論 文 報 告 BIM への 取 り 組 み ~ 建 物 情 報 の 統 合 化 へむけて~ Challenge To Building Information Model 久 米 昭 光 *1 大 前 聡 彦 *2 Akimitsu KUME Toshihiko OHMAE ここ 数 年, 建 設 業 界 においては,BIM 化 への 動 きが 活 発 化 している 新 聞 雑 誌 等 では,BIM の 解 説 や 建 設 業 各 社 の 取 組 みなどが 頻 繁 に 紹 介 されるようになった ゼネコン 各 社 でもその 動 きは 顕 著 であり, BIM 指 定 物 件 など も 出 てきている BIM 指 定 物 件 とは,BIM 対 応 できる 業 者 のみが 参 加 できる 物 件 であり, 対 応 できない 業 者 は, 受 注 の 機 会 を 大 きく 失 うことにもなる また, 鉄 骨 ファブとしても, BIM を 活 かした 技 術 提 案 を 積 極 的 に 行 う 必 要 も 出 てきた 川 田 工 業 ( 以 下 当 社 )では,2009 年 から,BIM 対 応 CAD である Tekla Structures:Tekla 社 ( 以 下 テクラ)を 導 入 している 今 後, 受 注 物 件 の BIM 化 が 進 むと 予 想 されるなか, 当 社 での 取 り 組 みを 紹 介 する キーワード:BIM,3 次 元 モデル,3D モデル,3 次 元 CAD,3DCAD 1.BIM の 概 要 BIM(ビム)とは, ビルディング インフォメーショ ン モデル (Building Information Model)の 略 称 であ る 建 物 に 関 わるあらゆる 情 報 を,コンピュータ 内 の 3 次 元 モデル に 統 合 し,これを 一 種 の 建 物 データベース とし, 設 計 から 施 工, 維 持 管 理 に 至 るプロジェクト 全 体 で 有 効 利 用 しようというものである BIM は,2002 年 ごろから 欧 米 の 主 要 CAD ベンダが 具 体 的 な 提 唱 をはじめ,2005 年 の 米 国 建 築 家 協 会 (AIA) の 大 会 で 発 表 された その 後, 日 本 国 内 へもその 普 及 の 波 が 押 し 寄 せてきた 日 本 国 内 での 具 体 的 な BIM の 普 及 の 動 きとしては,2009 年 の 国 土 交 通 省 による BIM 導 入 宣 言 が 1 つの 大 きなきっかけとなったようである BIM のベースとなるのは,3 次 元 モデルの 中 の ソリッ ドモデル である このソリッドモデルに 部 材 情 報 や 製 品 情 報 等 を 持 たせ たものが,BIM データの 基 本 である 続 いて,テクラでの 具 体 的 な 画 面 を 提 示 しながら, 説 明 する テクラでは, 部 材 (モデル)1 つ 1 つが, 名 前,プロ ファイル( 断 面 サイズ), 材 質, 仕 上 げ 材 などの 情 報 を 持 っ ている 部 材 1 つ 1 つが, 部 材 情 報 や 製 品 情 報 を 持 っている 図 2 テクラの 部 材 情 報 製 品 情 報 図 1 BIM のベースであるソリッドモデル *1 川 田 工 業 鋼 構 造 事 業 部 技 術 統 括 部 栃 木 工 場 生 産 設 計 課 係 長 *2 川 田 工 業 鋼 構 造 事 業 部 技 術 統 括 部 栃 木 工 場 生 産 設 計 課 課 長 論 文 報 告 4-1
さらに, 建 物 の 製 作 にかかわる 各 工 程 の 情 報 を 追 加 す ることができ, 建 物 のライフサイクル 全 体 を 通 し, 情 報 を 共 有, 参 照 することができる このように,BIM は 単 なる 3 次 元 モデルということで はなく, 建 物 の 設 計 から 施 工, 維 持 管 理 にわたり,その 情 報 を 有 効 利 用 することが, 本 来 の 姿 であるといえる 例 ) 建 方 の 情 報 図 3 テクラの 各 工 程 の 情 報 例 図 6 BIM の 全 体 像 例 えば, 各 部 材 に 建 方 日 を 設 定 して, 鉄 骨 建 方 シミュ レーションとして 表 現 し, 現 場 作 業 での 共 通 認 識 を 得 る ことができる 図 4 鉄 骨 建 方 シミュレーションの 例 また, 建 物 の 完 成 後 も, 部 材 の,メーカ 名, 製 造 年 月 などの 情 報 をもとに, 建 物 の 維 持 管 理 などに 利 用 するこ とができる 例 えば,ウォークスルー 機 能 などで 建 物 内 を 擬 似 的 に 歩 き, 点 検 時 期 や 耐 用 年 数 が 近 づいた 部 材 を 確 認 する,などといった 作 業 を 行 うことができる 2. 鉄 骨 ファブとしての BIM モデルの 活 用 (1) 製 作 部 材 の 検 討 確 認 通 常, 客 先 から 受 領 する 鉄 骨 図 面 は, 一 般 的 な 伏 図, 軸 組 図 などの 図 面 である 形 状 が 複 雑 な 鉄 骨 であれ ばあるほど, 鉄 骨 どうしの 取 り 合 い, 継 手 の 配 置, 鉄 骨 どうしが 干 渉 する 場 合 の 対 処 など, 膨 大 な 協 議 時 間 が 必 要 となる 当 社 では, 形 状 が 複 雑 な 鉄 骨 である 場 合 は, あらかじめ 鉄 骨 BIM モデルを 作 成 し, 協 議 の 場 で 有 効 活 用 している 画 面 を 見 ながら, 対 象 部 材 を 拡 大 表 示 回 転 表 示 等 することにより, 伏 図 や 軸 組 図 ではわ かりづらい, 鉄 骨 の 形 状, 向 き, 他 の 鉄 骨 との 取 り 合 い や 干 渉 の 状 態,などがひとめで 確 認 でき, 協 議 時 間 の 大 幅 短 縮 を 実 現 している こ の よう な 形 状 が 複 雑 な 鉄 骨 の 場 合 に 活 用 している 写 真 1 客 先 協 議 での 活 用 例 図 5 建 物 の 維 持 管 理 の 例 論 文 報 告 4-2
(2) 使 用 鋼 材 の 発 注 鉄 骨 BIM モデルを 入 力 すると, 正 確 な 鋼 材 数 量 表 を 簡 単 に 出 力 できる EXCEL データ 等 にも 出 力 できるので, そのまま 鋼 材 発 注 のシステムに 引 き 渡 すことが 可 能 であ り, 正 確, 迅 速 な 鋼 材 の 発 注 が 行 える 鋼 材 数 量 表 の 出 力 3. BIM モデル 作 成 の 効 率 化 への 挑 戦 BIM モデル 作 成 を 効 率 的 に 行 う(できるだけ 早 く, 正 確 に 行 う)ことは 課 題 のひとつである CAD ベンダ (Tekla 社 )のトレーニングコースの 受 講 や,スタッフ 間 でのスキルアップミーティングを 行 うといった 取 り 組 みは, 常 に 行 っている このような 基 礎 的 な 手 法 に 加 え, 独 自 の 取 り 組 みも 行 っている テクラは 強 力 なカスタマ イズ 機 能 (Tekla Open API)を 有 しており,これを 利 用 したオリジナル 機 能 開 発 の 取 り 組 みを 紹 介 する 図 7 鋼 材 発 注 へ 鋼 材 数 量 表 (1) オリジナル 機 能 開 発 による 効 率 化 への 取 り 組 み その 1 テクラにおいて, 入 力 済 みの 部 材 (モデル)のリスト を 出 力 して,そのリスト 上 で 部 材 情 報 をチェックするこ とは 可 能 ではある しかし, 部 材 情 報 の 修 正, 変 更 を 行 うには, 基 本 的 には 対 象 となる 部 材 を 画 面 上 で 探 し 出 し, 1 つ 1 つをダブルクリックして 行 うしかなく, 手 間 がか かっていた (3) 製 作 資 料 提 案 資 料 の 作 成 客 先 から 受 領 した 詳 細 図 だけでは, 製 作 資 料 の 作 成 が 困 難 となる 場 合 がある この 例 では, 受 領 した 詳 細 図 だ けでは, 具 体 的 な 構 造 物 の 形 状 がイメージできず, 例 え ば, 部 材 どうしの 溶 接 面 がどのようになるのか,また, 輸 送 可 能 な 重 量 なのか,といった 検 討 が 困 難 となった あらかじめ 鉄 骨 BIM モデルを 作 成 することにより,こ れらの 検 討 をスムーズに 行 うことができた これにより 最 適 な 形 状 を 決 定 することができ, 製 作 資 料 を, 正 確, 迅 速 に 作 成 することができた また,そのつど 鋼 材 数 量 や 溶 接 量 などを 簡 単 に 算 出 できるため, 経 済 的 な 面 も 同 時 に 検 討 することができ, 客 先 には 最 適 な VE(Value Engineering) 提 案 をすることができた 1 つ 1 つ 部 材 をダブルクリックし, 情 報 を 修 正 するしかない 図 9 モデル 情 報 の 修 正, 変 更 の 様 子 そこで,エクセルシートと 連 動 し, 一 覧 で, 部 材 の チェックや 一 括 変 更 ができるオリジナル 機 能 (マクロメ ニュー)を 自 社 開 発 した 図 8 形 状 決 定 と VE 提 案 例 図 10 自 社 開 発 したエクセル 連 動 マクロメニュー 論 文 報 告 4-3
あらかじめチェック, 修 正 したい 部 材 を 選 択 し,メ ニューを 起 動 すると,EXCEL シートが 表 示 され,1 部 材 がセル 1 行 に 対 応 する 形 で 情 報 が 表 示 される 相 互 に, 部 材 のハイライト EXCEL のセル 選 択,ができるため, 部 材 配 置 位 置 と 部 材 情 報 を 同 時 に 確 認 できる 適 宜 並 べ 替 え ボタンを 押 すなどし, 一 覧 表 での 情 報 のチェッ クも 行 える 誤 った 情 報 が 入 力 されていた 場 合 は, EXCEL のセルを 修 正 して モデル 更 新 ボタンを 押 す と, 部 材 情 報 が 瞬 時 に 変 更 される これにより, 断 面 サ イズなどを 一 斉 に 変 更 するなど, 各 種 設 計 変 更 にも 迅 速 に 対 応 できる (2) オリジナル 機 能 開 発 による 効 率 化 への 取 り 組 み その 2 現 在, 図 11 のようなフランジ 拡 幅 梁 の 物 件 が 増 えて いる テクラの 標 準 メニューを 使 い,1 枚 1 枚 プレート を 作 図 するしかなく, 手 間 がかかっていた あとは, 始 点 終 点 を 指 示 すれば,フラ ンジ 拡 幅 梁 が 完 成 図 13 フランジ 拡 幅 梁 作 図 結 果 これらの 自 社 開 発 したオリジナル 機 能 (マクロメ ニュー)を 活 用 したことにより,モデル 入 力 効 率 を 上 げ ることに 成 功 している 4.BIM の 連 携 鉄 骨 ファブとして, どのように BIM モデルを 活 用 し ているか,また, いかに BIM モデルを 効 率 的 に 作 成 しているか について 述 べた しかし, 最 終 目 的 は, 完 成 した BIM モデルを 利 用 し, 建 物 の 設 計 から 施 工, 維 持 管 理 にわたり,その 情 報 を 有 効 に 活 用 することである ( 図 6 参 照 ) そのためには,ゼネコンはじめ 外 部 の 各 機 関 の 異 なったプラットフォーム 上 で, 正 しく BIM 情 報 のやりとりができること(BIM の 連 携 )がもっとも 重 要 である BIM の 連 携 が 実 現 した 例 を 紹 介 する (1) 例 1 ~ 鉄 骨 建 方 シミュレーション~ 図 11 フランジ 拡 幅 梁 これも,オリジナル 機 能 (マクロメニュー)を 作 成 す ることで, 効 率 的 に 作 成 できるようにした まず, この 画 面 で 形 状 を 入 力 図 14 鉄 骨 建 方 シミュレーションの 概 要 図 12 自 社 開 発 したフランジ 拡 幅 梁 作 図 メニュー 論 文 報 告 4-4
この 例 では,まず 当 社 はテクラを 使 用 し, 該 当 鉄 骨 の BIM モデル 入 力 を 行 った ゼネコン 側 は, 当 社 とは 異 な る BIM 対 応 CAD を 使 用 している 状 況 であった さらに それぞれの BIM 対 応 CAD には,ビューイング 専 用 ソフ トが 存 在 しており,これらのソフトにはスライドショー 機 能 (モデルを 固 定 の 視 点 から 見 た 画 面 を 複 数 設 定 し, それぞれを 滑 らかにつなげて 動 画 のように 表 現 する 機 能 )があるのが 確 認 された この 機 能 を 使 用 し, 相 互 に, 異 なる BIM 対 応 CAD で 鉄 骨 建 方 シミュレーションを 行 い,その 検 証 を 行 った 当 社 で は, ビューイング 専 用 ソフト(Tekla BIM Sight) 上 で,まず, 図 15 のようなスライド 画 面 を, 複 数 作 成 した 図 17 鉄 骨 建 方 シミュレーション 実 行 その 2 なお,ゼネコン 側 からは,ビューイング 専 用 ソフト 上 で 鉄 骨 建 方 シミュレーションを 行 うことができたとの 報 告 を 受 けた これにより, 異 なる BIM 対 応 CAD 上 で 正 しく 情 報 のやりとりができること,また, 異 なるビュー イング 専 用 ソフト 上 で 鉄 骨 建 方 シミュレーションを 行 え ることが 確 認 できた (2) 例 2 ~BIM データの 統 合 化 検 証 ~ この 例 では,ゼネコンにおいて, 当 社 で 作 成 した 鉄 骨 BIM モデルと, 他 の BIM モデルとの 統 合 化 検 証 が 行 わ れた( 図 18 参 照 ) BIM モデルの 統 合 が 可 能 であり, 干 渉 等 の 確 認 が 行 えることが 検 証 された( 図 19~21 参 照 ) 複 数 のスライド 図 15 スライド 画 面 例 そして,スライドショー 機 能 を 使 い, 鉄 骨 建 方 シミュ レーションを 行 うことができた ( 図 16, 図 17 は,シミュ レーション 実 行 中 の 画 面 をキャプチャしたものである) 川 田 工 業 鉄 骨 BIM 納 品 基 礎 躯 体 BIM 納 品 基 礎 工 事 業 者 図 18 ファブ エレベータ 鉄 骨 BIM 納 品 ゼネコン 配 管 BIM 納 品 設 備 業 者 BIM モデルの 統 合 化 検 証 灰 色 表 示 は 基 礎 躯 体 オレンジ 表 示 が 当 社 にて 作 成 した 鉄 骨 図 16 鉄 骨 建 方 シミュレーション 実 行 その 1 赤 色 表 示 は エレベータ 鉄 骨 配 管 図 19 ゼネコンでの 検 証 結 果 その 1 論 文 報 告 4-5
青 色 表 示 は 配 管 このような 干 渉 貫 通 箇 所 はあり 図 23 構 造 BIM データの 読 み 込 み 結 果 図 20 ゼネコンでの 検 証 結 果 その 2 干 渉 等 の 確 認 が できた 配 管 部 材 の 作 図 位 置 や, 断 面 サイズ, 色,などは,おおむ ね 表 現 できていることが 確 認 できた ただし, 部 材 の 作 図 位 置 はあくまでも 構 造 設 計 上 の 座 標 となっているため, 部 材 どうしが 干 渉 している 箇 所 や, 貫 通 している 箇 所 な どは 見 られた これらの 干 渉 箇 所 貫 通 箇 所 等 を 修 正 し,さらに 継 ぎ 手 ダイヤフラムなどを 追 加 し, 図 24 のような 鉄 骨 BIM モデルを 完 成 させることができた 図 21 ゼネコンでの 検 証 結 果 その 3 (3) 例 3 ~ 構 造 BIM データの 利 用 ~ この 例 では, 構 造 設 計 の 段 階 で 作 成 された BIM デー タ( 構 造 BIM データ)をあらかじめ 受 領 することがで きた この 構 造 BIM データをベースとして 読 み 込 み, 当 社 で 鉄 骨 BIM モデルを 完 成 させることができた 構 造 設 計 事 務 所 ゼネコン 図 24 完 成 した 鉄 骨 BIM モデル 5.まとめ かつて, 手 書 き 図 面 から CAD 図 面 へ 移 行 し,それがあ たり 前 となったように,BIM データで 設 計 図 を 受 領 する 時 代 がやってくる BIM データ テクラ + BIM データ オリジナル 機 能 構 造 BIM データ 川 田 工 業 鉄 骨 BIM データ 図 25 BIM データで 設 計 図 を 受 領 図 22 構 造 BIM データから 鉄 骨 BIM モデルを 作 成 受 領 した 構 造 BIM データは, 国 際 的 な 鋼 構 造 設 計 の 業 界 標 準 ファイル 形 式 である SDNF(Steel Detailing Neutral File) 形 式 であった 構 造 BIM データをテクラ で 読 み 込 んだところ, 図 23 のような 結 果 となった 当 社 では,BIM データの 連 携 に 対 応 し,またオリジナ ル 機 能 の 開 発 等 を 通 し, 効 率 よくモデルを 作 成 する 体 制 を 整 えつつある( 図 25 参 照 ) 今 後 も BIM 化 に 対 応 で きる 体 制 で 臨 んでいく 論 文 報 告 4-6