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一特集オープンソフトウエア ; OSS 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 1 OSS と著作権ライセンスー歴史的展開とライセンス類型の概観 L._ 一 _._._._._._._ 一 _._ 一 _ 一 _._._._._ 一 _ 志賀典之 * 一 _.,nt 一 オープン ソースソフトウェ アの核心要素であるソースコ ードの公開, 自由な複製 改良 頒布を可能ならしめるのが, ソース コード の公開をソフ トウエ アの配布等の条件とするライセ ンス ( 著作物利用許諾 ) である 本稿では,OSS の概念形成の沿革を概観し, 排他的独 占権である著作権を用い て逆説的にソフ トウェアの非排他性の保証を実現しようとしたフ リー ソフ トウェア 運動及びコ ピーレフ トの概念 を概説したのち,OSS ライセンスの法的性質, コ ピーレフ トの強度に応じた OSS ライセンス の各類型について述べ, 近時指摘される実務 上の留意点につき示唆を試みる キーワード ; ライセンス, 著作権, コピーレ フ ト, フ リーソフ トウェア,GNUIGPL,FOSS,FLOSS 1. はじめに オープンソースソフトウェア ( 以下 OSS と略す ) は, 簡略には, ソース コードが公開され, 自由に複製 改変 頒布が行えるソフトウェア と定義される OSS を可能な らしめるのが, ソース コードの公開をソフトウエアの配 布等の条件とするライセンス ( 著作物利用許諾契約 ) であ る OSS は, とりわけシステム構築費用の低廉化に効果的 な手段として, 各国において, 官民を問わず広く活用され ている一方で, いまだに完全に法的リスクが払拭されたと も言い難い 開発側における代表的なリスクは, 秘匿して おきたい開発成果を OSS と組み合わせて提供した場合に, 秘匿しておきたい部分の開発成果まで OSS ライセンスに 基づき公開を求められる可能性である (OSS ライセンス 対象範囲一いわゆる 伝播性 (Viraleffect > 一の問題 エ ンドユーザー側としては, 第三者の排他的権利が存在する 商用ソフト混入, ライセンスの互換性のリスク等は想定されるであろう 本稿では, オープンソースソフトウェアとは何か, オー プンソース ソフトウェアにおける著作権, コピーレフト の基本的な考え方, OSS ライセンスの意義について概観を 行い ( 以下 2 章 ), 情報センターや図書館において採用さ れている OSS を例に, ライセンスの分類と,OSS 扱う際の実務上の注意点の整理を試みる ( 以下 3 章 ) の を取り 2.OSS の基本思想一フリーソフトウェア運動 コピーレフト オープンソース 2.1 0SS の定義 まず, OSS で公開すべきものとされる ソース コード の定義を確認しておきたい コンピュータプログラムの開 発過程では, まずプログラマが人間に理解できるプログラ * しがのりゆき常葉大学法学部法律学科講師 422 8066 静岡市葵区水落町 1 30 常葉大学法学部 Tel 090 5361 7944 ( 原稿受領 2013.12.13) ム言語によりソフトウェアを開発する このプログラム言 語で書かれた形式が, ソース コード である プログラ ムが完成すると, 通常の商業用ソフトウェア製品の場合に は, 機械が認識する オブジェクト コード に変換され たうえで提供される したがっ て, 提供された製品は, そ のままでは内容の理解や改良が困難であるうえ, ソフト ウェアのライセンス条件においても複製や改変, 再頒布や, オブジェクト コードをソースコードに戻すリバース エ ンジニアリングなどが禁止されている これと対照的に, OSS は, ソースコードの公開, ソフトウェアの改良 再頒 布などがソフトウェア利用にあたってのライセンス条件と されてい る この ような非排他性が OSS の 大きな特徴で ある OSS を推進する OSI (Open Sourcelnitiative ) は, オー プンソースソフトウェアを次のように 10 の基準により定義する 1) 一 再頒布が自由であること ソース コードが提供されていること 派生物 ( 二次的著作物 ) の作成と提供が元のライセン スと同じ条件で認められること 開発者のソース コードの完全性保持 特定の個人 団体に対する差別的ライセンスの禁止 使用分野に対する差別的ライセンスの禁止 再頒布された際にライセンスが維持されること ( 秘密 保持契約などによる追加的ライセンスによる間接的な囲い 込みを禁じること ) ライセンスは特定製品にのみ有効であってはならない ライセンスは他ソフトを制限してはならない ライセンスは特定の技術に強く依存することなく, 技 術中立でなければならない OSI は, 上記定義を満たすライセン ス を OSS ライセン スとして認証している 2013 年 11 月現在約 70 のライセ ンスが認証されている OSS ライセンスに見られる非排他 的な特徴は, その歴史的な成立過程と密接に関係している そこで, 以下では, このようなライセン スが形成されるに 一 60 一 情報の科学と技術 64 巻 2 号,60 65 (2014 )

いたった経緯を簡略に紹介する 2 2 フリーソフトウェア運動とコピーレフト OSS という概念は, 公式には,OSI の設立以後,1998 年ごろから使用され始めたとされるが, その一つの大きな ルーツは,1983 年にマ サチューセッツ工科大学人工知能研 究所のリチャード ストールマン (RichardStallman> 氏 がフリーソフトウェア財団 (Free Software Foundation ; FSF ) を創設し, 提唱したフリー ソフトウェア運動 GNU プロジェクト に求められる コンビ = 一タ プログラム 登場初期は, 研究者 プログラマのコミュニティー間で改変及び流通が自由に行われていた しかし,1980 年代には, コンピュータ プログラムが, 各国の裁判例及び立法において相次いで著作権の保護対象とされ 2 ), 企業が開発投資 営業秘密の保護の観点からソースコードへのアクセス 改変, 頒布に制約を加えるようになると, 開発形態も, ソースコードを秘匿し, 企業内開発に終始する クローズド モデル による排他的な私有ソフトウェア ( プロブライエ タリ ソフトウェア ) 開発が主流となった ストールマン 氏は, このように 自由に 利用できないクローズド モ デルがソフトウェア開発にもたらす弊害を指摘し, ソフト ウェアの発展のためには, ソフトウェアのソースコードへ のアクセス, 再頒布及び改良が 自由 でなければならな いとして, 自由な ソフトウェアであるフリーソフトウェ ア運動を提唱した ここで, フリーソフトウエアの 4 っ の自由 一目的を問わずプログラムを実行する自由 ( 第 0 の自由 ), 改変を加える自由 ( 第 1 の自由 ) 再頒布の自由 ( 第 2 の自由 ), 改良した成果を公表する自由 ( 第 3 の自由 ) 一が提唱された 3> 問題は, これらの 自由 をいかにして確保するかであっ た まず想定される方法としては, プログラムの著作権を放棄し, パブリックドメイン化する方法がある また, 一 切の改変 頒布を認めるライセンスを付すという方法も考 えられる しかし, これらの方法はいずれも, プロ を提供者から入手した者が, そのプロ グラム グラムを改変し, 改 変部分の著作権を主張することによって, プロプライエタ リなソフトウエアに転化することが可能なため, 上記の 自 由 は達成されない そこで, ストールマン氏は, 入手者 に複製物 改変物の提供の際にソース コードの開示する こ とを義務付け, また, 複製物 改変物の提供を制限させ ないことを特徴とするライセンスを構想した これが, GNUIGPL (GNU General PublicLicense ; 一般公衆利用 許諾 ) である GPL では, プログラムの著作権者が, 取得者に, 自由な複製 改変 頒布を認めるが, それと同時に, 取得者がプログラムの複製物及び改変物を頒布する際に, 他者にソースコードの複製 頒布 改変の許諾を与えるこ とを義務付ける さらに再頒布を受けた者にも同じライセ ンス条件の維持が義務付けられる ライセンス条件に違反 があればライセンスは終了し, 違反者がその後も販売など 著作権法に定められた利用行為を継続すると, 著作権侵害 とされる すなわち, 排他的権利である ( はずの ) 著作権 のライセンスを用いて, 著作権の複製 改変 頒布に係る 排他的効力の否定を保証する このように著作権とライセ ンスを用いて実現される著作権の排他性の否定の発想は, ストールマン氏らによって Copyleft との造語で表され る 2.3 0SS 概念の成立 フリーソフトウェア運動のもとでは, ストールマン氏の ソフトウェアの開発成果は人類共通の財産でなければな らない という理念が強調された 4) しかし他方で,Linux などの成功に伴って, フリー ソフトウェア運動の成果の 商業利用の期待が高まり, IBM などの大企業もフリー ソ フトウェア開発成果の利用に積極的に乗り出したが, この ような動向はストールマン氏の唱える理念とは必ずしも相 容れないこと, また フリー という語が 無料 との印 象を喚起することから, 成果の商業利用を望む層からは敬 遠される傾向が生じた このような背景のもとで,Bruce Parens 氏と EricRaymond 氏により, 理念に中立的で技 術的側面に着目した OSI が設立された OSI は, 前掲の 10 の定義を充足するライセンスを OSS ライセンスとして 承認する OSS ライセンス は, 後述するように改変 組み 合わせによる利用に際しての影響はライセンス ごとに多様 である Linux をはじめ, サーバーの大半のシェアを占め る Apache HTTP Server など現在では OSS のもとで多様 なソフトウェアが提供されている データベース管理ソフ ト MySQL, 統合開発環境として IBM によって開発された Eclips など, 企業が oss として開発し提供する例も見られる しかし,OSI の成立以後も,GPLv2 を採用する Linux 等,OSS として提供されるソフトウェアの過半数は GNU /GPL のもとで提供され, 新たなライセンスの開発に あたっても,GPL は典型的モデル ( 雛形 ) ライセンスの地 位を保ち続けている ( 近年では, フリーソフトウェアと OSS の総称として FOSS 又は FLOSS との語も見られる したがって, 以下では代表的な OSS ライセンスの一っと して,GPL を中心に検討を加える 3.OSS ライセンスの法的性質 一般に, プログラムは著作権法上の著作物であり ( 著作 権法 10 条 1 項 9 号 ), 原則として, 著作権法上の制限規定 に該当する場合を除けば (30 条 49 条 ), 著作権者の許諾がない限り, 著作権法上定められた利用行為 (21 条 28 条 ) を行うことができない プロ グラムの著作物の利用行 為に関して想定される代表的な利用行為を挙げれば, 複製 (21 条 ), 公衆送信等 (23 条 ), 譲渡 (26 条の 2 ), 貸与 (26 条の 3), 二次的著作物の作成 ( 27 条 ), 作成された二次的 著作物の利用 (28 条 ) がある このほか, 違法に複製され たことを取得時に知ってプログラム著作物を使用すること も, 著作権侵害とみなされる (113 条 2 項 ) また, 例外に 当たる場合を除き, 著作者か ら著作者人格権不行使の特約 を得ることなく著作者人格権侵害となる行為一すなわち公 一 61 一情報の科学と技術 64 巻 2 号 (2014)

表 (18 条 ) 氏名表示権侵害 (19 条 ) 著作者の意に反す る改変 (20 条 ) 等一を行うことはできない これらの行為 を許諾等を得ずに行うと, 著作権法上の制限規定に該当し ない限り, 著作権 著作者人格権侵害の効果として, 差止 (112 条 ), 損害賠償等が請求されることとなる これらの行為をソフトウェアの具体的利用態様に照らし てみると, 利用許諾がない場合, プログラムのコピーは複 製権侵害 ( ただし, 適法利用の過程で生じるキャッシュな どの記録の生成等は除く (47 条の 8)), 複製したプログラ ムを CD ROM 等に固定した媒体形式で販売する行為は譲 渡権侵害, オンライン配信は公衆送信権 送信可能化権侵 害, プログラムの改良作業は, エンドユーザーによるパッ チファイルを用いたヴージァョンアップ作業等を除き (47 条の 3>, 翻案権 同一性保持権侵害, 改良物の配布は二次的著作物利用権の侵害に該当する 実際にも, 通常の商業的ソフトウェアは, 利用許諾条件 において, バックアップ以外の複製, オンライン配信, 譲 渡等を認めていない 一方,OSS ライセンスは, 予め一定 の非排他的な利用態様をライセンス条件に明示している とりわけ GPL の場合には, プログラム著作物の利用者が, GPL ライセンスのもとで提供されたプログラムの著作権に基づく排他的な権利の行使により, ライセンスが終了し, それ以後の利用を著作権侵害とすることにより禁止できる ライセンスは, わが国法の下では, 一般的には, 著作物 利用許諾 (63 条 ) として理解される 利用許諾は許諾を与 えた者に著作権者は権利を行使しないとする意思表示であ り, 通常は著作権者と著作物利用者との間での契約である と解されるが, 権利不行使の宣言と解される場合も考えら れる 契約と解する場合には, 許諾条件違反は債務不履行 となるとともに, 複製 頒布 改変等の著作権法所定の利用行為が行われている場合には, 著作権侵害となる OSS ライセンスにおいては, 許諾条件は以下に見るように類型 ごとに異なる 例えば GPL の場合には, 権利者が提供し たプログラム著作物の利用許諾を与え, これに対し, 権利 者からプロ グラム著作物の提供を受けた者は, 複製したプ ログラムを頒布する際, 当該プログラム又はその改変物の 頒布の際に, ソースコードの開示と当該原プログラムと同 じ GPL ライセンス条件を維持して提供する という義務 を負う 一方, 利用許諾を, 不特定多数を相手とする権利 不行使の宣言であると解する場合,GPL に関してみれば, 著作権者はユ ーザーによる GPL の条件維持を条件として プログラムを提供しており,GPL の条件に違反すれば, 条 件に違反した利用者のそれ以後の利用は著作権侵害を構成 すると考えられる OSS ライセンスを契約か, 権利不行使宣言とみるかの差 異は, 公開義務の履行が求められるか否かにある すなわち, 契約ととらえると, ライセンス違反が生じた際にソー ス コードの公開請求を受ける可能性があるのに対し, 権 利不行使の宣言であると解すると, 将来の利用が差止請求 損害賠償請求の対象となるにとどまる 5) わが国において,OSS ライセンスの法的性質につき司法 判断が示された例はいまだ存在しない 米国では連邦巡回 区控訴裁判所による 2008 年の Jacobsen v.katzer (535 E3d 1373 Fed.Cir.2008 ) 判決が,OSS ライセンスの一 種である ArtisticLicense の条項違反は, 著作権侵害を構 成し, 差止請求の対象となりうると判示している また, ドイツでも GPL の契約としての有効性を認めた下級審判 決が見られる (1.G MUenchen,GRUR 2004 Heft12 (GPL Versto6s)) なお, GPL の法的性質を判断する前提として, 準拠法決定の問題がある OSS ライセンスには,MPL (Mozilla PublicLicense) など契約準拠法に関して定めの あるもの もあり, そのような場合には当該国法が適用されることと なるが ( 法の適用に関する通則法 7 条,GPL など定めの ないライセンスも多々見られる このような場合, ライセ ンサーの常居住地法が, 最密接関係地法と推定される 法 8 条 ) しかし, 上記はあくまで債権的な権利義務関係 に関するものであり, 著作権侵害に基づ ( 同 く請求は, 結果発 生地である差止めを求める国の著作権法を根拠とすることとなる 4.OSS ライセンスの類型 OSS ライセンスは, ライセンスの及ぶ対象の範囲一言い 換えればコピーレフト的性質の強度一の観点から, 通常い くつ かの類型に分けられる 6 ) 区別の基準は第一に, 利用 者による改変部分 ( 派生物, 二次的著作物 についても同 一のライセンス条件が及ぶか否か, 第二に, 利用者が組み 合わせたソフトウェア にっいても同一のライセンス条件 が及ぶか否かである 組み込まれたソフトウェアにまでラ イセンス対象範囲が及ぶ性質は 伝播性 (Viraleffect )1 と 呼ばれる コピーレフト的性質の強い順から, コピーレフト型ラ イセンス ( GPL 型 ), 準コピーレフト型ライ センス ( MPL (Mozila Public License) 型 ), 非コピーレフト型ライセンス ( BSD (Berkley Software Distribution > 型 ) の 3 類型に分類される 以下では, それぞれの類型 につ いての概観と, 注意点とともに図書館 情報関係にお ける各類型 OSS 実際の採用例を挙げる コピーレフト型 (GPL 型 > OSS ライセンスのうち最も代表的なライセンス類型と される 利用者による改変部分 及び 利用者の組み合わ せたソフ トウェア のいずれもがライセン ス の及ぶ対象範 囲となる 現在もっ とも多く採用されてい る GPLv2 (General PublicLicense) は,1991 年に登場した 7 ) ソースコード の取得者による複製物 改変物の自由な複製 改変 頒布 を認めると同時に, 頒布の際に複製物 改変物の複製 改 変 頒布の許諾行うことを義務付ける (1 条 2 条 ) 対象 範囲とされるのは, 本プログラムを又はその一部分を内部 に組み込んでいる若しくはプログラムをもとにした作品 一 62 一 情報の科学と技術 64 巻 2 号 (2014 )

(WQrk basedon the Program ) であり, 複製物の有償提供 が認められるのに対し, 改変物の提供は, 無償で charge ) 行うことが義務付けられる (2 条 ) また, オブジェ クトコード形式で配布する際には, 対応するソースコード を配布先に対して開示しなければならない (3 条 ソースコードの入手者は複製物 改変物を頒布する場合にはライ センス条件への合意が行われたものとされる (5 条,6 条 ) GPLv2 には 派生物 derivativework under copyright law など, 米国著作権法に基づく概念が用いられており, 各国著作権法とライセンス文言との関係が長く議論の対象 となっ てきた また, 特許権に対する規定がなく, 特許権 行使に対する脆弱性が指摘されていた これらの問題点を 反映し,GPLv3 が 2007 年に登場した しかし,GPLv3 を採用するかは著作権者の任意であり,GPLver.2 のもと で頒布が行われてきたソフトウェアがすべて ver.3 に直ち に移行したわけではなく,Linux Kerne1 も GPLv2 (no を採用 しているなどモデルライセンスとしても, いまだに GPLver.2 の影響は強いと考えられる GPLv3 の主な改訂点としては, 特許権に関する規定の 追加, 他のライセンスとの両立性 インストール用情報の開示への対処 ) デジタル著作権管理 (Digital RigitsManagement, DRM ) との関連がある 9) では特許ライセンスにっき, 差別的な実施許諾の禁止 を定めるほか, 非係争義務が明文化された これにより GPLv3 のもとで提供されるプログラムの作成 使用 提供 者は特許訴訟の提起が禁じられ, 無償の特許ライセンス供 与が義務付けられる ソフトウェアが改変を行われた際 にハードウェアが動作しなくなる設定を付加することによ る非排他性の回避いわゆる (Tivo 化 ) 対策として, インス トール用情報の開示が義務付けられた (GPLv3,6 条 ) 保護手段自体の採用は認めるものの DRM に関する条項が技術的保護手段回避を禁止できないとする その他, ライセンスの国際化の観点から表現が改められ ている 定義 (0 条 ) として, 各国著作権法の許諾を要する概念と定義される 普及 (propagate ) 概念 (GPLv2 の 複製, 頒布及び改変 にほぼ対応 ), 普及のうち第三者 に複製を可能にする行為又は複製物を受領するこ にする行為を言う 伝達 convey とを可能 が, 頒布 に近い概念 として登場した Ver.2 に存在した改変版無償提供を義務付ける条項は存在しない (GPLv34 条,5 条 ) 問題点としては, コピーレフト型である GPL を付した ソフトウェアを入手し改変して提供する場合には, 伝播性 により, 直接の改変部分のみならず, ソフトウェアが組み 込まれた対象がライセンスの範囲に含まれることになる ( しかし, その対象が原プログラムに基づく著作物とは別個 の 独立した著作物であると合理的に考えらる場合や, それ を GPL 付プロ グラムと共に一つ の記録媒体に記録した場 (GPLv22 条 )) その 合までをも対象とするものではない 結果, 秘匿しておきたい情報を無償で公開する義務を負うというリスクが存在する 他方, 開発者側としては,GPL を付して頒布した場合には, 成果が頒布先でク n 一ズド モデルに囲い込まれることを阻止することができる コピーレフト型ライセンスの実例としては,GPL のほ か, 同じ FSF により作成された AGPLv3 (GNU Affero General Public License (AGPL )Version3), 欧州評議会 の電子政府サービス開発機関である IDABC により作成され, 欧州政府機関において活用されている EUPL (European Union PublicLicense) などがある GPL 型ライセンスの図書館システムとしての採用例には,2000 年に Horowhenua Library 野 ust のために Katipo Communieations 社が開発した Linux 上で動作するシステ ム Koha が挙げられる 学術機関リポジトリシステムにおいては, 北海道大学図書館にて採用されている E Prints がある 図書館ウェブサイト等の構築に利用される CMS ソフ トウェアとして,WordPress,Drupal,Movable [ 取 pe, XOOPS,NetCommons (BSD と併用 ) などが GPL を採 用する 9) 制限的 ( 準 ) コピーレフト型 (MPL 型 ) OSS の改変部分についてのソースコード公開は求めら れるが, 他のプログラムと組み合わせた場合には, 組み合 わせ先の他のプログラムのソースコード公開は要求されな いとされる類型である Web ブラウザである MozillaFirefox に適用されている ライセンスである MPL は 1998 に ver1.0 が発表された. ヒ記のようにコピーレフト性, 伝播性が緩やかとなってい るうえ, 特許権に関しても条項を有している すなわち, 利用者が著作権者を特許侵害で訴えた場合,MPL により 利用者に与えられた権利は失効するとの規定を置く また 準拠法をカリフォルニア州法とするとの規定を置く n このほか,FSF が 1991 年に公開した LGPL (Lesser General Public License ; 劣等一般公衆利用許諾 ) は,GPL の付されたプログラムが他のプログラムとリンクされた場 合に, 伝播性により他のプログラムのソースコードの開示 をも求められてしまうとい う問題点を踏まえて, 他のプロ グラムにはソースコ ード開示義務を及ぼさない との規定を 有している 準コピーレフト型に分類されるその他のライセンスとしては, Sun Microsystems による CDDL (Common Development and DistributionLicense),IBM による CPL (Common Public License),Eelipse Foundationによる EPL (EclipsePublicLicense) などがある 非コピーレフト型 (BSD 型 ) BSD ライセンスは, 利用者による改変部分及び利用者に より組み合わせられたソフトウェアのいずれもライセンス の対象範囲とならない コピーレフト効果一伝搬性一がな い類型である BSD ライセンスは,1990 年, カ リフォルニ ア大学バー クー校レにより開発された BSD (BerkeleySoftware Distribution > 系 UNIX その他のソフトウエアに使用され 一 63 一情報の科学と技術 64 巻 2 号 (2014 )

ているライセンスである ライセンス条件は, 再頒布時に 著作権表示, 再頒布条件表示, 無保証 免責宣言を行うこ とのみである すなわち, 他のプログラムへの組み込みや 改変に際して, ソースコードの開示等は義務付けられてい ない そのため, 取得者はソースコードを非公開にして, 商用利用することが可能であり, 他方, 開発者側は, 提供 したプログラムが頒布先で商用ソフトウェアに転用され, クロ ーズ ド モ デル に転化されてしまう点に注意が必要で ある WWW サーバ ソフ トである Apache に用いられている Apache ライセンスコも同様の条件であり, 非ピーレフト型 (BSD 類型 ) に分類される また,MIT による MIT ラ イセンスなどがある シス 非コピーレフト型ライセンスの導入例としては, 図書館 テムとして, 国立国会図書館サーチ, 物質 材料研究 機構に採用されている Next L Enju が,BSD 1MIT ライ センスを採用している 学術機関リポジトリシステムへの 採用例としては,MIT と Hewlet Packard 社により共同で システム設計が行われた D Spaee において,BSD ライセ ンスが採用されている 5.OSS を取り扱う際の実務上の注意点 5.1 改変を行ったプログラムを提供する場合の注意点 とりわけ懸念を生じるのはコピーレフトの範囲である コピーレフト性の強い GPL 型のプログラムの提供にあ たっては, 利用者による改変部分 及び 利用者により GPI. プログラムに基づく著作物全体の一部ととして (as part of a whole which is a work based on the Program, GPLv22 条 ) 組み込まれた部分 のいずれもが GPL の対象範囲に含まれるライセンス条件違反の結果としてソー ス コードの開示を要求されるおそれがある 比較的範囲 が確定しやすいと思われる 利用者による改変部分 とは 異なり, 利用者により著作物全体に組み込まれた部分 と いう文言は, どこまでが 一体の プログラムであるのか, という問題を生じさせる GPI. は v2 において別の独立し たと合理的に考えられるプログラムはライセンスの範囲に 含まれないとし (2 条 ),v3 においても 集積物 (aggregate ) を除外する旨の条項が置かれているが (5 条 2 パラグラフ ), その一方で, プログラムをもとにした著作物全体の一部と して頒布するならば, 全体としての頒布物は本契約書の条 件に従わねばならない (GPLv2,2 条 ), 集積物がその 性質上当該対象著作物の拡張版でないこと, より大規模な 一つのプログラムを構成するために組み合わされているの でないこと ( ) を要する とする記載もあるため, 具 体的な基準が明らかでない結果. 事業体として採用する場 合には原則として一個のプログラム製品全体に適用されるものとして扱わざるを得ないという指摘もなされる 11) また, 様々な OSS を組み合わせてプログラムを作成す る場合, 複数の OSS に異なったライセンスが適用されて いる場合で, それぞれのライセンス間の矛盾が生じた場合に, どのように解消するかという問題が生じる この場合, 強いコピーレフト性を有する GPL 型を基準として判断を 行うこととなると考えられる 12> 5.2 エンドユーザーとしての利用 エンドユーザーとして OSS を利用する際には, 最も伝 搬性の強い GPL を例にとっても, 複製物 改変物の頒布 が対象であり, プログラムの実行自体に GPL は影響を及ぼすものではない 一方, 第三者の権利が存在するリスク, すなわち商用ベンダーのプログラムが OSS 製品の一部に 混入し, 損害賠償等をリスクも従来指摘されてきた GPLv2 においては特許権に関する条項が全くおかれてい ないことから, 第三者の特許権に対するする脆弱性が指摘 されてきた これを反映した GPLv3 においても第三者の 有する知的財産権に対しては直接有効な条項が置かれてい るわけではないため, 権利の帰属が不明確なソースコード を含む OSS の利用に対しては慎重な運用が必要であると 考えられる e 6. むすびにかえて 本稿では,OSS 開発モデルを可能とするライセンスの歴 史的形成過程を, フリーソフトウェア運動, コピーレフト 概念の沿革を辿ることにより概観した後,OSS の法的性質を検討し,OSS のライセンスの代表的な類型として GPL, MPL,BSD とそれぞれにおける注意点について具体例を 交えて紹介し, 近時の問題点の紹介を行った 本稿では, いずれの論点も瞥見に留まり, より詳細な論述を要する問 題であるが, これらの紹介が OSS の 理解に役立てば望外 の喜びである 注 参考文献 (web 参照日はいずれも 2013 年 12 月 5 日です ) 1)Open SourceInitiative http : opensource.orgt 2) 米国では 1980 年著作権法改正にてプログラムが著作権の保 護対象として明文化された 日本では 1982 年の下級審判例でプログラムの著作物性が認められ,1985 年著作権法改正によ リプロ グラム著作物が著作権法の保護対象となる著作物とし て規定された 3)GNU Operating System,What isthe Free Software? (http : www. gnu. orgtphilosophytfree sw.en.html ) 4 ) リチャード ストールマン, フリーソフトウェアと自由な社会,ASCII,2003. 5)SOFTIC 研究会, 報告書オープンソース ソフトウエアの現状と今後の課題について.2eo3,. p.52 97., 平嶋竜太. GPL. ビジネス法務大系 1 ライセンス契約. 椙山敬士ほか編日本評論社.2007. p,311 355. 6) 独立行政法人情報処理推進機構. 調査報告書 OSS ライセンスの比 較および利用動向ならびに係争に関する調査.2010, p.4 47. (h 七 tp : ossipedia.ipa. go.jplnf 冨 pdf pub /1005 〆 20311941194, pdd 7)GNU GeneralPublicLicense,version 2 (ht 七 p : wwwlgnu.orgaicensestold licensestgpl 8) 前掲注 2) 報告書 2.0.en.html ) 9) 独立行政法人情報処理推進機構オープンソース ソフトウ.z ア センター,GPL 逐条解説.2009, 岡村久道. オープンソースソフトウエアのライセンスー新しい GPLVer.3 を中心に一. コピライト 2008,voL3,. p.2 17. (http : wwwlipa. go.jplfdes /OOOO28320. pdf ) 10) 以下の図書館 情報リポジトリ等における OSS 利用状況の調 一 64 一 情報の科学と技術 64 巻 2 号 (2014 )

査には, 電気通信大学図書館司書上野友稔氏のご協力を得た 11) 吉田正夫. オープンソースソフトウェア ( OSS > の利用と著 作権リスク. コピライト 2010,voL5. p.2 18. 12) 同上 Specialfea 七 ure :Open source software.oss and copyright licenses.noriyuki SHIGA (Faculty of I.aw,Tokoha University, 4228066 1 30, Mizuochi eho, Aoi ku, Shizuoka city.shizuoka pref.090 5361 7944 ) Abstract : The licenses which allow all developers to freely access to source codes constitute essential instruments for Open SourceSoftwares(OSS )and these developments.this article firstly overviews the history of concepts of Free Software Movement and opyleft, paradoxically provided the success of non exclusive software with exelusive copyright.it subsequently describeslegal characters of OSS licenses, categories of OSS Licenses and some remarkable points of recent developments on OSS. Keywords:License!open source /copyle 丘 1FOSS!GNUIGPI. 65 一 情報の科学と技術 64 巻 2 号 (2014 )