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Transcription:

プレスリリース報道解禁 : 7 月 20 日 ( 金 )15 時 (7/24 関連論文のリンクを追記 ) 2012 年 7 月 12 日 報道関係者各位 天の川銀河の中心部に巨大ブラックホールの 種 を発見 ~7 月 20 日 ( 金 ) に記者発表を開催 ~ 慶應義塾大学国立天文台 慶應義塾大学物理学科の岡朋治准教授らの研究チームは いて座方向 太陽系から約 3 万光年の距離にある天の川銀河の中心部において 温度 50 K 以上 水素分子密度 1 万個 / 立方 cm の 温かく濃 密な 分子ガス塊を 4 つ発見しました これらのガス塊の大きさは 50 光年以下で 毎秒 100 km 以上という極めて早い速度で運動しています そして膨張運動が見られる事から 多数の超新星爆発に よって加速されたものと考えられます これらの分子ガス塊のうち最も運動エネルギーの大きいものは 超新星爆発 200 発分にも相当する一方で ガス塊の年齢は 6 万年程度という若いものでした こ のことから このガス塊には 天の川銀河の中で発見された最も巨大な星団と同程度の質量 ( 太陽の 10 万倍以上 ) の巨大な星団が埋もれていることが推測されます このような巨大星団では重い星が 中心へと落下し それらが暴走的合体を起こす事によって中質量ブラックホール ( 太陽の数百倍の質量をもつブラックホール ) が生成すると考えられています これらの中質量ブラックホールは 銀河 の中心核となる巨大ブラックホールを形成 そして成長させる 種 となるものです 本研究成果は 2012 年 6 月 23 日 ( 米国時間 ) に 米国の学術雑誌 The Astrophysical Journal Supplement Series のオンライン速報版で公開されました http://iopscience.iop.org/0067-0049/201/2/14/ また 2012 年 7 月 20 日 ( 金 ) 学術総合センター ( 東京都千代田区一ツ橋 ) にて 本研究成果の発 表を行いますので ぜひご取材ください 関連論文 http://pasj.asj.or.jp/v59/n2/590206/590206.pdf (PDF/2.3MB) http://pasj.asj.or.jp/v60/n3/600303/600303.pdf (PDF/960KB) 本研究のポイント 一酸化炭素が放つサブミリ波スペクトル線による天の川銀河中心部の広域掃天観測を行った 同分子が放つミリ波スペクトル線のデータとの比較により 温かく濃密な 分子ガスの詳細な分布を描き出すことに世界で初めて成功 複数の 温かく濃密な 分子ガス塊を検出 これらの莫大な運動エネルギーの値から 中質量ブラ ックホールの ゆりかご である巨大星団を間接検出したと結論 本研究成果の記者発表概要 日時 :2012 年 7 月 20 日 ( 金 ) 13:30-15:00 場所 : 学術総合センター 1 階特別会議室 101 アクセス :http://www.nii.ac.jp/about/access ご注意 : 入館時に 顔写真入りの身分証明書もしくはこのご案内文をご提示願います 補足 : 記者発表終了後 下記ウェブサイトにて発表内容を公開します 国立天文台ホームページ http://www.nao.ac.jp( 日本語 ) 1/5

1. 内容と成果研究チームは 天の川銀河の中心を含む数度の領域について 一酸化炭素分子が放つ波長 0.87mm の電波を観測しました 観測に使用した望遠鏡は 南米チリのアタカマ砂漠 ( 標高 4800m) に設置された直径 10m のアステ望遠鏡です 観測は 2005 年から 2010 年までの長期に渡り 合計 250 時間 以上が費やされました 研究チームは過去に 国立天文台野辺山宇宙電波観測所 ( 長野県 ) の野辺山 45m 望遠鏡を使用し 同領域の一酸化炭素分子ガスが放つ波長 2.6mm の電波データも取得していま す 同じ一酸化炭素分子が放つスペクトル線を観測したのは 波長の異なる 2 種類の電波を比べて分子ガスの温度や密度を推定するためです 波長の短い電波の方がより温度 密度の高い領域から強く 放射されるという性質を利用しています この方法によって 天の川銀河中心部における温度 50 K 以上 水素分子密度 1 万個 / 立方 cm 以上の 温かく濃密な 分子ガスの詳細な分布を描き出すことに 世界で初めて成功しました その結果から この領域の 温かく濃密な 分子ガスは 4 つの塊 (Sgr A L=+1.3 L= 0.4 L= 1.2 ) に集中していることが分かりました そのうちの 1 つ (Sgr A) は天の川銀河の中心核 い て座 A* を含むものでした 残る 3 つのガス塊のある位置にはこれまで知られている天体はありませんでした そして これら 4 つのガス塊は全て毎秒 100 km 以上という極めて速い速度で運動して いることも見出されました いて座 A* の位置には太陽の約 400 万倍の質量を持つ巨大ブラックホールがあると考えられています したがって ここのガス塊はブラックホールの周りを高速で回転す る半径 25 光年の円盤状構造であると推測されます 一方で残る 3 つについては 回転ではなく膨張運動の痕跡が見られました このことは L=+1.3 L= 0.4 L= 1.2 の 3 つの分子ガス塊がそ れらの中で起こった超新星爆発によって形成された構造であることを意味します L=+1.3 は これらの 温かく濃密な 分子ガス塊のうち最もエネルギーの大きい天体で その運動エネルギーは超新星爆発 200 発分に相当します 一方でその年齢は若く 6 万年程度と見積もられ ます エネルギー源が超新星爆発であるとすると この限られた空間内で 300 年に一発の頻度で超新 星爆発が起き続けた計算になります 研究チームは再び野辺山 45m 望遠鏡を使用して この天体を構成する分子ガスの分布 運動と組成をより詳細に調べました その結果 この L=+1.3 内部に複 数の膨張構造と衝撃波起源の分子 一酸化珪素を検出したのです このことから L=+1.3 のエネルギー源が多重の超新星爆発であることが明らかになりました 同様の膨張運動を示す L= 0.4 L= 1.2 についても 多重の超新星爆発が起源である可能性が高いと考えられます 図 1. 一酸化炭素分子が放つ波長 0.87mm の電波スペクトル線強度で見た 天の 川銀河中心部の分子ガスの空間分布 黒い十字は天の川銀河の中心核 いて座 A * の位置 右下の黄色い線分は 500 光年に相当 2/5

図 2. 天の川銀河中心部にある 温かく濃密なガス の空間分布 ( 上図 ) と速度分 布 ( 下図 ) 分子ガス全体の分布は薄い白色で示されている 温かく濃密なガス は 4 つの領域に局在し それらは全て高速で運動していることが分かる 超新星爆発は太陽の 8-10 倍以上の質量をもつ星が一生を終えるときの大爆発です 超新星爆発が 300 年に一度という高い頻度で起きるためには 多数の若い星が集まっている必要があります つまりその位置に大質量の 星団 があるということなのです 超新星爆発の頻度から見積もられた L=+1.3 に埋もれている星団の質量は太陽の 10 万倍以上 これは天の川銀河の中で発見された最も巨大な星 団と同程度です それでは何故このような巨大な星団がこれまで発見されていなかったのでしょうか? その理由は 太陽系と銀河中心の間にある大量のガスと塵が 可視光線のみならず赤外線の透 過をも阻んでいるためです 太陽系は天の川銀河の中心から約 3 万光年離れた 円盤の外れに位置しています さらには 天の川銀河のバルジ部および円盤部にある無数の星も視線方向に重なります そのため どれだけ巨大であっても 天の川銀河の中心部にある星団を直接見ることは極めて難しいのです 銀河の中心部にある巨大な星団には 銀河中心核の形成 成長に関わる重要な役割があります 理論計算によれば 星団中の星の密度が高くなると重い星が中止へと落下し それらが暴走的合体を起 こします そして太陽の数百倍の質量を持つ 中質量ブラックホール が生成されることが シミュ 3/5

レーションから示されています この中質量ブラックホールは やがては星団とともに銀河中心へと沈降して行きます すると 星団や中質量ブラックホール同士がさらに合体を繰り返し 銀河中心に 巨大なブラックホールを形成すると考えられます あるいは既にある巨大ブラックホールの成長に寄与することもあり得ます 天の川銀河の中心核 いて座 A * にある巨大ブラックホールもまた こ のような過程を繰り返して成長してきたものと考えられているのです つまり今回の発見は 中心核巨大ブラックホールの 種 となる中質量ブラックホールの ゆりかご を発見したと言えるのです 図 3. 今回発見された 塵に埋もれた巨大星団 のイメージ図 中心では中質量ブ ラックホールが生成されると考えられる 2. 今後の展望それでは 星団中で作られた中質量ブラックホールは観測できないのでしょうか? 実は それら も既に発見された可能性があります 今回発見されたガス塊のうち L= 0.4 には 極めて速い速度で動いている小さなガスの塊が 2 つ含まれています これらの小さなガスの塊が回転運動をしている とすると その中心には 見えない巨大な質量 があることになります これはまさに 星団の中心部に隠れた中質量ブラックホールそのものである可能性があります 岡氏は 中質量ブラックホー ルの存在を確認するために 私たちはさらなる観測を計画しています 今回の発見は 銀河中心核の巨大ブラックホール形成 成長メカニズムの解明という銀河物理学の最優先課題に迫る重要なステッ プなのです と今後の研究の発展に期待を寄せています 4/5

本研究に関するお問い合わせ慶應義塾大学理工学部物理学科准教授岡朋治 ( おかともはる ) TEL:045-566-1833 Email:tomo@phys.keio.ac.jp http://aysheaia.phys.keio.ac.jp/ 発信元慶應義塾広報室 ( 久保 ) TEL:03-5427-1541 FAX:03-5441-7640 Email:m-koho@adst.keio.ac.jp カラー版の資料が必要な場合はお問い合わせください 5/5