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せせらはまもり
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1 日本言語文化研究会論集 2006 年第 2 号特定課題研究報告ベトナム語母語話者による日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き分けファム, トゥーフォン要旨ベトナム語母語学習者による日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き分けの傾向を明らかにするために北部方言話者と南部方言話者を対象として聴取実験を行ったその結果以下の点が明らかになったまず方言の違いに関わりなく調音点が隣接している音声のペアの聞き分けが難しく特にザ行音とジャ行音の間の聞き間違いが最も多かった次にザ行音が語頭にきている場合ジャ行音との聞き間違いが多くなる傾向が見られたヤ行音の誤答はザ行音ジャ行音に比べれば少なかったもののそれでも 10% 台の誤答があった後続母音の違いによる影響については母音 /u/ が後続する場合は比較的聞き分けやすかったまたアクセント型の違いによる影響は特に見られなかった最後にこれらの調査結果を踏まえベトナムの日本語教育における発音や聞き取りの指導方法の改善案を提示したキーワード調音点摩擦音と破擦音混同後続母音南部方言と北部方言 1. はじめにベトナムでは近年日本語教育が盛んになってきているがその教育内容は文法が中心であり発音の練習はあまり重視されていない ( 西村他 2006) しかしベトナム語母語話者の日本語学習には母音子音拍の感覚アクセントなど発音面についていくつかの問題があることが指摘されている ( 法貴 2000 中村 2004 重川中村 2005) 実際に日本語教育の現場においてそのような問題点が見られるということは筆者の経験からも実感できる中でもザ行音ジャ行音ヤ行音の誤用は発音の面でも聞き取りの面でもしばしば問題になることがある第二言語を習得する際その目標言語の音を聞き取ることは非常に重要であることが指摘されている例えば VT 法 ( 言調聴覚論 ) の理論では外国語の学習においては音声の聞き取りがもっとも優先されている ( 木村 2000) 正しい音声を生成するためには学習者はその音を正しく聞き取ることが重要であると考えられる音を聞き取れないために発音の誤りが出るといった問題は実際に日本語教育の現場ではよく見られることであろう第二言語習得に影響する要因の中で学習者の母語からの影響を検討することは重要である特に音声の分野においてはその学習者の母語の影響は広い範囲で観察されている ( 迫田 2002)

2 日本語とベトナム語を比較すると日本語の子音の中にはベトナム語の音韻体系の中に存在しない音がありベトナム語母語話者にとってはそのような日本語の音を聞き取る上で問題が生じることが先行研究でも指摘されているこれを綴り字の側面からアプローチした土岐 (1973) はジャ行音はベトナム語に存在せずその指導には注意が必要であると指摘している上條 (1987) は 17 人のベトナム南部方言話者による母語の音素の発音を分析し日本語と比較し次のように述べている : ベトナム語ではザ行音の子音に近いものとして北部の r[z] を除けば d gi の [z][ʒ] 以外にないまたヤ行音の半母音に近いのも d gi の [ ʒ j][j] であるこういうわけでザ行とヤ行に混乱が生ずることになる ( 上條 1987:34-35) しかし上条は南部出身のベトナム語母語話者を中心に調査を行ったため北部出身のベトナム語母語話者を対象にしていなかったベトナム人を対象に実験を行った研究には法貴 (2000) がある法貴 (2000) は予備調査と面接調査の結果に基づきザ行音ジャ行音ヤ行音を含む拗音を中心とした日本語の聞き取りテストと発話テストそしてリピートテストを行った結果ジャ行音とザ行音の混同が見られると指摘しているただしその研究の対象者は 7 人という限られたものであったまた中村 (2004) および重川中村 (2005) もそれぞれ 15 名と 6 名のベトナム語母語話者を対象に調査を行い彼らの発音にザジャヤの混同があることを指摘し発音指導の事例を報告したしかしこれらの研究の対象者は日本にいる学習者であるためベトナムで学習している者とは結果が異なる可能性があるまたこれらの研究は学習者の発音に重点を置いており聞き取りの傾向については言及していない 2. 日本語とベトナム語の音韻音声の比較ベトナム語母語話者による日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き取りについて考えるためには日本語とベトナム語の音韻および音声について整理しておく必要があると思われるここで日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音について具体的にその特徴とベトナム語の音韻体系との比較を以下に記述する 2.1 日本語以上の日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の子音の分布は表 1のようにまとめられる [ 今田 (1990) を参考に筆者が作成 ]

3 表 1: 日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の子音の出現後続母音 /a/ /i/ /u/ /e/ /o/ ザ行音音素 /za/ /zi/ /zu/ /ze/ /zo/ 語頭 [ʣa] [ʥi] [ʣɯ] [ʣe] [ʣo] 語中 [za]([ʣa]) [ʑi]([ʥi]) [zɯ]([ʣɯ]) [ze]([ʣe]) [zo] ([ʣo]) ジャ行音音素 /zja/ - /zju/ - /zjo/ 語頭 [ʥa] - [ʥɯ] - [ʥo] 語中 [ʑa]([ʥa]) - [ʑɯ]([ʥɯ]) - [ʑo]([ʥo]) ヤ行音音素 /ja/ - /ju/ - /jo/ [ja] - [jɯ] - [jo] 日本語のザ行音のザズゼゾの子音は有声歯茎破擦音 [ʣ] または有声歯茎摩擦音の [z] で発音されるジの子音の場合は有声歯茎硬口蓋破擦音 [ʥ] または有声歯茎硬口蓋摩擦音 [ʑ] で発音されるジャ行の子音の発音はジの子音と同じように有声歯茎硬口蓋破擦音 [ʥ] または有声歯茎硬口蓋摩擦音 [ʑ] で発音される摩擦音と破擦音については語頭または特殊音素 /N/ の後では破擦音として現れる語中では摩擦音となることが多いが破擦音として実現されることもあるこのように日本人はザ行音とジャ行音を調音点によって区別をしているが摩擦か破擦かという調音法によってはその区別をしていないヤ行音は子音が硬口蓋接近音 [j] として発音される 2.2 ベトナム語頭子音と共通語の摩擦音破擦音と接近音音韻から見るとベトナム語の音節構造は C 1 VC 2 であり頭子音と末子音は 2 つの別々の音韻体系をもっている (Doan 1976) 本研究の対象であるザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き分けは音節頭の子音の聞き分けを目的としているがそれらはベトナム語の音節構造から考えれば頭子音に当たるためここではベトナム語の頭子音を中心に記述する北部方言と南部方言ベトナムは多民族国家であるため全国共通語を創設する必要があった現在共通語として広く認められているのは文学作品に書かれたものと学校教育で用いられているハノイ方言をベースとして作られたものであるまたこの共通語に基づき正書法が定められているその共通語を基に実際に頻繁に発音される音を対象とした頭子音表 (Doan 1976) を IPA の基準によって書き直し以下の表 2 にまとめた

4 表 2: ベトナム語の頭子音表両唇音唇歯音歯茎音そり舌硬口蓋音軟口蓋音声門破裂 /b/ /t/ /d/ /ʈ/ /c/ /k/ /ʔ/ /t h / 鼻音 /m/ /n/ /ɲ/ /ŋ/ 摩擦 /f/ /v/ /s/ /z/ /ȿ/ /ʐ/ /x/ /ɣ/ /h/ 側面接近音 /l/ この表から見るとベトナム語には音韻上破擦音は存在しないことがわかるしかしベトナム語の正書法は全国共通であってもその発音の仕方は各方言の特徴を反映しそれぞれの方言によって異なることも事実である Hoang(2004) は各方言の頭子音体系においては音素の数も音声も異なっていることに言及しているしたがってこのように全国の発音基準が未だに統一されていない以上音声を考えるに当たっては方言差を考慮しなければならないベトナムの方言に関してはいくつかの分け方があるが Hoang(2004) によると音声文法語彙の違いによって北部方言中部方言南部方言という 3 つに分けることができるという今回の調査はその中で北部方言と南部方言話者を対象とした北部方言ではそり舌の摩擦音はなくなり歯茎摩擦音 [s z] として発音されるほかそり舌の /ʈ/ も後部歯茎破擦音の [ʧ] または歯茎破擦音の[ʦ] として発音されている Hoang(2004) を参照し次の表 3 に北部方言の頭子音をまとめる表 3: 北部方言の頭子音両唇音唇歯音歯茎音硬口蓋音軟口蓋音声門破裂 /b/[b] /t/[t] /d/[d] /t h /[t h ] /k/[k] /ʔ/[ʔ] 鼻音 /m/[m] /n/[n] /ɲ/[ɲ] /ŋ/ [ŋ] 摩擦 /f/[f] /v/[v] /s/[s] z/[z]([r]) /x/[x] /ɣ/[ɣ] /h/[h] 破擦音側面接近音 /ts/[ʦ] l[l] 表 3 をみると北部方言では共通語におけるそり舌音は摩擦音 /ȿ/ /ʐ/ が歯茎摩擦音 /s/ /z/ になっており歯茎摩擦音 [s] [z] として発音されている但し有声摩擦音はある地域ではふるえ音 [r] として実現されることもあるそり舌の破裂音 /ʈ/ は破擦音 /ʦ/ に変化し歯茎音 [ts] として発音されるさらに有声破擦音は存在しない

5 表 4 は Hoang(2004) を部分的に修正し南部方言の頭子音を整理し直したものである表 4: 南部方言の頭子音両唇音唇歯音歯茎音そり舌硬口蓋音軟口蓋音声門破裂 /b/[b] /t/[t] /d/[d] /ʈ/[ʈ] /c/[c] /k/[k] /ʔ/[ʔ] /t h /[t h ] 鼻音 /m/[m] /n/[n] /ɲ/[ɲ] /ŋ/ [ŋ] 摩擦 /f/[f] (/v/[v]) /s/[s] /ȿ/[ȿ] /ʐ/[ʐ] /x/[x] ɣ/[ɣ] /h/[h] 接近音 /w/[w] /j/[j] 側面接近音 /l/[l] 南部方言には北部方言と違ってそり舌の発音が存在しているが有声摩擦音 /ʐ/[ʐ] については自由異音として [r] [z] または [ɣ] として現れることもあるまた有声摩擦音 /v/ /z/ は変化して接近音の /j/ になっている (Doan 1976 Hoang 2004) 学校における発音教育の影響 Hoang(2004) によるとベトナム語では全国的な発音の統一は未だされていないものの学校における発音教育は正書法による音韻的な区別に従う傾向があるそれはもともとその地方に存在した音を復元したり音の区別ができないという理由で生じた同音異義語を減少させるという意味をもっているしたがってある発音の区別の存在はある地域にはなくなったが学校の発音教育によって復元されることもあるというさらに南部方言では音素 /v/ は日常会話では音素 /j/ に変化しているが学校の教育の影響により改まった場面や特別な単語に限って南部方言の話者は意識して [v] の音を発音することができるという学校において [v] の発音が教育されているため vỗ về のような特定の単語および改まった場合に限って綴り字の v は有声唇歯摩擦音 [v] として発音されることがあるが一般の生活に使用されている発音ではない同じように音素 /z/ も南部方言話者の一般の発音では [j] になっているが歌手や学校の教師または改まった場面などにおいてこの /z/ の使用は少なくないベトナム語母語話者の聞き取りに関する予想ここで 2.1 に述べた日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音に対応するベトナムの北部方言と南部方言の摩擦音破擦音接近音についてそれぞれの発音対照表を表 5 にまとめた

6 表 5: 北部方言および南部方言の摩擦音摩擦音接近音の対照表綴り字共通語北部南部 v /v/ /v/[v] /j/[j]([v]) d,gi /z/ /z/[z] /j/[j] r,(gi) /ʐ/ /z/[z]([r]) /ʐ/ [ʐ] ([r] [ɣ] [z]) 以上をまとめた結果明らかになった表を整理し日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音に対応するベトナム語の北部方言と南部方言の音を次の表 6 に示す表 6: ザ行音ジャ行音ヤ行音に関する日本語とベトナムの北部南部方言の対比表歯茎音歯茎硬口蓋硬口蓋摩擦音 [z] 破擦音 [ʣ] 摩擦音 [ʑ] 破擦音 [ʥ] 接近音 [j] 日本語ベトナム北部方言ベトナム南部方言北部方言では共通語にあるそり舌音の摩擦音が歯茎摩擦音として発音されているためその使用頻度が多いこのことから北部方言話者にとって日本語のザ行音の聞き取りは南部方言話者に比べ容易であることが予測される一方南部方言では唇歯音と歯茎音の有声摩擦音が存在せずその代わりに硬口蓋接近音 [j] が用いられているためその出現頻度が高い母語によく出現されている日本語のヤ行音に対応する硬口蓋接近音 [j] の聞き取りは南部方言話者にとって北部方言話者と比べより簡単ではないかと思われる上記の音韻上の特徴を踏まえベトナムの各方言話者の学習者は日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き分けについてそれぞれ異なる傾向があるという仮説を立て次の図 1 に示す z ʑ ʣ ʥ 北部方言学習者による聞き取りの傾向南部方言学習者による聞き取りの傾向図 1: 北部方言と南部方言による聞き取りの傾向の予測 j

7 1 音韻上に大きな違いがある北部方言話者と南部方言話者においては日本語の子音の聞き分けの傾向が異なることが考えられる 2 北部方言話者にとってはもともと北部方言に存在しない有声歯茎硬口蓋摩擦音 [ʑ] 破擦音 [ʥ]( 日本語のジャ行音 ) および硬口蓋接近音 [j]( 日本語のヤ行音 ) を母語で使用頻度の高い有声歯茎摩擦音 [z]( 日本語のザ行音 ) として聞き取る可能性があると考えられる 3 南部方言話者には南部方言に存在しない有声歯茎摩擦音 [z] 破擦音[ʣ]( 日本語のザ行音 ) および有声歯茎硬口蓋摩擦音 [ʑ] 破擦音[ʥ]( 日本語のジャ行音 ) を聞く際に母語で出現頻度の高い硬口蓋接近音 [j]( 日本語のヤ行音 ) として聞き取る可能性がある 4 特にベトナムの北部方言でも南部方言でも有声破擦音は存在しないため日本語のザ行音およびジャ行音が破擦音で発音された場合の聞き取りは難しいと思われるいずれにしても日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音は音韻上ベトナム語と大きく異なっているそこでベトナム語母語話者が母語に存在しない音あるいは存在している音をどのように聞き取る傾向があるのかを調査によって把握することが必要である 3. 研究の目的本研究は日本語のザ行ジャ行ヤ行の発音についてベトナム語母語話者の聞き分け能力を調査しこれまでの先行研究で指摘された問題点を量的なデータで再検証し方言の差に基づいて予測した仮説を検証しながら実態を把握するそれらの結果を考察した上でベトナムの日本語教育の現場における音声や聴解の指導に対して有益な示唆を得ることを目的とする 4. 調査方法日本語を学習するベトナムの北部方言話者を対象にザ行ジャ行ヤ行について聴取実験を行い量的なデータを収集したまた南部方言話者に対しても同様の実験を行いこの結果を比較検討した収集したデータは子音別子音の位置後続の母音そしてアクセント型といった要因の影響から分析したさらに実験の後被験者に自由記述アンケートを実施する他この中の数人を対象に日本語の子音の聞き取りに関してインタビューを行った

8 5. 調査の手順 5.1 聴取実験刺激語本研究の調査に用いた刺激語はザ行ジャ行ヤ行の子音を /a u o/ の母音と組み合せた部分をまとあわせ 2 拍の無意味語を作成し刺激語とした当該の部分が語頭に来る _ まと語中に来るま _ の 2 種類を作成したよって刺激語は以下の合計 18 種類となる表 7 聴取実験に用いた刺激語の種類語頭語中ざまじゃまやままざまじゃまやずまじゅまゆままずまじゅまゆぞまじょまよままぞまじょまよこれらの刺激語に ~ ですを加え日本語の文として被験者に聞かせたアクセント型 : 実験は刺激語が頭高型で読まれたパート1と平板型で読まれたパート 2 の 2 セットを行った各セットにおいてはそれぞれの刺激語は男女それぞれの声で 2 回ずつ読まれるため計 4 回提示され合計 72 語となりパート 1 と 2 を合わせて計 144 語となる録音および提示の方法 : 刺激語の読み上げはそれぞれ日本語のアクセントの知識を持ち日本語教師である男性と女性の東京方言話者ネイティブスピーカーによって行った録音は日本語国際センターの録音室で行い Marantz PMD671 の IC Recorder によって 44100Hz サンプリングで直接デジタル録音し wav ファイルを作成した録音したファイルは順番をランダムに並べ替え各問題の間隔を 4 秒間に設定したまたパート 1 とパート 2 の間にリラックスさせるために 9 秒ほどの音楽を挿入し CD を作成した被験者被験者は北部方言話者が 208 名で南部方言話者が 57 名であった被験者の年齢は 19 歳 ~22 歳で 4 ヶ月以上の日本への長期留学経験者はいなかった北部方言話者はベトナムのハノイ外国語大学日本語学部およびハノイ国家大学外国語大学日本語学部に在籍している学生であった南部方言話者は貿易大学ホーチミン市分校の日本語専攻部に在籍している学生であった

9 5.1.3 実験の手順実験はそれぞれハノイ外国語大学とハノイ国家大学外国語大学および貿易大学ホーチミン市分校の教室で行った 1 回の実験は 1 クラス 20 名ほどであり CD プレイヤーを用い音量のチェックをした後問題を教室全体に流し被験者に聞かせた実験時間は説明を入れて約 30 分であった実験の際学習者の聞き取りに影響するほどの騒音はなかった 5.2 被験者へのインタビューハノイ外国語大学の被験者から各学年から 3 名ずつ計 12 人に協力してもらいグループインタビューの形式でインタビューした貿易大学ホーチミン市分校の被験者からも 6 人にインタビューを行ったインタビュー内容はザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き分けについてである 6. 結果収集したデータのうち次のものはデータとして採用しなかった 1 調査大学の地域と異なる出身地の被験者のデータ 2 日本留学の経験を持つ学習者のデータ 3 無回答を含むデータ実験の結果を大きく子音別子音の位置別後続母音別アクセント型別の 4 つの要因別に整理集計し以下にまとめる 6.1 子音別集計結果ベトナム語母語話者はザ行音ジャ行音ヤ行音をどのように聞き取ったかその結果を北部方言話者と南部方言話者の順にそれぞれ見ていくことにするまず北部方言話者の正答誤答の出現回数と正答率誤答率を表 8 に示す ( 表中の z j y はそれぞれザ行ジャ行ヤ行を表しで表したものは例えば z j はザ行をジャ行に z y はザ行をヤ行に聞き間違えた誤答を意味する以下の表図において同様 ) またその結果を調音点調音法と対応させ図式化したものが図 2 である

10 表 8: 子音別に見た正答と誤答 ( 北部 ) 回数 % zの出現総数 z z( 正答 ) z j z y jの出現総数 j j( 正答 ) j z j y yの出現総数 y y ( 正答 ) y z y j ( 正 :75.46%) 21.14% z j ( 正 :73.28%) 16.01% 3.40% 8.97% 10.72% 4.80% y ( 正 :86.23%) 図 2: 正答率と誤答率から見る子音別の関係注 : 図中に示した正は正答率を意味する ( 北部 ) 注 : 図中に示した正は正答率を意味する図 2: 正答率と誤答率から見る子音別の関係 ( 北部 ) 表 8 および図 2 からザ行とジャ行に比べてヤ行の正答率が高いことザ行とジャ行の音の誤答率がほぼ同じであることがわかる聞き間違いについてはザ行とジャ行の間でもっとも多くザ行とヤ行の間の聞き間違いは比較的少ないことがわかったヤ行音に関する誤答についてはザ行音よりもジャ行音に聞き取ることが多いという傾向が見られた次に南部方言話者の子音別のデータを同様に表 9 および図 3 にまとめる表 9: 子音別に見た正答と誤答 ( 南部 ) 回数 % zの出現総数 z z( 正答 ) z j z y jの出現総数 j j( 正答 ) j z j y yの出現総数 y y ( 正答 ) y z y j ( 正 :70.83%) 26.97% z j ( 正 :73.50%) 16.37% 2.19% 10.12% 4.71% 7.31% y ( 正 :87.98%) 図 3: 正答率と誤答率から見る子音別の関係注 : 図中に示した正は正答率を意味する ( 南部 ) 注 : 図中に示した正は正答率を意味する図 3: 正答率と誤答率から見る子音別の関係 ( 南部 )

11 表 9 を見ると南部方言話者の子音別の聞き取りの傾向は北部方言話者の場合と同じでザ行音とジャ行音の混同が多く見られザ行音とヤ行音の間の誤答は少なかった図 2 と図 3 から見て北部方言話者も南部方言話者もジャ行音に関わる聞き間違いが多いことザ行音とジャ行音の混同は多いがザ行音とヤ行音の混同は少ないことが分かった 6.2 子音の位置別集計結果次に子音が語頭に来るか語中に来るかによってベトナム語母語話者の聞き取りにどのような違いがあるかを見る表 10 と表 11 は北部方言話者と南部方言話者の正答および誤答の結果をまとめたものである表 10: 位置による子音別の誤答 ( 北部 ) 表 11: 位置による子音別の誤答 ( 南部 ) 語頭語中回数 % 回数 % zの出現総数 z z( 正答 ) z j z y jの出現総数 j j( 正答 ) j z j y yの出現総数 y y( 正答 ) y z y j 語頭語中回数 % 回数 % zの出現総数 z z( 正答 ) z j z y jの出現総数 j j( 正答 ) j z j y yの出現総数 y y ( 正答 ) y z y j 表 10 と表 11 の正答率を見るとヤ行音の聞き取りは北部方言話者も南部方言話者も語頭語中ともに 85% 以上の正答率を示しており子音の位置の違いによる顕著な差は見られなかったこれに対してザ行音は北部方言話者も南部方言話者も子音の位置が語中にある場合の方が正答率が高くジャ行音は子音の位置が語頭にある場合の方が正答率が高いことがわかった特にザ行音とジャ行音の間 (z j) の誤答は子音の位置によって興味深い差が確認された子音の位置によってザ行音とジャ行音の誤答がどのように違っているかをそれぞれの方言学習者ごとに示したのが下記のグラフ 1 とグラフ 2 である

12 語頭語中 z j j z 語頭語中 313 z j j z グラフ 1: 子音の位置別に見たザ行音とジャ行音の間の誤答数 ( 北部 ) グラフ 2: 子音の位置別に見たザ行音とジャ行音の間の誤答数 ( 南部 ) グラフ 1 を見ると子音が語頭に来る場合ザ行音をジャ行音に聞き間違えた誤答はジャ行音をザ行音に聞き間違えた誤答より著しく多いことがわかった子音が語中に来る場合は両者の間に大きな差は見られなかったこれらの差をカイ二乗分析により検定した結果 χ 2 (1)= p<.01 となりザ行音とジャ行音の混同について子音の位置の違いによって聞き取りに有意な差が見られることが確認された南部方言話者の聞き取り傾向はグラフ 2 で示すとおりザ行音とジャ行音の間の誤答は北部方言話者と同様であることがわかったすなわち子音が語頭に置かれる場合ザ行音ジャ行音の誤答はジャ行音ザ行音の誤答に比べ著しく高かったこれらの差をカイ二乗分析により検定した結果 χ 2 (1)= p<.01 となりザ行音とジャ行音の誤答について子音の位置の違いによって聞き取りに有意な差が見られることが確認された 6.3 後続母音別後続母音による違いがベトナム語母語話者の聞き分けに影響を与えるかどうかについて北部方言話者と南部方言話者の結果を後続母音別に見てみる以下にザ行音ジャ行音ヤ行音の子音に対する誤答の総数を後続の母音の種類によって分けて示す表 12 は北部方言話者の結果として後続母音 /a u o/ のそれぞれの出現回数 ( 各 9984 回 ) の中での誤答率を示している表 12: 後続母音別のザ行音ジャ行音ヤ行音の誤答 ( 北部 ) 後続母音 /a/ 後続母音 /u/ 後続母音 /o/ 誤答の出現回数 ( 回 ) 割合 (%) 上記の表 12 に示したように北部方言話者の場合後続母音として /u/ を含むズジュ

13 ユの音は後続母音が /a/ のザジャヤと後続母音が /o/ のゾジョヨより誤答率が低いつまり後続母音 /u/ を含むザ行子音ジャ行子音ヤ行子音は後続母音 /a o/ のものに比べ比較的聞き分けやすいと言える次に南部方言話者の聞き分けを見てみる表 13 では後続母音 /a u o/ のそれぞれの出現回数 ( 各 2736 回 ) の中での誤答を示している表 13: 後続母音別にザ行音ジャ行音ヤ行音の誤答 ( 南部 ) 後続母音 /a/ 後続母音 /u/ 後続母音 /o/ 誤答の出現回数 ( 回 ) 割合 (%) 上記の表 13 に示したように南部方言話者の場合も後続母音として /u/ を含むズジュユの音は他の後続母音が /a/ のザジャヤおよび後続母音が /o/ のゾジョヨより誤答率が低かったこの南部方言話者の聞き取りの傾向は北部方言話者の結果と一致している 6.4 アクセント別ここではアクセントの高低によって学習者のザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き分けに違いがあるかどうかについて見ていく刺激語は当該の音節が語頭か語中かによって頭高型の場合はま (H-L) またはま (H-L) となり平板型の場合はま (L-H) またはま (L-H) となっている ( はザ行音ジャ行音ヤ行音を含む当該の音節を示す ) 頭高型の語頭および平板型の語中において当該の音節が高い音節として H の位置に現れる場合と頭高型の語中および平板型の語頭において当該の音節が低い音節として L の位置に現れる場合の正答を分け北部方言話者と南部方言話者のデータから下記の表 14 と表 15 にまとめた子音別の出現総数は北部 4992 回南部 1368 回である表 14: ザ行音ジャ行音ヤ行音の音の高低による正答の合計数 ( 北部 ) 表 15: ザ行音ジャ行音ヤ行音の音の高低による正答の合計数 ( 南部 ) H L H L 回数 % 回数 % 回数 % 回数 % ザ行音 (z) ザ行音 (z) ジャ行音 (j) ジャ行音 (j) ヤ行音 (y) ヤ行音 (y)

14 次のグラフ 3 と 4 は上掲の表の正答率から作られたものである 100% 100% 90% 90% 80% 80% 70% 70% 60% 50% 40% H L 60% 50% 40% H L 30% 30% 20% 20% 10% 10% 0% ザ行音 (z) ジャ行音 (j) ヤ行音 (y) 0% ザ行音 (z) ジャ行音 (j) ヤ行音 (y) グラフ 3: ザ行音ジャ行音ヤ行音の音の高低による正答率 ( 北部 ) グラフ 4: ザ行音ジャ行音ヤ行音の音の高低による正答率 ( 南部 ) 上掲のグラフ3およびグラフ4から北部方言話者と南部方言話者の聞き分けにあたってザ行音ジャ行音ヤ行音ともに H-L の間に特に大きな差は見られなかったさらにこの結果をカイ二乗検定で確認した結果北部方言話者の場合にχ 2 (2)=3.903 ns であり南部方言話者の場合もχ 2 (2)=1.758 ns となり両者とも有意な差が見られなかった 6.5 学習者へのインタビューの結果実験後学習者にインタビューを行った主な回答は以下のとおりであったヤ行音は聞き分けが簡単であるザ行音とジャ行音は同じ音として聞こえ混同して区別ができない特にザとジャそしてゾとジョのペアは同じ音として聞こえるジャ行には強い破裂があるように聞こえている日本語の発音は英語のように難しくないむしろこの実験に用いた類似する音については発音するより聞き取りの方が難しかったそれは発音するときには意識することが出来るからだ聞くときには殆ど聞き分けることが出来ないが文脈によって意味を推測した上で音の区別ができるようになる事が多い語中に置かれる音より語頭に置かれる音の方により注意を注ぎ聞く

15 7. 考察 7.1 結果のまとめザ行音ジャ行音ヤ行音に関するベトナム人日本語学習者の聞き分けの特徴について北部方言と南部方言の学習者の両者に共通する傾向を下記の1~5のようにまとめる 1 北部方言話者南部方言話者ともにザ行音とジャ行音の混同が最も顕著である 2 ヤ行音に関しては他の音と比較すると数が少ないものの 10% 台の誤答が見られた 3 語頭に来るザ行音の聞き分けが難しくジャ行音に聞き間違える傾向にある 4 後続母音の種類で見ると後続母音として /u/ が続く場合の子音の聞き取りは比較的聞き分けの成績が良い 5 アクセント型の違いによる音の高さの差は聞き取りに特に影響していない 7.2 子音別はじめに日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の誤答の原因をめぐり調音点と調音法の観点から考察するまず調音点の観点から考察するザ行音ジャ行音ヤ行音の調音点はそれぞれ歯茎歯茎硬口蓋硬口蓋の順となっているよってザ行音とジャ行音およびジャ行音とヤ行音は調音点が近いこれに対してザ行音とヤ行音は調音点が離れている聴取実験の結果から北部方言話者においても南部方言話者においても調音点の近いペアであるザ行音ジャ行音そしてジャ行音ヤ行音の誤答は調音点が離れているザ行音ヤ行音のペアより多く発生する傾向にあることがわかった次に調音法の観点から見てみよう表 1 のとおり日本語のザ行音およびジャ行音は破擦音または摩擦音として現れるこれらの調音法はザ行音とジャ行音に共通しているそれに対してヤ行音は半母音の特徴を持ち摩擦や破擦の要素を有しないその結果北部方言でも南部方言でもヤ行音と比べれば共通点を有しているザ行音とジャ行音の間の混同が多いと考えられる換言すればヤ行音と比較すればザ行音とジャ行音の聞き分けは難しいとも言えようすなわち 6.1. に述べた結果は調音点および調音法の類似性が大きな要因であると解釈できるさらに実験の後に行われた学習者に対するアンケート調査 ( 自由記述 ) の結果でもザとジャの区別が難しいゾとジョの区別が難しいというコメントを書いた学習者が多く上記の考察を支持している ( 添付資料 3 参照 ) 法貴 (2000) は子音別聞き取りテストの結果をまとめ北ベトナム出身の学習者 (3 人 ) の誤りはすべてザ行音とジャ行音の混同であったと述べているが今回の量的調査の結果からも北部方言話者にとってザ行とジャ行の聞き分けが難しいということが確認された

16 また法貴 (2000) は北部方言話者ではなく南部方言話者がジャ行音とヤ行音を区別できないということを報告している西村他 (2006) の研究成果でも量的なデータを用いて同様の結果を報告している今回の調査で取った南部方言話者のデータでも上記の傾向が確認できた但し西村他 (2006) によれば南部方言話者にとってはザヤの 2 音と比べるとザジャの 2 音の方が聞き分けが難しいことが報告されており本調査の結果でも同様の結果が確認できたまたこの聞き分けの傾向は北部方言話者と同様のものであった先に述べたようにヤ行音は調音上摩擦破擦という共通点を持っているザ行音とジャ行音に比べかなり聴取されやすいと思われるさらにヤ行音の聞き分けに関しては実験後の自由記述アンケートでもまた学習者へのインタビューでも区別しやすいという声が多かったしかしながらヤ行音に関する今回の調査結果は南部方言話者だけでなく北部方言話者においてもヤ行音との混同があることが明らかになった今回北部方言話者と南部方言話者はその音韻体系の違いから日本語のザ行音ジャ行音ヤ行音の聞き取りにおいても異なる傾向を示すことが予想されたしかし実験の結果両者は同様の傾向を示していた北部方言話者の場合には硬口蓋接近音 [j] が北部方言に存在しないことがヤ行音の誤答の原因であると考えられるそれに対して南部方言には硬口蓋接近音の [j] が存在しており聞き分けは比較的簡単ではないかと予想されたしかし調査の結果北部方言話者でも南部方言話者でもヤ行音の誤答は同様の 10% 台でありむしろザ行音ジャ行音の混同が顕著であったこの原因としては以下のことが考えられるだろうまず北部方言と異なり南部方言にはザ行音とジャ行音が基本的に存在しないしかし学校教育においては北部方言を中心とした共通語が教えられているため南部方言話者は歯茎音の [z] の存在を意識していると考えられるまた今回の調査対象が日本語学習者でありザ行音とジャ行音の子音を既に習得しているということも考えられるすなわち南部方言話者も日本語のザ行音ジャ行音を南部方言に存在しているヤ行音の [j] として聞き取るのではなく調音点や調音法の類似性の方が聞き間違えにより影響を与えていると考えられる 7.3 子音の位置の影響 6.2で述べた結果のようにザ行音とジャ行音の混同は語頭と語中という子音の位置によって大きく差が見られた子音が語頭にくる場合ジャ行音は正答率がザ行音より高かったさらに北部方言話者においても南部方言話者においてもザ行音をジャ行音 (z j) に聞

17 き間違えた誤答はジャ行音をザ行音 (j z) に聞き間違えた誤答より大きかったこのことからベトナム語母語話者は語頭に来る日本語のザ行音ジャ行音を聞き分けるときザ行音もジャ行音も全てジャ行音に聞き取る傾向にあると解釈できる 2.1で述べたように日本語のザ行音とジャ行音は語頭に来る場合有声破擦音の [dz ʥ] として発音されるしかしベトナム語には有声破擦音は存在せず摩擦音の [z] しか存在しないそのためベトナム語母語話者は有声破擦音を聞く場合母語に存在する摩擦音 [z] とは違う音だと判断し有声破擦音をジャ行音として聞き取っていることが予想されるそれに対して子音が語中にくる場合ザ行音をジャ行音 (z j) に聞き間違えた誤答もジャ行音をザ行音 (j z) に聞き間違えた誤答もほぼ同じであった言い換えれば北部方言話者においても南部方言話者においても語中に置かれるザ行音およびジャ行音の聞き分けが難しく同程度の混同が起きることと言えよう語中に置かれる日本語のザ行音とジャ行音の場合には摩擦音として発音されることが多いためベトナム語母語話者にとって母語に存在している摩擦音 [z] と類似している音として調音点が聞き取れず混同しやすい原因になると考えられる 7.4 後続母音 /u/ の影響今回の調査に当たって 3 種類の後続母音 /a u o/ の中で先行する子音の聞き取りにもっとも影響を与えていたのは /u/ の母音であった日本語の /u/ の母音は歯茎 [s] [ʦ] [z] [ʣ] に続く場合により中舌母音的な [ɯ ] となりこの中舌化によって /u/ の母音は他の環境の [ɯ] とは聴覚上の印象が違うと言われている ( 川上 1977 今田 1990 猪塚猪塚 1993) 今回の調査ではズの [z][ʣ] に後続する /u/ が中舌化している可能性が考えられるこのように日本語の /u/ は前後の子音の調音に影響を受けやすくベトナム語母語話者の学習者は聞き取りの際に子音の調音的区別だけではなくこうした後続母音の特徴も手掛かりとして聞いていることが予想されるそのため他の母音が続く場合よりも聞き分けの成績が良いと考えられる 7.5 アクセント型について今回の調査では北部方言話者にとっても南部方言話者にとってもアクセントの違いは聞き分け能力に影響を及ぼさないということがわかったアクセントよりも子音の置かれた語頭語中という位置による影響の方が大きいと言える 8. 音声教育への提言ベトナムの日本語音声教育においては初級段階で五十音図を紹介する際に単音の発

18 音も聞き取りも同時に導入されるというのが一般的であるそれは誤りがまだ固定化していない初級段階から音声教育を導入したほうが正しい聞き取りおよび発音に近づきやすいと考えられているためであるしかし実際には五十音図を使って行う授業は時間が短く内容も文字習得が中心になっており単音の発音や聞き取りが充分に行われていないのが実情であるその結果発音や聞き取りに誤りがあっても学習者本人も気づかずその状態のまま中上級に進み化石化してしまう被験者に対するインタビューでもこんなに聞き取りが難しいとは思わなかった既習単語でないと聞き取れないという声が 3 年生 4 年生からも多く聞かれたこの気づきは音声教育において大切な第一歩であるつまり学習者に聞き取りの混同を意識化させることは学習者が自律学習を行うための最初のステップとして重要である今回の調査の過程において北部の大学の若手教師と話す機会があったがそれによると教師自身が発音指導に自信がなく主にテープビデオなどの物的リソースとネイティブスピーカーである日本人という人的リソースに頼りがちであるということがわかったしかし海外での日本語教育においてネイティブスピーカーやテープだけに頼ることは危険なことでもある区別しにくいザ行音ジャ行音ヤ行音のような音については現地の教師が両言語の音韻上の違いを踏まえた上で効果的な指導を行うことが求められている例えばザ行音ジャ行音ヤ行音の各ミニマルペアを導入しベトナム語の各方言に存在するかを説明しながら学習者に丁寧に聞かせるそして調音点や調音法の面でそれぞれの音の違いを確認させ舌の位置を分かりやすく説明する学習者にそれらの音を模倣発音させるとともに聴覚上に自分の発音や舌の形をテープなどで比較させることによって発音聴解の両面から各自の問題意識を高めるなどの方法が考えられるであろうつまり難しい調音の違いについて分かりやすく説明することはネイティブスピーカーよりもむしろノンネイティブスピーカーの教師に期待されることではないかと考えられる音声教育のための時間が少ないという現実問題に直面している現場では音声は会話と聴解の授業に任せるという教師の声が多かったが他の授業でも教師が発音に関する気づきというヒントを与えることが非常に重要であろう本稿で検証した結果を多くのノンネイティブスピーカーの教師と共有することは筆者の期待するところでもある 9. 今後の課題今回の調査は CV という単純な構造での子音の聞き取りであったが今後は促音や撥音が子音の聞き分けに与える影響などについても研究の余地があるまた今回はインタビューに答えた学習者の意識を聞き取りの成績と比較することができなかったが今後の課題にしたいさらに南部方言話者のデータは北部方言話者のデータほど取れなかったため今後は南

19 部方言話者についても量的なデータで検証することが必要であるまた今回は大学の学習者のみを対象にしたが近年ベトナムの中等教育においても日本語教育が導入されており今後これらの中等教育学習者なども考慮に入れ対象を広げた調査を行いたいまた聞き取りがよくできるから発音もできるまたは発音がよくできないなどといった聴覚と産出の関連に関しては聴取実験のデータだけではなく発話資料の検討も必要であるさらに全体の聞き取りの傾向を踏まえた上で個々のデータについて細かく分析考察することも検討していきたい謝辞今回の研究に当たって調査のデータを収集した際にご協力してくださったハノイ外国語大学ハノイ国家大学外国語大学および貿易大学の先生方並びに学生の皆様に心よりお礼を申し上げますまたホーチミン市で全面的にコーディネートしてくださった Dương Mỹ Phương 先生に深く感謝しております最後に本稿の執筆に当たり暖かい励ましの言葉や貴重なご助言をしてくださった同級生友達および関係者の皆様特に Thuỳ Dương をはじめ応援してくれた家族への感謝の気持ちをここに記します参考文献 (1) 猪塚元猪塚恵美子 (1993) 日本語の音声入門解説と演習バベルプレス (2) 今田滋子 (1990) 教師用日本語教育ハンドブック6 発音改訂版国際交流基金日本語国際センター (3) 上條厚 (1987) ベトナム語の発音とベトナム語話者の日本語の発音に関して日本語教育論集 4 国立国語研究所日本語教育センター (4) 川上蓁 (1977) 日本語音声概説桜楓社 (5) 木村政康 (2000) VT 法 ( ヴェルボトナル法 ) 日本語教授法ワークショップ( 増補版 ) 凡人社 (6) 迫田久美子 (2002) 日本語教育に生かす第二言語習得研究アルク (7) 重川明美中村倫子 (2005) ベトナム人学習者への発音指導の一例日本語教育方法研究会誌 Vol.12 No (8) 土岐啓 (1973) ベトナム語正書法による五十音表記の試み日本語教育 (9) 中村則子 (2004) 授業報告: ベトナム語母語話者に対する発音補講東京外国語大学留学生日本語教育センター論集 (10) 西村真弓影山陽子廣瀬幸夫 (2006) ベトナム語南部方言話者の日本語音声聞き

20 取りわけの実態 - 日本語音声に対する自己モニター力の活性化を目指して年度第 11 回日本語教育学会研究集会配布資料 (11) 法貴則子 (2000) ベトナム人カンボジア人ラオス人学習者の音声上の問題点東京外国語大学留学生センター論集 (12)Đoàn Thiện Thuật(1976)Ngữ âm Tiếng Việt, Nhà xuất bản Đại học Quốc gia Hà Nội. (13)Hoàng Thị Châu(2004)Phương ngữ học tiếng Việt, Nhà xuất bản Đại học Quốc gia Hà Nội

21 添付資料 1 聴取実験用刺激語リスト頭高型提示番号刺激語提示番号刺激語 1 ゆま 37 まゆ 2 まぞ 38 まざ 3 じゃま 39 ゆま 4 まじょ 40 やま 5 まや 41 まず 6 じょま 42 よま 7 まぞ 43 よま 8 まぞ 44 じゅま 9 じゃま 45 まじゃ 10 ぞま 46 まや 11 ざま 47 じゅま 12 じょま 48 まよ 13 まじゃ 49 まざ 14 ぞま 50 まず 15 まじゅ 51 まよ 16 やま 52 じょま 17 ゆま 53 まぞ 18 ぞま 54 まよ 19 ずま 55 まじょ 20 よま 56 まず 21 ざま 57 ぞま 22 じゃま 58 まじゃ 23 まや 59 まゆ 24 ざま 60 まゆ 25 じゅま 61 まじゅ 26 まゆ 62 まず 27 まざ 63 やま 28 じゃま 64 ゆま 29 まよ 65 まじゅ 30 やま 66 ざま 31 まや 67 ずま 32 よま 68 ずま 33 まざ 69 じゅま 34 まじょ 70 まじゃ 35 ずま 71 まじょ 36 まじゅ 72 じょま平板型提示番号刺激語提示番号刺激語 1 まざ 37 よま 2 じょま 38 まや 3 ゆま 39 まよ 4 ぞま 40 じゃま 5 ずま 41 やま 6 まじゃ 42 ざま 7 まず 43 まぞ 8 まゆ 44 ずま 9 ぞま 45 ずま 10 よま 46 まぞ 11 じゅま 47 まや 12 まじょ 48 ぞま 13 まじょ 49 じゅま 14 まゆ 50 ゆま 15 まず 51 じゃま 16 ざま 52 まざ 17 まや 53 まじゅ 18 じゃま 54 まず 19 まぞ 55 じゅま 20 まじょ 56 まよ 21 まゆ 57 まざ 22 まゆ 58 ざま 23 まじょ 59 じょま 24 ずま 60 まぞ 25 まじゃ 61 まじゃ 26 じゃま 62 じょま 27 まや 63 よま 28 やま 64 まざ 29 まじゃ 65 まよ 30 やま 66 まよ 31 まず 67 じゅま 32 じょま 68 よま 33 やま 69 まじゅ 34 ざま 70 まじゅ 35 まじゅ 71 ぞま 36 ゆま 72 ゆま注 : 普通体文字 : 男性の発音斜体文字 : 女性の発音

22 添付資料 2 日本語に関する識別の調査この調査はベトナム語母語話者による日本語の聞き取りの弁別能力について調べようとするものです本調査は匿名で行われ結果は統計的に処理しあなた一人の回答のみを問題にしたり公表することはありませんまた結果は学術的な目的以外に使用いたしません分析処理が終了した回答選択シートは調査者が責任をもって廃棄させていただきます上記の条件で本調査にご協力いただける方は回答の上ご提出ください名前 : クラス : 性別男性女性年齢. 歳出身地 ( 小学校から高校まで主に住んでいたところをご記入してください ). 所属機関大学入学年大学入学以前の日本語学習暦.. 年. ヶ月他の外国語の学習暦なし英語フランス語中国語ロシア語その他 ( 調査者 ) 所属機関国際交流基金日本語国際センター政策研究大学院大学国立国語研究所ファムトゥーフォン氏名 PHAM THU HUONG ( ベトナム ) 住所埼玉県さいたま市北浦和

23 THỰC NGHIỆM ĐIỀU TRA TÌNH HÌNH NGHE VÀ NHẬN BIẾT ÂM TIẾNG NHẬT CỦA NGƯỜI VIỆT NAM Mục đích của cuộc điều tra này là để nhằm tìm hiểu về khả năng nghe và nhận biết các âm trong tiếng Nhật của người Việt Nam. Cuộc điều tra này được tiến hành rộng rãi không công bố tính danh, kết quả điều tra được dùng cho mục đích thống kê. Ngoài ra kết quả điều tra không nhằm mục đích công khai hay chỉ trích những vấn đề nghe và nhận biết âm của người trả lời. Kết quả điều tra này chỉ nhằm phục vụ riêng cho mục đích học thuật, ngoài ra sẽ không được sử dụng cho bất cứ mục đích nào khác. Sau khi xử lý phân tích, người tiến hành điều tra sẽ chịu trách nhiệm tiêu huỷ Phiếu trả lời của các cá nhân. Sau khi đọc kỹ các điều kiện nêu trên, nếu bạn thấy có thể cộng tác được xin vui lòng điền các thông tin điều tra dưới đây trước khi nghe bài test. Họ tên:... Lớp... Giới tính Nam Nữ Tuổi... tuổi Nơi sinh (Xin ghi lại nơi bạn sống thường xuyên từ tiểu học đến hết PTTH): tỉnh... Tên trường Đại học hiện nay... Năm nhập học... Thời gian bạn học tiếng Nhật trước khi vào đại học:...năm... tháng Trước khi học tiếng Nhật bạn đã từng học những thứ tiếng nào Chưa từng học Tiếng Pháp Tiếng Nga Tiếng Anh Tiếng Trung Các thứ tiếng khác Đơn vị thực hiện Trung tâm Tiếng Nhật - Quỹ Giao lưu Quốc tế Nhật Bản Khoa Sau Đại học -Trường Đại học Nghiên cứu Chính sách Nhật Bản Viện Nghiên cứu Tiếng Nhật - Nhật Bản Người tiến hành Phạm Thu Hương (Việt Nam) Địa chỉ KitaUrawa, Urawa, Saitama-city, Saitama pref, JAPAN, Zip

24 回答シート PHIẾU TRẢ LỜI PHẦN 1 例 : じゅまです回答例 : ずまじゅまゆま 1 ずまじゅまゆま 37 まずまじゅまゆ 2 まぞまじょまよ 38 まざまじゃまや 3 ざまじゃまやま 39 ずまじゅまゆま 4 まぞまじょまよ 40 ざまじゃまやま 5 まざまじゃまや 41 まずまじゅまゆ 6 ぞまじょまよま 42 ぞまじょまよま 7 まぞまじょまよ 43 ぞまじょまよま 8 まぞまじょまよ 44 ずまじゅまゆま 9 ざまじゃまやま 45 まざまじゃまや 10 ぞまじょまよま 46 まざまじゃまや 11 ざまじゃまやま 47 ずまじゅまゆま 12 ぞまじょまよま 48 まぞまじょまよ 13 まざまじゃまや 49 まざまじゃまや 14 ぞまじょまよま 50 まずまじゅまゆ 15 まずまじゅまゆ 51 まぞまじょまよ 16 ざまじゃまやま 52 ぞまじょまよま 17 ずまじゅまゆま 53 まぞまじょまよ 18 ぞまじょまよま 54 まぞまじょまよ 19 ずまじゅまゆま 55 まぞまじょまよ 20 ぞまじょまよま 56 まずまじゅまゆ 21 ざまじゃまやま 57 ぞまじょまよま 22 ざまじゃまやま 58 まざまじゃまや 23 まざまじゃまや 59 まずまじゅまゆ 24 ざまじゃまやま 60 まずまじゅまゆ 25 ずまじゅまゆま 61 まずまじゅまゆ 26 まずまじゅまゆ 62 まずまじゅまゆ 27 まざまじゃまや 63 ざまじゃまやま 28 ざまじゃまやま 64 ずまじゅまゆま 29 まぞまじょまよ 65 まずまじゅまゆ 30 ざまじゃまやま 66 ざまじゃまやま 31 まざまじゃまや 67 ずまじゅまゆま 32 ぞまじょまよま 68 ずまじゅまゆま 33 まざまじゃまや 69 ずまじゅまゆま 34 まぞまじょまよ 70 まざまじゃまや 35 ずまじゅまゆま 71 まぞまじょまよ 36 まずまじゅまゆ 72 ぞまじょまよま

25 PHẦN 2 回答シート PHIẾU TRẢ LỜI 例 : じゅまです回答例 : ずまじゅまゆま 1 まざまじゃまや 37 ぞまじょまよま 2 ぞまじょまよま 38 まざまじゃまや 3 ずまじゅまゆま 39 まぞまじょまよ 4 ぞまじょまよま 40 ざまじゃまやま 5 ずまじゅまゆま 41 ざまじゃまやま 6 まざまじゃまや 42 ざまじゃまやま 7 まずまじゅまゆ 43 まぞまじょまよ 8 まずまじゅまゆ 44 ずまじゅまゆま 9 ぞまじょまよま 45 ずまじゅまゆま 10 ぞまじょまよま 46 まぞまじょまよ 11 ずまじゅまゆま 47 まざまじゃまや 12 まぞまじょまよ 48 ぞまじょまよま 13 まぞまじょまよ 49 ずまじゅまゆま 14 まずまじゅまゆ 50 ずまじゅまゆま 15 まずまじゅまゆ 51 ざまじゃまやま 16 ざまじゃまやま 52 まざまじゃまや 17 まざまじゃまや 53 まずまじゅまゆ 18 ざまじゃまやま 54 まずまじゅまゆ 19 まぞまじょまよ 55 ずまじゅまゆま 20 まぞまじょまよ 56 まぞまじょまよ 21 まずまじゅまゆ 57 まざまじゃまや 22 まずまじゅまゆ 58 ざまじゃまやま 23 まぞまじょまよ 59 ぞまじょまよま 24 ずまじゅまゆま 60 まぞまじょまよ 25 まざまじゃまや 61 まざまじゃまや 26 ざまじゃまやま 62 ぞまじょまよま 27 まざまじゃまや 63 ぞまじょまよま 28 ざまじゃまやま 64 まざまじゃまや 29 まざまじゃまや 65 まぞまじょまよ 30 ざまじゃまやま 66 まぞまじょまよ 31 まずまじゅまゆ 67 ずまじゅまゆま 32 ぞまじょまよま 68 ぞまじょまよま 33 ざまじゃまやま 69 まずまじゅまゆ 34 ざまじゃまやま 70 まずまじゅまゆ 35 まずまじゅまゆ 71 ぞまじょまよま 36 ずまじゅまゆま 72 ずまじゅまゆま

26 添付資料 3 自由記述アンケート結果北部方言学習者回答人数 :187 人南部方言学習者回答人数 :53 人北部方言学習者 (187 人 ) 南部方言学習者 (53 人 ) 項目回数 % 回数 % ザとジャの区別が難しいヤとジャの区別が難しいゾとジョの区別が難しいゾとヨの区別が難しいズとジュの区別が難しいユとジュの区別が難しいユとジュの区別が難しいヨとジョの区別が難しいヤユヨの区別が易しいとにかく聞き分けにくい聞けば聞くほど何となく聞き分けできていくようになる気がした男性の発音より女性の発音の方が聴き取りやすい女性の発音より男性の発音の方が聴き取りやすい語頭に来るヤ行の方が語中よりザ行と聞き分けにくい実験は長すぎるその他

2 日本語らしい発音にするにはシャドーイング日本語の発音がもっと上手くなりたい! そのもう一つの方法としてシャドーイングがあります - シャドーイングとは?- ネイティブの人が読んだ日本語を聞きながらそれと同じ文章をそっくりそのまま音読することです - シャドーイングをする時のポイントは

2 日本語らしい発音にするにはシャドーイング日本語の発音がもっと上手くなりたい! そのもう一つの方法としてシャドーイングがあります - シャドーイングとは?- ネイティブの人が読んだ日本語を聞きながらそれと同じ文章をそっくりそのまま音読することです - シャドーイングをする時のポイントは 2 月 23 日 ( 土 ) に VJCC ハノイでベトナム人のための日本語音声教育セミナーをテーマに日本語教育セミナーを行いました講師は外国語音声教育研究会の皆さまです 2 月当日は 41 名 ( ベトナム人 21 名日本人 20 名 ) の参加者のもとベトナム語と日本語の音声のしくみをわかりやすくまとめた上でベトナム人に特有の発音の問題について考えましたその後で毎日のクラスの中で実際に行える指導法についてのワークショップを行いました