茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015) 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 板谷安希子 * 尾﨑久記 ** (2014 年 11 月 28 日受理 ) Evaluation of Visual Function of Childr

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ROSE リポジトリいばらき ( 茨城大学学術情報リポジトリ ) Title 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 Author(s) 板谷, 安希子 ; 尾﨑, 久記 Citation 茨城大学教育学部紀要. 教育科学, 64: 151-161 Issue Date 2015 URL http://hdl.handle.net/10109/12604 Rights このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は それぞれの著作権者に帰属します 引用 転載 複製等される場合は 著作権法を遵守してください お問合せ先 茨城大学学術企画部学術情報課 ( 図書館 ) 情報支援係 http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toi

茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015)151-161 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 板谷安希子 * 尾﨑久記 ** (2014 年 11 月 28 日受理 ) Evaluation of Visual Function of Children with Intellectual Disabilities using Auto Refractometer Akiko ITAYA * and Hisaki OZAKI ** (Received November28, 2014) はじめに 学校保健法に則り, 全ての学校において定期健康診断を実施することが義務づけられている これらの健康診断のうち, 眼科領域に関する検査は, 児童生徒の眼疾患を発見するだけではなく, 彼らの視機能状態を的確に評価することで円滑な学習を促すことにねらいがある 視力検査は, 原則として 5m 離れた位置のランドルト環について, 視力指標を 3 個中 2 個正しく判別できれば, その視力は獲得されていると評価され, その結果にもとづき A(1.0 以上 ),B(1.0 未満 0.7 以上 ),C(0.7 未満 0.3 以上 ),D(0.3 未満 ) のいずれかの区分として判定される 検査にあたっては, 被検査者の表現力不足によって生ずる判定誤差を避けるため, 小学校低学年の児童ではランドルト環の切れ目が上下左右いずれかの位置にある視標提示にとどめ, 小学校高学年以上になると斜め方向の視標も加えるよう配慮することが望ましいとされている これらの方法を用いて評価された視力検査結果が 1.0 に満たない場合には, 然るべき対応が勧告されるが, 多くの場合近視として認識される傾向があり, そのために誤った対応や処置がなされ, 視機能の良好な発達が阻害される可能性もあることが指摘されている ( 湖崎ら,1997) 知的障害養護学校 ( 現在は特別支援学校と称されているが, 調査当時用いられていた養護学校の名称を使用する 以下同様 ) においても視機能評価を行うことは義務づけられているが, 求められる課題が理解できなかったり, 視標に注意を向け続けることが困難である等のために, 自覚的に * 茨城県立大子特別支援学校 ( 331-3361 茨城県久慈郡大子町頃藤 3602;Daigo Special Education School, Daigo 331-3361 Japan) ** 茨城大学教育学部 ( 310-8512 水戸市文京 2-1-1;College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan) 本研究は平成 17 年度文部科学省科学研究費補助金 ( 奨励研究 (B)) により実施された成果に加筆したものである 知的障害特別支援学校は, 以前, 知的障害養護学校と称されていたが, 本論文では調査当時用いられていた養護学校の名称を使用する

152 茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015) 的確な応答ができない児童生徒も多い 板谷 尾崎 (1999) が I 県内の知的障害養護学校を対象に行った調査では, 評価が可能であった児童生徒は, 小学部では 57%, 中学部では 70%, 高等部で 79% であった また, 全国の知的障害養護学校の小, 中学部での視機能評価の実態調査をした石川 鳥山 (2002) によると, 視力検査に 学校用標準視力表, ランドルト環単独視標, 絵視標 などを用いて工夫を加え検査を実施しているが, 小学部の 1 年から 3 年までは測定困難な児童数は測定可能な児童数を上回り, 中学部 3 年でも測定困難な生徒はほぼ 30% と高い割合であった 実際には提示された視標のどこを見るべきか理解できずに測定不可と評価されたり, 検査に集中できず見えているにも関わらず視力値が 1.0 未満と判断されている児童生徒が含まれている可能性は大いにあり得る これらのことから, 知的障害児の視機能を的確に評価するには, 自覚的検査だけではなく, 他覚的検査をする必要性があるのではないかと考えられる 視機能の他覚的検査は Teller Acuity Cards やオートレフラクトメーターがある Teller Acuity Cards は縞視標で, 縞を見たか見ないか反応を見る検査方法である しかしその反応を見極めるためには, 検査者が十分に検査方法と検査機器を熟知し, かつ子どもの普段からの反応や眼球運動 ( 例えば眼振が多い等 ) に慣れている場合には, 検査時の微細な眼球運動出現を把握できる だが, 初めて検査を行う者は, それを見極めきれるか懸念が残る 臼井 杉浦ら (2007) は Teller Acuity Cards は検査者の検査への習熟度の問題及び児童生徒の注意力やの散漫さ, 検査環境に左右されることを指摘している また,Teller Acuity Cards の検査結果値はランドルト環検査結果値とは同値ではなく, このことも他覚的検査にもかかわらず, 実施されにくい要因の一つと考えられる オートレフラクトメーターとは目に赤外線の光を当て, 球面度数, 軸度などから目の屈折状態, 主に近視 遠視 乱視等の有無やその程度を自動的にコンピュータで解析し, かつ客観的に測定し, 数値化する機械 検眼機である 佐島 釣井ら (2002) は小児用レフラクトメーターを用い, 発達障害幼児の屈折スクリーニングを行った その結果,98.1% が検査可能であり, 視力検査の困難な発達障害幼児には有益な方法で妥当性が高いことを報告している そこで, 知的障害養護学校の児童に自覚的検査である視力検査と他覚的検査であるオートレフラクトメーター検査を実施するとともに, 保護者と担任に見え方の状態についてのアンケート調査を行い, 知的障害児の視機能評価にオートレフラクトメーター活用の有効性を検討した 方法 1 対象 I 県内の A 知的障害養護学校小学部在籍 63 名のうち, 保護者から検査同意を得た 53 人 (84.1%) を対象とした 2 方法 (1) アンケート調査 2005 年 9 月に検査同意を得た児童の保護者及びその担任に, 見え方に関するアンケート調査を実施した 質問作成にあたっては 3 歳児健診で用いられる項目を参照し,8 項目の質問を設定した ( 丸尾, 神田ら,1993) 回答は はい, いいえ の選択式とし, その他気になる点についてのみ自由記述式とした

板谷 尾﨑 : 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 153 (2) 視力検査 2005 年 5 月から 6 月の間にA 養護学校保健室で実施された定期健康診断では, 事前に各クラスへ練習用ランドルト環ならびに絵視標を配付し, 担任へ時間のある際に練習をしてもらうようお願いをした 検査時の提示視標は, 担任からの練習結果の報告や昨年度までの検査結果記録を参照して, 児童の理解度に応じて決定した 基本は 単独ランドルト環 としたが, 担任がランドルト環での検査が困難であった児童のみ 単独絵視標 を用いた ランドルト環検査では切れ目提示位置は上下左右方向のみとした 検査距離は 5 mとし, 検査眼は 片眼ずつ で実施したが, 遮眼が困難な児童は両眼で検査を実施した 回答は, ランドルト環視標で検査をする児童は, 環の切れ目を口答で答える, 環の切れ目を指で指し示す, ランドルト環の模型を持たせ, 提示視標と同じ形にする の3 方法を設定した 絵視標で検査する児童には 視標を口答で答える もしくは マッチング ( 絵視標と同じ絵カードを眼前に置き, 提示視標と同じ絵を選択する ) 2 方法を設定した ランドルト環, 絵視標のどちらの検査においても検査直前に 1 ~ 2 回眼前で練習を実施し, 子どもがどの方法で回答をしやすいのかを予め確認をした これらの検査方法で明らかに応答が得られた場合は 評価可, 応答が得られなかった場合は 測定不可 と判断した (3) 屈折度検査 2005 年 10 月から 11 月の間にオートレフラクトメーター ( 株式会社ニデック社製 AR-20) を用いて, 屈折度を測定した 今回使用したオートレフラクトメーターは, 寝たままでも計測できる ハンドヘルド と顎台に顎をのせて計測できる 据え置き の 2 つの方法で計測ができる 顎台に顎をのせるのが困難な児童には ハンドヘルド の方法で計測をし, 児童の実態に応じて使い分けた 検査は担任と相談のうえ, 観察室もしくは保健室で片眼ずつ行った 結果 (1) アンケート結果保護者ならびに担任に行った質問項目及びその結果を表 1 に示す 保護者からは,8 項目全ての質問に回答があり, 極端に近くで見たがるか (14 人 ), 片方の眼を隠すと嫌がるか (12 人 ) の項目に はい と答えた保護者が多く認められた 一方, 担任の回答で はい と答えた項目は保護者と比較して少なかった 表 1 の 保護者, 担任共に回答あり は, 同一児童に関してその項目を保護者と担任が はい と答えたことを示している これを見ると 目を細めてみるか と答えたのは, 保護者は 2 人で, 担任からも 4 人の児童について同様の回答があった このうち,2 人については保護者と担任ともに同じく はい と回答をしており, 残りの 2 人は担任のみ回答をしていた このように保護者と担任共に回答をした項目は 眼を細めてみるか, 片方の眼を隠すと嫌がるか, 顔を横向きにしてみるか, 瞳がよっていたり, 外側にむいているか の 4 項目あった しかし, 先に述べたように, 同一児童に対する回答数には, 必ずしも保護者が はい と回答しているが, 担任はそのように評価していない, またはその逆のことも認められ, 互いの回答は一致していなかった

154 茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015) (2) 視力検査検査同意を得た 53 人の児童のうち, 定期健康診断では 36 人 (67.9%) が視力検査測定可能であった ( 表 2) 表 2の 左右評価相違群 とは例えば右眼 A, 左眼 Bのように左右眼で評価の差が認められた群を示している 17 人 (32.1%) においては検査の指示理解が困難で, 視標を注視できない等の理由から 測定不可 と判断せざるを得なかった (3) 屈折度検査屈折度検査 ( 以下オートレフラクトメーター検査と表す ) と視力検査の実施状況を表 3に示す 両検査とも測定できたのは 30 人 (56.6%) であった 視力検査が測定可能にもかかわらず, オートレフラクトメーター検査の測定ができなかった児童は6 人 (11.3%), 視力検査は測定できなかったがオートレフラクトメーター検査を実施できた児童は 8 人 (15.1%) おり, これは低学年に多く認められた また, 両検査ともに測定不可の児童は 9 人 (17.0%) であった 次に, 表 2の視力検査結果の各評価群と, オートレフラクトメーター検査での左右眼屈折値の分布の相関を示したものが図 1 から図 4 である なお, これらの図ではオートレフラクトメーターで

板谷 尾﨑 : 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 155 両眼の屈折値が得られた児童についてのみ図示してある 図 3 の左右眼評価相違群については視力検査の評価は図内に (C,A) のように示されている 正視の視力範囲は研究によって ± 1ジオプター (D)~ ± 2D の範囲でばらつきがある ( 佐島 1999) これは被検査者の年代 (10 代 60 代 ) や障害種別 ( ダウン症候群や自閉症スペフトラム ) 等も関係している 佐島 (2008) は, 知的障害児を対象とした療育機関及び保健所等において小児用レフラクトメーターを用いて, 屈折スクリーニング検査を行った その際,2D 以上の遠視 近視 乱視 不同視を要精査とし, 正視の基準は ±2D 未満としている 今回のオートレフラクトメーター検査対象児の年令層は近いことから, 各図において目安として ±1D と ±2D を正視範囲内として, それぞれ点線で示した また, アンケート調査において留意すべき児童に関して図内にナンバーを示した 視力検査で A Bと評価された群のオートレフラクトメーターでの屈折値は全員が正視範囲内であった ( 図 1) 児童 1, 児童 2の屈折値は正視範囲内と考えられるが, アンケート調査回答では 極端に近くで見るか ( 保護者 ), 顔を横向きにして見るか ( 保護者, 担任 ) と指摘をされていた

156 茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015) 視力検査 Cと評価された群では, 近視 ( - ) と遠視 ( + ) ともに認められ, 高度遠視と思われる児童も含まれていた ( 図 2) また, 児童 3の視力検査の評価はCであったが, 屈折値は正視の範囲内であり, 視力検査と屈折値の評価に大きな差が認められた 一方, 児童 4, 児童 5は, オートレフラクトメーター検査において屈折値に左右差が認められた これら児童 3,4,5はアンケート調査で保護者, 担任から回答された項目はなく, 日常生活では支障なく過ごしていると判断されていた 図 3 は左右眼で評価の差異が認められた群である ±2D の範囲内で見ると 4 人が, その範疇に含まれた また, 正視範囲外の 1 人は斜視と診断されている児童であった 左右評価相違群においては, アンケート調査で保護者からは各 1 人ずつ 極端に近くで見るか, まぶしがることが多いか の項目に はい と回答があったが, 担任からはどの項目についても指摘はされていなかった

板谷 尾﨑 : 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 157 視力検査は測定不可であったが, オートレフラクトメーター検査で評価可能であった児童の屈折値を図 4 に示す 3 人の児童は屈折値では正視範囲内であった 児童 6, 児童 7はアンケート調査で保護者から 極端に近くで見たがるか, 片方の眼を隠すと嫌がるか の項目に はい と回答があり, 屈折値は高度近視に相当する値であった

158 茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015) 視力検査とオートレフラクトメーターの両検査ともに測定不可は 9 人いた そのうち 2 人は保護者, 担任ともに同じ評価であったが, そのうちの 1 人は 首を曲げてみるか, 極端に近くで見るか, 眼を細めて見るか, 片方の眼を隠すと嫌がるか, 顔を横向きにして見るか の 5 項目が, もう 1 人は 瞳が寄る, 外側に向いているか の 1 項目が保護者と担任とで一致していた 他の 5 人中 4 人は保護者から 極端に近くで見るか に はい と回答があった これら 7 人については自由記述において 極端に近くで見る (10 cm ), 近く (20 ~ 30 cm ) で見る, 小さな物をつまむのが上手である, 多くの物の中から, 好きな物を即座に見つけられる, 幼少時に眼瞼下垂のため手術 などの記載があったが, 残る 2 人は, 保護者と担任いずれからもアンケート調査項目の評価と自由記述への記載はなかった 考察 1 知的障害児の視機能評価と他覚的検査の活用について知的障害養護学校では定期健康診断の視力検査では, 検査者は的確な検査結果を得るために, 声かけや提示方法を工夫 改善している しかし, 自覚的応答が困難で測定不可と判断せざるを得ないこともある 定期健康診断はスクリーニングであり, 精密な検査までは必要とされていないが, 彼らの視機能の状態を見ると, 日常生活の観察だけでは見落としてしまうケースもあり, 他覚的検査の実施が必要であろう

板谷 尾﨑 : 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 159 他覚的検査として, その一つに Teller Acuity Cards がある この検査はどの年代でも可能であり, 重複障害, 重度障害に対しても有効な方法の一つとされている 大城 (2005) は秋田県内の養護学校において, 視力検査不可と評価された知的障害養護学校児童 14 人と肢体不自由養護学校高等部生徒 11 人を対象に Teller Acuity Cards を用いて検査を行った その結果,23 人の児童生徒が 刺激 ( 縞々 ) への明確な注目 が見られたことを報告している 白井 小林ら (2009) は知的障害児 12 人を対象に,Teller Acuity Card TM Ⅱ( 米国ステレオオプティカル社製 ) を用いて検査を実施し, そこから得られた結果を換算視力値に応じてシミュレーション画像を作成し, 担任へ児童の見え方や視覚に対する教育的配慮に関する情報提供を行っており, 具体的な見え方の理解や教育的支援の改善へつなげている 今回使用をしたオートレフラクトメーター検査は自覚的応答や, 視標に対する眼球運動の観察は必要とされない さらに応答能力に左右されにくく, 屈折値から高度屈折異常が判明できる利点がある ( 佐島,2009) 今回は定期健康診断時の視力検査結果と屈折度の関連性に着目し, 他覚的検査方法としてオートレフラクトメーターを用いて検討を行った 視力検査では測定不可の 17 人のうち,8 人がオートレフラクトメーターで評価することは可能で, そのうち 6 人は 2 年生以下の低学年であった これら 8 人のうち,3 人は正視の範囲内で視標提示方法や検査環境を改善することで, 今後視力検査が可能になると思われる 一方, 視力検査では測定可だが, オートレフラクトメーター検査は測定不可のケースや, オートレフラクトメーター検査で測定できたのは片眼のみであったケースも認められた 見慣れぬ機械に恐怖心を抱いたことや, 検査当日の健康状態との関連があるものと考えられる また, 視力検査時は両眼で評価したが, オートレフラクトメーター検査では片眼ずつの評価が可能となり, その結果, 屈折値に左右差があることが判明した児童もいた 保護者, 担任からのアンケート調査の評価では指摘されておらず, 日常生活は良い眼に依存して営まれていて, 問題がないと判断されているものと考えられる このように他覚的検査を実施することにより, 初めて視機能の状態を把握できるようになり, 視力検査結果だけではなく, より早期の屈折異常把握や, 的確な事後措置が期待される しかし, 検査器具としてオートレフラクトメーターも Teller Acuity Cards も高価であり, 学校で備品として即購入できるものではない そのため, 学校医 ( 眼科医 ) や地域の眼科医, 視覚事業を行っている健診機関 ( メディカルセンター等 ) と連絡をしながら, 対応していくことが重要と思われる 2 オートレフラクトメーター検査結果の指導への活用視力検査の結果値とオートレフラクトメーター検査の屈折値に明らかな差が認められた児童や, 正視範囲内だがアンケート調査で保護者から 極端に近くで見る と指摘された児童もいた 今回は, 遠視, 近視の屈折値だけで判断したため正視内か否かの検討であったが, 物を見る という背景には乱視や脳機能の問題も考えられ, 総合的に見ていく必要がある 視力検査, オートレフラクトメーター検査の両検査が測定不可となった児童については, 経過観察が重要である アンケート調査の評価について 5 項目が担任と保護者が同評価をしていた児童もいたことから, 視機能に関しては問題意識は高い 今後彼らの視機能を測定するために, 検査環境, 提示方法などの工夫 改善, 保護者や担任との密接な連携が重要になってくる

160 茨城大学教育学部紀要 ( 教育科学 )64 号 (2015) 自覚的, 他覚的の両側面からの結果を示すことで, 教師のみならず, 保護者も子どもの視機能の状態を意識しやすくなり, 担任や養護教諭へ相談するケースも出てくると考えられる 検査結果をもとに医療機関を受診し, 眼鏡装用などの適切な処置がなされて, 日常生活場面で行動の改善も期待され, 今回の検査において結果を保護者に通知したところ, 医療機関を受診して眼鏡を処方されたケースが3 例あった 視力検査結果だけでは保護者は経過観察にとどまっていたが, 他覚的検査を実施することで高度屈折異常が明らかになり, 見え方について意識変容したことが認められた また, 眼科医が学校医として勤務している学校では, 定期健康診断時資料としてその結果を示し, 指導 助言を仰ぐことも可能となり, 視能訓練士の協力を得ながら, 視機能の状態を正しく把握することに努めるべきであろう 今回の研究では知的障害養護学校の小学部のみを対象とした 今後は中学部, 高等部の生徒へもオートレフラクトメーター検査を実施し, 視力検査との関連について検討し, 視機能を的確に把握することにより, 今まで行なわれていた健康診断の結果通知の内容, 項目についても検討する余地がある また, 近視, 遠視の屈折度だけではなく, 乱視や脳の視覚機能情報との関連も併せてさらなる研究が期待される 謝辞 本研究の実施にあたり,A 養護学校ならびに在籍している児童, 保護者から多大なご協力をいただきました また, 茨城大学教育学部障害児教育生理研究室の勝二博亮先生から貴重な助言をいただきました ここに厚くお礼を申し上げます 引用文献 石川富美 鳥山由子.2002. 知的障害養護学校小 中学部に在籍する児童 生徒の視機能評価の実態に関する研究 心身障害学研究 26.pp.231-240. 板谷安希子 尾﨑久記.1999. 知的障害養護学校における視機能評価についての調査研究 茨城大学教育実践研究 18,pp.133-138. 臼井裕之 杉浦徹 吉村房雄.2007. 障がいのある子どもたちの視機能評価に関する実際的研究- 応答する環境づくりの実現のために- 財団法人パナソニック教育財団第 33 回実践研究助成 pp.216-218. 大城英名. 2005. 秋田県内養護学校に在籍する児童生徒の視機能評価の実態に関する研究 秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 27,pp.55-64. 湖崎克 田中尚子.1997. 小児のメディカル ケア シリーズ 小児の目の病気( 第 2 版 ) ( 医歯薬出版株式会社 ) 佐島毅.1999. 知的発達障害児の屈折異常の特徴と早期対応 特殊教育学研究 37,1,pp.59-66. 佐島毅 釣井ひとみ 角田祥子 冨田香. 2002. 小児用レフラクトメータを用いた発達障害幼児の屈折スクリーニングに関する研究 小児保健研究 61,2,pp.315-321. 佐島毅.2008. 知的障害児の屈折異常に対する早期対応の現状 障害科学研究 32, pp.107-115. 佐島毅.2009. 知的障害幼児の視機能評価に関する研究- 屈折状態の評価と早期発見 早期支援 - ( 風間書房 ) 白井百合子 小林秀之 衛藤裕司.2009. 特別支援学校 ( 知的障害 ) における Teller Acuity Cards Ⅱを使用

板谷 尾﨑 : 知的障害養護学校における視機能評価へのオートレフラクトメーターの活用 161 した教育的視力評価の取り組み 広島大学大学院教育学研究科附属特別支援教育実践センター研究紀要 7,pp.17-26. 丸尾敏雄 神田孝子 久保田伸枝 湖崎克 須賀純之助 宮本吉郎.1993. 三歳児健康診査の視覚検査ガイドライン 眼科臨床医報 87,2,pp.303-307.