Bull. Mie Pref. For. Res. Inst. (5), 培養期間別発生量の調査先と同様の培地組成の菌床を作製し, 温度 20, 湿度 70% の条件下で培養した. 培養 3 ヵ月,4 ヵ月,5 ヵ月後に菌床の側面 4 面にカッターナイフで切り目を入れ, 温度 24,

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三重県林業研報 (5), 2013 資料 アラゲキクラゲ (Auricularia polytricha) の菌床栽培法 Cultivation of Auricularia polytricha using medium sawdust blocks 西井孝文 1) Takafumi NISHII 1) 要旨 : アラゲキクラゲ菌床栽培において, 菌糸体の蔓延した菌床を用いて培養, 発生条件が子実体発生量に及ぼす影響について検討を行った. この結果, 発生温度は 21 が良好で, 培養期間は 3 ヶ月間が良好であった. また, 野外における発生試験を実施したところ,5 月下旬から7 月下旬までに発生処理を行うと継続した発生が可能なことが明らかになった. キーワード : アラゲキクラゲ, 菌床栽培, 培養期間, 発生温度 はじめにアラゲキクラゲ (Auricularia polytricha) はキクラゲ科キクラゲ属のきのこで, 春から秋にかけて広葉樹の枯れ木, 枯れ枝上に発生する ( 今関 本郷,1987)( 写真 -1). 独特の食感と風味で主に炒め物に利用されるが, 煮物や汁物にも利用できる. 中華料理等でキクラゲの名で利用されているのは大半がこのアラゲキクラゲで, 国内消費量の大部分が乾燥品として中国から輸入されている ( 株式会社特産情報,2010). 最近では, 安全性や独特の食感から国産の生キクラゲの需要が高まっているものの, 平成 22 年の生産量は 155t と他の栽培きのこに比べ著しく少ない ( 株式会社特産情報 きのこ年鑑編集部,2012). 三重県内においても近年アラゲキクラゲの栽培化が試みられているが, 簡易施設を用いた自然栽培が中心で安定した生産システムが確立されていない. そこで, アラゲキクラゲの安定生産を目指して, 菌床空調栽培において培養期間と発生温度が子実体発生に及ぼす影響の調査ならびに, 簡易施設を用いた自然栽培において発生処理時期が子実体発生に及ぼす影響について調査を行ったので報告する. 材料および調査方法 1. 発生処理室の温度別発生量の調査 1 菌床当たり広葉樹オガ粉 4.5 l, フスマ 120 g, バイデル ( 株式会社北研製 )150 g の割合で混合し, 含水率を 63% に調整した後, シイタケ菌床栽培用のポリプロピレン製の袋に 2.8 kg詰め,1.0 気圧,118 で 90 分間殺菌した. 一晩放冷後, アラゲキクラゲ種菌 ( 森 89 号菌 ) を接種し, 温度 20, 湿度 70% の条件下で 75 日間培養した. 培養完了後, 菌床の側面 4 面にカッターナイフで 10 cmの切り目を合計 10 本入れ ( 写真 -2), 温度 15,18,21,24, 湿度はいずれも 100% の条件下で子実体の発生を促した. 各発生温度につき菌床 8 個を用いた. 収穫はきのこの傘が開ききる前に行い, 収穫日および発生処理後 9 ヵ月間の合計発生量を調査した. 1) 三重県林業研究所 Mie Prefecture Forestry Research Institute E-mail:nishit22@pref.mie.jp - 1 - - 21 -

Bull. Mie Pref. For. Res. Inst. (5), 2013 2. 培養期間別発生量の調査先と同様の培地組成の菌床を作製し, 温度 20, 湿度 70% の条件下で培養した. 培養 3 ヵ月,4 ヵ月,5 ヵ月後に菌床の側面 4 面にカッターナイフで切り目を入れ, 温度 24, 湿度 100% の条件下で子実体の発生を促した. 各培養期間につき菌床 10 個を用いた. 収穫はきのこの傘が開ききる前に行い, 収穫日および発生処理後 5 ヵ月間の合計発生量を調査した. 3. 野外簡易施設における発生時期別発生量の調査先と同様の培地組成の菌床を作製し, 温度 20, 湿度 70% の条件下で培養した.5 月下旬より1ヶカ月毎に 9 月下旬まで,3 ヵ月間培養した菌床の側面 4 面にカッターナイフで切り目を入れ, 遮光率 90% の寒冷紗で覆ったシイタケ人工ほだ場で, 朝夕 30 分ずつ散水管理を行い子実体の発生を促した. 発生時期毎に菌床 10 個を用いた. 収穫はきのこの傘が開ききる前に行い, 収穫日および発生が終了するまでの合計発生量を調査した. 4. 既存のきのこ生産施設を流用した発生試験既存のタモギタケ生産施設を用いた発生試験を行った. 先の試験と同様,3 ヵ月間培養した菌床 10 個の側面 4 面にカッターナイフで切り目を入れ, 温度 20, 湿度 100% のタモギタケ発生室を用い子実体の発生を促した. 収穫はきのこの傘が開ききる前に行い, 収穫日および 3 ヵ月間の合計発生量を調査した. 結果 1. 発生処理室の温度別発生量発生温度別の平均発生量は表 -1 のとおりで,21 での発生 ( 写真 -3) が合計 1794.0±215.7g と 15 発生 ( 写真 -4),24 発生 ( 写真 -5) に比べて有意に多かった (P<0.05). 特に 15 発生では初回発生のみに留まり他の発生温度に比べて発生量が有意に少なかった (P<0.05). また, 発生処理より初回発生までにかかった日数 ( 収穫日 ) は発生温度が高いほど早かったが,21 発生 18 発生では発生が長期間続き 21 発生では発生処理後 6 カ月で 24 発生を追い越した ( 図 -1). なお,24 発生では発生処理後 5 カ月頃から, 雑菌汚染や菌床の萎縮等により発生が停止する菌床が見られ, 発生処理後 6 ヵ月で菌床を廃棄することとなった. 表 -1. 発生処理室の温度別発生量 発生温度 供試数 ( 個 ) 発生ロス数 ( 個 ) 平均発生量 (g) 収穫日 ( 日 ) 15 8 0 403.6±64.6a 47 18 8 0 1609.8±167.6bc 25 21 8 0 1794.0±215.7b 21 24 8 0 1562.1±165.7c 14 値は供数 (n=8) の平均発生量 ± 標準偏差で示す. 異なる英字間には有意差あり (Turkey.P<0.05) - 2 - - 22 -

三重県林業研報 (5), 2013 図 -1. 発生処理室の温度別発生量の推移 2. 培養期間別発生量培養期間別の平均発生量は表 -2 のとおりで,3 カ月培養での発生量が 1856.4±163.1g と最も多かった ( 写真 -6)(P<0.05). また, 発生処理より初回発生までに要した日数 ( 収穫日 ) は 5 カ月培養で 2 日遅れた. 表 -2. 培養期間別の発生量 培養期間 供試数 ( 個 ) 発生ロス数 ( 個 ) 平均発生量 (g) 収穫日 ( 日 ) 3 ヵ月 10 0 1856.4±163.1a 13 4 ヵ月 10 0 1522.8±160.6b 13 5 ヵ月 10 0 1434.6±295.4b 15 値は供数 (n=10) の平均発生量 ± 標準偏差で示す. 異なる英字間には有意差あり (Turkey.P<0.05) 3. 野外簡易施設における発生時期別発生量発生処理時期別の平均発生量は表 -3 のとおりで, 全ての処理区で発生が認められ ( 写真 -7),5 月下旬,7 月下旬に発生処理を行ったもので合計発生量が 1600gを超え ( 写真 -8), 他の発生処理時期に比べ有意に多かった (P<0.05). また, 発生処理より初回発生までにかかった日数 ( 収穫日 ) は気温が低い時期ほど長くなり, 特に 9 月下旬に発生処理を行ったものでは 11 月上旬に 2 回目の発生が見られた後, 低温により発生が休止した ( 写真 -9). 4. 既存のきのこ生産施設を流用した発生試験タモギタケ発生施設を用いた発生試験においては, 発生処理後 11 日目より収穫が始まり,3 カ月間で合計 1,960gの発生が認められ ( 写真 -10), 施設の流用が可能であることが分かった. - 3 - - 23 -

Bull. Mie Pref. For. Res. Inst. (5), 2013 表 -3. 発生処理時期別の発生量 発生処理時期供試数 ( 個 ) 発生ロス数 ( 個 ) 平均発生量 (g) 収穫日 ( 日 ) 5 月下旬 10 0 1628.0±149.6a 22 6 月下旬 10 0 1236.6±207.3b 19 7 月下旬 10 0 1762.8±186.8a 13 8 月下旬 10 0 1250.0±113.1b 11 9 月下旬 10 0 742.0±156.8c 27 値は供数 (n=10) の平均発生量 ± 標準偏差で示す. 異なる英字間には有意差あり (Turkey.P<0.05) 考察アラゲキクラゲの菌床栽培において, 空調施設を用いて栽培を行う場合には, 十分な加湿を行い, 発生室温を 18~24 に維持すれば, 合計 1.5 kgを超える子実体が収穫できる事が判明した 菌床の培養期間については,3 カ月程度が良好であり培養期間が延びるにつれ発生量が低下した. アラゲキクラゲの野外栽培においては,5 月下旬から 7 月下旬にかけて発生処理を行い, 毎日十分に散水することにより, シイタケ人工ほだ場のような簡易な施設においても 1 菌床当たり 1.5 kgを超える発生が可能であることが分かった. ただし,6 月下旬に発生処理を行った菌床では, 7 月下旬から 8 月上旬にかけて発生した子実体がムラサキアツバ (Diomea cremata) の幼虫の食害を受け発生量が低下したが ( 北島ら,2012)( 写真 -11,12), 害虫による食害を防除すれば, 他の発生処理時期と同様 1.5 kgを超える発生が可能になると考えられる. また, 発生処理時期が遅くなるにつれ低温のため初回発生までの日数を要する上,2 回目以降の発生が遅れる, 途中で発生が休止するなど発生量が低下するため, 少なくとも 7 月中に発生処理を行う方が効率がよいと思われた. アラゲキクラゲは発生温度の幅も広く, 簡易な施設でも発生が可能なことから, 比較適高温で発生させるタモギタケ等他のきのこの生産施設の流用が可能であり, アラゲキクラゲの菌床を供給する体制が整備されれば, 新規参入が容易であることが示唆された. おわりにアラゲキクラゲは国内消費の大半を乾燥品の輸入に頼っているが最近では, 国産品を求める消費者も多く, また生食用のアラゲキクラゲは極めて流通量が少ないことから, 今後は消費量が増加すると考えられる. そのためにも三重県独自の栽培マニュアルを作成し安定した栽培方法を示すとともに, 菌床センター方式などによるアラゲキクラゲ菌床の供給システムを構築することが急務と考える. 引用文献今関六也 本郷次雄 (1987) 原色日本新菌類図鑑 (Ⅱ). 保育社, 大阪株式会社特産情報 (2010) 最新きのこ栽培技術. 株式会社プランツワールド, 東京株式会社特産情報きのこ年鑑編集部 (2012)2012 年度版きのこ年鑑. 株式会社プランツワールド, 東京北島博 坂田春生 國友幸夫 (2012) 菌床シイタケ害虫ムラサキアツバの発育と温度との関係. 日本きのこ学会第 16 回講演要旨集 77-4 - - 24 -

三重県林業研報 (5), 2013 写真 -1. 野生のアラゲキクラゲ 写真 -2. 菌床の側面に切り目を入れる 写真 -3. 21 での発生状況 (21 日目 ) 写真 -4.15 での発生状況 (47 日目 ) 写真 -5. 24 での発生状況 (14 日目 ) 写真 -6.3 カ月培養での発生状況 (13 日目 ) - 5 - - 25 -

Bull. Mie Pref. For. Res. Inst. (5), 2013 写真 -7. 野外簡易施設での発生状況 写真 -8.7 月下旬発生処理における発生状況 (13 日目 ) 写真 -9.9 月下旬発生処理における発生状況 写真 -10. きのこ生産施設流用による発生試験 (27 日目 ) (11 日目 ) 写真 -11. ムラサキアツバの幼虫による食害 写真 -12. 羽化したムラサキアツバ - 6 - - 26 -