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PRESS RELEASE(2016/09/08) 九州大学広報室 819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:koho@jimu.kyushu-u.ac.jp URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授 西山正章助教 片山雄太研究員らの研究グループは ヒトの自閉症患者で最も変異が多い CHD8( 1) というクロマチンリモデリング因子 ( 2) に着目し ヒト患者と同じような変異をマウスに起こすと コミュニケーション異常や固執傾向が強まるなど ヒトの自閉症とよく似た症状を呈することを見出しました 研究グループはこのマウスを用いて自閉症の発症メカニズムを解明し 将来の治療応用に向けた基盤を確立しました 自閉症は 非常に頻度の高い精神疾患 ( 発達障害 ( 3)) の一つで 全人口の約 2%(50 人に 1 人 ) が発症すると言われています 自閉症の原因として 胎児期の神経発達障害が以前から示唆されてきましたが 具体的な発症メカニズムは謎でした 近年 自閉症患者における遺伝子変異の大規模な探索により 最も変異率が高い遺伝子として CHD8 が発見されました CHD8 は 染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種です 本研究グループは今まで CHD8 の研究で世界をリードしてきましたが この度 ヒト自閉症患者と同じように CHD8 遺伝子変異を持つマウスでは ヒトの自閉症で観察されるコミュニケーション異常や固執傾向が強まるという現象を発見しました この自閉症モデルマウスを用いて 自閉症が発症するメカニズムをトランスオミクス解析 ( 4) という新技術によって調べたところ 遺伝子変異によって CHD8 の量が減少すると REST( 5) という神経発達に重要なたんぱく質が異常に活性化され その結果として神経の発達遅延が起こることがわかりました つまり CHD8 を人工的に上昇させるか REST を抑えるかのいずれかで自閉症が治療できる可能性を示すものです 本研究成果は 2016 年 9 月 7 日 ( 水 ) 午後 6 時 ( 英国時間 ) に英国科学雑誌 Nature で公開されました なお 用語解説は別紙を参照 図 CHD8 は REST を抑えることにより神経発生を調節する 研究者からひとこと : 健常者では CHD8 が REST の活性を抑えることによって正常な神経発生が行われますが 自閉症患者では CHD8 の変異により REST が異常活性化して神経発生が遅延することが明らかとなりました 自閉症の原因が判明したことによって 新たな治療法の開発が期待されます お問い合わせ 中山敬一 ( ナカヤマケイイチ ) 生体防御医学研究所主幹教授 Tel:092-642-6815 Fax:092-642-6819 E-mail:nakayak1@bioreg.kyushu-u.ac.jp

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手順を踏むことへの強いこだわり ( 固執傾向 ) 反復 限定された行動などを特徴とする障害です ( 図 1) 最近の報告では全人口の 2%( 約 50 人に 1 人 ) が自閉症患者であるとされていますが その発症メカニズムについては十分に理解されておらず 根本的な治療法は未だ確立されていません 近年の遺伝子解析技術の発展に伴って 自閉症患者を対象とした大規模な遺伝子検査が行われ 多くの遺伝子変異が同定されました これらの遺伝子の中で CHD8 は自閉症患者のうち最も変異率が高かったことから 自閉症の有力な原因候補遺伝子とされています CHD8 は 染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種です C HD8 はそのクロマチンリモデリング活性によって 様々な遺伝子の発現を調節することが知られています ( 図 2) 本研究グループはこれまでに 世界で初めて CHD8 を人工的に欠損させたマウスを作製し CHD8 が発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを示してきました しかし CH D8 の遺伝子変異が なぜ どのように自閉症につながるのかという点については 謎のままでした < 研究の内容 > ヒト自閉症患者で発見された変異の多くは 半欠損 ( 正常では 2 つある CHD8 の遺伝子の 1 つが欠損すること ) であったため 本研究グループは 人工的に CHD8 を半欠損させたマウスを作製し その行動を詳細に解析しました まず社会性およびコミュニケーション能力を調べるために 社会性試験 ( 6) を行いました CH D8 半欠損マウスは正常マウスに比べて接触時間は増加しますが お互いの匂いを嗅いだり追いかけたりというコミュニケーション行動は減少するという異常を示しました ( 図 3) これらの行動異常は自閉症患者でみられるコミュニケーション障害のうち 特に受動型もしくは積極奇異型と呼ばれるタイプの行動に似ています 次に 物事に異常なこだわりをもつ固執傾向を評価する T 字迷路試験を行いました すると CHD8 半欠損マウスは一度覚えたことに対して強いこだわりがみられ 新しいことを受け入れられない様子が観察されました この結果は CHD8 半欠損マウスの固執が強いことを示しており 自閉症患者の特徴とも一致します さらに 不安様行動を調べるために 高架式十字迷路試験 ( 7) を行ったところ CHD8 半欠損マウスでは 恐怖を感じる場所である壁のない通路への進入回数と滞在時間がいずれも減少していました ( 図 4) この結果から CHD8 半欠損マウスでは不安様行動が著しく増加していることがわかり これらはヒトの自閉症患者でみられる症状と合致しました これらの結果から CHD8 半欠損マウスは予想通り ヒト型の自閉症を発症していると考えられ CHD8 が自閉症の原因遺伝子であると結論づけました CHD8 はクロマチンリモデリング因子であるため その変異は遺伝子発現に影響することが予想されます そこで本研究グループは CHD8 半欠損マウスにおける全遺伝子の発現状態を総合的に調べる新技術である トランスオミクス解析 を行いました その結果 CHD8 半欠損マウスにおいて神経発達に重要なたんぱく質である REST の活性が顕著に上昇していることがわかりました REST の活性が上昇すると神経発達が障害されることが知られていますが 予想通り CHD8 半欠損マウスでは神経発達が障害していることがわかりました さらにこの REST 活性の上昇は ヒト自閉症患者の脳でも同様に観察されました ( 図 5) つまり REST 標的遺伝子量の低下が 実際にヒトの自閉症発症に強く関与していることが示唆されました 以上の結果から CHD8 は神経発達に重要なたんぱく質である REST の活性を抑えることによって 神経発達を調節していることが考えられます CHD8 に変異が起こると REST が異常に活性化することによって神経発達が障害され その結果自閉症を発症することが明らかになりました ( 図 6) < 今後の展開と治療応用への期待 > 本研究では CHD8 の量が減少する結果 REST が異常に活性化していることが明らかとなり

これが発達異常を引き起こしている可能性が高いことが判明しました つまり CHD8 を人工的に上昇させるか REST を抑えるかのいずれかで自閉症が治療できる可能性を示すものです また CHD8 半欠損マウスは有用な自閉症モデル動物になると考えられます 今後はこのモデルマウスを用いて 自閉症の詳細な発症メカニズムを解明するとともに 自閉症に効果のある薬剤の探索をおこなうことで 治療への応用を目指していきたいと考えています < 参考図 > 図 1 自閉症とは自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害 また決まった手順を踏むことに強いこだわりを持っている ( 固執 ) 等といった反復 限定された行動を特徴とする障害です 図 2 クロマチンリモデリング因子 CHD8 染色体 ( クロマチン ) は DNA をヒストンというたんぱく質に巻き付けて ( ヌクレオソーム ) 高度に折り畳んで収納したものです CHD8 は この染色体の構造を変化させるクロマチンリモデリング因子というたんぱく質の一種で 様々な遺伝子の発現を調節することが知られています

図 3 CHD8 半欠損マウスはコミュニケーション障害を示す CHD8 半欠損マウスは 接触時間は増加するものの お互いの匂いを嗅いだり追いかけたりといったコミュニケーション行動は減少するという 特殊な社会性異常を示しました 図 4 CHD8 半欠損マウスは強い不安様行動を示す高いところにある迷路にマウスを入れると CHD8 半欠損マウスでは壁のない通路への進入回数と滞在時間がいずれも減少していました

図 5 自閉症患者では REST の標的遺伝子量が低下している CHD8 半欠損マウスでは 神経発達に重要なたんぱく質である REST の活性が顕著に上昇していることがわかり この変化は自閉症患者の脳でも同様に観察されました 図 6 CHD8 は REST を抑えることにより神経発生を調節する CHD8 は神経発達に重要なたんぱく質である REST の働きを抑えることによって 胎児期における神経発達のタイミングを調節しています CHD8 に変異が起こると REST が異常に活性化することによって神経発達が障害され その結果自閉症を発症すると考えられます

< 用語解説 > ( 1)CHD8: 染色体構造を変化させる作用を持つクロマチンリモデリング因子という一群のたんぱく質の一種です 自閉症患者で最も多くの変異が見つかり 有力な原因遺伝子として同定されました ( 2) クロマチンリモデリング因子 : 染色体 ( クロマチン ) 構造を変化させる ( リモデリング ) 作用を持つたんぱく質で 遺伝子の発現量を調節する働きがあります ( 3) 発達障害 : 正常な脳機能の発達が障害された状態です 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害などが含まれます ( 4) トランスオミクス解析 : 遺伝子 遺伝子を調節する化学修飾 遺伝子から作られる転写物 等を全て測定することによって 体内にどのような変化が起こっているかを総合的に調べる新技術 九州大学ではわが国で初めてトランスオミクスの専門的施設である トランスオミクス医学研究センター ( センター長 : 中山敬一 ) を設置し このような解析を得意としています ( 5)REST: 特定の遺伝子配列 (RE1 配列 ) に結合して 神経にとって重要な遺伝子群の発現を抑えているたんぱく質です ( 6) 社会性試験 : 2 匹のマウスを四角の箱の中に入れて お互いの接触時間や接触回数を測定します マウスの社会性を評価することができます ( 7) 高架式十字迷路試験 : 壁のある通路と壁のない通路が十字に交差する迷路を床から高いところに設置して 十字迷路内でのマウスの行動を評価します 不安が強いマウスは壁のない通路に出てこなくなります < 論文名 > CHD8 haploinsufficiency results in autistic-like phenotypes in mice (CHD8 の遺伝子量不足はマウスにおける自閉症様の行動に直結する ) Nature, in press (Advance Online Publication), 2016 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 科学研究費補助金 新学術領域研究研究領域 : マイクロエンドフェノタイプによる精神病態学の創出 ( 領域代表者 : 喜田聡東京農業大学応用生物科学部教授 ) 研究課題名 : 新規モデルマウスを用いた自閉症マイクロエンドフェノタイプの解明 研究代表者 : 中山敬一 ( 九州大学生体防御医学研究所主幹教授 ) 研究期間 : 平成 27 年 4 月 ~ 平成 29 年 3 月 お問い合わせ 中山敬一 ( ナカヤマケイイチ ) 生体防御医学研究所主幹教授 Tel:092-642-6815 Fax:092-642-6819 E-mail:nakayak1@bioreg.kyushu-u.ac.jp