第 5 章 金 融 事 情 I. 為 替 管 理 I-1. ブラジルの 通 貨 ブラジルでは かつてはインフレーションに 伴 うデノミネーションのため きわめて 頻 繁 に 通 貨 の 呼 称 を 変 更 せざるを 得 なかった しかし 現 在 では 1994 年 6 月 に レアルプ ラン の 一 環 として 導 入 された レアル(real) がその 後 継 続 して 使 用 されている レアル は 現 地 では ヘアウ と 発 音 される 表 記 上 は BRL R$ などと 略 される ことが 一 般 的 で 複 数 形 は reais (ヘアイス)と 記 載 される また レアル 以 下 の 単 位 は センターボ(centavo) と 呼 ばれ 1 レアル=100 センターボである 図 表 5-1 ブラジルの 通 貨 単 位 の 変 遷 年 代 単 位 換 算 1942 年 11 月 1 日 ~ クルゼイロ(cruzeiro Cr$) 1クルゼイロ = 1,000 レイス(réis) 1967 年 2 月 13 日 ~ 新 クルゼイロ (cruzeiro novo NCr$) 1 新 クルゼイロ = 1,000 クルゼイロ 1970 年 5 月 15 日 ~ クルゼイロ(cruzeiro Cr$) 1クルゼイロ = 1 新 クルゼイロ 1986 年 2 月 28 日 ~ クルザード(cruzado Cz$) 1クルザード = 1,000 クルゼイロ 1989 年 1 月 16 日 ~ 新 クルザード (cruzado novo NCz$) 1 新 クルザード = 1,000 クルザード 1990 年 3 月 16 日 ~ クルゼイロ(cruzeiro Cr$) 1クルゼイロ = 1 新 クルザード 1993 年 8 月 1 日 ~ クルゼイロ レアル (cruzeiro real CR$) 1 クルゼイロ レアル = 1,000 クルゼイロ 1994 年 7 月 1 日 ~ レアル(real R$) 1レアル ( 出 所 : 中 央 銀 行 ウェブサイト http://www.bcb.gov.br/?refsismon) = 2,750 クルゼイロ レアル I-2. 為 替 相 場 ブラジル レアルの 対 ドル 相 場 は 2002 年 から 急 落 し 1 ドル=4 レアル 近 辺 に 至 った これは 左 翼 政 党 である PT から 選 出 されたルーラ 氏 が 大 統 領 に 就 任 することが 決 まり 彼 76
の 経 済 政 策 に 対 する 市 場 の 不 信 感 が 蔓 延 したためとされる しかし ルーラ 大 統 領 が 市 場 の 予 想 に 反 して 穏 当 なマクロ 経 済 運 営 を 行 ったため レアルは 順 調 に 増 価 し 2008 年 には 1 ドル 1.5 レアル 近 辺 にまで 至 った 2008 年 後 半 のリーマンショックにより 新 興 国 から 一 時 的 に 資 金 が 退 避 したためレアルも 一 旦 下 落 したが 2009 年 には 急 速 にレアル 高 が 進 み 2010 年 以 降 も 1.6 レアル 台 ~1.7 レアル 台 近 辺 を 推 移 している ブラジル 政 府 や 通 貨 当 局 は レアル 高 がブラジルの 競 争 力 を 阻 害 していると 考 えており 2010 年 9 月 にマンテガ 財 務 相 ( 当 時 )が 通 貨 競 争 として 各 国 の 通 貨 安 誘 導 政 策 を 批 判 して 話 題 となった 図 表 5-2 為 替 相 場 の 推 移 4 3 2 1 レアル/ドル 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ( 出 所 :ブラジル 中 央 銀 行 ) I-3. 為 替 管 理 制 度 現 在 ブラジルは 完 全 変 動 相 場 制 を 採 用 している 政 策 的 な 特 定 の 目 標 レートは 定 めら れていない(ただし 通 貨 当 局 による 為 替 介 入 が 行 われることはある) また 基 本 的 には 海 外 との 資 金 のやりとりは 自 由 である もっとも すべての 対 外 的 な 資 金 取 引 はすべて 中 央 銀 行 の 監 督 下 に 置 かれる I-4. 貿 易 管 理 制 度 1980 年 代 以 前 のブラジル 政 府 は 輸 入 代 替 工 業 化 を 目 指 し 貿 易 政 策 も 管 理 的 な 正 確 が 強 かった しかし 1990 年 代 以 降 は 貿 易 自 由 化 による 競 争 力 強 化 が 図 られることとなった 現 在 も 自 由 貿 易 が 基 本 的 な 政 策 スタンスとなっている 輸 出 入 を 行 う 事 業 者 は 事 前 に 担 当 官 庁 ( 財 務 省 連 邦 収 税 局 )に 登 録 することとなる 77
この 登 録 は RADAR(ラダール)と 呼 ばれ 審 査 に 時 間 は 掛 かるが 登 録 自 体 は 容 易 である ラダールを 取 得 することにより 外 国 貿 易 総 合 システム(SISCOMEX)を 利 用 することが できるようになる 輸 出 入 に 関 する 貿 易 管 理 の 事 務 は SISCOMEX を 通 じて 行 われること となり これを 通 じて 通 関 に 関 する 書 類 等 を 処 理 すれば 輸 出 入 許 可 (ライセンス)の 必 要 なく あるいは 自 動 的 にライセンスが 承 認 される 形 で ほとんどの 種 類 の 貿 易 財 を 輸 出 入 することができる ただし 一 部 の 輸 入 品 については 事 前 にライセンスの 申 請 をして 承 認 を 受 ける 必 要 があ る これらのうち 日 本 企 業 の 関 連 が 多 いと 考 えられる 物 品 等 について 下 表 に 示 す 図 表 5-3 ブラジルにおける 輸 入 ライセンス 申 請 の 例 中 古 財 マナウス フリーゾ ーンにおける 輸 入 規 制 の 対 象 となる 製 品 は 中 古 の 機 械 設 備 機 器 計 器 部 品 付 属 品 工 場 一 式 ライン 一 式 など 所 定 の 国 産 類 似 品 審 査 を 経 たうえで 開 発 商 工 省 の 担 当 部 局 に 必 要 書 類 一 式 カタログ 等 を 送 付 して 申 請 する 2010 年 1 月 現 在 中 古 再 生 タイヤ チューブの 輸 入 にはライ センスが 下 りない 中 古 自 動 車 は 国 産 類 似 品 審 査 のうち 国 産 無 存 在 証 明 書 を 取 得 したものだけがライセンス 付 与 の 対 象 となる SISCOMEX のシステム 上 で 輸 出 社 名 製 品 名 製 品 のモデ ルやタイプ 取 引 決 済 条 件 税 務 恩 典 の 有 無 等 を 所 定 フォー ムに 入 力 することで 申 請 する 製 品 名 の 入 力 に 当 たっては メルコスール 共 通 分 類 表 (NCM) と 呼 ばれるマニュアルに 準 拠 する 必 要 がある ( 出 所 :JETRO ウェブサイト ブラジルの 貿 易 管 理 制 度 ) このほか 少 数 ではあるが 品 目 によってはライセンス 以 外 の 輸 出 入 規 制 も 存 在 する たとえば 輸 出 では 特 定 の 動 植 物 や 鉱 物 由 来 の 製 品 食 品 武 器 弾 薬 などが 規 制 品 目 となっ ている 輸 入 においては 農 林 水 産 物 等 の 安 全 規 制 や 特 定 の 医 療 用 医 薬 品 等 の 衛 生 上 の 規 制 などに 留 意 が 必 要 だ さらには 国 際 関 係 上 の 輸 出 仕 向 地 規 制 等 も 存 在 する II. 資 金 調 達 と 銀 行 取 引 ブラジルへ 投 資 を 行 う 企 業 がとりうる 資 金 調 達 の 方 法 には 次 のようなものが 考 えられ る 1 資 本 金 の 送 金 2 金 融 機 関 からの 融 資 3 親 子 間 の 融 資 4 売 掛 債 権 の 売 却 5リース 6IPO 社 債 発 行 7 輸 出 前 貸 このうち 資 本 金 の 送 金 に 関 しては 会 社 設 立 時 に 2,000 米 ドル 以 上 の 資 本 が 必 要 とな る この 点 については 設 立 手 続 きについて 述 べる 際 に 再 び 触 れる また 増 資 に 関 する 78
規 制 も 特 にないが 送 金 に 当 たっては 中 央 銀 行 への 申 告 が 別 途 必 要 になる その 他 多 様 な 資 金 調 達 の 方 法 については それぞれに 特 長 や 留 意 点 がある ブラジル での 事 業 開 始 後 必 要 に 応 じて 取 引 金 融 機 関 等 と 十 分 に 協 議 することが 望 ましい いずれの 手 段 にしても 資 金 調 達 の 面 で 外 国 企 業 への 差 別 的 な 制 度 は 存 在 しない 日 本 からの 進 出 企 業 であっても 他 国 からの 進 出 企 業 や 現 地 資 本 の 企 業 と 同 等 に 扱 われる なお 一 般 にブラジルにおける 短 期 資 金 の 融 通 システムが 先 進 国 と 同 等 に 整 備 されてい ることと 対 照 的 に 2 年 を 超 えるような 長 期 資 金 については 市 場 が 成 熟 していない ハイパ ーインフレ 時 代 の 記 憶 から 金 融 機 関 が 長 期 の 与 信 を 嫌 う 傾 向 にあるとともに ブラジル 国 民 の 貯 蓄 志 向 が 弱 いことが 背 景 にある そのため 長 期 資 金 の 調 達 が 比 較 的 困 難 である ため 注 意 が 必 要 である II-1. ブラジル 国 内 の 金 融 機 関 ブラジルの 金 融 機 関 には 民 間 銀 行 ( 商 業 銀 行 投 資 銀 行 総 合 銀 行 ) 政 府 系 の 銀 行 貯 蓄 金 庫 民 間 の 不 動 産 金 融 会 社 消 費 者 ローン 会 社 のほか リース 会 社 や 保 険 会 社 等 が ある このうち ブラジルの 銀 行 の 総 資 産 額 によるランキングを 以 下 に 示 す このうちブ ラジル 銀 行 連 邦 貯 蓄 金 庫 は 政 府 が 株 式 を 保 有 している 国 立 経 済 社 会 開 発 銀 行 も 政 府 系 機 関 である またサンタンデール 銀 行 や HSBC は 外 資 系 の 銀 行 である 図 表 5-4 ブラジルにおける 銀 行 のランキング( 総 資 産 額 による 2010 年 11 月 時 点 ) 銀 行 名 総 資 産 額 ( 千 ドル) 銀 行 のタイプ ブラジル 銀 行 (BB) 392,846,786 連 邦 政 府 による 所 有 イタウ ウニバンコ(ITAU) 364,516,778 民 間 国 内 資 本 ブラデスコ 銀 行 (BRADESCO) 288,396,607 民 間 国 内 資 本 国 立 経 済 社 会 開 発 銀 行 (BNDES) 285,268,914 連 邦 政 府 による 所 有 連 邦 貯 蓄 金 庫 (CEF) 215,771,431 連 邦 政 府 による 所 有 サンタンデール 銀 行 (SANTANDER) 208,859,001 民 間 海 外 資 本 香 港 上 海 銀 行 (HSBC) 78,488,661 民 間 海 外 資 本 ヴォトランチン 銀 行 (VOTORANTIM) 61,883,615 民 間 国 内 資 本 サフラ 銀 行 (SAFRA) 37,787,039 民 間 国 内 資 本 シティバンク(CITIBANK) 33,125,433 民 間 海 外 資 本 ( 出 所 :ブラジル 中 央 銀 行 ) また ブラジルへはわが 国 の 三 大 メガバンクが 進 出 しており このうちブラジル 三 井 住 友 銀 行 ブラジル 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 の 両 行 がそれぞれ 現 地 法 人 として 営 業 している 79
図 表 5-5 ブラジルに 進 出 している 日 本 の 金 融 機 関 銀 行 名 株 主 ブラジル 三 井 住 友 銀 行 三 井 住 友 銀 行 100% Banco Sumitomo Mitsui Brasileiro (BSMB) ブラジル 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 97.58% Banco de Tokyo-Mitsubishi UFJ Brasil みずほコーポレート 銀 行 ニューヨーク 支 店 サンパウロ 出 - 張 所 Mizuho Corporate Bank São Paulo Representative Office ( 出 所 : 各 社 ウェブサイト) II-2. ブラジルにおける 資 金 調 達 金 融 機 関 からの 融 資 として 一 般 的 に 考 えられるのはレアル 建 てでの 借 り 入 れである これは 為 替 リスクの 問 題 はないものの 高 金 利 である 点 に 留 意 が 必 要 である ブラジルの 政 策 金 利 である SELIC(Sistema Especial de Liquidação e Custódia)レートは 2009 年 に 史 上 最 低 利 率 である 8.75%に 設 定 されたものの その 後 はインフレ 回 避 のために 徐 々に 引 き 上 げられている 物 価 の 上 昇 率 を 差 し 引 いた 実 質 ベースで 考 えても 政 策 金 利 は 高 水 準 であるといえる この 結 果 最 終 的 に 借 り 手 が 金 融 機 関 から 調 達 する 際 にはかなりの 高 コストとなることが 一 般 的 である 図 表 5-6 ブラジルの 政 策 金 利 (SELIC レート)の 推 移 30 25 20 15 10 5 0 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 ( 出 所 :ブラジル 中 央 銀 行 ) 80
次 に 考 えられるのは 海 外 からの 外 貨 建 て 融 資 である 法 制 度 上 海 外 からの 資 金 調 達 には 特 に 制 限 はなく また 昨 今 の 世 界 市 場 における 低 金 利 傾 向 によりコスト 面 では 有 利 に 調 達 できる 可 能 性 は 高 いものの 為 替 リスクは 避 けられない 先 述 のとおり ブラジルで は 為 替 予 約 が 存 在 しないため 為 替 リスクをヘッジするためには 他 の 金 融 商 品 を 併 用 しな ければならない 長 期 資 金 を 調 達 することが 困 難 なブラジルにあって 有 力 な 長 期 資 金 の 出 し 手 といえる 存 在 が 国 立 経 済 社 会 開 発 銀 行 (Banco Nacional de Desenvolvimento Economico e Social BNDES)である 同 行 は 中 小 規 模 の 企 業 による 短 期 長 期 の 資 金 ニーズに 応 えるための 商 品 を 設 けており 比 較 的 低 利 で 資 金 を 調 達 することができる 同 行 が 企 業 と 直 接 取 引 する 場 合 のほか 同 行 が 認 可 する 市 中 の 金 融 機 関 を 通 じて 融 資 を 行 う 場 合 もある 銀 行 融 資 以 外 の 短 期 および 長 期 の 資 金 調 達 方 法 として 親 会 社 からの 借 り 入 れ( 親 子 ロ ーン)も 一 般 的 に 用 いられている 低 利 で 融 資 を 受 けられる 可 能 性 があるものの 親 子 間 の 利 益 の 付 け 替 えであると 税 務 当 局 にみなされる 場 合 は 移 転 価 格 税 制 への 対 応 が 必 要 とな る また 外 貨 建 てでの 融 資 の 場 合 は 当 然 ながら 為 替 変 動 のリスクにも 直 面 する III. 送 金 手 続 き ブラジル 国 外 との 資 金 のやりとりは すべて 中 央 銀 行 に 登 録 する 必 要 がある 具 体 的 に は 電 算 化 されたシステム 上 に 登 録 されるよう 所 定 のルールに 従 って 資 金 を 動 かさなけ ればならない これを 回 避 する 取 引 は 罰 則 の 対 象 となる 海 外 との 相 殺 取 引 にも 留 意 しな ければならない 海 外 への 送 金 のうち 配 当 金 の 送 金 については 特 に 制 限 がない 上 記 のとおり 中 央 銀 行 に 登 録 されるルートを 通 せば 総 額 に 対 する 規 制 はなく( 株 式 会 社 の 配 当 制 限 は 除 く) また 現 行 では 非 課 税 である 貸 金 から 得 られる 金 利 の 送 金 も 特 に 制 限 はない ただし 関 連 会 社 間 での 貸 借 契 約 の 際 に 移 転 価 格 に 留 意 すべきであることは 先 述 のとおりである ロイヤリティや 手 数 料 の 送 金 に 関 しては 中 央 銀 行 への 登 録 のみならず ブラジル 工 業 所 有 権 院 からの 事 前 の 許 可 を 得 る 必 要 がある 金 額 にも 制 限 があり 品 目 ごとに 生 産 物 の 価 格 (または 商 品 の 売 り 上 げ)の 一 定 割 合 までしか 認 められない また 課 税 対 象 でもある 投 資 資 金 の 引 き 上 げについても 特 に 制 限 はないが( 企 業 の 減 資 に 関 する 規 制 を 除 く) 株 式 等 の 売 却 益 が 発 生 する 場 合 は 課 税 の 対 象 となる 81