9 54 東寄り の 風 が 北 風 に 変 化 し 海面気圧が 約0.3hPa 上昇 気 温 が 約0.4 低 下 した 図略 これは RFD によって形成されたガスト フロン ト の 通 過 と えら れ フランキングラインの 雲形成のタイミングとよく 対応している 3レーダー観測による 親雲の構造 気象庁東京レーダーの観 測 結 果 か ら 撮 影 さ れ た Wall Cloud を伴う積乱雲 以降 親雲 の構造を調 べ た 第 3 図 18 04の 仰角3.8度 つくば市付近 で は 高 度 2 2.5km の 観測では 親雲の南西端に 直径数 km の低気圧性回転 が あ り そ れ に 対 応 し て フックエコーが明瞭になり つつあったこの低気圧性 第1図 つくば市で発生した Wall Cloud の時間変化2015年8月12日18 01 18 16に気象研究所屋上から撮影図中の方位は撮影している向き を示す 撮影者 荒木 太郎 回転は MC に対応すると え ら れ るこ の M C は 17 50から持続しており 直方向には高度約 3.5 4 km まで 同 様 な 構 造を 持って い た 図 略 撮影された Wall Cloud は この MC の下部に位置し 18 07以降に急速に発達し ていたまた18 10以降 Wall Cloud の親雲には高 度3.5 km 付 近 に BW ER 第2図 つくば市で発生した Wall Cloud とフランキングラインの雲2015年 8月12日18 17に気象研究所屋上から北東方向を中心にパノラマ撮影し たもの 撮影者 荒木 太郎 Bounded Weak Echo Region が 存 在 し オー バーハングしたエコーが見 られた 図略 これらの は Heavy-precipitation 型のスーパーセルによく似 特徴は典型的なスーパーセルやミニスーパーセルに見 ている Doswell and Burgess 1993;Markowski and られる構造である Richardson 2010の Figure 8.26 館 野 気 象 研 究 所 の地上気象観測では 18 11 18 16に一時的に 22 天気" 6211
第3図 9 55 2015年8月12日18 04の東京レーダーによる a ドップラー速度 ms と b 反射強度 dbz a 中の寒色は東京レーダー 位置は第4図参照 に近づく風 暖色は遠ざかる風を表している各 パネルの白丸は気象研究所の位置を示す 4メソスケールの発生環境場 2015年8月12日は 九州付近に温帯低気圧 関東の 東海上に台風第14号が存在していたが 関東地方では 観スケールの風は弱かった 図略 上層擾乱も存 在 せ ず 500hPa の 気 温 も 5 4 と 平 年 並 み だったこのため 本事例ではメソスケールの局地循 環等が M C を伴 う 親 雲 の 発 生 環 境 場 と し て 重 要 で あったと えられる 第4図に気象庁アメダスと環境省大気汚染物質広域 監視システムによる18 00の地上気象観測結果と18 01 の東京レーダーの観測結果を示す気象研究所の北に ある親雲の他に 南東側にも活発な対流システムが存 在しているこの対流システムは17 00頃からつくば 市の東側で発達し 南東進した地上ではこのシステ ムから西 南西に向かうガストフロントが観測されて おり 18 00にはつくば市でも鹿島 からの海風を強 化して冷たい東寄りの風が吹いていた 親雲を発生させたメソスケールの環境場について 第4図 2015年8月12日18 00の地上気象観測結 果と東京レーダーの18 01の仰角1.7度 の 反 射 強 度 dbz 陰 影 は 地 上 気 温 等値 線 は 2 間 隔 矢 羽 は 地 上 風 白丸は気象研究所と東京レーダーの 位置を示す破線は第3図の領域 気象庁局地解析を用いて調べた大気熱力学場を表す パラメータとして 850hPa よりも下層で最大の相当 温位を持つ空気塊を持ち上げた CAPE を計算した 流入で15 00以降1000Jkg 以上になったまた 親 また 力学場を表すパラメータとして Bunkers et 雲 が 発 生 発 達 し た 17 00 18 00に は 最 大 で al. 2000 の方法で計算した地上から高度3km まで 1200 1500Jkg 以上の CAPE が解析される地域が のストームに相対的なヘリシティ SREH を用い あった 図略 た SREH については 17 00では親雲が発生した地 つくば市を含む茨城県南部での CAPE は14 00に 域 の 北 東 の 地 域 で 大 き く 最 大 で 約110m s で は500Jkg 程度だったが 海風による湿潤な空気の あった18 00では茨城県南部で150m s を超えて 2015年 11月 23
9 56 ただし 本事例のように MC が存在していたとして も 必ずしも竜巻は起こら ない Trapp et al. 2005 スーパーセルが竜巻をもた らすかどうかに関して 熱 力学場 力学場の解析が進 め ら れ て い る が Brooks et al. 1994 Markowski et al. 2002 Thompson 1998 スーパーセ ル の 雲 物理過程に関しても未解明 第5図 な 点 は 多 い Markowski 気象庁局地解析によるメソスケールの環境場 a 18 00の SREH m s b 18 00の館野を中心に10 10km で領域平 した風によ るホドグラフ a のベクトルは絶対高度1km の水平風 b 中の数 字は絶対高度 m 矢印はレーダーエコーから推定したストームの移 動ベクトルを示す 本 and Richardson 2009 事例についても 今後気象 研究所 C バンド固体素子偏 波ドップラーレーダーによ る偏波観測情報の解析を進 おり 大気下層の 直シアがさらに大きくなった 第 5図 a レーダーエコーから推定したストームの移 め 親雲の雲物理的特徴を含む詳細構造を調べていく ことが望まれる 動 ベ ク ト ル を 用 い た SREH は Bunkers et al. 今 回 筆 頭 著 者 で あ る 荒 木 は 生 ま れ て 初 め て 2000 の方法で求めたものとほぼ同じだったこの Wall Cloud の形成 衰弱過程を目の当たりにするこ 値は2012年5月6日に茨城県つくば市に被害をもたら とができ Wall Cloud の美しさに感動するとともに した藤田スケール F3の竜巻を生み出したスーパーセ 知的欲求が大いに高まった数値予報モデルによるシ ルの発生環境 場 で の 値 約250m s Araki et al. ミュレーション研究や レーダーによるリモートセン 2014 より小さく アメリカの竜巻をもたらさない シング研究が進展している現代でも 実際の現象を自 スーパーセ ル の 発 生 環 境 場 の 代 表 値 146m s Thompson et al. 2003 と同程度で つくば市で竜巻 自身で体験し 観測することの重要性を再認識した 次第である が発生しなかったことと整合的であるつくば市で 18 00に地上で観測されていた鹿島 からの海風と先 行する活発な対流システムからのガストは 東寄りの風 謝 辞 本研究では 環境省大気汚染物質監視システムの地 として地上から高度約1kmに達していた 第5図b 上気象観測値を 用しました気象研究所の小司禎教 Wall Cloud を伴う親雲は このような大気下層の さん 林 修吾さんに有益なコメントをいただきまし 直シアが一時的に増大したメソスケール環境場で発生 た天気編集委員会担当の藤部文昭さんにもアドバイ したことが示唆される スをいただきました感謝申し上げます 5まとめ 本研究では 2015年8月12日に茨城県つくば市で発 生した Wall Cloud の形成 衰弱の映像資料から そ の 特 徴 に つ い て 述 べ た気 象 レーダーか ら Wall Cloud の上空約2km には MC の存在が確認でき 先 行する活発な対流システムからのガストの影響を受け て局地的 一時的に大気下層の 直シアが大きい環境 参 荒木 文 献 太郎 2014 雲の中では何が起こっているのかベ レ出版 343pp Araki, K., H. Ishimoto, M. Murakami and T. Tajiri, 2014:Temporal variation of close-proximity soundings within a tornadic supercell environment. SOLA, 10, 57-61. Brooks, H.E., C.A. Doswell III and J.Cooper, 1994:On 場で M C を伴う親雲が発生していたことがわかった 24 天気" 6211