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フェロセンは酸化還元メディエータとして広く知られている物質であり ビニルフェロセン (VFc) はビニル基を持ち付加重合によりポリマーを得られるフェロセン誘導体である 共重合体としてハイドロゲルかつ水不溶性ポリマーを形成する2-ヒドロキシエチルメタクリレート (HEMA) を用いた 序論で述べたようなポリマーメディエータの合成を期待し poly(vfc-co-hema) (PVH)( 図 1) を用いたグルコースセンサーを作成し メディエータ能と酵素固定化担体としての評価を行った 2.2 実験方法 2.2.1 PVH の合成と電気化学特性評価 PVH は仕込み比 75:25, ラジカル共重合により合成し リン酸緩衝性食塩液 (PBS) 中でサイクリックボルタメトリー (CV) により電気化学特性を評価した 2.2.2 グルコースセンサーの作製とグルコース濃度測定グラッシーカーボン電極上に PVH 膜を形成し ヘキサンジアミン (HMDA) とグルタルアルデヒド (GA) を用いてグルコースオキシダーゼ (GOx) を固定化した グルコース応答電流の測定はリン酸緩衝性食塩液 (PBS) 中で 任意量のグルコース溶液を加えて行った 酵素とメディエータとの電子授受効率を間接的に評価するため 測定試料中の溶存酸素濃度の調節を行った 2.2 結果と考察 2.3.1 PVH の合成と電気化学特性評価 VFc はラジカルを捕捉し重合を止めやすいという性質があるため 仕込み比に対しモル分率が低くなった 仕込み比 75:25 の VFc モル分率は 0.27 数平均分子量(Mn) は 3.7 10 4 分子量分布は 1.2 収率は 15% であった 吸水すると 40% 程度の重量増加が観察された PVH の CV を行ったところ 2 回目の走査でフェロセンの酸化還元電位付近に鋭い電流

値ピークがみられた 図 2に CV を示す 標準電極電位は E 0 =0.38V (vs. Ag/AgCl) 走査速度が上がるにつれて酸化還元ピーク電位の差が大きくなった 2.3.2 グルコースセンサーの作製とグルコース濃度測定図 3に PVH をポリマーメディエータとして用いたセンサーの溶存酸素濃度の違いとグルコース応答電流値の相関を示す 溶存酸素濃度が高くなるにつれて 閾値が高くなる傾向が見られた センサー上の酵素の近辺に酸素分子と PVH が存在している場合 酸素が先に酵素の電子授受に寄与し 酸素の反応が飽和状態に達したあと PVH と酵素の電子授受が始まったと考えられる 最後に 1 日ごとにグルコースの測定を行った 化学架橋で酵素を固定化する手法の利点は 酵素の立体構造が保持され ph 変化や高温における酵素の立体構造の変化および失活を防ぐことである 図 4では室温 (23 ) において 180 mg/dl におけるグルコース応答電流値測定を行った結果を示し 図 5では体温と同程度の温度 (37 ) において測定を行った結果を示す HMDA とグルタルアルデヒドの Schiff 結合により 酵素が安定的にセンサー上に固定化され 14 日間のグルコース測定を行うことができたと考えられる 3. キノンを有するポリマーメディエータを用いたバイオセンサーの創成 3.1 目的酸化還元型酵素の場合 自然界では酸素が電子授受の担い手である 酸素は分子量 32g/mol の低分子物質であり 拡散速度が速く 酸素の影響を完全に取り除くことは難しい 第 2 章ではフェロセン系のメディエータについて扱ったが 溶存酸素存在下において酵素はフェロセン分子よりも先に酸素と反応した 本章ではハイドロキノン系メディエータを使ったグルコースセンサーについて議論する

ハイドロキノンは生体内の酸化還元をになう物質である 酵素との電子授受速度が速く 溶存酸素存在下において 低グルコース濃度領域でも応答電流が生じることが確認されている しかし ハイドロキノンは水溶性でセンサーに固定化することが困難であった 本研究では ポリマーの側鎖にハイドロキノン誘導体を結合させることで固定化し メディエータとして使用することを試みた 3.2 実験方法 3.2.1 PDAM の合成と電気化学特性評価まず バックボーンポリマーとしてメタクリル酸 (MA) と HEMA の共重合体である poly(ma-co-hema) を仕込み比 60:40 でラジカル重合により合成した MA のカルボキシル基に 2,5-ジヒドロキシアニリンを結合し PDAM を得た ( 図 6) CV により PDAM の電気化学特性を評価した 3.2.2 グルコースセンサーの作製とグルコース濃度測定グラッシーカーボン電極上に PDAM 膜を形成し HMDA と GA を用いて GOx を固定化した その後 PVH を用いたセンサーと同様にグルコース濃度測定を行った 3.3 結果と考察 3.3.1 PDAM の合成と電気化学特性評価仕込み比 60:40 の poly(ma-co-hema) の MA モル分率は 0.57 MA のカルボキシル基の 2,5-ジヒドロキシアニリン置換率は 0.88 であった PDAM の CV を行ったところ -0.19 V に酸化電流ピーク -0.35 V に還元電流ピークが見られた ( 図 7) 3.3.2 グルコースセンサーの作製とグルコース濃度測定図 8に PDAM をポリマーメディエータとして用いたセンサーの溶存酸素濃度の違いとグ

ルコース応答電流の相関を示す 閾値が見られず 溶存酸素濃度が高くなると電流密度 / グルコース濃度の傾きが小さくなる傾向が見られた 酸素の影響を完全に免れることはできないがセンサー上の酵素の近辺に酸素分子と PDAM が存在していても 酵素の電子授受がおこったと考えられる ただし 空気中と平衡な溶存酸素濃度 (8-10 mg/l) において グルコース濃度 50 mg/dl でグルコース応答電流が飽和するという現象が見られた 図 9に 24 時間ごとに 42 mg/dl におけるグルコース応答電流値測定を行った結果を示す 電流密度が次第に下降していくものの 補正を行えば十分使用可能であると考えられた 4.PVH と PDAM の電気化学特性比較および酵素固定化担体としての機能比較図 10は PVH の 図 11は PDAM の ph を変化させた CV を示している PVH の酸化還元電位はプロトン濃度に依存しないが PDAM のそれはプロトン濃度によって変化することがわかった これは PDAM がヒドロキノンと同じ酸化還元機構を持つことを裏付ける結果である また ピーク電流値の大きさもプロトン濃度によって変化した 電子移動反応がプロトンに依存することが PDAM の特徴である PVH と PDAM はメディエータの種類は異なるが HEMA を一成分とした共重合体である 両者の酵素固定化担体としての機能を比較したところ どちらも酵素の流出が少なく また酵素の活性が維持されグルコースセンサーとしても繰り返し測定において安定し

た電流値特性を得ることができた 理想的なポリマーメディエータとは 酵素固定化能を持ち 電極との密着性が高く 電子移動反応がほかの物質に依存したり妨害を受けたりしないポリマーメディエータである すべての条件を満たしたポリマーメディエータを得ることは難しいが PVH と PDAM は用途によって使い分ければ適切なポリマーメディエータとして使えると考えられる 以上の結果より 電極上に固定化でき 酵素の固定化担体となり 繰り返し測定可能な 2 種類の高機能ポリマーメディエータが創成できた