図表 4 BPD 及び BPR の適用範囲の比較 * 非承認の活性物質 (DMF) に処理され EU 内に輸入された家具 ( ソファー ) によって引き起こされた健康被害の事故を反映している ( 資料 )JETOC 欧州バイオサイド規則の概要 より一部みずほ情報総研加筆 図表 5 バイオサイド製品の製品類型 ( 資料 )ECHA Overview of new Biocidal Product Regulation Impacts on biocides & biocide-treated articles imported into the EU より抜粋 4
図表 6 除外要件 図表 8 活性物質の認証期間と更新 CMR( 発がん性 変異原性 生殖毒性に分類される )1A または 1B の物質 内分泌かく乱物質 PBT( 難分解性 生体蓄積性 毒性 ) または v P v B( 極めて難分解性で高い生体蓄積性 ) の物質 ( 資料 )BPR 第 5 条 除外クライテリア 1 項より抜粋 図表 7 活性物質の承認フロー ( 資料 )BPR 第 4 条 承認のための条件 及び第 10 条 代替物の検討を要する活性物質 より抜粋 ( 資料 )JETOC 欧州バイオサイド規則の概要 より一部みずほ情報総研加筆 質の承認 で規定されている Union List へ掲載され 図表 8のとおり 活性物質の種類ごとに承認期間や更新が定められている 活性物質の分類は図表 9のとおり a. 通常承認された活性物質 図表 8 のとおり 通常承認された活性物質の 場合 先ずは 10 年を超えない期間が承認され 承認の更新は 承認が適用される全ての製品類型に対して15 年間とされている b. 除外要件に該当し 特定の条件 (BPR 第 5 条 2 項 ) を満たした活性物質 BPR では 除外要件を満たす活性物質は承 認されないが BPR 第 5 条 除外クライテリア 2 項 ( 図表 10) に示されるような特定の条件を満 たす場合 承認される可能性がある ただし 承認期間は5 年を超えない最初の期間のみ承認され 更新はできない c. 代替物の検討を要する活性物質活性物質がBPR 第 10 条 代替の候補である活性物質 ( 図表 11) に示されるような毒性等を有する場合 公開協議となり 第三者が利用可能な代替候補の情報等をECHA に提出することで 意見の作成時に考慮され 当該活性物質の承認及び更新は7 年以内 当該活性物質を含むバイオサイド製品の認可及び更新は5 年以内などの一定の条件のもと承認される 2バイオサイド製品の認可 BPRでは バイオサイド製品認可にあたっても明確な基準 ( 図表 12) を導入するなどして 簡素化 効率化が図られている これは ヒト健康及び環境に低懸念またはより優れた水準の製品の市場での取引を促進することを目的としている 基準を満たす場合 簡素化された認可手続きに従い認可を申請する (BPR 第 27 条 ) しかし 基準を満たさない場合 所定の手続きに従い国の認可 (BPR 第 29-31 条 ) 相互認証 ( BPR 第 32-34 条 ) 欧州連合認可 (BPR 第 41-46 条 ) を申請する 図表 13に各認可の概要を 図表 14にバイオサイド製品の認可までの流れをそれぞれ示す 欧州委員会では バイオサイド製品の認可の簡素化 効率化により EU 域内市場の重要な進展や 10 年で約 27 億ユーロの経費削減などに繋がると指摘している 5
vol.10 2015 図表 9 活性物質の分類 ( 資料 )(EU)No528/2012 をもとにみずほ情報総研作成 (5) バイオサイド製品の表示 BPR 第 69 条 バイオサイド製品の分類 包装及び表示 では バイオサイド製品の認可を取得した事業者は 上市にあたり 危険な混合物の分類 包装 表示に関する理事会指令 (Dangerous Preparations Directive (1999/45/ EC), DPD) 及び適用可能であればCLP 規則に基づき 分類 包装 ラベル貼り付けを行うことを義務付けている 加えて バイオサイド製品の認可を取得した 図表 10 除外要件を満たす活性物質の承認のための条件 曝露がごくわずか 人もしくは動物の健康または環境に対する深刻な危険を管理するために不可欠な物質 承認しないことで 社会に過度の悪影響をもたらすことになる物質 ( 資料 )BPR 第 5 条 除外クライテリア 2 項より抜粋 事業者に CLP 規則と同じく ラベルに 低リスク 無害 環境に優しい 等の文字を記載してリスクや当該バイオサイド製品の効力に関して間違った解釈を防ぐことを課している さらに CLP 規則と同じく BPR 第 69 条では 特に飲食品と誤解を与える可能性があるバイオサイド製品については 誤解の可能性を最小化するような包装を施すよう求めている ラベルに記載される項目は図表 15のとおり CLP 規則に基づいた分類 表示に加えて BPR 独自の項目の表示が求められている 3. バイオサイド製品規則の Focal Point これまで BPRの概要について述べてきたが 本項では BPRの大きな特徴である 以下の4つに着目し その詳細を述べる (1) 対象の拡大 ( 処理された成形品 が新たに対象となる等 ) (2) ナノマテリアルの明記 6
図表 11 代替候補物質の定義 少なくとも 1 つ以上の除外要件 (CMR PBT vpvb 内分泌かく乱作用 ) に該当するが 第 5 条 2 項に従って承認される可能性がある 呼吸器感作性物質として分類されるクライテリア ( 判定条件 ) を満たす 一日許容摂取量 (ADI) 許容作業者曝露量 (AOEL) 等の毒性学的な許容量 / 参照量が 同じ製品類型及び使用シナリオにおける他の承認された活性物質と比較して許容量が著しく低い PBT クライテリアのうち 2 つを満たす 非常に厳しいリスク管理の下であっても 使用パターン及び使用量によっては重大な懸念が残る恐れがある ( 例 : 地下水への高い潜在的リスク ) 不活性異性体や不純物を多く含んでいる ( 資料 )BPR 第 10 条 代替物の検討を要する活性物質 より抜粋 (3) バイオサイド製品の認可の簡素化 (4) データの共有特に 処理された成形品 については 前述のとおり BPDでは対象外であった業界まで影響が広がる懸念が生じており 動向が注目されている (1) 対象の拡大 BPR では BPDで管理の対象としていたバ 図表 12 簡素化された認可手続きで申請可能な基準 附属書 I に記載されている ( 文末 (4) 参照 ) バイオサイド製品に懸念物質またはナノマテリアルを含まない 十分に効果的である PPE( 個人用保護具 ) の着用が不要 ( 資料 )BPR 第 25 条 簡素化された認可手続きに対する適格性 より抜粋 イオサイド製品だけではなく 抗菌や防腐などの目的で 活性物質で処理された成形品も管理の対象とするなど BPDよりも対象が拡大している BPR 第 3 条では 処理された成形品 (treated article) を 1つ以上のバイオサイド製品で処理するかもしくは意図的に組み込まれた物質 混合物もしくは成形品 と定義し またBPR 第 17 条 ( 文末 ( 5) 参照 ) において 成形品を処理するバイオサイド製品中の活性物質が承認され かつ指定された条件を満たしていない限り 上市されてはならないとしている 英国安全衛生庁 (Health and safety executive, HSE) は Treated Articleとは何か という質問に対し ホームページ上で図表 16のように回答しており Type 1とType 2の成形品が Treated article と見なされ BPR 第 58 条 処理された成形品の上市 に記載されている要 図表 13 認可の種類とその概要 ( 資料 )JETOC 欧州バイオサイド規則の概要 より一部みずほ情報総研加筆 7
vol.10 2015 求事項を満たさなければならないとしている Type 3の成形品は主要な機能が抗菌機能であり バイオサイド製品と見なされて従来通り当局の認可が必要としている これに対し 欧州委員会は処理された成形品に関するFAQにおいて 処理された成形品の判定ツリーを公表した ( 図表 17) さらに 処理された成形品についてもラベル 図表 14 バイオサイド製品の認可フロー ( 資料 )(EU)No528/2012 をもとにみずほ情報総研作成 図表 15 BPR と CLP の表示要求項目 *BPDから新たに追加された項目 ( 資料 ) 中小企業基盤整備機構 J-Net21 Q.359 改正バイオサイド規制で要求される表示とCLP 規則とはどのような関係があるのでしょうか? より抜粋 8
表示は要求されており 成形品の殺生物特性に関して請求が行われている場合や 物質承認の条件にそのように要求されている場合では ラベル表示が必要となる ここで ラベルにおいて記載 ( 国の公用語で提供すること ) が求められている項目は 図表 18のとおり これは CLP 規則に基づかない (2) ナノマテリアルの明記 BPDでは ナノマテリアルについての明示的な記載はなかったが BPR 第 3 条においてナノマテリアルについて図表 19のように定義されている また ナノマテリアルの取り扱いについては BPR 第 4 条 承認のための条件 において 明示的に言及される場合を除き 活性物質の承認はナ 図表 16 処理された成形品とは何か? に対する HSE の回答 上記 (BPR 第 3 条を指す ) 定義の他に HSEの独自の視点という注釈は入っているが Treated article に該当するか否かについて下記事例を使って紹介する Type 1: バイオサイド製品で処理された部材を使用した成形品 ( 例 : 防腐剤を塗布した木材を使用したベンチ ) Type 2: バイオサイド製品で処理され その主要な機能がバイオサイドではない成形品 ( 例 : 抗菌靴下 ) Type 3: バイオサイド製品で処理され その主要な機能がバイオサイドである成形品 ( 例 : 抗菌機能付布巾 ) ( 資料 ) 英国 HSE Placing treated articles on the UK market より抜粋 図表 17 処理された成形品の判定フロー ( 資料 )ECHA(CA-Sept13-Doc.5.1.e) よりみずほ情報総研作成 9
vol.10 2015 ノマテリアルをカバーしない と記載されている さらに BPR 第 25 条 単純化された認可手続きに対する適格性 において 簡易認可手続きにおける適格性として (c) そのバイオサイド製品は いかなるナノマテリアルをも含まない ことを簡易な認可手続きにより承認される殺生物製品の条件の1つとして挙げている そのため BPRにおいては ナノマテリアルを含んだ活性物質及びバイオサイド製品は原則認可されない しかし一方で 認可を与える条件としてBPR 第 19 条 認可付与のための条件 1 項において (f) 当該製品中にナノマテリアルが使用されている場合 ヒトと動物への健康および環境へのリスクがそれぞれ既に評価されている を条件として挙げている 図表 18 ラベル記載項目 処理された成形品が殺生物剤を包含しているという記述 処理された成形品の殺生物特性 すべての活性物質及びナノマテリアルの名称 人または環境を保護するために必要な場合は使用説明 ( 資料 )BPR 第 58 条 処理された成形品の上市 3 項より抜粋 (3) バイオサイド製品の認可の簡素化前述したが BPRでは 図表 14のとおり BPR 附属書 Iに記載されているなどの条件 ( 図表 12) が満たされている場合に 図表 20に示すような簡素化された認可手続きに基づきバイオサイド製品の上市が認められる ここでは その詳細について述べる 手続きにおける具体的な作業内容は図表 21 のとおり (4) データの共有 BPRでは 提出されたデータを強制的に共有し 代替試験法や既存のデータを使うことを推奨することによって動物試験をさらに削減させることも意図している そこでECHA は バイオサイド製品の登録サイトR4BP 3を立ち上げ 申請者に当該サイトを通じた活性物質の申請書の提出等を求めている 既存活性物質のすべての毒性及び生態毒性研究に関する脊椎動物への試験からのデータ及び代替供給者に関するデータを共有化の対象とし 活性物質の動物試験及び供給者の独占状態を最小限に抑える役割を担っている 申請者は 動物実験を実施する前に ECHA に問い合わせを行い BPRに基づいて同様の試験及び研究が既に実施 提出状況を確認する必要がある 図表 19 ナノマテリアルの定義 ナノマテリアル とは 微粒子を含む天然あるいは人工の活性物質あるいは不活性物質で 非束縛状態 凝集体あるいは塊として存在し 粒子個数濃度から見て粒径 (1 か所以上の最大外径 ) 範囲が 1-100nm に入る割合が 50% を超えるものをいう 粒径が 1nm 未満のフラーレン グラフェンフレークおよび単層カーボンナノチューブはナノマテリアルとみなすべきである ナノマテリアルの定義付けの目的で 粒子 塊 および 凝集体 は以下のように定義される ここでいう 粒子 とは 限定された物理的境界を有する物質の微小な塊を意味する ここでいう 塊 とは 弱い束縛状態にある粒子の集合あるいは凝集体であって結果として個体部分の表面積の総和にほぼ等しい表面積を有するモノを意味する ここでいう 凝集体 とは 強い接合を有する粒子あるいは融合状態にある粒子を意味する ( 資料 )BPR 第 3 条 定義 1 項 (z) より抜粋 10
図表 20 バイオサイド製品の認可フロー ( 簡素化された手続き ) R4BP 3により IUCLID 5ドシエを用いた ECHA または各国担当部署にデータを提出することが可能となった そのため 申請者は 活性物質及びバイオサイド製品に関する物性値などの化学的データは IUCLID 5に基づいた収集 構成 保管が求められる 4. バイオサイド製品規制のいま ( 資料 )BPR 第 26 条 申請手続 及び第 27 条 簡素化された認可手続きに従い認可されたバイオサイド製品の市場における利用 よりみずほ情報総研作成 R4BP 3は 申請書の授受以外に 取扱説明書やテンプレートの提供 申請者とECHA と加盟国の所轄官庁と欧州委員会の間でのデータと情報の交換や決定内容の公開などに使用され 公衆に対し広く情報を提供する 中小企業のコスト負担が課題となっているが 特に申請の過程におけるドシエの提出やデータの収集が特にコストプレッシャーになっているため 中小企業に対しては 手続きに伴う費用減額のメリットもある (1) 承認済み活性物質 (2015 年 6 月末現在 ) BPRにおいて承認された活性物質は 86 物質であるが 一部の物質で複数の製品類型が登録されている また 現在 170 物質が審査中である (2) 処理された成形品 処理された成形品 の概念による影響等について 欧州の業界団体などにBPRの影響等に関するヒアリングを実施したところ 図表 22のような課題等が挙げられており BPRの複雑な法体系に 事業者が対応に追われている状況にある 図表 21 簡素化された手続きにおける作業内容 ( 資料 )BPR 第 26 条 申請手続 及び第 27 条 簡素化された認可手続きに従い認可されたバイオサイド製品の市場における利用 よりみずほ情報総研作成 11
vol.10 2015 5. バイオサイド製品規則の今後既存活性物質を用いたバイオサイド製品の欧州連合認可は 製品類型に応じて認証開始時期が異なる ( 図表 23) 現在 該当するバイオサイド製品を生産する事業者は現在対応に追われている また 2015 年 3 月に欧州委員会は 加盟国間でのBPR の施行について各国で大きな隔たりがあることを踏まえ バイオサイド製品 及び 処理された成形品 に対する規制について見直すことを公表しており 今後の動向が注目される 6. おわりに 2013 年に BPDから置き換わる形でBPRが施行され バイオサイド製品の市場機能改善 人や環境の保護 認可の簡素化 効率化などによる経費削減が期待されている一方で BPRの複雑さや 処理された成形品 などの新たな概念の導入などによる特に中小企業への負担増加の可能性などが懸念されている 現在も 欧州委員会などで議論がされている一方で 特に既存活性物質を用いたバイオサイド製品の連合認可の開始時期が迫るなど 迅速な事業者の対応が求められており その動向は目が離せない 図表 22 処理された成形品 に関する課題等 欧州委員会で BPR の導入により大幅な経費削減が試算されているが 処理された成形品 という概念が導入されたことにより BPD では対象にならなかった事業者への影響が懸念され さらに事業者への負担が大きくなると考えられる 現在 バイオサイド製品委員会 (BPC) において事業者への影響や負担の大きさなどについて議論が行われている そもそも 処理された成形品 の定義はまだ固まっておらず さらに定義について十分に議論する場があまりないことも問題である 日本においては 自動車業界や電子 電機業界への影響が大きく 対応に追われている ( 例えば 車の抗菌ハンドルも 処理された成形品 に該当する ) 処理された成形品 の定義の幅が広い 例えば 当初 モノマーに防腐目的のバイオサイドが含まれていた場合 そのモノマーを用いてポリマーを合成し そのバイオサイドが完全に無くなっているものの ポリマーは 処理された成形品 として扱うとされていた ( 現在は やり過ぎではないか の事業者などからの意見を踏まえ 対象外とされている ) また オゾンを利用した家庭用の除菌 消臭を目的とした製品も 空気中の酸素を用いてオゾンを発生させている ( 活性物質を用いていない ) ものの その製品は 処理された成形品 に該当する ( 資料 ) 欧州の業界団体等へのヒアリング結果よりみずほ情報総研作成 図表 23 欧州連合認可のスケジュール ( 資料 )ECHA Overview of new Biocidal Product Regulation Impacts on biocides & biocide-treated articles imported into the EU より抜粋 12
注 (1) BPR 第 1 条 目的及び主題 ( 抜粋 ) 1. この規則の目的は 人及び健康並びに環境の両方の高水準の保護を確実にしつつ バイオサイド製品の市場における利用及び使用についての規則の調和化をとおして域内市場の機能を改善することにある この規則の規定は 人の健康 動物の健康及び環境を保護する目的である予防原則に裏打ちされている 特別な注意が必要な脆弱なグループの保護に払われなければならない (2) BPR 第 28 条 ( 抜粋 ) (a) 規則 ( EC)No 1272/2008に従う次の分類クライテリアを満たす 爆発性 / 高引火性 有機過酸化物 急性毒性カテゴリー 1 2 3 腐食性カテゴリー 1A 1B 1C 急性毒性カテゴリー 1 2 3 呼吸器感作性物質 皮膚感作性物質 生殖細胞変異原性カテゴリー 1 2 発がん性カテゴリー 1 2 ヒト生殖毒性カテゴリー 1 2または授乳を介した影響 単回または反復曝露による特定標的臓器毒性物質 水生生物毒性急性カテゴリー 1 (b) 第 10 条 ( 1)( 図表 11 参照 ) に定められた全ての代替クライテリアを満たす または (c) 神経毒性または免疫毒性特を持つ (3) BPR 第 3 条 定義 1 項 (a) バイオサイド製品とは 使用者に提供される形態において 単なる物理的又は機械的作用以外のあらゆる手段により あらゆる有害生物に対して 破壊する 阻止する 無害化する その活動を防ぐ さもなければ制御効果を及ぼす意図を持って 1つ以上の活性物質からなる 含む又は生成するあらゆる物質又は混合物を意味する 単なる物理的又は機械的作用以外のあらゆる手段により あらゆる有害生物に対して 破壊する 阻止する 無害化する その活動を防ぐ さもなければ制御効果を及ぼす意図を持って使用される それ自体第 1インデントに該当しない物質又は混合物から生成されるあらゆる物質又は混合物を意味する バイオサイド機能を主とする処理された成形品は バイオサイド製品とみなされるものとする (4) BPR 附属書 Iは BPDの附属書 IAに相当するリ ストを指している (5) BPR 第 17 条 バイオサイド製品の市場における利用及び使用 ( 抜粋 ) バイオサイド製品は この規則に従って認可されない限り 市場において利用 / 使用されてはならない 認可への申請者は 認可保有予定者 / その代理人である 国の認可への申請は その加盟国の所管当局に提出 連合認可への申請は庁 (ECHA) に提出 認可期間は10 年を最大とする 参考文献 1. 欧州委員会 REGULATION (EU)No 528 /2012 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL http://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/txt/ PDF/?uri=CELEX:02012R0528-20140425&from=EN 2. 欧州委員会 (2014)Frequently asked questions on treated articles(ca-sept13-doc.5.1.e) 3. ECHA Understanding BPR http://echa.europa.eu/regulations/biocidalproducts-regulation/understanding-bpr 4. ECHA The Biocidal Products Committee http://echa.europa.eu/about-us/who-we-are/ biocidal-products-committee 5. ECHA Overview of new Biocidal Product Regulation Impacts on biocides & biocidetreated articles imported into the EU http://www.chemical-net.info/pdf/20140124_ seminar3_eng.pdf 6. 英国安全衛生庁 Placing treated articles on the UK market http://www.hse.gov.uk/biocides/treated-articles. htm 7. 内閣府総合科学技術会議 (2006) 化学物質リスク総合管理技術研究の現状 8. 製品評価技術基盤機構 (2013) 平成 24 25 年度消費者製品含有化学物質のリスク評価および労働現場における化学物質の管理に関わる法規制についての調査 9. JETOC(2014) 欧州バイオサイド規則の概要 10. JETRO(2009) 欧州の基準 認証制度の動向 (2009 年 1 月 / 2 月 ) 11. 化学工業日報 (2013)2013 年 11 月 14 日 EU バイオサイド製品規制 (BPR) 発効 http://www.kagakukogyonippo.com/headline/ 2013/11/14-13586.html 13