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1 北海道におけるマメ類菌核病および灰色かび病の防除とトップジン M 水和剤 清水基滋 Motoshige Shimizu はじめに 北海道における豆類の作付面積は ダイズ22,700ha ( 全国作付面積の16.4%) アズキ23,800ha( 同 72.8%) インゲンマメ9,350ha( 同 89.9%) と全国生産量の大きな割合を占めており 道内では畑作地帯はもとより転換畑においても重要な作物となっている 現在 北海道 産の豆類は品質面で消費者や実需者から高い評価を得ているが これは豆類の高品質安定生産の阻害要因のひとつである病害の防除技術確立に負うところが大きいと考えられる 本稿では 北海道において豆類生産の大きな脅威であった菌核病と灰色かび病について その発生生態と防除対策を紹介し さらに両病害防除に深く関わって 図 1. 北海道におけるインゲンマメおよびアズキ菌核病被害面積率の推移注 1) 被害面積率は作付面積に対する発病度 50 以上の圃場の面積率 マメ類菌核病の発病調査基準は以下の通り発病指数 0: 発病なし 1: 莢を中心に株全体の 1/4 が発病 2: 莢を中心に株全体の 2/4 が発病 3: 莢を中心に株全体の 3/4 が発病 4: 莢を主体に株全体が罹病発病度 = ( 発病指数 当該発病個体 ) 100 注 2)1980 年は 6 月の多雨により子のう盤の形成量が多かった このため初期の感染量が多く さらに記録的な冷夏と多雨寡照によって病気がまん延しやすい条件が続き被害に至る圃場が多かった -22-

2 きたトップジンM( チオファネートメチル ) 水和剤の位置づけについてもふれてみたい 菌核病 (Sclerotinia sclerotiorum) 1) 発生および研究概要マメ類菌核病は 1900 年前後から北海道各地の豆作地帯で被害が注目されるようになった病害である 1910 年代以降は 豆類の作付けが多い十勝地方で多発し 年によっては他産地においてもしばしば被害が見られた 1965 年には菌核病の発生が広範囲にわたり インゲンマメだけで発生面積 38,500ha( 面積率 46%) 被害面積 20,000ha( 面積率 24%) と未曾有の大発生となった ( 図 1) 特に十勝地方では激甚被害となり 収穫不能の圃場も認められた その後も インゲンマメ菌核病は1968 年 ( 被害面積 13,000ha 面積率 15.6%) 1969 年 ( 同 9,900ha 同 17.3%) および1980 年 ( 同 8,188ha 同 40.9%) に甚大な発生をみた また ダイズやアズキについてもインゲンマメほどではないが 年によって多大な被害となり 本病の発生は冷害とともに豆作の豊凶を左右する一因となっていた このような数度にわたる甚大被害を契機として 北海道内の農業研究期間では菌核病の発生生態や防除法に関する研究を精力的に進め 当時の成果は本病防除対策の礎として現在もマメ類の安定生産に大きく貢献している 2) 病徴本病は 葉 茎および莢に発病する 発病が目につくようになるのは一般に開花後である 本病は落下または老化した花弁に病原菌が取り付き そこを足場に健全組織に感染する 葉では水浸状 の濃緑色 不正形の病斑を生じ のちに拡大し軟腐症状となる ( 写真 1) 病斑部には白色綿状のかびを生じる 高温 乾燥が続くと 病斑は淡褐色あるいは灰白色の止まり型病斑となり 輪紋を生じることがある 一方 茎や莢では淡褐色水浸状の病斑を生じ その後病斑は拡大して組織は白化する ( 写真 2) 多湿条件では病斑上に白色綿状のかびを生じ 近隣の茎や莢は菌糸に接触するとつぎつぎと侵され 株全体にまん延する 病勢が進むと菌糸は白色菌糸塊となり のちに黒変してネズミ糞状の菌核が多数形成される ( 写真 3 4) 病勢が激しいと結莢が著しく阻害され さらに莢が侵されると子実の生成や成熟が不能となり 軽症の時でも内部子実に白色のかびが着生する このように 本病は多発すると被害が大きく 豆類では極めて重要な病害である 3) 発生生態本病原菌は菌核で越年する 菌核は被害を受けた茎 葉 莢などの内外に形成される 収穫作業等で圃場に散乱した菌核は翌年に子のう盤 ( きのこ )( 写真 5) を形成し 子のう盤上の子のう胞子が飛散し 発生源となる 子のう盤形成のための適温は14~20 であるが 同時に適度な水分と湿度が必要で 乾燥条件では形成が阻害される そのため 地表面をいち早く被覆する作物が栽培されている圃場ほど 子のう盤の形成が早い傾向にある 十勝地方では 牧草地が6 月上旬 テンサイおよびジャガイモ畑が6 月下旬 ~7 月上旬 インゲンマメ畑が7 月下旬 ~8 月上旬 アズキ畑では8 月中旬の順に子のう盤の形成が遅くなる 子のう胞子から伸長した菌糸は健全な組織には侵入できず 豆類では老化または落下した花弁から侵入し それらに接 写真 1. インゲンマメ菌核病 : 葉および莢の初期病徴 写真 2. インゲンマメ菌核病 : 発病莢から茎への接触感染 -23- 農薬時代第 190 号 (2008)

3 写真 3. インゲンマメ菌核病 : 莢上に形成された菌核 写真 4. インゲンマメ菌核病 : まん延状況 写真 5. インゲンマメ菌核菌 : 子のう盤触している健全葉や莢にまん延する 4) 防除法本病に対しては 古くから輪作の励行 密植や多肥栽培を避けることなどが防除対策としてあげられていたが 現実にはこれらの対策のみでは対処できない場合が多かった このため 本病は防除が極めて困難な病害とされていた しかし 1960 年代後半の大発生を契機に有効薬剤の探索と施用適期に関する研究が精力的に進められた まず 土壌施用剤を含む約 43 種類の殺菌剤について菌核病に対する防除効果を検討した結果 ジクロゾリン剤の茎葉散布が卓効を示すことが確認された 次に 薬剤散布の適期を特定するために本 病の感染様式を調べた結果 老化または落下した花弁が感染門戸の主体であることが明らかにされた そして 薬剤の第 1 回目散布時期はダイズが開花始後 10~ 15 日目 アズキは同 7~10 日目 インゲンマメは同 5 ~7 日目とし その後 10 日間隔で計 2~3 回 10aあたり100 茎葉散布することによってほぼ確実に防除できることが実証された その結果 それまで発病全期間にわたり必要と考えられていた菌核病の薬剤防除が 最小限の散布で最大の防除効果が得られるようになった その後 ジクロゾリンは使用開始から数年後に製造中止となったが 代わってトップジンM 水和剤が防除薬剤として指導された ( 表 1 2) 本剤は ジクロゾリンと比較すると効果がやや劣るものの 次代のジカルボキシイミド系薬剤が実用化されるまで菌核病の基幹薬剤として活躍した なお マメ類菌核病に対する防除薬剤はこれ以降も数種類が上市されているが 散布時期の考え方は現在も継承されている 灰色かび病 (Botrytis cinerea) 1) 発生概要マメ類灰色かび病は 菌核病と並んで豆類の主要病害の一つである 菌核病と同時期に発生し この2 病害が多発すると収量 品質に多大な被害を及ぼす ま -24-

4 表 1. インゲンマメ菌核病に対するトップジン M 水和剤の防除効果 ( 十勝農試 ) 供試薬剤 1974 年 1975 年 1977 年 1978 年 1979 年 発病度防除価発病度防除価発病度防除価発病度防除価発病度防除価 TM 水和剤 無処理 注 1)TM 水和剤はトップジン M 水和剤 1000 倍液の開花始め 5 日 ~7 日後から 10 日間隔で 3 回散布処理を示す ただし 1975 年は 1 回目散布のみ 700 倍液を散布した 注 2) 発病度はマメ類菌核病調査基準 ( 図 1 参照 ) に基づき 8 月中旬に調査を行った 注 3) 防除価 =( 処理区の発病度 / 無処理の発病度 ) 100 表 2. インゲンマメ菌核病に対するトップジン M 水和剤の防除効果 ( 収量調査結果 ) 供試薬剤 1974 年 1975 年 1977 年 1978 年 1979 年 TM 水和剤 無処理 注 ) 薬剤の処理方法は表 1 と同じ た 本病は低温多雨条件で発生しやすく 冷害による障害が重なると被害が一層増大することになる 2) 病徴アズキでは発芽時に立枯れを起こし 枯死する場合があるが 多くの場合問題となるのは開花期以降の莢を中心とした地上部の発病である 落下または老化した花弁で増殖した菌糸が健全組織に侵入するとともに 花全体に灰色のかびを生じて二次伝染源となる ( 写真 6) 多湿条件における葉の初期病斑は水浸状となるが ( 写真 7) 多くの場合輪紋状の褐色病斑となる( 写真 8) 莢では 始め暗緑色水浸状の病斑を生じ 急速に拡大して腐敗する その表面に灰色のカビを密生し ( 写真 9) 隣接した健全莢 茎葉に接触感染もする 3) 発生生態本病原菌は 被害組織内の菌糸 菌核で越年する 翌年条件が良くなると分生子を形成し それが飛散して開花後の老衰した花弁に感染し そこから莢 茎葉に拡がる また アズキでは種子伝染による立枯症個体も伝染源になると考えられる 開花期以降 降雨が 多く低温湿潤のな気象条件で多量の分生子が形成され飛散するため このような天候が続くと多発する また 風通しの悪い過繁茂状態で発病しやすい なお 本病原菌の寄主範囲は広く ジャガイモ その他多数の作物に寄生する 4) 防除対策本病対策としては 圃場の排水を促進し 過繁茂を避けるため施肥量の適正化を図ることが重要である 防除薬剤の散布適期は 灰色かび病の感染様式が菌核病と類似しているため菌核病と同様のタイミングで効果が高いことが実証された このため 実質的に本病は菌核病と同時に薬剤防除を行うことが可能である 折しも1973 年から菌核病防除に使用が始まったトップジンM 水和剤は灰色かび病防除にも有効であったことから 両病害の同時防除剤として活用され豆類の安定生産に大きく貢献した しかし 灰色かび病菌は各種薬剤に対して耐性が発達しやすく 1977 年にはすでにベンゾイミダゾール耐性菌が確認され トップジンM 水和剤は灰色かび病に対して防除効果が期待できなく -25- 農薬時代第 190 号 (2008)

5 写真 6. インゲンマメ灰色かび病 : 感染した花弁に形成された分生子 写真 7. インゲンマメ灰色かび病 : 葉に形成された水 浸状病斑 写真 8. インゲンマメ灰色かび病 : 葉の褐色輪紋病斑 写真 9. インゲンマメ灰色かび病 : 莢の病徴 なった ( 表 3) その後 両病害に有効な殺菌剤としてジカルボキシイミド系剤が登場したが 本剤に対する耐性菌が1987 年に確認され さらにフルアジナム剤に対しても1998 年に耐性菌が確認されている 現在 豆類の灰色かび病と菌核病の薬剤による同時防除は 灰色かび病菌の薬剤耐性発達のリスクを避けるためローテーション散布が不可欠になっている おわりに 菌核病と灰色かび病は 多発すると収量と品質に直結するため 豆類に甚大な被害をあたえてきた これらに対する防除薬剤の先駆けとして トップジンM 水和剤は登場し 北海道の豆類生産に大きく貢献したといえよう ところが 菌核病と同時防除が可能だった 灰色かび病にベンゾイミダゾール耐性菌が発生してから 開花期以降に本剤を単独で使用するメリットは少なくなり 現在では本剤と負相関交差耐性を示すジエトフェンカルブとの混合剤 ( ゲッター水和剤 )( 表 3) や作用点の異なるメパニピリムとの混合剤 ( ブロードワン顆粒水和剤 ) のように 灰色かび病に対する効果を他剤で補うかたちで豆類の菌核病と灰色かび病の同時防除剤に利用されている ただ 灰色かび病菌については ジエトフェンカルブとチオファネートメチル両剤耐性菌の出現による防除効果の低下事例が施設野菜などで報告されており 豆類灰色かび病の防除場面でも注視してゆく必要がある ( 北海道立十勝農業試験場 ) -26-

6 表 3. インゲンマメ灰色かび病および菌核病に対する薬剤防除効果 (1991 年 十勝農試 ) 供試薬剤 希釈倍率 灰色かび病 菌核病 発病度防除価発病度防除価 ゲッター水和剤 トップジン M 水和剤 無処理 注 ) 灰色かび病の発病調査基準は菌核病の発病調査基準 ( 図 1 参照 ) に準ずる 参考文献赤井純 (1967) 植物防疫 21: 赤井純 (1981) 道立農試報告 36:1-82. 青田盾彦ら (1978) 日植病報 44:74. 北海道立十勝農業試験場 (1979) 豆類菌核病 ( 灰色かび 病を含む ) 防除法確立試験成績 :1-34. 堀田治邦 谷井昭夫 (1991) 道立農試集報 : 田村修 (2000) 殺菌剤耐性菌研究会シンポジウウム講演要旨集 10: 農薬時代第 190 号 (2008)

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目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り 平成 19 年 4 月改訂 農林水産省 ( 独 ) 農業環境技術研究所 -1 - 目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り低減するという観点から

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