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フランス語学研究, 第 48 号,2014 年,pp.57 76 ÇA を主語とする発話と認知モード L énoncé ça + verbe et le mode de cognition 春木仁孝 (Haruki Yoshitaka) L énoncé ça pleut est souvent considéré comme une forme dialectale ou populaire de il pleut. Pourtant, on ne peut pas dire ça ne pleut pas, ce qui nous fait penser qu il doit y avoir, entre ces deux énoncés, quelque chose d autre qu une différence stylistique. Le but de cet article est d examiner, non seulement les verbes météorologiques, mais les divers énoncés avec ça comme sujet, tels que ça mouille, ça glisse, ça pique, etc. et d essayer d éclaircir leur fonctionnement. Notre conclusion est que ces énoncés sont utilisés quand on saisit quelque chose à travers une interaction corporelle. L agent et/ou l expérienceur y est englobé dans un procès dénoté par le verbe. Ça + verbe constitue ainsi une construction à part qui a sa propre fonction. キーワード : ça(ça), 認知モード (mode de cognition), 身体的インタラクション (interaction corporelle), 構文 (construction syntaxique) 1. はじめに 1.1. ça は何を, あるいは何かを指示しているのか フランス語の日常的な表現には Ça va? や Ça sent bon!,ça y est! など ça を主語に取る表現が数多くある. これらの表現の多くは慣用的な表現とし て扱われ, 主語の指示詞 ça が何を指しているのか, ひいてはなぜ ça が主語として用いられるのかということが議論されることはあまりない 1).Ça va? についても ça は漠然と問われた人の健康状態などを指すといった説明がよく なされるが, それでは Ça sent bon! の ça は何を指しているのか, あるいは 1) CADIOT(1988) は ça を主語とする発話を取り上げ, その種の発話で ça が何を指示しているのかという点について非常に興味深い議論をしているが, なぜ ça が主語として用いられるのかということに関しては全く答えていない. 57

Ça y est! の ça は何を指しているのか, といった問いに一貫して答えること はできない. 一方, フランス語では上で挙げたようなよく使われる表現以外にも天候を表 わす非人称動詞の主語として ça が使われることがある. 筆者は春木 (1991) において,(1) のような天候表現の非人称構文の il に代わって主語として用 いられる ça と, それに関連して ça についての若干の問題についての考察を 行なった.(1a)(1b) のようなペアを見ると,Ça pleut. は一見 Il pleut. の 話し言葉的異形態のようにも見える. 実際,Ça pleut. という発話に対するネ イティブの反応は多くの場合, 聞いた事がある, そのように言う方言もある のようなものである. しかし,ça が単に il の, 例えば方言や話し言葉におけ る異形態でないことは, 既に HILTY(1959) が否定文の振る舞いを通して指摘している. 単に雨が降っていることを述べる状況では Il pleut. も Ça pleut. も言えるが,(2b) のように ça を主語とする否定の発話は一般に容認されない. ところが, 同じく否定表現であっても (3b) では問題なく ça を用いることが できるのである 2). (1) a. Il pleut. / b. Ça pleut. (2) a. Il ne pleut pas beaucoup { dans cette région / cette année }. b. * Ça ne pleut pas beaucoup { dans cette région / cette année }. (3) a. Il ne pleut plus. b. Ça ne pleut plus. ça に関する HILTY(1959) の説明には問題があるのだが, 上記のような違 いがあるところからも,il と異なり ça は単に統語的に主語位置を埋める以上 の役割を果たしていると考えられる. 春木 (1991) では, 非人称動詞の主語 として用いられる ça を中心に, 主語として用いられる ça の機能について考 察し, 結論として主語として用いられる ça は発話産出行為における定位操作 の痕跡であると分析した. 定位操作というのは, 簡単に言えばある発話を具体的な当該の発話空間に結びつけて定位する操作であり, 発話が発話として成立するために必要な基本的な操作である. 本稿ではこの分析をさらに進めて, 認知モード 3) の観点から ça を主語とする発話における ça の機能, および ça を主語とする発話そのものの性格について考察を行なう. また ça + 動詞 という新たな構文カテゴリーが現代フランス語において発達しつつある点につい 2) 容認度には個人差があるが,(2b) よりも (3b) の方が容認度が高いという点が重要である. 3) 本稿では中村 (2009) で提案されている認知モードの考え方を採用している. 認知モードとフランス語の関係については, 春木 (2011,2012) を参照されたい. 58

ても考察を行なう. 1.2. いくつかの先行研究について 一般に ça については, いわゆる照応詞である人称代名詞と違い, 指示対象 がはっきりと限定できないもの, 一つの概念としてまだ名前を与えられていないもの, 概念としてまだクラス分けされていないものを指すというような説明がなされてきた. (4) Quand ils(= des petits)sortent tout minces, ça vaut mieux. (JEANJEAN 1983) 赤ん坊は小さく生まれるほうがよい( 母親にはより楽だ ) (5) On la pousse dans l eau et ça fait floc. (QUENEAU, Les fleurs bleues) (6) a. Mes enfants, ils me préoccupent. (CADIOT 1988) b. Mes enfants, ça me préoccupe. (CADIOT 1988) (7) Il a neigé mais ça n a pas tenu. (RUWET 1991) たとえば (4) のような例文に対して JEANJEAN(1983) は,quand 節を主語, つまり後続の ça の先行詞と分析している.JEANJEAN の分析をそのまま受け入れることはできないが,ça の機能を考える上では興味深い例である.(5) では第 1 文が述べている事態が実際に起こったことを ça が表わしている.(6a) と (6b) のような対比はよく知られている.(6a) では 子供の健康, 成績 などメトニミックな解釈が許す範囲でまさに子供のことが心配だと言っているが, (6b) では ça はメトニミックな解釈を大きく超えてそれぞれの状況で子供との関連で問題になっていることを指す. たとえば 最近子供に起きたこと, 今夜のベビーシッターが頼りないこと, あるいは子供のしつけの仕方が分からない 等々, 状況により内容は様々である.(7) では前半の雪が降ったという事態を受けて,mais 以下では ( 降った雪は ) つもらなかった と述べる. このような ça と先行文脈の関係は, 指示形容詞のついた名詞句が, たとえば ce livre = le livre que j ai acheté hier のように先行文脈の内容を含んでいることに似ている. SN, ça V の形で主語位置で受け直し reprise として用いられる ça も, 文頭の名詞句 (SN) を単純に受け直す照応でないことはこれまでにも指摘されている 4).CADIOT(1988) は, このような ça を指示対象に対する命題的ア 4) La Chine, je connais ça. のような目的語の reprise においても単に国名を知っていだけではなく, 中国に行ったことがあり中国がどのような国であるかを知っているという意味であり,ça は先行名詞句の指示対象にまつわるより豊かな意味内容を指している.cf. PORQUIER(1972). 59

クセスの痕跡 (la trace d un accès propositionnel à sa référence) と規定す る. 直接的な受け直しに見える場合も, 先行詞を値 valeur としてではなく, 何らかの形でアクセスできて明示化できる含意された命題の項として捉えていると言う. 一方 CORBLIN(1987) は,(8) のような人に代わって用いられる ça について, 指示対象の輪郭がはっきりせず, 発話状況と一つに溶け合っている (un référent non délimité, à contours flous, qui se confond avec la situation d énonciation) と言っているが, これは本稿の考えにかなり近いものと言える. (8) Oh, mais ça travaille ici. おや, みんな精がでることですね しかし CORBLIN の興味は指示詞としての ça の性格にあり, 上のように性格づけられる ça が認知的に見た場合にどのような役割を果たしているのか, フランス語の性格全体の中でどのような意味を持つのかについては追求していない. CADIOT はこのような人に代わる ça について, 発話者は特定の指示対象を指示しているのではなく, その指示対象を一つのタイプに属する 凝縮された生起 として位置づけ, その対象に対して述定を行っており, 個別的な指示対象はその出来事のいわば繋留点 point d ancrage として把握されていると考えている. そして個別的な指示対象は, それについて述べられることとはっきりとは区別されていないと説明する. つまりそれについて何かが述べられる対象と, それについて述べられることとがいわば一体化しているということである. また,GREVISSE は非人称の il に代わる ça について, 漠然とした主語 内的主語 を指すと述べているが, これは言語学的には何も説明したことにはなっていないものの, ネイティブの感覚の一端を表わしているとは言える. 以上の先行文献は, いずれも ça が輪郭の明らかな指示対象ではなく, 命題的な内容, 中心となる指示対象にまつわる内容, 先行文脈の内容を含んだ指示対象など, 具体的な指示対象を超えたものを指しているという点ではある程度共通していると言える. なお既に触れた HILTY(1959) は, 雨が降る における il と ça の振る舞いの違いについて,ça はやはり指示詞であり,Ça pleut. においては ( 降っている ) 雨 を指示していると言う.ça が指示できる雨が存在していなければ ça を用いた文は成立しないが, さっきまで存在した雨がもう存在しないということを言う (3b) では ça を用いることができるというのである.ça が多少とも指示的な場合もあるが, いずれにしろこのような直接的な指示による説明では本稿で見る様々な構文における ça を統一的に説明することはできない. 60

総じて先行研究では指示詞としての ça をどのように説明するかという点に注意が向き,ça を主語とする発話そのものの役割を考えるという視点が欠けているものが多い. そんな中で,ça の歴史に関して興味深い考察をしている HENRY(1960) が, 本稿で問題にしているような ça を主語とする発話について, 概ねいずれも動詞の表わす事態に主眼を置いた発話であると説明しており, 文献の古さや理論的枠組みの欠如にも拘わらず示唆的な指摘が見られる. 2. 天候表現における ça について 2.1. ça pleut, ça gèle などについてまずは天候表現の非人称動詞, 非人称用法 (faire など ) の主語として用いられる ça から見ていこう.ça に関しては,CADIOT が興味深い論文を発表している (CADIOT 1988). また, 気象現象を表わす表現については RUWET (1991) が詳しい考察を行なっており, その論文の中で ça についてもかなり詳しく検討している. 本稿も二人の研究を参考にしているが, 注で述べたよう に CADIOT の興味は指示詞 ça が何を指示しているのかにあり, また RUWET の興味は天候を表わす動詞の振る舞いにあり, 本稿で扱っている問題, つまりどうして ça を主語に取る構文が広く存在するのかという問題には彼らの興味 は向いていない 5). ça pleut については, 実例は多いにも拘わらず, 方言的だとか, 話し言葉的な表現だといった否定的な反応を示すフランス人も多い. しかし, 現実にはかなりよく用いられている. 英語には rain,snow といった気象現象を表わす動詞の主語としては it しかない. しかしフランス語では純粋に統語的なフィラー ( ダミー主語 ) である il だけでなく 6),ça を気象動詞の主語とすることができるのを見れば,ça pleut における ça は il とは異なる働きをしていると考えるのが妥 当である. しかしながら,HILTY のように降っている雨そのものを指示しているというのは, 直感的にもまた ça を主語とする他の発話との統一的な説明をす る上でも無理がある. もし ça が雨を指しているのなら,ça pleut に対応して (9) 5) CADIOT は ça を考える上で天候表現を論じており, 一方,Ruwet は天候表現を考える上で ça についても論じており, 両者の目的は違っているが, あわせて読むと興味深い. ただし RUWET は CADIOT の考えを his discussion is somewhat confused and unconvincing と批判している. 6) 天候表現をはじめとする非人称構文における英語の it については,BOLINGER その他英語圏の研究者による何らかの意味を持つという議論があるが, 筆者は与しない. 認知言語学の枠組みによる LANGACKER(2011) についても同様に賛成できない. スペイン語やイタリア語では形態的に非人称主語が存在しないことを見るだけでそれらの議論が成立しないことは既に明らかである. さらにフランス語における il と ça の交替現象の詳細を見れば, 純粋に非人称主語である il や it が何も意味していないことはいっそう明らかである. 61

(10) などのように言えるはずだが, これらの発話はもちろん成立しない 7). (9) a. * De la pluie pleut. b. * Il pleut de la pluie.( 非人称構文 ) c. * Il en pleut.( 代名詞化 ) (10) * Elle pleut.(elle = la pluie) RUWET(1991) 8) は, 気象現象というのは 対象 と それについて起こっていること を区別するのが非常に難しい形で我々に対して現前すると述べている. 言語表現の観点からは, 気象現象について項と述語にそれぞれ対応するものを我々の経験の中で区別するのが難しいと言う. 一方,CADIOT は, 気象現象に関しては, それについて発話を構成するための対象とそれについて述べることとの間にはっきりした区別がない. 発話の対象には最低限の自立性が必要だが, 雨の場合にはそれがないので ça pleut に抵抗を覚える人がいるのだと論じる. 雨 というのは降っているからこそ雨なのであって, 降雨という現象と切り離しては雨は存在していないのである. この CADIOT の議論の言わんとするところは, 結局は指示詞としての ça に対して, やはり指示対象として現象か ら一定の独立性を持って抽出できるもの (CADIOT の言う発話の対象 ) が存在するほうが発話が成立しやすいということになる. ただし CADIOT の議論全体 を見る限り,ça pleut における ça が直接的に雨を指しているという HILTY の議論とはやや違って, 現象を捉えるための繋留点, とっかかりとしての指示対象, そして言語表現的には発話の出発点となる対象を ça を通して捉えることがどれだけできるかということを考えているようである. このようなネイティブの研究者の意見や,HILTY の (2b) は言えないが (3b) は言えるといった指摘から見えてくるのは,ça pleut が認知主体による降雨の体験に結びついているということである. これを認知モードから見た場合,ça pleut は降雨をインタラクションを通して認知していることを表わしていると考えることができる. 降雨の体験というのは実際に雨の中にいる場合はもちろんだが, 過去時点における体験や, 部屋から外を見ているような場合も含まれる. また, たとえばテレビで雨の場面を見ていても, 客観的に 雨だ と表現するのではなく, 疑似体験的に雨の様子を述べる時には ça を主語にした ça pleut という表現が使われるのである. それがインタラクションを通した事態把握ということである. 7) HILTY は,ça pleut を一種の存在文として de la pluie est とパラフレーズして説明している. 8) 本稿で参照している RUWET(1991) は英訳による彼の論文集所収のものであり, 仏語版は 90 年に発表されている. これは気象動詞についての彼の研究の集大成である.CADIOT (1988) では RUWET(1985) が引用されている. その CADIOT の論文を RUWET(1991) は批判している. 62

CADIOT は,geler に関しては 凍る という現象の支持物 support や場を考えやすいので,ça gèle は ça pleut に比較して容認度がはっきりと高いと言う. 彼は雨と違って降るものが地面に残って目に見える ça neige の容認度には触れていないが,geler が ça を主語とした場合に容認度が高いのは当然で あろう. なぜなら, 以下の CADIOT が引く例からも分かるように,geler には非人称構文以外に凍るものを主語とする人称構文も存在するからである. (11) La pierre, ça gèle. (12) Les oliviers, ça gèle à 15. 一方,LE GOFFIC(1993) は,Ça gèle, ce matin! は Il gèle! に比べてより会話的, より表現的だとし, その理由は すぐに感じることのできる具体的な指示物を指しているため (p. 142) であると言っている. これは CADIOT の考えに近いと言える. しかし (13)(14) などと同様に, 遊離された名詞句を持たない発話の ça は,ça pleut の場合と同様の役割を果たしていると考えるべきであろう. (13) Ça gèle dehors. (14) Ça gèle à pierre fendre. そもそも何かが 凍る のと, 凍るほど寒い とでは表わしている意味が異なっている. 確かに 凍るほど寒い の意味で Ça gèle! と言ったときも, そこに凍るものがあれば実際に凍っている可能性は高いので, 漠然とではあれ指示物や場をイメージしやすいとは言える. しかし ça gèle が ça pleut よりも受け入れられやすいのは, 動詞 geler が名詞主語構文も取れるということと, さらに, 雨の場合よりも何かが凍るほど寒いという場合の方が, 一層身体感覚的にその寒さを自分を包むものとして認識しやすいからであると思われる. CADIOT は自説を補強する証拠として,geler が純粋にイベントとして捉えられるときには (15) のように ça よりも il が好まれると言っている. (15) Il a gelé toute la nuit. >??Ça a gelé toute la nuit.(?? は CADIOT) 確かにこの例では支持物や場は背景にしりぞき, 現象そのものが問題になっている. しかしそのことが ça を使いにくくしている本質的な原因とは考えられない 9). 副詞句 toute la nuit が示すように, アオリスト的な複合過去によるこの例は確定した事態を表わしており, 認知主体が認知の場の外から事態を捉えていることが ça を用いた発話の容認度が幾分なりとも落ちる理由であろう. 要するに geler という現象の指示物や場がイメージしやすいかどうかは本質 9) CADIOT は容認性を?? としているが, この発話を問題なく受け入れるネイティブもいる. 63

的なことではなく, 認知主体がその現象を身体的インタラクションを通して捉えやすいかどうかという点が重要なのである. このように geler という動詞を通して, 本来は非人称構文である気象動詞の主語としての ça と人称構文を取る動詞の主語としての ça の連続性を見ることができる. CADIOT はさらに givrer を挙げて, この場合は必ず物理的な支持物に霜がつくので,il givre ではなく ça givre となると言う.CADIOT は Il givre. にアステリスクをつけているが,RUWET(1991) や辞書に非人称の例があるし, 実際, 非人称の il givre の例は簡単に見つかる. 従って CADIOT が言うほどのはっきりした違いはないのではないかと思われるが, 少なくとも ça givre が受け入れられやすいのは確かなようである. しかし,geler の場合もそうであったが,(16) のように ça とは別に霜が付く場所 ( この例では水道栓 ) を前置詞句で明示することができるので,ça が支持物を指示しているとすると矛盾が起きる. 結局, その現象の指示物が考えやすいとか指示物が必ず必要であるということと,ça を主語に取る発話の生起との間には直接的で本質的な関係はないと考えられる 10). (16) Ça givre au niveau des robinets. 2.2. ça の口語性について最初にも述べたように, 非人称主語の il に対応して用いられる ça を il の口語的な異形態とは言えなくても,ça pleut などの発話が話し言葉的であるというのはネイティブ一般の感覚である. たとえば RUWET は pleuviner,bruiner, venter などはやや書き言葉的な動詞なので,ça bruine や ça vente には違和感を覚えると述べている. しかし ça vente や ça bruine の例は簡単に見つかる. 一方, 非人称動詞の brouillasser については口語的なので ça brouillasse は自然だが,il brouillasse だと少し変な感じがすると RUWET は述べているが, 非人称動詞はそもそも規範的には il を主語とするのでもちろん il brouillasse と言えるし,RUWET の語感にも拘わらず当然ながら実例も普通に存在する. いずれにしろ, 天候を表わす非人称動詞の主語としての ça が口語的であるとか話し言葉的であるということは, 実際にその現象が起こっている現場で用いられることが多く, また発話主体, すなわち認知主体に関わる現象として述べられることが多いという事実の反映である.CADIOT が geler について,ça を主語に取る形を複合過去で用いると容認度が下がると言うのも同じことである. これは,ça を用いることで降雨なら降雨という現象を, その現象が起こって 10) もちろん支持物があること, そしてその上に生じた霜が現象として目に見えることが ça の使いやすさに多少は関係しているかもしれないが, それは本質的な理由ではないのである. 64

いる場, つまりは認知領域とその中にいる認知主体を包み込む形で, 言い換え れば認知主体と認知対象である気象現象とのインタラクションを通して表わしているということである. これは春木 (2011,2012) で詳しく見た I モード的な認知を行なっているということである. このように考えれば,RUWET の反応のように容認度に個人的違いはあるにしろ, 基本的にはすべての気象現象を表わす動詞において,ça を主語とする発話を用いることができるのである 11). 気象動詞の中でも ça を主語にした用例が多いのは雷を表わす tonner である. 雷鳴であれ稲光であれ, 雷は身体感覚に強く訴える現象であり, インタラクションを通した認知が行なわれやすいのは直感的にも理解できる. それが用例の多さに結びつくと考えられる. 次の嵐の描写では,tonner は用いられていないが, 雷鳴と稲光の様子を ça を主語にした構文でより具体的に描いている. (17) Ça flashe souvent, ça gronde fort et ça pleut beaucoup! 何度も稲光がして, 激しく雷鳴がとどろき, 雨も激しく降っている 3. 身体感覚に関わる動詞 : 気象動詞を超えて 3.1. ça mouille をめぐってここまではいわゆる非人称で用いられる気象動詞について見てきた. ただし geler,givrer は非人称用法と人称用法の境目が曖昧であった. これら以外にも非人称用法と人称用法の境目が曖昧なものもある. 例えば mouiller 濡らす という動詞はよく ça mouille という形で用いられる.mouiller には方言で 雨が降る という意味もあるが, ここで問題にしているのは本来の意味での用法である.TLF にも 雨が降る という意味の方言での用法, および (18) の表現が挙がっているものの, 特に非人称用法の項目は立てられていない. しかし, 現実には il mouille という非人称構文の例が存在しており, またそれに対応する ça mouille という形が広く用いられている 12). (18) Il pleut, ça mouille / il mouille, c est la fête à la grenouille. 雨だ, おしめりだ, カエルは大喜び (18) はフランス人にはよく知られた歌の歌詞で,ça mouille になっているバージョンの方が一般的である. この ça mouille という表現は A が B を濡らす という他動詞の絶対用法がもとにあるようにも見えるが, 対応する il 11) 雨や雪に関する気象動詞は方言に多い. それらの動詞は口語的, 方言的, つまりインタラクションによる日常的な経験を表わすが故にいっそう主語として ça を取るのが一般的である. 参考に, 雨に関する気象動詞を少し挙げておく.pleuviner,pleuvasser,pleuvoter, pleuvioter,dracher 激しく雨が降る ( フランドル方言 ),flotter 雨が降る,etc. 12) ただし非人称用法の il mouille は ça mouille から逆製されたものではないかと思われる. 65

mouille は明らかに 濡れる という現象を表わす非人称構文である 13). (19) の例では ça が指示的に, 左方遊離された la pluie を受けているよう に見えるが, これは (18) の il pleut, ça mouille と全く同じことを表わして いる.(20) と並べてみても結局, 左方遊離された要素は副詞的要素として 濡れる原因を表わしているのであり, 指示的に ça の先行詞として分析するの は適切ではない.(21) では濡れる場所が左方遊離されているが, この場合も les yeux を ça の先行詞と考えるのは難しい 14). さらに (22) では濡れるもの ( メ トニミーにより自転車に乗っている人 ) と濡らすものの両者を含む状況が左方遊離されている. (19) La pluie ça mouille. 雨で/ 雨が降ると濡れる (20) Les émotions ça mouille 感動すると涙が出る (21) Attention les yeux, ça mouille. 眼, 気をつけて, 濡れるよ (22) Le vélo sous la pluie, ça mouille. 雨の中を自転車で行くと濡れる 結局,ça mouille は発話者が直接的に, またはある状況に認知する視点をおいて 濡れる という現象が起こっていると述べていると分析できる. 主語の ça は,ça pleut などの場合と同様, 濡れる原因となるものと濡れる人やもの ( 場所 ), つまり認知主体を包み込んで濡れるという現象が起こっている認知空間を表わしており, 発話全体はその現象を認知主体がインタラクションを通して捉えていることを表わしていると分析できる 15).pleuvoir や geler 同様,mouiller 濡れる という現象も直接, 身体に感じられる現象であることが ça mouille という表現を発達させた原因と考えることができる. 3.2. 身体感覚に関する動詞 mouiller に類似するような身体的な感覚を表わす動詞には, やはり ça を主語とする構文の例を多く見つけることができる. (23) La sueur ça pique les yeux, ça mouille les pieds et du coup, ça glisse dans les sandales. 汗をかくと目がちくちくし, 足がぬるぬるしてサンダルが滑る (24) Le froid, ça pique. 寒さで肌が痛い 13) 筆者の経験だが, 雨が降ってきたにも拘わらずカフェの外の短いひさしの下のテーブルに座っていた客がついに店内に入ってきたのを見て店主が, Ça mouille,hein! とその客に言った. これを日本語に訳すと 濡れるやろ といった感じだろう. 14) 左方遊離された部分を Attention aux yeux と書くこともできる. 15 CADIOT(1988) に,Ça mouille,cette pluie! という指示形容詞を伴なった右方遊離の例があるが, 左方遊離同様, この cette pluie も雨の程度 ( 強さ ) を表わしており, 主語の ça と結びつくと言うよりも, 発話全体と呼応しあっていると考えられる. 66

(25) Quand il fait très froid, ça pique. とても寒いと肌が痛い (23) でも la sueur は, 汗をかくと のように副詞的で原因となる現象を 表わしていると解釈できる.(24)(25) においても, 寒さが認知主体を包み込 む状況の中で, 認知主体は動詞 piquer が表わす感覚を経験しているのである. これら名詞と quand 節を取る 2 つの発話になんら変わるところはないのである. また,(23) の piquer と mouiller は他動詞構文の形をしているが,les yeux と les pied の部分は事態が起こっている場所を述べている. 汗は外から 足を濡らすのではなく足自体が汗で濡れてくるのであり, 汗をかくという現象 と汗をかく場所とは切り離せないのである.ça pique les yeux も同様である. (23) でより問題にしたいのは glisser という動詞である. この動詞の主語であ る ça は 汗をかいて濡れている足 を指示しているように見えるが 16), 場所 を表わす前置詞句の dans les sandales と対応して, 発話全体は サンダルが ぬるぬるとして滑る (c est glissant dans les sandales) と解釈すべきである. 結局 glisser という動詞が表わしているのは, 汗を介したサンダルと足の関係 という現象なのである. さらに glisser や類似する動詞の例を見てみよう. (26) L hiver, ça verglace et ça glisse. (27) Ça neige et ça glisse dans l Est. (28) En Dordogne, ça patine et ça glisse. (26) でも滑るのは路面とその路面に接するタイヤや足である. 滑るという 事態を 経験する のはタイヤや足ではあるが, 滑る原因は凍った路面であ り, この場合も滑るという現象はそれら総てを総合したものである. ちなみに日本語でも タイヤ / 足が滑る とも 路面 / 道が滑る とも言える. また, verglacer は非人称動詞が ça を主語にした例だが,glisser には非人称動詞としての用法はない 17). しかしこの例において並列されている二つの動詞の用法には本質的な違いはないと考えられる.(26) の ça を主語に取る二つの動詞を, 非人称構文があるかないかで区別する意味はない.(27) もやはり非人称動詞 neiger と,glisser が ça を主語にして続けて用いられている.(28) では glisser と, ほぼ同じ意味の patiner が重ねられている.patiner も通常は滑る主体やタイヤなどを主語に取るが,ça を主語にしたこの例では スリップする, スリップしやすい という事態や属性を述べている. 結局, これらの例 16) 実際,les pieds glissent dans les sandales と言うこともできるが,ça glisse dans les sandales と比べると, 明らかにより客観的な描写になる. 17)Le Petit Robert には自動詞の項目で補語 complément を取らない場合として être glissant 滑る, 滑りやすい という語釈のもとに Attention, ça glisse! という例が挙がっている. 67

の動詞はいずれも同じ構文の実現と考えられるのである. インタラクションを通した認知というのは, 必ずしも認知や発話の時点に当 該の事態が現実に起こっている必要はないのである. 属性を表わしている場合も, 滑りやすい のように一般にその属性が危険であったり, 何らかの被害をもたらすような身体的な感覚に訴える事態を表わしていることが肝要なのである. つまり, 発話空間においてその事態が感覚的に仮想しやすく, また既に経験済みの事態ならば感覚的に再現されやすい事態であれば, 認知領域内においてその仮想 再現された事態を認知主体がインタラクションを通して認知した結果が, 滑りやすい のような属性として表現されるのである. (29) Ça glisse, ça splashe et ça éclabousse! ( プールの滑り台で ) 滑ってどっぼーん! 水しぶきだ! (30) Attention, ça éclabousse! 気をつけて,( 泥 / 水が ) 跳ねるよ (31) Une baleine, ça éclabousse! 鯨がジャンプすると水が跳ねる (32) Le bain, ça éclabousse! お風呂の中で水が/ でパシャパシャ (29) の glisser は属性描写ではなく, プールの滑り台で人々 ( あるいは自分 ) が滑っている様子の描写である. これらの例に見られる éclabousser も ça と共に用いられやすい動詞である.(31) はジャンプする鯨の写真のキャプションである. この場合,une baleine は写真の 身を躍らせて水に身体をたたきつける鯨 に対応している.(32) は幼児がお風呂の中で水を跳ねかけて遊んでいるビデオのキャプションである. この場合は,le bain は水が跳ね散る場やお風呂で遊ぶ行為を表わしていて, これらの例でも前置された名詞は副詞的な役割を果たしている.éclabousser は他動詞であるが, これらの例では何かに水を跳ねかけるというよりも, 水が跳ねることそのものを述べていると解釈できる. 従って, 上で見てきた mouiller や glisser と同様の用法なのである 18). なお,(31)(32) のような発話全体に対して主題的に解釈できる左方遊離部分を持つ発話は, 一種の総称的な文とも言えるが, 写真やビデオで示された非常に具体的な事態を出発点にした属性叙述文であり, その事態をあたかも自分がその場にいて経験しているかのような気持ちで述べているという点で, やはり I モード的な発話である 19). 18) 認知主体や聞き手がその場にいれば跳ねる水を浴びることになるという事態把握である. なお éclabousser には代名動詞の再帰用法はあるが, 水が跳ねる という自動詞用法はない. 19)Les enfants, ça casse tout. のような総称文に関しては ça の指示性が高く, また述語部分も通常の形である点で, 本稿の対象としている構文とは別のものであるが,ça を主語に取るという点で何らかの共通点があるのかどうかは今後の検討課題である. 68

3.3. 嗅覚, 聴覚, 触覚など 日常的に用いられる sentir,fumer による表現も同列に考えることができる. (36) は拡張例である. (33) Ça sent bon(par)ici! (34) Ça fume dans la cuisine!(le GOFFIC 1993) (35) Ça sent le brûlé.(le moisi, le fromage, le gaz, le sapin, etc.) (36) Ça sent la rentrée.(l été, la fin de saison, la tricherie, etc.) sentir は匂いを感じる主体や匂いを発するものを主語に取ることもできる が, 匂いが局所的な場合などを除けば ça を主語に取るのが一般的だと言える. ところで (33) の様な例は統語的にはどのように分析できるだろうか. 指示的かどうかは別として主語の ça を独立した要素として考えると,ça と bon あるいは le brûlé( 何かが焦げる匂い ) が sentir を介して同格的に結びつけられているという分析が一つの可能性として考えられる. その分析では sentir は一種の繋辞的な役割を果たしていることになる.ça はその発話が発せられ た場, つまりは匂い成分が漂っている場を指しているようにも思われる. しかし, 匂いを感じて発話を発している認知主体は発話には現われていない. もちろん匂いを感じる認知主体なしには匂いについての発話の内容は成立しない. つまり ça は匂いを感じる認知主体をも包み込んだ事態の場を指していると考えられる. ただし (33) には par ici という場所句がある.(35) でもたとえば dans la cuisine のような場所句を付加することも可能である. つまり,ça は この辺り, 台所で といった具体的な場所を指しているのではなく, 認知レベルにおいて当該の現象が起こっている認知領域を, 認知主体を包み込む形で表わしているのである. さらに言うならば, 現象を表わしているのは述部 sentir X であるが, 現象が起こっている認知領域を指している ça はいわば現象そのものもその中に含んでいるのであり, 結局は ça sent X という構文全体が, 認知領域で起こっている現象を認知主体がインタラクションを通して捉えていることを表わしていると分析できるのである.senir X は分析できず, 全体で mouiller などの動詞と同様の機能を果たしている. いずれにしろ, 匂いはまさに認知主体を包み込む現象であり, 事態との直接的なインタラクションなしで匂いや煙を感じることはできない 20). その意味で sentir による発話は本稿で考えている ça の用法の典型的な場合である.(36) の拡張例でも, 世間の雰囲気や自然の様子, 自分が置かれた状況などが, 認知主体と匂いの関係 20)sentir による Ça sent bon! タイプの発話が他の ça を主語にした発話に比べて, ノーマルでありふれた構文として存在しているのもこの理由によると考えられる. 69

に比して捉えられていると言える. 次は聴覚に関する例である. 非人称に基づく ça tonne はここではメタファーであるが, それとならんで gronder と rugir が ça を主語にして同じタイプの構文を構成している. 自動詞 gronder と rugir にはもちろん非人称用法はない. (37) Ça grésille et ça crépite. ( スピーカーが ) ばりばり, ぱちぱちいっている (38) Ça bourdonne dans le jardin.( 蜂などについて ) (39) Ça gronde, ça tonne, ça rugit.( 風車内部の音の描写 ) 既に見た piquer や, 熱さや焼けるような強い痛みを表わす brûler なども含めて, 触覚や痛覚に関する表現にもこの種の構文が多い. (40) Je me réveille un matin. Ça me pique partout. (41) Ça me brûle au thorax. (42) Attention! Ça brûle! 気をつけて, やけどするよ ( 熱いよ ) (43) Ça démange autour d une plaie en cours de guérison. (44) Ça me démange de partout. (45) Quand je mange les pommes, ça(me)gratte dans la gorge. (46) Ça me gratte dans le dos. (47) Ça mord! ( 釣りや詐欺などで ) 食いついた, かかった ひりひり, ちかちか, いがいがといった感覚や痒さ, むず痒さなどの感覚はまさに身体の特定の場所と感覚 ( 現象 ) が切り離せないものである. そして多くの場合は原因は分からないか, たとえ分かっていても原因よりも感覚そのものが問題になる. まさに ça による構文が求められる領域である. 釣りや人をだまそうとしたときに使われる (47) も触覚に近い感覚である. 寒さや暑さなども体感という点では痒さなどに通じるものがある. その他, 目眩や揺れ, 耳鳴りなどの身体感覚の例を挙げる.(52) の出血も身体的な現象であるが,(53) のように比喩的な場合はまさに内面的な気持ちを ça を主語にすることで認知主体と切り離せない感覚として表わすことができる. (48) Ça caille(dur)! / Ça pince(dur)! ひどく寒い (49) Ça tourne. 目が回る / Ça tangue. 揺れている, 揺れる (50) Ça bourdonne dans ma tête. 頭ががんがんする, 耳鳴りがする,( コンサート後など ) 頭の中で音楽が鳴っている, 頭の中で ( いろんな ) 考えがうずまいている (51) L amour c est comme une cigarette. Ça brûle et ça monte à la tête. (52) Ça saigne. 70

(53) Ça saigne à l intérieur. 心が痛い 以下の例はある質問サイトへの投稿であるが, タイトルでは ça が主語に用 いられているが, 本文で自分の身体の状態を説明する部分では 1 人称になっ ていた. 本文中ではアドバイスをもらうために自分の身体の状態を客観的に説明しており, 自分のことであってもやや距離を置いたメタ的な描写, つまり D モード的なとらえ方になるからだと考えられる. 一方, タイトルでは注意を引くために読み手が自分の経験のように感じることができる形での描写, つまり ça を用いた I モード的な描写になっていると分析できる 21). (54) Ça rote, ça pète et ça gargouille.(je rote, je pète et je gargouille.) げっぷが出て, ガスが出て, お腹がぐるぐるいう 3.4. 状況を表わす発話 ça を主語とする発話には, 関係する要素を含む状況全体に対応していると考えられるものも多い.RUWET(1991) や CORBLIN(1987) も挙げているが, Ça va. など,ça を il に置き換えられない以下のような例がそれにあたる. (55) Ça marche. / Ça colle. / Ça boume. / Ça baigne. ; Ça y est! ; Ça grince. ; Ça craint. やばい ; Ça urge. 緊急事態だ (56) Ça barde!,ça va barder! (57) Ça chauffe!,ça va chauffer! ( 議論などが白熱して ) これは大変なことになるぞ ( 暖かくなる, 熱くなる ) 22) RUWET(1991) は, このような表現における ça が自立性を持たず, 何かを指示していない証拠として, 以下のようには言えないことを指摘している. (58) * Ma / * La santé va 23). (59) a. Ça va barder au Nicaragua. b. * La situation va barder au Nicaragua. c. * Le Nicaragua va barder. d.?le Nicaragua, ça va barder. RUWET(1991) は Ça va barder! などでは 当該の文脈で問題となっている状況全体を指しているのは表現全体である と述べている. 意味論的にはこ 21) 同種の使い分けの例は他にも見られた. 補足しておくが, あくまでもここでは ça と 1 人称主語を入れ替えられる当該の構文において 1 人称主語の場合が D モード的であるということである.1 人称は認知主体を表わすが, 認知主体は自分を外側から見ることもできるのである. 22)CORBLIN によると比喩的な意味は ça を主語にした発話でのみ可能.(cf. CORBLIN 1987, p. 89) 23)RUWET(1991) は,Ma santé va bien. のように副詞 bien や mal があると発話が自然になると指摘しているが, だからと言って Ça va bien. の ça がたとえば ma santé を指示しているという議論にはならない. 71

の分析は正しいと言えるが, どうして ça を用いたこのような表現が存在するのかという問題には答えていない. 結局, 認知主体が当該の出来事 状況を自らがその中にいるかのようにインタラクションを通して捉えているときに ça を主語とする発話が用いられると考えることで, この種の構文の役割をよく理解することができる. 4. まとめ 4.1. 認知モードと ça を主語とする構文 Ça pleut! においては ça は降雨という事態を, 事態が起こっている場を包 み込む形で全体的に捉えていると言える. しかし, 降雨という現象自体は動 詞 pleuvoir が表わしていると言える. そうすると ça が果たす役割は何なの かという問題が残る. 春木 (1991) では ça を, 発話を発話空間に定位する 操作の痕跡と分析した. 本稿ではこの分析を一歩進めて, 認知モードの観点 から捉え直した.ça が表わしている定位操作というのは, 動詞が表わしてい る降雨という現象を具体的な発話の場, あるいは認知主体 (= 発話者 ) が視 点を置いている場に結びつけるという操作である. 動詞が表わす現象が具体 的な事態として認知主体と結びつけられるということは, 認知主体が認知の 場の中で事態とのインタラクションを通してその事態を I モード的に認知し ているということにほかならない. 一方,Il pleut. と言った場合は, 認知主 体は認知の場のいわば外から事態をメタ的, つまり D モード的に認知して言 語化しているのである. このように考えると, 本稿で見てきたタイプの ça を主語とする発話は, す べて動詞が表わす事態を認知主体がインタラクションを通して I モード的に認 知していることを表わしていると言える.piquer や gratter など, 事態が起こ る場として認知主体を言語化する一部の動詞の場合以外は, 認知主体は言語的に発話内には現われない. それは, インタラクションを通した認知においては, 認知主体もその事態の中に包み込まれているからである 24). ça がこのような働きをするようになった大きな理由は,ça が語源的に cela 24) これは, 日本語において典型的な I モード的表現である 暑い! 頭が痛い! といった場合に認知主体が言語化されないという現象に通じる現象である.Ça me gratte dans le dos. などの発話に見られる目的格代名詞の me は確かに指示的には認知主体に結びつくが, 発話内では dans le dos などと同じく, 事態の起こっている場, もしくは事態の場である身体の一部の所有者を表わしているのであって, 認知している主体を表わしているのではない. なお,Ça me chatouille la gorge. のような身体の一部を前置詞句ではなく目的語に取る構文も存在するが, その場合も目的語は場所を表わしており, 構文全体の機能はほぼ同じである. 72

の縮約された指示詞 ça と場所副詞の çà が混淆したものだからである 25). 場 所副詞の çà は元来は発話者を中心とする場所を指していたが, その çà と指 示詞の ça が混淆することで, 最終的には事態と認知主体を包み込む形で認知 の場を指すようになったと考えられる. そして ça + 動詞 の形で認知主体 が事態を認知の場の中でインタラクションを通して捉えていることを表わす構文を発達させたのである.MAILLARD(1985) は, ça + 動詞 という構文について ça は何も表わさず, 行為者のいない, あるいは行為者を指示できない事態を表わす と述べているが, むしろ行為者と事態を区別しないで, つまり行為者も包み込んで事態を述べる必要に対して発達してきた構文と考えるべきである. 4.2. 構文について本稿で考察の対象にしたのは, 基本的には ça + 動詞 という形式の構文である.ça pleut などの気象動詞は本来人称主語を取らないので, 本稿で問題にしている ça を主語とする構文を発達させやすかったと想像される.geler には自動詞用法,givrer には他動詞用法もあるが, いずれも非人称用法もあるので ça pleut などからの類推で ça を主語とする構文が成立してきたのであろう.faire による ça fait beau などの場合も含め,ça を主語とする気象動詞は一つのサブカテゴリーを形成している. 気象動詞に近いのが, 音や何らかの自然現象などを表わす自動詞が ça を主語にしている場合である. これらの動詞は,ça を主語にした気象動詞と連続的に用いられたりして, 構文的に同じカテゴリーに属していることがうかがわれる.(26) で ça を主語にした非人称気象動詞と自動詞が併列されているのを見れば, この二つの動詞は同じ構文の実現であることがよく分かる. さらにそこに ça mouille や ça éclabousse,ça brûle など本来は他動詞である動詞が ça を主語にして自動詞的に使われているタイプの動詞が加わる. これらの発話は他動詞の絶対的な用法ではなく 26),ça と動詞だけの発話によって事態を引き起こすものと事態の影響を受けるもののいずれをも包み込み, インタラクションを通して認知した事態を全体的に表 25) 古期フランス語における場所副詞 çà の働きについては複雑な点もあるが, 発話者を中心として用いられる副詞であった.ça および çà の語源や歴史に関しては HENRY(1960), ORR(1963),çà の中世フランス語における用法の分析に関しては PERRET(1988) を参照されたい. 26) 歴史的には ça mouille など他動詞に由来する構文の一部が全称的な目的語を含意した絶対的な用法に由来する可能性も完全には排除できないが, 現代フランス語においては既に一つの構文カテゴリーとして確立しており, 共時的には他動詞の絶対用法と考えるべきではない. 73

わしているのである.piquer,gratter,démanger など感覚に関する動詞は感 覚を感じる場所を特定するために人称代名詞及び場所句を取ることも多いが, ça と動詞だけでも発話は成立するので, やはり同じカテゴリーにつながってく る. 一方,sentir は必ず匂っているものや匂いの様態を特定しなければいけな い. このタイプの構文は ça mouille などとは別に発達してきたかと思われるが, 構文としての機能は同じであり, 結果的に上記の場合と密接につながっている. ただ, 統語的に ça と動詞以外の要素を必要とするという違いがあるので, 現 在のところ構文ネットワーク的には密接な関係を持つ近縁の構文カテゴリーと位置づけておく. また紙幅の関係で本稿では扱えなかったが,(8) のように人に代えて ça を主語にした発話や,(60) のように移動動詞が ça を主語に取る発話に関しても同じカテゴリー内で構文ネットワークの一端を担っていると考えられる 27). (60) Ça tournait encore beaucoup, ça montait, ça descendait,(...) 見てきたように, 本稿で問題にしている構文には非人称動詞, 自動詞, 他動詞のいずれもが現われる. この ça + 動詞 という構文カテゴリーは, 一見非人称構文に近いように見えるが, 非人称構文とは性格が異なり, いわば自動詞構文と他動詞構文を中和したような構文である 28). 統語的には ça は動詞の項と言えるが, 意味的には ça は当該の事態が起こっている認知の場に発話を結びつける働きをしており, 発話行為的には, ça + 動詞 はそれ以上には分析できず, 行為者, あるいは事態を引き起こす原因となるもの, および事態の影響を受ける経験者と分析できる参与者をも含んだ事態そのものを I モード的に認知していることを表わす一つの構文カテゴリーを形成しているのである 29). この構文の出発点になったと考えられる pleuvoir や neiger などの気象動詞は,TALMY 的には普通は項として現われるトラジェクターを本来的に含む動詞である. ça + 動詞 構文も参与者を包み込んでいるという点で構文としてではあるが, 非人称動詞とある意味, 性質が似ている. 認知の場に発話を結び 27) 人に代わる ça についても自動詞の場合と目的語を取らない他動詞の場合 (ex. Dans ce film, ça tue, ça viole...) がある. また移動動詞については, 移動する人, 乗り物, または道などを主語に取ることができるが,ça を使うことでこれらすべての場合を包み込むことができる. 28) この構文は意味的には中間構文に似ているところもあるが, この構文カテゴリーには代名動詞は生起しにくい. 例は多くない ça+ 代名動詞 という構文は近縁の別の構文カテゴリーと考えるべきかどうかについては別稿で検討する予定である. 29) 言うまでもないことだが, このカテゴリーは意味的にも統語的にもプロトタイプを中心としてより周辺的な事例なども含んでいる. カテゴリー内の各サブ構文間のネットワークや近隣の構文カテゴリーとの関係などについては稿を改めて検討したい. 74

つける役割を果たす起源的には副詞的でもある ça を主語とすることで, 人称動詞がトラジェクターの言語化という統語的桎梏からも解放されたのである. またインタラクションを通して事態を認知しているということは, 認知主体そのものが事態の影響を受ける経験者であり 30), 経験者を言語化する必要もなくなり,mouiller や éclabousser のような他動詞も, 行為者 / 原因だけでなく影響を受ける対象も言語化しないで, 事態だけを表わす構文を獲得したのである. HENRY(1960) は既に ça gargouille のような構文について, これが新しいタイプの構文であることを指摘している. また MAILLARD(1985) もこの種の構文の生産性を認めている. しかし, どのような認知的な動機でこの種の構文が発達してきたのかについては二人とも何も述べていない. 認知モードは一般に,I モード認知から次第にメタ認知的な D モード認知に変化していくと考えられている. しかし, その傾向とは逆に ça + 動詞 という構文は,I モード認知的な事態把握を表現するためにむしろ現代フランス語において次第に発達してきて, 今も勢力を拡大しつつある構文である. これは, 春木 (2011,2012) で主張してきたように, 現代フランス語が I モード認知的な側面を強く持っていることの証であり, またその現われでもある. ( 大阪大学 ) [ 参考文献 ] BOLINGER, D.(1977), Meaning and Form, London, Longman. CADIOT, P.(1988), De quoi ça parle? À propos de référence de ça, pronom-sujet, Le français moderne 56 3/4, 174-192. CORBLIN, F(1987), Ceci et cela comme formes à contenu indistinct, Langue française 75, 75-93. GREVISSE, M.(1975), Le bon usage(dixième édition), Gembloux, Duculot. 春木仁孝 (1991) ça pleut / il pleut 現代フランス語の 非人称主語 の ça をめぐって ロマンス語研究 ( 日本ロマンス語学会 )24, 27-34. 春木仁孝 (2011) フランス語の認知モードについて 言語における時空をめぐって IX( 大阪大学大学院言語文化研究科 ), 61-70. 30) 認知主体が直接の経験者でない場合も, 視点を経験者に重ねることであたかも直接の経験者であるかのように事態を認知することになる. 75

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