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Transcription:

F-4 英語の better off 構文について 大谷直輝 ( 東京外国語大学 ) キーワード : 英語 構文文法 better off 構文 イディオム 談話と語用論 1. はじめに本発表では 英語の better off XP が持つ特性を構文文法の観点から考察する (Goldberg 1995, 2006; Hilpert 2014) better off は形容詞 well-off の比較級とされ おもに形容詞の叙述用法で用いられる (1) He is now better off (than before).( 彼は ( 以前より ) 暮らし向きが良い ) (2) He will be better off financially. ( 彼は資金面で裕福になるだろう ) 一方 better off には XP が後続し 基準となる状態より XP が表す状態の方がましである という意味を表す用法も見られる (3) She is better off {with/without} me.( 彼女は私と { いる / いない } 方がうまくいく ) (4) I d be better off at home with all those kids!( この子たちと家に居る方がましだろう ) (5) Maybe I d be better off in jail.( おそらく 刑務所に入っている方がましだろう ) また XP の位置には現在分詞 過去分詞 形容詞のような better off に後続する要素としては文法的に不適切とされる語句が後続することもある (6) He is better off {buying/learning} it.( 彼は { それを買った / その言語を学んだ } 方がましだ ) (7) I m better off {left alone/gone from here}.({ 一人取り残された / ここから出た } 方がましだ ) (8) I m better off {dead/alone}.({ 死んだ / 一人でいる } 方がましだ ) (3)-(8) で示した better off XP には形式と意味の両面で不規則性が見られるため構文 (construction) とみなせる ( 以下 BO 構文と呼ぶ ) 意味の面では 必ずしも明示的には示されない現在の状況が想起され その状況に比べて XP が表す状況の方がましであることを示している また 形式の面では XP の位置に 現在分詞 過去分詞 形容詞など better off に後続する要素としては文法的に不規則とされる語句が現れる 本発表では British National Corpus (BNC), Corpus of Contemporary American English (COCA), Corpus of Historical American English (COHA) という 3 つのコーパスを用いることで BO 構文が持つ統語的 意味的 談話的特徴を明らかにする 2. イディオム構文と談話的な機能構文文法における構文の定義は必ずしも一貫している訳ではないが 一般的に 構文は形式と意味の対 (a form-meaning pair) からなる言語的な単位であるとされる (Fillmore et al. 1988; Goldberg 1995) また 構文を認定するための条件として 形式と意味の少なくとも一方に何らかの不規則性が見られることが想定されている Hilpert (2014) では 構文として認定するための条件として (9) の 4 点を挙げる (9) (a) 表現の形式が規範的なものから逸脱しているかどうか ( 統語的な不規則性 ) (b) 表現が非構成的な意味を伝達するかどうか ( 意味的な非構成性 ) (c) 表現に特異的な制約があるかどうか ( 表現に特有の制約 ) (d) 表現にコロケーションの選好性があるかどうか ( コロケーションの選好性 ) この 4 つに共通している点は 表現に何らかの不規則性が見られるため 全体をユニットとして記憶する必要がある点である 従来の構文研究では 主に (9a) と (9b) の基準を用いて構文を認定することが多かったが コーパスが普及して 構文が用いられる文脈的な情報についても定量的に示せるようになった現在 (9c) や (9d) のような基準についても構文を認定する重要な手掛かりとなっている 構文には語彙のような単純かつ具体的なものから項構造構文のように複雑かつ抽象的なものまで -246-

存在する また 構文は繰り返し起こる言語使用の中から抽出されるため 本質的に言語使用者の意図や心的態度や発話の状況を色濃く反映すると同時に 前後の文脈とも関連をすることから 内容的な意味以外に 対人的な機能や談話機能を持つ 構文文法では Glodberg (1995) をはじめとして 現在でも項構造構文が中心的な考察対象であるが 談話的な観点から構文を論じる研究は Fillmore et al. (1988) をはじめ初期の頃から存在し コーパスが普及して言語の使用文脈を大量に考察できる現在 構文文法の重要なテーマとなっている (Verhagen 2005; Hilpert 2018) 3. better off 構文の形式と意味本格的なコーパス調査に入る前に 本節では Hilpert (2014) で示された構文を認定するための 4 つの基準 (=(9)) の中でも 質的な分析で論じることができる第一の基準と第二の基準を用いて better off XP が典型的な構文とみなせる点を明らかにする 3.1 第一の基準 : 統語的な不規則性 better off XP の XP には統語的に不規則な要素が現れる better off は 裕福な 優位にある という意味を持つ形容詞であるが 形容詞に補語句が続く場合 一般的には 補語句の前に前置詞が現れ I m fond of sweets のように言う 一方 better off の XP の位置には (3)(4)(5) のような前置詞句だけではなく (6)(7)(8) の現在分詞 過去分詞 形容詞のような通常は現れない語句が出現する 1 さらに XP には 時間的な幅を含む状態を表す語句が出現し 名詞や代名詞は現れないという制約も見られる 3.2 第二の基準 : 意味的な非構成性意味の面でも BO 構文 (better off XP) には 部分からは推測できない意味が生じる 第一に XP が表す状態は先行文脈で明示的 暗示的に示されている XP が表す状態と対比される 第二に XP は話者にとって好ましい事態を表すが その事態は必ずしも一般常識において好ましい事態であるわけではない better off dead を例にすると dead は常識的に好ましい状態とは言えないが 話者にとっては XP が表す alive の状態に比べてましな状態と言える 第三に 対照的な状態 事態を対比しながら 必ずしも一般的に好ましくない状態 事態を話者が選ぶため 語用論的な誇張や皮肉が生じやすくなる better off dead( 死んだほうがましだ ) も誇張表現として 本当に死にたいわけではない場合にも用いられる 以上のように better off XP は形式と意味の対からなり 形式と意味の両面で不規則性が見られるため 言語の話者は構文として言語知識内に蓄えられていると考えられる better off XP-( 前提となる状況に対して )~した方がましだ形式意味 4. BNC を用いた better off 構文の網羅的な調査本節では BNC World Edition を用いた better off 構文の定量的な調査を行う BNC は約 1 億語の現代イギリス英語からなるコーパスであり 書き言葉が 9 割 話し言葉が 1 割で構成されている 本発表では BNC から better off の全 871 例をエクセルに抽出したうえで 各例に 6 つの変数を付与することで better off の振る舞いを調査した 用いた変数は 以下のものである 1 ただし -ing 形を動名詞とみると -ing 形は前置詞でもある off に後続するため不規則とは言えない しかし 動名詞とは対照的に off の後に名詞や代名詞は現れない点を考慮すると -ing 形は現在分詞と推測される -247-

# 変数 値 (1) 文法的な規則性 規則的 不規則的 (2) モダリティ要素との共起 助動詞 法副詞等 (3) better off 句の機能 限定用法 叙述用法 名詞的用法 (4) 文の主語 I, you, he, she, など (5) XP の種類 現在分詞 過去分詞 形容詞 前置詞句など (6) 言語使用域 書き言葉 / 話し言葉 表 1 変数と値 変数は BNC の事前調査に基づいて設定した 事前調査において BO 構文は 一人称 二人称主語や助動詞との共起が顕著であった 4.1 BO 構文の統語的 意味的な特徴最初に BNC に現れた better off の全 871 例の分類を記す better off (871) 名詞的 (13) 形容詞的 (858) 表 2 限定用法 (9) 叙述用法 (849) XP なし (297) 2 XP あり (552) 規則的 (381) 不規則的 (171) BNC における better off の機能に注目した分類 形容詞 (14) 過去分詞 (4) 現在分詞 (153) better off には 名詞化して裕福な人を表すもの (the better off may use ) や 限定用法で用いられるもの (the better off people) もあったが 98% 以上が叙述用法で用いられていた 叙述用法のうち 552 例には何らかの XP が後続しており 文全体では XP の方がましだ という意味を持っていた (10) では 本研究の考察対象となる XP あり ( すなわち BO 構文 ) の例を記す (10) (a) If that s what was going to happen, then the girl s better off dead! [ 形容詞 ] (b) [Y]ou would be better off studying the manual to learn each specific task. [ 現在分詞 ] (c)... an uneasy base behind which singer Bliss Blood (yes, her real name!) weaves her matter-of-fact tracts on bondage, desire and things that would be better off locked safely away. [ 過去分詞 ] (d) Stories about being better off out of work apply only to relatively few people,... [ 前置詞句 ] (e) I said you d be better off to book into a guest house. [to 不定詞 ] 形容詞に後続する要素を規範文法の観点から考えると (10a) から (10c) は不規則的な XP を取るが (10d) と (10e) は規則的な XP を取るとみなせる 一方 XP の位置には名詞や代名詞は現れない この点を考慮すると XP に入る要素に対しては 文法性を用いても意味のある一般化を行うことはできない一方で XP が表すものが一定の時間的な幅を持った状態であるかどうかという機能的な要素に注目することで妥当な一般化が行えると言える 3 次に XP に入る要素を意味的に見ていくと XP には一般的に好ましい事態ではなく 中立的な事態や好ましくない事態が現れる傾向が見られる 特に XP が形容詞や前置詞句の場合好ましく 2 ここには Overall your health would be a lot better off your cigarette( 結局は タバコを吸わない方が健康にかなり良いだろう ) のような better + off your cigarette という構造を持つ 1 例も含まれる 3 認知文法の観点では XP に入る形容詞 分詞 前置詞句 不定詞句は非プロセス関係 (non-processual relationship) を表す要素として 機能的にまとめることができる (Langacker 2008: Ch. 4) -248-

ない事態が現れる傾向が見られた (dead, alone, unaware, single, unborn, out-of-work) これらの文では 先行文脈において話者にとって受け入れられ難い事態が生じており その事態に比べれば 一般的には良くないと思われている状態であっても まだましだという事を述べている 4.2 BO 構文の談話的な特徴前節の最後に XP が表す状態は先行文脈から想起される状態とは対照的であると述べたが BO 構文は先行文脈と密接な関係があり 談話内で一定の語用論的な機能を持つ構文である そこで BO 構文が使用される状況に注目して共起しやすい要素を見ると 主語と法助動詞との共起関係にに傾向が見られた 最初に BNC 全体の中で better off に対する主語の人称と法助動詞の相互関係の強さを測るため BNC に現れる better off と主語の人称 / 法助動詞の共起頻度を 2 2 のクロス集計表を用いて記した 例として 表 3 と表 4 では better off に対する一人称の I と助動詞 might の共起関係を集計している better off better off 合計 better off better off 合計 I 41 850668 850709 might 17 59050 59067 I 830 9,354,761 9,355,591 might 854 10,146,379 10,147,233 合計 871 10,205,429 10,206,300 合計 871 10,205,429 10,206,300 表 3 better off 構文と一人称代名詞の共起頻度 表 4 better off 構文と might の共起頻度 BNC 内の文の総数については Stefanowitsch and Gries (2003) の集計を用いている この集計表に対してカイ二乗検定を行ったところ better off は 法助動詞と一人称 / 二人称の双方に対して 有意な結びつきが観察された さらに better off の叙述用法において XP がある場合とない場合に分けてカイ二乗検定を行った結果 両者の間には有意な差が見られた XP なし XP あり 合計 XP なし XP あり 合計 modal なし 214 344 558 3 人称主語 228 361 589 modal あり 83 208 291 1.2 人称主語 69 191 260 合計 297 552 849 合計 297 552 849 表 5 better off の叙述用法における 表 6 better off の叙述用法における XPと法助動詞の共起頻度 XPと代名詞の共起頻度 検定の結果 叙述用法で使われている better off の 849 例のうち 法助動詞と一人称 二人称の代名詞はともに XP がある場合との結びつきが有意に高かった つまり better off には次のようなパターンが観察された (11) (a) I would be better off in Canada, free of all these tethers. (b) you may be better off working closer to home. (c) We d be better off to save the money. 以上の結果に基づいて BO 構文が持つスキーマ的な構造を記すと 表 7 のようにまとめられる 先行文脈主語 (modal) 軸 XP ( 範囲指定 ) 前提となる状態 事態 I, you, we, その他 would, may, might, will, can, など be better off 前置詞句 ( 話者が望む状態 ) if ~ with/without~ 表 7 BO 構文のスキーマ的構造 -249-

表 7 が示すように BO 構文は先行文脈で示されている状態に対して 異なる状態の方が良いと主張している その際 (12) のように 異なる状態の方が良いとされる範囲が XP の後に明示的に現れる例も見られる (12) (a) you d be better off joining it at the back if you re gonna join it. (b) the customer would be better off buying now with any credit arrangement charging under 30 per cent a year. 4.3 考察 : better off の談話的 語用論的な特徴以上の結果に基づいて BO 構文が持つ談話的な特徴をまとめると BO 構文は典型的には談話内で次の機能を持つと考えられる 第一に BO 構文はメンタル スペースを立ち上げるスペース導入表現 (space builder) としての役割を持つ つまり BO 構文を使用することで 話者は 先行文脈で提示されている現実の状態とは異なる状況を仮想スペースにおいて提示している また BO 構文が単独でメンタルスペースを導入することもあれば 法助動詞 (would, might, など ) や if 節 with/without 句とともにスペースを導入することもある 現実スペースの状況と新たに導入された仮想スペースにおける状況は比較され 優劣をつけられる 現実スペースにおける状況は退けられ 仮想スペース内において XP が表す状況が 話者にとっては好ましい状況として選ばれる 第二に BO 構文は発話行為文として機能して 様々な発話内効力 (illocutionary force) を持つ (13) (a) But you d be much better off with someone else. [ 助言 ] (b) You may be better off going to the RSPCA... [ 提案 ] (c) You re better off leaving them there, for Christ s sake. [ 懇願 ] (d) I am better off without you. [ 脅し ] 発話行為文としての使用は 特に 一人称や二人称の主語を持つ場合に顕著である 自分や相手に対して ~ の方がましだ と言うことから 二人称が主語の場合は 助言 のような発話行為を行う さらに 相手に対する助言の程度が強くなると 提案 懇願 のような行為となる 一方 一人称が主語の場合は ネガティブな状態になった方がましだ と仮想スペースで提示することで 現実にそのような事態にならないように相手に対して 脅し をするような用法も見られる 5. better off に関するその他の調査本研究では Corpus of Contemporary American English (COCA) と Corpus of Historical American English (COHA) を用いて BO 構文に関する次の 2 つの疑問に関する調査も行った (14) (a) BO 構文は生産的な構文であるか (b) BO 構文は better off than XP や better off being XP における than や being の省略ではないか 5.1 事例研究 1:BO 構文の生産性本研究では 5 億語の現代のアメリカ英語が収集されている COCA を使用することで BO 構文の現代英語における生産性を検証した ここでは COCA を用いて BO 構文内の XP 位置に 1 度しか現れない語 (hapaxes) の調査を行った 4 調査のため COCA で用いられている文法タグを利用して 文法的な不規則性が見られる XP に現れる形容詞 現在分詞 過去分詞の調査を行った その結果 形容詞では 124 個のタイプのうち 49 個が (40%) 現在分詞では 1046 タイプのうち 304 個 (29%) が 過去分詞では 4 個のタイプのうち 2 個が (50%) 5 hapax であることが明らかになった 特に 4 5 一定の文脈の中で 1 回だけ出現する語 (hapax) の割合は構文やスキーマの生産性の指標となる 過去分詞のタイプ数が少ないが これは COCA の文法タグ付けに基づいている 過去分詞の中 -250-

XP が現在分詞と形容詞の場合に 高い生産性が見られる点が確認された 5.2 事例研究 2 BO 構文では better off dead や better off left alone のように XP 位置に形容詞や過去分詞が現れ文法的な不規則性が見られる例も見られる 一方で 文法的に不規則的に見えるものは 何らかの要素の省略によるものではないかという疑問も生じる そこで 本発表では better off XP に対して その非省略形とみなせる better off being XP や better off than XP を考察対象として (i) 3 つの句の出現頻度と (ii) 3 つの句の中の XP に現れる語句の多様性の比較を COCA と COHA を用いて行った その結果 通時的な調査でも共時的な調査でも BO 構文の方が出現回数も多く XP に現れる語も多様であるため BO 構文が単なる省略とはみなせない点が示唆された 6. まとめと今後の課題本発表の調査の結果 BO 構文 (better off XP) は構文を認定するための 4 つの基準を満たしていることが確認された また 共起する語の調査から BO 構文は先行文脈において提示された事態や状態とは異なる状態を想起させる点で談話的な機能を持つと同時に 発話内効力を持つ構文であることが確認された さらに 通時的 共時的調査により BO 構文は現代でも生産性が高い構文である点と 単なる省略ではない点が確認された 以上の結果から BO 構文は let alone 構文 (Fillmore et al. 1988) Sarcastic much? 構文 (Hilpart 2018) のように 生産性が高く 語用論的な前提と深く関与した構文と結論づけられる ( 参考文献 ) Fillmore, Charles J., Paul Kay and Mary C. O Connor (1988) Regularity and idiomaticity in grammatical constructions: The case of let alone, Language 64: 501-538. Goldberg, Adele E. (1995) Constructions: A Construction Grammar Approach to Argument Structure. Chicago: The Chicago University Press. Goldberg, Adele E. (2006) Constructions at Work: the Nature of Generalization in Language. Oxford: Oxford University Press. Hilpert, Martin (2014) Construction Grammar and Its Application to English. Edinburgh: Edinburgh University Press. Hilpert, Martin (2018) Intersubjectification in constructional change: From confrontation to solidarity in The «sarcastic much?» construction, presented at the 10th International Conference of Construction Grammar. Stefanowitsch, Anatol and Stefan Th. Gries (2003) Collostructions: investigating the interaction of words and constructions, International Journal of Corpus Linguistics 8: 209-243. Verhagen, Arie (2005) Constructions of Intersubjectivity. Discourse, Syntax and Cognition. Oxford: Oxford University Press. ( コーパス ) British National Corpus (BNC) Corpus of Contemporary American English (COCA) Corpus of Historical American English (COHA) には COCA において 形容詞に分類されているものも見られた ( 例 But sometimes a problem is better off left unfixed) -251-