P P 熊 本 県 農 業 研 究 センター 研 究 報 告 第 21 号 早 生 カンキツ 熊 本 EC10 の 特 性 Characteristic of Early Citrus Cultivar KumamotoEC10 北 村 光 康 榊 英 雄 坂 西 英 * ** *** *** 藤 田 賢 輔 北 園 邦 弥 福 永 悠 介 満 田 實 磯 部 暁 Mitsuyasu KITAMURA,Hideo SAKAKI,Masaru SAKANISHI,Kensuke FUJITA,Kuniya KITAZONO,Yusuke FUKUNAGA, Minoru MITSUTA and Akira ISOBE 要 約 熊 本 EC10 は, 熊 本 県 農 業 研 究 センター 果 樹 研 究 所 において,1994 年 に ありあけ を 種 子 親 に はるみ を 花 粉 親 にして 育 成 した 早 生 カンキツ 品 種 である.2012 年 10 月 23 日 付 で 種 苗 法 に 基 づき 第 22041 号 として 品 種 登 録 された. 熊 本 EC10 は, 樹 勢 はやや 弱 く, 樹 姿 は 直 立 性 と 開 張 性 の 中 間 である. 枝 梢 の 太 さと 長 さは 中 位 で 密 生 し, 節 間 は 長 い. 葉 は 小 さく 卵 形 で 翼 葉 がある. 花 は 単 生 し 葯 は 健 全 で 花 粉 量 は 中 位 である. 結 実 性 は 良 好 である.かいよう 病 にはやや 罹 病 性 である. 果 実 は 短 卵 形 で 200g 程 度 である. 果 皮 は 濃 橙 色 で 果 面 は 滑 らか, 果 皮 は 薄 く, 剥 皮 性 は 中 位 である. 浮 き 皮 の 発 生 はほとんどない. 果 肉 は 濃 橙 色 で, 果 汁 量 は 多 い.じょうのう 膜 は 薄 くて 軟 らかいの で 食 べやすい. 果 汁 の 糖 度 は 13 程 度 で 甘 味 が 強 く, 食 味 は 良 好 である. 果 皮 の 完 全 着 色 期 は 11 月 中 旬, 成 熟 期 は 12 月 上 旬 で 年 内 に 収 穫, 出 荷 が 可 能 である. 含 核 数 は 少 なく,ほとんどが 無 核 果 で, 種 子 は 単 胚 性 である.かいよう 病 にやや 弱 く, 肥 大 後 期 の 降 雨 により 裂 果 が 発 生 するので, 安 定 生 産 のためには, 施 設 に 導 入 する 必 要 がある. キーワード:カンキツ, 新 品 種, 交 雑 実 生, 品 種 改 良 Ⅰ 緒 言 熊 本 県 におけるカンキツ 類 は, 現 在 (2011 年 ), 栽 培 面 積 6,608ha, 生 産 量 129,079tで, 県 北 地 域 ではウンシ ュウミカン, 県 南 地 域 では 中 晩 生 カンキツが 主 に 栽 培 さ れている 2).これまで 当 研 究 所 では,ウンシュウミカン の 珠 心 胚 実 生 系 統 の 育 成 に 力 を 入 れ,9 月 に 出 荷 される 肥 のあかり から 12 月 に 出 荷 される 白 川 まで 熊 本 県 オリジナル 品 種 の 出 荷 体 制 を 確 立 し, 市 場 でも 高 い 評 価 を 受 けている. 中 晩 生 カンキツは, 全 国 1 位 の 生 産 量 を 誇 る 不 知 火 3) を 主 体 に, 川 野 なつだいだい,ポ ンカン, カワチバンカン, オオタチバナ, バンペイ ユ など 多 種 多 様 の 品 種 が 栽 培 されているが,そのほと んどは1 月 以 降 の 出 荷 である.カンキツ 類 の 最 需 要 期 は, 贈 答 品 としての 取 り 扱 いも 増 える 12 月 であるが,その 時 期 に 本 県 で 出 荷 されるカンキツは,ウンシュウミカンが ほとんどであり, 中 晩 生 カンキツは 加 温 施 設 栽 培 の 不 知 火 や 露 地 ポンカンなど 僅 かな 程 度 である.ウンシュ ウミカン 以 外 で 12 月 に 出 荷 できる 早 生 カンキツは, は れひめ 10), ありあけ 9), べにばえ 8), 津 之 望 12) などが 独 立 行 政 法 人 農 研 機 構 果 樹 研 究 所 で, 愛 媛 果 試 第 28 号 7) が 愛 媛 県, 大 分 果 研 4 号 6) が 大 分 県 で 育 成 さ れている.しかし, はれひめ, ありあけ, べにばえ, 津 之 望 などは, 本 県 では 不 知 火 や 肥 の 豊 に 比 べて, 高 品 質 果 実 が 安 定 して 生 産 できにくく, 産 地 へ の 導 入 が 進 んでいない.また, 愛 媛 果 試 第 28 号, 大 分 果 研 4 号 は, 育 成 した 県 内 のみに 許 諾 されているた め, 本 県 で 栽 培 できない 状 況 にある. しかしながら, 県 南 地 域 の 中 晩 生 カンキツ 主 体 の 産 地 では, 高 品 質 なウンシュウミカンが 生 産 されにくい 栽 培 環 境 条 件 にあり, 労 力 分 散 と 収 益 拡 大 を 図 るため 年 内 か ら 出 荷 できる 高 品 質 な 早 生 カンキツの 育 成 が 望 まれてい る. そこで, 年 内 に 収 穫, 出 荷 でき, 高 品 質 で 食 味 が 良 い 早 生 カンキツを 育 成 したので,その 育 成 経 過 と 特 性 の 概 要 を 報 告 する. Ⅱ 育 成 経 過 1994 年 5 月, 熊 本 県 農 業 研 究 センター 果 樹 研 究 所 にお いて, 年 内 に 成 熟 する 高 品 質 なカンキツ 品 種 の 育 成 を 目 指 し, ありあけ を 種 子 親 とし, はるみ 11) を 花 粉 親 にして 交 配 を 行 った( 第 1 図 ). 種 子 親 の ありあけ は, 清 家 ネーブル に クレメンティン を 交 配 して 育 成 された 品 種 で,12 月 中 下 旬 に 成 熟 するオレンジタイプの 早 生 カンキツである. 果 実 は 170g 程 度 で, 糖 度 は 12~ 13, 酸 濃 度 は 0.8~0.9%であり,じょうのう 膜 は 薄 く, 苦 みがなく 食 味 は 良 好 である. 花 粉 親 の はるみ は, * : 県 南 広 域 本 部 芦 北 地 域 振 興 局 農 業 普 及 振 興 課 ** : 農 林 水 産 部 生 産 局 農 業 技 術 課 *** : 元 農 業 研 究 センター 果 樹 研 究 所 -42-
清 見 に F-2432 ポンカンを 交 配 して 育 成 された 品 種 で, 剥 皮 が 容 易 でじょうのう 膜 が 薄 くて 食 べやすく, 高 糖 度 で 食 味 が 良 い. 果 実 は 200g 程 度, 糖 度 は 13 程 度 で 甘 味 が 強 く 食 味 良 好 で,じょうのう 膜 は 薄 く 軟 らかい ので 食 べやすい. 同 (1994) 年 11 月 に 得 られた 種 子 を 保 湿 した 容 器 内 に 播 種 し,28 に 設 定 した 暗 黒 条 件 下 の 恒 温 室 内 で 発 根 さ せた. 発 根 した 種 子 は,バーミキュライトとピートモス の 混 合 培 養 土 を 入 れたポットに 植 え 付 け,28 に 設 定 し た 恒 温 室 内 で 育 成 した. 1995 年 5 月 に US ポット(12cm)に 植 え 替 えし, 無 加 温 ガラス 室 内 で 実 生 の 生 育 促 進 を 図 った 後,1997 年 9 月 に 実 生 から 穂 木 を 採 取 しウンシュウミカンを 中 間 台 木 と して 10 月 に 高 接 ぎ( 腹 接 ぎ)を 行 った. 翌 春 の4 月 に 接 ぎ 木 部 上 の 枝 葉 をせん 除 し, 穂 木 の 発 芽 伸 長 を 促 した. その 後, 支 柱 に 誘 引 しながら3m 位 まで 伸 長 させた 後, 着 花, 結 実 促 進 のため, 下 垂 誘 引 を 行 った. 2000 年 に 初 結 実 し, 果 実 特 性 調 査 を 開 始 した.その 結 果, 年 内 に 成 熟 し, 高 品 質 の 果 実 が 得 られたことから, 2005 年 に AH114 の 系 統 名 で 第 一 次 選 抜 を 行 い,2006 年 から 県 下 の 中 晩 生 カンキツ 産 地 3ヵ 所 で 現 地 適 応 性 試 験 を 開 始 した. 2009 年 までの 試 験 結 果 から, 年 内 に 成 熟 し, 高 品 質 で 食 味 が 良 い 系 統 であることが 明 らかになり,2010 年 6 月 品 種 登 録 申 請 を 行 い,2012 年 10 月 23 日 付 けで 種 苗 法 に 基 づき 品 種 登 録 された. 登 録 番 号 は 第 22041 号 である. 清 家 ネーブル クレメンティン ありあけ 熊 本 EC10 宮 川 早 生 トロビタオレンジ 清 見 F-2432 ポンカン はるみ 第 1 図 熊 本 EC10 の 系 統 図 Ⅲ 特 性 の 概 要 1. 樹 体 特 性 樹 体 の 特 性 について 本 県 育 成 品 種 である 肥 の 豊 5) と の 比 較 を 第 1 表 に 示 した. 樹 勢 はやや 弱 く, 樹 姿 は 直 立 と 開 張 の 中 間 である. 枝 梢 の 太 さと 長 さは 中 位 で 肥 の 豊 より 細 くて 短 く 密 生 する. 節 間 の 長 さは 中 程 度 で 肥 の 豊 より 短 い.とげの 発 生 はほとんどみられない. 葉 身 はやや 小 さく 卵 形 で, 肥 の 豊 より 小 さい. 翼 葉 の 形 は 紡 錘 形 で 葉 柄 は 太 くて 短 い.かいよう 病 にやや 罹 病 性 である. 2. 花 の 特 性 花 の 特 性 を 第 2 表 に 示 した. 花 の 大 きさは 中 程 度 で 肥 の 豊 より 大 きく, 花 弁 の 長 さは 短 く 幅 が 広 い. 花 弁 は 白 色 で4 枚 の 花 が 多 い. 花 糸 は 少 なく 20 本 程 度 で, 花 粉 は 中 程 度 形 成 される. 子 房 は 短 卵 形 で, 花 柱 は 真 っ 直 ぐ している. 単 為 結 果 性 が 強 く, 無 核 果 率 が 非 常 に 高 い. 第 1 表 熊 本 EC10 の 樹 体 特 性 樹 姿 樹 勢 枝 梢 節 間 長 葉 身 葉 の 翼 葉 密 度 太 さ 長 さ 形 大 きさ 厚 さ の 形 熊 本 EC10 中 間 やや 弱 密 中 中 中 卵 やや 小 中 紡 錘 肥 の 豊 やや 直 立 強 やや 密 太 長 やや 長 披 針 中 中 楔 第 2 表 熊 本 EC10 の 花 の 特 性 花 の 花 弁 花 糸 花 粉 の 子 房 花 柱 重 さ 形 長 さ 幅 色 数 の 数 多 少 の 形 の 形 熊 本 EC10 中 紡 錘 短 やや 広 白 4 枚 少 中 短 卵 直 肥 の 豊 軽 紡 錘 やや 短 やや 広 白 5 枚 少 少 扁 球 弓 -43-
3. 果 実 特 性 果 実 の 特 性 を 第 3~6 表 に,その 写 真 を 第 2 図 に 示 し た. 果 実 は 200g 程 度 で, 親 の ありあけ より 大 きく, はるみ と 同 程 度 である. 果 形 は ありあけ に 似 た 短 卵 形 で 果 形 指 数 100 程 度 である. 果 頂 部 は 平 坦 で, 果 梗 部 は 球 面 である. 果 皮 は 濃 橙 色 で ありあけ, はる み より 紅 が 濃 い. 果 面 は ありあけ, はるみ と 同 様 に 滑 らかである. 油 胞 の 大 きさは 大 小 混 合 で,その 分 布 は 密 である. 果 皮 の 着 色 開 始 期 は 10 月 中 旬 頃 で,11 月 中 旬 頃 に 完 全 着 色 となる. 赤 道 部 の 果 皮 の 厚 さは 2.6mm 程 度 で ありあけ, はるみ より 薄 い. あり あけ と 同 様 に 果 梗 部 は 厚 いが 果 頂 部 が 薄 いため, 夏 秋 期 に 果 頂 部 から 赤 道 部 にかけて 裂 果 が 発 生 し 易 い. 剥 皮 性 は はるみ より 剥 きにくいが, ありあけ と 同 程 度 第 3 表 熊 本 EC10 の 果 実 特 性 1(2003 年 ) 果 実 果 形 果 面 の 果 皮 果 皮 剥 皮 の 重 さ 形 指 数 粗 滑 色 厚 さ 歩 合 難 易 g mm % 熊 本 EC10 266 短 卵 104 滑 濃 橙 2.6 18.0 中 ありあけ 212 球 97 滑 橙 4.1 23.8 中 はるみ 284 扁 球 114 滑 橙 3.6 21.7 易 の 中 位 である. 浮 き 皮 はほとんど 発 生 せず, 発 生 しても 軽 度 である. 成 熟 が 進 むと 果 梗 部 にリング 状 のクラッキ ングが 発 生 する. 果 心 は ありあけ と 同 様 に 極 めて 小 さい. 果 肉 は 濃 橙 色 で 軟 らかく, 果 汁 量 は 多 い.じょう のう 膜 は ありあけ, はるみ と 同 様 に 薄 くて 軟 らか いので 食 べやすいが, 果 実 が 大 きくなるとやや 厚 くなる. 適 熟 期 の 果 汁 糖 度 は 13 程 度, 酸 濃 度 は 1.0% 程 度 で 食 味 は 良 好 である. 熟 期 は 12 月 上 旬 頃 で, 普 通 ウンシュウ 程 度 に 早 熟 であり, 年 内 の 収 穫, 出 荷 が 可 能 である. 種 子 数 は0~1 個 程 度 で ありあけ と 同 様 に 少 なく, 無 核 果 率 が 極 めて 高 い. 種 子 は 単 胚 性 である. 第 4 表 熊 本 EC10 の 果 実 特 性 2(2003 年 ) 果 肉 じょうのう 果 汁 の 糖 度 クエン 酸 種 子 数 胚 数 の 色 膜 の 硬 さ 多 少 (Brix) 濃 度 % 熊 本 EC10 濃 橙 薄 多 12.6 0.99 かなり 少 単 胚 ありあけ 濃 橙 薄 多 11.2 0.72 かなり 少 単 胚 はるみ 橙 薄 中 11.4 1.52 少 多 胚 第 5 表 熊 本 EC10 の 栽 培 特 性 発 芽 期 開 花 期 着 色 期 成 熟 期 隔 年 裂 果 の かいよう 病 結 果 性 発 生 抵 抗 性 熊 本 EC10 3 下 5 上 10 中 ~11 中 12 上 やや 高 中 やや 弱 ありあけ 3 下 5 中 11 中 ~12 下 12 中 中 中 強 はるみ 3 下 5 中 11 上 ~1 上 1 月 高 少 強 第 6 表 栽 培 型 の 違 いによる 熊 本 EC10 の 年 次 別 果 実 品 質 栽 培 型 調 査 年 次 調 査 日 果 実 重 糖 度 クエン 酸 (Brix) 濃 度 月 / 日 g % 屋 根 掛 けハウス 2010 12/1 194 12.0 1.02 2011 12/12 235 12.5 1.03 2012 12/11 196 13.3 1.25 平 均 208 12.6 1.10 露 地 2009 12/8 185 12.8 1.04 2010 12/1 194 12.4 1.04 2011 12/12 225 12.1 0.99 平 均 201 12.4 1.02 注 )2004 年 春 1 年 生 苗 植 栽 第 2 図 熊 本 EC10 の 果 実 Ⅳ 栽 培 の 特 性 熊 本 EC10 は,かいよう 病 にやや 罹 病 性 であり, 降 雨 が 多 い 年 には 十 分 な 防 除 を 行 っても 発 生 が 抑 制 できな い 場 合 が 多 い.また, 果 頂 部 から 赤 道 部 にかけて 果 皮 が 薄 いため, 降 雨 による 急 激 な 土 壌 水 分 の 変 化 により 裂 果 第 3 図 熊 本 EC10 の 着 果 状 況 が 発 生 する( 第 7 表 ).このようなことから, 安 定 生 産 の ためには 施 設 栽 培 への 導 入 が 必 要 と 考 えられる. 施 設 栽 培 で 降 雨 を 遮 断 することで,かいよう 病 の 発 生 が 抑 えら れるとともに, 人 為 的 に 土 壌 水 分 のコントロールが 行 え るため, 裂 果 の 発 生 を 軽 減 できる.また,この 品 種 は 露 -44-
地 栽 培 では 樹 勢 がやや 弱 いため, 生 産 性 が 低 いと 考 えら れる. 不 知 火 は, 施 設 栽 培 し 生 育 期 の 温 度 を 高 めると, 樹 勢 が 強 化 され 生 産 性 が 向 上 することが 報 告 されている 1). 熊 本 EC10 においても 施 設 栽 培 により, 樹 勢 が 強 化 され, 枝 梢 が 太 く 長 くなる 傾 向 がみられた( 第 8 表 ). 第 9 表 は 熊 本 EC10 の 屋 根 掛 けハウス 栽 培 と 露 地 栽 培 の 生 産 性 について 調 査 し, 試 算 した 結 果 であるが, 施 設 栽 培 では, 露 地 栽 培 に 比 べ 樹 冠 容 積 が9% 大 きくなり,10 a 当 たりの 収 量 は 約 1.5 倍 となった. また, 単 為 結 果 性 が 強 く 結 実 が 良 いため 着 果 過 多 とな りやすく, 隔 年 結 果 するおそれがあることから, 連 年 安 定 生 産 のためには 十 分 摘 果 を 行 い, 適 正 着 果 量 に 導 くこ とが 重 要 である.ただし, 着 果 量 が 少 なく 果 実 が 大 きく なりすぎるとじょうのう 膜 が 厚 くなり, 食 べにくくなる ため, 外 観 面 と 併 せて 考 えると 200g 位 の 果 実 が 適 正 で ある. さらに 本 品 種 の 特 性 として,1 節 から 数 本 の 枝 梢 が 発 生 し 密 生 することから, 樹 冠 内 部 が 日 陰 になりやすく, 枯 れ 枝 が 多 く 発 生 するため, 黒 点 病 の 発 生 が 懸 念 される. そのため, 黒 点 病 の 伝 染 原 となる 枯 れ 枝 の 除 去 を 十 分 に 行 う 必 要 がある. 品 質 面 では, 果 皮 は 比 較 的 簡 単 に 剥 けるが,じょうの う 膜 が 薄 いうえ, 果 汁 も 多 い.そのため, 剥 くときに 果 汁 があふれ 出 て 手 が 汚 れやすいことから,ナイフでカッ トした 方 が 食 べやすい.なお, 近 年, 天 草 4) や 愛 媛 果 試 第 28 号 および 大 分 果 研 4 号 といったカットフ ルーツ 向 きの 品 種 も 増 え, 定 着 してきている. 熊 本 EC10 もそれらの 品 種 と 同 様 にじょうのう 膜 が 薄 く, 果 肉 が 軟 らかいことからカットフルーツ 向 きの 品 種 と 言 え よう. 以 上 のように, 熊 本 EC10 は 栽 培 的 な 欠 点 も 一 部 あ るものの, 熊 本 県 オリジナルの 無 核 性 で 高 品 質 の 早 生 カ ンキツであることから, 中 晩 生 カンキツ 産 地 における 年 内 出 荷 用 の 特 産 的 な 品 種 として 普 及 が 期 待 される.なお, 産 地 への 普 及 にあたって, 施 設 栽 培 による 生 産 安 定 技 術 の 確 立 が 急 務 である. 最 後 に, 熊 本 EC10 は 高 品 質 で 無 核 性 の 高 い 早 生 カ ンキツであること, 単 胚 性 であること, 花 粉 を 有 するこ とから, 早 生 カンキツの 育 種 親 としても 有 望 であると 考 えられる. 第 7 表 露 地 栽 培 における 熊 本 EC10 の 裂 果 発 生 程 度 (2009 年 ) 1 樹 当 たり 栽 培 型 収 穫 果 数 裂 果 数 裂 果 率 個 個 % 露 地 50.8 21.0 29.3 注 )4 樹 を 調 査 第 8 表 施 設 栽 培 が 熊 本 EC10 の 樹 体 に 及 ぼす 影 響 (2013 年 ) 栽 培 型 樹 勢 枝 梢 の 枝 梢 の 枝 梢 の 節 間 長 葉 身 の 大 きさ 葉 の 葉 色 密 度 太 さ 長 さ 葉 身 長 葉 身 幅 厚 さ (SPAD 値 ) mm cm cm cm cm mm 無 加 温 ハウス 中 密 3.3 15.8 2.1 8.2 4.1 3.1 75.1 屋 根 掛 けハウス 中 密 3.1 15.3 2.0 8.3 4.2 3.1 72.3 露 地 やや 弱 密 2.7 12.3 1.9 8.3 4.2 3.4 66.5 第 9 表 栽 培 型 の 違 いによる 熊 本 EC10 の 生 産 性 (2009 年 ) 栽 培 型 樹 冠 1 樹 当 たり 単 位 樹 冠 容 積 当 たり 植 栽 10a 当 たり( 換 算 値 ) 容 積 重 量 果 数 1 果 重 重 量 果 数 本 数 重 量 果 数 m 3 kg 個 g kg/m3 個 /m3 本 /10a t 個 屋 根 かけハウス 3.6 14.3 77.9 184 4.0 21.6 168 2.4 13,087 露 地 3.3 9.6 50.8 189 2.9 15.4 168 1.6 8,534 注 )2004 年 春 1 年 生 苗 植 栽 7 年 生 樹 を 調 査 植 栽 間 隔 は 間 口 6m 長 さ42mの4 連 棟 とし 露 地 も 同 じ 植 栽 で10a 当 たりを 換 算 収 穫 は2009 年 12 月 10 日 Ⅴ 謝 辞 本 稿 の 取 りまとめに 際 し ご 校 閲 を 賜 った 当 センター 果 樹 研 究 所 特 別 研 究 員 高 原 利 雄 氏 に 厚 く 謝 意 を 表 します Ⅵ 引 用 文 献 1) 平 山 秀 文 北 園 邦 弥 磯 部 暁 (1999): 不 知 火 の 簡 易 被 覆 による 高 品 質 安 定 生 産. 九 農 研,61,229. 2) 熊 本 県 (2013): 平 成 23 年 産 熊 本 県 果 樹 振 興 実 績 書, 11. 3) 松 本 亮 司 (2001): 晩 生 カンキツ 不 知 火. 果 樹 試 報, 35,115-120. 4) 松 本 亮 司 奥 代 直 己 山 本 雅 史 山 田 彬 雄 浅 田 謙 介 生 山 巌 池 宮 秀 和 村 田 広 野 小 泉 銘 册 岩 波 徹 (1999):カンキツ 新 品 種 天 草 果 樹 試 報,33,37-46. 5) 満 田 実 藤 田 賢 輔 磯 部 暁 坂 本 等 坂 西 英 (2002): 不 知 火 の 珠 心 胚 実 生 変 異 とカンキツ 新 品 種 肥 の 豊 の 育 成. 熊 本 県 農 業 研 究 センター 研 究 報 告, 11,84-90. 6) 楢 原 稔 若 月 洋 佐 藤 洋 子 小 出 聖 小 田 眞 男 吉 澤 栄 一 川 野 信 壽 小 原 誠 (2009):カンキツ -45-
新 品 種 大 分 果 研 4 号 の 特 性. 大 分 農 林 水 産 研 究 セ ンター 報 告 ( 農 業 編 ),3,69-73. 7) 重 松 幸 典 喜 多 景 治 薬 師 寺 弘 倫 石 川 啓 井 上 久 雄 (2005):カンキツ 新 品 種 愛 媛 果 試 第 28 号 につ いて. 愛 媛 果 樹 試 研 報,19,1-6. 8) 高 原 利 雄 稗 圃 直 史 今 井 篤 吉 岡 照 高 國 賀 武 松 本 亮 司 三 谷 宣 仁 (2006):カンキツ 新 品 種 べにば え. 園 学 雑 75( 別 2),92. 9) 山 田 彬 雄 奥 代 直 巳 松 本 亮 司 山 本 雅 史 高 原 利 雄 生 山 巌 石 内 傅 治 浅 田 謙 介 池 宮 秀 和 村 田 広 野 (1995):カンキツ 新 品 種 ありあけ. 果 樹 試 報, 28,1-13. 10) 吉 田 俊 雄, 根 角 博 久 吉 岡 照 高 中 野 睦 子 伊 藤 祐 司 村 瀬 昭 治 滝 下 文 孝 (2005):カンキツ 新 品 種 は れひめ. 果 樹 研 報,4,37-45. 11) 吉 田 俊 雄 山 田 彬 雄 根 角 博 久 上 野 勇 伊 藤 祐 司 吉 岡 照 高 日 高 哲 志 家 城 洋 之 七 條 寅 之 助 木 原 武 士 富 永 茂 人 (2000):カンキツ 新 品 種 はるみ. 果 樹 試 報,34,43-52. 12) 吉 岡 照 高 野 中 圭 介 今 井 篤 深 町 浩 松 本 亮 司 山 本 雅 史 國 賀 武 三 谷 宣 仁 稗 圃 直 史 (2011): カンキツ 新 品 種 津 之 望. 園 学 研 ( 別 1),44. Summary Characteristic of the Early Citrus Cultivar KumamotoEC10 Mitsuyasu KITAMURA,Hideo SAKAKI,Masaru SAKANISHI,Kensuke FUJITA,Kuniya KITAZONO,Yusuke FUKUNAGA, Minoru MITSUTA and Akira ISOBE Kumamoto EC10 is relatively new citrus early cultivar produced in 1994 by crossing the Ariake and Harehime varieties at the Kumamoto Prefectural Agricultural Research Center, Institute of Fruit Tree Science. It was registered as No.22041 under the Seed and Seedlings Law of Japan on October 23, 2012. The tree vigor is semi-weak and its treeperformance is between upright and spreading. The fruit is about 200g in weight and the shape is broad ovate. The skin color is dark orange, and the fruit surface texture is smooth. The peeling is medium. The flesh is dark orange in color, tender and juicy. The segment membrane is relatively thin and tender. Brix value of juice is about 13 and the edible quality is good. The fruit ripens in early December. The seeds are few and monoembryony. It is somewhat susceptible to citrus canker, fruit cracking occurs. For stable production, greenhouse cultivation is good. -46-