273 国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 中 橋 創 要 旨 本 稿 は 1994 年 から 2006 年 までの 13 年 間 の 都 道 府 県 別 データを 用 いて 国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 の 分 析 を 行 ったものである 代 替 行 動 とは 将 来 生 活 保 護 制 度 や 個 人 年 金 を 当 てにして 強 制 貯 蓄 である 年 金 保 険 料 の 支 払 いを 行 わないという 行 動 である この 分 析 結 果 から 国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 の 要 因 について 次 のことが 分 かった 1) 生 活 保 護 率 は 有 意 な 結 果 が 示 された これは 老 齢 基 礎 年 金 の 給 付 額 よりも 生 活 保 護 支 給 額 の 方 が 給 付 水 準 が 高 いため 生 活 保 護 を 選 択 する 人 が 増 えると 考 えられるためである 2) 個 人 年 金 保 有 契 約 率 は 有 意 な 結 果 が 示 されなかった 個 人 は 個 人 年 金 を 公 的 年 金 の 代 替 物 とは 考 えていないためである 3)2004 年 から 2005 年 に 国 民 年 金 未 納 率 が 低 下 した 要 因 は 若 年 者 納 付 猶 予 制 度 などの 導 入 により 全 額 納 付 者 の 割 合 が 減 少 したためである キーワード: 国 民 年 金 未 納 率 代 替 行 動 制 度 変 更 パネル 分 析 年 金 不 信 1.はじめに 日 本 の 社 会 保 障 制 度 は 主 として 社 会 保 険 公 的 扶 助 公 衆 衛 生 及 び 医 療 老 人 保 健 に 分 けること ができる 社 会 保 険 は 公 的 年 金 医 療 保 険 介 護 保 険 など 個 人 が 原 則 として 強 制 加 入 の 保 険 料 を 支 払 うシステムである 社 会 保 険 の 1つである 公 的 年 金 は 長 引 く 不 況 による 経 済 環 境 の 悪 化 などにより 未 納 率 の 上 昇 が 1) 深 刻 な 問 題 になっている 2008 年 度 の 国 民 年 金 保 険 料 の 納 付 率 は 前 年 度 の 63.9%から 62.1%と 過 去 最 低 の 記 録 となり 3 年 連 続 で 低 下 した 社 会 保 険 庁 国 民 年 金 の 加 入 納 付 状 況 (2008 年 版 ) によると 2007 年 に 納 付 率 が 高 かったものは 島 根 県 (77.6%) 新 潟 県 (76.0%) 秋 田 県 (76.0%)であり 納 付 率 が 低 かったものは 沖 縄 県 (42.8%) 東 京 都 (59.2%) 大 阪 府 (54.4%) である 1 位 の 島 根 県 と 47 位 の 沖 縄 県 の 格 差 が 34.8%と 前 年 度 よりさらに 3.8% 広 がった 両 県 は 2006 年 度 も 首 位 と 最 下 位 である また 2007 年 の 市 区 町 村 における 規 模 別 納 付 率 の 変 化 を 見 た 場 合 人 口 の 高 い 政 令 指 定 都 市 が 59.9% 東 京 23 区 が 58.4% その 他 の 市 が 65.0%で 町 村 で は 69.9%と 高 い 傾 向 が 見 られる 社 会 保 険 庁 は 2008 年 度 に 北 海 道 や 東 京 都 など 納 付 率 が 低 い 12
274 中 橋 創 地 域 を 強 化 地 域 に 指 定 し 強 制 徴 収 などの 対 策 を 徹 底 しているが これらの 地 域 は 2007 年 度 も 強 化 地 域 に 指 定 されており 対 策 の 効 果 はこれまでのところあまり 出 ていない また 公 的 扶 助 は 社 会 保 険 などではカバーできない 生 活 に 困 窮 する 人 々に 限 り 国 が 最 低 限 の 生 活 を 保 障 し 自 立 を 助 けるシステムである 生 活 保 護 は 憲 法 25 条 健 康 で 文 化 的 な 最 低 限 度 の 生 活 を 営 む 権 利 の 具 体 化 として 制 度 化 されたものである 生 活 保 護 を 受 けるためには ミーンズテストな どを 受 けなければならない 国 立 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 生 活 保 護 に 関 する 公 的 統 計 データ 一 覧 によると 生 活 保 護 世 帯 数 は 2005 年 以 降 100 万 世 帯 に 達 し 2008 年 まで 毎 年 3 万 世 帯 増 加 している 国 民 年 金 の 未 納 問 題 に 対 する 先 行 研 究 には 個 票 データを 用 いて 分 析 を 行 った 阿 部 (2001)があ り 厚 生 労 働 省 平 成 8 年 度 所 得 再 分 配 調 査 のデータを 用 いて 1999 年 の 国 民 年 金 免 除 制 度 の 改 正 が 未 加 入 未 納 率 と 国 民 年 金 保 険 料 の 逆 進 性 に 与 える 影 響 を 分 析 している その 結 果 保 険 料 率 は 未 加 入 と 未 納 の 決 定 要 因 は 構 造 的 に 異 なることを 示 し 保 険 料 率 は 未 加 入 にほとんど 影 響 を 与 えなかったが 未 納 に 関 しては 大 きな 影 響 があったことを 指 摘 した 都 道 府 県 別 データを 用 いて 分 析 を 行 ったものには 駒 村 (2001) 等 がある 駒 村 (2001)は 1991 年 から 1998 年 の 都 道 府 県 別 の 国 民 年 金 未 納 率 を 用 いて 計 量 分 析 を 行 ったものである 国 民 年 金 未 納 率 の 要 因 として 消 費 額 と 有 効 求 人 倍 率 は 有 意 にマイナスとなり 大 学 進 学 率 20 歳 代 前 半 人 口 比 は 有 意 にプラスの 影 響 を 与 えていることが 分 かった また 年 ダミーは 1997 年 1998 年 とプラスとなっており これらの 年 に 国 民 年 金 の 未 納 率 が 急 激 に 上 昇 していることが 分 かった また 丸 山 駒 村 (2005)では 1994 年 から 2002 年 までの 都 道 府 県 別 データと 1994 年 と 2001 年 の 市 区 町 村 データを 用 いて 就 業 形 態 の 多 様 化 と 失 業 者 が 未 納 に 陥 りやすいかどうかの 計 量 分 析 を 行 った ものである 都 道 府 県 別 データでは 非 典 型 労 働 や 失 業 の 拡 大 が 納 付 率 を 下 げる 効 果 を 持 ち 市 区 町 村 データでは 1994 年 度 のデータよりも 2001 年 度 のデータの 方 が 失 業 率 の 影 響 が 強 くなっている ことが 分 かった その 結 果 失 業 などの 経 済 環 境 の 変 化 に 制 度 が 対 応 できなくなっていることを 指 摘 した 国 民 年 金 の 未 加 入 未 納 問 題 と 生 活 保 護 に 関 する 先 行 研 究 には 菅 (2007) 等 がある 菅 (2007) は 公 的 年 金 制 度 に 関 する 意 識 調 査 を 用 いて 老 後 の 生 活 について 生 活 保 護 に 依 存 しようとする 生 活 保 護 モラルハザード 仮 説 について 分 析 を 行 ったものである 具 体 的 には 生 活 保 護 モラルハ ザードの 代 理 指 標 として あなたが 将 来 定 年 などで 仕 事 をやめたあとに 生 活 が 苦 しくなったらど うしますか との 質 問 に 対 して 生 活 保 護 モラルハザードの 意 図 があると 考 えられるのは 平 均 的 に 13%であるが 年 金 非 納 者 については 3 割 弱 にモラルハザードの 意 図 がある 可 能 性 を 指 摘 した ま た 年 金 保 険 料 を 支 払 っていないという 未 納 未 加 入 を 合 わせた 非 納 行 動 のうち 将 来 生 活 保 護 に 頼 れることを 当 てにしている 者 の 割 合 は 2 割 弱 であったことを 指 摘 した また 國 枝 (2008)は
国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 275 わが 国 の 制 度 的 問 題 点 として 生 活 保 護 給 付 の 水 準 が 国 民 年 金 受 給 額 より 高 いことを 指 摘 した 具 体 的 には 厚 生 労 働 白 書 (2008)によれば 高 齢 者 単 身 世 帯 (68 歳 )の 受 け 取 ることができる 生 活 保 護 受 給 額 は 東 京 都 区 部 等 で 80,820 円 地 方 郡 部 等 で 62,640 円 である さらに 上 記 額 に 加 えて 家 賃 医 療 費 等 の 実 費 相 当 が 必 要 に 応 じ 給 付 される それに 対 して 老 齢 基 礎 年 金 は 20 歳 から 60 歳 まで 40 年 間 保 険 料 を 納 めた 場 合 満 額 で 65 歳 から 受 け 取 ることができる 金 額 は 月 額 66,008 円 であ る すなわち 生 活 保 護 制 度 は 年 金 保 険 料 を 納 めなくても 生 活 が 困 窮 した 場 合 老 齢 基 礎 年 金 以 上 の 給 付 を 受 け 取 ることができる 社 会 保 障 のセーフティ ネットである 生 活 保 護 制 度 が 用 意 されている ため 生 活 保 護 制 度 を 代 替 行 動 として 選 択 することである 国 民 年 金 を 代 替 するものとして 個 人 年 金 を 取 り 上 げたものには 鈴 木 周 (2001)がある 鈴 木 周 (2001)は 郵 政 研 究 所 家 計 における 金 融 資 産 選 択 に 関 する 調 査 を 用 いて 国 民 年 金 の 未 加 入 者 の 要 因 分 析 を 行 ったものである 具 体 的 には 失 業 や 所 得 低 下 により 家 計 が 流 動 性 制 約 下 にあり 保 険 料 を 支 払 えずに 未 加 入 者 になる 流 動 性 制 約 要 因 健 康 状 態 が 悪 い 等 の 理 由 で 予 想 死 亡 年 齢 が 低 く 年 金 の 期 待 受 給 額 が 低 いことから 国 民 年 金 に 加 入 しないという 予 想 死 亡 年 齢 要 因 将 来 保 険 料 上 昇 や 受 取 額 低 下 が 見 込 まれる 中 で 特 に 若 い 世 代 で 国 民 年 金 が 見 合 わなくなり 加 入 を 拒 否 する という 世 代 間 不 公 平 要 因 の 3つを 国 民 年 金 未 加 入 の 要 因 として 挙 げている 鈴 木 周 (2001) では 3つの 要 因 のうち 予 想 死 亡 年 齢 要 因 と 世 代 間 不 公 平 要 因 の 2つを 逆 選 択 要 因 と 呼 んでいる その 結 果 は 国 民 年 金 に 個 人 年 金 との 逆 選 択 が 存 在 しており 年 齢 が 1 歳 減 少 するにし たがって 0.24%から 0.41% 上 昇 することが 指 摘 された 社 会 保 険 庁 国 民 年 金 被 保 険 者 実 態 調 査 (1999 2002) では 保 険 料 を 納 めなかった 理 由 において 国 民 年 金 をあてにしていない が 12.2%から 13.6%に 上 昇 しており 老 後 の 所 得 保 障 を 自 分 で という 考 え 方 が 働 いているため 個 人 年 金 を 代 替 行 動 として 選 択 することである 先 行 研 究 では 生 活 保 護 と 年 金 保 険 料 未 納 問 題 と 個 人 年 金 と 年 金 保 険 料 未 納 問 題 が 別 々に 扱 われていた 本 稿 の 目 的 は その 両 方 を 取 り 上 げて 都 道 府 県 別 データを 用 いて 代 替 行 動 についての 実 証 分 析 を 試 みたことである 代 替 行 動 とは 将 来 生 活 保 護 制 度 や 個 人 年 金 を 当 てにして 強 制 貯 蓄 である 年 金 保 険 料 の 支 払 いを 行 わないという 行 動 である また 駒 村 (2001) 丸 山 駒 村 (2005) が 年 度 ダミーを 用 いて 2002 年 度 までの 計 量 分 析 を 行 っているのに 対 して 本 稿 では 2006 年 度 まで データを 拡 張 したことである 2002 年 以 前 には 保 険 料 の 納 付 が 経 済 的 に 困 難 な 場 合 に 申 請 承 2) 認 により 保 険 料 が 免 除 される 申 請 免 除 や 障 害 年 金 の 受 給 者 等 法 律 で 定 められている 条 件 に 該 当 す れば 届 出 で 保 険 料 が 免 除 される 法 定 免 除 の 全 額 免 除 のみであった しかし 2002 年 度 には 申 請 免 除 の 半 額 免 除 制 度 が 導 入 された 半 額 免 除 制 度 は 所 得 額 に 応 じて 保 険 料 の 全 額 または 半 額 が 免 除 され ることになった さらに 2006 年 には 全 額 半 額 4 分 の 1 4 分 の 3の 4 段 階 による 多 段 階 免 除 制 度 が 導 入 された また 若 者 を 対 象 に 2005 年 に 若 年 者 納 付 猶 予 制 度 が 導 入 された これは 30 歳
276 中 橋 創 未 満 の 第 1 号 被 保 険 者 について 本 人 と 配 偶 者 が 一 定 所 得 以 下 のとき 申 請 承 認 により 保 険 料 が 猶 予 されるものである 3) なお 納 付 率 の 計 算 方 法 には 保 険 料 の 免 除 者 は 含 まれておらず 保 険 料 の 納 付 者 のみを 対 象 としているが 法 律 改 正 と 免 除 勧 奨 によって 全 額 納 付 者 の 割 合 が 減 少 した これら が 国 民 年 金 の 未 納 率 に 与 えた 制 度 効 果 を 見 るために 計 量 分 析 を 行 ったものである 2. 国 民 年 金 未 納 率 と 代 替 行 動 の 指 標 表 1は 年 齢 階 層 別 国 民 年 金 保 険 料 納 付 率 の 推 移 を 示 したものである 20 歳 から 24 歳 の 納 付 率 が 2005 年 に 大 きく 上 昇 した 理 由 は 2005 年 4 月 から 若 年 者 納 付 猶 予 制 度 が 創 設 されたため 納 付 対 象 者 が 減 少 したためである 湯 田 (2006)は 国 民 年 金 の 25 年 の 加 入 要 件 が 未 加 入 者 の 加 入 行 動 に 影 響 を 与 える 結 果 を 示 した そのため 加 入 期 間 が 25 年 に 満 たない 場 合 は 老 齢 基 礎 年 金 を 受 け る 権 利 を 得 られなくなるため 40 歳 代 は 他 の 年 齢 階 層 に 比 べて 納 付 率 が 高 いことが 示 された すべて の 年 齢 階 層 において 2005 年 をピークに 納 付 率 が 減 少 傾 向 にあることが 示 された 駒 村 (2000)は 年 齢 階 層 別 にみた 公 的 年 金 への 信 頼 度 を 調 べた その 結 果 あまり 信 頼 していな い と 信 頼 していない の 合 計 が 若 い 世 代 の 20 代 で 55% 30 代 で 43%になったのに 対 して 高 齢 層 は 60 代 で 9% 70 代 で 10%であった つまり 若 い 世 代 ほど 国 民 年 金 への 信 頼 度 が 低 いため 納 付 率 が 低 く 老 後 が 身 近 な 年 齢 になればなるほど 信 頼 度 が 高 くなるため 納 付 率 が 高 くなる 傾 向 が 見 られる 図 1は 国 民 年 金 未 納 率 の 代 替 行 動 の 指 標 として 1980 年 から 2006 年 までの 生 活 保 護 率 の 推 移 を 示 したものである 生 活 保 護 率 とは 人 口 1,000 人 あたりの 生 活 保 護 実 受 給 者 数 であり 1980 年 後 半 以 降 減 少 傾 向 を 示 しているが バブル 経 済 崩 壊 以 降 上 昇 傾 向 が 続 いており 2006 年 には 22.6 まで 推 移 している 2006 年 度 において 生 活 保 護 率 が 高 い 地 域 を 都 道 府 県 別 に 見 た 場 合 最 も 高 い 地 域 は 福 岡 県 (20.5 ) 北 海 道 (19.9 ) 沖 縄 県 (16.3 )である 最 も 低 い 低 域 は 富 山 県 (1.7 ) 岐 阜 県 (2.0 ) 福 井 県 (2.7 )である 1 位 の 福 岡 県 と 47 位 の 富 山 県 の 格 差 が 18.8 と 12 倍 の 地 域 格 差 がある 表 2は 世 帯 類 型 別 被 保 護 世 帯 数 の 年 次 推 移 を 示 したものである 2008 年 度 の 1ケ 月 平 均 の 被 保 護 世 帯 数 は 1,148,766 世 帯 で 前 年 度 に 比 べ 43,491 世 帯 ( 前 年 度 比 3.9%) 増 加 した 被 保 護 世 帯 数 を 世 帯 類 型 別 に 見 ると 高 齢 者 世 帯 が 523,840 世 帯 ( 前 年 度 比 5.3% 増 )で 最 も 多 く 次 いで 障 害 者 世 帯 傷 病 者 世 帯 で 407,095 世 帯 ( 前 年 度 比 1.5% 増 )となっている また 2008 年 度 の 生 活 保 護 受 給 者 の 内 訳 を 見 ると 89%が 高 齢 者 世 帯 障 害 者 世 帯 傷 病 者 世 帯 母 子 世 帯 である 図 2は 国 民 年 金 未 納 率 の 代 替 行 動 の 指 標 として 1994 年 から 2006 年 までの 年 金 型 商 品 と 個 人 年 金 保 険 の 世 帯 加 入 率 を 表 したものである 年 金 型 商 品 とは 民 間 保 険 の 個 人 年 金 保 険 変 額 個 人 年 金
国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 277 表 1 年 齢 階 層 別 国 民 年 金 保 険 料 納 付 率 の 推 移 ( 単 位 :%) 年 齢 階 層 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 20 歳 ~24 歳 48.6 49.6 57.8 56.2 53.2 25 歳 ~29 歳 50.2 50.2 55.5 54.2 51.5 30 歳 ~34 歳 54.1 55.2 57.9 57.6 55.8 35 歳 ~39 歳 57.2 57.5 60.1 60.1 58.9 40 歳 ~44 歳 65.0 64.0 65.2 63.6 61.1 45 歳 ~49 歳 69.0 68.8 70.4 69.2 66.7 50 歳 ~54 歳 72.6 72.0 73.6 72.5 70.1 55 歳 ~60 歳 79.8 79.2 80.5 79.3 76.9 全 体 63.4 63.6 67.1 66.3 63.9 ( 資 料 ) 社 会 保 険 庁 国 民 年 金 の 加 入 納 付 状 況 ( 各 年 版 ) ( 単 位 : ) 25 20 15 10 5 0 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 ( ) 図 1 生 活 保 護 率 の 推 移 ( 資 料 ) 国 立 社 会 保 障 研 究 所 生 活 保 護 に 関 する 公 的 統 計 データ 一 覧
278 中 橋 創 表 2 世 帯 類 型 別 被 保 護 世 帯 数 の 年 次 推 移 ( 単 位 : 人 ) 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 高 齢 者 世 帯 465,680 451,962 473,838 497,665 523,840 障 害 者 世 帯 傷 病 者 世 帯 349,844 389,818 397,357 401,088 407,095 母 子 世 帯 87,478 90,531 92,609 92,910 93,408 その 他 の 世 帯 94,148 107,259 109,847 111,282 121,570 総 数 998,887 1,041,508 1,075,820 1,105,275 1,148,766 ( 資 料 ) 国 立 社 会 保 障 研 究 所 生 活 保 護 に 関 する 公 的 統 計 データ 一 覧 ( 単 位 :%) 40 35 30 25 20 15 10 5 0 35.3 36.1 32.0 32.5 30.5 29.0 28.3 25.1 24.4 21.8 1994 1997 2000 2003 2006 図 2 年 金 型 商 品 と 個 人 年 金 保 険 の 世 帯 加 入 率 ( 資 料 ) 生 命 保 険 文 化 センター 生 命 保 険 に 関 する 全 国 実 態 調 査 (2006 年 版 ) 保 険 郵 便 局 の 年 金 保 険 JA 年 金 共 済 に 加 え 損 害 保 険 の 個 人 年 金 全 労 災 の 年 金 共 済 等 といった 個 人 年 金 型 商 品 の 総 称 であり 公 的 年 金 企 業 年 金 財 形 年 金 は 含 まれない 年 金 型 商 品 の 世 帯 加 入 率 は 1997 年 の 36.1%をピークに 2006 年 には 24.4%まで 減 少 した 個 人 年 金 保 険 とは 民 間 保 険 の 個 人 年 金 変 額 個 人 年 金 保 険 郵 便 局 の 年 金 保 険 JA 年 金 共 済 の 総 称 である ただし JA 年 金 共 済 は 年 金 型 の 貯 蓄 は 含 まれない 以 上 のように 国 民 年 金 未 納 率 と 代 替 行 動 の 指 標 として 生 活 保 護 率 は 1980 年 以 降 減 少 傾 向 を 示 しているが バブル 経 済 崩 壊 以 降 上 昇 傾 向 を 示 しており 個 人 年 金 は 個 人 年 金 保 険 世 帯 加 入 率 が
国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 279 1997 年 の 32.0%をピークに 2006 年 には 21.8%まで 減 少 したが 国 民 年 金 未 納 率 の 代 替 行 動 の 指 標 となることを 示 していると 考 えられる 次 節 では 1994 年 から 2006 年 までの 都 道 府 県 別 パネルデータを 用 いて 国 民 年 金 未 納 率 と 代 替 行 動 について 計 量 分 析 より 明 らかにする 3. 計 量 分 析 の 方 法 とデータ 本 節 では 実 証 分 析 の 手 法 として 1994 年 から 2006 年 までの 13 年 間 の 都 道 府 県 別 データを 用 い て 計 量 分 析 を 行 ったものである 先 行 研 究 との 違 いは 都 道 府 県 別 データでは 示 されてこなかった 国 民 年 金 未 納 率 の 代 替 行 動 として 生 活 保 護 率 と 個 人 年 金 保 有 契 約 率 を 新 たに 説 明 変 数 として 加 え 計 量 分 析 を 行 ったものである もう 1つは 駒 村 (2001) 丸 山 駒 村 (2005)を 踏 まえて サンプル 期 間 を 2006 年 度 まで 拡 張 して 2003 年 度 以 降 の 制 度 改 革 に 関 する 考 察 を 行 ったものである はじめに 推 計 に 使 用 する 理 論 式 は 先 行 研 究 の 駒 村 (2001) 丸 山 駒 村 (2005)を 参 考 にし て 以 下 の 2 通 りの 推 計 を 行 った 式 では 国 民 年 金 未 納 率 の 代 替 行 動 の 指 標 として 生 活 保 護 率 と 個 人 年 金 保 有 契 約 率 を 加 えて 推 計 を 行 ったものである 国 民 年 金 未 納 率 と 個 人 年 金 保 有 契 約 率 は 同 時 決 定 の 関 係 にあるため 個 人 年 金 保 有 契 約 率 を 説 明 変 数 に 加 えて 推 計 を 行 うと 同 時 決 定 バイアス がかかるため 個 人 年 金 保 有 契 約 率 のラグをとることでバイアスが 生 じていないことを 示 した また 式 では 式 から 個 人 年 金 保 有 契 約 率 が 有 意 にならなかったため 式 から 個 人 年 金 保 有 契 約 率 を 除 いた 推 計 を 行 ったものである it a b 1income it b 2hi h it b 3welfare it b 4pension it 1 t i it it a b 1income it b 2hi h it b 3welfare it t i it i 1,2, 47 t 1994,1995,,2006 ここで yは 国 民 年 金 未 納 率 incomeは 1 人 当 たり 県 民 所 得 highは 高 校 卒 業 無 業 者 率 welfare は 生 活 保 護 率 pensionは 個 人 年 金 保 有 契 約 率 である 下 付 の 文 字 iは 都 道 府 県 tは 時 間 aは 定 数 項 bはパラメータ は 時 間 効 果 は 固 定 効 果 は 誤 差 項 を 表 す まず 被 説 明 変 数 である 国 民 年 金 未 納 率 (y)は 駒 村 (2001)と 同 様 に(100%- 検 認 率 )を 未 納 率 として 採 用 し 社 会 保 険 庁 国 民 年 金 の 加 入 納 付 状 況 ( 各 年 版 ) にある 各 都 道 府 県 の 納 付 状 況 を 用 いた
280 中 橋 創 説 明 変 数 としては これまでの 先 行 研 究 で 採 用 された 1 人 当 たり 県 民 所 得 高 校 卒 業 無 業 者 率 に 新 たに 採 用 した 生 活 保 護 率 個 人 年 金 保 有 契 約 率 を 用 いた 1 人 当 たり 県 民 所 得 (income)は 県 民 経 済 計 算 年 報 ( 各 年 版 ) を 用 いた 1 人 当 たり 県 民 所 得 が 高 くなれば 経 済 的 余 裕 が 生 まれ 国 民 年 金 の 保 険 料 を 支 払 うことができると 考 え 採 用 した 1 人 当 たり 県 民 所 得 の 係 数 符 号 は マイナスと 予 想 される 高 校 卒 業 無 業 者 率 (high)は 無 業 者 数 を 高 校 卒 業 者 数 で 除 して 算 出 した 値 と 定 義 し 学 校 基 本 調 査 報 告 書 ( 各 年 版 ) を 用 いた 文 部 科 学 省 が 2000 年 に 高 校 卒 業 1 年 後 と 3 年 後 の 状 況 を 調 査 し た 結 果 卒 業 1 年 後 には 定 職 についている 者 が 25% アルバイト パートが 57% その 他 は 無 職 10% 在 学 中 進 学 準 備 5% 派 遣 業 他 3%である 卒 業 3 年 後 になると 定 職 についている 者 が 43% アルバイト パートが 39% その 他 は 無 職 11% 在 学 中 進 学 準 備 5% 派 遣 業 他 2% である 最 初 はアルバイト パートが 多 く 次 第 に 定 職 についているが 約 60%の 者 が 非 正 規 雇 用 や 無 職 のままである 4) 駒 村 (2001)で 述 べられているように 国 民 年 金 の 加 入 条 件 は 20 歳 からのた めすぐに 被 保 険 者 になるわけではないが 高 校 を 卒 業 してすぐに 無 業 者 になったものは 短 期 間 で 正 規 労 働 者 になる 者 は 少 なく 未 納 に 陥 りやすいため 採 用 した 高 校 卒 業 無 業 者 率 の 係 数 符 号 は プラスと 予 想 される 生 活 保 護 率 (welfare)は 生 活 保 護 実 受 給 者 率 を 人 口 千 人 で 除 して 算 出 した 値 と 定 義 し 社 会 福 祉 行 政 業 務 報 告 ( 各 年 版 ) を 用 いた 現 役 時 に 年 金 保 険 料 を 支 払 っていなくても 引 退 時 の 最 低 限 の 生 活 は 生 活 保 護 によって 保 障 される こうした 代 替 行 動 の 効 果 が 存 在 すれば 生 活 保 護 率 の 係 数 符 号 は プラスと 予 想 される なお この 生 活 保 護 率 の 係 数 解 釈 については 生 活 保 護 受 給 者 の 多 い 地 域 は 貧 困 者 が 多 い 地 域 であり その 結 果 保 険 料 が 払 えない 人 が 多 く それが 未 納 率 上 昇 に 繋 がっ たと 考 えられる ただし 本 稿 では そうした 地 域 の 経 済 状 況 は 1 人 当 たり 県 民 所 得 や 高 校 卒 業 無 業 者 率 で 別 途 コントロールされていると 考 えた 5) 個 人 年 金 保 有 契 約 率 (pension)は 個 人 年 金 保 有 者 数 を 人 口 で 除 して 算 出 した 値 と 定 義 し 生 命 保 険 統 計 号 ( 各 年 版 ) を 用 いた 個 人 年 金 とは 生 命 保 険 会 社 や 郵 便 局 などの 年 金 保 険 などと 任 意 に 契 約 を 締 結 し 保 険 料 を 支 払 って 将 来 の 必 要 なときに 個 人 年 金 を 受 け 取 る 形 態 の 保 険 のことであ る 個 人 年 金 が 公 的 年 金 を 代 替 している 可 能 性 があるため 採 用 した 個 人 年 金 保 有 契 約 率 の 係 数 符 号 は マイナスと 予 想 される 4. 計 量 分 析 の 結 果 表 3は 4つの 指 標 について 1994 年 から 2006 年 までの 47 都 道 府 県 のデータに 基 づく 基 本 統 計 量 を 計 算 したものである 国 民 年 金 未 納 率 の 最 小 値 は 1995 年 新 潟 県 の 5.2%であり 最 大 値 は 2002 年 沖 縄 県 の 61.3%である
国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 281 表 3 都 道 府 県 データ 記 述 統 計 量 国 民 年 金 未 納 率 1 人 当 たり 県 民 所 得 高 卒 無 業 者 率 生 活 保 護 率 個 人 年 金 保 有 契 約 率 標 本 数 611 611 611 611 611 最 小 値 5.200 1,789.000 1.134 1.100 2.863 中 央 値 23.400 2,789.000 6.457 5.900 9.877 最 大 値 61.300 4,820.000 30.070 20.500 29.612 平 均 値 23.520 2,798.005 7.237 6.900 10.024 標 準 偏 差 10.026 412.215 4.036 4.174 2.509 表 4 国 民 年 金 未 納 率 の 推 計 結 果 ( 固 定 効 果 モデル) 定 数 項 1 人 当 たり 県 民 所 得 高 卒 無 業 者 率 生 活 保 護 率 個 人 年 金 保 有 契 約 率 推 計 式 28.683 * (7.441) -0.002 (-1.293) -0.183* (-1.729) 0.309* (2.337) -0.071 (-0.607) 推 計 式 28.423 * (8.163) -0.002* (-1.846) -0.233* (-2.471) 0.389 * (3.187) R 2 0.945 0.945 F 統 計 量 27.103 27.446 P 値 0.000 0.000 Hausman 検 定 67.176 77.024 P 値 0.000 0.000 ( 注 ) * * *はそれぞれ 1% 5% 10% 水 準 で 有 意 であることを 示 す
282 中 橋 創 表 4は 国 民 年 金 未 納 率 のパネルデータによる 固 定 効 果 推 定 の 結 果 を 示 したものである モデル 選 択 のため F 検 定 Hausman 検 定 を 行 い すべてのモデルで 固 定 効 果 モデルが 選 択 された 推 計 式 の 固 定 効 果 モデルは 個 人 年 金 保 有 契 約 率 以 外 有 意 な 結 果 が 示 された 個 人 年 金 保 有 契 約 率 は 個 人 年 金 を 公 的 年 金 の 代 替 物 とは 考 えておらず 国 民 年 金 厚 生 年 金 共 済 年 金 といった 公 的 年 金 や 企 業 年 金 では 充 足 できない 部 分 を 老 後 の 生 活 のために 確 保 することを 示 していると 考 えられる 生 活 保 護 率 は 有 意 な 結 果 が 示 された これに 関 する 有 力 な 解 釈 の 1つは 老 齢 基 礎 年 金 の 給 付 額 よりも 生 活 保 護 支 給 額 の 方 が 給 付 水 準 が 高 い つまり 生 活 保 護 給 付 が 比 較 的 広 範 に 支 給 される 県 では 生 活 保 護 給 付 をあてにする 人 が 増 える 結 果 始 めから 生 活 保 護 を 選 択 する 人 が 増 えるという 代 替 行 動 の 存 在 である その 重 要 性 は 菅 (2007)や 國 枝 (2008)が 論 じたが 表 4の 結 果 はそれを 計 量 分 析 で 具 体 的 に 示 したものである 可 能 性 がある 生 活 保 護 率 が 高 い 地 域 は 経 済 的 に 困 窮 しており そ れが 未 納 に 繋 がったといったもうひとつの 係 数 解 釈 もありうる( 阿 部 2008)が そうした 地 域 の 経 済 状 況 は 先 にも 述 べたように 1 人 当 たり 県 民 所 得 や 高 校 卒 業 無 業 者 率 でコントロールされ ており ここでは 代 替 行 動 の 可 能 性 を 前 提 に 議 論 を 展 開 したい 推 計 式 の 固 定 効 果 モデルは すべての 説 明 変 数 で 有 意 な 結 果 が 示 された 以 上 で 示 した 結 果 は 生 活 保 護 給 付 と 国 民 年 金 給 付 の 関 係 に 関 する 改 革 の 方 向 性 を 指 し 示 す 可 能 性 を 秘 めている 例 えば 教 育 扶 助 住 宅 扶 助 医 療 扶 助 など 8つについての 扶 助 の 減 額 や 廃 止 あ るいは 2005 年 度 から 2006 年 度 にかけて 政 府 が 行 ってきた 高 齢 者 の 生 活 保 護 給 付 に 上 乗 せされてい た 老 齢 加 算 など 扶 助 や 加 算 の 減 額 や 廃 止 をさらに 推 し 進 め 国 民 年 金 と 同 じ 給 付 水 準 にすることが 求 められるだろう 図 3の 時 間 効 果 は 先 行 研 究 を 踏 まえてサンプル 期 間 を 2006 年 まで 伸 ばし 2003 年 度 以 降 の 制 度 改 革 に 関 する 考 察 を 行 ったものである 推 計 式 と は 同 じ 軌 跡 を 描 いており 1997 年 と 2002 年 に 未 納 率 が 上 昇 していることを 示 している 1997 年 度 の 上 昇 要 因 は 全 制 度 共 通 の 番 号 制 として 基 礎 年 金 番 号 が 導 入 され 20 歳 到 達 者 に 年 金 手 帳 を 送 付 して 職 権 で 適 用 することにより 未 加 入 者 の 多 くを 未 納 者 としたことである 丸 山 駒 村 (2005)で 述 べられているように 2002 年 は 地 方 分 権 一 括 法 により 保 険 料 収 納 事 務 が 市 町 村 単 位 から 国 単 位 に 移 管 されたことによって 地 域 の 組 織 を 活 用 しなくなったためである もう 1つは 国 民 年 金 保 険 料 免 除 基 準 が 改 正 され 基 準 が 厳 しくなったこ とにより 未 納 率 が 大 幅 に 上 昇 したことである これは 2002 年 度 からの 免 除 基 準 を 前 年 度 所 得 基 準 に 一 本 化 するとともに 保 険 料 の 半 額 免 除 制 度 が 導 入 され 保 険 料 納 付 義 務 者 が 拡 大 したため 未 納 者 が 増 加 したのである 先 行 研 究 では 2002 年 までが 分 析 対 象 であった 本 稿 では その 後 の 国 民 年 金 未 納 率 の 上 昇 要 因 を 分 析 した 結 果 2004 年 から 2005 年 に 国 民 年 金 未 納 率 が 低 下 したことを 示 している これは 法 律 改 正 と 免 除 勧 奨 による 分 母 対 策 である つまり 若 年 者 納 付 猶 予 制 度 などの 導 入 により 全 額 納 付
国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 283 15 10 5 0-5 (1) (2) -10-15 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 図 3 時 間 効 果 者 の 割 合 が 減 少 したためである 社 会 保 険 庁 国 民 年 金 の 加 入 納 付 状 況 (2006) によれば 第 1 号 被 保 険 者 の 人 口 構 成 の 変 化 による 影 響 が 約 0.2% 上 昇 したことが 挙 げられる これは 納 付 率 が 低 い 若 年 層 が 減 少 し 納 付 率 が 高 い 50 歳 台 後 半 層 が 増 加 したためである そのほかに 若 年 者 納 付 猶 予 制 度 の 導 入 による 影 響 が 約 1.1% 上 昇 申 請 免 除 学 生 納 付 特 例 の 承 認 期 間 の 訴 求 期 間 に よる 影 響 が 約 0.7% 上 昇 保 険 料 の 納 付 が 困 難 なものに 対 する 免 除 勧 奨 による 影 響 が 約 1.5% 上 昇 しており 合 計 で 約 3.5% 上 昇 したためである また 被 保 険 者 の 雇 用 形 態 つまり 景 気 の 低 迷 などに より 正 規 労 働 者 の 数 が 減 少 し 非 典 型 労 働 者 の 数 が 増 加 したため 厚 生 年 金 の 被 保 険 者 から 離 職 した 者 や その 配 偶 者 である 第 3 号 被 保 険 者 が 国 民 年 金 の 第 1 号 被 保 険 者 にシフトし これら 移 行 者 の 納 付 状 況 が 低 水 準 であることが 一 因 であると 考 えられる 5. 結 論 本 稿 では 1994 年 から 2006 年 までの 13 年 間 の 都 道 府 県 別 データを 用 いて 国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 の 分 析 を 行 ったものである その 結 果 次 のような 政 策 的 含 意 を 挙 げることができる 生 活 保 護 率 の 係 数 は 有 意 な 結 果 が 示 さ れた これは 老 齢 基 礎 年 金 の 給 付 額 よりも 生 活 保 護 支 給 額 の 方 が 給 付 水 準 が 高 いため 始 めから 生 活 保 護 を 選 択 する 人 が 増 えることを 示 しているため 代 替 行 動 の 指 標 になると 考 えられる もう 1つ は 生 活 保 護 率 が 代 替 行 動 を 表 す 指 標 ではないことである つまり 生 活 保 護 が 増 えたことは 単 に
284 中 橋 創 その 都 道 府 県 の 経 済 などが 停 滞 していることを 意 味 しており その 結 果 年 金 保 険 料 を 支 払 う 余 裕 の ない 人 が 増 えたことが 未 納 率 を 高 めたと 考 えることができるためである 個 人 年 金 保 有 契 約 率 の 係 数 は 有 意 な 結 果 が 示 されなかった これは 個 人 年 金 を 公 的 年 金 の 代 替 物 とは 考 えておらず 国 民 年 金 厚 生 年 金 共 済 年 金 といった 公 的 年 金 や 企 業 年 金 では 充 足 できない 部 分 を 老 後 の 生 活 のために 確 保 するためのものであるため 代 替 行 動 の 指 標 にならないと 考 えられる 以 上 のように 生 活 保 護 制 度 が 代 替 行 動 を 表 す 指 標 であるならば 扶 助 の 減 額 や 廃 止 あるいは 老 齢 加 算 や 母 子 加 算 など 扶 助 や 加 算 の 減 額 や 廃 止 をさらに 推 し 進 めて 国 民 年 金 と 同 じ 給 付 水 準 にす ることが 求 められるだろう 時 間 効 果 に 関 しては 2004 年 から 2005 年 にかけて 国 民 年 金 未 納 率 が 低 下 したことを 示 してい る これは 法 律 改 正 と 免 除 勧 奨 による 分 母 対 策 である つまり 若 年 者 納 付 猶 予 制 度 などの 導 入 によ り 全 額 納 付 者 の 割 合 が 減 少 したためである その 他 制 度 要 因 以 外 にも 年 齢 構 成 や 就 業 構 造 の 変 化 によって 自 営 業 者 などの 人 たちの 高 齢 化 が 進 む 一 方 有 効 求 人 倍 率 の 低 下 フリーターやパートタイマーなどの 非 典 型 雇 用 者 の 増 加 などにより 厚 生 年 金 ではなく 国 民 年 金 へシフトし 若 い 世 代 の 就 業 者 等 が 増 加 したと 考 えられる しかし 本 稿 には 以 下 のような 残 された 課 題 がある 1つは 都 道 府 県 の 生 活 保 護 率 を 説 明 変 数 に 入 れて 計 量 分 析 を 行 い その 係 数 が 有 意 に 正 となるこ とをもって 生 活 保 護 給 付 の 存 在 が 年 金 未 納 問 題 を 引 き 起 こしていると 述 べたが 別 の 説 明 変 数 とし て 実 質 化 した 生 活 保 護 受 給 額 であれば 年 金 給 付 に 比 べ 生 活 保 護 が 相 対 的 に 充 実 していることを 意 味 しているため 国 民 年 金 未 納 率 の 説 明 変 数 と 考 えられる もう 1つは 国 民 年 金 未 納 と 代 替 行 動 の 分 析 を 行 うために 1994 年 から 2006 年 までのデータを 用 いたが このデータでは 時 系 列 が 13 年 間 と 短 いためバブル 崩 壊 前 などの 好 景 気 の 未 納 の 代 替 行 動 の 分 析 には 対 応 していないことである そのため 長 期 のデータを 用 いた 時 系 列 分 析 を 行 うことによって 未 納 の 代 替 行 動 の 分 析 を 行 う 必 要 がある ( 謝 辞 ) 投 稿 にあたって 2 名 の 匿 名 査 読 者 から 有 益 なコメントをいただいた 記 してここに 感 謝 申 し 上 げたい ( 注 ) 1) 社 会 保 険 庁 は 2002 年 度 より 検 認 率 から 納 付 率 へと 用 語 を 変 更 している 納 付 率 (%)は 当 該 年 度 分 の 保 険 料 として 納 付 すべき 月 数 ( 全 額 免 除 月 数 学 生 納 付 特 例 月 数 および 若 年 者 納 付 猶 予 月 数 を 含 まな い)のうち 当 該 年 度 中 ( 翌 年 度 4 月 末 まで)に 実 際 に 納 付 された 月 数 の 割 合 である 2) 本 人 が 低 所 得 でも 世 帯 主 等 の 所 得 が 一 定 水 準 以 上 であれば 免 除 されない 3)ただし 2015 年 までの 時 限 立 法 である
国 民 年 金 の 未 納 と 代 替 行 動 285 4) 小 杉 (2003 56 頁 )を 参 照 した 5) 個 人 年 金 保 有 者 数 は 国 内 会 社 ( 明 治 安 田 生 命 大 同 生 命 保 険 第 一 生 命 保 険 富 国 生 命 保 険 など)と 外 国 会 社 (アリコジャパン アメリカンファミリー 生 命 保 険 会 社 チューリッヒ 生 命 カーディフ 生 命 保 険 )を 合 計 したもの ( 文 献 ) 阿 部 彩 (2001) 国 民 年 金 の 保 険 料 免 除 制 度 改 正 : 未 加 入 未 納 率 と 逆 進 性 への 影 響 日 本 経 済 研 究 No.43 pp.134 154 阿 部 彩 (2008) 国 民 年 金 の 未 加 入 未 納 問 題 と 生 活 保 護 生 活 保 護 の 経 済 分 析 東 京 大 学 出 版 会 pp.115 145 國 枝 繁 樹 (2008) 公 的 扶 助 の 経 済 理 論 Ⅱ: 公 的 扶 助 と 公 的 年 金 生 活 保 護 の 経 済 分 析 東 京 大 学 出 版 会 pp.81 111 小 杉 礼 子 (2003) フリーターという 生 き 方 勁 草 書 房 菅 桂 太 (2007) 年 金 未 加 入 と 生 活 保 護 モラルハザードに 関 する 実 証 研 究 NIRA 報 告 書 年 金 制 度 と 個 人 のオーナーシップ 総 合 研 究 開 発 機 構 pp.54 78 駒 村 康 平 (2000) 年 金 と 家 計 の 経 済 分 析 東 洋 経 済 新 報 社 駒 村 康 平 (2001) 社 会 保 険 料 未 納 の 実 証 分 析 丸 尾 直 美 益 村 眞 知 子 吉 田 雅 彦 飯 島 大 邦 ポスト 福 祉 国 家 の 総 合 政 策 ミネルヴァ 出 版 会 鈴 木 亘 周 燕 飛 (2001) 国 民 年 金 未 加 入 者 の 経 済 分 析 日 本 経 済 研 究 No.42 pp.44 60 丸 山 桂 駒 村 康 平 (2005) 国 民 年 金 の 空 洞 化 問 題 と 年 金 制 度 のありかた 城 戸 喜 子 駒 村 康 平 社 会 保 障 制 度 の 新 たな 制 度 設 計 慶 應 義 塾 大 学 出 版 会 pp.223 250 湯 田 道 生 (2006) 国 民 年 金 国 民 健 康 保 険 未 加 入 者 の 計 量 分 析 経 済 研 究 No.57 No.4 pp.344 357 ( 統 計 資 料 ) 厚 生 労 働 省 社 会 福 祉 行 政 業 務 報 告 ( 各 年 版 ) 職 業 安 定 業 務 統 計 ( 各 年 版 ) 労 働 統 計 年 報 ( 各 年 版 ) 厚 生 労 働 省 (2008) 厚 生 労 働 白 書 国 立 社 会 保 障 研 究 所 生 活 保 護 に 関 する 公 的 統 計 データ 一 覧 社 会 保 険 庁 国 民 年 金 の 加 入 納 付 状 況 ( 各 年 版 ) 社 会 保 険 事 業 の 概 況 ( 各 年 版 ) 公 的 年 金 加 入 状 況 等 調 査 (2001 年 2004 年 ) 生 命 保 険 文 化 センター 生 命 保 険 に 関 する 全 国 実 態 調 査 (2006 年 版 ) 内 閣 府 県 民 経 済 計 算 年 報 ( 各 年 版 ) 保 険 研 究 所 インシュアランス. 生 命 保 険 統 計 号 ( 各 年 版 ) 文 部 科 学 省 学 校 基 本 調 査 報 告 書 ( 各 年 版 )
286 中 橋 創 Unpaidandsubstitutionbehavior innationalpension SouNAKAHASHI Abstract Thispaper,usingadministrativedivisionsdatafrom1996to2006,analyzedunpaidnational pensionandit ssubstitutionbehavior.substitutionbehaviormeansthatpeopledonotpayinsurancepremium relyinguponthelivelihoodassistanceorindividualpensioninthefuture.the mainresultsofthispaperareasfolows:1)abouttherateoflivelihoodassistance,significantresultswereindicated.thisisbecauseanalowanceoflivelihoodassistanceishigherthanthatof retirementpension.therefore,thosepeoplewilincreasewhochooselivelihoodassistance.2) Abouttheindividualpensionplan,significantresultswerenotindicated.Thereasonisthatthe peopledonotconsidertheindividualpensionasasubstituteforthepublicpensionandthecorporatepension.3)unpaidrateofnationalpensiondecreasedfrom 2004to2005.Thereasonis thatthosehavedecreasedwhopaybytotalamountduetotheintroductionoftheyouthfulpaymentdelaysystem. Keywords:unpaidrateofnationalpension,substitutionaction,changeofsystem, panelanalysis,distrustofpension