情報通信ネットワーク ２００５・４・１５

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1 授業の資料の作り方 産業技術科学科 多田知正 2014/10/15 1

2 はじめに パソコンとプロジェクタを使って授業をすることが一般的になってきています 私が普段授業の資料を作るときに考えていることを紹介します 2014/10/15 2

3 資料を作る前に 2014/10/15 3

4 何のために授業をするのか? 教科書をなぞるだけの授業 間違ったことは言わないですむ これといった準備もいらない 知らないこと でも教えられる? 自分で教科書を読むほうがよっぽどいい 自分のペースで進める 何度でも読み返せる 2014/10/15 4

5 つまらない授業の問題 授業がつまらないせいで が嫌いに... その後の人生を左右する 2014/10/15 5

6 良い授業とは何か? 結果が全て 十分に準備された授業 = いい授業 ではない 生徒がどれだけ理解したかが問題 全部説明した は教師の自己満足 100 を聞いて 0 を知る より 1 を聞いて 1 を知る の方がまし 教師の労力は 1/100 3 日で忘れるような授業はやる意味がない これだけは覚えろ は試験対策でしかない 本当に わかった ことは 10 年たっても忘れないはず 2014/10/15 6

7 良い授業とは 授業を聞くだけで全部わかる ことは非常に難しい 時間的にも無理 良い授業は 映画の予告編 のようなもの 短い時間に 面白さの半分 が詰まっている 残りの半分 ( でも手間は? 倍 ) を学ぶ意欲を引き出すことが目的 2014/10/15 7

8 資料の目標設定について 2014/10/15 8

9 授業はプレゼンである 多数の聴衆の前で喋って, 何かを伝える プレゼンそのもの プレゼンの目標 自分の伝えたい内容を理解してもらうこと 聞き手の頭の中にモデルを作る 聞き手 と モデル の設定なくしてプレゼンは成立しない 2014/10/15 9

10 聞き手を設定する だれが聞くのか を意識せずにまともな話はできない 大人相手に人形劇 子ども相手に民事訴訟法 聞き手のプロフィールを明確にする 現在の知識量は? かなり詳しい ほとんど素人 興味の大きさは? 嫌々聞いているだけ 興味津々 必要な ( 授業で身に付けるべき ) 知識は何か? 高度な専門知識 教養程度 2014/10/15 10

11 モデルを設定する モデル 聞き手がある物事を理解するために, 現在の知識とこれまでの経験に基づき, 頭の中に組み立てたイメージ 聞き手の作るモデルを明確にしておく 授業が終わったときどういうイメージを持たせるか? 必ずしも現実と一致していなくても良い 現実は複雑すぎる 重要な特性を的確にとらえていること 2014/10/15 11

12 モデルの例 エアコンはなぜ冷えるのか? 2014/10/15 12

13 エアコンの原理 エアコンの冷房は室内の空気の熱を電気エネルギーなどを用いて室外へ汲み上げる働きで実現する 室内の熱を室外へ汲み上げる ( 室内を冷やす ) にはエアコンシステムの中の冷媒であるフロンが室内機で液体から気体になるときの気化熱を利用する このときフロンは周囲から熱を奪う これは室内機に内蔵されている蒸発器で行われる そのために フロンは室外機に内蔵されている圧縮機で圧縮され つづいて凝縮器で熱を放散して液体になる ここではじめて気化し得る状態になり 蒸発器に送り込まれるのである このような循環が冷房サイクルである /10/15 13

14 わかる人しかわからない さっきの説明には間違いはない うそは書いてない でも わかっている人 にしかわからない すでにモデルができている人 わかってない人 がモデルを作る上でほとんど役に立たない モデルを作るのを支援するためにはどうすればよいか? 聞き手の持っている知識と経験を引き出すことを考える 2014/10/15 14

15 身近な疑問 夏は気温が高いのに屋外プールは寒く感じるのはなぜか? 圧力鍋を使うと短い時間で調理できるのはなぜか? 2014/10/15 15

16 夏でもプールはなぜ寒い 夏は気温が高いのにプールに行くと寒いのはなぜか? 水の中はそんなに寒くないのに出てからの方が寒い 水は 蒸発するときにまわりの熱を吸収する という性質がある プールから上がると体の表面の水が蒸発する 体の熱を奪うので寒い 2014/10/15 16

17 圧力鍋だとなぜ早い 圧力鍋を使うと短い時間で調理できるのはなぜか? 水は 圧力が高いと蒸発しにくい という性質がある ( 温度が高くても水 ( お湯 ) の状態でいようとする ) 普通ではありえない高い温度のお湯 (120 度 ) で煮込むことができる 早く調理できる 2014/10/15 17

18 ではこうすれば... 圧力を下げる 熱いお湯 蒸発で温度が下がる 液体に戻る 水蒸気 圧力を上げる 2014/10/15 18

19 実際は 水蒸気の圧力を高くすると 温度が上がる 水には戻らない 2014/10/15 19

20 しかし 圧力の高い水蒸気を風を当てて冷やす 水 ( お湯 ) に戻る普通なら蒸発する温度 2014/10/15 20

21 エアコンの原理 圧力を下げる 普通なら蒸発するほど熱いお湯 高い圧力のまま 冷やす 蒸発するときに周りの熱を吸収する 圧力を上げる 2014/10/15 21

22 水の場合 圧力を下げる 300 のお湯 高い圧力のまま 200 のお湯 300 のお湯 冷やす 蒸発するときに周りの熱を吸収する 100 の水蒸気 100 の水蒸気 600 の水蒸気 圧力を上げる 2014/10/15 22

23 ここで 水の代わりにずっと沸点の低い物質 ( フロン ) を使ってみる 1 気圧のとき 水 : 沸点 100 フロン : 沸点ー /10/15 23

24 フロンの場合 圧力を下げる 40 のフロン湯 高い圧力のまま 20 のフロン湯 40 のフロン湯 冷やす 蒸発するときに周りの熱を吸収する 0 のフロン蒸気 0 のフロン蒸気 80 のフロン蒸気 圧力を上げる 2014/10/15 24

25 エアコンの動作 圧力を下げる 40 のフロン湯 高い圧力のまま 20 のフロン湯 蒸発するときに周りの熱を吸収する室内の空気を冷やす 40 のフロン湯 0 のフロン蒸気 蒸気を圧縮 0 のフロン蒸気 外の空気を当てて冷やす 80 のフロン蒸気 圧力を上げる 2014/10/15 25

26 実際のエアコン 2014/10/15 26

27 モデルができた瞬間 フロンの循環と状態の変化が頭の中でイメージできた? 頭の中にエアコンのモデルができた瞬間 10 年たっても忘れない ( たぶん ) 2014/10/15 27

28 資料の内容について ( 何を書くか?) 2014/10/15 28

29 何でも書く 世の中のすべてのものは結びついている その関連を解きほぐすことが 学ぶ楽しみ 縦割り意識 が授業をつまらなくする これは の授業で話す内容ではない 欲求不満をもたらす 話の展開上必要なら何でも話す 先生自身が広い好奇心を持つ 聞き手の目線で疑問に思う 知らなければ調べれば良い 先生自らが学び続ける 2014/10/15 29

30 余計なことを書かない 余計な言葉はノイズ ( 雑音 ) である 本来言いたいこと の相対的な重みを下げる ノイズに埋もれてメッセージが届かない 何を書くか, 何を書かないかを良く吟味する 2014/10/15 30

31 必要なことも書かない 全部説明すること にこだわらない 話したこと すべてが伝わるわけではない 予告編 で全部話したらつまらない 誰も本編を見なくなる 授業における限界 人間が一度に覚えられる量には限りがある 90 分フルに話しても無駄 すべて覚えられる人はまずいない 2014/10/15 31

32 構成について ( どう並べるか?) 2014/10/15 32

33 最初にゴールを示す 例えば数学の授業がつまらない理由 最初に補題の証明を延々とする 目的が理解できない 自分にとって意味のない話 を聞くのは苦痛 すぐ眠くなる なぜ今この話を聞かないといけないのか を明確にする 聞き手を迷子にしない 2014/10/15 33

34 形式にとらわれない 基礎から応用 を疑ってみる 基礎がわからないと応用はわからない 応用が見えてこそ基礎に取り組む気が起きる 予告編 ではいきなり応用の話でもかまわない 学ぶ意欲 を引き出すことが第一 基礎は自分で必要と感じたとき学べばよい 2014/10/15 34

35 ? を排除する 聞き手が? と思う瞬間 知らない単語 論理の矛盾 論理の飛躍 意識が? のほうに行く 話を聞き逃してしまう 以降の話についていけなくなる? と思わせないために 未定義の用語を絶対使わない 矛盾のない議論を展開する 新しい概念はひとつずつ出す 2014/10/15 35

36 聞き手の疑問を救い出す 聞き手の 引っかかり の場合はどうなるのだろう? という方法も考えられるのに... 一度引っかかると? 同様に置いて行かれる 本当は疑問に思ったことはその場で聞けば良い 日本では授業を遮るのには勇気が必要 あらかじめ聞き手が疑問に思うところを想像する それに対するフォローを用意する 2014/10/15 36

37 メタファの利用 メタファ ( 比喩 ) あるものを別のものにたとえて説明すること 上手に使うと聞き手のモデル構築を助ける 下手に使うと逆に混乱を招くので注意 2014/10/15 37

38 ストーリーの重要性 歴史の好きな人, 嫌いな人 歴史好きの人は歴史をストーリーとして見る 平家滅亡のターニングポイントは... 歴史嫌いの人は歴史を事実の羅列として見る いい国つくろう鎌倉幕府 すべてのものにストーリーがある 教科書がつまらないのは事実を羅列しているから 2014/10/15 38

39 ストーリーを作る いきなり完成形を見せるのでなく, 出来ていく過程を見せる 発見した人と同じ方法で答えにたどりつく あえてうまく行かない方法も示す 失敗から学ぶ どこがまずかったのか? 現在の方式の必然性を理解する 丸暗記にしない 2014/10/15 39

40 何度でも言う 人間は忘れるもの 覚えていないのは話し手が悪い 印象に残らない導入をしたということ 同じことを何度でも言う プレゼンは論文とは違う しゃべったことをすべて覚えていると考えるのは甘い 2014/10/15 40

41 スライドの作り方 ( どう書くか?) 2014/10/15 41

42 注意 具体的にスライドを書くときに気をつけていることを述べます 2014/10/15 42

43 標準フォームは使わない レイアウトの自由度を重視 標準フォームを使っているときは手を抜いているとき これ? 2014/10/15 43

44 アニメーションは使わない アニメーションに凝っている時間がない 他に時間をかけるところがいっぱいある 後で資料として見るときに不便 印刷した資料は動かない 最も重要なことは いまどき誰も驚かない 2014/10/15 44

45 フォントは変えない フォントはプレゼンの雰囲気を決定する 人の 口調 に似ている フォントがころころ変わるスライドは口調がころころ変わる人のようで気味が悪い 2014/10/15 45

46 文字色は使わない 文字は 2 色以下にする 意味の無い色づかいは聞き手を混乱させるのみ 意味があっても混乱する 色と意味の対応関係を覚えられない 2014/10/15 46

47 絵の威力 絵は強力 イメージの伝達 スライドの雰囲気づくり 自分で絵を描かない 下手だから 時間が無い 絵を描くときの脳の働きはプレゼンを組み立てるときとは違う クリップアートを活用する 細かいところは気にしない 2014/10/15 47

48 重要なのは時間配分 今回の資料の場合 何を書くか を考える時間:1 週間 どう並べるか を考える時間:2 日 資料の作成 :1 日 2014/10/15 48

49 最後に 何も考えずに作るとほぼ確実に 独りよがり の資料になる 内容がうまく伝わらない 聞き手のことをよく考える 気をつけるべき点はいろいろある 見た目よりも中身が大事 見た目が大事でないわけではない 2014/10/15 49