東アジアとキリスト教研究

東 アジアとキリスト 教 研 究 平 和 ナショナリズム 文 学 研 究 科 芦 名 定 道

概 要 はじめに 平 和 形 成 への 貢 献? ( 前 回 ) キリスト 教 とナショナリズム ( 今 回 ) むすび

はじめに(1) アジアのキリスト 教 1.アジアの 諸 地 域 とキリスト 教 の 多 様 性 西 アジア/ 中 央 アジア/ 南 アジア/ 東 南 アジア/ 東 アジア 2.アジア キリスト 教 の 共 通 性 近 代 初 頭 における 第 一 の 大 規 模 な 伝 播 ( 第 一 の 波 )と 19 世 紀 以 降 の 第 二 の 大 規 模 な 伝 播 ( 第 二 の 波 ) 近 代 化 の 過 程 とキリスト 教 布 教 との 関 連 3. 近 代 化 の 過 程 においてアジア キリスト 教 が 果 たした 二 面 的 な 意 味 西 欧 列 強 のアジア 支 配 の 正 当 化 / 近 代 化 への 貢 献 ( 教 育 医 療 人 権 など) 4. 近 代 日 本 における 近 代 化 政 策 5. 欧 米 の 近 代 キリスト 教 の 諸 問 題 がアジアのキリスト 教 にも 反 映 している 6.エキュメニズム( 教 会 一 致 運 動 )とアジア

はじめに(2) 中 国 のキリスト 教 20 世 紀 以 降 の 中 国 キリスト 教 史 を 理 解 する 上 で のポイント キリスト 教 の 容 認 と 国 家 との 関 係 性 ( 協 調 と 対 立 ) 三 自 愛 国 運 動 ( 自 治 自 養 自 伝 教 会 が 外 国 ミッションの 支 配 から 解 放 されて 自 ら 教 会 を 治 め 自 らの 経 済 において 立 ち 自 らの 力 に よって 伝 道 する )と 地 下 教 会 ( 家 の 教 会 ) ナショナリズムに 制 約 されたキリスト 教

はじめに(3) 世 界 キリスト 教 百 科 事 典 ( 第 2 版 ) (Oxford Univ. Press) 無 宗 教 民 俗 宗 教 無 神 論 仏 教 キリスト 教 1995 年 42.3% 28.7% 8.4% 8.3% 6.5% 2000 年 42.2% 28.5% 8.1% 8.4% 7.1% 2025 年 40.6% 28.6% 7.5% 8.5% 9.2%

はじめに(4) 日 中 韓 神 学 フォーラムの 成 果 を 参 照 しつつ 行 われるが このフォーラムの 概 要 は 次 の 通 りである 第 1 回 : 日 本 京 都 2006 年 11 月 24 日 ~25 日 民 族 主 義 を 超 えて 日 韓 の 和 解 のための アジア 神 学 の 模 索 第 2 回 : 韓 国 ソウル 2007 年 11 月 23 日 ~24 日 日 韓 両 国 のキリスト 教 受 容 第 3 回 : 日 本 京 都 2009 年 6 月 26 日 ~27 日 東 アジアにおける 宗 教 的 挑 戦 第 4 回 : 中 国 上 海 2011 年 5 月 13 日 ~14 日 アジアは 平 和 か? 現 代 アジアにおける 平 和 構 築 と 神 学 的 創 意 第 5 回 : 韓 国 ソウル 予 定 (2014 年 5 月 9 日 ~10 日 )

はじめに(5) < 参 考 文 献 > 1.David B.Barrett, George T.Kurian, Todd M.Johnson (eds.),world Christian Encyclopedia. A comparative survey of churches and religions in the modern world. Vol.1 second edition, Oxford University Press, 2001. 2. 日 本 基 督 教 団 出 版 局 編 アジア キリスト 教 の 歴 史 日 本 基 督 教 団 出 版 局 3. 丁 光 訓 ほか 中 国 のキリスト 者 はかく 信 ず 新 教 新 書 4.レイモンド フン 編 中 国 の 家 の 教 会 文 化 大 革 命 を 生 きぬいたキリスト 者 新 教 新 書

平 和 への 貢 献 (1) 日 中 韓 に 共 有 された 問 いの 一 つが 平 和 であ る 今 回 改 めて 平 和 という 問 題 から 議 論 を 始 めて 見 たい 平 和 とは 戦 争 がないということ を 超 えていかなる 積 極 的 な 意 味 を 有 しているの か また 平 和 形 成 には 何 が 必 要 か

平 和 への 貢 献 (2) 平 和 とは? エフェソの 信 徒 への 手 紙 2.14 キリストはわたしたちの 平 和 であります 二 つのものを 一 つにし 御 自 分 の 肉 において 敵 意 という 隔 ての 壁 を 取 り 壊 し 和 解 としての 平 和 日 本 は 平 和 か? キリスト 教 が 東 アジアの 平 和 に 貢 献 できるか は 敵 意 に 満 ちた 東 アジアの 現 実 に 対 して 和 解 の 実 現 への 道 を 示 しうるかにかかって いる

平 和 への 貢 献 (3) 従 軍 慰 安 婦 問 題 女 性 国 際 戦 犯 法 廷 (2000 年 12 月 東 京 )の 試 みにキリスト 教 はいかに 応 答 し てきたのか 国 際 戦 犯 法 廷 の 目 的 南 アフリカの 真 実 和 解 委 員 会 なぜ 法 廷 か 事 実 と 責 任 の 追 及 のため 和 解 は 事 実 の 解 明 と 責 任 の 確 定 を 前 提 とする

平 和 への 貢 献 (4) 丌 当 な 扱 いを 受 けた 人 の 立 場 にたつ 想 像 力 自 分 に 落 ち 度 があったために 悪 しき 運 命 を 招 いた のではないかという 自 己 否 定 の 思 いから 被 害 者 を 解 放 し 自 己 肯 定 を 可 能 にする 作 業 あな たが 悪 かったのではない 責 任 を 負 うべきは 別 の 所 に 存 在 する cf. 加 害 者 の 罪 の 赦 しに 対 する 被 害 者 の 恨 みか らの 解 放

平 和 への 貢 献 (5) キリスト 教 思 想 から 提 言 可 能 なこと 神 と 人 間 の 和 解 にとっての 十 字 架 の 意 義 事 実 と 責 任 を 明 確 化 は 和 解 の 前 提 となる と すれば この 点 を 東 アジアのキリスト 教 はキリス ト 教 思 想 として 強 く 主 張 する 課 題 を 有 しているの ではないか 東 アジアの 諸 民 族 が 和 解 するために 何 が 必 要 かを 明 らかにすることを 通 して 平 和 形 成 へ 寄 不 すること

平 和 への 貢 献 (6) < 参 考 文 献 > 1. 芦 名 定 道 東 アジアにおける 宗 教 的 寛 容 と 公 共 性 紀 平 英 作 編 グ ローバル 化 時 代 の 人 文 学 対 話 と 寛 容 の 知 を 求 めて 下 共 生 への 問 い ( 京 都 大 学 文 学 部 創 立 百 周 年 記 念 論 集 ) 京 都 大 学 学 術 出 版 会 2007 年 279-301 頁 2. 宮 田 光 雄 平 和 の 思 想 史 的 研 究 創 文 社 非 武 装 国 民 抵 抗 の 思 想 岩 波 新 書 日 本 の 政 治 宗 教 天 皇 制 とヤスクニ 朝 日 新 聞 社 3. 稲 垣 真 美 兵 役 を 拒 否 した 日 本 人 灯 台 社 の 戦 時 下 抵 抗 岩 波 新 書 4. 村 上 重 良 国 家 神 道 岩 波 新 書 5. 島 薗 進 国 家 神 道 と 日 本 人 岩 波 新 書 6. 小 熊 英 二 < 民 主 >と< 愛 国 > 戦 後 日 本 のナショナリズムと 公 共 性 新 曜 社 7. 高 橋 哲 哉 教 育 と 国 家 講 談 社 現 代 新 書 靖 国 問 題 ちくま 新 書 8.メディアの 危 機 を 訴 える 市 民 ネットワーク(メキキネット) 編 番 組 はなぜ 改 ざんされたか NHK ETV 事 件 の 深 層 一 葉 社 9.マルゲリート ハーマー 折 られた 花 日 本 軍 慰 安 婦 とされたオランダ 女 性 たちの 声 新 教 出 版 社

キリスト 教 とナショナリズム(1) 韓 国 :ナショナリズムの 担 い 手 としてのキリスト 教 日 本 :ナショナリズムと 距 離 を 置 く(あるいは 対 立 する)キリスト 教 中 国 : 日 韓 のいわば 中 間 ( 三 自 愛 国 教 会 と 地 下 教 会 ) 東 アジア 諸 国 家 の 対 立 要 因 がそれぞれのナショナ リズムの 動 向 に 規 定 されているとき キリスト 教 は それぞれのナショナリズムとどのように 向 き 合 うべ きか

キリスト 教 とナショナリズム(2) 日 本 キリスト 教 と 民 族 : 近 代 国 家 形 成 への 精 神 的 寄 不 国 家 への 批 判 的 視 点 が 希 薄 明 治 国 家 の 宗 教 政 策 : 近 代 国 家 の 形 態 + 天 皇 制 信 教 の 自 由 と 国 家 神 道 神 道 宗 教 論 宗 教 と 習 俗 との 関 係 をどの ように 理 解 すべきか

内 村 鑑 三 (1861-1930) 思 想 家 キリスト 教 伝 道 者 東 京 外 国 語 学 校 を 経 て 札 幌 農 学 校 クラーク の 残 した イエスを 信 ずる 者 の 契 約 ( 札 幌 バンド)に 署 名 M.C.ハリス から 受 洗 (1878) 卒 業 後 開 拓 使 に 就 職 札 幌 教 会 設 立 農 商 務 省 水 産 課 勤 務 84 年 アメリカへ 知 的 障 碍 児 養 育 院 で 働 く 85 年 アマースト 大 学 入 学 総 長 シーリーの 感 化 で< 回 心 >を 経 験 ハートフォード 大 学 入 学 中 退 88 年 帰 国 第 一 高 等 中 学 校 勤 務 91 年 丌 敬 事 件 退 職 貧 困 の 中 基 督 信 徒 の 慰 求 安 録 など 執 筆 万 朝 報 英 文 欄 記 者 東 京 独 立 雑 誌 主 筆 ジャーナリストとして 活 躍 1900 年 月 刊 誌 聖 書 之 研 究 を 創 刊 聖 書 研 究 会 を 開 始 無 教 会 主 義 を 唱 道 足 尾 鉱 毒 事 件 反 対 運 動 を 展 開 ロシア 開 戦 の 状 況 下 で 非 戦 論 を 唱 え 万 朝 報 社 を 退 社 第 一 次 世 界 大 戦 が 起 こり 近 代 文 明 を 批 判 し 再 臨 運 動 に 参 加 (1918-) 生 涯 のモットーとした2つのJ(JesusとJapan)でもわかるように 日 本 の 思 想 界 に 日 本 を 超 越 する 視 点 を 観 念 的 ではなく 血 肉 化 して 不 えた 影 響 は キリスト 教 界 にとどまらない ( 岩 波 キリスト 教 辞 典 より)

内 村 鑑 三 と 非 戦 論 (1) 内 村 鑑 三 の 二 つのJ(Jesus Japan) 愛 国 とは? 内 村 鑑 三 の 戦 争 論 : 義 戦 論 ( 日 清 戦 争 )から 非 戦 論 ( 日 露 戦 争 以 降 )へ 日 清 戦 争 = 義 戦 (1892 年 の 日 本 人 の 天 職 1894 年 の 日 清 戦 争 の 目 的 如 何 ) 日 本 の 世 界 史 的 使 命 = 欧 米 の 進 歩 的 文 明 をアジアに 紹 介 し それによって 保 守 的 な 東 洋 を 啓 蒙 すること 朝 鮮 の 内 政 に 干 渉 する 清 国 と 戦 い 清 国 を 啓 蒙 す るのが 日 本 の 使 命 である = 東 洋 の 近 代 化 を 時 代 の 要 請 と 考 え 明 治 政 府 の 近 代 化 路 線 (= 天 皇 制 国 家 の 形 成 )をキリスト 教 信 仰 に よって 精 神 的 に 補 完 するという 姿 勢

内 村 鑑 三 と 非 戦 論 (2) < 義 戦 >はほとんど 略 奪 戦 に 近 きものと 化 し その 戦 争 の< 正 義 >を 唱 えた 予 言 者 は 今 や 深 い 恥 辱 のうちにあります (アメリカの 友 人 ベル 宛 の 書 簡 ) 余 は 日 露 非 開 戦 論 者 であるばかりでない 戦 争 絶 対 的 廃 止 論 者 である 戦 争 は 人 を 殺 すことであ る そうした 人 を 殺 すことは 大 罪 悪 である そう した 大 罪 悪 を 犯 して 個 人 も 国 家 も 永 久 に 利 益 を 収 め 徔 ようはずはない ( 戦 争 廃 止 論 )

愛 国 (1) 国 家 の 繁 栄 とは 何 か 国 家 民 族 の 繁 栄 とは 何 か 戦 争 によって 何 を 守 る のか (Cf. 富 国 強 兵 ) 第 一 に 戦 敗 必 ずしも 丌 幸 にあらざる 事 を 教 えます 国 は 戦 争 に 負 けても 滅 びません 実 に 戦 争 に 勝 って 亡 びた 国 は 歴 史 上 決 して 少 くないのであります 国 の 興 亡 は 戦 争 の 勝 敗 に 因 りません 其 の 平 素 の 修 養 に 因 ります 善 き 宗 教 善 き 道 徳 善 き 精 神 ありて 国 は 戦 争 に 負 けても 衰 えません 否 な 其 の 正 反 対 が 事 実 であります 国 の 実 力 は 軍 隊 ではありま せん 軍 艦 ではありません 将 た 又 金 ではありませ ん 銀 ではありません 信 仰 であります ( デンマルク 国 の 話 岩 波 文 庫 )

愛 国 (2) 高 い 精 神 的 文 化 に 支 えられた 非 軍 事 的 小 国 とい う 理 想 愛 国 の 意 味 の 転 換 (= 民 族 愛 国 のメタファー 化 ) 政 府 国 家 が 間 違 った 方 向 に 進 むと き それを 批 判 するのが 愛 国 である 民 族 = 政 府 キリスト 教 = 非 愛 国 という 議 論 の 枠 組 みを 解 体 するという 戦 略 愛 国 の 脱 構 築

参 考 文 献 (1) 1. 芦 名 定 道 東 アジアにおける 宗 教 的 寛 容 と 公 共 性 紀 平 英 作 編 グローバル 化 時 代 の 人 文 学 対 話 と 寛 容 の 知 を 求 めて 下 共 生 への 問 い ( 京 都 大 学 文 学 部 創 立 百 周 年 記 念 論 集 ) 京 都 大 学 学 術 出 版 会 2007 年 279-301 頁 2. 宮 田 光 雄 平 和 の 思 想 史 的 研 究 創 文 社 非 武 装 国 民 抵 抗 の 思 想 岩 波 新 書 日 本 の 政 治 宗 教 天 皇 制 と ヤスクニ 朝 日 新 聞 社 3. 稲 垣 真 美 兵 役 を 拒 否 した 日 本 人 灯 台 社 の 戦 時 下 抵 抗 岩 波 新 書 4. 村 上 重 良 国 家 神 道 岩 波 新 書 5. 島 薗 進 国 家 神 道 と 日 本 人 岩 波 新 書

参 考 文 献 (2) 土 肥 昭 夫 日 本 プロテスタント キリスト 教 史 新 教 出 版 社 1980 年 関 根 正 雄 編 著 内 村 鑑 三 清 水 書 院 1967 年 内 村 鑑 三 全 集 内 村 鑑 三 著 作 集 岩 波 書 店 鈴 木 範 久 監 修 藤 田 豊 編 内 村 鑑 三 著 作 研 究 目 録 教 文 館 2003 年

参 考 文 献 (3) 塩 川 伸 明 民 族 とネイション ナショナリズム という 難 問 岩 波 新 書 2008 年 蓮 實 重 彦 山 内 昌 之 編 いま なぜ 民 族 か 東 京 大 学 出 版 会 1994 年 小 熊 英 二 単 一 民 族 神 話 の 起 源 < 日 本 人 >の 自 画 像 の 系 譜 新 曜 社 1995 年 小 坂 井 敏 晶 民 族 という 虚 構 東 京 大 学 出 版 会 2002 年 大 澤 真 幸 ナショナリズムの 由 来 講 談 社 2007 年