財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 1 第 10 章 損 益 会 計 1. 損 益 計 算 書 の 基 本 原 則 1.1 発 生 主 義 発 生 主 義 とは 費 用 収 益 の 計 上 時 点 を 現 金 収 支 の 有 無 にかかわらず その 発 生 の 事 実 に 基 づいて 行 うことを 要 求 する 原 則 である しかし 収 益 を 生 産 または 発 生 の 進 行 に 即 し て 認 識 する 場 合 その 計 算 が 極 めて 困 難 であり また 客 観 的 に 評 価 できないという 欠 点 が あるので 発 生 主 義 の 原 則 をそのまま 収 益 認 識 基 準 として 適 用 するのは 不 合 理 である 一 方 企 業 の 経 営 努 力 と 財 貨 やサービスの 費 消 がほとんど 一 致 していることから 発 生 主 義 の 原 則 は 費 用 の 認 識 基 準 として 適 用 されている 1.2 実 現 主 義 実 現 主 義 とは 収 益 をその 実 現 を 意 味 する 経 済 的 事 実 に 基 づいて 認 識 する 基 準 であり 収 益 の 原 則 としての 認 識 基 準 である ここに 実 現 とは 次 の2 要 件 を 充 たした 場 合 をいう 1 財 や 役 務 の 提 供 2 対 価 としての 貨 幣 性 資 産 の 獲 得 つまり 実 現 主 義 は 収 益 を 販 売 その 他 客 観 的 に 立 証 できる 外 部 取 引 事 実 に 基 づいて 計 上 することを 要 求 している 実 現 主 義 の 採 用 の 根 拠 としては 現 行 制 度 会 計 の 目 的 が 分 配 利 益 の 算 定 にあり そのため 利 益 を 生 むもととなる 収 益 の 計 上 に 検 証 可 能 性 や 確 定 性 を 要 求 しているからである 1.3 費 用 収 益 対 応 の 原 則 費 用 収 益 対 応 の 原 則 とは 企 業 努 力 たる 費 用 とその 成 果 たる 収 益 を 期 間 的 に 対 応 させるこ とによって 企 業 の 純 利 益 を 算 定 することを 指 示 する 原 則 であり 企 業 会 計 の 全 般 に 通 じる 基 本 的 かつ 根 本 的 な 原 則 である 費 用 収 益 の 対 応 形 態 には 次 の2つがある 収 益 に 費 用 を 対 応 させる 場 合 ( 通 常 はこの 場 合 )と 費 用 を 収 益 に 対 応 させる 場 合 ( 例 外 的 に 工 事 進 行 基 準 など)とがある 個 別 的 対 応 と( 売 上 高 と 売 上 原 価 のような 直 接 的 対 応 )と 期 間 的 対 応 ( 一 会 計 期 間 における 収 益 と 費 用 の 間 接 的 対 応 )とがある 今 日 の 期 間 損 益 計 算 における 対 応 は そのほとんどが 期 間 的 対 応 で 収 益 に 費 用 を 対 応 させている 場 合 である
財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 2 2. 販 売 形 態 別 の 収 益 認 識 収 益 の 認 識 とは 収 益 をいつの 会 計 期 間 に 属 するものとみるか という 期 間 帰 属 の 決 定 の ことである 2.1 通 常 の 販 売 の 場 合 収 益 については 実 現 主 義 の 原 則 に 従 って 認 識 することを 損 益 計 算 書 原 則 は 要 請 してい る そして 通 常 の 販 売 の 場 合 においては 実 現 の 要 件 を 満 たす 時 点 が 販 売 時 であること から 販 売 基 準 をもって 収 益 認 識 基 準 としている 2.2 委 託 販 売 委 託 販 売 とは 代 理 店 その 他 に 手 数 料 を 支 払 って 商 品 の 販 売 を 委 託 する 販 売 形 態 である 原 則 : 受 託 者 が 委 託 品 を 販 売 した 日 容 認 : 仕 切 清 算 書 ( 売 上 計 算 書 ) 到 達 基 準 2.3 試 用 販 売 試 用 販 売 とは 注 文 を 受 けることなく 商 品 を 予 め 顧 客 に 送 付 し 試 用 させてから 顧 客 より 買 取 る 意 思 表 示 を 受 けたときに 販 売 が 成 立 する 販 売 形 態 である 原 則 : 買 取 の 意 思 表 示 を 受 けた 時 点 訪 問 販 売 電 話 勧 誘 販 売 キャッチセールス 等 の 販 売 も 試 用 販 売 に 準 じて 収 益 を 認 識 する これらの 販 売 においてはクーリング オフの 期 日 が 経 過 した 日 に 買 取 の 意 思 表 示 がなされたものとみなす 2.4 予 約 販 売 予 約 販 売 とは いまだ 引 き 渡 せる 状 態 になっていない 商 品 について 前 もって 注 文 を 受 け 仕 入 あるいは 製 造 した 後 これを 顧 客 に 引 渡 す 販 売 形 態 である 原 則 : 商 品 の 引 渡 しまたは 役 務 の 給 付 が 完 了 した 時 点 2.5 割 賦 販 売 割 賦 販 売 とは 割 賦 販 売 契 約 に 基 づいて 商 品 を 引 渡 した 後 代 金 を 月 賦 年 賦 等 の 賦 払
財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 3 の 方 法 により 定 期 的 に 回 収 する 販 売 形 態 をいう 原 則 : 販 売 基 準 ( 商 品 等 を 販 売 した 日 をもって 売 上 収 益 実 現 の 日 とする) 容 認 : 割 賦 基 準 ( 回 収 基 準 と 回 収 期 限 到 来 基 準 の2つがある) (1) 回 収 基 準 とは 代 金 を 回 収 ( 入 金 )したときに 収 益 を 計 上 する 基 準 である (2) 回 収 期 限 到 来 基 準 とは 代 金 の 回 収 に 関 係 なく 割 賦 契 約 による 割 賦 金 入 金 期 日 が 到 来 したときに 収 益 を 計 上 する 基 準 をいう 2.6 長 期 請 負 工 事 長 期 請 負 工 事 とは 建 物 ダム 道 路 船 舶 等 その 建 設 に 長 期 間 ( 一 年 以 上 )を 必 要 と する 請 負 工 事 のことで 工 事 開 始 前 に 請 負 契 約 により 請 負 価 額 が 確 定 している 工 事 完 成 基 準 と 工 事 進 行 基 準 の 選 択 適 用 である (1) 工 事 完 成 基 準 : 工 事 が 完 成 し それが 引 渡 されたときをもって 収 益 を 認 識 するもの であり 実 現 主 義 を 適 用 したものである この 基 準 によれば 引 渡 しが 完 了 した 日 に 工 事 収 益 を 計 上 するので それまでの 期 間 は 未 成 工 事 支 出 金 ( 資 産 a/c で 仕 掛 品 と 同 義 )として 次 期 に 繰 越 される (2) 工 事 進 行 基 準 : 工 事 収 益 を 工 事 期 間 の 最 終 時 点 で 一 括 計 上 するのではなく 工 事 の 進 行 度 合 い( 進 捗 率 という)に 応 じて 部 分 的 に 収 益 を 認 識 するものであり 発 生 主 義 を 適 用 したものである 工 事 進 行 基 準 による 工 事 収 益 の 計 算 法 は 以 下 のようである 各 期 の 工 事 収 益 の 計 算 当 期 実 際 発 生 工 事 原 価 当 期 工 事 収 益 = 工 事 契 約 価 格 ( 請 負 価 額 ) 工 事 完 成 までの 見 積 総 工 事 原 価 総 工 事 原 価 が 修 正 された 場 合 の 工 事 収 益 の 計 算 着 工 から 当 期 末 までの 実 際 発 生 工 事 原 価 着 工 から 当 期 末 までの 工 事 収 益 = 工 事 契 約 価 額 修 正 後 見 積 総 工 事 原 価 当 期 工 事 収 益 = 着 工 から 当 期 末 までの 工 事 収 益 - 過 年 度 計 上 済 み 工 事 収 益 3. 実 現 主 義 の 例 外 収 益 の 認 識 に 発 生 主 義 を 適 用 した 例 としては 長 期 請 負 工 事 における 工 事 進 行 基 準 の 他 に
財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 4 生 産 物 に 関 する 収 穫 基 準 などがある 収 穫 基 準 とは 買 取 価 格 のある 米 麦 や 金 鉱 産 物 等 に 適 用 される 基 準 で 将 来 における 収 益 の 実 現 が 確 実 である 場 合 に 当 該 生 産 物 の 収 穫 時 点 で 当 該 生 産 物 の 見 積 売 価 から 諸 経 費 を 差 し 引 いた 価 額 を 収 益 として 認 識 する 基 準 である
財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 5 [ 問 題 10-1] 次 の(1)~(8)の 各 文 章 の 内 容 について 正 しいものには T 誤 っているものには F を 記 入 しなさい (1) 実 現 主 義 における 実 現 の 要 件 とは 財 貨 またはサービスの 提 供 かつ 販 売 価 格 が 確 定 していることをいう (2) 実 現 主 義 の 具 体 的 基 準 として 販 売 基 準 が 採 用 されるのは 販 売 によって 取 引 価 額 が 成 立 するので 収 益 としての 計 上 額 が 客 観 的 かつ 明 確 になるからである (3) 発 生 主 義 とは 費 用 および 収 益 を その 現 金 の 支 出 および 収 入 に 基 づいて 認 識 する 基 準 である (4) 費 用 収 益 対 応 の 原 則 は 形 式 的 には 費 用 および 収 益 を 損 益 計 算 書 に 発 生 源 泉 別 に 対 応 表 示 させることを 要 請 するものである (5) 財 貨 やサービスの 提 供 が 貨 幣 性 資 産 に 形 をかえるのは 通 常 販 売 時 点 であるので 実 現 主 義 による 収 益 の 認 識 は 具 体 的 には 販 売 基 準 によって 行 われる (6) 発 生 主 義 会 計 のもとで 収 益 は 実 現 主 義 の 原 則 によって 認 識 され 費 用 は 発 生 主 義 の 原 則 によって 認 識 される これが 実 質 的 な 意 味 における 費 用 収 益 対 応 の 原 則 で ある (7) 費 用 および 収 益 は 総 額 によって 記 載 することを 原 則 とし 費 用 の 項 目 と 収 益 の 項 目 とを 直 接 に 相 殺 することによってその 全 部 または 一 部 を 損 益 計 算 書 から 除 去 して はならない (8) 発 生 主 義 の 原 則 とは 費 用 および 収 益 を 現 金 の 収 支 に 基 づいて その 発 生 の 事 実 およびその 発 生 の 原 因 の 金 額 により 測 定 する 考 え 方 である [ 問 題 10-2] 1. 収 益 の 認 識 基 準 について 誤 っているものを A~D の 中 から 1 つ 選 びなさい A 金 などの 鉱 産 物 については 採 取 時 点 で 営 業 収 益 を 計 上 する 生 産 基 準 が 認 められて いる B 割 賦 販 売 について 販 売 基 準 ではなく 現 金 基 準 ( 回 収 基 準 )が 認 められるのは 回 収 期 間 が 長 く かつ 一 定 以 上 の 回 収 費 用 がかかることが 見 込 まれる 場 合 である C 委 託 販 売 を 行 う 委 託 者 は 受 託 者 が 受 託 品 を 第 三 者 に 販 売 するときまで 営 業 収 益 を 計 上 できない
財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 6 D 一 つの 企 業 の 中 で 工 事 物 件 によって 工 事 完 成 基 準 と 工 事 進 行 基 準 を 使 い 分 けること は 認 められている 2. 収 益 の 認 識 基 準 について 誤 っているものを A~D の 中 から 1 つ 選 びなさい A 予 約 販 売 については 予 約 者 の 予 約 金 額 を 受 領 した 時 その 受 領 金 額 を 収 益 として 計 上 する B 委 託 販 売 については 受 託 者 が 委 託 品 を 販 売 した 日 に 収 益 を 計 上 する C 割 賦 販 売 については 販 売 基 準 に 代 えて 回 収 基 準 により 収 益 を 計 上 することができ る D 試 用 販 売 については 得 意 先 が 買 取 りの 意 思 表 示 をした 時 に 収 益 を 計 上 する 3. 売 上 収 益 の 計 上 について 正 しいものを A~D の 中 から 1 つ 選 びなさい A コンピューター ソフトウェアの 試 用 販 売 において 顧 客 ( 試 用 者 )が 買 取 りの 意 思 表 示 をしたときに 売 上 収 益 を 計 上 する B 健 康 器 具 の 試 用 販 売 において 商 品 の 発 送 後 解 約 可 能 期 間 を 経 過 しても 買 取 り の 意 思 表 示 があるまでは 売 上 収 益 を 計 上 することはできない C 月 刊 の 定 期 刊 行 雑 誌 の 販 売 において 事 前 に 代 金 1 年 分 を 受 け 取 っている 場 合 には 各 月 の 雑 誌 の 発 売 日 に 1 ヵ 月 分 の 代 金 を 売 上 収 益 に 計 上 することができる D 販 売 代 理 店 を 通 じた 委 託 販 売 方 式 の 宝 飾 品 の 販 売 において 代 理 店 から 販 売 代 金 が 送 金 されるまでは 売 上 収 益 を 計 上 してはならない 4. 収 益 の 認 識 基 準 について 誤 っているものを A~D の 中 から 1 つ 選 びなさい A 委 託 販 売 の 場 合 には 受 託 者 が 委 託 された 商 品 を 販 売 したときに 収 益 を 認 識 するこ とも 販 売 の 都 度 仕 切 精 算 書 が 到 達 した 日 に 収 益 を 認 識 することも 認 められている B 試 用 販 売 の 場 合 には 期 限 を 経 過 しても 買 い 手 から 解 約 返 品 の 意 思 表 示 がない 場 合 には 買 い 手 の 意 思 表 示 があったものとみなして 収 益 を 認 識 することができる C 期 間 利 益 の 計 算 上 工 事 進 行 基 準 に 比 べ 工 事 完 成 基 準 のほうが 工 事 収 益 と 工 事 原 価 のより 合 理 的 な 対 応 関 係 が 保 たれている D 定 期 券 の 代 金 のうち 決 算 日 までに 輸 送 サービスの 提 供 が 完 了 している 分 は 当 期 の 収 益 として 認 識 することができる
財 務 報 告 論 2009( 太 田 浩 司 ) Lecture Note 10 7 [ 問 題 10-3] 割 賦 販 売 においては(1) 販 売 基 準 (2) 回 収 基 準 (3) 回 収 期 限 到 来 基 準 の 三 つの 収 益 計 上 基 準 が 認 められている 各 収 益 認 識 基 準 に 従 った 場 合 の 売 上 総 利 益 を 計 算 しなさい < 資 料 > 割 賦 売 上 高 5,000 円 売 上 原 価 3,500 円 決 算 日 までの 入 金 額 4,100 円 回 収 期 限 が 到 来 しているにもかかわらず 未 入 金 である 額 200 円 売 上 総 利 益 (1) 販 売 基 準 円 (2) 回 収 基 準 円 (3) 回 収 期 限 到 来 基 準 円 [ 問 題 10-4] 次 の 資 料 から 各 年 度 の 工 事 収 益 と 工 事 利 益 を 工 事 完 成 基 準 による 場 合 と 工 事 進 行 基 準 による 場 合 とに 分 けて 計 算 しなさい < 資 料 > (1) 工 事 期 間 3 年 ( 第 1 期 着 工 第 3 期 引 渡 し) (2) 契 約 請 負 価 額 1,200 円 (3) 着 工 時 における 見 積 総 工 事 原 価 は 1,000 円 でありこの 額 に 変 動 はなかった また 各 期 における 工 事 原 価 発 生 額 は 以 下 のようであった 各 期 の 原 価 発 生 額 第 1 期 第 2 期 第 3 期 250 円 350 円 400 円 工 事 完 成 基 準 工 事 進 行 基 準 工 事 収 益 工 事 利 益 工 事 収 益 工 事 利 益 第 1 期 円 円 円 円 第 2 期 円 円 円 円 第 3 期 円 円 円 円