モンゴル 語 日 本 語 変 換 に 関 する 基 礎 的 検 討 * 大 平 栄 二 ** 上 谷 恵 里 奈 Nurul Sakinah Binti Kamaruddin *** A basic study on Mongolian-Japanese translation Eiji OHIRA, Erina JOTANI and Nurul Sakinah Binti Kamaruddin From December 2009, Tsuyama National College of Technology has signed an international exchange agreement for research exchange with Mongolian National University of Science and Technology, Uburuhangai University. As a part of the agreement, in this laboratory, a research about translating Mongolian language into Japanese language was started. Both Mongolian and Japanese are known as agglutinative language which means a language that the back of each word is continued by a particle or a suffix, and they also follow the same type of sentence structure that called SOV. But, if Mongolian s noun and any particle are attached together, the noun will change according to the particle and letter elimination. First, this research only focuses on creating a Mongolian morphological analysis method and a Mongolian-Japanese word dictionary database using a Mongolian sightseeing guidebook. Then, the system that converts Mongolian to Japanese is created. A total of 665 words in the guidebook were used for the experiments. Experiments confirmed the validity of morphological analysis of Mongolian noun phrase using the knowledge of this research. Key words: Mongolian, Japanese, Translation, morphological analysis 1.はじめに 本 校 では 2009 年 12 月 からモンゴル 国 立 科 学 技 術 大 学 同 大 学 ウブルハンガイ 校 と 国 際 交 流 協 定 を 締 結 し 研 究 の 交 流 を 開 始 した その 一 環 として 本 研 究 室 では 2012 年 度 から モンゴル 語 日 本 語 変 換 の 研 究 を 開 始 した 1) モンゴル 語 は 日 本 で はあまり 研 究 が 進 んでおらず 資 料 が 少 ないため 翻 訳 した 結 果 が 正 しいかどうか 判 断 することが 難 しい そのため まずモンゴル 語 から 日 本 語 への 変 換 法 に 対 する 検 討 から 開 始 した モンゴル 語 2) はいわゆる アルタイ 語 族 に 属 し 文 法 構 造 の 面 で 日 本 語 に 類 似 するところが 多 く 日 本 語 と 同 様 に 語 順 類 型 が SOV である また 語 幹 に 語 尾 や 接 頭 辞 をつけてどんどん 拡 大 していくタ イプの 言 語 であり 類 型 的 にも 日 本 語 と 同 じ 膠 着 言 語 である 膠 着 言 語 とは 文 法 的 な 意 味 を 表 す 助 詞 や 活 用 語 尾 などの 接 辞 が 実 質 的 な 意 味 を 表 す 名 詞 や 活 用 語 の 語 幹 などの 語 に 膠 着 する 言 語 のこと である したがって 1 つ 1 つの 単 語 を 直 訳 する ことでモンゴル 語 から 日 本 語 にある 程 度 翻 訳 でき るのではないかと 考 えた このため 本 研 究 では まずモンゴル 語 の 形 態 素 解 析 を 実 現 し 切 り 出 された 形 態 素 に 日 本 語 見 出 し 語 を 付 与 するシステムの 実 現 を 目 的 とする 前 述 し たように モンゴル 語 は 日 本 ではあまり 研 究 が 進 んでおらず 資 料 が 少 ない このため 本 校 モンゴ ル 留 学 生 の 協 力 を 得 て モンゴル 語 テキスト 3) の 翻 訳 を 行 い 文 法 規 則 の 整 理 確 認 を 行 った また 本 システムを 実 現 するためには 辞 書 データベース が 不 可 欠 である 本 研 究 では 共 同 研 究 先 のウブル ハンガイ 校 が 作 成 した 約 1 万 語 のモンゴル 語 英 語 辞 書 データベースを 用 いて 日 本 語 見 出 し 語 の 追 加 や 正 規 化 を 行 うことにより 日 本 語 とモンゴル 語 の 単 語 辞 書 データベースを 作 成 することにした 2.モンゴル 語 について 原 稿 受 付 平 成 26 年 8 月 31 日 * 情 報 工 学 科 や ** 活 用 情 報 語 工 の 学 語 科 幹 平 などの 成 25 年 語 度 に 卒 業 膠 生 着 する 言 語 のことで ある このため 1 *** 情 報 工 学 科 つ平 成 124 つの 年 度 単 卒 語 業 生 を 直 訳 することで 2.1 モンゴル 語 文 法 モンゴル 語 の 表 記 は ロシア 語 のアルファベット にモンゴル 語 特 有 の 2 文 字 ө と ү を 加 えたも のであり 母 音 13 字 子 音 20 字 の 計 33 文 字 と 記 - 65 -
津 山 高 専 紀 要 第 56 号 (2014) 号 文 字 ъ( 硬 音 符 ) と ь( 軟 音 符 ) の 2 つから なる 4) 母 音 と 子 音 を 以 下 に 示 す 母 音 :а о у э ө ү е и ю я е ё ю 子 音 :б в г д ж п р с т ф з к л м н х ц ч ш щ 前 述 したように モンゴル 語 と 日 本 語 の 共 通 点 の 一 つは 語 順 類 型 が SOV である 他 の 言 語 例 えば 英 語 ( 語 順 類 型 は SVO)との 比 較 のため 以 下 に 例 を 示 す モンゴル 語 :би номыг авав 日 本 語 : 私 は 本 を 買 った 英 語 : I bought a book 上 記 においてбиは 私 номыгは 本 を ававは 買 った に 対 応 する 述 語 が 必 ず 文 の 最 後 に 置 かれ 修 飾 語 は 必 ず 被 修 飾 語 の 前 に 置 かれ る また モンゴル 語 と 日 本 語 は 膠 着 言 語 であり 名 詞 などの 語 幹 に 格 を 表 す 語 尾 ( は や を ) や 数 を 表 す 語 尾 が 接 続 され 名 詞 句 を 形 作 る 以 下 に その 例 を 示 す номыг 本 を = 語 幹 ном 本 + ыг を өдрийн 日 の = 語 幹 өдөр 日 + ийн の хүүхдүүд 子 どもたち = 語 幹 хүүхэд 子 ども+ үүд 複 数 形 2.2 名 詞 句 における 変 形 前 述 したように モンゴル 語 は 語 幹 にさまざま な 語 尾 を 付 けて 名 詞 句 等 を 形 作 る 膠 着 言 語 である しかし 日 本 語 と 異 なり 語 尾 が 接 続 すると 名 詞 の 形 が 変 形 することがある 3)-7) その 変 形 は 一 定 の 規 則 にしたがって 起 こる 表 1に 代 表 的 な 表 層 格 の 観 点 から 名 詞 の 変 形 について 整 理 した 結 果 を 示 す 表 1において はその 変 形 が 生 じることを 示 す 以 下 にその 詳 細 について 説 明 する なお 日 本 語 で は 主 格 助 詞 として は または が が 使 われる が モンゴル 語 では 主 格 の 語 尾 は 形 のないゼロ 表 1 語 尾 の 分 類 の 一 覧 語 尾 の 分 類 モンゴル 語 日 本 語 г 交 代 н 交 代 脱 落 追 加 主 格 なし は が 対 格 ыг г ийг を 属 格 ын ы н ийн ий (нь) の 与 位 各 д т に 奪 格 аас оос ээс өөс から 造 格 аар оор ээр өөр で 共 同 格 тай той тэй と 方 向 格 руу луу へ 欠 如 格 гүй なしで 様 態 格 шйг のように 語 尾 である すなわち 語 幹 には 何 も 付 かない こ の 点 は 英 語 と 似 ている (1) 語 幹 の 交 代 モンゴル 語 では 特 定 の 語 尾 を 接 続 するときにだ け 現 れる 別 の 形 の 語 幹 を 交 代 語 幹 と 呼 ぶ 交 代 語 幹 には хөдөөн や уулан のように 末 尾 に н が 出 てくる Н 交 代 語 幹 と санг のように 末 尾 に г が 出 てくる Г 交 代 語 幹 とがある (a)н 交 代 : хөдөөнөөс 田 舎 から = хөдөө 田 舎 (Н 交 代 語 幹 :хөдөөн) + өөс から ууланд 山 に = уул 山 (Н 交 代 語 幹 :уулан)+ д に ただし 以 下 のように Н 交 代 語 幹 を 持 つにも 関 わらず 属 格 の 場 合 にだけ 交 代 しない 語 がある こ のように 不 規 則 な 活 用 をするため 規 則 性 がなく ひとつずつ 覚 えるほかない ханын 壁 の = хана 壁 (Н 交 代 語 幹 :ханан) + ын の асуултын 質 問 の = асуулт 質 問 (Н 交 代 語 幹 :асуулт) + ын の (b)г 交 代 : сангаас 募 金 から = сан 基 金 (Г 交 代 語 幹 :санг) + аас から шуудангийн 郵 便 局 の = шуудан 郵 便 局 (Г 交 代 語 幹 :шууданг) + ийн の 対 格 において -г が 接 続 するときに г 交 代 語 幹 の 末 尾 の г は 助 詞 -г が 接 続 するときに 脱 落 する また Г 交 代 において 元 の 語 幹 にそのまま 語 尾 -г を 接 続 したのと 同 じ 綴 りになる 例 えば дэнг ランプを = дэн ランプ(Г 交 代 語 幹 :дэнг) + г を (г 脱 落 ) 交 代 語 幹 8) は 古 いモンゴル 語 の 形 の 名 残 である ため 現 代 ではあまり 使 用 されていない 語 である 現 代 のモンゴル 語 では ふつうの 語 幹 ではなく 交 代 語 幹 を 使 うことによって 語 の 意 味 を 区 別 したりす る 新 たな 用 法 が 発 達 しているようである 交 代 語 幹 は 変 形 の 仕 方 が 不 規 則 であるため あらかじめ 辞 書 データベースに 交 代 語 幹 を 登 録 する 必 要 がある と 現 時 点 では 考 えている (2) 末 尾 母 音 の 脱 落 対 格 属 格 奪 格 造 格 語 尾 が 付 く 際 には 末 尾 の 母 音 が 脱 落 する 7) これは 末 尾 母 音 の 脱 落 と 呼 ばれ и 以 外 の 短 母 音 で 終 わる 単 語 に 長 母 音 で 始 - 66 -
モンゴル 語 日 本 語 変 換 に 関 する 基 礎 的 検 討 大 平 上 谷 Kamaruddin まる 語 尾 が 接 続 される 際 は 最 後 の 母 音 が 脱 落 する 用 法 の 例 を 以 下 に 示 す чаргаар そりで = чарга そり+ аар で (а 脱 落 ) хөрөнгийн 財 産 の = хөрөнгө 財 産 + ийн の (ө 脱 落 ) ханаар 壁 で = хана 壁 + аар で (а 脱 落 ) (3) 未 聞 母 音 の 脱 落 未 聞 脱 落 とは 子 音 で 終 わる 単 語 に 長 母 音 で 始 まる 語 尾 が 接 続 される 際 に 末 尾 ( 子 音 )の 前 の 母 音 である 未 聞 母 音 が 脱 落 する 変 形 である 7) 用 法 の 例 を 以 下 に 示 す олноос 多 数 より = олон 多 数 + оос より (о 脱 落 ) авраад 助 けてから = авар 助 けて+ аад から (а 脱 落 ) хөгжмийг 楽 器 を = хөгжим 楽 器 + ийг を (и 脱 落 ) (4) 末 尾 短 母 音 の 追 加 語 尾 の 接 続 により 文 字 の 脱 落 のみでなく 文 字 が 追 加 される 場 合 がある これは 末 尾 母 音 の 脱 落 や 未 聞 脱 落 と 同 様 に 脱 落 母 音 の 規 則 に 含 まれる 今 回 のテキスト 中 では 次 の 与 位 格 語 尾 が 付 く 際 に 追 加 されることがわかった улсад 国 に= улс 国 + д に (а 追 加 ) また 子 音 で 終 わる 単 語 に 子 音 で 始 まる 語 尾 を 付 ける 際 は 子 音 の 前 の 母 音 が 脱 落 されて 最 後 に 短 母 音 が 追 加 される 8) 用 法 の 例 を 以 下 に 示 す гэрийнхнь 家 の = гэрийн 家 + нь の (х 追 加 ) сурагчдад 生 徒 たちに = сурагчид 生 徒 たち+ д に (а 追 加 ) (5)その 他 の 変 形 上 記 で 説 明 した 変 形 規 則 以 外 に 名 詞 の 変 形 とし て 複 数 形 ( 語 幹 + 複 数 形 )の 場 合 があり 脱 落 のみでなく 母 音 の 追 加 が 生 じる 場 合 もある 後 述 する 実 験 で 用 いたテキスト 中 に 現 れた 複 数 形 を 含 んだ 名 詞 の 変 形 を 表 2に 示 す 表 2 その 他 の 変 形 変 形 後 のモンゴル 語 語 幹 + 複 数 形 + 語 尾 脱 落 追 加 аймгуудыг 民 族 を аймаг 民 族 + ууд 複 数 形 + ыг を а 脱 落 Монголчуудын モンゴルの Монгол モンゴル+ ууд 複 数 形 + ын の ч 追 加 2.3 動 詞 句 における 変 形 動 詞 は その 語 基 に -х -ах などが 接 続 された ものが 見 出 し 語 として 辞 書 に 登 録 される これを 不 定 形 と 呼 ぶ 今 回 利 用 したウブルハンガイ 校 のモン ゴル 語 英 語 の 辞 書 データベースでも 不 定 形 が 見 出 し 語 として 登 録 されている 以 下 に 例 を 示 す гүй-х 走 る алх-ах 歩 く унш-их 読 む ид-эх 食 べる 動 詞 句 5)-11) も 日 本 語 と 仕 組 みが 似 ており 語 基 + 語 尾 で 構 成 される 日 本 語 の 動 詞 する が した している すれば と 活 用 するように モンゴル 語 もさまざまな 形 に 変 形 する 食 べる の 不 定 形 идэх を 例 に 説 明 する 現 在 ид-нэ 食 べる 過 去 ид-сэн 食 べた 現 在 進 行 ид-эж байна 食 べている 疑 問 ид-эх үү 食 べるか 否 定 ид-эхгүй 食 べない 意 志 ид-ье 食 べよう 仮 定 ид-вэл 食 べれば 食 べる の 語 基 ид に 対 して 現 在 を 表 す 語 尾 や 仮 定 を 表 す 語 尾 などが 接 続 する モンゴル 語 で は 動 詞 は 活 用 した 形 で 使 われ 不 定 形 のまま 使 わ れることはほとんどない 動 詞 語 基 に 接 続 する 動 詞 語 尾 の 分 類 を 表 3 に 示 す 以 下 では このうち 今 回 検 討 したテキスト 中 で 確 認 できた 動 詞 句 を 中 心 に 代 表 的 な 動 詞 語 尾 の 観 点 から 整 理 した 結 果 の 概 要 を 示 す 詳 細 は 文 献 12 を 参 照 いただきたい なお 活 用 の 変 化 は 次 の 形 式 で 記 述 する モンゴル 語 動 詞 句 日 本 語 = 不 定 形 ( 語 基 ) 日 本 語 + 語 尾 очсон 訪 問 した = очих(оч-) 訪 問 する+ сон 一 般 過 去 表 3 動 詞 語 尾 の 分 類 の 一 覧 語 尾 の 分 類 モンゴル 語 日 本 語 過 去 сан сэн сон сөн чээ жээ в лаа лээ лоо лөө ~した 現 在 未 来 на нэ но нө ~する 現 在 進 行 形 許 可 依 頼 ч ж н ~して 習 慣 даг дог дэг дөг (いつも)~する 否 定 гүй аагүй сангүй хгүй ~(し)ない 仮 定 бал бэл бол бөл вал вэл вол вөл ~すれば 意 志 я е ё ~(し)よう 願 望 маар моор мээр ~したい 依 頼 аарай ~してください - 67 -
津 山 高 専 紀 要 第 56 号 (2014) (1) 過 去 モンゴル 語 では 過 去 を 表 す 時 制 として 一 般 過 去 伝 聞 過 去 体 験 過 去 文 書 的 な 過 去 の4 種 類 がある (a) 一 般 過 去 は 動 詞 語 基 + сан(сэн сон сөн) で 構 成 される 用 法 例 を 以 下 に 示 す ирсэн 来 た = ирэх(ир-) 来 る+ сэн 一 般 過 去 (b) 伝 聞 過 去 は 自 分 が 体 験 していない 他 人 か ら 伝 聞 した 動 作 や 歴 史 的 な 出 来 事 などを 表 すため に 用 いられる 語 基 + жээ(чээ) で 構 成 され -жээ は -л м в нг および 母 音 で 終 わる 動 詞 語 幹 の 場 合 に 接 続 される また -чээ は -б г р с д の 子 音 で 終 わる 動 詞 語 幹 の 場 合 に 接 続 される 用 法 例 を 以 下 に 示 す иржээ 来 たようだ = ирэх(ир-) 来 る+ жээ 過 去 (c) 体 験 過 去 は 語 基 + лаа(лээ лоо лөө) で 構 成 され 話 し 手 がその 動 作 を 自 身 で 体 験 や 見 聞 したことを 表 す сонслоо 聞 いた = сонсох(сонс-) 聞 く+ лоо 過 去 нүүх боллоо 引 越 しをすることになった = нүүх(нүү-) 引 越 しする+ боллоо( бол なる+ лоо 体 験 過 去 ) 後 者 の 例 に 示 すように 不 定 形 + боллоо で 日 本 語 の 何 々をすることになった という 意 味 を 表 す このような 場 合 には 不 定 形 が 使 わ れるようである (d) 文 書 的 な 過 去 は 語 基 + в で 構 成 され 比 較 的 中 立 的 で 客 観 的 な 文 章 的 過 去 または 近 い 過 去 に 起 こった 動 作 を 表 す харав 見 た = харах(хара-) 見 る+ в 過 去 (2) 現 在 未 来 モンゴル 語 では 現 在 と 未 来 の 区 別 はなく 過 去 ではないものは 非 過 去 と 呼 び 同 じ 語 尾 на(нэ но нө) が 接 続 する それゆえ 非 過 去 の 終 止 形 は すべて 形 の 上 で 過 去 以 外 の 時 制 を 区 別 しない Энэ загас мах иднэ.:この 魚 は 肉 を 食 べる ( 恒 常 的 な 動 作 ) Аав маргааш ирнэ.:お 父 さんは 明 日 来 る ( 未 来 ) (3) 否 定 他 の 語 尾 では 語 基 の 変 形 はなかったが 否 定 形 の 語 尾 では 語 基 が 変 形 する 場 合 がある 否 定 形 の 語 尾 は 3 つあり 過 去 の 否 定 には -аагүй と -сангүй がある -аагүй は 単 純 な 過 去 の 否 定 に 用 いられ -сангүй は 起 こるはずの 出 来 事 が 最 終 的 に 起 こらなかった という 価 値 判 断 を 含 ん だ 否 定 を 表 す また 非 過 去 の 否 定 形 は -хгүй 語 尾 を 用 いる 語 幹 の 種 類 によっては 以 下 のよう に 語 基 や 語 尾 に 変 形 が 生 じる (a) 否 定 形 -аагүй が 接 続 する 場 合 1) 短 母 音 で 終 わる 語 基 の 場 合 は その 短 母 音 を 脱 落 させたうえで 接 続 する санаагүй 思 わなかった = санах(сана-) 思 う+ аагүй (а 脱 落 ) 2)я ё で 終 わっている 語 基 の 場 合 は -аагүй の 形 を -агүй とする хаяагүй 捨 てなかった = хаях(хая-) 捨 てる+ агүй 3) 長 母 音 または 二 重 母 音 で 終 わる 語 基 の 場 合 は 子 音 г が 繋 ぎとして 現 れる ороогоогүй 包 まなかった = ороох(ороо-) 包 む+ оогүй (г 追 加 ) 4) ь で 終 わる 語 基 の 場 合 は -аагүй を 接 続 した 際 にできる 綴 り -ьаагүй の ьа の 部 分 を 母 音 字 и に 変 え -иагүй にする тавиагүй 置 かなかった = тавьаагүй = тавих(тавь) 置 く+ аагүй (b) 否 定 形 -хгүй が 接 続 する 場 合 1) 子 音 で 終 わる 語 基 の 場 合 は それら 語 尾 の 直 前 に 必 ず 短 母 音 を 挟 む уншихгүй 読 まない = унших(унш-) 読 む+ хгүй 2)ь で 終 わる 語 基 の 場 合 は 語 基 末 の ь が и に 変 わる урихгүй 招 かない = урих(урь-) 招 く+ хгүй 3. 評 価 実 験 3.1 システム 概 要 本 システムの 概 要 を 図 1 に 示 す まず 入 力 され たモンゴル 語 テキスト( 図 2 参 照 )を 1 行 ずつに 読 み 込 み スペースやカンマ(,)で1 単 語 ずつ 切 り 出 す そして 切 り 出 された 単 語 で 辞 書 データベース を 検 索 し 辞 書 にマッチングする 単 語 があれば そ の 日 本 語 見 出 し 語 を 出 力 する 辞 書 に 該 当 する 単 語 がない 場 合 は 単 語 の 末 尾 に 助 詞 が 付 いているか 調 - 68 -
モンゴル 語 日 本 語 変 換 に 関 する 基 礎 的 検 討 大 平 上 谷 Kamaruddin モンゴル 語 文 書 処 理 助 詞 検 索 規 則 作 成 マッチング 判 定 日 本 語 表 5 日 本 語 見 出 し 語 入 力 および 正 規 化 後 の 辞 書 データベース 助 詞 DB 変 形 規 則 辞 書 DB 図 1 システムの 概 要 図 2 モンゴル 語 テキスト べ 助 詞 の 削 除 を 行 う 名 詞 句 の 場 合 は 名 詞 に 助 詞 が 付 くと 名 詞 の 形 が 変 形 する 場 合 がある その ため 変 形 規 則 を 作 成 し マッチング 処 理 部 で 変 形 規 則 に 基 づいて 辞 書 データベースから 単 語 を 検 索 して 日 本 語 の 単 語 見 出 し 語 を 出 力 する 今 回 変 形 規 則 は 末 尾 母 音 と 未 聞 母 音 の 脱 落 のみに 対 応 している 本 システムは Visual Basic( 以 下 VB と 略 す)で 作 成 した 3.2 辞 書 データベース 本 研 究 で 用 いた 辞 書 データベースは 表 4 に 示 す 共 同 研 究 先 のモンゴル 国 立 科 学 技 術 大 学 のウブル ハンガイ 校 が 作 成 した 辞 書 データベースを 基 にし ている この 辞 書 データベースは 英 語 モンゴル 語 のみの 辞 書 であるため 日 本 語 の 見 出 し 語 は 登 録 されていない また モンゴル 語 の 欄 は 1 行 に 対 して 複 数 の 単 語 が 入 っており 第 1 正 規 化 を 満 たし ていない そのため 表 5 に 示 すように 日 本 語 の 見 出 し 語 の 登 録 および 正 規 化 を 行 い 辞 書 データベ ースを 作 成 する 現 在 辞 書 データベースには 約 のべ 2 万 単 語 が 登 録 されており 現 時 点 で 約 80% の 日 本 語 の 見 出 し 語 登 録 および 正 規 化 が 完 了 した 3.3 実 験 と 考 察 今 回 対 象 とした 観 光 ガイドブックのテキスト 3) の 表 4 元 の 辞 書 データベース 665 単 語 のうち 形 態 素 解 析 できた 単 語 は 約 80% ( 名 詞 句 73% 動 詞 句 7%)で 全 く 解 析 できない 単 語 が 残 り 20%であった ここで 今 回 形 容 詞 や 副 詞 の 活 用 はなかったため 名 詞 句 に 含 めてカウント している 解 析 できた 動 詞 句 は すでに 活 用 した 形 式 で 辞 書 に 登 録 されていたケースと 過 去 形 で 例 に 示 した 不 定 形 のままの 形 で 使 われていたケースで ある 名 詞 句 の 解 析 結 果 の 詳 細 を 以 下 に 示 す (1) 交 代 語 幹 : 今 回 テキストを 調 べた 結 果 交 代 語 幹 は 次 の 1 例 のみであった Хүннүгийн フンヌの = Хүннү フンヌ(Г 交 代 語 幹 :Хүннүг) + ийн の (г 追 加 ) Хүннү フンヌは 昔 の 地 名 であることから こ のような 交 代 が 利 用 されていると 推 察 される (2) 末 尾 母 音 の 脱 落 : テキストの 翻 訳 をとおし て 確 認 できたのは 表 6に 示 す2 単 語 のみであった 表 6 末 尾 母 音 の 脱 落 変 形 後 のモンゴル 語 語 幹 + 語 尾 脱 落 文 字 дорнын 西 の дорно 西 + ын の о 脱 落 суурийг 基 礎 を суурь 基 礎 + ийг を ь 脱 落 (3) 未 聞 母 音 の 脱 落 : テキストの 中 では 表 7 に 示 す 未 聞 母 音 の 脱 落 が16 単 語 と 多 くみられた 共 同 研 究 先 のウブルハンガイ 校 の 教 員 からも この 変 形 が 多 く 見 られるとのコメントを 頂 いた 表 7 未 聞 母 音 の 脱 落 の 例 変 形 後 のモンゴル 語 語 幹 + 語 尾 脱 落 文 字 Амьтны 動 物 の Амьтан 動 物 + ы の а 脱 落 баатрын 勇 士 の баатар 勇 士 + ын の а 脱 落 сансрын 宇 宙 の сансар 宇 宙 + ын の а 脱 落 нийгмийн 社 会 の нийгэм 社 会 + ийн の э 脱 落 Хүн төрөлхтний 人 間 の Хүн төрөлхтөн 人 間 + ий の ө 脱 落 үндэстний 民 族 の үндэстэн 民 族 + ий の э 脱 落 баатрын 部 分 を хэсэг 部 分 + ийг を э 脱 落 аймгийг 藩 を аймаг 藩 + ийг を а 脱 落 эв нэгдлийг 平 和 を эв нэгдэл 平 和 + ийг を э 脱 落 шавжийг 虫 を шавьж 虫 + ийг を ь 脱 落 нөхцлийг 条 件 を нөхцөл 条 件 + ийг を ө 脱 落 угсаатныг 民 族 を угсаатан 民 族 + ыг を а 脱 落 асуудлыг 問 題 を асуудал 問 題 + ыг を а 脱 落 дайсныг 敵 を дайсан 敵 + ыг を а 脱 落 асуудлыг 問 題 を асуудал 問 題 + ыг を а 脱 落 улс орноо 国 を улс орон 国 + оо を о 脱 落 - 69 -
津 山 高 専 紀 要 第 56 号 (2014) 4.おわりに モンゴル 語 の 文 法 を 調 査 するとともに 観 光 ガイ ドブックのテキストを 翻 訳 することで 名 詞 句 や 動 詞 句 の 文 法 構 造 や 変 形 の 仕 方 を 調 べた その 結 果 名 詞 句 では 子 音 前 の 未 聞 母 音 が 脱 落 される 未 聞 母 音 の 脱 落 が 多 く 見 られることがわかった また 多 くの 参 考 文 献 では 変 形 の 代 表 例 として 交 代 語 幹 が 取 り 上 げられていたが 今 回 のテキストでは ほと んど 現 れなかったことから 現 代 ではあまり 使 われ ていないと 思 われる Visual Basic を 用 いて 未 聞 母 音 および 末 尾 母 音 の 脱 落 を 考 慮 した 変 換 プログラムを 作 成 し 今 回 題 材 とした 665 単 語 のテキストのうち 約 73%の 名 詞 句 を 形 態 素 解 析 できた 一 方 動 詞 句 は 日 本 語 と 同 様 に 動 詞 の 見 出 し 語 そのものではなく 語 基 に 語 尾 が 接 続 することで 構 成 されることがわかった このため 辞 書 データベ ースに 見 出 し 語 に 加 えて 語 基 を 登 録 する 必 要 があ る このためには まず 一 通 り 日 本 語 の 見 出 し 登 録 および 正 規 化 を 完 了 させる 必 要 がある 動 詞 句 は 活 用 や 変 形 の 種 類 が 非 常 に 多 いため 形 態 素 解 析 率 を 向 上 させていくことを 当 面 の 目 標 とする 現 段 階 で 交 代 や 末 尾 短 母 音 が 追 加 される 場 合 の 名 詞 句 には 対 応 できていない 今 回 用 いたテキスト では これらの 出 現 頻 度 は 少 なかったため 解 析 を 規 則 で 行 う 方 が 良 いか 変 形 後 の 単 語 を 辞 書 データ ベースに 登 録 した 方 が 良 いのかの 検 討 を 進 めてい く 予 定 である 謝 辞 本 研 究 を 遂 行 するに 当 たり 電 気 電 子 工 学 科 トゥ メンバヤル ビャムバドルジ(TUMENBAYAR BYAMBADŌRJ)さん 電 気 制 御 工 学 科 ムンフツ ォグ ムンフズル(MUNKHTSŌG MUNKHZUL) さんには モンゴル 語 のテキスト 入 力 や 翻 訳 に 関 し て 多 大 なる 協 力 をいただいた 心 より 感 謝 いたしま す 参 考 文 献 1) Nurul Sakinah Binti Kamaruddin: モンゴル 語 日 本 語 の 言 語 変 換 法 の 検 討 平 成 24 年 度 卒 業 研 究 報 告 書 津 山 高 専 (2012). 2) 橋 本 勝 エルデネ.プレブジャブ: 現 代 日 本 語 モンゴル 語 辞 典 春 風 社 (2001). 3) CH.MONKHBAYAR : Mongolian 108 Wonders Publisher N. Batjargal. (2005). 4) モンゴル 語 正 書 法 : http://homepage3.nifty.com/itako/mon_jiten019.html. 5) モンゴル 語 文 法 : http://www.coelang.tufs.ac.jp/modules/mn/gmod/index.ht ml (2004). 6) 江 原 暉 将 早 田 清 冷 木 村 展 幸 : 茶 筅 を 用 いたモンゴル 語 の 形 態 素 解 析 言 語 処 理 学 会 第 10 回 年 次 大 会 論 文 集 (2004). 7) Enkhbaya Sanduijav 宇 津 呂 武 仁 佐 藤 理 史 : 音 韻 論 的 形 態 論 的 制 約 を 用 いたモンゴル 語 句 生 成 情 報 処 理 学 会 研 究 報 告 2004(2004-NL-162) 87-93 (2004). 8) アルタイ:http://ameblo.jp/kharkhorin/ (2010). 9) Mongolian English Dictionary: http://www.bolor-toli.com/ (2009). 10) モンゴル 語 実 践 会 話 入 門 : http://www.aa.tufs.ac.jp/documents/training/ilc/textbooks /2008mongolian.pdf (2009). 11) 川 越 有 希 子 :ここ 以 外 のどこかへ! 旅 の 指 さし 会 話 帳 16モ ンゴル 株 式 会 社 情 報 センター 出 版 局 (2012). 12) 上 谷 恵 里 奈 : モンゴル 語 - 日 本 語 変 換 における 名 詞 句 変 換 に 関 する 研 究 平 成 25 年 度 卒 業 研 究 報 告 書 津 山 高 専 (2013). - 70 -