特集 くらしと水 水辺空間のある富士見公園
皆さんは朝起きてから最初に何をしますか顔を洗いますか? 歯を磨きますか? トイレに行きますか? 朝食を作りますか? さて これらに共通して使うものは何でしょうか そう 答えは 水 です 皆さんが生活するうえで水を使わない日はないでしょう 水は人間が生きるため 快適に生活するために必要なものですが 無制限に使ったり汚したりして良いものではありません 地球上には 約 14 億 km3の水があるといわれています その約 97.5% は海水 残りの 2.5% が淡水です 淡水のうち 比較的利用しやすい河川水などは地球上の水の 0.01% に過ぎません この貴重な水を上手に循環させつつ 良好な生活環境を得るために 私たちは何ができるでしょうか 今回の環境ブックは くらしと水 を特集します 根川とカモ 特 -2
1. さまざまな水の使われ方 私たちが日常生活で用いる水は 生活用水 と呼ばれています 生活用水 は 飲料水や調理 洗濯など一般家庭で使う 家庭用水 と 学校やレストラン デパート 事業所 公園の噴水などで使う 都市活動用水 に分けられます 下の図をご覧ください 水はそのほかにも 農作物や家畜の育成 工場における製品の洗浄や機器の冷却などにも使用されています 水は多くの生命にとって 必要不可欠であることに間違いはありませんが 人間のさまざまな活動の場面でも使われています 水使用形態の区分 出典 : 日本の水資源 ( 国土交通省 平成 26 年 ) 立川市北部を流れる玉川上水は かつて江戸市中へ飲料水を供給するために作られ のちに分水が認められて農業用水としても活用されました 立川市ではありませんが 幕末ごろには火薬製造 製紙 醸造などの工業用水にも利用されました 特 -3
2. 生活で使う水 1 家庭で使う水の用途皆さんは日常の生活のなかで どんなことに水を使っているでしょうか 下のグラフをご覧ください 一般家庭において使用量が最も多いのは お風呂 次にトイレ 炊事 洗濯と続いています 水というと 人が生きていくために欠かせない飲料水のことを思い浮かべる場合が多いですが 文明が発達した現代では 飲む ことよりも 何かを 洗う 流す などといった快適で衛生的な生活を送るために多くの水が使われていることが分かります 家庭での水の使われ方 洗面 その他 6% 炊事 17% 洗濯 15% トイレ 22% 風呂 40% 出典 : 一般家庭水使用目的別実態調査 ( 東京都水道局, 平成 24 年度 ) 2 家庭で使う水の量一般家庭における 1 人当たりの水の使用量は 1 日平均約 240l 前後といわれています 約 45 年前の昭和 48 年度の平均使用量は 1 人 1 日 192lですので 約 1.3 倍に増えたことになります 経済の高度成長期に水洗トイレや洗濯機などの水を利用する機器が広く普及したことや入浴回数の増加など 水を多く使うライフスタイルへ変化してきたことが主な理由と考えられます 1 か月当たりにすると 次の表のようになります たとえば 4 人家族の場合 25.1 m3=25,100l(2lのペットボトル 12,550 本 ) の水を使っていることになります 特 -4
世帯人員別の 1 か月あたりの平均使用水量 世帯人員使用水量世帯人員使用水量 1 人 8.0m³ 4 人 25.1m³ 2 人 16.2m³ 5 人 29.6m³ 3 人 20.8m³ 6 人以上 35.4m³ 出典 : 生活用水等実態調査 ( 東京都水道局, 平成 24 年度 ) 人口の増加や経済の発展に伴うライフスタイルの変化等により増加してきた水の使用量ですが 近年では 人々の節水意識の浸透や 節水型水洗トイレや洗濯機などの普及が進んできているため 全国的に使用量は少なくなっています 本市においても 平成 19 年以降全体的に減少傾向にあります 今後も人口減少時代に入ることもあり この傾向が続くと予想されます 22,000 千m3 立川市における使用水量の推移 21,500 21,000 20,500 20,000 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 年度 出典 : 立川市統計年報 ( 立川市, 平成 21~25 年度 ) の統計数値より作成 特 -5
3 使う水量の目安 お風呂で使う水浴槽に貯める水は 大きさにもよりますが 約 200l 5 分間シャワーを出したまま使用すると 約 60l 使うことになります トイレで流す水トイレで流す水の量は 昭和 60 年代頃までは 1 回に約 13lが主流でしたが 最近のトイレは節水型のものが多く 6~5l 以下に抑えられています 炊事に使う水洗う ゆでる 沸かすなどの目的で毎日多くの水が使われています 食器洗いに水を 5 分間出したまま使用した場合 約 60l 使うことになります 洗濯に使う水 最近は使う水がより少なくてすむ洗濯機も出てきましたが それで も大量の水を使用します 水槽式 約 122l ドラム式 約 95l ななめドラム式 約 72l 3. 汚れた水をきれいにする 1 汚れた水の行方既に述べたとおり 私たちは毎日の暮らしの中で お風呂 トイレ 炊事 洗濯などを行うことにより 大量の汚れた水を流しています 各家庭で発生する汚水をそのままにしておくと 不衛生で悪臭が漂うまちとなり 快適な生活環境が損なわれてしまいます それでは川や海に流してしまえばよいのでしょうか? 特 -6
川や海には 汚れをきれいにする自浄作用があります そこに住んでいる微生物が 汚れの原因物質である有機物を分解しているのです しかし 現代では人口が増加し 重ねて多様な用途で水が使用されてくるようになると 排出される大量の汚水は微生物の能力を超えて人の健康や生活環境 産業 生態系にも悪い影響を及ぼします そのようにならないため 私たちが使った水は 下水道を通って下水処理場に運ばれ ここで多くの過程を経て浄化された処理水は 川に放流されます また 一部は水洗トイレの水や親水公園のせせらぎ用水等として利用され 貴重な水資源となっています 多摩川と根川緑道に挟まれた錦町下水処理場 水の汚れの度合いを表す指標 BOD BODは最も代表的な水質指標のひとつです 水中の微生物は 水の汚れを分解し 栄養分として利用しています このとき微生物が消費する酸素の量で 汚れの度合いを表したものを BODといいます 川の中の汚れが増えると 微生物が汚れを分解しきれず 悪臭の発生や水中の酸素が大量に使われることによる魚の窒息死などの問題が発生します 1 人が1 日で家庭から排出する水の平均 BODは 43g/ 人 / 日といわれています 通常 水に溶けている酸素の量は約 10mg/l 程度ですから BOD43gの汚れは 43gの酸素 つまり約 4,300l 分の水に溶けている酸素を使うことになるのです BOD( Biochemical Oxygen Demand) 生物化学的酸素要求量 出典 : 生活排水読本 ( 環境省 ) 特 -7
2 下水道と下水処理場の役目 下水道と下水処理場の役割は先ほど少し触れましたが 改めて説明 すると 大きく 3 つあります 各家庭で生じた汚水を 下水道管を通じて速やかに排出し 清潔で衛生的なまちを確保します 汚水がまちの中に停滞していると 蚊やハエ または悪臭の発生源となり 生活環境を悪化させることになります 汚水を処理し きれいな水にしてから川へ流すことで川や海の水質をきれいに保ち 地球環境を守っています 雨の日の雨水ます 下水道は 川や側溝などと同様に雨水排除のための機能があります これにより 道路冠水などの都市災害を防ぎ 街を浸水から守ります 本市内で排出された汚水 雨水は 錦町下水処理場や水再生センター * で適正に処理されます 処理水は多摩川へ放流するほか さらに高度な処理 * を行い 根川緑道のせせらぎ用水や柴崎市民体育館などの雑用水として利用しています * 水再生センター : 東京都下水道局所管で 多摩川流域には昭島市 国立市 府中市 八王子市 日野市 稲城市の 6 カ所に水再生センターがあります * 高度な処理 : 錦町下水処理場では 多摩川へ放流する処理水の一部を砂ろ過や活性炭吸着 紫外線滅菌を行うことで臭気や濁度 リン濃度等を抑えています 錦町下水処理場 特 -8 根川のせせらぎ用水
4. 雨水を利用する 立川市に降る雨の量を推計してみましょう 市の面積は 24.38 km2 ( 平成 27 年 3 月現在 ) 平成 25 年度の降雨量は 1,691mm( 本編 4 5 ページ参照 ) です よって年間の降雨量は 以下のとおり推測できます 1,691mm 24.38 km2 1,000=41,226,580 トン ( m3 ) 平成 24 年度の立川市の使用水量が 20,623,000 トン ( m3 ) ですから ほぼ 2 倍の量の水が年間に雨となって落ちてくることになります もったいないと思いませんか? 水道水は浄化や配水など 家庭に届くまでの間に多くのエネルギーを必要とします 水道水の代わりに雨水を利用できれば 省エネルギーになり 天然資源の有効利用にもなり さらに水道料金がかかりません また 雨水を貯めておくタンクは 災害時には水がめとして 大雨の時には下水道に大量の雨水が一度に流れ込むことによる浸水被害を防ぐ役割もあります 日本で雨の降らない土地はありません 雨水を貯めて使う 雨水利用は手軽に始められ 地球や家計に優しい取り組みなのです なお 市では本庁舎に雨水を貯留するための貯留槽 ( 約 73 m3 ) を設置し ろ過 滅菌処理後トイレの洗浄水や緑化への散水用水に利用しています 市役所本庁舎 1 階に設置されている環境エコモニターではこうした雨水の利用状況のほか 太陽光発電や天然ガスコージェネレーションシステムの稼働状況も確認することができます 雨の日の立川駅周辺環境エコモニター ( 本庁舎 1 階 ) 特 -9
5. 私たちのできること 貴重な水を上手に循環させつつ 私たちの良好な生活環境を維持するために 私たちは何ができるでしょう 4つの視点から取り組みを以下のとおり取りあげてみました 視点 1 無駄な水の使用を控えること 1 節水を心がけましょうお風呂の残り湯を洗濯や清掃に再利用する 炊事やお風呂場ではこまめに水を調整する 洗車はホースを使った流し洗いはやめてバケツを使うなど 工夫による節水を心がけましょう 視点 2 使う水はできるだけ汚さないこと 2 洗たくなどをするときは 環境にやさしい石鹸や洗剤を使用しましょう 洗剤の中には 微生物が食べにくい ( 下水処理が難しい ) ものが含まれている場合があります 適正な使用量を守り 必要以上に使わないようにしましょう 3 食べ残しや油は流さないようにしましょう残り物や油を流すと 水が汚れてしまします また 下水処理場の微生物は 油が苦手です 食べ残しはごみ箱へ 油は使いまわして使い切り 最後は古新聞などに吸い込ませて燃やせるごみとして捨てましょう 視点 3 汚れた水を処理するため 下水道を正しく使うこと 4 次のようなものは 流さないで下さい ガソリンなどの危険物ガソリン 石油 シンナーなどを下水道に流すと 気化して爆発などの事故のもとになります 絶対に流さないでください 家庭から出る生ごみ野菜くず 魚の骨 ビニール製品 紙おむつ 天ぷら油 ラードなどを流すと 水が汚れるだけでなく 排水管や ます が詰まり 悪臭の原因になります たばこの吸殻たばこの吸殻などを捨てると悪臭の発生や下水管が詰まる原因になります 5 雨水ますのまわりの掃除をしましょう雨水ますの上にごみや空缶などが溜まると 下水管へ雨水が流れず 道路に水があふれてしまいます 特 -10
6 単体ディスポーザ は使わないでください台所の野菜くずや魚の骨などの生ごみを砕いてそのまま流す単体ディスポーザは下水管を詰まらせ 悪臭の原因になるおそれがあるので 使わないでください 視点 4 雨水を利用すること 7 雨水浸透施設の設置を検討してみましょう市は 雨水を地下にしみ込ませる雨水浸透施設の設置を進めています これにより雨水の地下にしみ込む量が増えて 湧水や地下水の増加につながります また 雨水が下水管に流れ込む量が減るため 下水管の負担が軽減されます 住宅の新築や建て替え時はもちろん 既存住宅への設置も検討してみてください 8 雨水タンクの設置も検討してみましょうすでにご紹介しました通り 雨水の利用は省エネルギー 天然資源の有効利用 お金の節約などさまざまなメリットがあります 雨水浸透施設と同様 雨水を貯める雨水タンクの設置もぜひご検討ください 雨水で打ち水はいかがですか? 昨今話題となっている地球温暖化やヒートアイランド現象への対策として 江戸時代より行われている 打ち水 に多くの人々や商店街 自治体が取り組んでいます 雨水や下水処理水などを 一斉に 打ち水 をすることにより 昼間に蓄熱したコンクリートやアスファルト舗装の温度と周囲の気温を気化熱によって低下させる効果があります また 水に触れるなど五感に訴える清涼効果があり 水の有効利用の促進 節水意識や水を大切にする意識の啓発 地域で取り組むことで近隣コミュニティの再生など さまざまな効果が期待されています 皆さんも この夏は雨水を利用して 打ち水をしてみてはいかがですか 特 -11
6. まとめ 雨や雪となって地表へ降った水は川や地下水として最終的に海へと流れ下り ふたたび蒸発して雨や雪になり地表へ戻るという水循環の過程で 人はさまざまな産業や日々の暮らしの中に水を取り入れて使用しています ということは人間の暮らしそのものが水循環の一部だということです 水循環のバランスを崩さぬように 家庭での水の使い方について各自が考えなければいけません 海や地上から蒸発した水が雲をつくって雨に 降った雨は 地表を流れ 川へ 地下に浸透 川から海へ 下水処理場できれいになった水は 川または海へ 浄水場できれいになった水道は 私たちの家庭や 工場へ 私たちが使い汚れた水は 下水道管を通って 下水処理場へ 出典 : 公益社団法人日本下水道協会 水循環だけに関わらず 地球温暖化など近年取り上げられている環境問題は 私たちが生活の利便性を追い求めることと深く関わっていて 私たち自身が加害者であり 被害者であることが特徴です 私たちのライフスタイルと社会のあり方を変えていくことなしにこの問題は解決できません 身近なところから できるところから取り組んでいくことが必要です 特 -12