2 国 立 博 物 館 日 本 における 国 立 博 物 館 は 1872 年 ( 明 治 5 年 )に 東 京 国 立 博 物 館 1877 年 ( 明 治 10 年 )に 国 立 科 学 博 物 館 1952 年 ( 昭 和 27 年 )に 国 立 近 代 美 術 館 が 設 立 され その 後

全 国 科 学 博 物 館 協 議 会 平 成 23 年 度 海 外 先 進 施 設 調 査 報 告 独 立 行 政 法 人 制 度 や 指 定 管 理 者 制 度 に 揺 れる 日 本 の 博 物 館 - 安 定 的 な 博 物 館 運 営 に 関 する 日 米 比 較 調 査 - 国 立 科 学 博 物 館 浅 草 澄 雄 1. 調 査 対 象 について 1 調 査 対 象 スミソニアン 機 構 :19 博 物 館 9 研 究 所 を 含 む 機 構 全 体 日 本 の 国 立 博 物 館 : 独 立 行 政 法 人 化 した 国 立 の 博 物 館 ( 文 化 財 研 究 機 構 4 館 国 立 美 術 館 5 館 国 立 科 学 博 物 館 1 館 の 3 法 人 10 館 )( 以 下 国 立 博 物 館 ) 大 学 共 同 利 用 機 関 である 国 立 歴 史 民 俗 博 物 館 国 立 民 族 学 博 物 館 は 対 象 外 2 使 用 データ 職 員 数 決 算 額 入 館 者 数 については 下 記 のデータを 使 用 スミソニアン 機 構 : Smithsonian Institution Budget Request to Congress ( 連 邦 議 会 に 提 出 する 予 算 書 )FY2004~2012(9 年 分 ) 国 立 博 物 館 :3 法 人 の 業 務 実 績 報 告 書 決 算 報 告 書 年 報 2001~2010 年 度 (10 年 分 ) 会 計 年 度 :2010 年 度 は 米 国 (2009/10~2010/9) 日 本 (2010/4~2011/3)である スミソニアン 機 構 の 職 員 数 については 日 本 の 国 立 博 物 館 の 常 勤 職 員 数 と 比 較 するため 予 算 書 の FTEs(full-time equivalents: 常 用 雇 用 者 換 算 )を 使 用 平 成 19 年 4 月 に 国 立 博 物 館 と 文 化 財 研 究 所 が 合 併 したため 文 化 財 研 究 機 構 の 職 員 数 は 東 文 研 奈 文 研 文 化 財 研 究 所 本 部 130 名 分 を 除 外 決 算 額 は 分 離 することが 不 可 能 なた め 機 構 全 体 の 決 算 額 となる 2.スミソニアン 機 構 と 国 立 博 物 館 について 1スミソニアン 機 構 スミソニアン 機 構 とは 英 国 の 科 学 者 ジェームズ スミスソンの 遺 産 を 基 金 として 1846 年 に 連 邦 議 会 の 立 法 に 基 づいて 設 立 された 組 織 であり 現 在 19 の 博 物 館 と9つの 研 究 所 を 有 する また 20 番 目 の 博 物 館 である National Museum of African American History & Culture を 建 設 予 定 である 運 営 の 最 高 機 関 はスミソニアン 評 議 委 員 会 (Board of Regents)であり 最 高 裁 判 所 長 官 副 大 統 領 上 院 議 員 3 名 下 院 議 員 3 名 市 民 9 名 の 17 名 構 成 されており スミソニアン 機 構 の 長 官 はこのメンバーの 中 からが 選 出 される 2010 年 度 の 職 員 数 は 政 府 からの 拠 出 金 で 雇 われている 連 邦 政 府 職 員 4,197 名 トラストファ ンド( 基 金 の 運 用 益 寄 附 売 上 げ 等 )で 雇 われている 職 員 1,246 名 合 計 5,443 名 である ( 内 博 物 館 職 員 は 1,998 名 ) 2010 年 度 の 決 算 額 は 政 府 からの 拠 出 金 636 百 万 ドル トラストファンド 272 百 万 ドル 合 計 908 百 万 ドル( 日 本 円 で 約 7,000 億 円 )である 2010 年 度 の 入 館 者 数 は 19 館 合 計 で 29,875,401 人 である 1

2 国 立 博 物 館 日 本 における 国 立 博 物 館 は 1872 年 ( 明 治 5 年 )に 東 京 国 立 博 物 館 1877 年 ( 明 治 10 年 )に 国 立 科 学 博 物 館 1952 年 ( 昭 和 27 年 )に 国 立 近 代 美 術 館 が 設 立 され その 後 も 国 立 博 物 館 が 設 置 されたが 各 館 単 独 での 運 営 を 行 ってきた しかし 平 成 13 年 4 月 の 独 立 行 政 法 人 化 の 際 に 東 京 国 立 博 物 館 京 都 国 立 博 物 館 奈 良 国 立 博 物 館 が 独 立 行 政 法 人 国 立 博 物 館 に 東 京 国 立 近 代 美 術 館 国 立 西 洋 美 術 館 京 都 国 立 近 代 美 術 館 国 立 国 際 美 術 館 が 独 立 行 政 法 人 国 立 美 術 館 に 統 合 され た また 独 法 後 には 九 州 国 立 博 物 館 国 立 新 美 術 館 が 設 置 され 平 成 19 年 4 月 には 独 立 行 政 法 人 国 立 博 物 館 と 独 立 行 政 法 人 文 化 財 研 究 所 が 統 合 し 現 在 の 独 立 行 政 法 人 文 化 財 機 構 となった 2010 年 度 の 職 員 数 は 472 名 である 2010 年 度 の 決 算 額 は 37,228 百 万 円 である 2010 年 度 の 入 館 者 数 は 10 館 合 計 で 9,369,365 人 である 2

3.スミソニアン 機 構 と 国 立 博 物 館 の 職 員 数 決 算 額 入 館 者 数 の 経 年 変 化 について 1 職 員 数 スミソニアン 機 構 全 体 では 2002 年 度 5,428 名 2010 年 度 5,443 名 (0.3% 増 )とほぼ 変 わら ない しかし 博 物 館 研 究 所 その 他 ( 機 構 本 部 警 備 案 内 施 設 管 理 図 書 館 など)の 部 門 別 で 見 ると 博 物 館 で 2,341 名 から 1,998 名 (343 名 14.7% 減 ) その 他 の 部 門 で 2,062 名 から 2,471 名 (409 名 19.8% 増 )と 博 物 館 からその 他 の 部 門 へ 人 員 がシフトしている その 理 由 は 2001 年 9 月 11 日 に 起 きたアメリカ 同 時 多 発 テロにより 博 物 館 の 警 備 を 強 化 する 必 要 があり 2004 年 度 に 各 館 で 雇 用 していた 警 備 員 などを 機 構 本 部 での 一 括 雇 用 に 切 り 替 え 合 理 化 を 図 ったためである 特 に 機 構 本 部 の 警 備 案 内 部 門 は 975 名 から 1,333 名 ( 358 名 36.7% 増 )と 大 幅 な 増 員 となっている また 警 備 案 内 以 外 にも 施 設 管 理 や IT 関 係 なども 各 館 から 機 構 本 部 に 切 り 替 え 合 理 化 を 図 ってい る 3

国 立 博 物 館 全 体 では 2002 年 度 477 名 2010 年 度 472 名 (1.0% 減 )とほぼ 変 わらないが 国 の 行 政 機 関 の 総 人 件 費 改 革 (H18~22 年 )により 5 年 間 で 人 件 費 5% 減 の 目 標 が 課 されたこと などにより 3 法 人 で 10 年 間 で 約 50 名 の 職 員 を 削 減 してきている 総 職 員 数 が 変 わらないのは 九 州 国 立 博 物 館 国 立 新 美 術 館 が 新 設 されたためである 職 員 数 の 比 較 に 関 しては アメリカでは FTEs(full-time equivalents: 常 用 雇 用 者 換 算 )で 常 勤 相 当 数 を 職 員 数 とカウントしており 日 本 においては 正 職 員 数 のみで 非 常 勤 職 員 はカウントされ ていない 両 者 を 比 べるために 国 立 博 物 館 全 体 の FTEs を 推 測 すると 472 名 FTEs 換 算 率 1.76 =831 名 となる( 科 博 の 2010 年 度 末 の 常 勤 職 員 131 名 非 常 勤 職 員 119 名 (FTEs100 名 ) FTEs 換 算 率 を 1.76 として 試 算 ) 単 純 にスミソニアン 機 構 全 体 の 職 員 数 5,443 名 と 国 立 博 物 館 の 常 勤 職 員 数 472 名 を 比 べると 11 倍 と 大 きな 開 きがあるのだが 純 粋 に 博 物 館 部 門 のみを FTEs で 比 較 するとスミソニアン 機 構 1,998 名 と 国 立 博 物 館 831 名 となり 約 2.4 倍 となるのである スミソニ アン 機 構 においては 本 部 機 能 と 警 備 施 設 管 理 で 約 2150 名 の 職 員 を 雇 用 しており 日 本 において はそのほとんどをアウトソーシングしているのが 大 きな 要 因 となっているものと 考 えられる 2 決 算 額 スミソニアン 機 構 全 体 では 2002 年 度 655,196 千 ドル 2010 年 度 907,938 千 ドル(38.6% 増 ) と 増 加 している 博 物 館 研 究 所 その 他 の 部 門 別 で 見 ると 博 物 館 で 242,745 千 ドルから 282,059 千 ドル(16.2% 増 ) 研 究 所 で 156,084 千 ドルから 186,483 千 ドル(19.5% 増 )その 他 の 部 門 で 256,367 千 ドルから 439,396 千 ドル(71.4% 増 )である その 他 の 部 門 が 大 幅 に 増 加 しているのは アメリカ 同 時 多 発 テロにより 警 備 経 費 (90% 増 )が 大 幅 に 増 加 したことと 老 朽 化 した 施 設 の 大 規 模 修 繕 などのため 施 設 管 理 経 費 (350% 増 )が 大 幅 に 増 加 したためである そのため 警 備 経 費 と 施 設 管 理 経 費 のみで 全 体 の 約 3 割 を 占 めるなど 高 コスト 体 質 となっている なお アメリカの 政 府 4

機 関 の 予 算 は 毎 年 インフレ 率 が 加 算 されるため 年 数 %ずつ 増 加 する 仕 組 だそうである 国 立 博 物 館 全 体 では 運 営 費 交 付 金 は 2002 年 度 11,970 百 万 円 2010 年 度 17,093 百 万 円 ( 42.8% 増 )と 増 加 している その 理 由 は 文 化 財 研 究 所 との 統 合 や 九 州 国 立 博 物 館 国 立 新 美 術 館 分 の 運 営 費 が 増 えたためである しかし 運 営 費 交 付 金 は 一 般 管 理 費 については 平 成 17 年 度 と 比 して 5 年 間 で15% 以 上 業 務 経 費 については 平 成 17 年 度 と 比 して5 年 間 で5% 以 上 の 削 減 を 図 るこ と ( 科 博 第 Ⅱ 期 中 期 目 標 )などと 削 減 目 標 が 課 せられている 施 設 整 備 補 助 金 ではこの 10 年 間 で 九 州 国 立 博 物 館 国 立 新 美 術 館 国 立 科 学 博 物 館 の 総 合 研 究 棟 自 然 史 標 本 棟 の 新 設 などがあり 約 600 億 円 支 出 されている 5

3 入 館 者 数 スミソニアン 機 構 19 館 の 総 入 館 者 数 は 2001 年 度 33,663,190 人 であったが アメリカ 同 時 多 発 テロのあった 2002 年 度 は 25,007,252 人 と 大 幅 に 減 少 (25.7% 減 )した 2010 年 度 も 29,875,401 人 とアメリカ 同 時 多 発 テロ 以 前 の 入 館 者 数 を 回 復 していない 国 立 博 物 館 の 総 入 館 者 数 は 2001 年 度 3,970,949 人 2010 年 度 9,369,365 人 (136% 増 )と 大 幅 に 増 加 している 特 に 法 人 化 後 の 第 Ⅰ 期 の 増 加 率 が 顕 著 であり 各 法 人 とも 中 期 目 標 で 入 館 者 数 の 増 加 を 課 せられ 特 別 展 の 開 催 回 数 を 大 幅 に 増 やしたことが 大 きな 要 因 であろう 総 入 館 者 数 で は 3.2 倍 と 開 きがあるが 1 館 平 均 ではアメリカ 約 157 万 人 日 本 約 94 万 人 であり アメリカで は 入 館 料 が 無 料 であることを 考 えると 日 本 の 国 立 博 物 館 は 大 きく 検 討 しているといえよう 4まとめ このように 日 米 の 国 立 博 物 館 の 経 年 変 化 をみると アメリカでは 同 時 多 発 テロが 日 本 では 独 立 行 政 法 人 化 が 大 きな 要 因 となっている 職 員 数 は 両 者 とも 変 わっていないのだが アメリカでは 警 備 清 掃 施 設 管 理 業 務 システムなど の 間 接 部 門 を 機 構 本 部 で 統 括 することによって 合 理 化 を 図 り 職 員 数 の 増 加 を 抑 えているのだが 一 方 日 本 では 国 からの 人 件 費 削 減 目 標 が 課 せられ 10 年 間 で 1 割 減 ったが 2 館 新 設 されたため 職 員 数 としては 同 程 度 となっている 決 算 額 は 共 に 増 加 傾 向 にあるが アメリカでは 警 備 費 や 施 設 管 理 費 施 設 の 大 規 模 修 繕 が 日 本 では 博 物 館 などの 新 設 が 大 きな 要 因 となっている 単 純 に 職 員 数 と 決 算 額 を 比 較 すると 職 員 数 で 11 倍 決 算 額 で 19 倍 と 大 きな 差 があるように 見 えるが 詳 細 に その 内 訳 を 分 析 すると スミソニアン 機 構 では 警 備 や 施 設 管 理 に 膨 大 な 人 員 と 経 費 を 費 やしている のである 入 館 者 数 は アメリカでは 同 時 多 発 テロ 前 の 入 館 者 数 を 回 復 していないが 日 本 では 約 2.4 倍 と 大 幅 に 増 加 している 6

4.その 他 運 営 全 般 の 調 査 機 構 本 部 の 役 割 は 下 記 の 通 りである 1 規 程 規 則 などの 制 定 スミソニアン 機 構 全 体 に 関 わる 規 程 規 則 ( 就 業 規 則 会 計 規 則 など)の 制 定 各 館 でも 独 自 に 内 規 を 制 定 できるが その 際 は 機 構 本 部 の 規 程 規 則 を 緩 めることはできない スミソニアン 機 構 のシ ンボルマークの 制 定 などを 行 いブランドイメージの 向 上 を 図 っている 2 外 部 との 交 渉 政 府 議 会 評 議 委 員 会 への 交 渉 は 機 構 本 部 のみが 行 っている 各 館 から 交 渉 を 行 うことは 禁 止 されている また 以 前 は 寄 附 等 の 外 部 への 交 渉 は 各 館 で 行 っていたが 複 数 の 館 が 同 じ 寄 付 者 に 交 渉 を 行 うなど 問 題 となったため 現 在 では 機 構 本 部 のみが 外 部 との 交 渉 を 行 っている 3 業 務 システムの 運 営 機 構 本 部 に 情 報 部 門 を 設 けて 人 事 給 与 会 計 出 張 などの 業 務 システムを 一 元 的 に 管 理 して いる また ホームページの 管 理 なども 行 っている 4 警 備 清 掃 施 設 管 理 ショップの 運 営 以 前 は 警 備 清 掃 や 施 設 管 理 などは 各 館 で 行 っていたが 前 述 したように 同 時 多 発 テロ 以 降 経 費 の 節 減 のために 機 構 本 部 で 一 括 管 理 してきている また 2012 年 度 には Smithsonian Tropical Research Institute の 施 設 管 理 部 門 約 40 名 が 機 構 本 部 の 管 轄 に 移 るそうである 1999 年 度 に 自 己 収 入 の 増 大 を 図 るため ショップやレストランを 運 営 する Smithsonian Enterprises を 設 立 した 各 館 の 展 示 改 修 の 際 にショップを 設 置 してきたが 売 り 上 げは 低 迷 して 7

おり 外 部 委 託 も 検 討 しているそうである 5 博 物 館 の 新 設 大 改 修 2003 年 度 に 開 館 した National Air and Space Museum Udvar-Hazy Center や 2004 年 度 に 開 館 した National Museum of the American Indian などの 博 物 館 の 新 設 は 機 構 本 部 が 担 当 している また 現 在 全 面 改 修 中 である Arts and Industries Building などの 大 規 模 改 修 も 機 構 本 部 が 担 当 し ている 展 示 のリニューアルは 各 館 で 担 当 している 機 構 本 部 の 権 限 はスミソニアン 機 構 全 体 に 関 わることのみであり 各 博 物 館 の 運 営 に 関 しては 自 治 権 が 確 立 しているようである 機 構 本 部 が 持 つ 人 事 権 は 各 館 の 館 長 の 任 命 のみであるため 各 博 物 館 の 人 事 には 関 与 しない ただし 各 博 物 館 の 部 長 級 の 人 事 には 機 構 本 部 の 同 意 が 必 要 だそうで ある 毎 年 決 められた 額 の 予 算 が 各 館 に 配 分 されるため 機 構 本 部 に 予 算 の 配 分 権 はほとんどない そうである しかし 新 規 事 業 や 大 規 模 修 繕 などで 予 算 が 足 りないときは 博 物 館 同 士 で 融 通 しあい その 際 には 本 部 の 了 承 が 必 要 である また 100 万 ドル 以 上 の 予 算 の 変 更 がある 場 合 には 議 会 の 承 認 が 必 要 となる 8