第 3 章 内 航 貨 物 船 油 送 船 の 衝 突 事 件 の 特 徴 衝 突 事 故 事 例 の 紹 介 内 航 貨 物 船 油 送 船 の 衝 突 事 件 の 特 徴 を 説 明 する 前 に 衝 突 事 故 事 例 2 件 を 参 考 にして BRM の SHELL モデルを 使 用 した 事 故 分 析 と 再 発 防 止 対 策 の 構 築 の 基 本 的 な 方 法 をご 説 明 します ( 衝 突 事 故 事 例 1): 潮 岬 西 方 海 上 衝 突 事 故 例 1 天 候 : 晴 れ 無 風 視 界 良 好 時 間 相 手 船 との 距 離 ( 海 里 ) I 号 1,592GT 中 国 人 10 名 乗 組 み 中 国 天 津 港 から 瀬 戸 内 海 経 由 名 古 屋 向 け 針 路 <111> 速 力 9.0kts 一 等 航 海 士 甲 板 手 の 2 名 が 当 直 4:30 11.7-4:40 8.6-5:01 1.9 E 丸 の 航 海 灯 ( 白 白 紅 緑 )を 目 視 探 照 灯 を 点 滅 E 丸 が 避 航 すると 思 っ 提 供 : 海 難 審 判 所 E 丸 313GT 日 本 人 4 名 乗 組 み 愛 知 衣 浦 港 から 和 歌 山 下 津 港 向 け 針 路 <290> 速 力 10.0kts 一 等 航 海 士 の 1 名 当 直 潮 岬 航 過 後 針 路 <290> とし 椅 子 に 座 る 6 海 里 レンジのレーダー 画 面 周 囲 の 目 視 により 他 船 が 存 在 しないこ とを 確 認 再 度 椅 子 に 座 り その 内 居 眠 りに 陥 る 居 眠 りをしていたので I 号 の 探 照 灯 に 気 付 かず 5:04 1.0 E 丸 が 避 航 すると 思 い そのまま 続 航 居 眠 りをしてい 5:07 衝 突 原 針 路 速 力 のまま 衝 突 直 前 に 目 を 覚 ましたが 原 針 路 速 力 のまま 衝 突 その 後 沈 没 し 機 関 長 が 行 方 不 明 9
海 難 審 判 の 裁 決 < 適 用 航 法 > I 号 E 丸 とも 海 上 衝 突 予 防 法 14 条 ( 行 き 会 い 船 の 航 法 ) 違 反 < 海 難 の 原 因 > E 丸 : 居 眠 り 運 航 の 防 止 措 置 が 不 十 分 また 左 舷 対 左 舷 で 航 過 するように 右 に 針 路 を 転 じなか ったこと I 号 : 動 静 監 視 不 十 分 また 左 舷 対 左 舷 で 航 過 するように 右 に 針 路 を 転 じなかったこと また I 号 はレーダーを 使 用 していなかったことによる 見 張 り 不 十 分 も 原 因 のひとつになります この 海 難 事 故 は E 丸 の 当 直 航 海 士 が 居 眠 りに 陥 ってしまったことと E 丸 と I 号 が 海 上 衝 突 予 防 法 14 条 ( 行 き 会 い 船 の 航 法 )に 従 って 適 切 な 避 航 動 作 (お 互 いに 針 路 を 右 に 転 じる)を 取 ら なかったことが 原 因 で 発 生 したものとされています この 事 故 を 再 発 防 止 の 観 点 に 立 って BRM の SHELL を 用 いて 分 析 し 再 発 防 止 対 策 を 構 築 してみ ます 事 故 原 因 となった E 丸 当 直 航 海 士 の 居 眠 り と I 号 当 直 航 海 士 の E 丸 が 避 航 すると 思 った という 2 点 に 着 目 し これを 排 除 ノード( 直 接 間 接 の 事 故 原 因 で 最 初 のエラー)として 考 察 し ます (ノード: 発 話 や 行 動 判 断 などに 着 目 した 節 目 のこと) 手 順 は 排 除 ノードを 左 端 に 置 き それを なぜ なぜ なぜ というように BRM の SHELL のそれぞれを 当 てはめて 分 析 します すると 対 策 が 具 体 化 して 示 されるようになります さらに その 対 策 を 予 防 型 安 全 対 策 に 発 展 させ 実 行 するための 手 段 や 方 法 をそれぞれの なぜ で 示 された 項 目 に 対 する 対 策 として 構 築 することで 再 発 防 止 対 策 がより 具 体 的 なものになりま す それを 図 案 化 したものが 下 表 です 10
H S L E SHELL モデルを 使 用 した 分 析 L 排 除 ノード なぜ なぜ なぜ 対 策 E 丸 一 等 航 海 士 居 眠 りに 陥 る リクライニン グ 式 の 椅 子 に 座 っ 6 海 里 レンジ のレーダー 画 面 目 視 によ る 周 囲 の 確 認 で 支 障 となる 他 船 を 認 めな かっ (L-H-E) 居 眠 り 防 止 措 置 を 取 らなか っ 眠 気 を 感 じた ら 立 ち 上 が る 外 気 にあ たるなど する 十 分 休 息 を 取 っていたの で 居 眠 りを すると 思 わな かっ (L) 健 康 管 理 : 深 夜 早 朝 は 急 速 が 十 分 で も 眠 気 を 生 じ ることを 認 識 する I 号 一 等 航 海 士 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ E 丸 が 避 航 すると 思 っ 照 明 灯 を 点 滅 したので E 丸 が 避 航 する と 思 っ さらに 接 近 し た 状 況 でも E 丸 が 避 航 する と 思 い 続 航 し (L) 小 型 船 は 直 前 まで 避 航 動 作 を 取 らないと 思 っ (L) 航 法 を 遵 守 し 早 めに 右 転 して E 丸 を 避 航 する 行 き 会 い 船 の 状 況 と 思 わな かっ (L-S) レーダーを 使 用 してなかっ (H) コンパスやレ ーダーを 利 用 して 他 船 の 方 位 変 化 を 確 認 する 排 除 ノード: 直 接 間 接 の 事 故 原 因 (ノード:Node 発 話 行 動 判 断 などに 着 目 した 節 目 ) 例 えば 下 記 のような 予 防 型 安 全 対 策 が 考 えられます E 丸 リクライニング 式 の 椅 子 に 座 った L - H 椅 子 があることで 居 眠 りを 誘 発 するのであれば 船 橋 から 椅 子 を 撤 去 する 11
レーダーレンジの 適 切 な 運 用 L - H - E レーダーレンジを 適 宜 切 り 替 えて 周 囲 の 状 況 を 確 認 するような 手 順 書 を 作 成 し その 運 用 訓 練 を 乗 組 員 に 実 施 する 居 眠 り 防 止 措 置 L - H 居 眠 り 防 止 装 置 の 設 置 ( 当 時 は 未 設 置 ) また 眠 気 を 感 じたら 外 気 にあたるなどの 励 行 ( 乗 組 員 の 意 識 改 革 と 研 修 など) 健 康 管 理 L 運 航 計 画 を 見 直 し 過 重 労 働 になっていないかを 検 証 する I 号 海 上 衝 突 予 防 法 の 理 解 不 足 L - S 海 上 衝 突 予 防 法 の 理 解 を 深 めるための 乗 組 員 教 育 レーダーを 使 用 していなかった H レーダー 使 用 基 準 の 作 成 と 順 守 乗 組 員 教 育 ( 衝 突 事 故 事 例 2): 伊 豆 大 島 北 方 海 上 衝 突 事 故 例 2 天 候 : 霧 西 南 西 の 風 風 力 4 視 程 200m 視 界 制 限 状 態 時 間 相 手 船 との 距 離 ( 海 里 ) Y 丸 199GT 日 本 人 2 名 乗 組 み ( 通 常 は 3 名 ) 清 水 港 から 川 崎 港 向 け 針 路 <052> 速 力 11.1Kts ( 全 速 力 ) 船 長 と 二 等 航 海 士 2 名 が 在 橋 21:52 4.5-12 T 号 5,555GT 中 国 人 FTL 18 名 乗 組 み 木 更 津 港 から 神 戸 港 向 け 針 路 <225> 速 力 11.2Kts ( 全 速 力 ) 三 等 航 海 士 当 直 甲 板 手 の 2 名 当 直 3 海 里 レンジオフセンターで 前 方 5 海 里 まで 映 像 探 知 できる 状 況 にレー ダーをセット Y 丸 を ARPA で 確 認 前 方 2 海 里 に 他 2 隻 の 動 向 船 も 確 認
21:56 3.0 21:57 2.5 22:03 0.5 22:04 衝 突 1 号 レーダーを 3 海 里 2 号 レーダーを 1.5 海 里 レンジにセット 左 舷 首 7 度 に T 号 の 映 像 を 1 号 レーダーで 認 める また 船 首 わずか 1.2 海 里 及 び 船 首 左 9 度 0.4 海 里 に 反 航 船 を 認 める T 号 と 激 しく 接 近 すると 認 めたが 右 前 の 反 航 船 が 正 横 を 航 過 したので 右 転 開 始 針 路 を <058> とし T 号 との 衝 突 の 危 険 を 感 じ 汽 笛 による 長 3 音 を 連 続 吹 鳴 左 舵 一 杯 とし 機 関 回 転 数 も 落 とし 衝 突 直 前 に T 号 の 航 海 灯 ( 白 白 緑 )を 視 認 したが 左 転 も 速 力 変 化 の 効 果 なく 衝 突 同 行 船 に 後 続 すれば Y 丸 も 航 過 でき ると 思 い 込 んだ 左 舷 首 の 同 行 船 に 後 続 するため 針 路 を <223> とし( 左 に 2 度 変 針 ) Y 丸 の 右 転 に 気 付 かず そのまま 右 舷 対 右 舷 で 航 過 できると 思 っ Y 丸 の 汽 笛 は 気 づかず Y 丸 の 航 海 灯 ( 白 白 紅 )を 認 め 左 舵 5 度 左 舵 一 杯 とし 針 路 <184> まで 左 転 したが 衝 突 海 難 審 判 の 判 決 < 適 用 航 法 > Y 丸 T 号 とも 海 上 衝 突 予 防 法 19 条 ( 視 界 制 限 状 態 の 航 法 ) 違 反 < 海 難 の 原 因 > Y 丸 : 21:57 の 左 転 変 針 が 不 適 切 (この 時 点 で 針 路 を 保 つことが 出 来 る 最 小 限 度 の 速 力 とすべ き) T 号 : 小 刻 みな 左 転 レーダー 監 視 が 不 十 分 両 船 とも 視 界 制 限 状 態 になった 時 点 で 速 力 を 減 じ 霧 中 信 号 を 実 施 すべき これは 視 界 不 良 時 に 第 3 船 ( 青 色 の 西 行 船 2 隻 )も 存 在 している 中 で 発 生 した 衝 突 事 故 です 視 界 不 良 時 における 小 刻 みな 左 転 変 針 と T 号 航 海 士 の 思 い 込 み を 根 本 的 な 原 因 とし 排 除 ノードとして 取 り 上 げまし 本 件 だけでなく 視 界 制 限 状 態 での 衝 突 事 故 の 多 くは 他 船 が 正 横 より 前 方 に 存 在 していることを レーダーで 探 知 しているにも 係 わらず 左 転 変 針 していることが 多 いようです 海 上 衝 突 予 防 法 19 条 5 項 には 左 転 禁 止 がはっきりと 述 べられています 海 上 衝 突 予 防 法 19 条 5 項 前 項 ( 第 4 項 :レーダーのみにより 他 船 舶 の 存 在 を 探 知 した 船 舶 の 取 るべき 動 作 )の 規 定 による 動 作 をとる 船 舶 は やむを 得 ない 場 合 を 除 き 次 に 掲 げる 針 路 の 変 更 を 行 ってはならない 一 他 の 船 舶 が 自 船 の 正 横 より 前 方 にある 場 合 ( 当 該 他 の 船 舶 が 自 船 に 追 い 越 される 船 舶 である 場 合 を 除 く)において 針 路 を 左 に 転 じること 二 自 船 の 正 横 又 は 正 横 より 後 方 にある 他 の 船 舶 の 方 向 に 針 路 を 転 じること 13
H S L E SHELL モデルを 使 用 した 分 析 L 排 除 ノード なぜ なぜ なぜ 対 策 Y 丸 船 長 動 静 監 視 不 十 分 広 い 海 域 (E) 3 海 里 に 接 近 した 時 点 でレ ーダーで T 号 を 初 めて 確 認 レーダー 画 面 を 見 てい ただけ (L-H-E) 方 位 変 化 が 無 いことに 気 づ いていたが 他 反 航 船 もあ り 左 転 のち 右 転 レーダーによ る 動 静 監 視 を 十 分 に 行 う 著 しく 接 近 すると 認 め たが 視 界 制 限 状 態 で 左 転 視 界 制 限 状 態 であったが 霧 中 信 号 を 実 施 せず 安 全 な 速 力 に 減 じ なかっ (S) 他 反 航 船 を 航 過 した 後 左 転 すれば 楽 に T 号 をかわす と 思 い 込 ん だ (L-L) 航 法 を 遵 守 し 霧 中 信 号 の 実 施 安 全 な 速 力 まで 減 速 針 路 保 持 できる 最 小 速 力 とする T 号 三 等 航 海 士 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 同 行 船 に 後 続 すれば Y 丸 も 航 過 で きると 思 っ 夜 間 命 令 簿 に 反 し 船 長 に 視 界 不 良 を 報 告 しなかっ (L-H-S) さらに 接 近 し た 状 況 でも 同 行 船 に 後 続 すれば 航 過 で きると 思 っ 方 位 変 化 は 小 さいが 航 過 で きると 思 っ 船 長 指 示 の 遵 守 レーダー による 動 静 監 視 を 十 分 に 行 う 3 海 里 レンジ としたレーダ ーを 使 用 して い こきざみに 左 転 し (S) 航 法 を 遵 守 し 霧 中 信 号 の 実 施 安 全 な 速 力 まで 減 速 針 路 を 保 持 できる 最 小 速 力 とする 衝 突 事 故 事 例 1 と 同 様 に BRM の SHELL モデルを 利 用 した 分 析 を 行 い 再 発 防 止 対 策 を 講 じる と T 号 ではレーダーによる 監 視 は 3 海 里 レンジのみで 行 われていたことと 衝 突 前 に 思 い 込 み により 左 転 していること Y 丸 ではレーダーレンジ 設 定 が 3 海 里 と 1.5 海 里 であったことと T 号 が 著 しく 接 近 することが 分 かっていたのに 左 転 したことが 原 因 として 挙 がってきます 従 って 予 防 型 安 全 対 策 としては 両 船 とも 海 上 衝 突 予 防 法 の 理 解 を 深 め 実 践 することが 必 要 となります 14
内 航 貨 物 船 の 衝 突 事 件 の 特 徴 平 成 12 年 から 14 年 のデータ( 海 難 審 判 所 内 航 貨 物 船 海 難 の 分 析 より)であり 現 状 と 異 なるかもしれませんが 内 航 貨 物 船 の 衝 突 事 件 の 特 徴 は 次 の 通 りです 事 故 率 ( 内 航 船 全 体 の 隻 数 を 分 母 にして 算 出 )で 比 較 すべきところですが そのような 統 計 資 料 がないので 隻 数 で 比 較 し ています 平 成 12 年 から 14 年 に 裁 決 された 全 衝 突 事 件 は 1,059 件 (2,224 隻 )あり そのうち 内 航 貨 物 船 が 関 連 した 衝 突 事 件 は 335 件 ( 関 連 船 舶 は 680 隻 )で 内 訳 は 内 航 貨 物 船 が 404 隻 内 航 貨 物 船 以 外 の 船 舶 が 276 隻 でし 内 航 貨 物 船 同 士 による 衝 突 335 件 680 隻 69 件 266 件 542 隻 内 航 貨 物 船 とそれ 以 外 による 衝 突 138 隻 : 内 航 貨 物 船 隻 数 266 隻 : 内 航 貨 物 船 隻 数 276 隻 : 内 航 貨 物 船 以 外 の 隻 数 404 隻 船 種 別 は 下 記 グラフ 内 航 貨 物 船 同 士 の 衝 突 事 件 は 69 件 (138 隻 )であるのに 対 し 内 航 貨 物 船 がそれ 以 外 の 船 舶 と 衝 突 している のは 266 件 ( 542 隻 )でしこの 266 件 (542 隻 )の 相 手 船 の 内 訳 は 次 のグ ラフの 通 りです 約 半 数 以 上 が 漁 船 と 衝 突 事 故 を 起 こしています 漁 船 が 多 く 操 業 している 海 域 では より 注 意 が 必 要 です また 404 隻 の 内 航 船 衝 突 事 件 を 月 別 に 見 ると 6 月 に 多 く 発 生 しているこ とが 多 く 濃 霧 時 期 の 視 界 不 良 時 に 衝 突 事 故 を 発 生 しやすいようです また 時 間 帯 別 では 深 夜 0 時 から 明 け 方 6 時 までの 事 故 発 生 が 多 く 人 の 生 態 リズムと 類 似 してい ます 15
深 夜 から 早 朝 にかけて 多 く 人 体 の 生 体 リズムと 酷 似 0~6 時 が 124 隻 31% また 内 航 貨 物 船 が 関 連 した 衝 突 事 件 335 件 と その 他 の 衝 突 事 件 724 件 を 比 較 すると その 他 船 舶 では 沿 海 海 域 での 衝 突 事 件 が 多 いのに 対 し 内 航 貨 物 船 では 主 要 海 域 ( 東 京 湾 伊 勢 湾 紀 伊 水 道 大 阪 湾 瀬 戸 内 海 )での 衝 突 事 件 が 多 いことがわかります 16