別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

Similar documents
別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

Untitled

Microsoft Word CREST中山(確定版)

記 者 発 表(予 定)

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

生物時計の安定性の秘密を解明

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

<4D F736F F D C A838A815B83588BA493AF89EF8CA C668DDA8DCF816A2E646F63>

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

Microsoft Word - 日本語解説.doc

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - PRESS_

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

<4D F736F F D208DC58F498A6D92E88CB48D652D8B4C8ED289EF8CA992CA926D2E646F63>

平成14年度研究報告

論文の内容の要旨

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

Microsoft Word - tohokuuniv-press _03(修正版)

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

博士学位論文審査報告書

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

PowerPoint プレゼンテーション

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄


共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

2014年

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Microsoft Word - 01.doc

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Powered by TCPDF ( Title ダウン症における心奇形発症の原因遺伝子の同定 Sub Title Identification of the responsible gene(s) for congenital heart defect in Down

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

<4D F736F F D E616C5F F938C91E F838A838A815B835895B68F B8905F905F8C6F89C8816A2E646F63>

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

Microsoft Word - PR docx

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

共同研究報告書

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

<4D F736F F D E30392E32398B5A8F70838A838A815B83588BE391E594C55F8D4C95F18DC58F49816A2E646F63>

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

Transcription:

PRESS RELEASE(2016/09/08) 九州大学広報室 819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:koho@jimu.kyushu-u.ac.jp URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授 西山正章助教 片山雄太研究員らの研究グループは ヒトの自閉症患者で最も変異が多い CHD8( 1) というクロマチンリモデリング因子 ( 2) に着目し ヒト患者と同じような変異をマウスに起こすと コミュニケーション異常や固執傾向が強まるなど ヒトの自閉症とよく似た症状を呈することを見出しました 研究グループはこのマウスを用いて自閉症の発症メカニズムを解明し 将来の治療応用に向けた基盤を確立しました 自閉症は 非常に頻度の高い精神疾患 ( 発達障害 ( 3)) の一つで 全人口の約 2%(50 人に 1 人 ) が発症すると言われています 自閉症の原因として 胎児期の神経発達障害が以前から示唆されてきましたが 具体的な発症メカニズムは謎でした 近年 自閉症患者における遺伝子変異の大規模な探索により 最も変異率が高い遺伝子として CHD8 が発見されました CHD8 は 染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種です 本研究グループは今まで CHD8 の研究で世界をリードしてきましたが この度 ヒト自閉症患者と同じように CHD8 遺伝子変異を持つマウスでは ヒトの自閉症で観察されるコミュニケーション異常や固執傾向が強まるという現象を発見しました この自閉症モデルマウスを用いて 自閉症が発症するメカニズムをトランスオミクス解析 ( 4) という新技術によって調べたところ 遺伝子変異によって CHD8 の量が減少すると REST( 5) という神経発達に重要なたんぱく質が異常に活性化され その結果として神経の発達遅延が起こることがわかりました つまり CHD8 を人工的に上昇させるか REST を抑えるかのいずれかで自閉症が治療できる可能性を示すものです 本研究成果は 2016 年 9 月 7 日 ( 水 ) 午後 6 時 ( 英国時間 ) に英国科学雑誌 Nature で公開されました なお 用語解説は別紙を参照 図 CHD8 は REST を抑えることにより神経発生を調節する 研究者からひとこと : 健常者では CHD8 が REST の活性を抑えることによって正常な神経発生が行われますが 自閉症患者では CHD8 の変異により REST が異常活性化して神経発生が遅延することが明らかとなりました 自閉症の原因が判明したことによって 新たな治療法の開発が期待されます お問い合わせ 中山敬一 ( ナカヤマケイイチ ) 生体防御医学研究所主幹教授 Tel:092-642-6815 Fax:092-642-6819 E-mail:nakayak1@bioreg.kyushu-u.ac.jp

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手順を踏むことへの強いこだわり ( 固執傾向 ) 反復 限定された行動などを特徴とする障害です ( 図 1) 最近の報告では全人口の 2%( 約 50 人に 1 人 ) が自閉症患者であるとされていますが その発症メカニズムについては十分に理解されておらず 根本的な治療法は未だ確立されていません 近年の遺伝子解析技術の発展に伴って 自閉症患者を対象とした大規模な遺伝子検査が行われ 多くの遺伝子変異が同定されました これらの遺伝子の中で CHD8 は自閉症患者のうち最も変異率が高かったことから 自閉症の有力な原因候補遺伝子とされています CHD8 は 染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種です C HD8 はそのクロマチンリモデリング活性によって 様々な遺伝子の発現を調節することが知られています ( 図 2) 本研究グループはこれまでに 世界で初めて CHD8 を人工的に欠損させたマウスを作製し CHD8 が発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを示してきました しかし CH D8 の遺伝子変異が なぜ どのように自閉症につながるのかという点については 謎のままでした < 研究の内容 > ヒト自閉症患者で発見された変異の多くは 半欠損 ( 正常では 2 つある CHD8 の遺伝子の 1 つが欠損すること ) であったため 本研究グループは 人工的に CHD8 を半欠損させたマウスを作製し その行動を詳細に解析しました まず社会性およびコミュニケーション能力を調べるために 社会性試験 ( 6) を行いました CH D8 半欠損マウスは正常マウスに比べて接触時間は増加しますが お互いの匂いを嗅いだり追いかけたりというコミュニケーション行動は減少するという異常を示しました ( 図 3) これらの行動異常は自閉症患者でみられるコミュニケーション障害のうち 特に受動型もしくは積極奇異型と呼ばれるタイプの行動に似ています 次に 物事に異常なこだわりをもつ固執傾向を評価する T 字迷路試験を行いました すると CHD8 半欠損マウスは一度覚えたことに対して強いこだわりがみられ 新しいことを受け入れられない様子が観察されました この結果は CHD8 半欠損マウスの固執が強いことを示しており 自閉症患者の特徴とも一致します さらに 不安様行動を調べるために 高架式十字迷路試験 ( 7) を行ったところ CHD8 半欠損マウスでは 恐怖を感じる場所である壁のない通路への進入回数と滞在時間がいずれも減少していました ( 図 4) この結果から CHD8 半欠損マウスでは不安様行動が著しく増加していることがわかり これらはヒトの自閉症患者でみられる症状と合致しました これらの結果から CHD8 半欠損マウスは予想通り ヒト型の自閉症を発症していると考えられ CHD8 が自閉症の原因遺伝子であると結論づけました CHD8 はクロマチンリモデリング因子であるため その変異は遺伝子発現に影響することが予想されます そこで本研究グループは CHD8 半欠損マウスにおける全遺伝子の発現状態を総合的に調べる新技術である トランスオミクス解析 を行いました その結果 CHD8 半欠損マウスにおいて神経発達に重要なたんぱく質である REST の活性が顕著に上昇していることがわかりました REST の活性が上昇すると神経発達が障害されることが知られていますが 予想通り CHD8 半欠損マウスでは神経発達が障害していることがわかりました さらにこの REST 活性の上昇は ヒト自閉症患者の脳でも同様に観察されました ( 図 5) つまり REST 標的遺伝子量の低下が 実際にヒトの自閉症発症に強く関与していることが示唆されました 以上の結果から CHD8 は神経発達に重要なたんぱく質である REST の活性を抑えることによって 神経発達を調節していることが考えられます CHD8 に変異が起こると REST が異常に活性化することによって神経発達が障害され その結果自閉症を発症することが明らかになりました ( 図 6) < 今後の展開と治療応用への期待 > 本研究では CHD8 の量が減少する結果 REST が異常に活性化していることが明らかとなり

これが発達異常を引き起こしている可能性が高いことが判明しました つまり CHD8 を人工的に上昇させるか REST を抑えるかのいずれかで自閉症が治療できる可能性を示すものです また CHD8 半欠損マウスは有用な自閉症モデル動物になると考えられます 今後はこのモデルマウスを用いて 自閉症の詳細な発症メカニズムを解明するとともに 自閉症に効果のある薬剤の探索をおこなうことで 治療への応用を目指していきたいと考えています < 参考図 > 図 1 自閉症とは自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害 また決まった手順を踏むことに強いこだわりを持っている ( 固執 ) 等といった反復 限定された行動を特徴とする障害です 図 2 クロマチンリモデリング因子 CHD8 染色体 ( クロマチン ) は DNA をヒストンというたんぱく質に巻き付けて ( ヌクレオソーム ) 高度に折り畳んで収納したものです CHD8 は この染色体の構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種で 様々な遺伝子の発現を調節することが知られています

図 3 CHD8 半欠損マウスはコミュニケーション障害を示す CHD8 半欠損マウスは 接触時間は増加するものの お互いの匂いを嗅いだり追いかけたりといったコミュニケーション行動は減少するという 特殊な社会性異常を示しました 図 4 CHD8 半欠損マウスは強い不安様行動を示す高いところにある迷路にマウスを入れると CHD8 半欠損マウスでは壁のない通路への進入回数と滞在時間がいずれも減少していました

図 5 自閉症患者では REST の標的遺伝子量が低下している CHD8 半欠損マウスでは 神経発達に重要なたんぱく質である REST の活性が顕著に上昇していることがわかり この変化は自閉症患者の脳でも同様に観察されました 図 6 CHD8 は REST を抑えることにより神経発生を調節する CHD8 は神経発達に重要なたんぱく質である REST の働きを抑えることによって 胎児期における神経発達のタイミングを調節しています CHD8 に変異が起こると REST が異常に活性化することによって神経発達が障害され その結果自閉症を発症すると考えられます

< 用語解説 > ( 1)CHD8: 染色体構造を変化させる作用を持つクロマチンリモデリング因子という一群のたんぱく質の一種です 自閉症患者で最も多くの変異が見つかり 有力な原因遺伝子として同定されました ( 2) クロマチンリモデリング因子 : 染色体 ( クロマチン ) 構造を変化させる ( リモデリング ) 作用を持つたんぱく質で 遺伝子の発現量を調節する働きがあります ( 3) 発達障害 : 正常な脳機能の発達が障害された状態です 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害などが含まれます ( 4) トランスオミクス解析 : 遺伝子 遺伝子を調節する化学修飾 遺伝子から作られる転写物 等を全て測定することによって 体内にどのような変化が起こっているかを総合的に調べる新技術 九州大学ではわが国で初めてトランスオミクスの専門的施設である トランスオミクス医学研究センター ( センター長 : 中山敬一 ) を設置し このような解析を得意としています ( 5)REST: 特定の遺伝子配列 (RE1 配列 ) に結合して 神経にとって重要な遺伝子群の発現を抑えているたんぱく質です ( 6) 社会性試験 : 2 匹のマウスを四角の箱の中に入れて お互いの接触時間や接触回数を測定します マウスの社会性を評価することができます ( 7) 高架式十字迷路試験 : 壁のある通路と壁のない通路が十字に交差する迷路を床から高いところに設置して 十字迷路内でのマウスの行動を評価します 不安が強いマウスは壁のない通路に出てこなくなります < 論文名 > CHD8 haploinsufficiency results in autistic-like phenotypes in mice (CHD8 の遺伝子量不足はマウスにおける自閉症様の行動に直結する ) Nature, in press (Advance Online Publication), 2016 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 科学研究費補助金 新学術領域研究研究領域 : マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 ( 領域代表者 : 喜田聡東京農業大学応用生物科学部教授 ) 研究課題名 : 新規モデルマウスを用いた自閉症マイクロエンドフェノタイプの解明 研究代表者 : 中山敬一 ( 九州大学生体防御医学研究所主幹教授 ) 研究期間 : 平成 27 年 4 月 ~ 平成 29 年 3 月 お問い合わせ 中山敬一 ( ナカヤマケイイチ ) 生体防御医学研究所主幹教授 Tel:092-642-6815 Fax:092-642-6819 E-mail:nakayak1@bioreg.kyushu-u.ac.jp