S1 群 ( 情報環境とメディア )- 6 編 ( 次世代ネットワーク ) 3 章 で実現されるサービス 概要 は品質の保証された IP ネットワークであり, 従来の電話網で提供されてきた電話サービスなどを含むリアルタイム対話型マルチメディアサービスだけでなく, コンテンツ配信型サービスなどの様々なサービスを実現できる可能性がある. また, アクセス形態に依存しないことから固定網と移動網との融合による新たなサービスを提供することが可能である. 一方, により既存の電話網を置き換えていく場合, 従来の電話サービスを効率よく 上で提供する必要がある. このような で実現されるサービスは, サービスストラタムの機能群で提供される. 本章では, サービスストラタム上のサービスコンポーネントで提供されるいくつかのサービス例を示す. 本章の構成 本章では, まず既存の電話網で提供されている電話系サービスを 上で提供するための PSTN/ISDN エミュレーションサービス (3-1 節 ), により電話系サービスを高度化する PSTN/ISDN シミュレーションサービス (3-2 節 ) について, による実現形態を示す. 次に,IP 網による映像配信系サービスとして IPTV サービスの概要 (3-3 節 ) を示し, 将来の通信形態であるトリプルプレイ クアドロプレイ (3-4 節 ),FMC(3-5 節 ) について, 国際標準化状況を含め概説する. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 1/(8)
3-1 PSTN/ISDN エミュレーション 既存の電話網は, アナログ電話網 (PSTN) とディジタル電話網 (ISDN) から構成されており, 電話,FAX, テレビ電話, データ交換などを提供している. ネットワークが に変わったとしても, すべてのユーザが IP ベースのサービスに移行するとは限らないため, 既存のユーザ端末 ( 電話機や FAX) をそのまま利用できるようにする必要がある. 既存のユーザ端末を使うためには, のユーザ側のインタフェースでアナログ信号や ISDN 信号を IP に変換する必要がある. では, 図 3 1 に示すように, 既存のユーザ端末をユーザ宅内に設置するホームゲートウェイ (Home Gate Way:HGW), または, 内に設置するアクセスゲートウェイ (Access Gate Way:AGW) を経由して VoIP(Voice over IP) として に接続し, 既存の電話系サービスを提供する PSTN/ISDN エミュレーションサービスが検討されている. このサービスは, サービスストラタム上の PSTN/ISDN エミュレーションサービスコンポーネントで提供される. このコンポーネントの実現には,IMS を利用する場合とコールサーバを利用する場合が想定されており,ITU-T 勧告 Y.2013 に詳細な実現方法が示されている 1). また, と既存の電話網との接続については, トランキングゲートウェイ (Trunking Gate Way:TGW) を経由して接続される. IMSまたはコールサーバ Z UNI Z HGW H248 AGW UNI H248 SIP-I SIP-I - H248 H248 HGW BICC/ISUP Z PSTN/ ISDN HGW: Home Gateway, AGW: Access Gateway UNI: User-Network Interface TGW 図 3 1 PSTN/ISDN エミュレーション 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 2/(8)
3-2 PSTN/ISDN シミュレーション PSTN/ISDN エミュレーションサービスは, 既存のユーザ端末をそのまま用い, 既存の電話サービスを完全に再現するが,PSTN/ISDN シミュレーションサービスは, ユーザ端末に SIP による制御機能を搭載し, リアルタイム対話型マルチメディアサービス ( 従来の電話サービスの一部と の機能を用いた高度なマルチメディアサービス ) を提供することが可能となる. 例えば,SIP 端末により複数のセッションを用いた 3 者通話や通話中にテキストやファイルを共有する会議電話などが考えられる. 図 3 2 に概要図を示す.PSTN/ISDN シミュレーションサービスは, サービスストラタムの IP マルチメディアサービスコンポーネントで提供され,IMS での実現を想定している. この詳細は,ITU 勧告 Y.2262 に示されている 2). IMS SIP (UNI) SIP (NNI) 図 3 2 PSTN/ISDN シミュレーション SIP (UNI) 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 3/(8)
3-3 IPTV IPTV サービスは, セキュアで高品質な高速広帯域通信を実現する の主要なサービスと考えられている.ITU-T では,IPTV サービスとは,QoS/QoE(Quality of Experience, ユーザ体感品質 ) 制御可能な管理されたネットワークで提供される TV 音声 データなどのマルチメディアサービスと定義されている 3). すなわち, 従来の TV サービスのような放送型の番組視聴や, ユーザがコンテンツを選択して視聴する VoD 型サービスに加え, テレビセットを用いた電話やメールなどの TV サービスと通信サービスが統合されたサービスまでが対象となっている 4). IPTV サービスを大きく分類すると, 従来の地上波 TV 放送のようなリニア TV サービスと, ユーザの要求に基づいてコンテンツを選択する CoD(Contents on Demand) サービスの二つに分けられる. 前者は, 地上波デジタル放送や BS 放送の再送信など, 複数のユーザが同じ番組を同時に視聴するもので, ネットワークの効率的な利用を考慮すると, マルチキャスト技術を用いることが望ましいと考えられ, 後者は,VoD やユーザの要求に応じてゲームやソフトウェアをダウンロードするサービスなど, エンドユーザと CoD 用のコンテンツ配信蓄積サーバ間の 1 対 1 通信と考えることができる. IPTV の標準化は, の主要サービスとして,ITU-T だけでなく ETSI や ATIS でも検討されている. また,TV サービスであるため, 放送系の標準化団体である DVB( デジタルビデオ放送標準化団体 ) や CableLabs(CATV 系の標準化機関 ) でも検討されている. エンドユーザ機能 IPTV 端末機能 アフ リケーションクライアント トランサ クションフ ロトコル IPTV アフ リケーション 機能 コンテンツ準備 アフ リケーションプロファイル コンテンツフ ロハ イタ 機能 コンテンツ & データソース サービス機能 コンテンツ配信機能 配信制御機能 メディアクライアント 転送フ ロトコル コンテンツ配信蓄積機能 セッションクライアント セッションフ ロトコル IMS サービスユーサ フ ロファイル ホーム NW 機能 配信 NW- GW 機能 認証フ ロトコル アクセス NW 機能 NW アタッチメント制御機能 (NACF) エッジ機能 リソース 受付制御機能 (RACF) コア転送機能 転送制御機能 転送機能 トランスホ ート機能 図 3 3 IPTV サービスを提供する ベースの機能アーキテクチャ 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 4/(8)
ITU-T で検討されている 上の IPTV サービスは,IPTV サービスコンポーネントで実現されることを想定し,ITU-T 勧告 Y.1910 に詳細が示されている 5). 図 3 3 は,Y.1910 の ベースの IPTV アーキテクチャである. この図は IMS を IPTV のサービス制御に利用した場合のアーキテクチャであり, 対話型基本通信サービスと同様な手順で CoD サービス提供時に のリソース受付制御機能などを利用することを考慮している.IPTV のサービス選択や番組選択, 及び, コンテンツの権利保護などの管理機能は, 機能で実現され, コンテンツ自体は, コンテンツ配信機能により蓄積 配信される. リニア TV サービスの提供には, トランスポート機能とコンテンツ配信蓄積機能にマルチキャスト転送のための機能が必要となる. Y.1910 で標準化されている IPTV アーキテクチャは, 図 3 4 に示すように 3 種類の方式が考えられている. による提供を考慮したアーキテクチャで IPTV の制御機能に IMS を使う場合と使わない場合, 及び,CATV 網など既存のネットワークによる提供を考慮したアーキテクチャがある. ベースアーキテクチャでは, の QoS 保証機能だけでなく認証機能やプレゼンス管理機能などを利用し, 高品質で安全な IPTV サービスの提供が可能となる. 方式 非 アーキテクチャアーキテクチャ ヘ ースアーキテクチャベースアーキテク ( 非 IMS 方式チャ ) ( 非 IMS 方式 ) ヘ ースアーキテクチャベースアーキテク ( IMS 方チャ式 ) (IMS 方式 ) 概要 を想定せずに I IP 網上にレガシー IPTV 制御機能を構築 アーキテクチャに従い, IPTV 制御機能を構築 で IMS(SIP を利用 ) による網制御機能を IPTV 制御に活用する アーキテクチャ図 顧客設備 IPTV AP IPTV ストリーミンク IPTV 制御機能認証 / リソース制御 顧客設備 IPTV AP ストリーミンク IPTV 制御機能 転送制御 (NACF, RACF) 顧客設備 IPTV AP IMS ストリーミンク 機能 転送制御 (NACF, RACF) IP IP 網 転送網 転送網 図 3 4 IPTV アーキテクチャの比較 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 5/(8)
3-4 トリプルプレイ, クアドロプレイ は IP を用いた統合網であることから, 音声 ( 電話 ), 映像, データ通信を統合して提供するトリプルプレイ 6), 7) や, トリプルプレイにモバイル ( 移動通信 ) を加えたクワドロプレイ 6), 7) を容易に提供することができる. これらにより, 各通信サービスを個別に提供するという考え方から, 各通信サービスを組み合わせて相乗効果を生み出し, 新たなサービスの利用形態が期待される. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 6/(8)
3-5 FMC( ワンフォン ) は,IP による統合通信網であるため, 電話や映像配信のような従来の固定通信と, 携帯電話のような従来の移動通信とを連携する固定移動融合 (Fixed and Mobile Convergence:FMC) が検討されている. 図 3 5 は,ITU-T 勧告 Q.1762/Y.2802(FMC の一般要求条件 ) 8) に記載されている FMC の形態である. 図 3 5 が示すように,FMC には, 料金請求機能などのオペレーション系の統合, 固定通信網と移動通信網の装置の統合などいくつかの段階がある. オペレーション系の統合やネットワーク装置の統合は, 主に CAPEX( 装置導入コスト ) や OPEX( 運用コスト ) の削減が目的であるが, ユーザ端末と系を統合することにより, ユーザがどこにいても一つの番号で着信できるワンフォン 9) のような新サービスを生み出すことができる. ワンフォンの実現には, 固定網で提供される無線 LAN や Bluetooth などと移動通信網との間でのシームレスなハンドオーバ, ユーザの位置情報やユーザ端末情報の一元管理, 統一番号の導入などが必要となる. ワンフォンは, いくつかの方式があるが 3GPP では VCC(Voice Call Continuity) として標準仕様が検討されている. 非 FMC( 個別網 ) 管理機能レイヤ統合 AP レイヤ統合 (1) AP レイヤ統合 (2) 制御レイヤ統合 固定網 移動網 固定アクセス固定アクセス 移動アクセス移動アクセス 固定アクセス固定アクセス 移動アクセス移動アクセス 固定アクセス固定アクセス 移動アクセス移動アクセス 固定アクセス固定アクセス 移動アクセス固定アクセス移動アクセス移動アクセス固定アクセス移動アクセス NW 機能は独立 共用端末によるサービス統合 ユーザへの課金や請求を一元化可能 を共通で利用可能 サポート機能を共通利用 コア NW を完全統合し全機器の共通化 :Application Support Functions and Service Support Functions 図 3 5 FMC の実現形態 参考文献 1) ITU-T, PSTN/ISDN emulation architecture, Recommendation Y.2031, 2006. 2) ITU-T, PSTN/ISDN emulation and simulation, Recommendation Y.2262, 2006. 3) ITU-T, IPTV service requirements, Recommendation Y.1901, 2009. 4) ITU-T, IPTV service use cases, Supplement Y.Sup5, 2008. 5) ITU-T, IPTV functional architecture, Recommendation Y.1910, 2008. 6) 井上友二 ( 監修 ), 教科書, インプレス R&D, 2008. 7) 情報通信総合研究所 ( 編 ), 情報通信アウトルック 2008( の時代へ ), NTT 出版, 2008. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 7/(8)
8) ITU-T, Fixed-mobile convergence general requirements, Recommendation Q.1762/Y.2802, 2007. 9) 服部武, 藤岡雅宣, 改訂三版 : ワイヤレス ブロードバンド教科書, インプレス R&D, 2008. 電子情報通信学会 知識ベース 電子情報通信学会 2010 8/(8)