ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear


Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

Microsoft Word 「ERATO河岡先生(東大)」原稿(確定版:解禁あり)-1

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

Microsoft Word - ③鈴木先生 完成.doc

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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スライド 1

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

長期/島本1

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

博士学位論文審査報告書

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

平成14年度研究報告

Research 2 Vol.81, No.12013

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

生物時計の安定性の秘密を解明

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Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

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研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

平成 30 年 9 月 5 日 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人筑波大学 海洋微生物の中に隠された新しいウイルスワールドを発見 ~RNA ウイルス網羅検出技術の開発と海洋微生物への適用 ~ 1. 概要国立研究開発法人海洋研究開発機構 ( 理事長平朝彦 以下 JAMSTEC という) 海

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

論文の内容の要旨

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

2003 年後半から 新たな強毒型 H5N1 鳥インフルエンザの流行が東アジアから始まった その後 急速に 東南アジア 中国 韓国 日本 シベリア南部 中東 欧州 北アフリカへと拡大を続けている ウイルスは超強毒性で 家禽 野鳥 ネコ トラ イヌ ネズミなど多くの哺乳動物にも感染して 致死的な全身感

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

平成24年7月x日

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果


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PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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平成24年7月x日

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

記載例 : 大腸菌 ウイルス ( 培養細胞 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 ヒ

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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[PRESS RELEASE] 平成 28 年 4 月 27 日 鳥インフルエンザウイルスはヒトで増殖しやすく変化する ~ 鳥インフルエンザウイルスのメカニズム解明に関する論文掲載 ~ 京都府立医科大学医学研究科感染病態学講師渡邊洋平らの研究グループは H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスが感染患者体内で獲得するウイルス遺伝子変異を網羅的に解析することで ウイルスポリメラーゼ遺伝子の新たな適応変異を同定することに成功し 本件に関する論文が米国科学雑誌 PLoS Pathogens オンライン版に平成 28 年 4 月 20 日 ( 水 ) に掲載されましたのでお知らせします これまで 鳥インフルエンザウイルスのパンデミックウイルスへの変異メカニズムは不明でしたが 今回の研究成果により 鳥インフルエンザウイルスがヒト生体内で増殖しやすく変化する新しい分子メカニズムが提起され パンデミックインフルエンザ発生メカニズムを解明する糸口として パンデミックインフルエンザ対策や新規抗ウイルス薬の開発に繋がっていくことが期待されます 1 研究概要本学大学院医学研究科渡邊洋平講師らの研究グループは H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスがヒトで増殖しやすく変化する分子機構を明らかにしました パンデミックインフルエンザ ( 注 1) は 鳥や豚で流行するインフルエンザウイルスがヒトで増殖しやすく変異を獲得することで発生すると考えられていますが その詳細なメカニズムは不明です H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 鳥からヒトに感染すると致死率が 60% と極めて高い重度の呼吸器疾患を引き起こすことから そのパンデミック化が危惧されています 特に エジプトは H5N1 高病原性鳥インフルエンザの蔓延地域であり 世界保健機関 (WHO) の報告によると 近年ヒト感染事例が際立って多いことから 同地域からパンデミックウイルスが出現する高い潜在性が指摘されています 本研究グループは エジプトにおいて H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した患者から検出されたウイルス遺伝子変異を網羅的に探索しました その結果 ウイルスが感染患者体内において ウイルスポリメラーゼ蛋白質 ( 注 2) に新たな適応変異 ( 注 3) を獲得していることを明らかにしました これらの研究成果は 鳥インフルエンザウイルスがパンデミック化する新しい分子メカニズムを提起するものであり パンデミックインフルエンザ発生メカニズムの解明の糸口となり パンデミックインフルエンザ対策や新規抗ウイ

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までにユーラシア アフリカ大陸において広範に分布しています また 中国 インドネシア ベトナム エジプトにおいて鳥類において継続的な伝播を繰り返す流行域を獲得しており 当該地域において 感染鳥との濃厚接触によって致死率が 60% と極めて高い重度の呼吸器疾患を引き起こすことから 公衆衛生上の重大な懸案事項となっています 鳥や豚で流行するインフルエンザウイルスは ヒトで増殖しやすく変異を獲得することで 歴史的にパンデミックウイルスに変化してきました そのため H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスが 感染を繰り返す過程でパンデミック化する危険性があります 特に エジプトは 近年のヒト感染事例の 67% が報告されている特異な地域であることから 同地域から H5N1 由来パンデミックウイルスが出現する潜在性が高いと指摘されています しかしながら 鳥インフルエンザウイルスが変異を獲得することでヒトに感染しやく変化するメカニズムの詳細は不明なままでした また H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスを含む鳥インフルエンザウイルスが感染患者体内で獲得するウイルス遺伝子変異について これまで大規模に解析されたことはありませんでした < 研究内容 > 本研究グループは エジプトの感染患者において H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスが獲得したウイルスポリメラーゼ蛋白質の変異を網羅的に探索しました まず 過去に報告があるヒト感染事例において分離された高病原性鳥インフルエンザウイルス遺伝子配列を網羅的に解析することで 感染患者由来ウイルス遺伝子配列に特異的に検出された 85 種類の遺伝子変異を選定しました 続いて 遺伝子変異がヒト生体内での増殖性にどのように関係しているのか調べるため 選定した 85 種類の遺伝子変異を導入したウイルスポリメラーゼ蛋白質をヒト細胞に発現させ ウイルスの複製 転写に及ぼす効果を調べました その結果 ヒト細胞においてウイルスゲノムの複製 転写を高める 29 種類の遺伝子変異を同定しました 次に 29 種類の遺伝子変異が インフルエンザウイルスの増殖性に及ぼす効果を調べるため 変異を導入した H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスを作製して ヒト呼吸器上皮細胞とマウスに感染させてウイルスの増え方を解析しました その結果 特にヒト呼吸器細胞とマウスにおけるウイルスの増殖性を高める 9 種類の遺伝子変異を同定しました さらに ヒト呼吸器上皮細胞においてウイルス増殖性を高めた遺伝子変異について構造

解析を実施したところ 同定した変異がこれまでに報告がない新しいウイルスポリメラーゼ蛋白質の機能ドメインに位置していました シミュレーション解析によって これらの変異がポリメラーゼ蛋白質の機能に与える効果を解析したところ 変異がウイルスゲノム RNA とウイルスポリメラーゼ蛋白質との相互作用を変化することでヒト細胞内におけるウイルス複製開始過程を至適化することが示唆されました < 今後の展開 > 本研究は H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスが感染患者体内で獲得する新たな適応変異を複数同定することに成功しました 本研究成果は 鳥インフルエンザウイルスがヒト生体内で増殖しやすく変化する新しい分子メカニズムを提起しており パンデミックインフルエンザ発生メカニズム解明の糸口となる非常に有用な情報です さらに パンデミックインフルエンザ防疫対策やインフルエンザウイルスがヒト生体内で効率的に増殖するために必要な複製過程を特異的に抑制する新規抗ウイルス薬の開発に非常に重要な発見です 3 発表雑誌 : 雑誌名 : PLoS Pathogens 平成 28 年 4 月 20 日 ( 水 ) オンライン速報版掲載 参照 URL:http://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1005583 論文タイトル :Novel Polymerase Gene Mutations for Human Adaptation in Clinical Isolates of Avian H5N1 Influenza Viruses 著者 : 荒井泰葉 1,2,3 川下理日人 4,5 大道寺智 3 Madiha S. Ibrahim 3,6 Emad M. El-Gendy 3,6 高木達也 4,5 高橋和郎 7 鈴木康夫 8 生田和良 2 中屋隆明 3 塩田達雄 1 渡邊洋平 1,2,3 所属 : 1 大阪大学微生物病研究所ウイルス感染制御分野 2 大阪大学微生物病研究所難治感染症対策研究センター 3 京都府立医科大学医学研究科感染病態学 4 大阪大学薬学研究科情報 計量薬学分野 5 大阪大学微生物病研究所遺伝情報実験センター 6 エジプト国 Damanhour 大学獣医学部 7 国際医療福祉大学病院検査部 8 中部大学生命健康科学部 4 研究資金 : 日本学術振興会科学研究費助成事業 (15H05295, 15K08497)

5 問い合せ先 : 渡邊洋平 ( ワタナベヨウヘイ ) 京都府立医科大学医学研究科感染病態学講師 602-8566 京都府上京区河原町通広小路上る梶井町 465 Tel: 075-251-5325 Fax: 075-251-5328 E-mail: nabe@koto.kpu-m.ac.jp 6 用語説明 : 注 1) パンデミックインフルエンザ A 型 B 型 C 型と大きく 3 種類に分かれるインフルエンザウイルスの中で A 型インフルエンザウイルスは変化しやすく 歴史的に数十年に一度の頻度で人類に世界的大流行 ( パンデミック ) を起こしてきました このようなインフルエンザウイルスは 毎年流行している季節性インフルエンザウイルスとは異なるため パンデミックインフルエンザウイルスと区別されて呼ばれます 注 2) ウイルスポリメラーゼ蛋白質ウイルス粒子内に含まれる蛋白質で 感染細胞核内においてウイルスゲノム RNA を複製 転写することで子孫ウイルスが産生されます 鳥インフルエンザウイルスは そのままではヒト呼吸器上皮細胞内で効率的に増殖できないため パンデミックウイルスとなるにはウイルスポリメラーゼ蛋白質の機能に何らかの変化が起こる必要があると考えられています 注 3) 適応変異ウイルスが宿主域を変化する際には 新しい宿主において効率的に増殖するためにウイルス遺伝子に変異を獲得する必要があります このように宿主域を変化させる際に獲得される変異を適応変異と呼びます

7 添付資料 : 図 1. 同定した適応変異を導入した H5N1 ウイルスを感染させたマウス肺の免疫組織 ( 左図 ) 変異を導入する前の H5N1 ウイルスを感染させたマウス肺の組織像です 正常な肺胞の構造が保たれている箇所が残存しています ( 右図 ) 変異ウイルスを感染させたマウス肺の組織像です 肺組織の障害が増強し ウイルス抗原 ( 黒褐色 ) が多く観察されます