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シリーズ人権 しあわせ 歌集 故郷 から ゆうしょく んを体内に宿している母の表情に深い 憂色が見られます 兄の面会に来たりし母よ 岩国の 代 私が中学校教員だった頃の教え子 呉に入隊後 部隊はすぐに 山口県 みどりごの吾を背負いて です 当河南町に隣接する富田林市の の岩国へ転じます その頃 面会日の さ ん は 昭 和 三 十 年 東郊に生まれ 成人となるまで この あることが兄からの便りで知らされま 女性歌人 地で育ちました 当時 切符も容易に手に入らない厳 した 学び 今は 関西アララギの同人とし しい交通事情の中 母はこの河南の地 その後 結婚してから 短歌教室に て 小規模ながら短歌サークルを主宰 から私鉄と当時の国鉄を乗継いで ま 中に 太平洋戦争で戦死された兄を偲 向かう程の旅でした でも わが子が れました それは 当時 地の果てに しゅさい し て い ま す 最 近 故 郷 と 題 す る だ幼児の ぶ歌が数多く所載されており その一 戦地に向かう前にどうしても会ってお さんを背に 岩国へ向かわ 自選の歌集が送られてきました この 首 一 首 に 強 く 心 を 打 た れ ま し た の で 夜なべ語りに戦死の兄を 置きたる西瓜捨てたり 亡き母の 幼な子であった さんは 父が兄戦 われ幾度も聞きて育ちぬ て 明日の命の知れぬ中で書かれた最 後の葉書 それは そのまま骨肉とな いをしたでしょうと 母の語りを通じ 死の知らせを聞き どんなに悲しい思 故 自 ら の 分 身 自 ら の 骨 肉 と し て 愛慕の情を見透していたのです その で も 母 に は そ の 奥 に あ る 親 へ の な か っ た 兄 の 戦 地 か ら の 便 り で し た 検閲の厳しい中で 真の思いが書け って母の心の中に生きていたのです て そ の 度 に 胸 を 痛 め る の で し た み と お 兄の為に残しておいた西瓜を畑の隅に たんすの奥深く納めておられたのでし 戦死せし兄が靖国にいるという母の あ い ぼ 捨てにいく父の姿が幻影となって悲し ょう げんえい く脳裏に浮かぶのでした 表 札 の 横 に 並 び し 遺 族 の 家 共 に 戦争により国に殉じた人びと その 思いの死ぬまで変わらず 戦死は国民として名誉であり 戦死 霊を祀る靖国神社 政治を越えて 肉 誇りき小学生の頃 者の家族は共に讃えられるべきである 親の霊はそこに厳存します そこに行 げんそん と の 考 え は 戦 前 戦 中 国 民 教 育 の けば肉親の霊に会える それは幻影と まつ 基幹でありました 戦後 この柱は崩 なって 母の胸の内に生き続けている さんけい げんえい れ去ったかに見えましたが 戦後数年 のです 後日 母と共に靖国神社に参詣した き か ん を 経 て も な お 純 粋 な 国 民 感 情 と し て 故郷に深く根づいていたのです その そむ さんの戦死された兄上を偲ぶ短歌 厳粛であらねばなりません げんしゅく は 許 さ れ ま せ ん 平 和 を 守 る こ と に 戦争に散華した人びとの霊に背くこと さ ん げ 昭和は遠くになりにけり でもあの 母の姿が心に焼付いています 折 時を忘れたように拝殿にぬかずく ご 感情は子どもの心にも深く焼付いてい たのです 故郷の土持ちゆかん 戦死から四十五年後に建つ慰霊碑の 兄に 兄 戦 死 の 年 か ら 四 十 五 年 を 経 て くれ 全滅した兄の所属部隊の慰霊碑が呉市 こんりゅう 母 子の形見の品の内でも 戦地にあっ 亡き後のたんすの底に 戦地よりの兄の葉書の残りたり であろうと考えたのでした 魂は故郷の土に触れ きっと心鎮める しず 郷の土を 碑近くに撒じよう 兄の霊 さん を望む丘の海軍墓地に建立されまし 兄が出征して初めての秋近き日 戦地 それは 母性愛の一念からでした きたい M た その除幕式に 兄が生きたこの故 ふるさとの小川 暗 い 日 々 が 過 ぎ 去 っ て い き ま し た 今回は この短歌を軸に綴ってまいり 母の身ごもる 送る日の家族写真 たいと思います 出征する兄 に向かう前に一時帰省がある そんな 末の子われを 昭和十九年冬 戦局は次第に 我が たんせい 風評を信じた父は丹精込めて作った西 れっせい 瓜をその日の為に残していました で くれ の時期に兄が呉の海軍部隊に入隊いた 国の劣勢が濃くなってまいります こ 父は兄の為残し 引用文献 さん自選歌集 故郷 元四天王寺国際仏教大学講師 岡本 次男 に 改めて その思いを強くしました M M 兄の戦死知りし日 も しゅったつ さ します 出立の日に撮った家族写真が 歌集の冒頭に載っていましたが M M M 6 2013.11
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