序 癌を治そう 皮膚の悪性腫瘍はひとことでまとめるには種類が多く, 悪性度もさまざまである. 癌は長らく日本人の死因の第 1 位を占めており, 予後の改善は大きな命題であるが, 皮膚の悪性腫瘍はといえば, 肺癌, 胃癌, 大腸癌と頻度の高い癌から順に数えて 10 番めにも入らない. そのため日本では

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性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

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H26大腸がん

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会場セッション演題番号時間司会 座長 審査員 第 1 会場 ( フォレストホール 1 2) 第 2 会場 ( 第 7 会議室 ) 第 3 会場 ( 第 5 6 会議室 ) 特別企画 I( 初期 ) W1-01~10 9:20-10 : 30 福島県立医科大学消化器内科学講座 大平弘正 東北医科薬科大

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

22. 都道府県別の結果及び評価結果一覧 ( 大腸がん検診 集団検診 ) 13 都道府県用チェックリストの遵守状況大腸がん部会の活動状況 (: 実施済 : 今後実施予定はある : 実施しない : 評価対象外 ) (61 項目中 ) 大腸がん部会の開催 がん部会による 北海道 22 C D 青森県 2


EGFR-TKI を使用した場合と第 2 世代 EGFR-TKI を使用した場合とでその後のタグリッソの効果が同等であるかは明らかではありません 両者の間で EGFR 以外の癌に関する遺伝子の状態にも違いが生じている可能性もあります そこで今回私たちは EGFR-TKI に対する耐性獲得時に T79

1 BNCT の内容 特長 Q1-1 BNCT とは? A1-1 原子炉や加速器から発生する中性子と反応しやすいホウ素薬剤をがん細胞に取り込ませ 中性子とホウ素薬剤との反応を利用して 正常細胞にあまり損傷を与えず がん細胞を選択的に破壊する治療法です この治療法は がん細胞と正常細胞が混在している悪

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がん登録実務について

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1. はじめに近畿ブロック ( 福井県 滋賀県 京都府 奈良県 和歌山県 ) で指定を受けた小児がん拠点病院 ( 以下 拠点病院 ) は 京都府立医科大学附属病院 京都大学医学部附属病院 立こども病院 大阪市立総合医療センター 立母子保健総合医療センターの 5 施設 ( 順不同 ) であり 全国 7

1 検査の背景 国立大学附属病院は 平成 16 年の国立大学の法人化以降 収支の企業的管理が必要 となり 個々の国立大学附属病院がその経営について独自に責任を負うこととなった そして 医療制度改革等では 国立大学附属病院を含めた病院の役割分担による医 療提供体制の再構築が求められている さらに 医療

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

1 BNCT の内容 特長 QA Q1-1 BNCT とは? A1-1 原子炉や加速器から発生する中性子と反応しやすいホウ素薬剤をがん細胞に取り込ませ 中性子とホウ素薬剤との反応を利用して 正常細胞にあまり損傷を与えず がん細胞を選択的に破壊する治療法です この治療法は がん細胞と正常細胞が混在して

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

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率 九州 ( 工 -エネルギー科学) 新潟 ( 工 - 力学 ) 神戸 ( 海事科学 ) 60.0 ( 工 - 化学材料 ) 岡山 ( 工 - 機械システム系 ) 北海道 ( 総合理系 - 化学重点 ) 57.5 名古屋工業 ( 工 - 電気 機械工 ) 首都大学東京

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

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精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

2004年度日本経団連規制改革要望

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下手術を本格導入 東海中央病院では 平成25年1月から 胃癌 大腸癌に対する腹腔鏡下手術を本格導入しており 術後の合併症もなく 早期の退院が可能となっています 4月からは 内視鏡外科技術認定資格を有する 日比健志消化器外科部長が赴任し 通常の腹腔 鏡下手術に

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付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

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長野県がん診療連携拠点病院整備検討委員会機能評価 会議記録(要旨)

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0238 モダンメディア 61 巻 8 号 2015[ 臨床検査アップデート ] Up date Detection of BRAF V600 in melanoma う宇 はらひさし原久 Hisashi UHARA はじめに 2014 年 12 月にコンパニオン診断薬 コバス BRAF V600

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

『戦時経済体制の構想と展開』

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がん化学 ( 放射線 ) 療法レジメン申請書 記載不備がある場合は審査対象になりません * は記入不要です 申請期日 2013/6/17 受付番号 診療科名 脳神経外科 がん腫 ( コード ) 診療科長名 申請医師名 レジメン登録ナンバー 登録申請日 審査区分 ( 下記をチェックしてください ) 登


- 1 - Ⅰ. 調査設計 1. 調査の目的 本調査は 全国 47 都道府県で スギ花粉症の現状と生活に及ぼす影響や 現状の対策と満足度 また 治療に対する理解度と情報の到達度など 現在のスギ花粉症の実態について調査しています 2. 調査の内容 - 調査対象 : ご自身がスギ花粉症である方 -サンプ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

これまで, 北海道大学動物医療センターの高木哲准教授, 同大学院獣医学研究院の今内覚准教授及び賀川由美子客員教授らは, イヌの難治性の腫瘍においても PD-L1 が頻繁に発現していることを報告してきました そこで, イヌの腫瘍治療に応用できる免疫チェックポイント阻害薬としてラット -イヌキメラ抗 P

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

年齢 年齢 1. 柏 2. 名古屋 3. G 大阪 4. 仙台 5. 横浜 FM 6. 鹿島 -19 歳 0 0.0% 0 0.0% 2 2.7% 1 1.4% 3 4.0% 3 4.6% 歳 4 5.0% 5 6.7% 7 9.6% 2 2.7% 2 2.7% % 25-2

はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

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付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

平成 26 年 3 月 28 日 消防庁 平成 25 年の救急出動件数等 ( 速報 ) の公表 平成 25 年における救急出動件数等の速報を取りまとめましたので公表します 救急出動件数 搬送人員とも過去最多を記録 平成 25 年中の救急自動車による救急出動件数は 591 万 5,956 件 ( 対前

日本内科学会雑誌第96巻第4号

外来在宅化学療法の実際

活用ガイド (ハードウェア編)

再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

37 東京 私 大妻女子大学大学院 人間文化研究科 38 東京 私 学習院大学大学院 人文科学研究科 39 東京 私 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 40 東京 私 駒沢女子大学大学院 人文科学研究科 41 東京 私 駒澤大学大学院 人文科学研究科 心理学専攻 臨床心理学コース 42 東京

加齢皮膚医学プログラム・抄録2015 第2校

本資料は 米国ブリストル マイヤーズスクイブ社が 2015 年 9 月 16 日 ( 米国現地時間 ) に発表しましたプレスリリースの日本語訳 ( 抜粋 ) をご参考までにお届けするものです 内容につきましては原本である英文が優先します ブリストル マイヤーズスクイブ社のオプジーボ ( ニボルマブ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

通話品質 KDDI(au) N 満足やや満足 ソフトバンクモバイル N 満足やや満足 全体 21, 全体 18, 全体 15, NTTドコモ

平成 27 年司法試験法科大学院別人員調 ( 既修 未修別 ) 法科大学院名 受験者数合格者数既修未修既修未修 愛知学院大法科大学院 愛知大法科大学院 青山学院大法科大学院 大阪学院大法科大学院

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大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

平成 30 年司法試験法科大学院別人員調 ( 既修 未修別 ) 法科大学院名 受験者数合格者数既修未修既修未修 愛知学院大法科大学院 愛知大法科大学院 青山学院大法科大学院 大阪学院大法科大学院

企業等からの資金提供状況報告 ( 平成 29 年 4 月 ~ 平成 30 年 3 月分 ) 1. 受託研究等 (1) 受託研究 総件数 286 件 総額 259,135 千円 (2) 共同研究 総件数 2 件 総額 0 千円 (3) 受託事業 共同事業 総件数 6 件 総額 2,060 千円 2.

 

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

2013 年 4 月 8 日 ver 改訂 JCOG 効果 安全性評価委員会承認 4 月 8 日発効 2013 年 8 月 2 日 ver 改訂 JCOG 効果 安全性評価委員会承認 8 月 2 日発効 2014 年 8 月 13 日 ver. 1.1 改訂 JCOG 効果

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付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

目次情報



東京 ( 羽田 )- 大阪 ( 関西 ) 東京 ( 羽田 ) 発 ,500 49% 11,500-11,500 11, ,200 50% 11,200-11,200 11, ,000 47% 12,000-12,000 12,

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序 癌を治そう 皮膚の悪性腫瘍はひとことでまとめるには種類が多く, 悪性度もさまざまである. 癌は長らく日本人の死因の第 1 位を占めており, 予後の改善は大きな命題であるが, 皮膚の悪性腫瘍はといえば, 肺癌, 胃癌, 大腸癌と頻度の高い癌から順に数えて 10 番めにも入らない. そのため日本では希少癌とされることさえあるが, 疫学的にきわだった特徴をもち, 発生頻度や病型に明らかな人種差のみられるものがいくつかある. 悪性黒色腫もそのなかのひとつであり, 日本では患者数の少ない癌に分類されるが, 欧米の白色人種にとってはかかりやすい代表的な皮膚癌である. 悪性度が高いにもかかわらず長い間切除する以外に有効な治療法がなく, 私もいかに手術のうでを上げるかということを主体に考えてきた. ところが最近の悪性黒色腫の薬物治療の進歩には目を見張るものがあり, いままでにない大きな変革の時期を迎えている. そして, 今どのようなことが起こっているのか説明するためのキーワードとしては 初めて という言葉がふさわしいと思う. まず, 既治療の転移性悪性黒色腫を対象にした randomized controlled trial で全生存期間に有意差を示すことのできたのは ipilimumab 3 mg/kg と gp100 を比較した MDX010-020 試験が 初めて である. 次に無治療の転移性悪性黒色腫を対象に行われた CA184-024 試験において, ダカルバジン (DTIC) 単剤に対して ipilimumab 10 mg/kg と DTIC 併用群の全生存期間は有意に延長した.DTIC に対する上乗せ効果の証明された薬剤は ipilimumab が 初めて である. BRAF 阻害剤 vemurafenib は DTIC との比較で, 全生存期間, 無増悪生存期間, 奏効率の 3 つの項目すべてにおいて DTIC に優った 初めて の薬剤である. BRAF 阻害剤だけでなく MEK 阻害剤の開発が進められた結果,dabrafenib/ trametinib は米食品医薬品局 (FDA) が悪性黒色腫に対して 初めて 併用療法での承認を行った薬剤である. また, 悪性黒色腫だけでなく, 基底細胞癌にも driver gene がみつかり,FDA で基底細胞癌に対する 初めて の分子標的薬として vismodegib が認可された. そして日本では悪性黒色腫に対する抗 PD-1 抗体 nivolumab の第 Ⅱ 相試験を世界に先駆けて 初めて 行い, 成功した. 皮膚の悪性腫瘍に対する日本の手術技術はたいへん優れたものであるが, 一方で薬物治療には明らかなドラッグラグが存在する. 陸上トラック競技にたとえれば周回遅れに等しい欧米と日本との差は, 最近のオールジャパンでの治療開発のための力の結集の結果, 数年後には欧米諸国に追い付こうという目標が夢物語ではなくな

った. 現在, 追いかけていく欧米の後ろ姿を我々はしっかりとらえることができているのである.PD-1 を発見したのは京都大学の本庶佑先生であり,trametinib を創製したのは京都府立医科大学の酒井敏行先生と日本たばこ産業株式会社である. 早期開発という点で今後も日本では新治療法のきっかけとなるシーズが次々に発見される可能性が十分にある. 治療法の後期開発という面では, 我々は 2012 年に日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG)16 番めとなる皮膚腫瘍グループを立ち上げることができた. このことによって承認済みの薬剤を使った検証的研究や新しい手術方法の開発などを, 質の高い多施設共同前向き試験として実施する体制が整った. 国際的にみて, 日本には悪性黒色腫の患者が少なそうだという先入観もあったであろうし, 日本の皮膚悪性腫瘍に対する治療開発体制が整備されていなかったのも確かであろう. しかし我々は近年, いくつかの臨床試験や国際共同治験を通じて, 日本にも新しい治療の導入を待ち望む患者さんが大勢おられること, また欧米諸国と同等か場合によってはむしろそれ以上の治療開発のポテンシャルをもっていることを示してきた. オールジャパン体制で取り組むための研究基盤整備は進んでいる. そしてこの体制は悪性黒色腫以外の, 治療開発の遅れている皮膚悪性腫瘍やもっと発生頻度の低い皮膚悪性腫瘍の治療開発にも応用していくことができる. 皮膚悪性腫瘍診療に携わるものとして, いまほどやりがいのある時代はない. まずは悪性黒色腫の革命的ともいえる新しい薬物療法, 免疫療法をこれ以上遅れることなく日本に導入することが必要である. そしてさらに日本からのエビデンスの創出, 新治療法の発信を通じて皮膚悪性腫瘍診療全体の進歩に貢献することも可能である. 人間はいままでにいくつもの困難な病を克服してきた. とうとう我々に順番が回ってきたのではないだろうか. 本書からこのことを感じていただければ幸いである. 執筆をしていただいた各分野のエキスパートの先生方には心から御礼を申し上げたい. 癌が本当に治る新しい時代の幕開けがすぐそこにやってきている. 2014 年 5 月 専門編集山﨑直也国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科

17 Contents xii 1 2 2 11 3 16 4 PET 21 5 28 6 36 7 42 8 49 9 55 10 KIT 59 11 MAPK PI3K/Akt/mTOR 65 12 IFN IFN IL 2 72 13 78 14 87 vii

15 93 16 102 17 108 18 114 19 120 20 126 21 131 22 135 23 139 24 145 25 149 26 27 154 163 28 169 29 173 30 178 31 183 32 187 33 194 34 200 viii

Contents Column 207 35 210 36ANGIOTAX study PALETTE trial 214 37 Bowen 38 222 228 39 236 Paget 40 Paget 242 41 Paget 248 Column Paget 251 42 Paget 253 43 Paget 257 44 Paget Paget 263 Merkel 45 Merkel 268 ix

46 Merkel 273 47 Merkel 277 48 282 49 290 50 297 51 304 52 312 53 318 References 327 Index 357 x

山﨑直也 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 鹿間直人 埼玉医科大学国際医療センター放射線腫瘍科 清原祥夫 静岡県立静岡がんセンター皮膚科 鈴木茂伸 国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科 齊藤理国立がん研究センター中央病院緩和医療科 相原由季子 国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科 周東千緒 国立がん研究センター中央病院緩和医療科 柴山慶継 福岡大学医学部皮膚科学教室 栗原宏明 国立がん研究センター中央病院放射線診断科 福田桂太郎 慶應義塾大学医学部皮膚科学教室 谷 瞳 国立がん研究センター中央病院放射線診断科 加藤潤史 札幌医科大学皮膚科学講座 古賀弘志 信州大学医学部皮膚科学教室 田中亮多 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 / 筑波大学医学医療系皮膚科 服部行紀 国立がん研究センター中央病院病理科 西澤祐吏 国立がん研究センター東病院大腸外科 蔦幸治国立がん研究センター中央病院病理科 眞鍋知子 国立がん研究センター中央病院放射線診断科 小俣渡国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 齋藤典男 伊藤雅昭 鈴木康之 国立がん研究センター東病院大腸外科 国立がん研究センター東病院大腸外科 香川大学医学部消化器外科 芦田敦子 信州大学医学部皮膚科学教室 藤澤康弘 筑波大学医学医療系皮膚科 奥山隆平 信州大学医学部皮膚科学教室 並川健二郎 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 宇原久信州大学医学部皮膚科学教室 木庭幸子 信州大学医学部皮膚科学教室 福島聡熊本大学医学部皮膚科 形成再建科 爲政大幾 関西医科大学皮膚科学教室 緒方大埼玉医科大学皮膚科学教室 大塚正樹 大芦孝平 黒岡定浩 中村泰大 寺本由紀子 山本明史 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学分野 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 大東中央病院皮膚科 埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科 皮膚科埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科 皮膚科埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科 皮膚科 堤田新国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 江口弘伸 久留米大学医学部皮膚科学教室 髙橋聡国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 長野徹安齋眞一梅林芳弘村田洋三大沼毅紘上原治朗石川雅士横田憲二八田尚人松下茂人三砂範幸小林英介井上雄二 神戸市立医療センター中央市民病院皮膚科 日本医科大学武蔵小杉病院皮膚科 秋田大学大学院医学系研究科皮膚科学 形成外科学講座 兵庫県立がんセンター皮膚科 国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科 旭川医科大学皮膚科学講座 埼玉県立がんセンター皮膚科 名古屋大学医学部皮膚科学講座 富山県立中央病院皮膚科 国立病院機構鹿児島医療センター皮膚科 佐賀大学医学部内科学皮膚科 国立がん研究センター中央病院骨軟部腫瘍科 リハビリテーション科 熊本市民病院皮膚科 xi

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