はじめに 第 1 部感染症の基礎 1 章感染症の歴史 人類の戦いとテクノロジーの進歩 恐怖からの開放 感染症と人類の戦いの歴史 感染症学は過去の学問か? やり残してきた難題 これからの感染症学 新たなテクノロジーの導入 18 2 章感染症が起こるしくみ 感染とは何

Similar documents
緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

<34398FAC8E998AB490F55F DCC91F092CA926D E786C7378>

48小児感染_一般演題リスト160909

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

耐性菌届出基準

<89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日


<89FC89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

<89FC89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

<89FC89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

untitled

Microsoft Word - WIDR201839

本文は 2014 年に発行された Infectious diseases prioritisation for event-based surveillance at the European Union level for the 2012 Olympic and Paralympic Games

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

Microsoft Word - WIDR201826

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

1

クチ ワ ン で安心 予防接種は集団生活前に子育て応援券を有効活用 感染症発生動向速報 ( 平成 31 年第 10 週分 3 月 4 日 ~3 月 10 日 ) インフォメーション 予防接種をご確認くださいこの春から保育所 幼稚園に通い始めるお子さんも多いと思います 一般に乳幼児は感染症に対する抵抗

疾患名 平均発生規模 ( 単位 ; 人 / 定点 ) 全国 県内 前期 今期 増減 前期 今期 増減 県内の今後の発生予測 (5 月 ~6 月 ) 発生予測記号 感染性胃腸炎 水痘

Microsoft PowerPoint - 51w 梅毒

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性


Ⅰ 第 30 週の発生動向 (2017/7/24~2017/7/30) 1. 手足口病については むつ保健所管内で警報が発令されました 東地方 + 青森市保健所管内 弘前保健所管内 上十三保健所管内で警報が継続しています 三戸地方 + 八戸市保健所管内では 定点当たり報告数の増加が続いており 警報レ

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (8 年計 :3 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 八戸市 人 上十三 人 むつ 人 (8 年計 : 人 ) 百日咳 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 3 人 (8 年計 :3 人 ) Ⅳ 病

pdf0_1ページ目

熊本県感染症情報 ( 第 50 週 ) 報告期間 インフルエンザ 水 痘 突発性発しん ヘルパンギーナ マイコプラズマ肺炎 クラミジア肺炎 ( ロタウイルス ) 第 43 週第 44 週第 45 週第 46 週第 47 週第 48 週第 49 週第 50 週第 47 週第 48 週第 49 週 7

Weekly Report on Aomori Prefecture Infectious Disease 青森県感染症発生情報 (2019 年第 3 週 ) 発行青森県感染症情報センター (2019 年 1 月 24 日 ) ( 青森県環境保健センター : 担当微生物部 ) TEL

<95E58F578E968BC688EA BBB81458DC48BBB8AB490F58FC782C991CE82B782E98A E396F A4A94AD CA48B868E968BC6292E786C7378>

pdf0_1ページ目

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

Microsoft Word - 届出基準

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

Ⅰ 第 47 週の発生動向 (2017/11/20~2017/11/26) 1. 手足口病については 上十三保健所管内で警報が継続しています 県全体の定点当たり報告数が過去 5 年間の同時期と比較してかなり多くなっていますので注意が必要です 2. インフルエンザについては 東地方 + 青森市保健所管

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります


鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

pdf0_1ページ目

数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数 小児科内科インフルエンザ 小児科 眼科 基幹 Weekly Report on Aomori Prefecture Infec

10/3~10/9 今週前週今週前週 インフルエンザ 7 1 百日咳 1 0 RS ウイルス感染症 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 急性出

神戸市感染症発生動向調査週報 1 年 月 11 日作成 全数把握対象感染症発生状況 ( 三類感染症細菌性赤痢 ) 女 5 代 - 1 年 月 5 日 1 年 月 日 sonnei(d 群 ) 分離 同定による病原体の検出 ( 便 ) なし 接触感染 第 13 週報告患者の家族 全数把握対象感染症発生

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症.6 伝染性紅斑 りんご病

2表05-10.xls

感染症対策

つが虫病 (40) デング熱 (41) 東部ウマ脳炎 (42) 鳥インフルエンザ (H5N1 及びH7N9を除く ) (43) ニパウイルス感染症 (44) 日本紅斑熱 (45) 日本脳炎 (46) ハンタウイルス肺症候群 (47)Bウイルス病 (48) 鼻疽 (49) ブルセラ症 (50) ベネズ

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1 破傷風 2 百日咳 3 腸チフス 4 ジフテリア 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1 猩紅熱 コプリック斑 2 破傷風 牙関緊急 3 細菌性赤痢 膿粘血便 4 ジフテリア 咽頭 喉頭偽膜 予防接種が有効なはど

Microsoft Word - 感染症週報

スライド 1

pdf0_1ページ目

<4D F736F F D A838A815B C8EAE814095CA8E E A2B8D4C95F189DB8A6D944694C5202B544

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 3 人 弘前 人 八戸市 2 人 五所川原 2 人 上十三 人 (28 年計 :97 人 ) レジオネラ症 ( 四類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (28 年計 :7 人 ) カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 ( 五類全把握対象疾



第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

四類感染症動物 飲食物等の物件を介して人に感染し 国民の健康に影響を与える恐れがある感染症 ( ヒトからヒトへの伝染はない ) 届け出診断後直ちに疾患の種類 E 型肝炎 A 型肝炎 黄熱 Q 熱 狂犬病 炭疽 鳥インフルエンザ (H5N1 H7N9 を除く ) ボツリヌス症 マラリア 野兎病 チクン


Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 1 人 上十三 1 人 (2018 年計 :146 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 五所川原 1 人 (2018 年計 :30 人 ) 梅毒 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 1 人 八戸市 2 人 (2

薬剤耐性とは何か? 薬剤耐性とは 微生物によって引き起こされる感染症の治療に本来有効であった抗微生物薬に対するその微生物の抵抗性を言う 耐性の微生物 ( 細菌 真菌 ウイルス 寄生虫を含む ) は 抗菌薬 ( 抗生物質など ) 抗真菌薬 抗ウイルス薬 抗マラリア薬などの抗微生物薬による治療に耐えるこ

<4D F736F F D2096BC8CC389AE8E738AB490F58FC78FEE95F E91E631358F544E2E646F63>

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 東地方 人 三戸地方 人 上十三 人 (8 年計 : 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :5 人 ) アメーバ赤痢 ( 五類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (8 年計 : 人 ) カルバペネム

<4D F736F F D2096BC8CC389AE8E738AB490F58FC78FEE95F E91E632398F542E646F63>

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

2017 年 25 週 (06 月 19 日 ~06 月 25 日 ) 2 類感染症 3 類感染症 都道府県 結核 ジフテリア 重症急性呼吸器症候群 中東呼吸器症候群 鳥インフルエンザ (H5N1) 鳥インフルエンザ (H7N9) コレラ 細菌性赤痢 総数北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨

<4D F736F F D208FAC8E A8B858BDB838F834E CC90DA8EED82F08E6E82DF82DC82B7312E646F6378>

Microsoft Word - 案1 week14-21



インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症

Ⅰ 第 52 週の発生動向 (2018/12/24~2018/12/30) 1. 水痘については 東地方 + 青森市保健所管内で注意報が発令されました 2. 伝染性紅斑については むつ保健所管内で警報が継続しています 3. インフルエンザについては 県全体の定点当たり報告数が 3.38 となり 前週

<4D F736F F D2096BC8CC389AE8E738AB490F58FC78FEE95F E91E630398F544E2E646F63>

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 5 人 上十三 人 むつ 人 (8 年計 :6 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :35 人 ) 急性脳炎 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :3 人 ) 百日咳 (

1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1. 破傷風 2. 百日咳 3. 腸チフス 4. ジフテリア 第 17 回按マ指 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1. 猩紅熱 - コプリック斑 2. 破傷風 - 牙関緊急 3. 細菌性赤痢 - 膿粘血便 4. ジフテリア

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス


報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

<8AB490F58FC78F5495F16E65772E707562>

2018 年 47 週 (11 月 19 日 ~11 月 25 日 ) 2 類感染症 3 類感染症 都道府県 結核 ジフテリア 重症急性呼吸器症候群 中東呼吸器症候群 鳥インフルエンザ (H5N1) 鳥インフルエンザ (H7N9) コレラ 細菌性赤痢 総数北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨

Infectious Diseases Weekly Report FUKUSHIMA IDWR 2017 年 第 35 週 (8 月 28 日 ~9 月 3 日 ) 福島県感染症発生動向調査週報 福島県感染症情報センター ( 福島県衛生研究所 ) 福島市方木田字水戸内 16 番

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

pdf0_1ページ目

pdf0_1ページ目

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル


Microsoft Word - 感染症と予防接種について doc

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

名称未設定

院内感染対策指針

平成24年7月x日

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症.5 伝染性紅斑 りんご病

<4D F736F F D2096BC8CC389AE8E738AB490F58FC78FEE95F E91E631358F542E646F63>

syuho_49.xls

Transcription:

はじめに 第 1 部感染症の基礎 1 章感染症の歴史 人類の戦いとテクノロジーの進歩 14 1. 恐怖からの開放 感染症と人類の戦いの歴史 14 2. 感染症学は過去の学問か? やり残してきた難題 17 3. これからの感染症学 新たなテクノロジーの導入 18 2 章感染症が起こるしくみ 感染とは何だろう? 19 1. それでもあなたは感染する 発症にいたるまでのステップ 19 2. 感染の成否 宿主 vs 病原体のバランス オブ パワー 20 3. 病原体の伝播 多様な感染経路 21 4. 疫学は生きている 感染の完全制御をめざして 22 3 章感染症法 わが国が定める病原体の危険度 24 1. 防疫のカナメとしての感染症法 24 2. 実験室内感染 バイオハザードは現実の世界で起こりうる 26 3. バイオセーフティーの概念 危険な病原体を封じ込める基準 28 4 章病原体と宿主の攻防 生存戦略と感染戦略のせめぎ合い 30 1. 宿主のバリアー機構 非選択的な病原体の排除システム 30 2. 免疫システム 宿主による病原体の認識と応答 31 3. 超個体 ヒト細胞と常在細菌の相互作用システム 33 4. 病原体の感染戦略 宿主細胞をハイジャックするものもいる 34 第 2 部わが国で危惧される感染症 Ⅰ. 新興 再興感染症 1 章腸管出血性大腸菌感染症 悪名高い O157 の正体を探る 36 1. ベロ毒素を産生する大腸菌 EHEC 命名をめぐる混乱 36 2. 米国で起きた食中毒事件 ハンバーガー病の起因菌としての EHEC 37

3. わが国の EHEC 食中毒事件 世界でも類をみない大規模感染 38 4. EHEC の感染経路 ウシが自然宿主 39 5. EHEC の症状と重症化 処置が適切なら1 週間で回復 39 6. 病原性発揮の機構 EHEC がもつ多様な感染戦略 41 7. 治療 予防 加熱調理による予防, 抗菌薬投与による治療が基本 48 Contents 2 章結核 今なお広がる古くて新しい感染症 49 1. 結核の歴史 人類との長いつき合い 49 2. まだまだ高い結核の罹患率 世界人口の1 / 3が感染 49 3. 結核菌の分類と細胞壁の特徴 ヒトに感染するのは5 菌種 50 4. 結核菌の感染と発症 肉芽腫形成による発症の抑制 52 5. 結核菌と宿主の攻防 病原性発現と殺菌排除のしくみ 54 6. 治療 予防 抗菌薬の併用と BCG 生ワクチン 57 7. クォンティフェロン 結核菌の新たな診断技術 59 3 章劇症型溶血性レンサ球菌感染症 (STSS) わずかな変異がもたらす劇症化 60 1. 人喰いバクテリア ありふれた細菌が変異により劇症化する 60 2. レンサ球菌属の分類と特徴 STSS の起因菌 60 3. わが国の STSS の感染事例 死亡率は 30 40 % 62 4. STSS の症状 数十時間以内に死亡するケースが多い 62 5. GAS の主要な病原因子 劇症化の分子メカニズム 63 6. 治療 壊死組織の切除と投薬による治療 67 4 章重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) マダニに要注意!! 68 1. 重症熱性血小板減少症候群とは? マダニを介した新興感染症 68 2. ベクター感染とは? 節足動物が運ぶ感染症 68 3. わが国の感染事例 北上しつつある SFTS 71 4. SFTS ウイルスの譜系と構造 アルボウイルスと出血熱 74 5. SFTS の症状とその定義 自覚症状は風邪のようだが 75 6. 病能発症のメカニズム マクロファージによる血小板の貧食 76 7. 治療 予防 一番よいのはマダニに咬まれないこと 77 5 章鳥インフルエンザ パンデミックの恐怖 78 1. インフルエンザとは? 種の壁を超えてパンデミックへ 78 2. 鳥インフルエンザとは? リザーバーと高病性の関連 79 3. 鳥インフルエンザの疫学 H7N9 に要注意! 81 4. ウイルスのゲノムと粒子構造 亜型が派生するしくみ 81 5. ヒトでの症状 10 日ほどで死にいたることがある 83 6. 哺乳動物への伝播機構 in vivo による実験的証明へ 84 7. 治療 予防 オセルタミビル耐性ウイルスの懸念 89

6 章後天性免疫不全症候群 ( エイズ ) かつては死にいたる病であったが 90 1. HIV 感染とエイズ 混同していませんか? 90 2. HIV 感染者の推移 制御が少しずつ進んでいる 90 3. HIV の構造と感染サイクル 増殖の場としての免疫担当細胞 91 4. 感染から発症までの経過 長い無症候期が続く 95 5. HIV を抑制する宿主側因子と拮抗するウイルス側因子 97 6. 治療 予防 HIV 感染症は一生つき合う病気となった 99 Ⅱ. 腸管感染症 7 章ディフィシル菌感染症 強毒化した菌がもたらしたアウトブレイク 101 1. クロストリジウム属の意外な伏兵 ディフィシル菌 101 2. 抗菌薬関連下痢症 起因菌の 20 30 % がディフィシル菌 103 3. NAP1/027 株の出現 強毒型ディフィシル菌 104 4. 強毒型ディフィシル菌のグローバル化 日本も危険! 105 5. ディフィシル菌感染症の特徴 病態とリスクファクター 105 6. 強毒化機構 ディフィシル菌のパワーアップ! 106 7. 治療 腸内細菌叢の回復のための糞便移入 108 8 章細菌性赤痢 炎症反応をめぐる宿主との攻防 109 1. ひとり歩きした属名? 赤痢菌は4つの亜群がある 109 2. 疫痢の恐怖 戦後の流行 110 3. 赤痢の症状 腹痛を伴う粘血便 111 4. 感染のステップ 侵入門戸から宿主の炎症反応 志賀毒素まで 112 5. 治療 経口輸液と抗菌薬による治療 118 9 章コレラ 今なお続く世界的流行 119 1. コレラは過去の感染症ではない ハイチの大流行 119 2. コレラの世界的流行 現在は第七次世界流行の最中 119 3. コレラに感染するとどうなる? 10 L 以上の下痢が続く 121 4. コレラ菌のもつ病原因子 下痢発症と排他的優位 122 5. 治療 予防 経口補液と不活化コレラワクチン 125 10 章感染性胃腸炎 1 ノロウイルス パンデミックを引き起こす G Ⅱ.4 亜株 126 1. 感染性胃腸炎の定義 病原体が起こす胃腸炎 126 2. Dr. Kapikian の執念 Norwalk virus の発見 126 3. ノロウイルス食中毒 冬場が危ない 127 4. ノロウイルスの構造と特徴 解析は遅れ気味 128

5. ノロウイルス感染 乳幼児 高齢者は要注意!! 130 6. 遺伝子型と感染のしくみ 流行の GⅡ.4 はホントに強力 131 7. 治療 予防 治療は対症療法のみ, 予防は加熱調理 133 11 章感染性胃腸炎 2 カンピロバクター 食肉汚染の代表格 134 1. カンピロバクターとは? ピロリ菌との意外な共通点 134 2. 感染源 主に生肉 ( 特に鶏肉 ) 135 3. 病原性発揮のしくみ 宿主側因子の巧妙な利用 136 4. 治療 予防 治療の第一選択薬はマクロライド系抗菌剤 141 Contents Ⅲ. 小児感染症 12 章百日咳 乳幼児から青年 成人層への感染拡大 142 1. 百日咳の昨今 咳の誘導因子は今でも不明 142 2. 百日咳の起因菌について 3 菌種が百日咳に関与 142 3. 百日咳の疫学 広がりつつある再興の兆し 144 4. 強い感染力と宿主特異性 百日咳菌はヒトだけを狙う 146 5. 臨床症状と診断方法 長引く咳と遺伝子診断 147 6. 病原因子 気管支敗血症菌から明らかにされる百日咳菌の感染機序 148 7. 治療 予防 ワクチンの定期接種が重要 153 13 章侵襲性髄膜炎 1 侵襲性インフルエンザ菌感染症 Hib の正体とワクチンによる制御 154 1. インフルエンザ 菌? それともウイルス? 154 2. 髄膜炎監視の強化 感染症法の一部改正 154 3. 髄膜炎とは? 症状と感染症法における定義 156 4. 小児細菌性髄膜炎 半数以上はインフルエンザ菌が起因 157 5. 髄膜炎の起因となる株 Hib と NTHi 株 159 6. 宿主免疫応答の回避 髄膜炎の起因菌に共通する感染戦略 160 7. インフルエンザ菌の固有な病原性 補体からの回避機構 161 8. 予防 ようやく認可となった Hib ワクチン 163 14 章侵襲性髄膜炎 2 侵襲性肺炎球菌感染症 あなたの体にも常在する起因菌 165 1. 肺炎レンサ球菌とは? グリフィスの形質転換実験で有名 165 2. 肺炎レンサ球菌の種類と臨床症状 小児と高齢者は危ない 165 3. 肺炎レンサ球菌の病原因子 PavB と PsrP 166 4. 治療 予防 肺炎球菌ワクチンの重要性 167

15 章侵襲性髄膜炎 3 侵襲性肺炎球菌感染症 巧みな感染戦略と高い致死率 169 1. 髄膜炎の流行地帯 サハラ砂漠以南の髄膜炎ベルト 169 2. 日本の髄膜炎菌感染の状況 保菌率 0.4 % 169 3. 侵襲性髄膜炎菌感染 高い致死率と後遺症 171 4. 多様な感染戦略 高い致死率にもナットク 172 5. 予防 髄膜炎菌の4 価ワクチンについて 174 16 章 RS ウイルス感染症 生後まもない赤ちゃんは気をつけよう 175 1. RS ウイルスとは? 乳幼児にはインフルエンザウイルスよりやっかい 175 2. RS ウイルス感染 約 9 割は2 歳までの乳幼児 175 3. 成人は軽い症状 新生児 乳幼児 高齢者は重篤化しやすい 177 4. ウイルス粒子の構造 ゲノムは 15.2 kb の一本鎖 RNA 178 5. 2ステップモデル どうやって宿主細胞に侵入するのか? 180 6. FI-RSV ワクチン 失敗したホルマリン不活化ワクチン 180 7. 治療 予防 リバビリンによる治療とパリビズマブによる予防 181 17 章麻疹 予防接種をしっかり受けよう 182 1. 麻疹とは? 命定めの病 182 2. わが国における麻疹の制御状況 予防接種の徹底 182 3. 麻疹ウイルスとゲノムの構造 6 遺伝子,8タンパク質 183 4. 麻疹の症状と合併症 二大死因は肺炎と脳炎 185 5. 宿主応答と病原因子 免疫系の細胞に侵入 188 6. 治療 予防 麻疹風疹混合ワクチンによる予防接種 191 18 章風疹 ワクチン政策と流行の関係 192 1. 風疹とは? わが国で繰り返される大流行 192 2. ワクチン政策の経緯 今なお続く流行とその原因 192 3. 一般症状と生天性風疹症候群 妊婦は気をつけて! 194 4. 風疹ウイルスのゲノム構造 最も高い G + C 含有率 196 5. ワクチン株の温度感受性領域 39 ではほとんど増殖しない 197 6. 治療 予防 MR 混合ワクチンによる予防 198 Ⅳ. 薬剤耐性菌感染症 19 章薬剤耐性緑膿菌感染症 自然耐性と獲得耐性による多剤耐性化 199 1. 日和見感染と多剤耐性化 本来はおとなしい緑膿菌だが 199 2. 多剤耐性緑膿菌の発生 ほとんどの抗菌薬が無効 200 3. 病原因子と多剤耐性化 緑膿菌はそもそも自然耐性をもつ 200 4. 治療 予防 ポリペプチド系抗菌薬が有効 205

20 章メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症 薬剤耐性菌の代表格 206 1. 抗菌薬開発の歴史 MRSA の出現 206 2. 薬剤耐性菌感染症 ほとんどは MRSA に起因する 206 3. 感染症状と感染の拡大 院内感染型と市中感染型 207 4. メチシリンの耐性化機構 SCCmec の獲得 209 5. 治療 予防 抗 MRSA 薬ダプトマイシンへの期待 210 Contents 第 3 部感染と防御におけるストラテジー 1 章宿主の防御機構 1 ファゴリソソーム形成 食細胞のもつ殺菌排除システム 214 1. ファゴリソソーム形成 ファゴソームとリソソームの融合 214 2. Rab 小胞輸送と膜融合のキーファクター 214 3. Rab を軸とする機構 GDP と GTP の交換反応が基本 216 4. Rab 以外の分子によるダイナミックな膜成熟の制御 217 5. 細菌に保存されている共通の感染戦略 ファゴリソソームの形成阻害と細菌がつくりだす小胞環境 219 2 章宿主の防御機構 2 選択的オートファジー 細胞内寄生細菌に対する排除システム 220 1. オートファジー 自然免疫システムとしての重要性 220 2. オートファジーとは? 日本語では自食作用と訳されるが 220 3. 病原体の認識 排除機構 宿主側の巧妙な手段 223 4. オートファジー回避 細菌だって負けてない! 229 3 章細菌の感染機構 1 病原性発揮のシグナル 環境変化の感知と遺伝子発現 232 1. 細菌の遺伝子発現のアウトライン オペロンとレギュロン 232 2. 二成分制御系 環境変化を感知するセンサー 234 3. シグマ因子 環境変化に応じた遺伝子発現の制御 235 4. クオラムセンシング 細菌間のコミュニケーション 236 4 章細菌の感染機構 2 分泌装置 細菌のもつ究極兵器 240 1. 細菌の表層構造と分泌の基本 病原因子を外に出すしくみ 240 2. Sec Tat 膜透過装置 膜内在型でⅡ 型分泌装置と共役 241 3. Ⅰ 型分泌装置 菌体外への直接分泌 243 4. Ⅱ 型分泌装置 サブユニットをもつ毒素の分泌も可能 244 5. Ⅲ 型分泌装置 ニードルで病原因子を注入する 245 6. Ⅳ 型分泌装置 DNA の取り込み 放出にも関与する 247

7. Ⅴ 型分泌装置 オートトランスポーター 248 8. Ⅵ 型分泌装置 溶菌エフェクターで他菌と戦う 248 9. Ⅶ 型分泌装置 結核菌でみつかった分泌装置 250 5 章細菌の感染機構 3 カルバペネム耐性 拡散する多剤耐性の恐怖 251 1. 細菌感染への最後の切り札 カルバペネム系抗菌薬 251 2. β - ラクタマーゼの系譜 4クラスに分類 252 3. NDM-1 最強のβ - ラクタマーゼ 253 4. 危惧される多剤耐性 拡大するカルバペネム耐性菌 254 付録 1 感染症研究に役立つ Web サイト 258 2 研究生活を快適にするライフハックとツール 263 文献一覧 267 索引 271 筆者が細菌学者をめざした理由 18 感染症法前文 29 HACCP とは? 38 薬剤投与とベロ毒素産生について 44 結核療養所の思い出 51 人喰いバクテリアとは? 61 もしマダニに咬まれたら 73 マダニの生息域とその防御方法 77 青梅と疫痢 110 感染源をめぐって 120 新鮮な食肉 = 病原菌も新鮮? 137 ナイセリアの系譜 173 筆者の麻疹感染記 184 おでき 208 細菌の選択的オートファジーは, マイトファジーと共通する? 226 メジャープレイヤーとしての NDP52 229 リステリア症について 230 レジオネラ属細菌について 231 病原因子と毒素 エフェクターについて 240 シラスタチンナトリウムとは? 253 不名誉な命名? 254 筆者の時間管理術 266