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る指針 が通知され 契約締結下で資金の使途を特定の臨床研究に制限した資金提供は増える傾向にある 産学連携として従来行われてきた臨床研究の中には 責任の所在が不明瞭で利益相反の開示が曖昧な 自主研究 と称された研究も多かった 契約締結に伴う資金提供の普及に伴い 企業においては 臨床研究の最終責任が研究者側か企業側のどちらにあるのかを明確にすることが求められるようになった また ICH-GCP が普及している海外においても Sponsor を明確にすることが出来ない場合があり 国内では 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 ( 新倫理指針 ) には Sponsor の概念はないが 契約による資金提供が普及した現在では Sponsor について議論し 特定することが求められるようになった 一方 医学系研究の国際競争が激しくなった現在では 産学による共同研究の推進が重要となる Sponsor の概念が定着すれば 共同研究の在り方について議論が進むことが期待される 3. 倫理審査委員会について新倫理指針における倫理審査委員会の構成要件は 旧倫理指針より厳しくなった 旧倫理指針では 以下の様に記載されていた < 細則 > 1. 倫理審査委員会は 医学 医療の専門家等自然科学の有識者 法律学の専門家等人文 社会科学の有識者及び一般の立場を代表する者から構成され かつ 外部委員を構成員として含まなければならない また その構成員は男女両性で構成されなければならない 一方 新倫理指針では 以下の様に規定されている 1 医学 医療の専門家等 自然科学の有識者が含まれていること 2 倫理学 法律学の専門家等 人文 社会科学の有識者が含まれていること 3 研究対象者の観点も含めて一般の立場から意見を述べることのできる者が含まれていること 4 倫理審査委員会の設置者の所属機関に所属しない者が複数含まれていること 5 男女両性で構成されていること 6 5 名以上であること この構成要件は ICH-GCP に記載されている下記要件 (a) At least five members. (b) At least one member whose primary area of interest is in a nonscientific area. (c) At least one member who is independent of the institution/trial site. と比べ 所属機関に所属しないものを複数含める必要がある点等で厳しく ICH-GCP 基準で実施する臨床研究においても より厳しい新倫理指針の構成要件も遵守しなければならない事態となっている 今後 新倫理指針と ICH-GCP における不整合を検討する上での課題となると考える 一方 治験においては 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令 の第一節に治験審査委員会の要件として下記のように記載されている

一治験について倫理的及び科学的観点から十分に審議を行うことができること 二五名以上の委員からなること 三委員のうち 医学 歯学 薬学その他の医療又は臨床試験に関する専門的知識を有する者以外の者 ( 次号及び第五号の規定により委員に加えられている者を除く ) が加えられていること 四委員のうち 実施医療機関と利害関係を有しない者が加えられていること 五委員のうち 治験審査委員会の設置者と利害関係を有しない者が加えられていること 治験審査委員会 各種倫理審査委員会等の基準が異なるため 研究機関内に様々な委員会が乱立し 委員会同士の情報共有や委員の教育に支障をきたす可能性がある また 臨床研究法案において認定臨床研究審査委員会での審査が明記されており 現状の認定倫理審査委員会の数では 特定臨床研究の審査が全く追い付かず 我が国における臨床研究の停滞が予想される 我が国における臨床研究を推進するために 認定倫理審査委員会の増加が急務であり そのためには臨床研究審査委員会の認定に向けた積極的な取り組み 行政側においては認定制度の改革を含めた検討が必要である なお 倫理審査委員会に対しては 議事録に審査者の役割分担 発言およびその氏名を記載し 責任ある審査を公表等で促す必要がある 4. 研究計画書について新倫理指針では 研究計画書の記載項目 1から25までの全ての事項 (15から25までは該当する場合のみ ) について記載することが原則とされているが 研究の内容等によっては 必ずしも記載を要しない項目もあり得るとなっている 各項目を研究計画書へ記載するかどうかは研究責任者が判断し 不要とする場合その理由とともに倫理審査委員会で審査し 妥当であるとの意見を受けて研究機関の長の許可を得る必要がある この場合 記載不要とする項目について 倫理審査委員会の記録や研究計画書の当該項目に記載不要とする旨とその理由を記載しておくことが望ましいと規定されている しかしながら 新倫理指針の施行以降に倫理審査委員会で承認になった研究計画書において 必須な項目が未記載であっても承認されているケースが多数認められており 研究計画書の不備が放置されたままである 研究計画書の質を向上させるためには 研究責任者に対して新倫理指針に準拠した研究計画書の作成に関する教育 研究者の意識の向上および倫理審査委員会の委員に対する教育を含め審査機能を改善することが重要である 5. モニタリングおよび監査に関する手順書およびモニタリングの方法について平成 27 年 10 月以降 侵襲を伴う介入研究の場合 モニタリングおよび必要に応じて監査に関する手順が研究計画書に記載されるか あるいは別途計画書として作成することが必須となっている 臨床研究のモニタリングおよび監査の詳細な手順を検討するのは 通常研究計画書完成後であるが 新倫理指針ではその研究計画書作成時においてモニタリングおよび必要に応じて監査の詳細な手順を決定する必要がある 作成時期及び監査手順について今後検討を要すると考えられる また 臨床研究におけるモニタリングの目的に関する理解が研究責任

者で不十分で さらにモニタリングを実施するモニターの教育 研修は新倫理指針で規定されておらず 臨床試験の科学的な質とデータの信頼性を確保が不十分である このことから 試験毎に適切なレベルのモニタリングを実施し 質の高い臨床研究を実施するためにも 研究責任者の教育およびモニター要件の規定を検討する必要がある また 欧米においては監査の第三者性が重要視されており 研究責任者が作成すること自体問題と考える 6. 研究者主導臨床研究に関する企業との契約のタイミングについて企業からの資金提供によって実施される研究者主導臨床研究においては 企業との契約のタイミングあるいは契約内容について検討が必要であると考える 現在 研究者主導臨床研究の契約時期に関しては 研究機関の倫理審査委員会承認後に契約すると規定している企業 あるいはそのような手順を規定している研究機関が多い 質の高い研究計画書を完成させるためには 他の専門家や生物統計家および CRC 等の協力と多くのリソースが必要である 契約締結前は これらのリソースに対する経済的対価が決定されていない 倫理審査委員会での承認前である という理由により 多くの研究機関ではこれらの協力者による支援が得られず 研究者一人で研究計画書を作成しているのが現状である その結果 上述の通り 現状の研究計画書は新倫理指針に準拠していないものが多くなっている 完成度の高い研究計画書作成のためには 研究計画の準備段階より多くの協力者及びそのリソースに対する対価 つまり資金が必要であり 利益相反の観点から問題のない企業からの資金提供の在り方 具体的には 契約のタイミングと契約内容 ( 支援可能な項目 ) について検討が必要と思われる 7. 企業が提供する資金の透明性の確保について現在 企業が資金提供する臨床研究においては 医療用医薬品等を用いた研究者主導臨床研究の支援に関する指針 ( 日本製薬工業協会 平成 28 年 1 月 21 日 ) に基づき 臨床研究実施の費用に対する対価性 ( 資金提供が利益供与 ( 賄賂 ) でないこと ) を証明するおよび奨学寄附との相違を明確にするため その提供された費用の使途を明確にする必要がある 提供された経費が 当該研究以外に利用されることが明らかな場合 資金提供が不明朗と捉えられ 研究の信頼性にも疑念を持たれてしまう そのため 研究組織から外部委託した CRO 等の費用だけでなく 必要経費として研究組織に入る費用についても その積算根拠を入手し 妥当性を確認する必要がある 現在 間接経費について 各研究機関のルールに従って 研究費総額に対して一定の係数を乗じて計算している研究機関が多いが 研究期間や内容を考慮しない基準で算出された間接経費が 計上されることがある 高額な間接経費は 臨床研究以外の目的で使用されることとなり 企業からの利益供与との誤解を受ける可能性がある 一方 研究費を受領する各研究機関の立場からすると 臨床研究ごとに全ての経費を算出することは多大な労力が必要であり 臨床研究を滞りなく進めるためには一定係数による間接費算定もやむを得ない対応であると理解される 間接経費の必要性について研究機関および企業はともに理解しているが 資金提供が利益供与であると捉えられないように 双方が協議の上 当該研究に要する間接経費を適切に決定することが必要と考えられる 企業は 医療用医薬品等を用いた研究者主導臨床研究

の支援に関する指針 ( 日本製薬工業協会 2016 年 1 月 21 日制定 ) に基づき 間接経費の内訳および費用の妥当性を確認することを勧める また 研究開始前に研究費積算根拠を入手するだけでなく 提供された資金が対象となる臨床研究に対して適切に使用されたことを担保するために 企業は研究終了後の研究費の使用実績についても今後さらに詳細に確認 把握することが重要と考える 8. 利益相反について新倫理指針では 下記項目が追加された 第 18 利益相反の管理 (1) 研究者等は 研究を実施するときは 個人の収益等 当該研究に係る利益相反に関する状況について その状況を研究責任者に報告し 透明性を確保するよう適切に対応しなければならない (2) 研究責任者は 医薬品又は医療機器の有効性又は安全性に関する研究等 商業活動に関連し得る研究を実施する場合には 当該研究に係る利益相反に関する状況を把握し 研究計画書に記載しなければならない (3) 研究者等は (2) の規定により研究計画書に記載された利益相反に関する状況を 第 12 に規定するインフォームド コンセントを受ける手続において研究対象者等に説明しなければならない 現在のところ 各研究機関における利益相反の管理は 必ずしも適切かつ明確とは言い難い 企業から資金提供を受けて実施されている臨床研究において 研究計画書に 当該試験には利益相反はない と記載されているケースが現在でも散見され 利益相反について正しい理解が浸透していないと思われる また 通常利益相反を確認する上で必要と思われる 当該研究に関連する企業等からの給与以外のすべての個人の収益 株式保有 や 役員への就任状況 等について 所属する研究機関に提出していないケースも散見される これらの問題を解決するためには 研究責任者および研究機関が利益相反の自己申告だけでなく 利益相反の管理が最も重要であるということを認識するように教育することが重要である 産学連携等によって利益相反が生じること自体に問題があるわけでなく 研究の適正性や結果の信頼性を損なうような疑念が生じることが問題であることを認識すべきである 9. 有害事象について新倫理指針において 侵襲を伴う研究の実施において重篤な有害事象の発生を知った場合 の研究責任者及び研究者等の対応には 因果関係が否定される場合も含まれることに注意が必要である さらに 新倫理指針で行う製造販売承認後の医薬品に関わる臨床研究に関しては 新倫理指針の規定に加えて GVP( 企業への自発報告 ) にも対応する必要がある これは重篤な有害事象のみならず すべての有害事象についても対応が求められる 研究者主導臨床研究および企業主導臨床研究において 重篤な有害事象に関する医師からの自発報告に加えて GVP 規制が必要となるため 各企業が提示する契約書の規定に従って安全性報告が必要となるが 対象となる膨大な有害事象をすべて報告する体制を構築するためには 産学連携によるさらなる安全性報告体制の構築が求められる 10. 試料 情報の保管について

新倫理指針では 第 19 で 研究に係る試料及び情報等の保管 の項を設け 研究機関の長による手順書の作成と必要な監督を求めている 研究機関の長は 当該研究機関の 情報 等について 可能な限り長期間保管されるよう努めなければならず 侵襲 ( 軽微な侵襲を除く ) を伴う研究であって介入を行うものを実施する場合には 少なくとも 当該研究の終了について報告された日から5 年を経過した日又は当該研究の結果の最終の公表について報告された日から3 年を経過した日のいずれか遅い日までの期間 適切に保管されるよう必要な監督を行わなければならない としている 上記保管期間は 少なくとも であり 企業からの資金提供に関する契約書には これら保管期限について上記規定の 3 年または 5 年以上の期限を規定する企業が多いことに留意する必要がある また 同指針のガイダンスでは 電子媒体等に記録されたデータの場合は セキュリティシステムの保持 データのバックアップの実施等の他 データの真正性 保存性 見読性の保持等について言及されていることに留意すべきである なお 同指針では 試料 情報 の他 ( 研究に用いられる情報に係る ) 資料 という文言を別に定義しており これについては データ修正履歴 実験ノートなど研究に用いられる情報の裏付けとなるものを指している いずれにしても 研究の信頼性確保のための試料 情報等のトレーサービリティについては検討する必要がある 11. まとめ 1. 臨床研究における Sponsor について 新倫理指針に ICH-GCP における Sponsor の概念がないため 企業が実施または支援する研究については 研究ごとに研究体制 ( 役割と責任の明確化 ) の構築について相違が認められ 今後検討する必要がある 2. 倫理審査委員会について ICH-GCP を遵守して実施する臨床研究においても より厳しい 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 の倫理審査委員会構成要件についても遵守しなければならない事態となっている 今後 新倫理指針と ICH-GCP の不整合を検討する上での課題となると考える 臨床研究法案において認定臨床研究審査委員会の役割が強化されることから 現在の認定倫理審査委員会の数では 審査が追い付かないことが予想される 認定倫理審査委員会の認定数の増加は急務であり そのためには臨床研究審査委員会の認定に向けた積極的な取り組み 行政側においては認定制度の改革を含めた検討が必要である 3. 研究計画書について 研究計画書の質を向上させるためには 研究責任者の教育 意識の向上および倫理審査委 員会の審査機能を改善することが重要である 4. モニタリングおよび監査に関する手順書およびモニタリングの方法について 臨床研究のモニタリングおよび監査の詳細な手順を検討するのは 通常研究計画書完成後であるが 新倫理指針ではその研究計画書概要策定時においてモニタリングおよび必要に応じて監査の詳細な手順を決定する必要があり この点について今後検討を要する また

均質なモニタリングを実施し 質の高い臨床研究を実施するためにも 研究責任者のモニ タリングに関する教育およびモニター要件の規定を検討する必要がある 5. 研究者主導臨床研究に関する企業との契約のタイミングについて 企業からの資金提供によって実施される研究者主導臨床研究においては 利益相反の観点から問題のない企業との契約のタイミングと契約内容 ( 支援可能な項目 ) について検討が必要と考える 6. 企業が提供する資金の透明性の確保について 間接経費の必要性について研究機関および企業はともに理解していることから 資金提供が不明朗 ( 利益供与 ) であると捉えられないように 双方が協議の上 適正な間接経費を決定することが必要である 7. 利益相反について 利益相反状態が生じること自体に問題があるわけでなく 研究実施に係る適正性や結果の信頼性を損なうような疑義を生じせしめないための利益相反マネジメントこそ重要であるということを認識すべきであり 研究者に利益相反状態に関する教育が必要である 8. 有害事象について 対象となる膨大な有害事象をすべて報告する体制を構築するためには 産学連携によるさ らなる安全性報告体制の構築が求められる 9. 試料 情報の保管について 保管期限について上記規定の 3 年または 5 年以上の期限を規定する企業が多いことに留意する必要がある また 研究の信頼性確保のための試料 情報等のトレーサービリティについて検討する必要がある 以上