海洋情報季報-第10号(2015年4月-6月)

Size: px
Start display at page:

Download "海洋情報季報-第10号(2015年4月-6月)"

Transcription

1

2 本季報は 公表された情報を執筆者が分析 評価し要約 作成したものであり 情報源を括弧書きで表記すると共にインターネットによるリンク先を掲載した リンク先 URL はいずれも 当該記事参照時点でアクセス可能なものである 編集責任者 : 秋元一峰編集 執筆 : 上野英詞 飯田俊明 倉持一 酒井英次 黄洗姫 山内敏秀 吉川祐子本書の無断転載 複写 複製を禁じます アーカイブ版は 海洋情報 From the Oceans で閲覧できます

3 Ⅰ 年 4~6 月情報要約 1. 海洋治安 4 月 7 日 ASEAN 諸国の海洋安全保障協力 幾つかの選択肢 RSIS 専門家論評 (RSIS Commentaries, April 7, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の上席研究員 Euan Graham は 4 月 7 日付の RSIS Commentaries に Expanding Maritime Patrols in Southeast Asia と題する論説を寄稿し ASEAN 諸国の海洋安全保障協力の在り方について 要旨以下のように述べている (1) 現在 東南アジア海域における海洋安全保障協力の拡大の可能性について 3 つの基本的な選択肢が提案されている 第 1 に 海賊対処と人道援助 災害救助 (HADR) を目的とする ASEAN 主導の海上部隊 第 2 に マラッカ海峡の哨戒活動 (MSP) へのミャンマーのオブザーバー参加 第 3 に シンガポールの東側の海域における海賊対処哨戒活動 (2)ASEAN 主導の海上部隊 : 米第 7 艦隊司令官トーマス中将が 3 月に 南シナ海における ASEAN 主導の海上部隊 の創設に言及した 同司令官の発言は The Langkawi International Maritime and Aerospace exhibition で開催された 南シナ海の南西海域にまで拡散した海賊行為に如何に対処するかについてのパネルディスカッションでのものであった しかしながら 国際的なメディア報道では 日本は将来的に南シナ海にまで海 空プレゼンスを拡大できるとの同司令官の以前の発言と 今回の発言を一括りにして 中国との海洋境界紛争において ASEAN 諸国海軍によるより広域の哨戒活動をアメリカが支持しているかのように報じられた このことは 南シナ海における戦略的な諸要素から海洋安全保障問題だけを取り上げることの難しさを示している ASEAN 諸国は 高圧的な 中国の脅威に対抗して南シナ海における集団的レベルでの海洋安全保障措置を受け入れるかどうかについて 関心を高めてきた その結果 ASEAN の中でも同じ考えに立つ国々は 海洋における能力構築に向けて 2 国間あるいは数カ国間協力を進めてきたし 他方で 一部の国々は 彼らのより鈍い脅威認識を反映して遅いペースで進んできた 東南アジアにおける海洋安全保障と海洋情勢識別能力を強化するためのアメリカの努力は 概ねこうしたパッチワーク的現状に即して進められており 人道支援 災害救助 (HADR) は ASEAN の多様な多国間の安全保障フォーラムを超えた 防衛主導の活動のための共通の雛形となっている (3) マラッカ海峡の哨戒活動 (MSP) へのミャンマーのオブザーバー参加 : マレーシアのフセイン国防相は ミャンマーに対して 海賊対処のための MSP にオブザーバーとして参加するよう招請した 2004 年に開始された MSP は 東南アジアの最もよく知られた小規模多国間海洋安全保障活動で (a) マラッカ海峡の哨戒活動 (MSSP) (b) 航空監視活動 (c)msp の情報交換グループの 3 つの活動からなる 参加国はこれまで沿岸国 3 カ国 シンガポール マレーシア及びインドネシアに限られおり 他にタイが航空監視活動に参加している MSP による調整された哨戒活動はマラッカ海峡における海賊や船舶に対する武装強盗の阻止に成果を上げてはいるが MSP 活動に関する公開データの不足は その効果に対する実質的な判断を不可能にしている 運用面における MSP の主たる制約は 参加国の主権に配慮して 哨戒活動が合同ではなく 調整によっていることである MSP を強化するための他の 2 つの選択肢としては (a) 1

4 哨戒範囲の地理的拡大 (b) 参加国を近隣の沿岸国と海峡 利用国 にまで拡大することである ミャンマーの能力から見て オブザーバーとして あるいは正式のメンバーとして参加しても MSP の運用上の効果をそれほど高めることにはならないであろう それでも マレーシアが ASEAN 議長国としての権限を行使してミャンマーを招請したことは ASEAN にとって伝統的な盲点であり 今や多様な海洋安全保障の挑戦の源泉になっている インド洋に目を向けさせる上で注目に値する マラッカ海峡の外側においてミャンマーの協力を確保することは 特にクアラルンプールの関心事である ミャンマーからのイスラム教徒ロヒンギャ族の海上難民の流出阻止を含め 海賊対策を越えた狙いが窺える しかしながら シンガポールとインドネシアは 未だ承認の意志を示していない 現在 シンガポールの海洋安全保障における関心の焦点は シンガポールの東側の海域にある (4) シンガポールの東側の海域における海賊対処哨戒活動 : 余り注目されていないが シンガポールは 南シナ海に隣接する海域を含む シンガポール海峡の東側海域にまで MSP を拡大する可能性を探ってきた これは シンガポールに隣接するインドネシア領ビンタン島の北側海域での ( タンカーの ) 積荷燃料を抜き取り (siphoning) 事案を含む 船舶に対する武装強盗事案の多発に対応するためである MSP の地理的制約による主たる欠点は 海上哨戒活動による抑止効果がマ シ海峡を越えて遠くに及ばないことである 海賊は海上を移動するので 海賊の脅威は南シナ海にも及ぶかもしれない シンガポールは既にマレーシアとベトナムから支持を取り付けているが インドネシアは 2 つの理由により MSP の拡大には同意しそうにない 第 1 に ジャカルタの脅威認識では 海賊対処は低い優先順位でしかない 南シナ海にまで進出して海賊対処に資源を流用することは ウィドド大統領の 海洋ビジョン に関連する優先的任務 特に群島水域での外国漁船の違法操業の取り締まりに支障を来すと見られるからである 第 2 に MSP が合同よりも協調段階に留まっているのは シンガポールやマレーシアの巡視船がマラッカ海峡のインドネシア領海にまで追跡侵入するのを ジャカルタが容認していないからである MSP を南シナ海の南西海域にまで拡大するよりも むしろ別の新たな協調的哨戒活動を創設する方が上手くいきそうだが インドネシアが参加するかどうかは不確かである (5)HADR 海軍協定 : 海上哨戒活動とは関係ないが ASEAN 主導の海洋協力としては ASEAN 内部で HADR のための海軍協定を目指す動きがある このイニシアチブは 2013 年 9 月のマニラでの ASEAN 加盟国海軍司令官会同 (The ASEAN Chiefs of Navy Meeting: ACNM) で フィリピン海軍から提案された インドネシアから支持を得て 作業部会が協定案を配布したが 2015 年秋のミャンマーでの次回 ACNM で正式に採用されるかもしれない ASEAN 加盟国間には海軍能力や脅威認識に大きな隔たりがあるが この協定が実現すれば 海洋における利害を共有する上で 加盟国海軍相互間の運用面での重要な試金石となり得る (6)ASEAN 主導の海軍協力や海洋安全保障協力は 東南アジア全域に及ぶ合同あるいは協調的哨戒部隊を創設したり あるいはマラッカ海峡の哨戒活動を地理的に拡大したりするには至っていないが こうした方向に向けて前進し続けている しかしながら 南シナ海南西部をカバーする新たな個別の海賊対処についての取極めは ASEAN 内の同じ考えに立つ国々にとっては手の届く範囲内にある 記事参照 :Expanding Maritime Patrols in Southeast Asia 2

5 5 月 2 日 シンガポール籍船 積荷油抜き取り事案 (ReCAAP ISC Incident Report, May 2, 2015) ReCAAP ISC Incident Report によれば シンガポール籍船精製品タンカー MT Ocean Energy (6,500DWT) は 5 月 2 日 シンガポールからミャンマーに向けマ シ海峡を通行中 同日 2130 頃 銃で武装した 8 人の強盗に乗り込まれ マレーシアのポートディクソン沖で待機中のバージに横付けして停船するよう命じられた 船長と乗組員が閉じ込められている間に 2,023mt の軽油がバージに抜き取られた 武装強盗は 翌 3 日 0430 頃 該船の通信装備を破壊し 船舶電話と乗組員の現金 携帯電話を奪って逃亡した 該船は 0533 頃 運航船社に通報し 母港に向かった 乗組員は無事だった ReCAAP ISC によれば 今回の抜き取り事案は 2015 年 1 月以来 6 度目の事案であり マ シ海峡での事案としては 2 度目であった 記事参照 :ReCAAP ISC Incident Report d=core_download&entryid=397&portalid=0&tabid=78 5 月 15 日 マレーシア籍船 積荷油抜き取り事案 (ReCAAP ISC Incident Report, May 15, 2015) ReCAAP ISC Incident Report によれば マレーシア籍船精製品タンカー MT Oriental Glory (2,223GT) は 5 月 15 日 0600 頃 マレーシア東岸からサラワク州の Tanjung Manis に向け航行中の南シナ海で 6 隻の漁船に取り囲まれた 30 人余の強盗に乗り込まれ 別の海域にまで移動させられ 積荷の燃料油 2,500mt が抜き取られた 2015 年における 7 件目の抜き取り事案となった 記事参照 :ReCAAP ISC Incident Report, May 15, 月 4 日 マレーシア籍船 積荷油抜き取り事案 (ReCAAP ISC Incident Report, June 4, 2015) ReCAAP ISC Incident Report によれば マレーシア籍船精製品タンカー MT Orkim Victory (5,036GT) は 6 月 4 日 0010 頃 マレーシアのマラッカから東岸のクアンタン港に向けて航行中の南シナ海で 8 人以上の強盗に乗り込まれた 2 人が拳銃 1 人は長刀で武装しており 乗組員を脅して 該船を 2,000GT の別のタンカーが待つ海域にまで移動させ 770 メタリックトンの Marine Diesel Oil を約 7 時間かけて抜き取り その後このタンカーはインドネシア領のアナンバス諸島方面に向かった 18 人 ( マレーシア人 8 人 インドネシア人 7 人 ミャンマー人 3 人 ) の乗組員には怪我はなかったが 強盗は該船から逃亡する際に 全ての通信装備を破壊し 乗組員の持ち物を盗んだ ReCAAP ISC によれば 今回の抜き取り事案は 2015 年 1 月以来 8 度目の事案である 記事参照 :Incident Update Siphoning of Fuel/Oil from Orkim Victory kim%20victory%20(4%20jun%2015).pdf 6 月 12 日 マレーシア籍船 積荷油抜き取り未遂事案 (ReCAAP Incident Report and others, June 12, 15, 19, 2015) ReCAAP ISC Incident Report によれば マレーシア籍船精製品タンカー MT Orkim Harmony (7,301DWT) は 6 月 12 日 2054 頃 マレーシア東岸のアウル島南西約 17 カイリの南シナ海で運航船社とのコンタクトを失った マレーシア海洋法令執行庁 (MMEA) が通報を受けたのは ほぼ 10 時間後の翌朝になってからであった 該船は 6,000 メタリックトンの ULG 95( ガソリン ) を積載しており 乗組員は 22 人 ( マレーシア人 16 人 インドネシア人 5 人 ミャンマー人 1 人 ) であった 3

6 該船は マレーシアの Orkim Ship Management の所有で 6 月 4 日に積荷油抜き取り被害に遭った MT Orkim Victory の姉妹船である MMEA の副長官は 運航船社は当局に通報する前に該船からの連絡を待ち過ぎた 通報の遅れは該船の捜索を難しくすると運航船社を非難し ベトナム シンガポール インドネシア オーストラリアおよびアメリカに捜索支援を求めたと語った また 同副長官によれば 積荷油の ULG 95 は極めて引火性が高く 特別の安全手順と装備が必要で 抜き取りは困難という 6 月 17 日に オーストラリアの哨戒機がタイ湾で該船を発見した 該船の船名は前後を消して Kim Harmon に替えられていた 6 月 19 日に MMEA とマレーシア海軍の艦船が該船を確保した 乗組員 1 人が負傷していた 同日 ベトナム沿岸警備隊が逃亡していた該船の救命ボートで逃亡していた 8 人のインドネシア人ハイジャック犯を逮捕した 更に 5 人が積荷の買い手を求めて該船を去っていたことが判明した 記事参照 :ReCAAP Incident Report ny%20(11%20jun%2015).pdf 2. 軍事動向 4 月 9 日 米海軍情報部 中国海軍に関する報告書公表 (Office of Naval Intelligence, US Navy, April 9, 2015) 米海軍情報部は 4 月 9 日 中国海軍に関する報告書 The PLA Navy: New Capabilities and Missions for the 21st Century を公表した この報告書は 2009 年以来 6 年ぶりで 今後 10 年以内に 中国は 沿岸海軍から 世界中で多様な任務を遂行できる海軍への変貌を完遂できるであろう と予測している 以下は 同報告書の海軍戦力の動向に関するに関する主な記述である (1) この 15 年間 中国海軍は 野心的な近代化計画を通じて 技術的に進化した柔軟な戦力構成の海軍を実現してきた 近年では全体の戦力はあまり変わっていないが 中国海軍は 旧式艦艇を より大型で最新装備を備えた多用途艦艇に急速に更新しつつある 中国海軍の水上戦闘戦力は 2015 年 4 月時点で 駆逐艦約 26 隻 ( 内 最新型 21 隻 ) フリゲート 52 隻 ( 同 35 隻 ) 新型コルベット 20 隻 最新型ミサイル哨戒艇 85 隻 両用戦艦 56 隻 機雷戦闘艦 42 隻 ( 同 30 隻 ) 大型補助艦 50 隻上 小型補助艦 補給支援艦船 400 隻以上 2013 年には 60 隻以上の海軍艦艇が起工 進水あるいは就役したが こうした傾向は 2015 年末まで続くと見られる (2) 艦隊別の艦艇数の内訳は以下の通り 北海艦隊 ( 司令部 : 青島 )= 攻撃型原潜 3 隻 通常型潜水艦 25 隻 駆逐艦 6 隻 フリゲート 10 隻 両用戦闘艦 11 隻 ミサイル哨戒艇 18 隻 コルベット 6 隻東海艦隊 ( 司令部 : 寧波 )= 通常型潜水艦 18 隻 駆逐艦 9 隻 フリゲート 22 隻 両用戦闘艦 20 隻 ミサイル哨戒艇 30 隻 コルベット 6 隻南海艦隊 ( 司令部 : 湛江 )= 攻撃型原潜 2 隻 弾道ミサイル搭載原潜 4 隻 通常型潜水艦 16 隻 駆逐艦 9 隻 フリゲート 20 隻 両用戦闘艦 25 隻 ミサイル哨戒艇 38 隻 コルベット 8 隻 4

7 (3) 近年 中国海軍の水上戦闘艦の艦載防空能力は著しく強化されている 現在 導入されつつある新型戦闘艦は 中長射程の対空ミサイル能力を備えている 海軍は HHQ-9 艦対空ミサイル ( 最大射程 55 カイリ ) を装備した 旅洋 Ⅱ (Type 052C) 級駆逐艦を 6 隻建造し 更に現在 HHQ-9 艦対空ミサイルの射程延伸型を搭載する新型 旅洋 Ⅲ (Type 052D) 級駆逐艦を導入しつつある また 少なくとも 20 隻の 江凱 Ⅱ (Type 054A) 級フリゲートが HHQ-16 艦対空ミサイル ( 最大射程 20~40 カイリ ) を搭載して運用中であり 更に建造中である 中国は 2012 年から新型の 江島 (Type 056) 級コルベットの建造を開始した 江島 級は 排水量 1,500 トンで 遠海での主要戦闘作戦用の兵装を搭載していないが 中国の EEZ や南シナ海 東シナ海における哨戒任務や海賊対処任務などに適した戦闘艦である 現在 少なくとも 20 隻が配備されており 更に 30~60 隻建造される可能性がある (4) 現有の潜水艦戦力は 攻撃型原潜 5 隻 弾道ミサイル搭載原潜 4 隻及び通常型潜水艦 57 隻で 2020 年までに 70 隻以上になると見られる 中国は 2000 年 ~2005 年にかけて 通常型の 明 級と 宋 級を建造し 更には 元 級の 1 番艦を建造し またロシアから Kilo 級 8 隻を購入した 現在 建造中は 元 級のみである 元 級は 非大気依存システム (AIP) を備えた最新の通常型潜水艦で 現在 12 隻が配備されており 更に最大 8 隻が建造されると見られる 中国の潜水艦戦力は米海軍の潜水艦戦力とは非常に異なっているが より限定的な任務に適した戦力である 大部分が対艦巡航ミサイルを搭載した通常推進型で 主要シーレーンに沿った地域的な対水上戦闘艦任務に適しているが 米海軍潜水艦戦力の主要任務である 対潜戦と対地攻撃任務には適さない 中国は攻撃型原潜の近代化を継続しているが 商 級は 2002 年と 2003 年に建造された 2 隻のみである 現在 4 隻の改良型が建造されており 2012 年に 1 番艦が進水した 総計 6 隻が建造されると見られ 今後数年以内に 老朽化した 漢 級とほぼ 1 艦毎に代替されると見られる 商 級への代替後 中国海軍は 静粛性と兵装など多くの分野で全面的に改装されることになると見られる Type 095 攻撃型原潜に移行していくであろう (5) 潜水艦戦力で最も注目されるのは弾道ミサイル搭載原潜 晋 級の実戦配備で 配備されれば 中国にとって初めての信頼性の高い海中配備の第 2 撃核攻撃戦力となろう 晋 級は JL-2 潜水艦発射弾道ミサイルを搭載するが このミサイルの射程は 退役した 夏 級に搭載されていた JL-1 の 3 倍近い JL-2 は 2012 年に海中からの発射テストに成功しており 間もなく実戦配備されると見られる 配備されれば 中国は米本土を攻撃する能力を備えることになろう 中国は 最小限 5 隻の 晋 級を建造すると見られ 現在 4 隻が配備されている (6) 中国は 2012 年 9 月に空母 遼寧 を就役させ 空母を運用する海軍の仲間入りを果たした 以来 中国海軍は 空母から固定翼機を運用する技能を取得するために 長くて危険な道のりを歩み始めた 2012 年 11 月には J-15 戦闘機が初めて空母からの発着艦に成功したが 空母航空団を運用できるようになるには今後数年を要しよう 遼寧 は 米海軍の空母と異なり 小型で 従って搭載機数は遙かに少ない また スキージャンプ 甲板のため 艦載機のペーロードが大幅に制約される 更に 米空母に搭載されている E-2C Hawkeye のような特殊仕様の支援機を保有していない 遼寧 は 米空母のような遠海域における戦力投射任務には適していないが 艦隊防空任務には適しており 遠海域を航行する艦隊にエアーカバーを提供することができよう 遼寧 はむしろ 事始めの空母(starter carrier) として長期的な訓練計画には大きな価値があり パイロットや飛行甲板要員の訓練を実施することができよう 中国海軍の後継空母は 最終的にはカタパルト発進システムを含め 大幅に改良されたプラットホームとなろう 5

8 (7) 中国は 南シナ海 東シナ海における領有権主張を護るために 海警局の巡視船を大幅に増強している 現在 大型巡視船 95 隻 小型巡視船 110 隻を保有しており これは他の領有権紛争当事国である 日本の 78 隻 ( 大型 53 隻 小型 25 隻 ) ベトナムの 55 隻 ( 大型 5 隻 小型 50 隻 ) インドネシアの 8 隻 ( 大型 3 隻 小型 5 隻 ) マレーシアの 2 隻 ( 大型 2 隻 ) フィリピンの 4 隻 ( 小型 4 隻 ) を合わせた隻数より多い 2012 年に始まった現在の建造計画では 2015 年までに大型船 30 隻上 小型船 20 隻以上が配備されることになろう これら巡視船の大部分は非武装か 軽武装 (12.7 ミリ 14.5 ミリ及び 30 ミリ砲 ) だが 一部の大型船はヘリの搭載が可能である 記事参照 :Full Report The PLA Navy: New Capabilities and Missions for the 21st Century UB_Print.pdf 4 月 12 日 中国原潜 インド洋展開の背景 インド人専門家 (The Diplomat, April 12, 2015) インドのシンクタンク The Observer Research Foundation の上席研究員である P K Ghosh は 4 月 12 日付の Web 誌 The Diplomat に Chinese Nuclear Subs in the Indian Ocean と題する論説を寄稿し 海賊対処行動の一環として中国が攻撃型原潜をインド洋に展開させたことについて 要旨以下のように述べている (1) 中国は 2014 年 12 月 13 日から 2015 年 2 月 14 日までソマリア沖での海賊対処に派遣した第 18 次隊に 2 隻の戦闘艦と 1 隻の補給艦に加えて 潜水艦 恐らく Type 093 商 級攻撃型原潜 (SSN)1 隻を随伴させた ソマリアの海賊対処に SSN は相応しいプラットホームではなく SSN のインド洋展開はインド海軍の疑念を高めた 中国は 主にアデン湾において 2008 年から 戦争以外の軍事行動 (MOOTW) の一環として 単独で海賊対処行動を展開してきた しかしながら 第 18 次隊への SSN の随伴は 極めて特徴ある動きであり 中国の真意に疑念を抱かせることになった インド海軍は政府に対して 海中深度を計測し 海図作成のための海底地形調査能力を持つ海洋調査船を同伴させていたことから 中国がインド洋西部海域の海洋調査を行った可能性があると説明してきた しかしながら インド海軍は 中国の SSN をインドの管轄海域で探知できなかったことを渋々認めた (2) 今回の中国の SSN のインド洋展開について その背景として以下の諸点が論じられている a. 第 1 に 海賊対処という善意の口実で 中国が積極的に戦闘艦を派遣しているのは 遠海域 より重要なことはインドの戦略的な裏庭 インド洋における長期間の活動能力の錬成に大きな狙いがあることはよく知られたことである 同時に 中国は 海賊対処活動の過程で 日本やインドといった潜在的敵対国の海軍と共同し それらの能力を評価することができた b. 第 2 に 潜水艦の展開は 特に中国海軍部隊のインド洋進出の戦略的意味について際限のない議論を続けてきた インドの安全保障論壇に対する戦略的メッセージであるということである 明らかに 中国海軍は 自国の沿岸から数千カイリも離れた遠海域に戦力を投射し 持続的に活動する能力を有している c. 第 3 に 中国の潜水艦 特に新型の 商 級や 晋 級といった SSN は 旧型より技術的に遙かに優れており 従って これらの SSN の展開は大きな示威行為となるということである 結果的に 中国は 兵力投射能力や遠海域における 外洋海軍 能力を誇示するとともに 6

9 ハイテク プラットホームを建造する能力をも誇示することになった d. 第 4 に インド洋における頻繁な活動を通じて 中国は インド洋の海洋環境に習熟し 更なる潜水艦の展開が可能になるということである f. 最後に 域内の他の諸国の海軍は 財政負担や海賊事案の激減などを理由に 海賊対処活動への関与を減らそうとしているのに対して 中国は その関与を維持するばかりでなく 時に増強すらしていることである このことを説明する最も納得のいく理由は 海賊対処活動への派遣を通じて その水上戦闘艦や潜水艦そして乗組員を この海域に 慣熟させる ということであろう 従って 危機において ベンガル湾とアラビア海が インド艦隊をチョークポイントやインドの港湾沖で待ち伏せている可能性のある中国の潜水艦に対する 頻繁な探索が必要な海域になるかもしれないということは 的はずれな憶測ではない (3) 明らかに インドは インド近海やインド洋において活動できる能力を持った 中国という新たな海洋パワーと接することになった インドは この差し迫った潜在的脅威を無視している 記事参照 :Chinese Nuclear Subs in the Indian Ocean 4 月 14 日 米 新海洋戦略 論評 インド人専門家 (PacNet, Pacific Forum CSIS, April 14, 2015) インドの The Institute for Defence Studies and Analyses(IDSA) の Abhijit Singh 研究員は 米シンクタンク Pacific Forum の 4 月 14 日付の PacNet に The new US maritime strategy implications for maritime Asia と題する論説を寄稿し アメリカの海洋軍種 ( 海軍 海兵隊及び沿岸警備隊 ) が 3 月初めに公表した 新海洋戦略 A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready( 以下 CS-21R と表記 )* について インド人の視点から 要旨以下のように論評している (1)CS-21R は 2007 年版の改定版で 現在の海洋環境により適合するように改訂されたものである CS-21R の際立った特徴は 中国を 主たる挑戦課題として明確に認識していることである 2007 年版と異なり CS-21R は 中国の海洋における拡張主義的行動と領有権主張を この地域の不安定の要因になっていると明快に記述している しかし グローバルな行動のための必須の戦略として 全領域へのアクセス を強調しているが 中国の接近阻止 領域拒否 (A2/AD) による挑戦には直接言及していない (2)CS-21R では エネルギー安全保障への関与を明確にしている 世界経済は中東と中央アジアから石油と天然ガスの中断のない供給に全面的に依存しているため 米海軍は 重要な戦域における前方展開を維持することで 原油の流れを保障する上で重要な役割を引き続き果たしていくであろう しかしながら 前方展開戦力の強化は 予算問題などから 海軍戦力の将来動向が漠然としているために 裏付けがない CS-21R によれば 米海軍の現在の提出予算案では ほぼ 300 隻態勢で その内 120 隻が 2020 年までに前方配備されることになっている これは 現在の戦力レベルからは僅かな増強で 海軍が重要な海域で前方展開戦力を維持できるかどうか 疑問が残る (3) アジアの視点から興味深いのは 再均衡化 戦略が対象とする統合された地域として インド アジア 太平洋 という表現が導入されていることである CS-21R は 海軍艦艇と航空機のほぼ 60% をこの地域に配備するという新しい方針に言及しているが 西太平洋とそれより広 7

10 いインド洋に同等の戦力を配分するということではない 日本 グアム シンガポール及びオーストラリアにおける戦力が増強されることで 米海軍の運用面における重点が引き続き太平洋戦域にあることは明白である 戦力の大部分を太平洋に前方展開させながら アメリカがユーラシア大陸周辺地域の安全保障を如何に提供していくかは 明らかではない (4)CS-21R は 特に伝統的な海軍力が人道支援や災害救助 (HADR) のような非戦闘任務にも活用ができるとして 海軍力投射の スマートパワー のとしての側面に言及しており 注目される また 米沿岸警備隊 (USCG) の役割を海洋安全保障の領域にまで拡大していることも 注目される 海洋管理のためのパートナー諸国の能力構築における USCG の重要な貢献を強調して CS-21R は USCG を西半球における海洋安全保障を担う主務機関としている USCG の役割強化から 中国との紛争時に USCG が東太平洋における通常海洋作戦を支援する可能性も考えられる (5) 予算問題を別にすれば CS-21R で唯一注目されるグレーエリアは 中国に関わるものである 中国海軍はその規模を拡大しており 間もなくアジア太平洋地域で最大の戦力になるであろう そして中国海軍は間もなく 領域拒否戦略から ( 厄介なことに太平洋だけでなく インド洋においても ) 領域支配的な戦略に移行していくかもしれない このことは アメリカが中国の近海域において中国の A2/AD 戦略に対抗しなければならないことに加えて 遠海域でも中国海軍を打破する用意がなければならないことを意味する しかしながら この地域における既存の米海軍力のレベルでは 米海軍が制海能力と強力な戦闘能力をともに持つ可能性はなさそうである (6) アメリカとその同盟国が中国とのパワーゲームを展開する戦域として 南シナ海以上の場所はない ワシントンはその限界を認識しており それが エアー シー バトル (ASB) 構想が最近 アクセスと機動のための統合構想 (The Joint Concept for Access and Maneuver ) と改定された理由で 恐らく中国との対決色を薄めようとするものである 実際 米海軍は 中国の A2/AD 複合戦力に対抗するというレトリックを和らげてきただけでなく 中国海軍とのより緊密な関係を築いてきた 従って 新しい海洋戦略 CS-21R が 信頼できる海洋プレーヤーを目指す北京の努力に言及していることは当然であり それらの事例として ソマリアの海賊対処への中国の参加 中国海軍の HADR 任務 多国籍の海軍演習への参加 そしてアジアの海洋における疑念の拡大を抑制するための 不期遭遇事態における行動規範 (CUES) の署名を挙げている (7) アジアのアナリストにとって CS-21R から多くを学ぶことができる アジア太平洋で顕在化している海洋における抗争の特徴描写は適切で 他国海軍にとって啓蒙的な教訓を含んでいる 2007 版は論議のある主題を用心深く扱っていたが CS-21R で中国の高圧的行動を脅威と認識する戦略を明確に打ち出した ワシントンの意志が斬新である 実際 アメリカが中国を脅威と明確に名指ししたことから 他のアジア太平洋諸国は 彼ら自身の海洋戦略の見直しで これに追随するよう慫慂されるかもしれない (8)CS-21R で打ち出された目標遂行に当たって インド海軍は 主要パートナーになりそうである インド海軍との高いレベルでの協力に向けて 米海軍はより多くのことを求めて来るであろう これまで インドは インド海軍と米海軍との協力関係を グローバルな勢力均衡に関連づけようとするアメリカの努力をはぐらかしてきた しかしながら インドは今後 インド洋での安全保障上の任務をより多く分担するばかりでなく より広範なインド太平洋地域における中国の行動の自由を規制するためにアメリカのパートナーとなることを 益々期待されて 8

11 いくことになろう 新しい海洋戦略のメッセージは明白である 即ち 今や 負担の分担 ( load-sharing ) ということは 米海軍の協同行動構想に命を吹き込むイデオロギーであり それは安全保障における伝統的及び非伝統的任務のいずれにも適用されるのである しかし それは アメリカがグローバルコモンズにおける海洋安全保障の至高の存在ではもはやないことを正直に認めていることを示している 記事参照 :The new US maritime strategy implications for maritime Asia 備考 *:A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready ( 本報告書は英語版の他に日本語 中国語版 アラビア語版 スペイン語版 韓国語版 フランス語版があり 以下は日本語版の URL) 4 月 15 日 中国ソマリア沖派遣艦隊 第 20 次までの各種データ (Center for International Maritime Security(CIMSEC), April 15, 2015) 米海軍兵学校講師で海軍問題の専門家 Claude Berube は シンクタンク Center for International Maritime Security(CIMSEC) の HP 上に China s Anti-Piracy Flotillas: By the Numbers と題する記事を掲載し 各種のオープンソースから 中国がソマリア沖での海賊対処のために派遣した第 20 次までの派遣艦隊について 艦種別内訳と所属艦隊別内訳を分析している 中国は 2009 年 1 月に第 1 次艦隊を派遣して以来 ほぼ年 3 回のペースで艦隊を派遣し 4 月 3 日に第 20 次艦隊が出航した 各種データは 以下の記事参照からアクセス可能 記事参照 :China s Anti-Piracy Flotillas: By the Numbers 4 月 24 日 アジアにおける 再均衡化戦略 を巡る論議 (The Washington Post, April 20 and The National Interest, April 24, 2014) 米シンクタンク The Council on Foreign Relations の研究員 Tom Donilon は 4 月 20 日付の The Washington Post に Obama is on the right course with the pivot to Asia と題する論説を寄稿し アメリカのアジアにおける再均衡化戦略について 安全保障面のみならず 経済領域 ( そこでの中核は環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP)) をも含む アメリカの国力の全ての要素を動員する包括的な努力であるとして その推進の必要性を強調している これに対して Web 誌 Real Clear Defense の編集長 Dustin Walker は 米誌 The National Interest( 電子版 ) の 4 月 24 日付ブログに Is America's "Rebalance" to Asia Dead? と題する長文の論説を寄稿し Donilon の論説を批判的に論評している 以下 2 つの論説の要旨である 1. Donilon の論説 (1) ここ数カ月 アメリカのアジアにおける再均衡化戦略の持続性について疑念が高まっている しかし 再均衡化戦略の優先順位と資源のアジアへの移動は 依然 正しい戦略である この戦略は 他の地域の同盟国に背を向けたり 他の如何なる地域におけるコミットメントを放棄したりするものではない 歴代の米政権は 不可避的な危機の連鎖が長期戦略の策定を阻害するものでないことを確実にしておかなければならない オバマ政権は発足当初の国家安全保障 9

12 チームの検討で アメリカは外交面でも 軍事面でも 通商面でも そして政策決定者の関心の点からもアジア太平洋地域をかなり過小に扱ってきた と結論付けた オバマ政権の再均衡化戦略への始動は アジアの社会的 経済的発展を支える上で アメリカの役割が極めて重要であるという認識に基づいている オバマ政権はまた アメリカとアジアの将来は益々 密接に結びついている と判断した (2) 再均衡化戦略は アメリカの国力の全ての要素を動員する包括的な努力である この戦略には 同盟国やパートナー諸国との連携の強化 アジアの成長する繁栄を維持可能な経済機構の構築 民主的改革への支援 そして中国との建設的関係の維持が含まれている そして アメリカは これらそれぞれの分野で着実な進展を示している アジアの安全保障に対するアメリカのコミットメントは 実体的なものであり 深化しつつある アメリカは 同盟関係を強化するとともに 航行の自由を保証し 人道支援 災害救助に対応する域内諸国の能力を強化してきた 国防予算の行方が定かでない中で アメリカは 2020 年までに太平洋に配備する海軍艦艇の割合を 全世界に展開する艦艇の 60% に引き上げる計画である オバマ大統領のアジア歴訪では 再均衡化戦略の主要な要素 即ち 日本と韓国との同盟関係の重要性が再確認され マレーシアとフィリピンでは東南アジアへのアメリカのコミットメントの重要性が強調されるであろう (3) 再均衡化戦略は軍事領域に留まらない 外交と貿易にも 同じように重点が置かれている 経済領域での中核は 環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) である TPP は 世界の GDP の 40% を占めるアジア太平洋諸国を 大規模な貿易と投資の枠組みの下に結び付けることになろう TPP はまた 年間約 780 億ドルに上る直接的収益をアメリカにもたらすことになろう しかし TPP の最も重要な目的は戦略的なものである TPP は アジアにおけるアメリカの指導力を強化し そして欧州における自由貿易協定に関する交渉とともに アメリカを 将来に亘って世界経済を律する規則作りという大プロジェクトの中心的存在に押し上げることになろう TPP は どの国も規則に同意すれば加入できるオープン プラットホームであり 自由市場と自由貿易原則を広めることになろう (4) 最後に アメリカは 中国との間に建設的な関係を構築していかなければならない アジアにおける再均衡化戦略を 中国封じ込め戦略と揶揄する向きもある アメリカは 封じ込めについては経験豊富である しかし 年 5,000 億ドルに及ぶ米中 2 国間経済関係には 当時の戦略は適用できない 実際 アジアにおけるアメリカのビジョン 安定 開かれた経済 紛争の平和的解決そして人権の尊重に根ざした秩序 は 中国の台頭にとって好ましい環境を提供している こうした環境を維持していくためには アメリカは 強力なプレゼンスに加えて 同盟国に対するコミットメントを果たし 北京と持続的に交流し そして領有権紛争における軍事力の行使 威嚇あるいは抑圧を拒否し 反対することを明確にするに十分な能力を維持することが必要である こうした原則を維持することによって アメリカは アジアの 21 世紀を 紛争の世紀ではなく 安全と繁栄の世紀する上で 力になることができるであろう 記事参照 :Obama is on the right course with the pivot to Asia ot-to-asia/2014/04/20/ed c73c-11e3-9f37-7ce307c56815_story.html 10

13 2. Dustin Walker の論説 (1)Donilon の論説は アジア太平洋地域における再均衡化戦略に対する重大な疑念を オバマ政権の擁護者が如何に躱そうとしているかの 1 つの例である Donilon の論説は 世界で起こっている事象が再均衡化戦略に対するアジアの認識にどれほど影響を及ぼしているかについて 過小評価している アジアの同盟国の懸念は 中東と欧州でアメリカの指導力が要請されてきたためである アフガニスタンとイラクでの戦争が終わっても 中東におけるアメリカのプレゼンスは縮小されそうにない そしてウクライナ以後の動向は NATO の東部正面により多くの米軍部隊を増派する 欧州への軸足移動を求めている しかし アジアの同盟国の懸念は アメリカがそのような指導力を発揮できていないと認識していることにもある 特にシリア危機へのアメリカの対処ぶりから アジア太平洋地域の安全保障専門家や政府当局者は アメリカの安全保障コミットメントが挑戦を受けた時 アメリカにどの程度 期待できるのかということについて疑念を持った アジアの同盟国の間には アメリカのシリアへの 特に軍事介入を望む気持ちはなかった もしアメリカが過剰介入すれば アジアにおける再均衡化戦略は始まる前に終わってしまう と多く人々は恐れたのである それにもかからず アメリカが自らのコミットメントに曖昧な姿勢をとっていることから アメリカの信頼性が損なわれている シリアの化学兵器に関するオバマ大統領のレッドラインは 例えば日本に対するコミットメントと同じ効力を持つものでは決してないが 戦争の問題に関する大統領の公式声明の重要性と重みは 軽視できるものではない オバマ大統領は アメリカがシリアに軍事介入する場合の条件を明らかにしたが その条件が現実になった時 大統領は尻込みした 議会の多くの議員もそうであった 日本や韓国にとっても これは憂慮すべき先例である (2) アジアにおけるコミットメントを維持するという米政府当局者の言明にもかかわらず アジア太平洋地域では今日 アメリカのコミットメントは疑念の対象となっている アメリカが世界の他の地域の同盟国を見捨てることなく アジア太平洋地域における再均衡化戦略を進めるのであれば この地域に対して実質的な追加の資源を充当しなければならない 驚くべきことに Donilon の論説は 再均衡化戦略の最大の課題である 予算問題に言及していない 予算管理法による最大 1 兆ドルに及ぶ国防予算の強制的削減は アジア太平洋地域においてプレゼンスと戦闘能力を強化する上で アメリカの軍事的能力に対する異常な圧力となるであろう 再均衡化戦略は 包括的な努力かもしれないが 安全保障要素を抜きにしては大した意味はない Donilon は アメリカのアジアの安全保障に対するコミットメントが 実体的で 深化しつつある 証として 2020 年までに全米海軍艦艇の 60% を太平洋に配備する計画に言及している 歴史的に見れば 太平洋の艦艇は全体のほぼ 50% で 再均衡化戦略が表明された直後には既に 55% を配備していた この 60% という数字は Donilon だけでなく 政府当局者や国防省関係者もしばしば言及しているが 再均衡化戦略の成否を占うものではない a. 第 1 に 太平洋における割合を示すことは 明らかに世界の他の重要な地域から戦力を引き抜くことを示唆しており 再均衡化戦略にとって 好ましい議論ではない b. 第 2 に 米海軍全体が縮小されるのであれば アジア配備の比率が増大してもほとんど意味がない 最良の予算状況の下でも アジア太平洋地域に配備される艦艇数はわずかな純増に過ぎないであろう 太平洋艦隊は全体として見れば 新造艦の配備に伴って 旧式艦が退役することになろう しかし 予算管理法の トリガー条項 の下で 艦艇数は現在のほぼ 285 隻から最小で 230 隻にまで縮小されることになる 深刻な予算削減措置は 既に縮小された 11

14 建艦資金に更なる圧力となり アジア太平洋地域の接近阻止 / 領域拒否の戦略環境に適合した より先進的な艦艇の開発を遅らせることになろう トリガー条項 は より規模の小さい そして能力の低い軍事力を作り出すことになろう そして このことは 国防省の計画者が最大限努力したとしても 太平洋正面でも言えることである c. 第 3 に 60% という数字は 米軍戦力の数値を示すものに過ぎない 潜在的敵対勢力の質的能力については 何も語っていない 換言すれば 全艦隊の 60% のアジア太平洋地域への配備は この地域において好ましい軍事力バランスを維持するために必要な米軍事力については何も語っていない もし再均衡化がこの地域の同盟国に対する再保証を意味するのであれば 我々は 米軍事力の地理的配分を数値化するのではなく 潜在的な敵対勢力が侵略や威嚇行動に走ることを抑止するために必要な米軍事力を数値化すべきである (3) 再均衡化戦略は軍事領域に留まらず 経済領域での中核は環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) である と Donilon は強調している もしそうであるなら オバマ大統領は TPP の促進について もっと語るべきである 大統領は 一般教書では TPP について簡単に言及したが TPP のために貿易促進権限法案を成立させることで 再均衡化戦略を持続させるよう民主党に対して明確な圧力をかけることをしなかった その明らかな理由は政治で 驚くには当たらない 政治が理由かもしれないが それは口実にはならない (4) もしオバマ大統領が再均衡化戦略を成功させたいと望むのであれば 大統領は 強力なメッセージ 即ち 我々が護ると誓約した友好国や同盟国に対するアメリカの安全保障コミットメントの信頼性を損なわせる 強制的予算削減に替わる一連の歳出改革を積極的に追求するとの意図を発信することができるであろう 大統領は議会に対して アメリカの安全保障が危殆に瀕することを理由に 民主 共和両党に対して 歳出改革について協力を促すことができよう 更に 大統領は 共和党攻撃に向ける熱意の一部でも TPP を選挙年の政治の人質として利用しないように そして貿易促進権限法案を通過させるように 自らの与党民主党を説得することに向けることもできよう 記事参照 :Is America's "Rebalance" to Asia Dead? 4 月 21 日 米 新海洋戦略 論評 RSIS 専門家 (RSIS Commentaries, April 21, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) 訪問教授で海洋戦略の専門家 Geoffrey Till は 4 月 21 日付の RSIS Commentaries に New US Maritime Strategy: Why It Matters と題する論説を寄稿し アメリカの海洋軍種 ( 海軍 海兵隊及び沿岸警備隊 ) が 3 月初めに公表した 新海洋戦略 A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready*( 以下 新海洋戦略 ) について 海洋戦略の専門家としての視点から 要旨以下のように論じている (1) 新海洋戦略 は 2007 年に初めて発表され 以後アメリカの海洋政策の重要な指針となった旧版の改訂版である 海軍力は 国際情勢を反映するとともに その形成に影響を及ぼす この観点から アジア 太平洋地域という海洋世界においては 海軍力は特に重要である 従って この地域における最強の海軍力を持つ国による新しい海洋戦略の策定は 重要な出来事といえる (2) では 新海洋戦略 は 旧版と比較してどのような違いがあるか まず グローバルな海上貿易システムの防衛に寄与するアメリカの海洋軍種の役割については 直接的にはほとんど強調されていない もちろんアメリカは 依然としてその役割を無視しているわけではないが そ 12

15 こには 暗黙の前提として 国際的な安定と海洋安全保障を確保するための 海軍力のグローバルネットワーク による同盟国やパートナー諸国との協力と 海上貿易システムが依存する航行の自由を護るためのアメリカの継続的な決意がある その一方で 海洋におけるアメリカの国益の防衛が特に強調されている 我々の国家を防衛することと その防衛戦争に勝つこととは 米海軍と米海兵隊の中核任務である と述べている 恐らくどこからも異存のでない この記述は 新海洋戦略 の幾つかの側面から付言されている まず 人道援助 災害救助 任務は 米海軍の 6 つの主要任務の 1 つから 陸上への戦力投射能力の一部に格下げされた この任務は 2007 年版に新たに加えられたもので 最近のフィリピンでの台風災害救助など この 8 年間で積極的に遂行されてきた 格下げされたとはいえ 米海軍がこの任務を従来通り継続していくことは間違いない この任務は 災害が増加しており 域内各国の海軍が対応能力強化に熱心に取り組んでいる 特にアジア 太平洋地域において重要だからである また 全領域へのアクセス を確実にするために 海洋パワーの新しい主要な機能として 抑止と戦闘が強調されている 新海洋戦略 は 中国の海軍拡張が 機会と挑戦の両方をもたらしている と明快に指摘しているが 全領域へのアクセス の強調は 一部の批判者にとって 中国とのより敵対的な関係に向けて漸進する証左と見えるかもしれない (3) 旧版は 戦略というよりも 概念 であると批判された 何故なら 他のアメリカの戦略組成と結びつきがあるようにも また 目的 方法及び手段 を深く検討しているようにも思えなかったからである 新海洋戦略 では これらに言及されており 旧版とは大きく異なる 新海洋戦略 では 海軍の主要任務が旧版当時より一層困難になった世界で如何に遂行されるか そして米海軍と米海兵隊が任務遂行に当たって何が必要かという問題を より詳細に検討されている これは 1 つには ISIS の台頭や侵略的になったロシアなど 国際環境の急激かつ予見できない変化や 米海軍の建艦計画における継続的な予算上の制約によるものである アメリカの対外コミットメントと国家資源とのより良きバランスを目指すという明確な目的から 新海洋戦略 は ビジネスライクに 基本に立ち返ること に焦点を当てており それによって 国益や 全領域へのアクセス が強調されているのである (4) 新海洋戦略 では 2 つの側面が非常に強調されている 1 つは ( 欧州と中東における懸念が増大しているにもかかわらず ) アジア 太平洋地域における再均衡化を継続するということ もう 1 つは 米海軍だけで実行すべきこと あるいは米海軍だけが実行できることとのギャップを狭める手段として アメリカの同盟国とパートナー諸国の重要な役割についてである 従って このアメリカの 新海洋戦略 への域内諸国の対応が鍵となる 即ち 域内諸国が 前方展開を維持するとともに 海軍と沿岸警備隊による関与のレベルを強化するという アメリカの決意をどう評価するか そして 域内のレベルの高い海軍力を持つ国が 全領域へのアクセス のための能力開発努力に関与しようとするか あるいは自国周辺海域の防衛というより技術的に低い戦力所要を重視して こうした開発努力から手を引こうとするのか 結局 域内諸国が 新海洋戦略 をどのように受け止めるかは 北京の政策立案者がこれをどう判断するかによるであろう 中国は アメリカが 新海洋戦略 の中国語版を初めて刊行したことを どう評価するであろうか 中国は これを 法に基づく秩序を護るための共同努力への誘いと解釈するであろうか あるいは反対に 北京の益々強まる海洋における高圧的行動を封じ込める意図と解釈するであろうか 要するに このアジア 太平洋地域という海洋世界の将来は 1 つには 緒に就いたばかりのアメリカの 新海洋戦略 に対して域内諸国がどう対応していく 13

16 かによって決まるであろう 記事参照 :New US Maritime Strategy: Why It Matters 備考 *:A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready ( 本報告書は英語版の他に日本語 中国語版 アラビア語版 スペイン語版 韓国語版 フランス語版があり 以下は日本語版の URL) 5 月 アクセス阻止の 壁 を打破するための 兵器艦 の建造 米海軍退役大佐提唱 (Proceedings Magazine, U.S. Naval Institute, May 2015) 米海軍退役大佐 Sam J. Tangredi は Proceedings 5 月号に Breaking the Anti-Access Wall と題する長文の論説を寄稿し アクセス阻止の 壁 を打破するための 兵器艦 (Arsenal Ship) の建造を提唱して 要旨以下のように述べている (Tangredi 大佐には Anti-Access Warfare: Countering A2/AD Strategies(Naval Institute Press, 2013) と題する著書がある ) (1) アクセス阻止戦略を打破するためには 3 つの中核的能力を必要とする a. 第 1 は アクセス阻止戦力のセンサー類を無力化する能力 ( 敵衛星の破壊能力を含む ) である b. 第 2 は 自らの戦力を護るために 電子戦及びサイバー戦防衛網を構成する強固な多層防衛網である この能力には もし通信能力が失われた場合に 予め計画された戦術部隊による自動的対応能力が含まれていなければならない c. 第 3 は 敵の指揮統制 (C2) 通信ノード及び中長射程兵器システムに対して指向された 精確で持続的な攻撃力を提供する能力である 敵のシステムの一部が移動可能システムか あるいは強力な抗堪性を持つシステムである場合 スマート兵器の特性である 爆弾 1 個で 1 目標破壊 は不可能である 精確な目標照準能力とスマート兵器は不可欠だが 多角的で精確な飽和攻撃能力も アクセス阻止能力を無力化し 制圧するためには不可欠である (2) 多くの文献がこれら 3 つの能力全てについて言及しているが 今日の米海軍の装備兵器に最も欠けていると思われるのは第 3 の能力 即ち 目標に対して迅速かつ繰り返し多様な兵器を投射する能力である 米艦隊が保有するミサイル ランチャーは余りに少な過ぎるが それらの大部分には 多層的防衛網を構成するために必要な 戦域弾道ミサイル防衛 対人工衛星 対 対艦弾道及び巡航ミサイル そして対空用火器が装備されなければならない アクセス阻止打破のシナリオでは 海軍は 大量の攻撃兵器用のランチャーを必要とする このため いつの間にか放棄されたが かつての 兵器艦 構想の再考が必要である ( 抄訳者注 :Arsenal Ship は構造的な実態としては 弾庫艦 に近いものと理解されるが ここでは Ordinance を搭載する艦として 兵器艦 と訳する ) (3) 兵器艦 の現代的な概念は 故 VADM Joseph Metcalf III が 1988 年 1 月の Proceedings に寄稿した論文 Revolutions at Sea がその嚆矢となった そこでは 兵器艦 は 160~200 基の垂直発射システム (VLS) を搭載することが想定されていた 1994 年までに 兵器艦 構想は The Center for Strategic and Budgetary Assessments の所長 Andrew Krepinevich など 多くの擁護者によって支持された この構想には より安価 な 兵器艦 が 艦隊の中核的攻撃力である 極めて脆弱な 空母の代用になるという考えがあった 言うまでもなく 14

17 例え 1991 年の湾岸戦争において Tomahawk 巡航ミサイルがその真価を証明したという事実があったとしても Tomahawk 巡航ミサイルを空母に代えるという考えは 米海軍指導部の受け入れるところではなかった 兵器艦 構想のもう 1 人の有力な擁護者は 1994~96 年の間 海軍作戦部長であった 故 ADM Jeremy M. Boorda で 1995 年に国防省高等研究計画局と共にプロトタイプを開発するためのプロジェクトを立ち上げたが 1996 年の彼の死後 ( 自殺 ) このプロジェクトは急速に立ち消えとなった (4) 兵器艦 は多目的艦ではなく 従って他のどの艦種 特に空母の代用ではない また それは多様な戦闘領域 ( 対空 対水上艦 対潜水艦及び対弾道ミサイル戦闘 ) で任務を遂行する駆逐艦や巡洋艦でもない 兵器艦 は 対アクセス阻止能力において必要とされる戦力不足を補う 補完戦力であり アクセス阻止戦略打破のために敵の目標に対して精確な大量の火力を投射する 前述の第 3 の能力以外を備えるべきではない 従って 兵器艦 としての最適な設計は VLS を水線下の船体に格納し レーダー探知リスクを減らすために 艦の乾舷はできるだけ低く 大きな上部構造を持たず 露頂部が平らな氷山を連想させるようなものとする 単艦で運用されることはないが 移動と戦術的なランデブーのために 低速で独特の耐航性を持つ 自走式兵器艀 (a self-propelled arsenal barge) ともいうべきものとなろう 兵器艦 の搭載兵器を攻撃目標に指向させるには 3 つの方法とその組み合わせがある 即ち リアルタイム衛星のダウンリンクあるいは艦隊のネットワークから常時更新された目標データを受けとること 地形マッピングや GPS によって予めプログラムされた目標に対してミサイルを発射すること そして他の艦艇や空中管制機による管制 あるいは戦闘部隊指揮官によって指示された目標に兵器を発射することである ( 移動目標は 他の統合攻撃戦力による攻撃対象となろう ) いずれにしても 兵器艦 が重大な損害を受けても 攻撃目標が予めプログラムされているので 艦が任務不能になる前に 全ての残存兵器は小刻みに発射されることになろう 兵器艦 の乗組員は 定期的な保守点検だけを行うことになろう 致命的な損害を受けた場合 兵器艦 の最小限に設定された 恐らく 10 人以下の乗組員は 救命ポッドで脱出することになろう 電子的に探知されることを防ぐために 兵器艦 は 艦隊のネットワークリンクの完全な構成艦ではなく 受報艦となるべきである 兵器艦 は 長距離センサーを持たず 何時 何処にミサイルを発射するか以外に ネットに上げる何の情報も持たない ミサイルは 一旦発射されれば 兵器艦 の管制を受けることはない これは 兵器艦 からの電磁波の発射を最小にし それによって探知リスクを減らすためである 敵が射手を攻撃できないか あるいは少なくとも矢筒が空になるまで攻撃できないようにするのが 兵器艦 として理想的であろう (5) アクセス阻止の 壁 を打破するための 兵器艦 に代わる選択肢としては 最も有力なのは 4 隻の Ohio 級弾道ミサイル原潜 (SSBN) を改装した 各 158 基の Tomahawk 巡航ミサイルを搭載する誘導ミサイル原潜 (SSGN) である 戦略兵器削減条約 (START II) の下で 更に 2 隻の SSBN を SSGN に改装できる 残念ながら Ohio 級 SSGN には 2 つの欠点がある 第 1 に Ohio 級 SSGN は 水上戦闘艦や航空機が持つ外交的な警報として利用できる 戦争前段階での明示的抑止効果を期待できないということである 第 2 に 最も重要な考慮点として Ohio 級 SSGN の改装費用が 1 隻当たり約 8 億 9,000 万ドルにもなり 必ずしも費用対効果に優れた手段とはいえないことである 運用経費も 水上戦闘艦よりかなり高価である しかしながら 4 隻 ( 更に 2 隻追加される可能性がある ) の SSGN と何隻かの水上 兵器艦 を組み合わせれば アクセス阻止戦略に対抗する能力を提供する最高のオプションになるかもしれない 15

18 (6) 兵器艦 は 以下の 3 つの可能な方法で抑止効果を期待できる a. 第 1 に 相応の数の 兵器艦 の示威的プレゼンスは 潜在敵をしてアクセス阻止戦略を断念させ それによって不安を感じている隣国を安心させ 地域安全保障の強化に貢献できるかもしれない b. 第 2 に 現在 脅威に晒されている地域に空母を派遣しているのと同じように 兵器艦 の展開を 政治軍事的警報のシグナルとして利用できる 低コストの 兵器艦 は 空母が持つ多目的な多様性を備えているわけではないことを理解しておかなければならないが 当初の警報シグナルとしての代替性と機能を備えている c. 第 3 に 他の戦闘艦と同様に 兵器艦 を戦闘群に定常的に配備することで 戦闘群の攻撃能力と全体的な抑止効果の強化に貢献できる ( 現在の海軍の戦力構成に対しては 大部分の戦力が戦闘群の自衛に使われていて 戦闘群が攻撃火力を欠いていると常に批判されてきた ) 厳しい予算環境の中で 新型軍艦の取得を提案することは 特に有益な努力とはいえないかもしれない しかし 兵器艦 構想は 非対称的な潜在敵の戦略に対抗するためには 現有戦力の隙間を埋める補完戦力として有益である 兵器艦 の建造は 急がれるべきである 当該地域におけるアメリカの抑止力と影響力を低下させるとともに 域内諸国に対する支援を阻止するために 軍事力を強化しつつある高圧的な権威主義的国家によって その近海域が支配されるのをアメリカが黙認しているという印象は 直ちに払拭されなければなければならない (7) 潜在敵のアクセス阻止戦略には 弾道ミサイル 巡航ミサイル 潜水艦 長距離攻撃機 水上戦闘艦 機雷 機動性のある高速艇 更には自爆テロといった 論理的には多様なプラットホームによる攻撃が含まれよう しかし 艦隊に対する攻撃には効果的な調整が必要で 移動する目標に対するリアルタイムの情報に依拠しなければならない このこことは アクセス阻止戦力にとって潜在的に大きな弱点となる 先端技術への依存は この脆弱性を拡大する 何故なら 必要な C2 能力と情報の収集 配布は そのためのノードに対する攻撃によって拒否できるからである この場合 兵器艦 からの継続的な攻撃は アクセス阻止の手段を減殺する主要な手段となる アクセス阻止環境では 兵器艦 は 潜在的な危機地域においてアメリカの海軍と統合軍による軍事的影響力の信憑性を維持するための 論理的に最も手っ取り早い手段である アメリカの意思決定者がこのことを認識するならば 防衛装備品の取得システムと造船会社にとって次なる課題は 米艦隊が既に保有している他の非対称的な優位を補完する 強力だが低コストの 兵器艦 を建造することである 意志があれば なし得ることである 記事参照 :Breaking the Anti-Access Wall 5 月 1 日 中国のソマリア沖海賊対処活動の成果とソマリア後のグローバルな中国海軍のプレゼンスの行方 米海大専門家論評 (China Brief, May 1, 2015) 米海軍大学の Andrew S. Erickson 准教授と 同大 The China Maritime Studies Institute(CMSI) 研究員 Austin Strange は連名で シンクタンク The Jamestown Foundation の Web 誌 5 月 1 日付の China Brief に China s Global Maritime Presence: Hard and Soft Dimensions of PLAN Antipiracy Operations と題する長文の論説を寄稿し 中国のソマリア沖海賊対処活動の成果とソマリア後のグローバルな中国海軍のプレゼンスの行方について 要旨以下のように論じている 16

19 (1)21 世紀における国際安全保障協力の象徴的存在であった ソマリア沖での各国海軍による海賊対処任務は 徐々に終結に向かいつつある 2012 年以降 ソマリアの海賊による襲撃の成功事案はなく 襲撃事案が突発的に増大しなければ 各国海軍はここ数年の内にアデン湾を離れ始めると見られる 過去 6 年以上に亘る中国の海賊対処活動は ソマリア海域の安定に寄与してきた その間 中国海軍は ソフト面では広範な軍事外交を展開するとともに ハード面では海軍力の強化に繋がる重要な作戦運用能力を蓄積してきた 以下 本稿では 中国がアデン湾で経験したことの含意 即ち 1 中国は 7 年余の海賊対処活動を通じて何を達成したのか 2 この部隊派遣は中国のグローバルな海軍力のプレゼンスを拡大してきたのか 3 中国のグローバルな海軍力のプレゼンスはアデン湾以降も繰り返されるのか を検討する (2)7 年間の海賊対処活動の成果 a.2008 年 12 月から 2015 年初めまでの間に 中国海軍にとって初めての遠隔海域への複数年に亘る艦隊派遣で 延べ 1 万 6,000 人以上の海軍将兵に加え 1,300 人の海軍陸戦隊と特殊戦部隊がアデン湾で任務に就いた ( 中国海軍の 20 次に亘る海賊対処部隊の各種データについては 旬報 15 年 4 月 11 日 -20 日参照 ) 中国海軍の海賊対処部隊は アデン湾に展開する他国の海軍部隊と相互に連携し 時には共同しながら 航行商船を護衛してきた 4 月末までに 約 6,000 隻の商船を護衛してきたが そのほぼ半数は中国籍船であった 20 次に及ぶ派遣で 800 回以上の護衛任務を遂行した b. ソマリア沖での海賊行為の抑止 そして時には海賊との戦闘経験を通じて 中国海軍は 前例のない作戦運用経験を蓄積してきた 30 隻以上の戦闘艦船 海軍のヘリ搭載の駆逐艦とフリゲートのほぼ半数 そしてほぼ全ての補給艦 が 遠海における活動を経験してきた 最長で 6 カ月に及ぶ未知の海域での艦隊派遣を通じて 中国海軍の海洋補給支援システムは 時に厳しい試練に晒されてきた 作戦行動そのものとは別に アデン湾における経験は 帰国後の高級将校や下士官兵にとって昇任する上での価値ある勤務履歴となろう c. 海賊が潜んでおらず 一般の目にも触れないが 中国は 特に水面下でも重要な経験を積みつつある インドは 中国が海賊対処の水上部隊に随伴させて通常型潜水艦や原子力潜水艦を展開させていることに懸念を表明してきた 米海軍作戦副部長 Mulloy 中将は最近の議会証言で 中国の潜水艦がこれまでに 3 回 インド洋へ展開したと証言した 即ち 2013 年 12 月 13 日から 2014 年 2 月 12 日までの派遣艦隊には 商 (Type 093) 級原潜が少なくとも途中まで随伴していたことが明らかで 海南島の母基地からマラッカ海峡を通航してスリランカ近海やペルシャ湾にまで航行した そして 2014 年 9 月 7 日から 14 日まで 宋 (Type 039) 級通常型潜水艦がコロンボに寄港した 更に 潜水艦救難艦 長興島 が潜水艦支援任務に加えて 2014 年 12 月にモルディブの首都 マレを訪問し 水不足を緩和するために真水を造水する 海軍外交を展開した d. 中国海軍は 艦隊派遣を通じて ソフト面で広範な海軍外交を展開してきた ソマリアの海賊は 中国海軍を含む各国海軍に 海賊対処任務に対する後方支援のためとして 半永久的なアクセス拠点を設置する 絶好の口実を与えた 中国海軍は 海賊対処活動を名目に 過去 75 カ月の間に 120 回以上の外国港湾に寄港してきた その半分近くが ジブチ オマーン パキスタン サウジアラビア及びイエメンへの補給と休養のための寄港であった 中国海軍はまた 南アフリカ スリランカ タンザニア及びアラブ首長国連邦を含む各国にも 任務の帰途 寄港している 外国港湾への寄港の内 残りの半分は 寄港中 補給も行ったが 17

20 主として親善のための訪問であった e. 興味深いことに 中国の海賊対処艦隊が寄港した港湾と 中国が南アジア 中東及びアフリカにおいて港湾建設プロジェクトに資金を提供してきた場所とは 明らかに関連している 中国や国際メディアの報道によれば 中国が支援する港湾建設プロジェクトには ケニアのラム港 ミャンマーのチャウッピュー港 パキスタンのカラチ港 スリランカのハンバントータ港 同コロンボ港及びナミビアのウォルヴィス湾が含まれており 海賊対処艦隊が寄港した多くの国では 中国企業が港湾建設に従事しているといわれる こうした港湾建設プロジェクトは 習近平主席の野心的な 一帯一路 構想の一端を担うことになろう 海外のアクセス拠点について 中国は 西側でいう 伝統的な海外軍事基地と同じものではないとの立場を堅持している 中国の海外における港湾建設プロジェクトが急増していることについて 少なくともその大部分が商業上の関心から説明できるかもしれないが 益々固定化されつつあるアクセス拠点は 軍事外交にとって有益なプラットホームといえる しかしながら もし中国が外洋に展開したかつての大海軍の再興を目指すのであれば これらの海外のアクセス拠点を より能力の高い施設に拡充していくことが不可欠であろう f. 更に 中国は 海賊対処部隊を しばしば他の安全保障任務に対しても活用してきた 例えば 2011 年 3 月には 第 7 次派遣隊のフリゲートがリビアからの中国市民の避難を支援した 第 16 次派遣隊の戦闘艦がシリアから化学兵器を移送する船舶を護衛した 2014 年には 第 17 次派遣隊が赴任途上 インド洋でのマレーシア航空機の捜索支援を実施した 最近では 第 19 次派遣隊の全 3 隻の艦船がイエメンからの中国市民や少なくとも 10 カ国の外国人の避難任務を遂行した 要するに 中国の 7 年余に及ぶソマリア沖でのプレゼンスは 広く認識された国際海洋安全保障イニシアチブに貢献する多くの機会を中国に与えることになったのである (3) 海賊対処活動終結の展望とグローバルな中国海軍のプレゼンスの行方 a. こうした海賊対処活動に伴う経験は それが終了した後の中国の対応をより興味深いものにしている NATO と EU の多国籍任務部隊による海賊対処活動は 少なくとも 2016 年 12 月までは継続される予定である 各国海軍のソマリア沖から撤退時期について確定した日程はないが 各国海軍による海賊対処活動は明らかにその価値が低減しつつある NATO と EU は 2016 年以降 撤退するか あるいは規模を縮小するかの決断に迫られよう 中国の意志決定者も 同様の決断に直面するであろう b. 中国の東海岸からアデン湾まで 4,000 カイリ以上あり 往返だけでほぼ 1 カ月を要する 北京が最も重視し 海軍にとって戦力所要が最も高い戦域は 依然として東シナ海と南シナ海である しかしながら 全体として中国の利益も能力も拡大しつつあることから 中国は 今後も海洋における海賊対処のために新たな役割を果たすことはほぼ間違いないであろう 現在 アフリカ西岸のギニア湾は 海賊活動が猖獗を極めている海域である 中国にとって ギニア湾はアデン湾よりも遙かに遠い しかしながら アフリカ西岸周りの中国の通商は着実に増加しつつある しかも 過去 5 年の間にギニア湾沿岸諸国で中国市民が何度も襲撃されている ギニア沿岸諸国の主権と これら諸国の 限られた能力と連携調整の問題 を考えれば ギニア湾における海賊対処に対する中国の支援は 間接的な支援になるであろう 中国の関与の規模がどの程度になるかは 海賊活動が何時まで続くか 国際法的な側面からの裏付けがあるか あるいは沿岸諸国からの明確な要請があるかどうかで左右されよう いずれにしても 中国は当面 アデン湾のように部隊派遣ではなく 経済的援助 装備及び訓練の提供に重点を置くこ 18

21 とになろう 2014 年 5 月から 6 月にかけて アデン湾での任務を終えた中国派遣艦隊は 2 国間演習のために カメルーン ナイジェリア及びナミビアを訪問した 北京は既に ギニア湾諸国に対して実質的な軍事援助を供与し 2 国間合同演習を実施してきた また ロシアとはギニア湾の安全について 2 国間協議を行った 中国は 合同作戦とか現地での訓練といった直接的役割については多くの西側諸国よりも少ないが アフリカ連合や西アフリカ諸国経済共同体のような地域機構に対する支援を増加させていくと見られる (4) 中国海軍は ソマリア沖での海賊対処活動を通じて ハード 面では 海軍の最新艦船と装備を運用する将兵の技能 そして全般的な海軍の近代化に必要な装備 システム及び指揮機構を向上させ 作戦運用面での教訓を学んだ ソフト 面では 海賊対処外交は 中国の全般的な軍事外交を増加させる要因となった また 3 つの大陸において海軍のための多様なアクセス拠点を確保することになった 強い野心と外国からの高まる期待を担った台頭する海軍パワーとして 中国は恐らく ソマリア沖での海賊対処の終了後も 遠海における恒常的な あるいはそれに準ずる海軍力のプレゼンスを維持するために 新たな方策を模索するであろう ギニア湾やその他の安全ではない海域が 中国が新たな海軍力のプレゼンスを展開する潜在的な戦域となるであろう アデン湾の海賊対処活動とは同じ規模ではないにしても こうした潜在的な海域は 中国にとってその利益を護るための新たな挑戦と機会になるであろう 中国が新しい挑戦と機会にどのように対応するかは 中国の増大するハードパワーとソフトパワーにとって新たな機会の窓を提供することになろう 記事参照 :China s Global Maritime Presence: Hard and Soft Dimensions of PLAN Antipiracy Operations &tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=8a087cf151074eed214dfe5bba01edb f#.vubonnkctiu 5 月 1 日 台湾の防衛態勢の在り方 台湾国家安全保障会議上席顧問 (China Brief, The Jamestown Foundation, May 1, 2015) 台湾の国立孫文大学准教授で 国家安全保障会議上席顧問の轉引自 (Nien-DzuYang) は 5 月 1 日付の Web 誌 China Brief に Game Change in the Western Pacific Region and R.O.C. s Self-Defense Effort と題する長文の論説を寄稿し 北東アジアにおける軍事安全保障ゲームが変化しつつある中での台湾の防衛態勢の在り方について 個人的見解として要旨以下のように述べている (1) アメリカが北東アジアの主要同盟国と共同しようとする狙いは 増大しつつあるアクセス阻止 領域拒否 (A2/AD) の脅威に対抗して抑止力を強化することにある 北東アジアにおける軍事安全保障ゲームが変化しつつある中で 台湾は必然的に 安全保障上の課題と脅威に直面しつつある しかも 以下の事由から 台湾の安全保障上の課題と脅威は この地域の他のアメリカの同盟国のそれよりもより差し迫ったものである a. 第 1 に 両岸関係の平和と安定は 双方の平和的な交流の結果として強化されてきたが 北京が政治的統一実現のための武力行使の選択肢を留保し続けているために 台湾に対する中国本土からの軍事的脅威は依然 日常的な現実である b. 第 2 に 中国本土の迅速な軍事力近代化の結果として 両岸の軍事力は不均衡となってきた 台湾の現在の防衛態勢は 財政的な制約もあって 台湾が直面している差し迫った軍事的脅 19

22 威に鑑みて 早晩無力化することになろう (2)2013 年 11 月に中国が設定した東シナ海の防空識別圏 (ADIZ) は 台湾の ADIZ(TADIZ) と 2 万 3,000 平方キロも重複しており 台湾北端から 12 カイリの領海のすぐ近くまで迫っており 現在の台湾の防衛態勢にとって 安全保障上の差し迫った課題となっている 経済面で見れば 台湾の生存は海洋と密接に関わっている 台湾の国際貿易は シーレーンに依存している 従って 台湾を取り巻く空域と海域に対する管制能力は 必然的に台湾の防衛計画における不可欠の要素となっている 2013 年の 4 年毎の防衛計画見直し (QDR) によれば 台湾の軍事戦略は 軍事的脅威を抑止し 打破するために 確固とした 信頼できる 自衛能力を追求することである (3) この台湾の軍事的戦略は 以下の 5 つの要素で構成される a. 領域防衛 : 中国が最初の攻撃で致命的な打撃を与えることを目的としていることに留意し 台湾の軍事戦略は 国際的な支援が得られるまで 攻撃部隊を阻止できるだけの抗堪性のある防衛力を最大化することである その目標は 軍事と政治の両面における決然たる対応を誇示しながら 外部の支援が得られるまで 時間を稼ぐことにある b. 敵に侵略を思い止まらせること : 敵が両用攻撃作戦を発起しようとする如何なる企図も思う止まらせるために 軍は 敵に対して十分な犠牲を強いることができる能力を誇示する こうした能力は 統合作戦能力の強化と よく訓練され十分に装備された部隊の整備を必要とする c. 空路とシーレーンの維持 : 台湾の生存が貿易と輸入に依存していることから 空路とシーレーンの維持は不可欠である 従って 軍は 台湾島を孤立させようとする如何なる企図にも対処できなければならない d. 台湾島への敵のあらゆるアプローチの拒否 : 抑止に失敗した場合 軍は 空軍と海軍の連携による多層的阻止網を構成して 海峡を横断して侵攻する敵の打破に努めなければならない その目標は 侵入部隊に対して消耗を強いることで時間を稼ぐ余地を得ることである e. 敵の海岸橋頭堡の構築阻止 : 多層的阻止網が敵侵入部隊の打破に失敗した場合 地上部隊は 敵のあらゆる海岸橋頭堡を攻撃する一方で 縱深防御網を構築して対応する (4) しかしながら 理想的な自衛目標を達成するためには 台湾の軍事力は一定の所要を満たさなければならない a. 第 1 に 大幅に強化された軍事計画が必要である 奇襲的攻撃に対応するために 台湾の損害の局限に努めるとともに 敵の弱点を突く 革新的で非対称的 能力を保有することが不可欠である b. 第 2 に 軍種間の跨ぐ統合作戦能力の強化が必要である c. 第 3 に 意思決定時間の軽減のために 兵器システムの統合強化が必要である d. 第 4 に 防衛作戦を持久させるために 主要基地施設とインフラの抗堪性を強化することで 部隊の防護能力を強化することが必要である こうした軍事力近代化とその他の自衛能力強化措置は 台湾の防衛計画立案者にとって主たる優先事項である とはいえ 2013 年 QDR で強調された考え方とそのための所要は 台湾自衛のためだけでなく 西太平洋における平和と安全維持の責任を台湾が分担するための適切な手段ともなる 最も実現可能で妥当な防衛力を見極めるために 台湾関係法 に基づいて アメリカと台湾の軍部との合同で検討されなければならない (5) 台湾とアメリカは 西太平洋地域の戦略的な安全保障ゲームの変化に対する懸念を共有してお 20

23 り 特に東シナ海で増大する中国の海空軍力の戦力投射能力を重視している アメリカと台湾は 2013 年 QDR に基づく台湾軍の再編を検討するため 米台防衛対話を再開する機会を模索する必要がある 同時に アメリカの アジアへの軸足移動 における空隙を埋めるために 台湾の伝統的な地域安全保障の責任分担 TADIZ( 台湾防衛識別圏 ) を強化するための軍事 安全保障協力の領域を確認する必要がある 従って アメリカと台湾は 以下の 3 つのレベルでの対話が必要である a. 政策レベルでの対話 : 米台双方の最高意思決定者が安全保障と脅威に対する認識を共有するとともに 変化する安全保障環境に そして潜在的脅威に対処するための政策指針を確認することができるように 政策レベルの対話が重要である 政策レベルの対話を通じて 域内の米台双方の軍事態勢に対する相互理解を促進し 平和と安全を強化するための相互協力の領域を確認することが可能となる b. 計画立案レベルの対話 : アメリカと台湾は 台湾軍の再編過程におけるより現実的なアプローチを実現するために 2013 年 QDR に基づいた建設的議論を実施すべきである また このレベルの対話は 米国防省にとって 台湾の防衛所要を評価し 必要ならアメリカの援助計画を早期に開始するための機会ともなる c. 軍部レベルの対話 : 有事における意思決定時間の軽減のために 軍種間の統合作戦能力と兵器システムの統合を強化することを狙いとして 地域の安定と安全の強化に対する台湾の貢献を支援するため 特に地域の人道支援 災害救助 (HA/DR) 活動における台湾の役割強化を重視して 現行の軍部レベルの対話をリセットする必要がある (6) こうした 3 つのレベルにおける米台防衛対話は 台湾関係法 に基づく極めて合法的な活動である 米議会は アジアへの軸足移動 の遂行を支える 地域の平和と安全を強化し責任を分担する台湾の役割を確認することを目的に 政府に対して台湾へのアプローチを慫慂すべきである 防衛対話の内容と質は 台湾にとって不可欠の非対称的で革新的な自衛能力を整備するためのロードマップを作成する基盤となる それらはまた 内閣に対して十分な防衛費を割り当てるよう納得させる上で 台湾国防部の立場を後押しする重要な資料ともなる 2014 年 12 月に公表された 米シンクタンク Center for Strategic and Budgetary Assessments の報告書 Hard ROC 2.0: Taiwan and Deterrence Through Protraction* が指摘しているように 時間こそ 台湾にとって最も重要な戦略的資産である アメリカと台湾は より効果的に防衛対話を促進させるために積極的な措置を講じていかなければならない しかしながら 米台間の防衛対話と協力を強化する多くの手段があるが それが促進されるためには 米台双方が西太平洋地域における安全保障上の課題に対する見解を共有し そして地域の平和と安全を護るための防衛協力を強化する機会を掴み取ることができるかどうかに かかっているのである 記事参照 :Game Change in the Western Pacific Region and R.O.C. s Self-Defense Effort &tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=e0a939c631e9410c be4f3dc 7#.VUbSQHkcTIU 備考 :Full report is available at following URL;

24 5 月 8 日 米国防省 中国の軍事力の動向に関する年次報告書公表 (News Release, U.S. Department of Defense, May 8, 2015) 米国防省は 5 月 8 日 中国の軍事力の動向に関する年次報告書 Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People s Republic of China 2015 を公表した 報告書は 1 中国は引き続き 長期的かつ包括的な軍事力の近代化計画を進めており 短期の高強度地域紛争を戦う軍事能力の強化を目指している 2 台湾海峡における紛争の可能性に対する準備が中国の軍事投資の焦点であり 主たる動因となっているが 3 中国は 台湾海峡以外の 東シナ海や南シナ海などにおける潜在的な紛争への備えも重視している 4 更に 中国の権益がグローバルに拡大するにつれて 中国の軍事力近代化は 戦力投射 シーレーンの安全保障 海賊対処 平和維持活動そして人道支援 災害救助といった 中国周辺域を超えた領域における軍事任務遂行能力も益々重視するようになってきている などと指摘している 以下は 同報告書の主な内容である (1) 通常弾頭の短射程弾道ミサイル (SRBM) は 少なくとも 1,200 基配備されている 更に 射程 800~1,000 キロの新型の SRBM CSS-11(DF-16) が配備されつつあり 攻撃能力が強化されている CSS-11 は 既に配備されている中距離弾道ミサイル (MRBM) CSS-5(DF-21) とともに 台湾に加えて その他の地域目標に対する攻撃能力を強化することになろう 中国は現在 CSS-5 Mod 5(DF-21D) 通常弾頭対艦弾道ミサイル (ASBM) を含む 通常弾頭の MRBM を増強しつつある CSS-5 Mod 5 は 射程 1,500 キロで 機動型弾頭を搭載し 西太平洋における艦艇に対する攻撃能力を有する (2) 核戦力については サイロ配備の大陸間弾頭ミサイル (ICBM) に加えて より生き残り能力の高い機動式 ICBM を配備することで 近代化が継続されている 中国の現有 ICBM 戦力は サイロ配備の Css-4 Mod 2 と多弾頭 (MIRV) 型の Mod 3(DF-5) 固体燃料 道路機動型の CSS-10 Mod 1 と Mod 2(DF-31 DF-31A) 及び射程の短い CSS-3(DF-4) を含む 50~60 基である CSS-10 Mod 2 は 射程 1 万 1,200 キロで 米本土のほとんどの地域を覆域内に収める 中国はまた 新型の道路機動型 ICBM CSS-X-20(DF-41) を開発中で 恐らく MIRV 弾頭を搭載できると見られる 弾道ミサイル搭載潜水艦 (SSBN) については 晋 級 SSBN が現在 4 隻配備されており 更にもう 1 隻が建造中である 晋 級 SSBN は 射程 7,400 キロの CSS-NX-14(JL-2) 潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM) を搭載すると見られる これが実現すれば 中国にとって初めての信頼性の高い水中発射長距離核戦力となろう 晋 級 SSBN は 海南島の基地から 2015 年中に核抑止哨戒任務を始めると見られる (3) 中国の海軍力は この 15 年以上に及ぶ継続的な近代化計画によって 技術的に高度でかつ柔軟な戦力となっている 中国海軍は現在 300 隻を超える戦闘艦艇を保有し アジア最大の戦力になっている 中国海軍の主たる重点は 依然 近海 防衛にあるが 強力な自艦防衛能力を備えた多機能で航続距離の長いプラットホームの導入によって 第 1 列島線を越えた 遠海 における作戦遂行能力を強化しつつある (4) 台湾海峡情勢については 中国 台湾そして米国間の相互関係に大きく左右されるが 中国にとって台湾海峡における レッドライン には 以下の事態が含まれよう 1 公式な台湾独立宣言 2 台湾独立に向けた不透明な動き 3 台湾国内の不安定化 4 台湾の核保有 5 統一に向けた両岸対話の長期停滞 6 台湾国内問題への外国の介入 そして7 台湾における外国軍の駐留 アメリカの介入を視野に入れた 台湾海峡における紛争対処能力は 中国軍近代化計画の最重点である 22

25 記事参照 :Full Report is available at following URL; 関連記事 中国の軍事目的と能力 米海大 エリクソン論評 (The New York Times.com, May 11, 2015) 米国防省は 5 月 8 日 中国の軍事力の動向に関する年次報告書 Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People s Republic of China 2015 を公表した 5 月 11 日付の米紙 The New York Times とのインタビューで 米海軍大学の中国専門家 Andrew S. Erickson 准教授は 今年度の報告書について 要旨以下のように語った Q: 報告書は 慎重でバランスがとれており アラーミングなものではないように思われる 特にこれまでの報告書と比較して 何か特徴があるか A: 全く同感である 報告書は 中国が言うところの 実事求是 を表している 毎年の恒例として 中国の報道官は報告書を非難するが その細目について反論することは言うまでもなく その内容について言及することもめったにない 特に目に付いたことは 国防省が人民解放軍の活動について 東アジアを越えて拡大し始めたと強調していることである 報告書は 中国が 2013 年から 2014 年にかけて 潜水艦を初めてインド洋に展開させたことを明らかにした この展開は 表面上はアデン湾における海賊対処活動の支援とされているが 得難い運用経験を取得する上で有益である 報告書は 北京が今後 10 年以内に 補給 軽微な修理及び乗組員の休養を支援するために インド洋沿岸域に 幾つかのアクセス拠点を確立する と大胆に予測している Q: 報告書は 少なからぬ紙数を南シナ海と東シナ海における中国の動向分析に割いている この 1 年 中国は南シナ海におい埋め立て活動を強化してきた 中国の狙いは何か 埋め立て活動が当該地域における戦略的力学をどのように変えるか A: 中国の外交部報道官は 3 月 9 日 南沙諸島における建設は 必要な軍事防衛所要を満たす ための一環として進められていると語った 更に 外交部報道官は 5 月 8 日 中国の建設活動の規模は大国としての責任と義務に見合ったものである と述べた 北京は 埋め立て岩礁に駐留する要員のためのより良い居住施設 後方支援や準軍隊や海軍艦船のための港湾 民間機及び軍用機のための滑走路 そして南シナ海のほとんどを監視できるレーダー網を建設しているように思われる 近隣諸国全ての巡視船を合計したよりも多い隻数の海警局の巡視船と 世界で唯一の海上民兵の船舶とを保有していることと併せ 埋め立て活動によって 中国は急速に 軍事力のプレゼンスと能力の面で 南シナ海の近隣諸国とは全く異なった存在になりつつある 北京は 戦争を求めているわけではないが 近隣の小国に自国の条件で 2 国間紛争の解決を強要するために 圧倒的な力を活用することを望んでいる より広い視点で見れば 東アジアにおける地域的な優越を再び回復することを夢見ているようである 中国の指導者は 明らかに国際的な規範は北京の 核心 利益に従属すべきであると信じている Q: 米海軍艦艇は定常的に南シナ海を航行している 航行中に中国海軍から挑戦を受ける可能性があるか その場合どのような展開が予想されるか A: 北京は 国際海空域における中国海軍の行動はそのような脅威を及ぼすものでは全くないと主張している しかし その行動は 主張とは矛盾したもので 不確実性への懸念が高まっている 中国の意に反する行動に対抗する中国の措置は 多くの場合 中国が不明確な線引きでそ 23

26 の大部分に対する管轄権を主張する南シナ海において 米国の公船や海軍艦艇 軍用機との間で何度も危険な遭遇を引き起こしてきた 中国は長年に亘って 自国の EEZ と主張する海域において 軍事的 と見なす 偵察 調査及びその他の活動を規制する権利を有する と主張してきた この中国の主張は 圧倒的多数の国が受け入れている国際法やその慣行に反するものである 中国は 2013 年 11 月 東シナ海に防空識別圏 (ADIZ) を設定した 外国航空機が命令に従わない場合 中国は 詳細不明な 防御的緊急措置 をとると脅しているが ADIZ は命令を発したり その命令を執行したりする権限を与えるものではない このことは 中国が 12 カイリの領空を超えて国際空域を管轄する 権利 を保持していると考えていることを示唆している 2014 年 8 月に中国の J-11 戦闘機が国際空域を通常任務でゆっくりと飛行していた米海軍の P-8 哨戒機に 30 フィート以内に接近し妨害した もし中国が南沙諸島の滑走路を南シナ海の ADIZ を支援するために使用するようになれば このような危険な遭遇の増加が懸念される アメリカと他の多くの国は 国際システムが効果的に機能するためには 航海の自由の維持が死活的であると考えている Q: 報告書は 中国の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦 (SSBN) の増大する能力と長距離の哨戒の開始に言及している そのことはアメリカにとってどの程度問題なのか A: 国防省はいずれ哨戒活動が開始されると予測していたが 最初の哨戒任務は間もなく開始されると思われる しかし SSBN の運用には極めて正確に機能する制度が必要で 中国は 原子力推進システムや SSBN の被探知を困難にする雑音低減技術を習得していないようである これらの習得は長期間にわたるプロジェクトである 対照的に中国の地上配備の第 2 砲兵は 既にかなりの大陸間弾道ミサイル (ICBM) 戦力を配備しており また世界に先駆けて準戦略弾道ミサイル部隊も配備している 第 2 砲兵の最新の核及び通常弾道ミサイルシステムは移動式であり 精緻な弾道ミサイル防衛システムにある程度対抗できる 加えて 中国は 多くの先進的な巡航ミサイルを地上基地や潜水艦 水上戦闘艦艇 航空機に搭載している 従って 中国は 遠隔の海域に隠密理に展開できる SSBN を保有する前から 大規模な核及び通常抑止戦力を動員することができる Q: 戦力構成から見て 近代化された中国海軍は 太平洋において現在の米太平洋艦隊と比較してどのようなものか 能力的にどの程度のスピードで追い上げてきているのか A: これはリンゴとミカンを比べるようなものである 米海軍と中国海軍は 非常に異なった任務を遂行するよう構成されている 最も基本的なことは 米海軍は 核抑止力を提供し グローバルコモンズの安全を保障し そして沿岸域への戦力投射において他軍種を支援する任務を与えられている 一方 中国海軍は依然 近海 ( 黄海 東シナ海 南シナ海 ) 北京にとって未解決の島嶼領有権や海洋管轄権を巡る係争海域 と その直近の近接路における通常戦闘を重視している この戦闘は 地上配備のミサイルと航空機によって支援されている 人民解放軍は依然 軍種間協同と戦力投射の面で大きな制約に悩まされている しかしながら この優先海域においては 動員可能な多くの能力を持っており それを運用する多くの方法も持っている 確かに 中国は インド洋やそれ以遠に海軍部隊を派遣しており これらの海域において平時の作戦任務を遂行する能力を大きく強化している しかしながら この平時の能力を 他の主要な軍事力との戦闘遂行能力に変換していくには前途遼遠である そのためには 海軍戦力の構成や機能がより一層 米海軍に近いものにならなければならない 例え部分的にでもそうした方向を目指すとすれば 中国は 相当の期間 膨大な資源と努力を傾注しなければならない 24

27 であろう Q: 報告書について 他に指摘すべき点があるか A: 経済的 政治的な問題で苦境に陥っている欧州統合と 強固な財政基盤を欠くロシアの国防計画から見て 中国軍は 全体として米軍に次ぐ世界第 2 位に地位に移行しつつある 今後何年かの内に 北京は 真に大国の軍隊と言える 益々高価になりつつある質と量を兼ね備えた軍隊という面で アメリカと肩を並べるほとんど唯一の存在になろう 中国は アジアにおいて最も多くの海軍戦闘艦艇と外洋型の海警局巡視船を保有し またアジアで最大の そして世界では第 3 位の空軍を保有している 中国空軍は 先進的な長射程地対空ミサイルを装備した世界最大の空軍の 1 つである 北京は 2030 年までに 世界で第 2 位の空母保有国になるかもしれない これまでは量が質を補ってきたが 今や北京は 質の改善にも力を入れている 報告書は 中国は全ての国防産業分野で目覚ましい進展を遂げており 一部の分野ではロシアや EU などの主要な兵器メーカーに比肩できる と指摘している 無人機のような十分に確立されていないシステムについても 中国は 極めて急速にトップレベルに近づきつつある 例えば 報告書は 中国は 2014 年から 2023 年の間 約 100 億 5,000 万ドルの費用で 4 万 1,800 以上の地上配備と海上配備の無人システムを製造することを計画しているとする 推測が一部にある と述べている しかし 中国は アメリカとの全体的な軍事力のギャップを完全には埋め切れないと見られる グローバルな軍事的影響力という面では その格差は依然 大きいままであろう 国内の安定が中国共産党にとって依然 主要な関心事であり 従って共産党は 国内の治安部隊に膨大な資源を投入している 近海において 核心 利益は依然 北京が満足する形での解決に至っておらず 近海では近隣諸国が益々中国の圧力に対抗するようになってきている 一方で 30 年に亘って軍事力近代化への資金投入を可能にしてきた中国経済も 緩やかな成長ペースに減速してきている こうしたことは全て 中国が米軍のようなグローバルな戦力態勢を目指しているとする議論に 水を差す現象である 記事参照 :Q. and A.: Andrew S. Erickson on China s Military Goals and Capabilities s-military-goals-and-capabilities/ 5 月 8 日 中国海軍の地理的な活動範囲の拡大 中ロ地中海合同演習の戦略的含意 インド人専門家論評 (National Maritime Foundation, May 8, 2015) インドのシンクタンク National Maritime Foundation の Dr. Vijay Sakhuja 会長は NMF の HP に The Expanding Maritime Geography of The Chinese Navy と題する論説を掲載し 中国海軍の地理的な活動範囲の拡大 特に地中海における中ロ合同演習の戦略的含意について 要旨以下のように述べている (1) 中ロ両国海軍は 地中海で合同海軍演習を実施する計画を発表した この演習には 海賊対処活動のためにアデン湾に展開している中国海軍第 19 任務部隊の 2 隻の戦闘艦と ロシア黒海艦隊から 6 隻の戦闘艦が参加する 中国国防部報道官によれば The Mediterranean Sea Cooperation 2015 演習は 海洋における安全保障上の脅威に共同で対処する ために両国海軍のインターオペラビリティを強化することが目的であり 特定の国を対象としたものではないという この演習に先立って 中国の戦闘艦は 5 月 9 日のロシアの第 70 回戦勝記念日式典に参加するためノボロシスク港を訪問する 2015 年 9 月には 両国海軍は 中国の 70 回目の 25

28 対日戦勝記念を祝う 海軍演習を計画している (2) 中ロ両国間の軍部間あるいは海軍間の運用面での相互交流は 2 つの態様があって 1 つはテロ対処を目的とする上海協力機構 (SCO) の枠組みの下で設定された年次軍事演習 The Peace Mission シリーズである しかしながら 2005 年の年次演習では黄海で海軍演習が実施され 2009 年の年次演習では両国海軍が海賊対処活動に従事するインド洋のアデン湾で実施された もう 1 つの両国海軍間の演習 Joint Sea シリーズは 2012 年から始まり 以後 毎年実施されてきた この演習は通常 東シナ海で実施され 海洋における安全保障上の脅威に合同で対処する能力を強化するために 両国軍間の実際的な共同 を目的として 両国海軍の潜水艦 水上戦闘艦 航空機及び海軍歩兵部隊が参加する 2013 年の Joint Sea 2013 は明らかに 中国を目標としたと見られる 日米水陸両用戦闘演習 Dawn Blitz に対抗したものであった 2014 年の Joint Sea 2014 は 両国海軍から潜水艦を含む 14 隻の戦闘艦と航空機が参加した 興味深いことに ロシアと中国の戦闘艦 Pyotr Veliky と 塩城 は 2013 年の国連安保理決議と化学兵器禁止機関 (OPCW) の要請に基づいて シリアから化学兵器を搬出するデンマークとノルウェーの船を合同で護衛した これに先立って ロシアの戦闘艦は NATO 軍によるシリアへのミサイル攻撃を阻止するために シリア沿岸域の哨戒活動を実施した (3) 中国が地中海で演習を行う理由として 少なくとも以下の 4 点が指摘できる a. 第 1 に イスラム世界で高まる不安定の中で 将来 自国居留民の救出支援を実施する場合に備えて 中国がこの地域に中国海軍を配備し続けている 中国海軍は 2011 年に リビアから 3 万 5,800 人の中国人労働者を救出し そして最近では 2015 年 4 月にイエメンから中国人と他国国民を含む 900 人の避難を支援した これらの作戦は 中国のソフトパワーを誇示し 公共財を提供する中国の能力に対する世界的な信頼を高めたことで 中国にとって紅海から地中海までほぼ連続的に海軍力のプレゼンスを維持する動機付けとなった b. 第 2 に これらの作戦行動は アデン湾での海賊対処活動への 2008 年以降における中国海軍の参加という文脈で見る必要がある これによって 地中海での海軍演習に参加し NATO の裏庭を探査する機会を得ることになった 国連安保理は 各国海軍に 2015 年 11 月まで海賊対処活動を継続することを要請しており 中国海軍は アデン湾での展開を継続することができる c. おそらく第 3 の理由は 中国が自国製の 054A 型 ( 江凱 II 級 ) フリゲートをロシアに売却することを望んでいることであろう ロシアのある軍事専門家は ロシア製と中国製の艦艇には技術面で多くの共通性があり 従って兵装と搭載電子機器に対するロシアの技術的所要については ロシア国産の同等装備品に容易に換装できる と見ている d. 第 4 に 地中海における中国海軍のプレゼンスの背景には 黒海のセヴァストポリ港における商業的利益がある 中国企業の Beijing Interoceanic Canal Investment Management (BICIM) は セヴァストポリ港での経済特区に付随した港湾を開発する計画であった しかしながら ウクライナ危機が勃発し ロシアがクリミア半島を支配したことで この計画は凍結された ロシアは 2014 年に ( アゾフ海の出入り口 ) ケルチ海峡を越えてクリミア半島に至る総経費 12 億 ~30 億ドルの輸送回廊を建設するよう 中国に求めた 実現すれば 中国は ロシアのクリミア併合後 クリミアへの最初の投資国となろう 中国は ギリシャのピレウス港の 2 つのコンテナ ターミナルに利権を有しており 中国遠洋運輸集団 (COSCO) がターミナルを運営している こうした動向は 黄海から紅海を経由して地中海に至る中国 26

29 海軍の地理的活動範囲の拡大を示すものとなっている (4) 中ロ両国はまた 地中海での The Mediterranean Sea Cooperation 2015 演習が両国間の戦略的パートナーシップの強さの現れであることを そして地理的制約を克服して 東西の戦域で同時に軍事活動ができることを アメリカとそのヨーロッパの同盟国に対して誇示している 更に 中ロ両国はこうした行動を通じて ロシアはアメリカと EU によって課されている制裁によっても行動を阻止されていない そして中国はアメリカのアジアにおける再均衡化戦略によって脅かされていない というメッセージを発信しているのである 記事参照 :The Expanding Maritime Geography of The Chinese Navy 5 月 10 日 中国の海上民兵政策 時代後れ RSIS 専門家論評 (The Diplomat, May 10, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の客員研究員 Zhang Hongzhou は 5 月 10 日付の Web 誌 The Diplomat に Rethinking China s Maritime Militia Policy と題する論説を寄稿し 中国の海上民兵政策の背後にある考え方はますます時代遅れになっているとして 要旨以下のように論じている (1) 遠洋漁業は 越境して操業することから 特に紛争海域では 必然的に重要な政治的 外交的な意味合いを持つ 明らかに 中国 ベトナムそしてアジア太平洋地域の他の国々は 係争海域における自国の海洋プレゼンスを強化する上で 漁民を重要なプレーヤーと見なしている 紛争海域で操業する漁民は 当該政府から財政的 政治的な支援を受けている 海洋紛争の重大な局面において 関係当事国は相互に漁船を展開させて張り合うことがあり 例えば 2014 年 4 月には中国の石油掘削リグを巡って中国とベトナムの漁船が対峙した 近年 南シナ海と東シナ海における緊張の高まりの中で 中国漁船が絡んだ事案の増大が目立つようになり 時に中国と隣国との緊張を激化させた 中国が海洋における 人民戦争 を始めたと見る向きもあるが 中国政府が 係争海域における国家の海洋権益を護る上で漁業の役割を強化するための措置を講じていること そして強力な漁船団の育成を海洋国家に向けた総合的なアプローチの一環と見なしていることは 否定できない事実である 習近平主席は 2013 年に 海南省の瓊海市の漁業の街 潭門鎮を訪問した際 海上民兵のメンバーに対して 漁業活動を先導するだけでなく 海洋情報を集めたり 島嶼や環礁における建設を支援したりする よう要請した 一部の中国の学者や安全保障の専門家は 係争海域 特に南シナ海において 海上民兵は中国防衛の最前線であるべきだ と主張している 過去数年間で 中国の幾つかの沿岸都市は 漁業民兵部隊を創設した (2) しかしながら 現在進行中の海洋紛争を考えれば こうした海上民兵構想は 再検討が必要である a. 第 1 に 中国は現在 この地域において最大かつ先進的な海軍力と 域内各国よりも遥かに強力な海上法令執行機関を有しており もはや海洋権益を護るために海上民兵を必要としない 海上民兵の擁護者は 非軍事的組織であることを重視して 係争海域における中国の利益を保護し 中国と近隣諸国間の軍事衝突を防止するために必要である と主張する しかしながら 海洋における紛争が中国と近隣諸国のナショナリズムを高揚させていることから 2010 年の尖閣諸島を巡る衝突 2012 年の Scarborough Shoal( 黄岩島 ) を巡る対峙に見られたように 漁船を巡る事案が深刻な外交 安全保障上の緊張を誘発させかねない 27

30 b. 第 2 に 海洋漁業部門を政治的道具にすれば 業界全体を危うくし また軍隊化した漁民は自らの生命を危険に晒すことになりかねない 中国漁民は人民解放軍の手先と見られ 他国から目標にされている 2002 年から 2012 年の間 南シナ海での事案によって 潭門鎮だけで 100 人以上の漁民の命が失われた c. 第 3 に 中国の市場経済の下では 漁民も 究極的には利益追求者である 海に対する愛着心を持たない内陸部の出身者で 手っ取り早く金を稼ぐことを目的とした農民が 中国の伝統的な漁民に替わりつつあることが 特にそのことを物語っている 中国沿岸域の水産資源が激減したため こうした漁民は 係争海域や 9 段線 を越えて他国の EEZ において越境操業する傾向にある こうした行為が 中国外交を掻き回し 近隣諸国との関係を損なうリスクを高めている d. 第 4 に 海上民兵は 違法操業を企てる口実として 彼らの愛国心が利用されることもある 実際 2013 年に習近平主席は 潭門鎮の漁民を 南シナ海における係争海域において中国の海洋権益を護っていることを理由に称賛している この数年 彼らは 莫大な利益をもたらす貴重な水産資源を求めて 南シナ海や東シナ海の係争海域で操業し また小笠原諸島のサンゴを密漁するために数百キロも移動する漁民もいる サンゴやウミガメ その他の絶滅危惧種の密漁は 海洋環境を脅かしたり 中国の国際的イメージを危うくしたりすることとは別に 国際法だけでなく中国国内の規則にも反する行為である (3) 従って このような海上民兵政策は 中国とこの地域の利益になるというよりも はるかに大きなリスクをもたらすことになろう 南シナ海と東シナ海において緊迫した状況を引き起こすことに加えて 希少な漁業資源を巡る競争が激化することを考えれば 海上民兵政策という構想は 時代遅れであるばかりでなく 不要な手札でもある 中国は 海上民兵に代えて IUU ( 違法 無報告 無規制 ) 漁業を規制するとともに 漁業紛争を管理し 事案のエスカレーションを防ぐために 多国間漁業管理の枠組みの設立を目指して 先導すべきである 記事参照 :Rethinking China s Maritime Militia Policy 5 月 12 日 比パラワン島の基地建設 資金難で難航 (Philstar.com, Reuters, AFP, May 13, 2015) 南沙諸島でフィリピンが占拠する Pag-Asa 島を訪問したフィリピン軍の Gregorio Pio Catapang Jr 参謀総長は 5 月 12 日 南沙諸島まで約 180 キロの距離にあるパラワン島における海軍基地建設はフィリピン軍の最優先課題だが 資金面で難航している と同行記者団に語った 同参謀総長によれば パラワン島中部の南シナ海に面した Oyster Bay に海軍基地を建設する計画で 現在 アクセス道路を建設中で また給水施設や燃料補給施設の改修が行われているが 基地施設は資金難のため建設開始に至ってない 海軍施設の当初建設費用は 8 億ペソを要し 最終的には更に 50 億ペソを要すると見込まれ 資金の目途が付き次第 本格的に建設に着手するという フィリピン軍は 基地が完成すれば アメリカから購入した 2 隻の旧米沿岸警備隊巡視船を配備する計画である また 同参謀総長は 基地が出来れば アメリカ 日本そしてベトナムの海軍艦艇の寄港が認められる と語った 記事参照 :Phl to build naval base near Spratlys ratlys 28

31 5 月 13 日 米海軍沿岸域戦闘艦 初の南沙諸島周辺海域哨戒活動完了 (U.S. Navy News Service, May 13, 2015) 米海軍沿岸域戦闘艦 USS Fort Worth(LCS 3) は 5 月 13 日 1 週間に亘る南沙諸島周辺海域での海空域における哨戒活動を終え フィリピンのスービック海軍基地に再補給のため寄港した USS Fort Worth はこれまで何度も南シナ海を通航しているが 南沙諸島周辺海域での哨戒活動は今回が初めてであった 第 7 駆逐戦隊 (DESRON 7) 司令の Fred Kacher 大佐は インド アジア太平洋地域に米海軍の最新で最も強力な海軍プラットホームを配備するという 再均衡化戦略の一環として LCS は現在 東南アジア海域で常続的なプレゼンスを維持している 今後数年間で 4 隻の LCS がこの地域に配備されるが USS Fort Worth が南シナ海で実施したような哨戒活動は 新たな日常的な任務となろう 東南アジア海域への複数の LCS の配備は この地域の高まる重要性とそこにおける持続的なプレゼンスの必要性を表象するものである と指摘した USS Fort Worth は インド アジア太平洋地域に今後数年間で最大 4 隻の LCS を配備する計画の一環として 第 7 艦隊に配備された 2 隻目の LCS である 3 隻目と 4 隻目の LCS は 2016 年に配備されれば 常時 2 隻の作戦運用が可能になる USS Fort Worth はまた "3-2-1" 人員配置構想に基づく最初の LCS である この構想は 3 個のクルーがローテーションによって 2 隻の LCS に配備され その内 1 隻が運用配置につくというもので これによって LCS は ローテーション配備によってクルーを疲労させることなく 米海軍艦艇の通常の展開期間の 2 倍に当たる 16 カ月間の長期展開が可能になる 今後のこの地域に配備される LCS ではこの構想が採用され これによって インド アジア太平洋地域における米海軍のプレゼンスが強化されることになろう 記事参照 :Fort Worth Completes South China Sea Patrol 5 月 20 日 米第 7 艦隊 アジア太平洋地域における海軍協力促進 (RealClearDefense.com, May 20, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の Justin Goldman 准研究員は 5 月 20 日付の Web 誌 Real Clear Defense に A Tactical Look at Asia-Pacific Naval Partnerships と題する論説を寄稿し 米海軍第 7 艦隊とアジア太平洋地域の国々の海軍との交流は増え続けているとして 要旨以下のように述べている (1) 米海軍最大の艦隊 第 7 艦隊に配属されている人員とプラットホームは 互恵的協力の新たな機会を見出すために 地域のパートナーや同盟国と頻繁に交流している 5 月上旬に 第 7 艦隊旗艦 USS Blue Ridge(LCC 19) がシンガポールに寄港した際にも 米海軍の担当者がシンガポール海軍のカウンターパートと危機対処や海洋状況認識 (MDA) の強化に向けての情報の共有について話し合った また 14 回目を迎える年次演習 SEACAT(Southeast Asia Cooperation and Training) 演習や 西太平洋海軍シンポジウム (Western Pacific Naval Symposium: WPNS) への積極的な参加を通じて 多国間でも行われている 第 7 艦隊の地域安全保障協力担当官 Ronald Oswald 大佐は 歴史的に アメリカの軍事演習はほとんど 2 国間で行われてきたが 多国間演習の機会を求めており 2016 年には新たなパートナーに 以前からの 2 国間演習を開放することを予定している と語っている (2) 隔年で行われる西太平洋海軍シンポジウム (WPNS) は 2014 年 4 月に中国海軍主催で中国の青島で開催されたが そこでは参加 21 カ国の海軍が 洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基 29

32 準 (The Code for Unplanned Encounters at Sea: CUES) に署名した CUES は法的拘束力を持たないが 安全手順について標準化されたプロトコルは 洋上で不慮の遭遇があった場合に 海軍艦船が従う基本的な意思疎通や操船に関する指示について取り決めている USS Blue Ridge は 2014 年 8 月に青島に訪れ 中国海軍北海艦隊との海軍同士の関係構築に取り組むなど WPNS のフォローアップを実施している Oswald 大佐は この 1 年間 CUES は 海上で艦船が遭遇した時 言語が障害になることもあるが 誤解や事故を避ける標準化された手段になってきた と語った 米海軍沿岸域戦闘艦 USS Fort Worth(LCS 3) は 2 月に 中国海軍フリゲート 衡水 (FFG 572) との間で CUES を演練した シンガポールを拠点とする同艦は 韓国との演習の帰途 ベトナムのダナンに寄港し ベトナム海軍との間でも CUES を演練した 2014 年の青島での取り組みを推し進めるために フィリピン海軍は 4 月 WPNS 2015 ワークショップを主催した ワークショップでは CUES の効果的な履行に関する情報共有のための場を設けるため CUES のワーキンググループを創設する提案が話し合われた WPNS のワークショップは 継続して新しいアイディアのための議論の場を提供しており いずれ各国海軍のトップ同士の議論の場に引き上げられる可能性があり 早ければ 2016 年のインドネシアでの WPNS で実現するかもしれない WPNS ワークショップがマニラで開催される前 USS Blue Ridge は 中国の湛江市に寄港した 湛江では 第 7 艦隊の VADM Robert Thomas 司令官が中国海軍南海艦隊司令員と会談した USS Blue Ridge の友好訪問は 3 年サイクルで行われており 2016 年には寧波の東海艦隊司令部への訪問が計画されており 中国の 3 カ所の艦隊司令部を全て訪問することになる 米中両国海軍高官による会談では 捜索救難活動や 人道支援や災害救助活動など共通の関心事が話し合われた こうした会談の目的の 1 つは 双方の艦船が洋上で遭遇した場合の行動手順の標準化にある こうした取り組みは 4 月に改訂版が公表された A Cooperative Strategy for 21st Century Seapower: Forward, Engaged, Ready( 21 世紀の海軍力のための協力戦略 ) の指針を反映したもので 各国海軍と MDA を共有することによってパートナーシップを強化しようとするものである 4 月下旬 日本との間で 新しい 日米防衛協力のための指針 (Guidelines for Japan-U.S. Defense Cooperation) が発表された 指針によれば 日米両国は 引き続き 同盟との相互運用性の強化並びに共通の戦術 技術及び手順の構築に寄与するため 訓練 演習においてパートナーと協力する機会を追求する としている 数十年間に亘って東南アジアにおける能力構築支援を行ってきた地域のパートナーとして 日本の地域的への関与の強化は 大いに歓迎された (3) 全体として 第 7 艦隊は 訓練や域内における活動への関与など その活動の増大が求められている これには 多面的な米中 2 国間関係構築への貢献も含まれている 前出の Oswald 大佐は 第 7 艦隊としての我々の関心は 中国のカウンターパートと洋上で遭遇した場合 プロとしての手順を踏んで対処することを確実にすることにあり これは上手くいきつつある と語った 中国との軍隊同士の関係の在り方については 質量両面において今後とも論議されて行くであろう 国防省が 5 月 8 日に公表した年次報告書 Annual Report to Congress: Military and Security Developments Involving the People s Republic of China 2015 は アメリカは 中国との軍同士の関係の基盤をより強固なものにするに従って 中国の軍事戦略 ドクトリン及び軍事力整備の発展状況について継続的に監視を続けるとともに 中国に対して その軍近代化プログラムについて透明性を高めるよう慫慂していかなければならない と指摘している 30

33 記事参照 :A Tactical Look at Asia-Pacific Naval Partnerships naval_partnerships_ html 5 月 27 日 中国国防白書 米紙論評 (The New York Times.com, May 27, 2015) 米紙 The New York Times( 電子版 ) は 5 月 27 日付の China, Updating Military Strategy, Puts Focus on Projecting Naval Power と題する記事で 中国が 5 月 26 日に公表した国防白書について 要旨以下のように論評している (1) 中国国防部は 5 月 26 日 中国の軍事戦略 と題する国防白書 ( 中文 : 中国的軍事戦略 白皮書 ) を公表した この白書は この 2 年間で中国軍による最初の政策文書であり 南シナ海における中国の高圧的行動が強まっている時期に公表された それによれば 中国は 単に自国の沿岸域を防衛するだけでなく 今後何年かの内に海軍力を外洋に投射することを意図している 南シナ海における人工島の造成やそこにおける建造物の構築によって 係争海域における領有権主張を強化しようとする中国の行動は フィリピンとその同盟国であるアメリカのこの地域に対する意思を試すものとなっている 南沙諸島の Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) では この数カ月にわたって大々的な浚渫作業が行われているが 米海軍の P-8 哨戒機は 5 月 20 日に CNN の取材チームを乗せ この周辺海域を哨戒飛行した時 中国側は再三にわたり退避警告を繰り返した 以来 北京とワシントンの対立は激しくなった 中国外交部報道官は後に この飛行は 無責任で危険である と非難した 国防省は 5 月初め アメリカが国際海域と主張する海域への艦艇と航空機の派遣を検討していると発表した 更に 中国の国営メディアは 5 月 26 日 南沙諸島において 2 カ所の灯台の建設を開始したと報じた (2) 白書は 海軍政策のみならず 中国軍全体の近代化計画に継続についても言及している 更に 重大な安全保障上の脅威 としてサイバー戦についても記述している しかし 西側の専門家は 白書が海軍力の強化と中国沿海域から遠く離れた海域への戦力の展開を重視していることについて 白書の最も印象的な部分であると指摘している 中国の軍事戦略家は以前から 1940 年代以来支配的であった陸上戦力への依存を減らし 海軍力を強化していく意向を明らかにしてきた 近年 人民解放軍は 新型潜水艦に投資し 中国初の空母を就役させ そしてその詳細は公表されていないが 軍全体の再編計画を発表している 米シンクタンク The Center for Naval Analyses(CNA) のアジア専門家 Dennis J. Blasko によれば 人民解放軍兵力 230 万人の内 約 10% が海軍 約 17% が空軍で 残りはほとんど陸軍である 専門家は 南シナ海での緊張が海空軍力を増強する北京の努力を加速させている要因の 1 つと指摘している しかし それ以外の地域における出来事も 中国の指導者が海外での軍事関与を規制してきた長年の政策を放棄しつつある要因となっている 例えば アデン湾でのソマリア海賊事案が増大する中で 中国は 2008 年に 2 隻の駆逐艦と 1 隻の補給艦をアデン湾に派遣したが これは 太平洋を越えて即応態勢の戦闘艦を派遣した最初の事例となった 2015 年 4 月には 3 隻の艦船をイエメンに派遣し 内戦状態の同国から数百人の中国人と外国人を後方輸送した (3) 白書は 陸重視の伝統的な思考様式は放棄されなければならない そして海洋を管制するとともに 海洋権益を護ることに重点を置かなければならない とし その上で 中国は 国家安全保障と拡大する国益に見合った近代的な海上戦力を建設する必要がある と指摘している 徐光裕元少将 ( 現中国軍控与裁軍協会 ( 軍備管理軍縮協会 ) 理事 ) は 開かれた海を護る こ 31

34 とに力点を置くことは中国の海外における経済的 外交的足跡が拡大していることの証左である と指摘している そして 徐元少将は 中国は強大になるにつれ 地球上に護らなければならない多くの利益を有するようになってきている こうした利益には 投資 貿易 エネルギー 輸入そして海外在留の中国市民が含まれる と述べている ( 抄訳者注 : 徐光裕元少将は 国家には地理的国境とは別に総合国力に応じて伸張できる戦略的国境があると提起したことで知られる ) 更に 徐元少将は 白書は外国の侵略を抑止し 他国によって始められた戦争に勝利する北京の決意を強調しているとして 中国は 軍事力と抑止力を積極的に建設していくであろう それはまさに如何なる国も中国にあえて戦争を仕掛けてこないようにするためである アメリカは 圧力をかければ中国は後退すると期待してはならない 中国を追い詰めれば その結果はどのようにものになるのか分からないことを知る必要がある と強調している (4) アメリカは 南シナ海における領有権紛争については いずれにも与しない方針をとっており 外交による紛争解決を主張している しかし一方で オバマ政権は 領有権を主張している如何なる国も南シナ海における国際航行を阻害してはならない と強調している また 最近では 国防省当局者は 係争島嶼周辺海域に対する監視飛行を中止する意図はないことを明らかにした 米国防大学の Bernard D. Cole 教授は 白書は中国が石油 天然ガス及び漁業資源に恵まれた南シナ海における領土的野心を放棄することはないことを示唆していると見 中国は事態を推し進めるにつれて かなり自信を深めてきており アメリカが対応行動を起こす敷居の高さを見極めようとしている と思われる 我々は 今がその限界点にあるのかもしれない しかし 中国が人工島造成活動を中止しようとする証拠は全くない と述べている 記事参照 :China, Updating Military Strategy, Puts Focus on Projecting Naval Power ts-focus-on-projecting-naval-power.html 6 月 5 日 中国の国防白書に見る戦略思考の変化 米海大エリクソン論評 (The Diplomat, June 5, 2015) 米シンクタンク The Center for a New American Security(CNAS) の准研究員 Alexander Sullivan と 米海軍大学准教授 Dr. Andrew Erickson は 6 月 5 日付の Web 誌 The Diplomat に The Big Story Behind China s New Military Strategy と題する長文の論説を寄稿し 中国国防部が 5 月 26 日に発表した 中国の軍事戦略 と題する国防白書 ( 中文 : 中国的軍事戦略 白皮書) について グローバルな安全保障問題により積極的に関与しようとする野心的なビジョンであり アメリカはこれに対応しなくてはならないとして 要旨以下のように論じている (1) 中国は 5 月 26 日に軍事戦略に関する初めての白書を発表した 北京は 2012 年以降 近海においてより高圧的になってきており 今回の白書は 中国の 海洋における戦略的管理 を強化する決意を強調している この白書に見られる中国の戦略思考は 中国の外交政策の根本的な変化という より大きな ストーリー を反映している このストーリー自体は比較的シンプルなものである 即ち 1 グローバリゼーションへの中国の関与は 不可逆的に急増している在外利益に触発されてきた 2 このことはまた 中国をして 在外利益を促進し それらを護るために より大きな資源と能力を投入させることになった 3 その結果 中国は より意欲的で能力を持つ ( more willing and able ) 外向きの国家に 国際安全保障問題により積極的に関わる国家になった * というものである 実際 今回の軍事戦略に関する初めての白書 32

35 は 多くの点で 現実に追い付くための公式政策を明らかにものである こうした趨勢は強まっていくと見られるが故に アメリカの専門家や政策決定者は 国際安全保障問題への積極的な関与という中国の新たな ノーマル がもたらす利益を捉え そこから派生する課題に対処するために 中国が形成していく政策を理解しなければならない (2) 白書は 特に 3 つの主要分野 即ち 軍隊のための政治的枠組みに関する新しい理解 安全保障パートナーシップの強化 そして人民解放軍のグローバルな戦力投射能力における 中国の国家安全保障に関する思考の革新について述べている 政治的に 白書は 中国の安全保障利益の新たなグローバルな広がりと それらを護る上での新たな柔軟性について言及している 白書は これらの利益を護るため 中国は 国家安全保障に対する全体的視点 に立つとしている この曖昧な表現を解釈する 1 つの手がかりは これらの利益は今や潜在的に 他国による内政干渉 に反対するという古いイデオロギーを乗り越えたものになっている という事実である 注目すべきは 今回の白書には 初めて中国の歴史的なドグマである 平和 5 原則 についての言及がないことである 実際 この 10 年間 中国は 政治的仲裁 単独あるいは多国間による経済制裁 そして他国への治安部隊の派遣など 伝統的な内政不干渉の枠組みを超えた 多様な活動を行ってきた 公式政策が 根本的な構造的変化に そしてそれらが求める即応性に追い付こうとしているのである いわゆる 国家安全保障に対する全体的視点 は 伝統的及び非伝統的安全保障を包括するもので 中国は 海賊 平和維持 災害対処及びテロといった 国境を越える脅威に対処する意図を明らかにしている これらの脅威に対する中国のアプローチは 2008 年以降のアデン湾での海賊対処活動に見られるように 国際協力を重視している 中国は これまで以上に国際的責任と義務を共有し 国際安全保障に貢献する としている (3) 白書における 2 番目の革新は 中国は他国の支援がなければ グローバルな活動ができないということについての深い認識である 今回の白書は 公平で効果的な集団安全保障メカニズムの確立 を目指し 協調的安全保障活動により積極的に参加していくとしている 他国との協調的活動の深化は 合同演習や多国間展開の形で人民解放軍が特に必要としている運用経験をもたらすとともに 先進テクノロジーへのアクセスなども可能にしよう 北京は現在 60 カ国近くの国と 戦略的パートナーシップ あるいは類似の関係を維持しており こうした枠組みの下で 主要国との防衛外交は劇的に増加してきている 商業的な利益もこうした関係を深める上で役立っている 中国は現在 世界で 3 番目の武器輸出国であり これまで以上に洗練されたシステムを売却している (4) 中国は 領域を跨ぐ限定的な戦力投射能力を持つ軍隊を構築する意図を有している 中国海軍は 近海防御 から 近海防御と遠海護衛の融合 を重視する方向に変化しつつあり 限定的ながら外洋海軍への発展の必要を示唆している 本稿の 2 人の筆者も参加した The Center for a New American Security(CNAS) の 2 年間の研究 * では 人民解放軍の初歩的な戦力投射能力を 鍵となる 5 つの分野 即ち 戦力投射 (force projection) 継戦能力(sustainment) 運用能力 (capacity) 指揮統制(command and control : C2) 部隊防衛能力(force protection) について分析している 軍事力を遠隔の地域で効果的に運用するには いずれの能力も必要だが 十分条件ではない a. 戦力投射は 多様な意味を持つ軍事用語だが ここでは遠征能力を指す 白書によれば 海軍は 公海における行動のために 統合され 多機能で かつ効率的な海洋戦闘戦力構成の 33

36 構築 を目指している 空軍は 航空攻撃 空挺作戦 戦略的戦力投射 及びその他の遠征航空戦力の構築を目指している 第 2 砲兵部隊として知られミサイル部隊は 中長距離精密打撃 を目指している 陸軍も 戦域を跨ぐ多面的で多機能な 運用能力を目標としている 多くの場合 こうした任務遂行に必要なプラットホームは 既に開発中か生産中である b. 継戦能力は 作戦活動を持続するために必要な 戦略空輸 兵站及び兵員を提供することである 白書は 軍は 関係する政策 制度及び支援部隊における兵站改革を押し進めるとともに 戦略的な兵站展開能力を効率化していく と述べている c. 運用能力は 軍隊運用の技能な運用規模を意味する これには 所要量の人的 物的アセットと 効率的な軍事力を生み出す組織が必要である 各軍種のアセット生産とその全ライフサイクルを効果的に管理するには より優れた戦略的管理を必要とする 従って 中国軍は 中央軍事委員会の組織と機能 及び総司令部と各部局の効率化 各軍種の指揮系統と管理システムの改善などを進めるとしている d. 指揮統制は 作戦を計画立案し 指揮し そして統制する指揮官に不可欠な 施設 装備 通信 手順及び要員からなる 現在 米軍が西太平洋で直面している中国の接近阻止 領域拒否 (A2/AD) 能力には より有効に展開でき 広範な作戦に適用できる多くの C2 システムが含まれている 白書は 特に宇宙配備の人工衛星とサイバー能力などの 情報資源の一層の開発と効果的な利用 を目指している テクノロジーと同様に それらを使いこなすプロフェッショナルな要員が重要で 従って 中国は 軍事活動の所要の推移に常に適用できる戦略的指導者の育成に努めるであろう 要するに 中国は 全ての要素がシームレスに連結されるとともに 各種の作戦プラットホームが独立して また協調して機能する 統合合同作戦システムを徐々に確立する ことを目指している e. 部隊防衛能力は 兵員 資源 施設及び重要な情報に対する敵の攻撃を軽減するための予防的措置である 遠隔地での軍事行動は無数の脆弱性が伴う 白書は これらの弱点を認識し それを改善しようとしている 海軍と空軍の近代化計画では 包括的防御 が主たる優先事項となっている 実際 中国海軍は 高度な戦域防空駆逐艦である 旅洋 Ⅱ 旅洋 Ⅲ をすでに運用しており 伝統的なアキレス腱である外洋での対潜能力を攻防両面で是正しつつある (5) 中国軍は これらの分野のほとんど全てにおいて厳しい問題に直面し続けるであろうが これらの分野において進展が見られれば ( 既に多くの分野で進展しつつある ) 2030 年までには 人民解放軍は 限定的な遠征軍 ( limited expeditionary ) としての能力を獲得することになると見られる 如何なる意味でも グローバルに高烈度の軍事作戦を展開できる米海軍能力に近づくというわけではないが 限定的ながらも遠征能力を持つ軍は 大規模な人道支援 災害救助 緊迫した状況下での後方輸送作戦 北朝鮮の核兵器のような高価値アセットの確保 保全 重要なシーレーンの防衛 対テロ攻撃 そして限定的な安定化作戦など グローバルで多様な任務を遂行できよう (6) 白書は 大国として再興し あらゆる大陸に永続的な利益を持つ国家となった中国に相応しく グローバルな安全保障問題にこれまで以上に関与していくという 野心的なビジョンを示したものである アジアにおいて大規模紛争がなく 中国自体にも突発的な変革がない限り これが新たな ノーマル となろう 北京は既に 遠征能力を持つ軍事力を整備しつつあり また 34

37 台湾や近海といった歴史的な関心地域を越えた地域における安全保障問題に積極的な役割を果たしつつある 幸運なことに このより意欲的で能力を持つようになった北京は アメリカのこの数十年来の中国政策の大幅な見直しを迫るものではないが 中国に対する認識を改める必要がある グローバルに活動する中国は 協力のための新しい機会を提供する一方で 抗争する分野を際立たせることになろう 従って アメリカは 中国の国際安全保障に対する行動主義の新しい基準と範囲を掌握するために 中国に対する 3 本柱のアプローチ 関与 ( 関係の ) 形成そして均衡化 (engagement, shaping, and balancing) の視野を広げておく必要がある 中国の軍事戦略 によって 北京は台本の一端を公表した このゲームが最高潮に達する前に ワシントンは今から これへの対応を策定しておかなければならない 記事参照 :The Big Story Behind China s New Military Strategy 備考 *:For more on this topic, see the CNAS report; More Willing & Able; Charting China s International Security _final.pdf 6 月 18 日 中国海軍のインド洋地域におけるアクセス ポイント増大 米海大エリクソン論評 (Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 18, 2015) 米海軍大学准教授 Dr. Andrew S. Erickson は 6 月 18 日付の米シンクタンク CSIS の Asia Maritime Transparency Initiative に Dragon Tracks: Emerging Chinese Access Points in the Indian Ocean Region と題する論説を寄稿し 要旨以下のように述べている (1) 中国の 6 年余に及ぶアデン湾での海賊対処活動と 中国のインド洋への最初の潜水艦の展開によって インド洋地域 (IOR) における中国海軍の支援施設の可能性を検討することは もはや 真珠数珠つなぎ (a String of Pearls ) 論を憶測する域を超えている 米国防省は 北京は今後 10 年以内に 限定的なものであるかもしれないが 重要な後方支援を提供できる 1 カ所あるいはそれ以上の施設を構築することになろう と予測している IOR は 最新のアメリカ海洋戦略に関する報告書の中で インド アジア 太平洋 と表記されているように 米中両国の高い関心を引きつけている地域である 外部世界の関心を高めている IOR の地政学的状況から 最終的に中国が何処に海軍の後方支援拠点を置くかということは 益々重大な問題となっている (2) この問題を考える上で 中国海軍がこれまで IOR の何処にアクセスしてきたかを検討することは有益である 何故なら アクセス ポイントの構築は長期にわたる努力が必要で こうした努力は外部から観察できるからである 海軍施設は一般的に 以下の要件 即ち 1 安定したホスト国における信頼できる政治的支援 2 強固な基盤の兵站補給インフラ 3 全ての主要戦闘艦を収容できるに十分な水深である この視点から 備考 * の地図 (Ports Potentially Accessible to / Have Been Visited by PLAN) を見れば まだ訪問していないが 訪問の可能性がある港湾 ( それらの多くは中国の投資を受け入れているが まだ開発中である ) を別として 幾つかの動向が指摘できる a. 第 1 に 中国海軍の親善訪問が 20 回以上に及ぶ ( 地図では赤色 ) のは 2 カ所 オマーンのサラーラ港とジブチ港だけである 10 回から 20 回までの訪問回数の港湾 ( 同黄色 ) は 1 カ所 35

38 イエメンのアデン港のみである b. 第 2 に 政治的支援と安定度から見れば これらの港湾は 2 つの異なるカテゴリーに類別される オマーン ジブチの両国は 様々な外部勢力と積極的な戦略的関係を構築することで経済的 政治的利益を追求しており 地政学的に複雑な地域にあって 資源的には限られているが 安定したオアシスである 緊密な政治的同盟国と繁栄が安定を底支えする社会ではないが 今のところ民衆基盤の反対戦力によるリスクは ( 程度の問題だが ) 小さい 従って このような環境は IOR の潜在的なホスト国としては都合が良い オマーンのサラーラ港は 現在では 事実上の支援施設となっている ジブチ港については ジブチの指導者は 中国に海軍基地の提供を申し出 現在交渉中である と公式に表明した 対照的に イエメンは 内戦勃発以前から 政治的安定度は低い c. 施設面では サラーラ港とジブチ港がアデン港より優れている サラーラ港は 限定的な艦船修理を支援している 途上国の港湾で大規模な修理能力を有するところは稀で 今日まで 大方の中国海軍艦船は ディーゼル燃料 真水 糧食及び生鮮食料品の補給と乗員の休養のためにサラーラに寄港してきた ジブチ港でも限定的な補修が可能で 中国海軍艦船もここで補給している ジブチ港は アメリカ フランス及び日本が既に基地を利用しており そのインフラはより大きな潜在力を秘めている アデン港は最近までより簡単な糧食を補給していたが 現在その使用は無期限に中断されている 外に注目すべきは カラチ港である 同港は パキスタンの主要な商港であり 軍港でもある カラチ港には この地域の他の多くの港湾よりも優れた修理施設がある どんな時にでも信頼できる友人 (an all weather friend ) の領土内にある優れた施設に優るものは他にあるだろうか 中国海軍は 5 回以上もカラチ港に寄港しているが アデン港が事実上の閉鎖された時にのみ カラチ港がそれに代わることになろう 恐らく 北京は 治安問題に加えて パキスタンとの過度に密接な軍事的関係が顕在化すれば 隣国のインドを刺激することを懸念していると見られる d. 第 3 の鍵となる要件は 停泊地の水深である 真に役に立つ港湾としては 海軍の最大戦闘艦が停泊できなければならない 備考 ** のグラフに示したように ミャンマーのシットウェを除き リストに挙げた港湾は 現在 中国海軍最大の 玉昭 (071 LPD) 級ドッグ型揚陸艦 ( 満載排水量 1 万 7,600 トン ) の吃水約 7 メートルをクリアしており 容易に停泊できる 因みに ジブチ港は水深 18 メートル サラーラ港は同 17.5 メートルである 他に注目すべき港湾はセイシェルのヴィクトリア港である 同国外相は 2012 年に 海賊対処のための基地建設を中国に打診したと報じられた スリランカには コロンボ港 ( 水深 16 メートル ) とトリンコマリー港 ( 水深 13 メートル ) があるが 建設中のハンバントータ港は水深 17 メートルの計画である タンザニアでは 2017 年に完成予定のバガモヨ港は水深 12~14 メートルである (3) 以上の観察から 中国海軍は ここ何年かの間に IOR において更なる選択肢を確保すると見られる 記事参照 :Dragon Tracks: Emerging Chinese Access Points in the Indian Ocean Region an-region/ 備考 *:Map; Ports Potentially Accessible to / Have Been Visited by PLAN 15/06/CSIS_AMTI_China-IOR-Basing_ _EXHIBIT-1_Ports-for-PLAN.png 36

39 備考 **:Graph; Port Depth(meters) 15/06/Capture.png 3. インド洋 太平洋地域 4 月 8 日 南シナ海における生態系の危機と不法操業禁止問題 駐 ASEAN 米大使警告 (The Diplomat, April 8, 2015) アメリカの ASEAN 大使 Nina Hachingian は 4 月 8 日付の Web 誌 The Diplomat に The Other Problem in the South China Sea と題する論説を寄稿し 南シナ海における生物多様性の保護や 違法 無報告 無規制 (illegal, underreported, unregulated: IUU) 漁業規制の必要性を強調して 要旨以下のように述べている (1) 南シナ海というこの重要な海域における問題は 領有権紛争だけではない 筆者 (Hachingian 大使 ) が着任後 最初の数カ月で認知したことは 南シナ海には別の非常に深刻な問題があるということである 即ち 海洋環境の破壊である 違法 無報告 無規制 (illegal, underreported, unregulated: IUU) 漁業に対する最近のアメリカの新たな行動計画の発表は 手遅れにならない内にこの問題に対処していくという アメリカの関心を示したものである 東南アジアは世界の他の何処よりも海洋生物の多様性に富んだ海域であり 何千種もの動植物が生息している 海洋は東南アジアと世界の人々にとって重要なタンパク源を提供しており 2013 年の研究によれば 魚類タンパク質は 平均的なアジア人の食物の 22% 以上を占めている 世界のマグロの 40% は南シナ海で生まれ 南シナ海の水産業は数十億ドル規模の産業である (2) しかし この海域とこの地域の人々の食糧安全保障は 危機に晒されている IUU 漁業は この海域の全域に及んでいる ダイナマイト漁法 シアン化合物の使用と底引き網漁法といった 普通に行われている漁法は この海域の生態系に甚大な被害を与え この地域の漁業市場の将来を脅かしている 南シナ海の漁業資源は大幅に減少し 珊瑚礁の 70% はまずまずの状態か ひどい状態にあると評価されている 南シナ海における絶滅危惧種のリストは増え続けており この脆弱な生態系の危機が続いている 現在 緑ウミガメは絶滅の危機にあり 熱帯海ガメは極めて危険な状態にある それでも 肉と甲羅を求めて海ガメの密漁は日常的に行なわれている 数百万頭のサメが 毎年単にヒレを採るためだけに虐殺されている マグロは 継続的な濫獲状態である 更には 南シナ海の岩礁における中国の大規模な埋め立て工事による浚渫で 周辺の海底土とそこに生息している全ての生物が根こそぎ浚われている 加えて 大気中で増加している炭素が 徐々に だが確実に海洋に被害を及ぼしている 最近の研究では 増加した二酸化炭素は 異例のスピードで海洋の酸性化をもたらしつつある 海洋の酸性度の増加は 珊瑚の骨格の生育を難しくし 他の生物による浸食と攻撃に脆弱となる そして 海面温度の上昇は 魚が温度の低い海を探して移動するので 伝統的な漁場での漁獲量を減らす恐れがある (3) 乱獲と IUU 漁業は 南シナ海における領有権問題によって一層複雑な問題となっている 伝統的な漁場で魚類が減少すれば 漁船は当該自国の領海から遠く離れた海域に移動する 領有権 37

40 主張国が島嶼 岩礁 砂州そして環礁の主権を主張する理由の 1 つは その周辺海域に魚がいるためである 曖昧な領有権の主張 一方的な漁業規制そして当該主張国の不明確な海洋法令執行権限は この問題を一層悪化させている (4) 各国は 個々に対策を採りつつある 例えば インドネシアは最近 IUU 漁業の禁止を強化し始めた フィリピンは 密漁に対する厳しい罰則を設けた 中国の公式夕食会でのフカヒレスープの禁止は中国の取引量を減らしている しかしながら 魚は当該各国の領海を出入りするので 地域全体の取り組みが必要である 最近の東アジア サミットで 参加各国首脳は 野生生物の違法売買を規制し 地域の生物多様性を保護するという目標を確認した 東アジア サミットの声明は このための国際協力の必要性を強調している 法の抜け道となっている 二重籍船の漁船による操業は禁止する必要がある 漁船を追尾 把握し データを共有し 漁場の適切な維持管理を確実にする必要がある 密漁と規定外の漁獲に対する処罰は 地域の全域で一様に実施される必要がある (5) アメリカは ASEAN を支援する用意がある アメリカの新しい行動計画は この問題への対処を支援する 2 つの国際協定を重視している 1 つは 環太平洋パートナーシップ (TPP) 協定で 持続可能な漁場管理を促進しながら IUU 漁業を阻止するために最も有害な漁業助成金と個別的な取り組みを禁止するなど 前例のない環境保全措置を検討している 2 つ目は アメリカが 寄港国措置協定 (The Port State Measures Agreement) の実現を支持していることである この協定は IUU シーフード製品を積んでいる疑いのある外国漁船の入港を拒否するために 各国が最低限の標準規定を設定することに初めて合意したものである 米国際開発庁 (USAID) は 既に漁場と海洋保護区の管理に関して ASEAN と協力しており IUU 漁業規制についても協力を強化していくことになろう 記事参照 :The Other Problem in the South China Sea hread 4 月 9 日 中国のシルクロード戦略の成否を左右する 3 つの要因 中国社会科学院専門家論評 (The Diplomat, April 9, 2015) 中国社会科学院世界経済政治研究所国際戦略研究室の薛力主任は 南シナ海問題専門家の Xu Yanzhou と連名で 4 月 8 日付の Web 誌 The Diplomat に How China Can Perfect Its 'Silk Road' Strategy と題する長文の論説を寄稿し 一帯一路 構想の成否を左右する 3 つの要因を取り上げ 要旨以下のように論じている (1) シルクロード経済ベルトと 21 世紀海上シルクロードで構成される 一帯一路 (one belt and one road 以下 OBOR) は 2014 年の中国外交のキーワードとなり OBOR 戦略が中国外交政策の主要な目標となった 北京は 今後 8 年から 10 年に亘って 経済 政治 軍事そして文化の側面から この構想を推進していくことになろう 中国の専門家の間では 2013 年は OBOR 構想の概念設計の年であり 2014 年は具体化の年であり そして 2015 年の主たる任務は OBOR を全面的に実施し始めていくことであろう と言われてきた 2014 年に OBOR 戦略は大きく前進した 中国は政治面では アジア相互協力信頼醸成措置会議 (The Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia: CICA) とツートラック アプローチを活用した そして 北京は経済面では 幾つかの経済協力の枠組みを促進し アジア太平洋 38

41 自由貿易圏 や 中国 ASEAN 自由貿易地域 を進展させた これら全ては 中国が外交政策の戦略的転換を進めている 即ち 現政権の外交的野心を十分には反映できないことから 従来中国の外交路線 韜光養晦 が衰退している ことを示唆している Zhao Kejin(Carnegie Endowment For International Peace) や閻学通 ( 清華大 ) の言葉を借りれば 積極的で進取的な ( 有所作為 ) の姿勢が中国外交の新しいアプローチである この外交方針では 近隣外交が重要な役割を占め 恐らく米中関係よりも重視されることになろう (2) この新しい OBOR 戦略の成否は 以下の 3 つの要因に左右されよう 1 つは 中国は アメリカの アジアにおける再均衡化 ( rebalance to Asia ) をどう評価するか 封じ込めか あるいはヘッジ戦略と見なすべきか ということである 2 つ目は 中国は ベルト や ロード 沿いの国々から構想の受け入れと協力を得ることができるか ということである そして 3 つ目は 中国は 経済的 政治的リスクを可能な限り回避することができるか ということである (3) アメリカの アジアにおける再均衡化 をどう評価するか a. ワシントンは 中国の台頭に対応するために 再均衡化 戦略を発動した これに対して 北京は 1 つには 再均衡化 戦略による負の影響に対応するために OBOR 構想を打ち出した その結果 再均衡化 戦略に対する中国の評価は 北京の対応に大きな影響を及ぼすことになろう もしその戦略が中国を封じ込めようとするものであれば その場合には 北京は 準同盟国や友好国とのパートナーシップを動員するなど ( 中国に ) 同調する同盟網を構築することで これに対抗しなければならない そうすることで 中国は その政治的影響力を拡大し 一方で中国周辺部におけるアメリカの影響力を弱めることができる b. しかし アメリカの戦略は 対中封じ込めを狙ったものではないかもしれない 恐らく この戦略は アメリカは中国と対決する能力を持っているが それは最後の手段で そうなることを望んでいないとのメッセージを伝えることに狙いがある 要するに この戦略は 関与と抑止の 2 重の目的を持った ヘッジ戦略である この場合 米中両国の戦略的目標は大きく重なり合うことになり 抗争と協力の同時進行が米中関係の新しい通常の状態ということになろう c. 冷戦後のアメリカの最大の課題は 急速に台頭する中国である クリントン政権期のワシントンは 北京に対して関与と抑止の明確なヘッジ戦略を採用した 当時 中国はアメリカに挑戦する能力を欠いていたため ワシントンは 国際政治経済システムに中国を取り込むために 関与を強調した 2008 年の世界金融危機後 中国は世界の政治 経済分野で益々重要な役割を果たすようになるにつれて アメリカは対中政策を調整し始めた 中国が G2 概念を受け入れないため オバマ政権は抑止を強調し始めた ワシントンは アジアへの軸足移動 を進め 後にこれを アジアにおける再均衡化 と再定義した 同時に ワシントンは 中国とのバランスを取りながら 南アジア諸国の支持を集めるために インド アジア太平洋地域 という概念を提唱した アメリカが依然として中国への関与をあきらめていないことは注目に値する (3) 近隣諸国の疑念を如何に払拭するか a. 中国の近隣諸国は 中国による自国の国益追求姿勢が近隣諸国を害しかねないことを懸念している こうした恐れから 近隣諸国の多くは 中国への経済的依存の一方で 安全保障をアメリカに依存するという 2 重戦略を採ってきた b.obor 構想の実施を成功させるには 特に安全保障面でルート沿いの諸国からの真の理解と 39

42 支持を得ることが肝要である これは OBOR 戦略全体にとって最大の課題であるといえるかもしれない まず初めに 中国は 南シナ海における共通の漁業取り決めの実現や 2 国間や多国間軍事演習とともに合同哨戒活動の実施など 主要地域におけるサブリージョナルな安全保障メカニズムの構築を目指すべきである c. 経済面では 中国は シルクロード沿いの諸国と中国の経済成長を共有するために 投資とインフラの共同構築を通じて OBOR 戦略を進めてきた しかしながら 多くの中小国は 中国への経済的依存が中国移民の急増や国内の汚職の増加につながることを懸念している 先進国が投資した従来のケースではこのような現象はほとんどないが それでも北京は こうした懸念を払拭することに努めなければならない 他にも これら諸国の中には 大規模な建設プロジェクトが環境にもたらす負の影響や 大規模な投資が彼らの伝統的な文化や生活様式を変化させることに対する懸念がある このような問題を解決することは非常に困難であろうが 中国には選択の余地がない (4) 政治的 経済的リスクを回避できるか a. 台頭する国は必然的に 政治 安全保障 経済そして文化の領域における自らの空間領域を必要とする 歴史的に見て こうした空間領域は排他的なものであった 今日でも アメリカの 再均衡化 は 2 国間同盟や準同盟関係の強化と 排他的な環太平洋パートナーシップ (TPP) の推進に見るように 排他的な安全保障と経済のメカニズム構築を目指している しかし 中国の取り組みは違う 中国は アジア太平洋自由貿易圏 や アジアインフラ投資銀行 (AIIB) など 中国主導の地域メカニズムは アメリカの参画を歓迎している アメリカに比べて 中国の取り組みはよりオープンである b. 中国にとって独自の地域的な空間領域を構築することは グローバルパワーになるためには必要な措置である 中国の強みが経済分野にあるが故に OBOR 戦略は 主に経済協力を重点としている しかし率直に言って 全てのシルクロード沿いの国の経済を活性化することは 一国単独の能力と責任を超えた任務である 従って 中国は OBOR 戦略を実施するに当たって その経済的 政治的なリスクについて慎重でなければならない c.obor 戦略の政治的リスクにも注目する必要がある シルクロード沿いの多くの国は 政治的な不安定 深刻な腐敗 そしてまたテロの脅威に直面している 中国と協力する意志を持った 経済的潜在力のある政治的に安定した国を 見出すことができるか これは OBOR 戦略の主要な検討課題となろう シルクロード沿いの国家は 4 つのグループに大まかに類別できる 即ち 1 中小国家 2 中国との領土紛争を抱えている国 3 各地域の主要国 そして4 基軸国家( pivot states ) になり得る可能性のある国家( この意味するところは 中国の信頼できるパートナーであり 一定水準の国力を保有した国家ということ ) である この 4 つ目の国家が OBOR 戦略の鍵となる (5) この論評では OBOR 戦略が直面する 3 つの課題 ( あるいはリスク ) を取り上げた OBOR 戦略は 中国が包括的なグローバルパワーになるための青写真である OBOR 戦略は アメリカの 再均衡化 戦略と競合するものである 両者の競合は 米中両国の国力の様々な側面を試すものになろう もし中国が適切に OBOR 戦略を遂行できれば 北京にとって アジア太平洋地域を アメリカ の地域から 中国の近隣地域 ( China s neighborhood ) に変えることが可能になる 逆に OBOR 戦略が失敗した場合 それはアメリカにとっては機会であり 中国にとってはトラブルを意味する OBOR 戦略は 中国がグローバルな影響力を持つ地域大国 40

43 から 包括的なグローバルパワーに発展していこうとする試みである 戦略は決定されたが その詳細な具体化が成否を左右することになろう 中国は比較的には既に強国だが この戦略を実施するに当たっては 自国の力を強調することには慎重でなければならない 中国は シルクロード沿いの諸国の財務省になることを望んでいるわけではないのである 記事参照 :How China Can Perfect Its 'Silk Road' Strategy 4 月 11 日 中国による南シナ海の埋め立て作業 脅威ではない 中国人専門家論評 (The Diplomat, April 11, 2015) マカオ大学准教授 Dingding Chen は 4 月 11 日付の Web 誌 The Diplomat に Relax, China's Island-Building in the South China Sea Is No Threat と題する論説を寄稿し 南シナ海で中国が進めている岩礁や環礁の埋め立て作業について 他国が懸念するような意図はないとして 要旨以下のように述べている (1) 最近の多くの報道によれば 中国が進めている南シナ海の岩礁や環礁における埋め立ては 他のアジア諸国の懸念や不安を高めている アメリカやアジア諸国が抱いている不安は 埋め立てが完了すれば 南シナ海における中国の軍事的プレゼンスが大幅に強化され 南シナ海全域の支配を目指す中国の試みが大きく前進することになるかもしれないということである 中国が 4 月 9 日に行った説明によれば このような埋め立てによって 中国の国家主権の保護 海洋科学調査の進展 及びその他の国際公共財の保護など 多くの利益がもたらされるということである より重要なのは 中国が現在進めていることは 例えばベトナムがかつて行った埋め立てと何ら変わることがないということである もちろん 現在中国が進めている埋め立ては その作業速度や規模といった点で異なってはいるが それは 中国が作業を進めるための資材 マンパワーそして技術力を有しているからに過ぎない もし他国が中国と同じような能力を持っていれば これらの他国でも現在の中国と同じような作業を行うことができよう 従って この意味で 埋め立て作業だけに注目した国外からの批判は 的はずれである (2) もっとも 中国の埋め立て作業の狙い 特にその軍事目的や軍事的用途に対する懸念については 納得できる 埋め立てられている岩礁や環礁について 中国が軍事的な意図を全く持っていないと主張することは不誠実であろう 実際 中国は既に これらの埋め立て島嶼が将来 国家主権を護るために使用される可能性があることを認めている 他国から攻撃された場合 国家主権を護るために軍事力を行使することには何ら問題がない そうであるならば 他国は中国を批判することはできない 本当に重要な問題は こうした埋め立て作業が 中国によるアジアの隣国やアメリカに対する攻撃的意図を表しているのかということである 要するに これらの埋め立て島嶼を活用して 中国は将来的に ベトナムやフィリピンが現在 実効支配している島嶼や環礁を強奪するために軍事力を行使することになるのであろうかということである これらの疑念に答えるためには 中国の埋め立て作業を 中国の総合的な外交政策や大戦略から切り離すのではなく より広い視点から考察する必要がある 結局 埋め立て作業は 中国の国際問題に対する総合的アプローチのほんの一部分に過ぎないのであり 他国のアナリストのように 木を見て森を見ず になってはならないのである (3) 中国は 他国に対する攻撃的意図を持っているのであろうか 主として 2 つの理由から 答えは ノー である 41

44 a.1 つは 19 世紀ならいざしらず 現在 中国が他の小国を征服するなどということは愚かだし馬鹿げているということである 国家が貿易や投資といった より安全で効果的な方法によって国力の増進を図っている 今日のグローバル化した世界において 戦争に訴えることで得られる利益は大幅に減少している アメリカが良い例である 過去 14 年間 アメリカは イラクとアフガニスタンにおいて 2 つの犠牲の多い不必要な戦争を戦ったが それらの戦争から得られた戦略的利益は限られたものであった アメリカが他の台頭するパワーに比して相対的に衰退しているのは 主としてこのためである 世界唯一の超大国でさえ戦争によって利益を得られない時代に 未だ台頭するパワーに過ぎない中国が軍事的冒険を冒すであろうか b.2 つ目の理由は 中国の国内問題である 中国は 目覚ましい発展を遂げてはいるが 依然として巨大な発展途上国である アメリカの中国専門家 David Shambaugh は 将来的な中国の崩壊という誤った予測を示しているものの 中国が今後 20 年から 30 年に亘って直面する多くの深刻な問題を指摘している 2050 年の時点でも 中国は世界で最も発展した国家にはなっていないと結論付けることは難しくない 近年 中国の外交政策が以前よりも高圧的なってきているのは事実だが あらゆる兆候から見て 中国の指導者が 限定的な外交的勝利のために 国内の経済発展を阻害するようなリスクを冒すことはないと言える (4) 従って 最近の中国の埋め立て作業を分析するに当たっては 中国の全般的な外交政策目標が何かに留意しておく必要がある 中国の外交政策は 依然として平和的台頭 平和的発展 そして 中国の夢 の実現を重視している この大きなデザインを無視し 幾つかの小さな島嶼だけを取り上げることは 中国の脅威を煽り しばしば無用な諍いの原因を作るだけである 埋め立て作業に関する中国の最近の説明は 中国の指導者がその危険性を認識しているという好ましい証である 他国もこれを歓迎すべきであろう 記事参照 :Relax, China's Island-Building in the South China Sea Is No Threat 関連記事 中国の埋め立て作業は脅威 米専門家反論 (The Diplomat, April 30, 2015) 米シンクタンク East-West Center の上席研究員 Denny Roy は 4 月 30 日付の Web 誌 The Diplomat に New PRC South China Sea Bases No Cause to Relax と題する論説を寄稿している この論考は マカオ大学准教授 Dingding Chen が 4 月 11 日付の同誌に Relax, China's Island-Building in the South China Sea Is No Threat と題する論説を寄稿し 南シナ海で中国が進めている岩礁や環礁の埋め立て作業について 他国が懸念するような意図はないと主張していることに対する反論である Roy は Chen が主張を 5 つの論拠に纏め それらに反論して 中国の埋め立て作業が平和的であるという理屈は成り立たず 地域の安全保障環境にとって脅威になっているとして 要旨以下のように述べている (1)Chen が挙げる論拠の 1 つ目は 他の領有権主張国も既に埋め立て作業を実施してきたということである これは事実だし Chen の言うとおり 中国の埋め立て作業は 作業速度や規模で異なっている 中国は大規模かつ迅速な埋め立て作業を実施しており 他の領有権主張国の作業がほどほどの規模で 段階的であったのとは対照的である 中国は豊富な資源を有する大国であり これは驚くべきことではない 全ての領有権主張国は自らの主張を一方的に強化しよう 42

45 と試みてきたが 中国は 他の国を全て合わせたよりも大規模な作業を力ずくで進めてきたというのが 大方の見方である (2)2 つ目は 中国が 他国に対して攻撃的意図を持っていない ということである 中国は 南シナ海における自国の領域防衛を主張しているが 他の領有権主張国も同じように主張している この観点からすれば 中国の意図は攻撃的である 既に 現実問題として紛争は存在しており 従って 問題は それを平和的な交渉を通じて解決するか あるいは武力によって解決するかである 中国の埋め立て作業は 中国の意図が後者であることを改めて証拠立てるものである 中国の南シナ海戦略は 他の領有権主張国に比して自国の軍事力や準軍事能力の大きな優位を背景に 強制や威嚇といった手段を駆使するものである そこに見られる明らかな意図は 中国の優位を最大限発揮できるアプローチである 他の領有権主張国との個別の 2 国間交渉に持ち込み 中国の条件に従って領有権問題を解決することを他の領有権主張国に強いることである 中国の視点からすれば 戦争は非生産的なものかもしれないが 他国に対する威嚇はそうではないと考えていることは明白である 戦争を避けたいとの願望は 同じように戦争を避けたいと考えている敵対国の願望を利用する戦略を排除するものではないのである (3)3 つ目は 中国は未だ 発展途上国 であるため その外交政策は今後数十年 慎重なものになるであろうと主張していることである この主張には 2 つの論点がある 1 つは 中国は幾つかの尺度では依然貧しい国であることから 戦争遂行の余裕がないということ これに対する反論は 自国内の貧困撲滅は 必ずしも戦争を遂行するための前提条件ではないということである 超大国アメリカには 第三世界並の生活水準にある数百万の住民がいる 中国の 発展途上 という段階は 前例のないペースで拡大を続け現在では世界第 2 位の規模となっている軍事費によって促進されている 急速な軍備拡大と近代化を妨げているわけではない 2 つ目の 貧困が平和を導く という論点は 2 つの点から反論できる まず 政権の不安定さは 戦争回避に向かわせるのと同時に 逆に戦争を引き起こすことにもなるということである 内憂を外患に転じるという事例は 歴史に見られる通りである 次に 明らかに国家の領土や威信に対する挑戦と見られる紛争では 戦うよりもそれを回避しようとする方が政権にとってリスクが大きいこともあるということである 中国国民は 諸外国 特に近隣の小国に対して 自国の指導者が弱気な態度を取ると即座に非難する (4)4 つ目は 北京による 説明 を 諸外国は歓迎すべき であると主張していることである 中国政府の説明を 中国の指導者がその危険性を認識しているという好ましい証である と言うことには 同意しないわけではない しかしながら 実際には Chen は 他の領有権主張国やその他の国に対して 単に中国政府のプロパガンダを繰り返しているに過ぎないのである (5)5 つ目は 中国の南シナ海政策に対する懸念は脅威を煽り しばしば無用な紛争の原因となる過剰な対応を誘発すると主張していることである もし Chen が外部世界に対して 脅威を煽ったり 過剰な対応を戒めたりしているのであれば 我々は 例えば 中国政府の報道官やその他の代弁者が 日本の普通の安全保障政策に対して大げさな態度で不満を述べてきたことや アメリカが中国の経済成長の抑制を図っているなどと主張してきた 数多くの事例を思い起こす 中国側の議論は 非論理的である もしこの地域の国々が自国の重大な権益が存在する東アジアの海洋への中国の影響圏の拡大を容認できないのであれば 各国は 同意したかのような態度では かえって中国の野心を煽り 将来的により深刻な紛争の種を蒔くことになることから 反対の声を上げる方が良いし またそうする必要がある 43

46 記事参照 :New PRC South China Sea Bases No Cause to Relax 4 月 14 日 中国 西沙諸島の 永興島 で滑走路延長 (The Diplomat, April 14, 2015) 4 月 14 日付の Web 誌 The Diplomat に アジア太平洋地域情勢を専門とするフリーランス Victor Robert Lee が寄稿した記事によれば 中国による南シナ海の南沙諸島の 7 カ所の岩礁や環礁における埋め立て工事とは異なり 余り注目されていないが 中国は ベトナム沿岸 400 キロの西沙諸島の 2 つの島嶼でも滑走路の延長や埋め立てを行っている 3 月 17 日の衛星画像によれば 中国は 1956 年以来占拠している西沙諸島宣徳群島の Woody Island( 中国名 永興島 ) で 滑走路の延長工事と付属施設の建設を行っている この 5 カ月間で 既存の長さ 2,400 メートルの滑走路が長さ 2,920 メートルのコンクリート舗装の滑走路になり 更に新しいタクシーウェーが建設され エプロン部分が拡張され 大型の付属施設が建設中である また 同島では埋め立て工事も行われている 永興島から南西に 80 キロの位置にある 永楽群島の Duncan Island( 中国は 1974 年にベトナムから奪取 中国名 深航島 ) でも埋め立て工事を行っており 2014 年 4 月以来 面積がほぼ 50% 増大している 同島には 駐留部隊の宿舎 4 基のレーダードーム コンクリート製造プラント そして最近浚渫によって拡張された港がある 埋め立て部分には コンクリート防壁が構築されている 中国が占拠している近くの Drummond Island( 中国名 晋卿島 ) でも 新たな建屋が建設されている 記事参照 :South China Sea: China Is Building on the Paracels As Well s-well/ Map: Woody Island and Duncan Island 35.jpg Photo: Woody Island and Duncan Island 04.jpg Photo: Duncan Island 51.jpg 4 月 16 日 中国 南沙諸島の 永暑礁 に滑走路建設 (Jane s Defense Weekly, April 16, 2015) 4 月 16 日付の Jane s Defense Weekly によれば 中国が南沙諸島の 7 カ所の岩礁や環礁で埋め立て工事を行っているが その内 南沙諸島西方にある Fiery Cross Reef( 中国名 永暑礁 ) に初めて滑走路の建設を始めたことが衛星画像から判明した 3 月 23 日の衛星画像によれば 2014 年後半から埋め立てが始まった永暑礁の北東側に 幅 53 メートルの滑走路が整備されつつあり 長さ 503 メートルまで舗装されていることが判明した 更に 幅 20 メートルのエプロン部分も約 400 メートル舗装されている 永暑礁は埋め立て工事で長さ約 3,000 メートルの滑走路を建設できる地積があり これは長さ約 2,700~4,000 メートルの中国本土の空軍基地の滑走路の規格に十分適合するものである 更に永暑礁では 南西側が浚渫されており 内壁をコンクリートブロックで固めた港が建設されており 入港船舶を波浪から護るための外壁も延長されている 一方 3 月 5 日までの衛星画像によ 44

47 れば 南沙諸島北方の Subi Reef( 中国名 渚碧礁 ) でも 少なくとも 9 隻の浚渫船が浚渫しており 3,000 メートル級の滑走路を建設するに十分な地積が造成されそうである 渚碧礁は フィリピンが占拠し 民間人も居住している Thitu/Pagasa Island( 中国名 中業島 ) からわずか 25 キロの距離にある 記事参照 :China's first runway in Spratlys under construction Photo: Airbus Defence and Space imagery shows changes to Fiery Cross Reef observed between February and March Noteworthy is the beginning of airfield installation in March, and the relocation of some dredging activity out of the harbour. 4 月 16 日 中国 新シルクロード の根幹 鉄道網の建設 米専門家論評 (China Brief, The Jamestown Foundation, April 16, 2015) Web 誌 China Brief の編集長 Nathan Beauchamp-Mustafaga は 4 月 16 日付の同誌に Rolling Out the New Silk Road: Railroads Undergird Beijing s Strategy と題する論説を寄稿し 中国の 新シルクロード 戦略を支える重要な要素は鉄道網であるとして 要旨以下のように述べている (1)2014 年 12 月 Yu Xin Ou Railway( 渝新欧鉄道 ) の列車が中国浙江省の義烏から 8,000 マイル離れたスペインのマドリッドに到着したことは 北京の 新シルクロード 戦略において重要な役割を果たす中国の鉄道ネットワークが ユーラシア大陸を横断して急速に拡充されていることを示した もっとも 義烏 -マドリードの間の鉄道は 異なる 3 つのゲージで建設されており それぞれの切り替え箇所で車両を切り替える必要があった 中国国内の鉄道インフラ開発は 一帯一路 構想 ( 21 世紀海洋シルクロード (MSR) と シルクロード経済ベルト (SREB) ) 沿線諸国と中国との物理的な連結を可能にすることから注目されている 蘭州 -ウルムチ 広州 - 南寧 そして貴陽 - 南寧という 3 本の新たな鉄道路線が 2014 年 12 月に開通した時 新華社通信は これらの鉄道路線の開通は 中国の鉄道網を 3,000 キロ延伸するだけでなく 一帯一路 構想という大動脈の血流を促進するものである と報じた 蘭州 -ウルムチ線は ユーラシアの後背地にあり 中国が建設中の SREB の核心地域を通って おり そして新疆ウイグル自治区を中央アジアやヨーロッパと結び付けるとともに 中国の西部開発や工業化を支援することになろう (2) 中国は 自国の鉄道技術を 新シルクロード 戦略の一環として 特にロシアとの間でより大きな経済協力に向けての梃子としてきた 王毅外交部長は 2015 年の全人代で SREB を含む ロシアとのウイン ウインの 2 国間関係と 鉄道建設における協力促進 に言及した 人民日報は モスクワ- 北京間のユーラシア高速鉄道網を建設することは 両国関係の核心部分における 2 国間協力の進むべき方向であり そしてこうした 2 国間協力は 極東地域への新たなる物流ハブとなる モスクワ-カザン間の高速鉄道網の建設にも適用される と報じた 中国メディアは こうした鉄道網の建設協力を通じて 将来的に中国の東北地方が遼寧省 吉林省そして黒龍江省を横断する鉄道を通じてロシア極東地方と結び付けられることになろう と報じた 新シルクロード 戦略と中国の鉄道技術との密接な連関は 中国企業がトルコのイスタンブール-アンカラ間の新鉄道を建設していることにも表れている 人民日報の報道によれば トルコ当局者は 新シルクロード 戦略への支持を公式に表明し 中国によって進められてい 45

48 る 一帯一路 戦略は トルコ東部における 4 路線の鉄道建設計画と符合するものである と語った (3) 中国による鉄道網の延伸が持つ軍事的影響については ほぼ中国領土内に限られると見られる 中国国内の鉄道網は部隊や移動式ミサイルの国内移動を容易にし そして軍事戦略上 ある程度鉄道利用を想定していることも確かであろう しかしながら 戦時においては 他国が中国国境沿いの鉄道を容易に爆撃できることから 鉄道網の沿線諸国からの協力を得られた場合にのみ 鉄道網は有効な移動手段となろう 鉄道網に関する人民解放軍の関心は 最近の軍事専門紙に掲載された人民解放軍の専門家の記事から窺える 人民解放軍の専門家は ロシアがクリミア戦争や日露戦争で敗れたのは 鉄道網構築の遅れ による と指摘している 更に この専門家は 中国のような広大な陸地領土において 鉄道網は兵力展開にとって 迅速かつ効果的 な手段となり得る と述べている 国外への部隊展開のために必要な協力は 2007 年に実現した この年 人民解放軍は 鉄道を利用してロシアに部隊を輸送した後 上海協力機構 (SCO) 主催の Peace Mission 2007 演習に参加した 2010 年の演習でも 鉄道を利用して部隊を輸送した 2014 年の演習では 中国が鉄道で輸送されてきた外国部隊を受け入れた (4) 新シルクロード 戦略の地政学的意義から見て 鉄道網は中心的な役割を果たしている 台湾の研究者 Shi Qiping は 2014 年 12 月に香港のテレビで 鉄道網は中国の 反封じ込め ( counter-containment ) 戦略を支えるものであるとして ユーラシア大陸を横断する鉄道網を構築することで 中国は経済の中心軸をアジアへと移すことができ 一方 アメリカは 最初はアメリカが中国を包囲しようとしていたのに 今や中国によって包囲されつつある ということに突然気付かされることになろう と述べている 新華社は 2015 年 4 月に SREB はアメリカの中国包囲網を突破することを意図しているが 中国は MSR によって 第 1 列島線を突破して 太平洋に東進することができ 南シナ海の南端までコントロールでき そして マラッカ海峡を通過して南シナ海からインド洋へと進出できる と述べ Shi Qiping の発言よりも明快である 新シルクロード 戦略について軍事的側面からしばしばコメントを寄せている 人民解放軍国防大学の紀明貴少将は 東南アジアにおける日本の影響力を抑える手段として タイとの鉄道建設協力を提唱している また 中国とロシアは 中央アジアでの鉄道建設に当たって いずれの国のゲージで建設するかを巡って抗争しているといわれるが 中国からの融資で建設される鉄道は中国のゲージで建設されると見られる (5)SREB のメインルートは中央アジアからヨーロッパに至るルートだが MSR も その輸送ネットワークの一部として 中国南西部の広州から沿岸域を結ぶ 2 本の新設鉄道を利用する MSR には 昆明からベトナム ビルマ カンボジア ラオス タイそしてマレーシアを縦断してシンガポールに至る鉄道も含まれている ある中国メディアの報じるところによれば ASEAN の全ての国が鉄道建設を望んでいるが 一方で多くの国が財政上の問題を抱えているため 中国は 400 億ドル規模の シルクロード基金 でこの問題を解決する用意があり これによって中国の拡大輸送網構築戦略にアジア全域を巻き込むことができるであろう 中国政府は近年 鉄道技術の輸出に力を入れてきたが 新シルクロード 戦略は 沿線諸国に物理的なインフラ構築の協力を求めているが 中国国営の China North Railway(CNR) や China South Railway (CSR) の海外進出を促進する優れたフレームワークとなろう 46

49 記事参照 :Rolling Out the New Silk Road: Railroads Undergird Beijing s Strategy &tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=e4476dcd77a0d80f15ff2cc66573a27 4#.VTNE8HkcTIU 4 月 16 日 中国の 海上シルクロード 構想 その軍事的 戦略的狙い インド人専門家論評 (National Maritime Foundation, April 16, 2015) インドのシンクタンク National Maritime Foundation(NMF) の理事長 Gurpreet S Khurana は 4 月 16 日 NMF の Web 上に China s Maritime Silk Road : Beyond Economics と題する論説を掲載し 中国の 海上シルクロード 構想は単なる経済的狙いを超えた 軍事 戦略的目標を内包しているとして 要旨以下のように述べている (1) 漢時代の シルクロード に由来する 海上シルクロード (Maritime Silk Road: MSR) 構想は 中国の外交政策の主たる原動力となっている MSR 構想は 中国の経済的目標を達成するためだけではなく インド 太平洋地域における中国の国家目標を実現するための効果的な 偽装 として 経済 を利用するものでもある 本稿では MSR 構想が ( 純粋に ) 経済 だけの領域からより広範な ( 経済プラス ) 地政学的領域にまでどのように拡大されてきたかを検討するため 中国のこの地域における大戦略の目標から MSR 構想を分析していく (2)MSR 構想は 中国がその影響力を 周辺 ( インド 太平洋地域 ) に そして可能ならそれ以遠にまでに伝播させていく上で役立つ 中国のような 非現状維持国家 にとって 最も重要な課題は 国際機構や地域的フォーラムにおける MSR 構想のパートナーからの支持 ( 発言 ) である 中国にとって このような支持は 好ましいグローバルな秩序を構築し 海洋と陸上における領有権主張を実現するために必要である 同時に 中国にとって この地域における西側 特にアメリカの影響力に 取って代わる ことも必要である 中国の地域的影響力は 製造業が求める天然資源や原料資材に対するアクセスを確保する上でも 必要である 北京が 貿易は国旗に従う( flag follows trade ) という格言を強く信じ 経済成長維持のために 重商主義的 アプローチをとっていることは よく知られている (3) 中国は 域内諸国への武器輸出を増やしている 2010 年から 2014 年の間 中国は ドイツ フランス及び英国を凌駕し 世界 3 位の ( 世界の武器輸出の 5% を占める ) 武器輸出国となった しかし (27% を占める )2 位のロシアとは大きな差がある MSR 構想は 中国の防衛産業が潜在的に大規模な域内武器市場に参画する上で役立つであろう かくして MSR 構想は 安全保障分野における域内諸国の中国へ依存を高めることで 経済 領域から北京の 国家戦略 目標の領域にまで拡大されていく 更に インド洋沿岸諸国が使用する中国製の兵器は 海外における中国兵器の技術的支援や整備支援を通じて インド洋における海軍部隊の持続的な展開を実現する上で 中国に大きな軍事戦略的配当をもたらすことになろう 最近 中国はアジアの近隣諸国に対して 軍事力の誇示を含め 益々高圧的になってきたが MSR 構想は こうした政治的 軍事的高圧姿勢による悪影響を緩和することになるかもしれない 更に MSR 構想とアジア諸国の中国に対する高い経済依存を梃子に 中国は 対立のエスカレーションを押さえ これら諸国に中国の意志を強要できるようになるかもしれない また MSR 構想は 西側の言う 真珠数珠繋ぎ ( String of Pearls ) 論批判を躱す上で有効な手段になるかもしれない MSR 構想を公表する前には 中国は インド 太平洋地域における港湾建設プロジェクト 47

50 が戦略的な狙いではなく商業的な目的であることを 世界に納得させるために苦慮してきたが 中国の言い分を信じる者はほとんどいなかった MSR 構想は 彼らに対して 中国が 何時も話してきた ことが 真実 であることを理解させる最善の方法である 同時に MSR 構想は ( 海賊対処のような ) 平時任務や一時的な偶発事態に派遣される中国海軍部隊への補給支援のために インド洋沿岸諸国の海洋施設を利用する選択肢を中国に与えることにもなろう ( これは アメリカの概念 基地 ではなく 場所 (the US concept of places, not bases ) に近い) (4)MSR 構想は 東アジアにおける中国封じ込めを狙うアメリカの 再均衡化 戦略に対する対応と見ることができるかもしれない 地政学的レベルにおいて アメリカの封じ込めには 経済的 外交的要素が含まれる 経済的要素は 環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) などのアメリカ主導のブロックの創設から中国を排除することである 外交的要素は 日本などの域内の同盟国と インドや他のインド洋沿岸諸国などの パートナー との政治的 外交的連携によって中国を孤立させることである 同時に アメリカの 再均衡化 戦略には 実質的な軍事的 戦略的要素も含まれている アメリカの戦略は 西太平洋における軍事プレゼンスの強化と 国際公共財におけるアクセスと機動のための統合構想 (Joint Concept for Access and Maneuver in the Global Commons: JAM-GC) を通じて 中国に対する軍事的 戦略的な封じ込めを追求している MSR 構想は アメリカの 再均衡化 戦略に対する 戦略的な目眩まし (a strategic distraction ) と見ることができるかもしれない MSR 構想を通じて 中国は インド洋沿岸域における海軍力投射を目指すことができ それによって中国の裏庭におけるアメリカの軍事的 戦略的 圧力 を軽減することができるかもしれない 現在の MSR 構想の説明では 海洋安全保障 の要素が省かれているが こうした目標に向けて 安全保障 は 中国にとって インド洋沿岸域における海軍力のプレゼンスを強化するために必要な口実となり得る しかしながら 留意すべきは 北京にとって インド洋沿岸域への海軍力のアクセスのためには 東南アジアの海洋におけるチョークポイントのほとんどを抑える地理的位置にある インドネシアの支援が不可欠であるということである 中国海軍が 2014 年 2 月に インドネシアのスンダ海峡とロンボク海峡を通過し オーストラリア沖で前例のない また外部に公表しない演習を行った事実を思い起こす 従って MSR 構想にとって インドネシアの支持の重要性を強調することは 過大評価には当たらない 記事参照 :China s Maritime Silk Road : Beyond Economics 4 月 24 日 中国の シルクロード経済ベルト 構想の地政学的課題 RSIS 専門家論評 (RSIS Commentaries, April 24, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の研究員 Zhang Hongzhou と Arthur Guschin は 4 月 24 日付の RSIS Commentaries に China s Silk Road Economic Belt: Geopolitical Challenges in Central Asia と題する論説を寄稿し 習近平主席の シルクロード経済ベルト (The Silk Road Economic Belt: SREB) 構想の成否は中央アジア諸国とこの地域の支配的大国であるロシアが SREB 構想に如何なる対応を示すかによって大きく左右されようとして 要旨以下のように述べている (1) 習近平主席が 2013 年 9 月の中央アジア訪問で打ち出した シルクロード経済ベルト (The Silk Road Economic Belt: SREB) 構想の成否は 中央アジア諸国とこの地域の支配的大国である 48

51 ロシアが SREB 構想に如何なる対応を示すかによって大きく左右されよう 公式的見解では 全ての中央アジア諸国とロシアは SREB 構想を歓迎しているものの 子細に観察すれば これら諸国は SREB 構想に対して地政学的懸念を持っており このことが中国にとって最大の課題となっている (2) 中央アジア諸国の全ての指導者は SREB 構想に対する支持を公式に表明してきた 中央アジア諸国の肯定的な反応は容易に理解できる 即ち ロシアの経済不況と世界経済の不透明な先行きの中で SREB 構想は 中央アジア諸国が渇望する膨大な経済的機会を提供することになるからである 全ての中央アジア諸国は陸封経済であり ほとんどが資源部門に大きく依存する貧しい発展途上国である 従って 中国の SREB 構想の中核的目標である 経済的連結とインフラ建設は 中央アジアにおける経済発展にとっても不可欠である 400 億ドル規模のシルクロード基金に裏付けられた SREB 構想に対して 中央アジア諸国は ユーラシアとヨーロッパを結び付ける中国の構想から 特に 通過ハブ になることで新たな現金収入を獲得することを熱望している (3) 一方で 中央アジア諸国の指導者は 中国の SREB 構想を歓迎しながらも その地政学的含意に対しては深い懸念を持っている 中国の指導者は SREB 構想が持つ微妙な意味合いに留意し SREB 構想は地域間の連結を強化し 経済の相互繁栄を促進するものであり 従って中国は中央アジア諸国の内政に干渉したり この地域における支配的な役割を求めたり あるいは影響圏を創出しようとしたりはしない と明言してきた しかしながら 多くの中央アジア諸国の政治エリートや安全保障専門家は依然として この地域における中国の経済的なプレゼンスの増大が地域の諸問題に対する中国の統制や干渉を招きかねないことを警戒している 更に この地域における中国の経済的影響力の増大によって 中央アジア諸国は 北京に対するヘッジとして アメリカあるいはロシアに接近しようとするかもしれない (4) 王毅中国外交部長は 2015 年 3 月 7 日 中ロ両国が SREB 構想の協力協定に署名する予定であることを明らかにした 中ロ関係はこの数年 大幅に改善されてきた しかしながら このような関係改善は 相互利益の強化や戦略的野心の共有によるものではなく むしろロシアが西側から益々疎外されていることによるものである ロシアが SREB 構想への支持を表明したのは確かだが SREB 構想から得られるロシアの利益には地理的な限界がある ロシアは SREB 構想の下で極東地域の開発促進のために中国と協力することに関心を持っているが 中央アジアにおける中国の影響力の拡大については懸念を持っている SREB 構想に対するロシアの慎重な姿勢は この長期プロジェクトがもたらす機会とリスクに対する評価に基づいている 中国とロシア間の共通の輸送システムの建設は 貿易と投資の障壁の撤廃とともに モスクワに経済的な利益をもたらすであろう 特に モスクワは既に 2 本の主要鉄道 Russian Far East Baikal-Amur(BA) 鉄道と Trans-Siberian(TS)Mainlines 鉄道の近代化と輸送能力強化のために 2018 年まで 5,600 億ルーブルを投資する計画である BA と TS を SREB 構想に結び付けることで ロシアは 新たな通行収入を得るとともに 極東地域の発展を促進させることができよう 更に ロシアにとって東への進出は 西側からの制裁と経済状況の悪化を克服する上で緊要である ヨーロッパ地域より後れているロシアの極東地域が 特に輸送インフラ面で SREB 構想に含まれることになれば ロシアにとって経済的な起爆剤になり得る (5) 他方で ロシアは SREB 構想が中ロ関係のみならず 中央アジアにおける現在の勢力均衡にも不可避的な影響を及ぼすことを 周知している 中国のインフラ投資の増大は 中央アジア 49

52 諸国の北京依存を高めることになろう ロシアは 旧ソ連地域における自国の影響力の低下を望んでおらず ロシアの影響力の低下を図る中国の行動に対してはその都度牽制してきた 例えば ロシアが上海協力機構 (SCO) 開発銀行や SCO 自由貿易地域の創設に反対してきたのは このためであった また この数年の間 中国は 中国西部地域から中央アジアを経由してカスピ海やヨーロッパを結ぶ鉄道網の連結構想を推進してきた この鉄道の戦略の一部は 1997 年に初めて計画された 268 キロに及ぶ中国 キルギス ウズベキスタン鉄道である この鉄道が沿線各国にもたらす潜在的な利益にもかかわらず 主として TS 鉄道に関して独自の地域鉄道戦略を持っているロシアの反対で この鉄道計画は未だ建設に至っていない (6) 中国は今のところ SREB 構想の背後に秘めた野心的な政治的狙いを露わにしてはいないが 地政学的課題が 中央アジアにおける SREB 構想推進の最大の障害になることは間違いない 中国が SREB 構想を成功させるためには 中央アジア諸国とロシアの地政学的懸念を軽減していく努力が緊要であろう 記事参照 :China s Silk Road Economic Belt: Geopolitical Challenges in Central Asia 4 月 25 日 中国 南シナ海で異常な早さで埋め立て作業促進 (The Diplomat, April 25, 2015) 東アジア太平洋地域を専門とするジャーナリスト Victor Robert Lee は 4 月 25 日付の Web 誌 The Diplomat で 中国が南シナ海で異常な早さで埋め立て作業を促進しているとして 要旨以下のように報じている (1) 南シナ海の岩礁や環礁で実施している埋め立て作業や建築工事は そのスピードや規模などから 戦時にも例がないほど 異常なものである 中国本土から 1,000 キロ以上も遠隔の南沙諸島での埋め立てや建設工事は 中国共産党の野心とそれを裏付ける現政権の巨大プロジェクトの迅速な遂行能力を誇示するショーであるとともに 領有権主張を誇示するものでもある 埋め立てや建設工事は 以下の 7 カ所 Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) Hughes Reef( 東門礁 ) Mischief Reef( 美済礁 ) Subi Reef( 渚碧礁 ) Cuarteron Reef( 華陽礁 ) Gaven Reef( 南薫礁 ) 及び Johnson South Reef( 赤瓜礁 ) で進められている Map: China s New Installations in the Spratly Islands (as of April, 2015) (2)Subi Reef( 渚碧礁 ) での埋め立てや建設工事は異例のスピードで行われており 4 月 17 日付の画像では 未だ建設中ながら ほぼ 3,300 メートルの滑走路らしき地形が見られる これは Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) で現在舗装されている同じような長さの滑走路に似ている 軍事専門家は 長さ 3,300 メートルの滑走路は中国海軍と空軍の事実上ほぼ全ての現有の戦闘機や支援機の離発着が可能であろうと見ている 2 月 6 日付の画像と比較して 4 月 17 日付の画像では 面積が 2.27 平方キロに拡大しており これは Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) の 2.67 平方キロに匹敵する地積である 2 つの最大の相違は Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) では滑走路 タクシーウェーとともに 港湾が建設中であることだが Subi Reef( 渚碧礁 ) では 環礁の南側の開口部が広げられ 自然の環礁に囲まれたほぼ完全な閉鎖海域が滑走路の右側に防護された港を形作っている Satellite Imagery: Subi reef, South China Sea, 6 February and 17 April,

53 Satellite Imagery: Subi reef, Spratly Islands, South China Sea, 17 April, Satellite Imagery(1): Fiery Cross Reef, South China Sea, 14 February and 17 April, Satellite Imagery(2): Fiery Cross Reef, South China Sea, 14 February and 17 April, (3)Mischief Reef( 美済礁 ) でも 急速な埋め立て工事が実施されており わずか数カ月前には海面上に環礁が見られない状態から 砂と破砕された珊瑚礁で埋め立てられ 4 月 13 日現在 約 2.2 平方キロの地積が出現している 衛星画像では 4 月 13 日現在 この環礁では 23 隻の浚渫船が 少なくとも 24 隻の大型建設作業船とともに 環礁に囲まれた礁湖の中で稼働している 同じ衛星画像では 28 両のコンクリート輸送ミキサー車両が視認され 更に数十両の大型トラックと掘削機が見られる また この環礁の北部の外縁も埋め立てられており ここは 3,000 メートル以上の滑走路が建設可能な比較的ストレートな形状になっている Satellite Imagery: Mischief Reef South China Sea, 13 April, Satellite Imagery: Mischief Reef, North Rim, 13 April, Satellite Imagery: Mischief Reef Southwest Rim, 17 February and 13 April, 記事参照 :South China Sea: China's Unprecedented Spratlys Building Program ding-program/ 4 月 30 日 南シナ海での中国の人工島造成 サンゴ礁を破壊 RSIS 専門家論評 (RSIS Commentaries, April 30, 2015) シンガポール国立大学の The Ocean and Policy Programme of the Centre for International Law の Youna Lyons 上席研究員と Wong Hiu Fung 研究助手は S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の 4 月 21 日付の RSIS Commentaries に South China Sea: Turning Reefs into Artificial Islands? と題する論説を寄稿し 中国による南シナ海での大規模な埋め立て工事は生きた珊瑚礁を建設材料に使用し 激しい環境破壊を引き起こしており 国際法違反であるとして 要旨以下のように述べている (1) 南シナ海で中国が行っている埋め立て工事は 南沙諸島の手付かずで原始のままの珊瑚礁を破壊しかねないことから 海洋環境破壊に対する懸念を引き起こしている 埋めて工事中の岩礁や環礁は 南シナ海の係争海域にある 高解像度の商業衛星の画像は Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) Hughes Reef( 東門礁 ) Mischief Reef( 美済礁 ) Subi Reef( 渚碧礁 ) Cuarteron Reef ( 華陽礁 ) Gaven Reef( 南薫礁 ) 及び Johnson South Reef( 赤瓜礁 ) での浚渫船を使用しての埋め立て工事の様子を鮮明に捉えている 中国が占拠していない小さな岩礁さえも浚渫され 近くの岩礁や環礁の埋め立てに利用されている 何世紀もの間手付かずであった珊瑚礁は 今や姿を消しつつある 例えば カッターレスポンプ浚渫船は 埋め立場所に投入して固める前に 珊瑚礁のような硬い海底の構造物を 他の付着する生物 ( 軟体動物 海藻やその他 ) と共に破砕し 吸い上げるのに使用される こうした浚渫船は あらゆる珊瑚礁を掘削するだけで 51

54 なく 噴射ジョット水で水中に沈殿物が舞い上がり まだ生きている珊瑚片や日光を必要とする光合成生物を脅かしている 過去の軍事施設の建設と珊瑚礁周辺での破壊的な漁業による環境への影響は 1980 年代後半からすでに報告されていた しかしながら これまでの活動はより小さな規模で 南シナ海の係争海域で現在行なわれているような 珊瑚礁の生態系を全て破壊するようなものではなかった (2) 通常 南沙諸島として知られている海域の地理的形態は 珊瑚礁で覆われた孤立した海山である 海底のこれらの海山は 最大幅 50 キロの深い海底峡谷で切り離され その高さは数千メートルである これら海山の頂上は 生きた珊瑚によって ( そして最も浅い部分ではしばしば海藻によって ) 覆われているか 覆われていた しかし これらの 100 余の海山のほんの 1 部が 干満を問わず常に海面上に珊瑚礁や小さな岩礁として姿を現しており その面積は 1 平方キロにも満たない これらの海底からの隆起が海水の上昇流を引き起こし 海の表層で生息する海洋生物に栄養豊富な深層水を供給している 海山は 海の明るい表層とその下層の両方において 様々な生命を育む特殊な環境を生む 極めて生産的な存在である しかしながら それらが孤立して存在することから それ自体脆弱であり 大規模な破壊からの回復は遅々たるものである 1980 年代に行われたフィリピンとベトナムの合同学術海洋調査と 最近の個々の科学者によって行なわれた海洋調査では これら海山の最も浅い部分では 珊瑚 魚類 海鳥類 回遊性の生物種そして珊瑚礁と共生するその他の生物種が豊富で 豊かな生物多様性が観察された (3) 南沙諸島を対象としている珊瑚生態学者は 1990 年代に 南沙諸島の極めて豊かな生物多様性は 乱獲される南シナ海沿岸域にとって またより一般的には生物多様性の維持にとって 不可欠の潜在的資源となろう と推測していた この仮説は 現場海域でのサンプリング コーラル トライアングル インドネシア マレーシア パプアニューギニア ソロモン諸島及び東チモールを結ぶ大まかな三角形の熱帯海域 に近接していること そしてモンスーンの影響で逆流する海洋循環流によって南シナ海の隅々にまで幼魚や稚魚を運び 大規模に拡散すること という事実の組合せに基づいている 最近の研究では 南シナ海の生物多様性は コーラル トライアングルに匹敵するか あるいはそれ以上であることを示唆している 従って それは オーストラリアのグレートバリアーリーフの生物多様性にも勝るということになる 南シナ海の沿岸諸国が漁をする沿岸域と外洋域の漁場は こうした珊瑚礁からの恵みを受けているのである 珊瑚礁に生息する魚類は キハダマグロや鰹を含む幾つかのマグロ種のような回遊性魚類の大集団を支える餌場でもある 珊瑚礁の破壊は こうした恩恵を全てではないとしても そのほとんどを消失させることになろう (4) 国際法の下では 南沙諸島の海山における建設工事に関しては 恒常的な管理措置を整備し適用することは 建設を行なう国 の義務である また 影響を受ける他の国々と協議するのも 建設国の義務である 国際法は 南沙諸島の海山の保護と持続可能な管理 及び人的活動による管轄海域を超えた環境汚染の影響を阻止し 管理することに関しても 明確な義務を規定している a. 第 1 に 南沙諸島の海山とそれらに生息する生物種は それらが保護を必要とする環境要件を満たすので 拘束力のあるなしにかかわらず 多くの国際的取極めの下で保護される資格がある b. 第 2 に 建設工事を行っている如何なる国も 当該海域の海洋環境に深刻な あるいは回復不能な被害をもたらし また自国の管轄海域を越えて南シナ海沿岸諸国の珊瑚礁や漁業に損害を与える可能性がある場合には 影響を受ける国々と協議しなければならない 工事を行 52

55 う国はまた 事前の予防処置を講じるとともに 工事の実施に当たっては警戒監視と予防義務を含む 種々の注意義務を遂行しなければならない これらには 公正な環境影響評価の実施なども含まれる c. 更に 潜在的悪影響の範囲に関する十分な科学的な根拠の欠如を これらの義務遂行を延期する理由としてはならない 管轄海域を越える危険の可能性について明らかな徴候が存在する場合は 南沙諸島で埋め立て工事を実施している如何なる国にとっても こうした積極的な義務を負う理由としては十分である (5) 南沙諸島の珊瑚礁と海山で建設工事を行っている国は 南シナ海沿岸諸国にまで影響が及ぶ危険があるために 海洋環境に打撃を与えることを避けなければならない こうした危険を無視することは 東南アジア諸国や南西部太平洋諸国の間における地域協力と政治的安定にとって より広範な影響を及ぼすことになろう 記事参照 :South China Sea: Turning Reefs into Artificial Islands? 5 月 6 日 南シナ海 次は中国の 浮島 ベトナム人専門家 (RSIS Commentaries, May 6, 2015) ベトナムの国立ハノイ大学准教授 Nguyen Hong Thao は シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の 5 月 6 日付の RSIS Commentaries に South China Sea: China s Floating Islands Next? と題する論説を寄稿し 中国が最近 南シナ海に 浮島 (floating island) を配備する意向を明らかにしたことについて もし配備されれば 係争海域において主権を誇示する新たなツールになるとして 要旨以下のように論じている (1) 南シナ海のサンゴ礁を軍事拠点化する大がかりで迅速な埋め立て工事に対する域内の懸念が高まっている中で 中国は 今度は 浮島 を南沙諸島に配備するという 一層無謀な計画を目論んでいる アメリカの著名な雑誌 Popular Science( 電子版 ) の 4 月 20 日付の記事によれば 中国の 2 つの企業 Jidong Development Group(JDG)( 冀東発展集団公司 ) と Hainan Hai Industrial Company が 浮島 を設計し 建造している * 同誌によれば 最初の 浮島 は 南シナ海における深海開発支援プロジェクトの拠点になるという 浮島 は 満載排水量が 40 万 ~150 万トンで 時速 16 キロ (9 カイリ ) で移動でき 民事と軍事の両方の任務を支援できる 浮島 は 多くの海兵大隊や戦闘飛行隊を輸送できる 中国は 南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張する 9 段線 を管轄する新たなツールを持つことになろう JDG が 4 月に行った記者会見には 人民解放軍の幹部が出席しており 中国軍が JDG 技術の両用性に関心を持っていることを示していた 浮島 のアイディアは歴史的には第 2 次大戦まで遡ることができるが 現在 既に海洋には多くの人工構造物があり それらには 例えば Shell Australia の Prelude( 満載排水量 60 万トン 天然ガスの生産 液化 出荷機能を備えた浮体式液化天然ガスプラント オーストラリア北西のガス田に係留中 ) のように 民間用や特殊科学調査目的に使用されるものもある しかしながら 両用作戦機能を備え 大規模な防衛目的に利用可能な 浮島 は 中国が計画している 浮島 が恐らく初めてである (2) 領有権紛争が続く南シナ海において 浮島 はどのような意味を持つのか 浮島 の法的地位は如何なるものか 移動可能な 浮島 は人工島と見なすべきか もし人工構築物であれば 国連海洋法条約 (UNCLOS) 第 60 条に基づいて これら人工構築物はその周辺に 500 メートルの安全水域を設定することになる これらがもし船舶と見なされる場合には UNCLOS が規 53

56 定する沿岸国の 12 カイリの領海内における無害通航権利を有することになる また MARPOL 条約 ( 海洋汚染防止条約 ) の規定に従って 海洋汚染防止義務を負うことになる 実際 浮島 は 船舶 海洋環境において運用されるあらゆるタイプの船舶の範疇に含まれると見られる 今のところ 国際法では このような新技術の発展に適切に対応する条項がない (3) 南シナ海における主権主張に当たって 中国は サンゴ礁を埋め立てた人工島に加えて 空母や移動式石油掘削リグを展開してきた 北京は 浮島 を建造する意図を明確にすべきである 浮島 には 少なくとも 5 つの利点が考えられる a. 第 1 に 高い機動性である 時速 9 カイリの 浮島 は 平均航行速度より遅い船舶と見なすことができるが 移動式石油掘削リグよりは柔軟性が高い施設と見られる 理論的には 空母や移動式石油掘削リグとは異なり 浮島 は 高い費用を要する護衛艦艇を必要としない 浮島 は 一定箇所に固定される人工構築物より優れている 浮島 は 位置を変更することができ 従って 海空域の管制能力を拡大する 多正面への抑止システムを展開することができる 南シナ海に防空識別区域 (ADIZ) が設定されれば 浮島 は 有用な管制拠点となる b. 第 2 に 高いアクセス性である 空母と移動式石油掘削リグは 安全保障と天然資源に対する脅威の象徴だが 浮島 は 民間船舶と同様の権利を享受できる 浮島 は 南シナ海 ( 東海 ) 沿岸国の沿岸に容易に接近することができるし また 12 カイリの領海にも入ることができる 従って沿岸国の安全保障を直接的に脅かすことにもなるが 当該沿岸国が沿岸への接近や領海への進入を禁止したり 阻止したりすることは容易ではないと見られる このことは 中国の 牛の舌 ( 9 段線 ) がベトナム フィリピン マレーシアそしてブルネイの海岸線にまで伸びることに他ならない c. 第 3 に 浮島 は 安全性に優れている 浮島 は 容易には沈まないモジュール設計になっており 建造費用も空母や移動式石油掘削リグより安価である d. 第 4 に 高い適応性である 浮島 は 自給自足が可能である 他の補給源に依存する人工構築物とは異なり 浮島 は 燃料 水及び必需品を搭載し 自給でき 海上での運用時間と行動空間が大きくなる e. 第 5 に 高い汎用性である 浮島 は 民事 軍事の両方の目的に使用でき また海洋における建設機械や船舶ともなる 浮島 は UNCLOS の抜け穴を活用できるであろう 他国は このような 浮島 あるいは船舶の運用を阻止するための適切な条項を見出すことが難しい (4)UNCLOS は 強力な国際的合意がある場合にのみ有効である 南シナ海における埋め立てや 浮島 の建造は 2002 年の 行動宣言 (DOC) の第 5 項に違反するものである 埋め立てや 浮島 は 南シナ海沿岸諸国にとって深刻な懸念であるばかりでなく 南シナ海における平和 安定そして航行の自由と上空飛行の自由 更には環境までも脅かす問題である 今こそ 域内各国の指導者が 南シナ海問題に関する合同会議や 南シナ海に関する海洋法会議を開く時である UNCLOS は 海洋管理のための重要文書であるが 未だに明確にされるべき多くの問題点が残っている 科学技術の発展によって 33 年前に作られた規定は 多くの点で現状に合わなくなってきた 問題は もはや南シナ海沿岸諸国間の主権紛争に止まらない 国際社会は 共通の懸念 即ち南シナ海における海洋環境 航行の自由と上空飛行の自由が脅かされているのである 記事参照 :South China Sea: China s Floating Islands Next? 54

57 備考 *: Chinese Shipyard Looks to Build Giant Floating Islands, Popular Science, April 20, 月 7 日 南シナ海における中国の高圧的行動 域外大国の関与を招来 豪専門家論評 (The Strategist, May 7, 2015) オーストラリア国立大学の客員研究員 Leszek Buszynski は 5 月 7 日付の The Australian Strategic Policy Institute(ASPI) の公式ブログ The Strategist に What s happening in the South China Sea? と題する論説を寄稿し 中国の南シナ海における高圧的な行動にもかかわらず 中国がその目標を達成する可能性は低いとして 要旨以下のように述べている (1) 南シナ海における最近の中国の高圧的行動が衝撃と驚きを与えているが 実際には ここ数十年に亘って 中国の行動は一貫したものであった 中国は 1974 年 1 月に 西沙諸島の永楽群島 (The Crescent Islands) から南ベトナムを追い出すため 初めてこの地域で武力を行使した 1988 年 3 月には 中国海軍はベトナム海軍艦艇と戦闘し 南沙諸島の 7 つの岩礁を中国が占拠するに至った 中国は 1995 年には フィリピンの EEZ 内にある Mischief Reef( 美済礁 ) を占拠した その後 中国は 近隣の環礁に構築物を建設したり 補修したりし始めた 2012 年 4 月には Scarborough Shoal( 黄岩島 ) を巡って中国とフィリピンが衝突し 最終的に中国が占拠するに至った その後 中国の関心は Second Thomas Shoal( 仁愛礁 ) に移った 2014 年 3 月に 中国海警局の巡視船は 同礁に座礁させたフィリピンの戦闘艦 (BRP Sierra Madre) に駐留するフィリピン軍海兵隊部隊に対する フィリピンの貨物船による補給を阻んだ 2014 年 4 月には 中国が石油掘削リグ 海洋石油 981 をベトナムが管轄権を主張する海域に移動させ ベトナムと対立したが 予定より早く掘削リグが移動したことで 沈静化した そして 2014 年後半以来 中国は 南沙諸島の 8 つの岩礁や環礁で大々的な埋め立て工事を進めている 特に Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) での浚渫作業は 注目された 中国の浚渫船は 3,000 メートル級の滑走路が建設できるように この環礁に水位を超えて砂利を積み上げた この埋立地は 南沙諸島における中国の活動を支援する 飛行場になると見られる 中国海警局の巡視船隊に対する空から支援が可能になれば 中国は ベトナムを脅かし フィリピンを恫喝することができるであろう (2) 中国は 南沙諸島におけるプレゼンスを強化することによって 海洋紛争に対する中国自身が望む解決方法を 領有権を主張する ASEAN 諸国に押し付けることができるようになるかもしれない そうなれば 一部の ASEAN 諸国が中国に対して自発的に膝を屈し 南シナ海に対する中国の主権を容認することになりかねない 北京はまた 中国との友好関係や互恵貿易 そして最近創設されたアジアインフラ投資銀行 (AIIB) を通じたインフラ投資を提示することができよう (3) しかしながら ASEAN の領有権主張国に対して強まる中国の圧力にもかかわらず 中国の目標が達成される可能性は低い 何故なら 中国のこうした高圧的行動そのものが 領有権紛争に対する域外大国の関与を益々強めるようになってきているからである ベトナムとフィリピンは 中国に対抗するためにアメリカの支援を得ることに努めてきた 米比両国間には 長い軍事協力の歴史がある 1999 年には 訪問米軍の地位に関する米比協定 が締結され 2014 年 4 月には 防衛協力強化協定 が締結された この協定によって 米海軍はフィリピンの港 55

58 湾に寄港できるようになり またフィリピン国内の基地や飛行場に米軍がローテーション展開できるようになった ベトナムは 北京との関係におけるバランス維持の努力の一環として この 10 年間 アメリカとの安全保障関係を発展させてきた 中国との地理的な近さに束縛され ベトナムはアメリカとの密接過ぎる安全保障関係を形成することはできないが ベトナム政府は アメリカとの関係を中国に対する抑止効果として期待している (4) マレーシアとインドネシアはこれまで領有権紛争を傍観していたが この地域の中国の活動は 両国の不安を掻き立てている 中国海軍の哨戒活動が James Shoal( 曾母暗沙 ) にまで達してことは マレーシアに衝撃を与えた この辺りの海域は 中国が権利を主張している領域の最南端であり 同時にマレーシアが領有権を主張している海域でもある マレーシアの指導者は 公には中国寄りの姿勢を取り続けているが 防衛当局者は懸念している マレーシアは James Shoal に近いサラワク州のビントゥルに海軍基地を建設しようとしており マレーシア国防省は 米海兵隊をモデルにした海兵隊を創設するために アメリカに援助と訓練を求めている インドネシアはこれまで 領有権紛争の非当事国として 紛争の調停者を自負していた しかしながら 最近 ナトゥナ諸島の主権について懸念を抱き始めている インドネシア国軍司令官のムルドコ大将は 南シナ海における不安定な状況の危険性に注意を喚起し ナトゥナ諸島に航空部隊を増強する計画を発表した (4) オーストラリアは何をすべきか 一部の人々は 米中間の紛争に巻き込まれることを懸念して オーストラリアは東アジアの問題に介入すべきでない と主張する しかしながら オーストラリアが戦略的利害を狭く定義できる時期は 過去のものとなった 南シナ海における不安定な状況は オーストラリアの安全保障環境に影響を与えることになろう ASEAN の領有権主張国に対する執拗な中国の圧力は アメリカだけでなく 東シナ海 特に尖閣諸島周辺における中国の意図に対して懸念を抱く 日本も引き込むことになろう ( 日本もまた ベトナムとフィリピンの海洋能力を強化しようとしている ) (5) 域外大国が益々関与するようになるにつれ カンボジアやタイのような領有権問題の非当事国が中国との関係を優先させ 南シナ海における紛争を巡って分裂してきた ASEAN は 崩壊することになるかもしれない この地域におけるもう 1 つの予想される成り行きは 中国とその 2 3 の友好国 そして中国の台頭と野望を恐れて不安を抱く国々を引き寄せる日米関係 という 2 つに分極化するかもしれないということである もし域外大国が南シナ海について懸念を表明し 中国に対して挑発的な行動の停止と ASEAN 諸国との行動規範に関する交渉を行うよう強く要求すれば このような状況は回避できるかもしれない これまで 中国は 域外からの圧力に応じてきており 域外大国の関与を恐れて その行動を抑えてきた 例えば 中国は 2014 年 7 月には ベトナムによる国際的な非難キャンペーンに直面して 石油掘削リグを撤退させた オーストラリアは 統一 ASEAN が自国の国益に適うことを認識し 中国非難の声に加わるべきであろう 記事参照 :What s happening in the South China Sea? 56

59 5 月 12 日 南シナ海における中国の暴走 フィリピン人専門家論評 (The National Interest, May 12, 2015) フィリピンの De La Salle University の Richard Javad Heydarian 准教授は 米誌 The National Interest( 電子版 ) の 5 月 12 日付のブログに China's Mad Dash for the South China Sea と題する長文の論説を寄稿し 中国の最近の南シナ海における行動に対して フィリピン人の視点から興味深い論旨を展開している (1) 中国が 数十年に及ぶ鄧小平の韜光養晦政策を捨て もはやその爪牙を隠すことも 時期を待つこともなく 新しい高圧的な行動の時代に入ったことは疑いない 中国は 南シナ海全域の支配を目指す方向に ゆっくりとだが 着実に移行しつつある 当然の成り行きとして フィリピンなどの近隣諸国はパニックに襲われ 巨大な隣国との厳しく 見込みのない海洋紛争に巻き込まれることになった (2) 中国外交部は 中国の国家機構の中で 穏健な声 を代表していると見られていたが 自国に隣接する海域における中国の高圧的な行動を正当化するに当たって 益々率直かつ明快に発言するようになった 外交部報道官は これまで何カ月も否定してきた南シナ海の防空識別圏 (ADIZ) について 中国は 隣接した海域に ADIZ を設定する権利がある この件に関する決定は 航空の安全が脅かされているか またそれがどの程度かによって 判断される と宣言した 皮肉にもこの発言によって中国が南シナ海で ADIZ を設定するという予測を広め その後 外交部報道官は 個々の国々 ( 例えば フィリピン ) は 中国の ADIZ について大げさに騒いでいる 中国は 可能ならば南シナ海に ADIZ の設定を望んでいるのであり 騒いでいるのは明らかに下心があるからだろう と非難するに至った 要するに 中国は 固有で議論の余地のない主権 を行使する地域において ADIZ を設定する権利があり 従って近隣諸国はそれについて沈黙を守るべきだということになる 南シナ海での中国の大規模な埋め立て活動について 以前に ASEAN に対して発言を慎むよう要請した時も 中国外交部は同じように高圧的で独善的な姿勢を示した 民主主義社会では 一般的に透明性は良いことと見なされる しかし 南シナ海紛争に関する限り 中国の益々強まる率直な物言いぶりは 必ずしも良い事とは見なされない とはいえ 中国の戦略的な傲慢さは 近隣諸国をして 海洋有志連合 (a maritime coalition of the willing ) の形成に走らせていることも事実である 東南アジア諸国は 中国との経済関係を全面的に受け入れる一方で この地域における地政学的な平衡を維持するアンカーとしてのアメリカに熱い視線を向けるという これまで以上に両睨みの姿勢をとりつつある (4) 驚くべきことに 中国は 埋め立て活動について 我々 ( 中国人 ) 自身の島 そして我々自身の海 で行われており 正当な行為 と説明し 従ってこの論理の行き着くところは 中国は完全に 合法的で 正当と認められる 方法で埋め立て活動を実施しており 関係当事国が中国の活動について平静を保つよう望む という論法になる この論法は 2015 年初めの中国外交部報道官の好戦的な発言 即ち 我々は単に我々自身の敷地内に施設を建設しているのであり 他からの非難を受け入れるつもりはない 何故なら 北京は 中国の 9 段線 の内側では あらゆる合法的で正当な活動を実施する権利を保有しているからである との発言にも窺われる 興味深いことに だが近隣諸国にとって驚愕すべきことに 中国は この埋め立て活動に伴う 国際的な責任と義務 にも言及した 中国は この埋め立て活動について 海洋における捜索救難 自然災害対処 海洋科学調査 気象観察 環境保護 航行の安全 漁業支 57

60 援 及び他の分野 に資する 国際公共財を提供するため と主張しているのである 要するに 中国は 緊張高まる係争海域全体に触手を伸ばすような軍民複合施設を建設することで 国際社会に貢献をしているというのである 中国は 条件が整えば 捜索救難や気象観測のために 係争海域におけるこれら施設の利用をアメリカに申し出たと伝えられる 中国海軍の呉勝利司令員は これらの施設が航行の自由を妨げるどころか 逆に 気象観測や海洋捜索救難などの南シナ海における公共任務遂能力を改善し 以て公海における海洋の安全維持のための国際的な義務を果たすことになる と主張した 中国は その活動を正当化するために西側の目を意識した宣伝戦を展開するとともに 他の領有権主張国による当該各国の占拠島嶼に対する補給や補強能力を徐々に制約することで 近隣諸国が係争海域における施設建設を事実上黙認せざるを得ないように仕向けているのである (5) 中国は 未だ南シナ海に ADIZ を設定していないが 最終的には ADIZ 設定を正式に宣言するには至らないかもしれない 中国は かつてない規模の南シナ海全域における軍と準軍隊による哨戒活動に支えられた 係争岩礁や環礁における滑走路と駐留部隊のネットワークを形成しつつあることから 既に ADIZ の骨格を構築しているといえる また 中国が南沙諸島全域に及ぶ排他的領域を確立しつつある徴候もある 中国は 少なくとも 6 回 この海域でのフィリピン空軍機と海軍機による哨戒活動の中止を強要した また 2013 年以降 中国海警局の巡視船は Second Thomas Shoal( 仁愛礁 ) に駐留する小規模のフィリピン軍分遣隊に対する補給ラインを遮断しようとしてきた 南沙諸島において ベトナムはおよそ 21 の島嶼 岩礁 環礁を占拠し 次いでフィリピンが 8 カ所を占拠している フィリピンは 南沙諸島で 2 番目に大きい自然に形成された島嶼 Thitu Island(Pagasa Island) を何十年も亘って占有してきた ( 注 : 最大の島嶼は台湾占拠の太平島 ) この島嶼には 小さなフィリピン人コミュニティと滑走路がある マニラは 2014 年に 中国が多分南海艦隊を使ってこの島の強奪することを計画していたという報道に驚かされた 現在 もし中国が南沙諸島における排他的領域を拡大し より厳格に管制することを決心すれば その時には フィリピンは 長期に亘って Thitu Island の住民に補給したり 施設の改修をしたりすることができるかどうか懸念される オバマ政権は 南シナ海における衝突でフィリピン救援に赴くかどうかについて言葉を濁しているが フィリピンの艦船と軍人が直接攻撃されれば 米比相互防衛条約 (MDT) は発動される可能性がある しかしながら 中国は MDT の発動を避けるために 如何なる事態の拡大もグレーゾーンに留めることに最善を尽くすと見られることから 直接的な武力衝突を誘発することなくフィリピンの補給ラインを遮断しようとする中国の試みに対して ワシントンがどのような対応にでるかは明らかでない もちろん 中国の計算されたエスカレーションが制御不能にまで拡大する可能性は除外できない 軍隊としての専門知識を備えていない漁民の海上民兵に頼ることによって 中国の海洋戦略は 誤った方向に進む可能性がある 南シナ海における中国の建設活動 哨戒活動そして軍の行動はそれぞれに弾みがついた状況にあり これらを減速させるか あるいは別の方向に向かわせるには 習近平政権による強力な政治力が要求されよう もし傲慢な部下が彼ら自身の個人的及び組織的な利益のために より危険な考えを押し進めようとすれば 中国は 指導者の意向に反して部下が自己の利益を優先するという 古典的な プリンシパル エージェント問題 ( principal-agent problem ) に直面することになろう (6) 一方 ワシントンは 自らの同盟国がアメリカの条約上のコミットメントの信憑性を試すために 中国の好戦的態度を抑制するに当たってわずかにより冒険的な行動にでるかもしれないこ 58

61 とから 既存の大国と台頭する大国との不可避的な戦争 ( この場合 米中戦争 ) いわゆる トゥキディデスの罠 ( Thucydides trap ) の可能性を懸念している しかしながら アジアにおけるアメリカの戦略的な首座 ( の地位 ) が危機に瀕しているのであり 南シナ海における ( 軍事的な ) 航行の自由は 中国がこの海域を完全に支配すれば あるいはこの地域で武力衝突が生起すれば 大幅に阻害されることになろう それでも 中国の近隣諸国は 自衛能力を強化する努力を強めている ワシントンと東京は 防衛協力のガイドラインを改定することで 東シナ海で中国を牽制するとともに 特に日本が合同の空中哨戒活動を検討しているように 南シナ海での中国の挑発的行動に対抗する努力を支援している フィリピンやベトナムにとって 日本は 特に重要な戦略的パートナーとなってきており 日本との関係は この地域に対するアメリカのコミットメントに欠けていると見られるものを補完することができるであろう 日本は今や 普通の国 になりつつあり そしてこの地域の公共財と安全に対する重要な貢献者ともなりつつある 日本は最近 フィリピンとの合同沿岸警備隊演習を実施しており またフィリピンとベトナムの沿岸国 2 カ国は 南シナ海で初めての合同海軍演習を実施することになっている 全体として 南シナ海における抗争は中国が優勢であることは明らかだが 同時にそのことが その周辺に 海洋権益の防衛を決意し アジアの古来の大国への臣従を拒否する 対中同盟の形成を促してきたのである 記事参照 :China's Mad Dash for the South China Sea 5 月 13 日 南シナ海紛争 9 段線 主張の明確化が鍵 (RSIS Commentaries, May 13, 2015) インドネシアの The Foundation for the Centre for Chinese Studies 会長 René L Pattiradjawane は シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の 5 月 13 日付の RSIS Commentaries に South China Sea Disputes: Sovereignty and Indonesian Foreign Policy と題する論説を寄稿し 南シナ海紛争の解決のためには 北京と台湾が共に ASEAN と話し合い 9 段線 主張を明確化することが鍵となるとして 要旨以下のように述べている (1)5 年の任期の間にインドネシアを海洋国家に仕立て上げたいという ウィドド大統領の野心は 国内だけでなく 地域的にも多難な課題である インドネシアを グローバル海洋枢軸 (Global Maritime Axis) とするウィドド大統領のビジョンは アジア太平洋における米中両大国の影響力を巡る抗争の中で 厳しい地政学的環境に直面している ウィドド大統領のビジョンは 急速に悪化しつつある南シナ海の領有権紛争を巡る課題に如何に対処するのか ウィドド政権下のインドネシアで それが可能か インドネシア国家情報庁 (The Indonesian State Intelligence Agency: BIN) が 2014 年 12 月に公刊した大部の報告書 Toward : Strengthening Indonesia amidst a Changing World * の中で BIN は 東南アジアにおけるインドネシアの戦略的な位置が新たな機会をもたらしていると展望している そしてこの機会を捉えるために インドネシアは 地域の安定を促進する安全保障取り決めを実現するために イニシアチブを発揮することが求められるとしている (2) ウィドド大統領の外交政策においては 南シナ海問題は重要な課題ではないように思われる 大統領は 彼のポピュリスト的な姿勢から 国内の優先課題に取り組み 広い国民の支持を得る新しいリーダーとしてのイメージを確立しようとしている しかしながら 大統領は 身近な諸問題のみに関心を持つ都市部の支持者層と同様に ナイーブなリーダーである 例えば 59

62 インドネシア海域で違法操業を行った外国漁船を燃やす 彼の攻撃的な密漁取り締まりなどが その好例である この政策は 2 国間関係や地域的な結び付きを損なう危険があり インドネシアが流動的な地域環境に対応できていない証左である The Centre for Chinese Studies が 2014 年 9 月に実施した世論調査では インドネシアの 15 都市の 1,096 人に対して 南シナ海における重複する領有権主張を巡る問題について質問した この問題を理解していた回答者は わずか 12% であった インドネシアの都市人口の大多数は 南シナ海における緊張や これが紛争に繋がる可能性があることを理解していない このような状況から ウィドド大統領が南シナ海紛争に対する調停者となる可能性は希薄である ウィドド大統領の海洋外交が 航行の自由と安全を確保するために 南シナ海における複雑な諸問題に如何に対処していくかは 未だ明確ではない 大統領と外相は 地域的あるいは多国間の海洋問題に関して インドネシアの外交方針を示すビジョンを提示していない (3)ASEAN は 新たな地域安全保障機構の構築を目指してきた 新たな地域安全保障機構は 南シナ海問題のような緊張を緩和していくために 地域全体を覆う枠組として必要である 中国は現在 重複する潜在的な紛争要因を抱える東南アジアを 新たな海洋外交の時代に導くことを狙いとした 21 世紀海洋シルクロード 構想を提案している この海洋外交には 幾つかの注目すべき特徴がある a. 第 1 に これは 新たな大国としての中国の台頭を支える 新しい実行可能な経済 貿易 政治的なモデルを創出するための努力である これまでのところ BRICS や The Conference on Interaction and Confidence Building Measures in Asia(CICA) といった 多国間プラットフォームを創る北京の努力は 冷戦の遺産である既存の多国間メカニズムに対抗できるに十分な程 強力にはなっていない b. 第 2 に 中国は その膨大な保有外貨を用いてインフラ整備が不十分なアジアの小国に対する財政支援を通じて これら諸国の支持を得ようとしている 中国は インフラ整備協力を通じて ASEAN の分裂を促すため 巨額の資本を活用しようとしている この分割と支配の戦略の成果は 南シナ海問題に対する ASEAN の不一致に見て取れる c. 第 3 に 南シナ海における紛争は 国際法の規範や価値観に従い 問題の根源を理解することを通じて 解決することができる 南シナ海における重複する領有権主張の根源には 中国の 9 段線 主張がある 9 段線 主張は本来 中国国民党政府の 11 段線 に由来するものだが 北京も台湾政府も 南シナ海全域に対する主権を主張しているのではなく 紛争海域にある島嶼や岩礁に対する主権のみを主張している (4) 南シナ海における紛争は 9 段線 主張を明確にするために 中国と台湾が共に出席し ASEAN と話し合うことで 初めて解決することができる 中国が曖昧な 9 段線 主張を明確にすることは 南シナ海を巡る紛争の根本的な解決に寄与することになろう このことはまた 共通の繁栄を求めて協力するという この地域の伝統を強化することにもなろう 記事参照 :South China Sea Disputes: Sovereignty and Indonesian Foreign Policy 備考 *:This book is available at following URL; ONESIA_IN_A_CHANGING_WORLD 60

63 5 月 16 日 中立から関与 へ変化の兆し アメリカの南シナ海政策 米専門家論評 (The National Interest, May 16, 2015) 米シンクタンク The Foreign Policy Research Institute の Felix K. Chang 上席研究員は The National Interest( 電子版 ) の 5 月 16 日付のブログに Is America about to Get Tough in the South China Sea? と題する論説を寄稿し アメリカは南シナ海政策に変化の兆しが見られるとして 要旨以下のように述べている (1) この 40 年間における東アジアの海洋紛争に対するアメリカの対応は 1970 年 12 月 31 日深夜に起草された ほとんど知られていない電報に起因するところが大きい 12 月 31 日の夜 複数の中国の巡視船が 東シナ海の係争海域において アメリカの石油探査船 Gulftrex を追尾していた ワシントンでは 国務 国防両省の担当者が対応を協議した 当時 アメリカは南ベトナムに軍事介入しており また一部の当局者は プエブロ号事件 (1968 年 1 月にアメリカの情報収集艦が北朝鮮に拿捕された事件 ) の二の舞になることを恐れた 結局 長い論議の末 該船を保護するために軍事力を行使しないことに決定し その旨の電報が米太平洋軍司令部に送信された この決定の根底には アメリカがこの地域の海洋紛争に対して中立を維持するという前提があった その後数十年間 この前提は 南シナ海を含む この地域の海洋紛争に対する アメリカの不介入政策を形作ってきた アメリカは 海洋紛争における一方の側に与するのではなく 紛争当事国に対して紛争の平和的解決を慫慂するというものである (2) アメリカは 5 月 12 日 この政策を変更しようとしたように見えた 国防省当局者によれば カーター国防長官は 南シナ海における航行の自由を保障するため 幾つかの選択肢を検討するよう要請した これには 南シナ海で中国が占拠する島嶼や岩礁の 12 カイリ以内に米軍艦艇と航空機を送り込むことも含まれていた これには先例がある 1980 年代に リビアがシドラ湾の領有権を主張し またペルシャ湾でイランが国際航行を妨げた時 アメリカはシドラ湾とペルシャ湾に海軍艦艇と航空機を展開させた 南沙諸島近海におけるアメリカの軍事プレゼンスの誇示は この地域の同盟国とパートナー諸国を力づけるであろう では 何故 このような大きな政策転換が必要になったのか もちろん その答えは 1 つには中国の台頭にあるが もう 1 つはオバマ政権の外交姿勢にある エジプト シリア クリミアそしてウクライナ東部など ほぼすべての危機に対して オバマ政権は 自らとアメリカの国益に確信を持っていないようであった その政策は 混乱し 揺れ動いていると見られた このことが 北京を含む多くのアジアの指導者に アメリカのコミットメントとその決意に疑念を持たせることになった (3) こうした状況から 中国は 自らの目的を実現するために 断片的に表明されるアメリカの不快感を 無視できると考えた アメリカの域内諸国との軍事関係の緩やかな強化や 米比間の防衛協力強化協定の調印も 中国を抑制することにはならなかった 2014 年 12 月になって 米国務省は 中国の海洋における領有権主張の根拠を疑問視する報告書 * を発表することで 初めて南シナ海紛争に口を挟んだ しかし 中国は アメリカの疑念に耳を傾けるより むしろ南沙諸島での埋め立て活動を加速させることで応えた 中国は 南沙諸島でほぼ 2,000 エーカーに及ぶ新しい土地を造成し 初めての滑走路を作った 北京は明らかに オバマ政権の真剣さを疑っている アジアに対する再均衡化戦略に関する論議は盛んであったが オバマ政権は この地域に対するアメリカのコミットメントに信憑性を持たせるような努力をほとんどしてこなかった これまで アメリカは この地域における軍事力の適切な増強を図るよりも むしろアジア太平洋地域全体の中で軍事力を再配備することに努力してきた 米比間の防衛協力の 61

64 強化は実現したが 南シナ海におけるフィリピンの領有権主張が米比条約の保護対象外であることも明らかになった 中国は これをもう 1 つの誤った信号とみなしたかもしれない (4) 今やアメリカは 南シナ海における中国の行動に対応せざるを得ないという 困った立場に立たされている しかし現在 アメリカは 未だアジアにおける再均衡化の途上にある 南沙諸島近海を哨戒でき あるいは迅速な危機対応ができるのは シンガポールを拠点とする 沿岸域戦闘艦 USS Fort Worth だけである 同艦は 5 月中旬 南沙諸島近海で初めての哨戒活動を実施した ワシントンは 南シナ海でより強い態度を取ることに決めたのかもしれない 北京がアメリカにより真剣に向き合うことが期待されるが もし中国がアメリカの決意を試そうとする場合に備えて ワシントンは 水平線の向こうに軍事力を展開させる用意をしておいた方が良い 記事参照 :Is America about to Get Tough in the South China Sea? The National Interest, May 16, 2015 備考 *:CHINA MARITIME CLAIMS IN THE SOUTH CHINA SEA, Office of Ocean and Polar Affairs, Bureau of Oceans and International Environmental and Scientific Affairs, U.S. Department of State, December 5, 2014, 5 月 22 日 南沙諸島における中国の行動 商業航行の脅威ではない 4 つの理由 豪専門家論評 (The Diplomat, May 22, 2015) アメリカのシンクタンク East West Institute の研究員で オーストラリアの University of New South Wales の特任教授 Greg Austin は 5 月 23 日付の Web 誌 The Diplomat に 4 Reasons Why China Is No Threat to South China Sea Commerce と題する論説を寄稿し 中国の南沙諸島での行動が南シナ海の商業航行に対する脅威になっていないとして 4 つの理由を挙げ 要旨以下のように述べている (1) 中国による南沙諸島での行動が 南シナ海における商業航行 (commercial shipping in the South China Sea) に対する脅威になるという見方が 中国国外で高まってきている( 原著者注 : この種の議論では sea lines of communication (SLOC) という用語が しばしば commercial shipping の意味で用いられている しかし 2 つの用語は完全な同義語ではない ) シーレーンに対する中国の脅威 (the China SLOC threat ) 論の嚆矢は定かではないが 本稿では この脅威論を以下の 4 点から再考する (2) 第 1 に 中国は 南シナ海における北航通商 (north-bound shipping) に脅威を及ぼすために 南沙諸島を必要とはしてない 中国がそうすることを望むとしても そのために係争島嶼や岩礁を制圧する必要はない 南シナ海を挟んでフィリピンと向き合う海南島に司令部を置く中国海軍南海艦隊は この半閉鎖海を北方の出口から見渡している また 中国本土の広東省は 4,300 キロに及ぶ海岸線を有し ここからも見渡すことができる 広東省沿岸とフィリピン沿岸までの距離は 800 キロしかなく この海域は中国の海洋戦力にとって容易にアクセスできる 一方 南沙諸島の小さな島嶼や 環礁などの 低潮高地 は 海南島から 800 キロ以上離れた海域にある 中国軍の指導者が 商業航行阻止作戦の拠点として このような遠隔の小さな島嶼を利用しようと考えているなら それは馬鹿げた考えといわざるを得ない 通商阻止のために持続 62

65 的な攻撃を企図する如何なる国も 安全な補給網を維持できない 潜水艦などの海洋プラットホームや 遠隔の 低潮高地 の環礁に造成された滑走路などに依存するより 安全な補給網に支えられた陸上配備の航空戦力を使用するであろう (3) 第 2 に 中国は 日本と同じように あるいはそれ以上に 原油の大半を南シナ海経由で輸入している BP 社の調査によれば 2013 年の中国の原油輸入量は 2 億 8,200 万トンで 同時期の日本の輸入量は 1 億 7,800 万トンであった 中国の全原油輸入量の内 南シナ海経由がどれだけかは不明であるが いずれにせよ 日中両国は共に この半閉鎖海における航行の安全に同じような利害を持っているのである しかも 中国経済は 日中間あるいは米中間の貿易のように 海運への依存度が高く また沿岸域の雇用の多くも海運関係のものである (4) 第 3 に 1900 年以降 公海における商業航行に対する阻止作戦の歴史的先例は 極めて少ない 第 2 次世界大戦において ドイツが海上貿易の遮断やイギリスへの海軍部隊のアクセス阻止作戦で多くの潜水艦を失って以来 こうした事例は全くない 実際 多くの海軍専門家が指摘するように 現代的な民間船舶に対する航行阻止作戦は ( 南沙諸島周辺海域のような ) 公海ではなく 港湾から出港したり 目的港に近づいたり あるいは狭隘な海峡を通航したりしている時が より効果的であろう この好例が イラン イラク戦争 (1980 年 ~1988 年 ) でのペルシャ湾における航行船舶に対する攻撃であった 南シナ海は ペルシャ湾の約 14 倍の広さがあり 350 万平方キロにも及ぶ 中国の戦闘艦の行動に対する人工衛星や艦艇による監視活動が常態化している状況下では 潜水艦にしろ あるいは水上戦闘艦にしろ 中国の軍艦が商業航行に多大の損害を与える前に アメリカやその同盟国からピンポイントで反撃されるだけである しかも 第 2 次世界大戦当時に比して 現在の商業航行はその隻数においても トン数においても何倍にも膨れ上がっている 現代の潜水艦がその性能を飛躍的に強化しているとしても 対潜能力もまた強化されてきているのである (5) 第 4 に マラッカ海峡を経由する南シナ海は インド洋から日本に向かう航路として極めて利便性が高く かつコストが低い もし南シナ海で脅威が高まれば 全ての船舶航行は マラッカ海峡経由を避け ジャワ島の南に向かい スンダ海峡かロンボク海峡を通過し ジャワ海に入り フィリピンの東側を抜けることで 南シナ海に入らない航路を選択することができる 航行距離と時間が伸びコスト高となるが 南沙諸島周辺海域で航行阻止作戦が実施された場合でも この航路は安全であろう また この航路は VLCC の航行にも問題はない (6) シーレーン脅威論(the SLOC threat thesis ) が登場した 1 つの理由は 中国海軍自身がこの問題に対する関心を高めたことにある シーレーン防衛任務というテーマは 10 年前に比べ中国の公式文書でも度々取り上げられているが これは 1 つには中国が海上貿易の遮断に対して 以前よりもはるかに脆弱になってきているためである もう 1 つの理由は 人民解放軍幹部が 西側諸国の軍のように この問題を国防予算の増額を勝ち取る口実として利用しているということである 同時に 他方では 中国の指導者は 今日の世界では如何なる国といえども 海上貿易の保護は 1 国だけではなし得ないということを理解している この問題は 国際的な責任を共有すべき問題である この認識は 2013 年の中国の公式ドクトリンにも見られ 中国政府内での共通認識と考えられる 南沙諸島における中国の行動は そこにある砂州 岩礁あるいは環礁が中国の領域内にあるという認識の下に行われている 中国の指導者は 南沙諸島の制圧が 世界最大の海軍力を有する国家とその多くの同盟国との間で船舶航行の安全を巡って対立することにもなりかねず 従ってそれが自国の戦力投射能力を強化することになるとは期待 63

66 もしていないし 思ってもいない 中国は 南沙諸島における頑迷な軍事的行動が 例えそれが南沙諸島全域に対する領有権主張を強固にするものであっても 自国の国益に資するものでは全くないということを やっと学び始めたところである アメリカによる外交攻勢は上手く機能しており 商業航行などに対する誇張された軍事的脅威論は現実的ではない 記事参照 :4 Reasons Why China Is No Threat to South China Sea Commerce a-commerce/ 5 月 28 日 中国の 一帯一路 構想 アメリカにとっての含意 (YaleGlobal Online, May 28, 2015) ジュネーブのシンクタンク The International Centre for Trade and Sustainable Development の中国事務所長 Shuaihua Wallace Cheng は 5 月 28 日付の Web 誌 YaleGlobal Online に China s New Silk Road: Implications for the US と題する論説を寄稿し 中国の 一帯一路 構想はアメリカの アジアへの軸足移動 に対する対応であり その狙いはアジアにおける中国の影響力を拡大することであるとして 一帯一路 構想が持つアメリカへの含意について 要旨以下のように論じている (1) 一帯一路 構想は シルクロード経済ベルト と 21 世海洋シルクロード の 2 つからなる 2013 年に習近平国家主席がこの構想を公表してから 18 カ月間に 中国は ユーラシア大陸とその周辺の 60 以上の国からこの構想への支持を取り付け 包括的な計画案を作成してきた 提案されたネットワークは 地理的に広範なものである 陸上ベルトは 北側では中国 中央アジア ロシアそしてヨーロッパを結び 南側では中央アジアとインド洋を経由してペルシャ湾と地中海を中国に連結させる アジア ヨーロッパ及びアフリカ大陸に跨がって延びるルートである 海上ルートは 中国沿岸から南シナ海とインド洋を経由してヨーロッパに向かうルートと 南太平洋に向かうルートがある これらの地域の経済規模は 人口が全世界の 63% に当たる 44 億人 そして GDP は全世界の 29% を占める 21 兆ドルに達する 中国のビジョンは 地理的範囲に劣らず印象的で 貿易 インフラ 投資 資本及び人という 5 つの分野における結び付きを強化するとともに 利益 運命そして責任を共有する 共同体を創出するというものである 一帯一路 構想は アメリカの領土とは重ならない大規模な 中華圏 (The China Circle) を形成するものである 中華圏 は 1 つにはアメリカの アジアへの軸足移動 戦略あるいは 再均衡化 戦略への中国の対応である この戦略には 2 つの主要な安全保障面と経済面における狙いがあり 安全保障面では 2020 年までに米空軍戦力と海軍戦力の 60% をアジアへ再配置することで 経済面では中国を排除した アメリカと同盟国間の環太平洋連携協定 (TPP) 交渉である この戦略は 中国の東と南への影響力拡大を阻止する事実上の封じ込め効果を狙っている (2) 中華圏 は 中国に多様な輸出市場を提供することになる 中国の伝統的な市場であるアメリカと西欧は 規模は大きいものの 低迷している シルクロード沿いの発展途上国は 全く状況が異なる 中国商務部によれば シルクロード沿いの国々と中国との 2 国間貿易は 2015 年第 1 四半期だけで中国の全貿易量の 26% を占める 中国は これまで米軍によって抑えられてきた輸送ルートに対する依存度を低減させ エネルギーと食品へのより良いアクセスを持つことになろう これまで 中国の石油輸入量の約 80% が 米軍のコントロール下に置かれていた 混雑するマラッカ海峡を経由してきた パキスタンのグワダル深水港を利用すれば マラッカ海峡経由も 中国とヨーロッパ 中東及びアフリカ間の距離が 85% 近く短縮される グワダル港は中国とパイ 64

67 キスタンの経済回廊の一部であり 中国は 両国間を鉄道 道路 パイプライン及び光ケーブルで連接するために 460 億ドルを投資する協定を締結している この金額は パキスタンの年間 GDP の 5 分の 1 に相当し パキスタンに対するアメリカの投資額の 10 倍になる また 中華圏 は 潜在的な人民元圏を形成する可能性がある 中国は 4 兆ドルに及ぶ外貨を保有しており その 60% 以上がアメリカ国債である 中国は アメリカ政府に金を貸す代わりに シルクロード沿いのインフラ整備と生産に投資することで より多くの利益を獲得し 政治的な友好関係を築くことができる 中国は 2 つの主要な国際機関に対する投資も行っている AIIB の初期資本として 1,000 億ドルを BRICS 諸国が提案した新開発銀行 (New Development Bank) には 500 億ドルを拠出している 両機構は 北京と上海にそれぞれ本部を置いている 更に 中国は シルクロード基金を設立した 中国は 米ドルへの依存を減らすことで より多くの資本の収束と通貨統合 を想定している 人民元は モンゴル ロシア カザフスタン ウズベキスタン ベトナム タイなどの国との貿易で広く使われている 2014 年末までに 海外の人民元預金は 1 兆 6,000 億元に達し 海外からの人民元債は 3,500 億元に達した (3) 中華圏 の台頭は アメリカの政治家に 3 つの質問を突きつけている a. 第 1 に 中国に対する封じ込めは機能しているか 恐らく ノー であろう 中国の製造能力 国内市場そして外貨準備は 独自の経済圏を形成するのに十分な大きさである 多くの国がアメリカのアドバイスを無視して AIIB に加入したことで明らかになったように これら諸国は アメリカの封じ込め政策を支持しないであろう ほとんどの経済大国を含めた 57 カ国が創立メンバーとして AIIB に加盟した b. 第 2 に アメリカは 中国の台頭と姿を現しつつある 中華圏 を歓迎するか アメリカの政治家にとって 真相を認めようとしないのは賢明ではない 新興国の台頭は避けられない インド圏(Indian Circle) や ブラジル圏(Brazil Circle) とともに 中華圏 の台頭は止められない アメリカは ルールを決めるのは中国ではなくアメリカだと主張するのではなく 世界的なリーダーシップを発揮して 中国が対等の立場からルールの更新に参加することを歓迎するとともに 中国の影響力の拡大が永続するかもしれないことを認めるべきである 中国の 一帯一路 構想が成功した場合 ユーラシア大陸全体におけるインフラ 経済発展そして政治制度における深刻なギャップを埋めることになるかもしれない より開発された地域は アメリカの企業や労働者を含め あらゆる人々に対して より大きな経済のパイをもたらすであろう 一帯一路 構想の成功はまた テロや過激派の活動を弱体化させる可能性もある c. 第 3 に 中国の 一帯一路 構想は 核心的な普遍的価値と高い環境水準や労働基準と折り合いを付けられるか これらは アメリカがリーダーシップを発揮することができる重要な分野であり 21 世紀の世界的な経済アーキテクチャの要である しかし これらは 単独で対処できるものではなく 他国との協同でなし得るものである 記事参照 :China s New Silk Road: Implications for the US Map: Circle of influence: China is working with 60 nations to construct a modern-day Silk Road by land and sea lt_one_road_infographic.jpg 65

68 6 月 1 日 南シナ海におけるアメリカの 航行の自由 作戦の危険性 ベイトマン論評 (East Asia Forum, June 1, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) 顧問の Sam Bateman は 6 月 1 日付の East Asia Forum に The risks of US freedom of navigation operations in the South China Sea と題する論説を寄稿し アメリカが南シナ海で 航行の自由 (FON) 作戦を展開することについて 法的側面 作戦行動 及び政治的に幾つかのリスクを内包しているとして 要旨以下のように述べている (1) 南シナ海で中国が領有権を主張する地勢は 法的には複雑な状況にある 中国が埋め立てている占拠地勢は 他の国も領有権を主張している 他の領有権主張国も自国の占拠地勢で埋め立て活動を行っているが アメリカは 中国の埋め立て活動のみに注目しているようである このため アメリカは 主権を巡る紛争に関する中立の立場を放棄したように見られる危険がある 次に これら地勢の埋め立て活動前の法的地位に関する問題がある 幾つかの地勢は 埋め立て前は低潮高地であり 従って 国際法上 当該地勢周辺に 500 メートルの安全水域を設定できるだけである その他の地勢が満潮時でも水面上にある岩礁や砂州であったとしても 周辺 12 カイリの領海は設定できるが その上に領空を設定できない アメリカは FON 作戦を展開するに当たって それぞれの地勢が持つ法的地位 例えば当該地勢の領海において無害通航権を行使するのか あるいは 500 メートルの安全水域だけの地勢に近接した上空を飛行し 海域を航行するのか ケースバイケースで判断することになろう アメリカが合法的に領海を有する地勢の周辺を無害通航する場合 別の問題が出来する ( 領有権主張が重複していることから ) 他国の領海を哨戒したり 領海内で滞留したり あるいは無害通航権を誇示するために A 点から B 点に至る通常の航路帯を離れたりすれば 無害通航にはならない 国連海洋法条約 (UNCLOS) は 無害通航は 継続的かつ迅速 でなければならず 沿岸国の主権 領土保全または政治的独立に対する如何なる武力による威嚇あるいはその行使を行ってはならない と規定している (2)FON 作戦の展開は 本質的に危険なものであり 軍艦同士や軍用機同士の近接遭遇が起こりやすい こうした場合 トップレベルの技能と経験がなければ 誤算が起こりやすい 交通事故と同じで 優秀なドライバーも 悪質なドライバーによる事故に巻き込まれる可能性もある アメリカは 中国の艦船が専門技能に欠け 衝突防止の国際規則を遵守しない としばしば非難してきた しかし 米海軍も近年 自らの航法ミスと下手な操艦技術の故に幾つかの事故を経験してきた 空中では 1 人のパイロットによる判断の誤りは 両方の航空機の衝突 墜落につながる 米中両国は 水上艦艇同士の遭遇時の行動基準について合意しているが 最も危険な航空機同士の遭遇に関しては合意に達していない (3) 政治的に見れば アメリカのより積極的な行動は 国内的には歓迎されるかもしれないが 域内各国が支持するとは限らない 5 月のアメリカによる最初の FON 作戦が報じられた後 ベトナム外務省報道官は 国際法に基づく沿岸国の主権と管轄権を尊重するとともに 現状を複雑なものにしないよう 全ての関係国に対して要請した この要請には 米中両国も念頭にあったと思われる より積極的な FON 作戦の展開は ワシントンによる権利の一方的で過剰な行使と見られるかもしれない アメリカは UNCLOS の加盟国ではないので この種の批判には特に弱い (4) アメリカは 南シナ海におけるより積極的な FON 作戦の展開が地域の安定に及ぼす影響について 十分考慮していないのかもしれない こうした積極的で不必要な行動によって中国を挑発 66

69 すれば 現在の状況を一層悪化させるだけである 以上に述べた理由から 南シナ海におけるより積極的な FON 作戦の展開について ワシントンが慎重に検討することを期待したい 記事参照 :The risks of US freedom of navigation operations in the South China Sea ations-in-the-south-china-sea/ 6 月 2 日 南シナ海を巡る米中関係の悪化回避へ必要な措置 米専門家論説 (The National Interest, June 2, 2015) 米シンクタンク The Carnegie Endowment for International Peace のアジア プログラム上席客員研究員 Michael D. Swaine は 6 月 2 日付けの米誌 The National Interest( 電子版 ) に Averting a Deepening U.S.-China Rift Over the South China Sea と題する長文の論説を寄稿し 南シナ海を巡って米中関係が悪化するのを避けるためには 幾つかの措置が必要であるとして 要旨以下のように論じている (1) アメリカ政府高官や軍幹部は 南沙諸島の環礁における中国の埋め立て活動を南シナ海の 軍事化 を狙った 砂の万里の長城 (a great wall of sand ) を構築するものと決め付ける一方で インド太平洋地域におけるアメリカの国益を護るために 必要なら 何時でも戦う と断言している これに対して 中国政府高官や外交部報道官は アメリカの挑発的な行動に警告し 自国の主権と領土保全を護る 不退転の決意を繰り返し表明している こうした状況は 一時的なものではなく 米中関係を 永続的により敵対的でゼロサム的関係に そしてこの地域を不安定化させる方向に向かわせる恐れがある アジア太平洋地域の片隅のわずかな岩礁や島嶼を巡る紛争によって この地域と世界の平和と繁栄に不可欠な重要な関係を悪化させるようなことは 愚の骨頂である 必要なのは 北京とワシントンが長期的な状況の安定化を図る一方で それぞれの主張や不満の種を一層鮮明にし それに基づいて 短期的には一線を越えるような行動を避けることを相互に約束するとともに 相手の容認できない行動がもたらす結果を明確にすることである (2) 南シナ海問題に関するワシントンのメッセージは曲解され あたかも 中国以外の他の領有権主張国の挑発的行動にはほとんど言及することなく 南シナ海におけるプレゼンスと能力を増大させる中国の活動に対してのみ反対しているかのように 誤って伝えられてきた アメリカは 自らの立場を明確にするため 南シナ海における以下の 2 つの真の関心事にのみに焦点を当て そしてその言行を可能な限りそれらの関心事に一致させていく必要がある a. 第 1 の関心事は 航行の自由 である これには 島嶼周辺などの法的に認められた領海以外の EEZ を含む海域への米海軍のアクセスが含まれる 中国には 南シナ海における商業船舶の航行や航空機の通過を妨害する意志はない これまで取ってこなかった そして恐らく戦時を除いて 将来的にも決して取らないであろう行為に対して警告を発することは 不必要に挑発的で ミスリーディングである b. 第 2 の関心事は 中国による他の領有権主張国に対する威圧的な力の行使の可能性である このような行動は 不可避的に域内全体の緊張を大幅に激化させるとともに 平和的な経済成長よりも軍拡競争を重視する方向に向かわせることになろう ワシントンも北京も 係争の岩礁や島嶼を巡って暴力がスパイラル状にエスカレートしていくことを阻止することに 死活的な利害を有している ワシントンは 継続的な力の行使を阻止することを重視する必 67

70 要がある (3) こうしたアメリカの 2 つの関心事がともに 特に以下の 3 つの問題 即ち 1 人工島は 12 カイリの領海と海軍力のアクセスを規制できる EEZ を合法的に主張できるか否か 2 EEZ を有する沿岸国は外国の軍隊に対して自国 EEZ を通過し あるいは調査や捜索救難活動を実施するに際して 事前通告を求めることができるか否か そして3 紛争領域に対する力による威嚇やその行使に関して 国際法とそのプロセスに対する違反か あるいは論議を引き起こす可能性がある a. 第 1 の問題に関して アメリカは 中国に対して 本来 領海や EEZ を有しない環礁に人工島を造成することで 領海や EEZ を主張しようとする如何なる試みも 国際法違反であり 絶対に容認できないということを明確にしておかなければならない また 人工島周辺海域に関する中国の主張が明確性を欠いていることに加えて それらを包摂して南シナ海を取り囲む遙かに広範な 9 段線 についても 北京は未だかって 明確な立場を表明したことはない ワシントンや他の領有権主張国は 中国に対して 9 段線 に対する立場を明確にするよう 何度も求めてきている b. 第 2 の問題に関して 北京とワシントンとでは 他国の EEZ における軍事的活動の自由に関する見解が明らかに異なっている 他の幾つかの沿岸国と同様に 中国は 国連海洋法条約 (UNCLOS) の規定の下で 自国の EEZ 内で外国海軍が監視活動を含め 敵対的 と見られる活動を行うことを拒否する法的権利を有している との立場に立っている 一方 アメリカやその他の多くの国は この解釈を拒否している しかし 当の中国は グアムやハワイの周辺海域のアメリカの EEZ 内で監視活動など 敵対的 と見られる海軍活動を行っているのである ワシントンは この中国の二枚舌の行動を指摘し 12 カイリ領海の外側での ( 通常の監視活動を含む ) 非敵対的な活動を行う権利を主張しなければならない 同時にワシントンは 中国の EEZ 内における監視活動の頻度を減らすべきである そうした監視活動の多くは 他の手段によっても達成可能だからである c. 第 3 の問題 力による威嚇やその行使は かかる行為を禁止する国連憲章に対する明白な違反である 中国によるこうした行為は 域内の平和を乱し 域内からの そして国際社会からの強い反発を生むだけである 北京は そのような状況になれば 平和的発展 政策が困難になり 西側や域内諸国との関係を危うくするということを認識すべきである 中国は 領有権紛争の平和的解決に何度も言及しているが 武力の行使を明確には否定したことがない また 中国は 紛争海域における将来的な衝突を防ぐための 法的拘束力を持つ行動規範 (Code of Conduct) に対して熱意を持っていないように思われるが アメリカやその他の国は 中国と他の紛争当事国に対して 武力に依存しないことを明言した文書を作成するよう慫慂しなければならない (4) 更に ワシントンは 長期に亘って南シナ海における情勢の悪化を防ぐために 幾つかの措置をとるべきである a. 第 1 に ワシントンは 現状変更を阻止するために軍事的抑止手段を重視するのではなく 各領有権主張国の主張を明確化することを目指して 当事国間の交渉による領有権紛争の解決を重視すべきである そこでは 北極評議会をモデルとした 南シナ海評議会 (a South China Sea Council) を通じて 各領有権主張国の領海や EEZ 主張を整理するために UNCLOS の原則を適用すべきである 68

71 b. 第 2 に ワシントンは 中国が 域内におけるプレゼンスや軍事力を増大させながら 話し合いを拒否したり 9 段線 の内容の明確化を拒否したり 更には武力の不行使の誓約を拒否したりするなら アメリカや他の国が最悪のケースに備え 対応する用意があることを 北京に対して内々に明示しておく必要がある 特に アメリカは 将来的に北京が南シナ海を事実上の排他的海域にしたり アメリカの同盟国 ( フィリピン ) に対して武力を行使したりする可能性に備えて 自国の軍事力を維持することに加え 同盟国の能力強化も支援する必要がある c. 第 3 に アメリカのこのような措置 ( 対中ヘッジ ) は域内各国との防衛関係とアメリカのプレゼンスの大幅な強化や 域内諸国に対する武器供与を必要とするということを ワシントンは北京に対して明確にしておかなければならない しかし このようなアメリカの対応レベルの強化は 中国の行動次第によって判断されるべきである 中国は 南シナ海の領有権紛争に対して軍事行動をとらないということを 言葉と行動で示すべきである そしてアメリカは もし中国がそのようにするのであれば こうした措置を中止すべきであろう d. 第 4 に 領有権紛争に関して ワシントンは 中国と他の領有権主張国との個別の 2 国間交渉に反対することを止めるべきで 同時に中国との 2 国間交渉に差がでないように ベトナム フィリピン ベトナム マレーシア間の 2 国間交渉も斡旋すべきである e. 第 5 に 域内の緊張を緩和し 交渉に向けた環境を整備するために ワシントンは 既にマレーシア タイ間 (1979 年 ) マレーシア ベトナム間(1992 年 ) そしてマレーシア ブルネイ間 (2009 年 ) に見られるように また中国が長年主張してきたように 主権に囚われない 海底資源の共同探査を促進させる方向に向けて ( 恐らくインドネシアとともに ) 背後から働きかけていく必要がある f. 第 6 に 東南アジアのアメリカの同盟国や友好国の沿岸警備能力の強化に対する日本の支援は歓迎されるが ワシントンは 南シナ海における米軍の哨戒活動に関して 日本の自衛隊の参加を慫慂すべきではない 日本は ( 中国とは異なり ) 南シナ海に領有権を主張していないし また日本の安全保障や航行の自由が脅かされていない海域において 自衛隊が活動することは 域内の不安定化を促進するとともに 日米同盟と中国との間に生じつつある安全保障のジレンマを拡大することになろう g. 最後に 以上のような問題や それがもたらす結果を明確にしておく必要性は 関係各国の首脳レベルでの喫緊の課題である 例えば 9 月に予定されている米中首脳会談では 両国首脳は 公式的な見解の表明ではなく 双方の懸念 意図そして行動の結果に対するより明快な理解を図るとともに エスカレーション スパイラルを回避するという相互保証を確認すべきである (5) アメリカと中国は 激しい言葉の応酬ではなく 南シナ海問題の非軍事化を進めるとともに 緊張の激化を阻止するための基盤整備に努めなければならない それができなければ 南シナ海の現状は 後戻りが困難な一層な危険な状況に向かう恐れがある 記事参照 :Averting a Deepening U.S.-China Rift Over the South China Sea hina-sea

72 6 月 3 日 中国の埋め立て活動は合法 中国人専門家論評 (Huffington Post.com, June 3, 2015) 中国復旦大学教授兼国際問題研究院副院長の沈丁立は 6 月 3 日付の米紙 Huffington Post( 電子版 ) に Why China Has the Right to 'Build Sovereignty' in the South China Sea と題する論説を寄稿し 中国の視点から 南シナ海の中国占拠環礁における埋め立て活動を弁護して 要旨以下のように論じている (1) 最近アメリカは 中国の南シナ海の一部環礁での埋め立て活動に対して厳しい見解を表明した 特に中国が造成した人工島をどのように活用するのかについて アメリカの一部に懸念があることは理解できないことではない アメリカは以前から 国際的な空間と海上における飛行と航行の自由に執着してきており 従って 中国の埋め立て活動が意味するものについて懸念している とはいえ アメリカが中国の人工島の 12 カイリ以内の水域や空域に軍艦や偵察機を派遣して 人工島の造成に異議を唱えることで脅威を煽ることは建設的でない 米国防省が 5 月 20 日に幾つかの人工島周辺に P-8A Poseidon 哨戒機を派遣したことは 驚きであった 国際法は 陸地や島の埋め立てを禁止していない (2) 長い間 日本は 沖ノ鳥島の保全に努めており 保全された構造物に由来する EEZ を主張してきた しかし アメリカはこれについて沈黙を守ってきた 同じように ベトナムは 中国が行っているより遙か以前から 南沙諸島の占拠島嶼の一部を埋め立てて拡張してきた アメリカは これについても異議を唱えなかった 中国とベトナムは南シナ海のベトナム占拠島嶼を巡って領有権を争っているということに 留意する必要がある 中国は U 字ライン ( 9 段線 ) の内側の全ての島嶼や環礁に対する領有権を主張してきた そしてこの点について ベトナムは数十年前に 中国の主張を受け入れていたのである 当時 ハノイは フランスとアメリカに対する独立と統一戦のために中国の支援を必要としていたからである 中国は 2014 年 ベトナムが過去に南沙諸島と西沙諸島の全ての島嶼や環礁に対する中国の主権を認めていたことを示す 証拠を国連に提出した ベトナムが過去の声明と それらの一部に対する中国の占拠と現在の埋め立て活動を否定することに 中国は納得できない それでも 中国は ASEAN と南シナ海に関する行動宣言 (DOC) を締結し 紛争の平和的解決を約束してきた そして 北京は 南シナ海での行動規範 (COC) について ASEAN との交渉に乗り出した 明らかに 中国の領有権紛争に対する姿勢は 南シナ海における平和を維持する意志を反映したものである 国連憲章の下で 各国は 国家主権と領土保全を護るための自衛権を有している 中国は 国際紛争を協力によって解決していく用意がある しかし ベトナムと他の領有権主張国が既に占拠している係争島嶼や環礁を譲渡することは 中国としても期待していない (3) 多くの海運国と同様に 中国の海上輸送も南シナ海に大きく依存している 漁業もまた 10 世紀以上に亘って 南シナ海に大きく依存してきた 最近 中国は 南シナ海の沖合油田開発を進めている そのため 中国は 商業活動のための海洋秩序を維持し あるいはこの地域の開発を進めるために 中国の南シナ海における合法的な海洋権益を護るための物理的な拠点の確保を必要としている アメリカは 中国の埋め立て活動の戦略的影響を注意深く観察している アメリカは 中国の台頭を懸念し 常時監視している 同様に 中国も アメリカがどのように監視しているかを注視する必要があり 南シナ海における中国の埋め立て活動はこの面で大いに役立つであろう 法的に見て アメリカは 中国の埋め立て活動を阻止することはできないが 中国が主張する領空と領海を尊重することもないであろう 米政府当局者は 中国は主権を構築することができない ("China cannot build sovereignty") と指摘しているが 中国は 70

73 当該島嶼に対する主権を保有している限り その領空と領海に主権を有しているのであり しかも国際法は 当該島嶼に付属して新たに構造物を構築することを認めているのである アメリカは 中国の埋め立て活動が EEZ の権利を生むことはないと主張するかもしれないが 既に主権を有している領空と領海から EEZ を切り離すことはできない (4) アメリカの懸念を和らげるために 中国は 幾つかの措置をとりつつある 第 1 に 中国は 南シナ海における航海の自由と 上空通過の自由を脅かさないと言明している 第 2 に 中国は 埋め立てによる人工島を 周辺海域の天気予報や海難救助といった活動のための公共財として提供することを約束している 中国は 人道支援や災害救助に当たって協力を進められるように 国際機関とともに アメリカや他の国が 中国が建設する施設を利用することを歓迎する 要するに 航行の自由や無害通航といった口実で 係争海域やその上空に軍艦や偵察機を派遣すること以外に 疑惑を払拭し 信頼を構築する方法は幾らでもあるのである 記事参照 :Why China Has the Right to 'Build Sovereignty' in the South China Sea html 関連記事 中国の南シナ海における 土地造成 真の狙い 豪専門家反論 (The Diplomat, June 7, 2015) オーストラリアの東南アジア問題専門家 Carl Thayer は 6 月 7 日付けの Web 誌 The Diplomat に No, China Is Not Reclaiming Land in the South China Sea と題する論説を寄稿し 上記の沈丁立教授の論説に反論して 要旨以下のように論じている (1)2014 年に衛星画像が中国による南シナ海での人工島造成活動の実態を確認して以来 ジャーナリスト 安全保障専門家そして政府当局者は 問題を明確にさせるよりも 混乱させるような用語 土地の造成 ( land reclamation ) を 無批判に乱用してきた 中国復旦大学の沈丁立教授は上記の論説で 国際法は土地の造成を禁止していないと主張している 明確にしておくべきは 中国は 環境や人間の活動に影響を及ぼす程 悪化してきた島の状況を改善するために 南シナ海で土地を造成しているのではないことである 中国は 海底や珊瑚礁を浚渫して砂を掻き揚げ 人工島を造成しているのである 中国は 既に主権を有している島に 更に土地を造成しているかのように誤解を招く発表をしている これは正しくない 中国は 低潮高地や岩礁に人工構造物を構築しているのである 中国はこれらの地勢 (feature) に対して主権を主張することはできないし また これら地勢自体も領海や領空を設定できない 人工島は 国際法上 意味が明確である 国連海洋法条約 (UNCLOS) では 人工島に対する主権は その所在する EEZ の沿岸国によってのみ行使することができる 第 56 条は 沿岸国は EEZ において 人工島 施設及び構築物の建設と利用に関する管轄権を持つ と規定し 第 60 条は沿岸国に 人工島を建設する排他的権利 を与え そして第 80 条はこの権利を沿岸国の大陸棚における人工島にまで付与している (2) 中国が現在占拠し 人工島に造成した 7 つの地勢は全て フィリピンの提訴によって仲裁裁判所での法的審査の対象となっている フィリピンが提出した書類は UNCLOS の規定では Mischief Reef( 美済礁 ) McKennan Reef( 西門礁 ) Gaven Reef( 南薫礁 ) 及び Subi Reef ( 渚碧礁 ) は干潮時のみ海面に姿を現す地勢であり しかも Mischief Reef( 美済礁 ) と McKennan Reef( 西門礁 ) はフィリピンの大陸棚の一部を構成している と主張している 更に フィリ 71

74 ピンは Scarborough Shoal( 黄岩島 ) Johnson Reef( 赤瓜礁 ) Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) 及び Cuarteron Reef( 華陽礁 ) は UNCLOS の規定における岩である と主張している これらの地勢は全て フィリピンの EEZ 内か 大陸棚の上にある 要するに 中国は これらの地勢が法的には島であるとし 従ってそれらに対する主権のみならず これら地勢が領海 領空 EEZ そして大陸棚を有すると主張しているのである これに対して フィリピンは これらの地勢が UNCLOS の下では島としての要件を満たさない 水面下の浅瀬や環礁 そして低潮高地であるが フィリピン大陸棚あるいは国際的な海底の一部を構成するものである と主張しているのである (3) 中国の人工島造成問題は 他の 3 つの問題によって混沌としたものになってきている a. 第 1 の問題は これらの人工島周辺 12 カイリの水域とその上空に対して 中国が管轄権を行使しようとしていることである 中国の法律は 特定海域に対して主権的管轄権を主張に当たって 基線の公示を規定している 西沙諸島を除いて 中国は 占拠している地勢について 如何なる基線も公示していない 中国の全ての人工島が ベトナムの占拠地勢に近接していることに留意すべきである これらの地勢が 12 カイリの領海を有するとすれば 中国の領海はベトナムが主張する領海と重複することになろう 問題は これらの全ての地勢が係争対象であり そして UNCLOS の加盟国は現状を変更する措置をとらないことを受け入れていることである こうした状況下で 中国が主権的権利を主張することは 中国による水面下の地勢や岩を自然に形成された島に変える試み いわば一種の法的錬金術といえる 中国は フィリピンやアメリカの軍用機の飛行に対して 中国軍当局がいう 軍事警報ゾーン (a military alert area ) あるいは 軍事安全保障ゾーン(a military security zone ) から離れるよう 繰り返し要求してきた アメリカの軍艦が人工島周辺 12 カイリ以内に入ることを控え またアメリカの軍用機がこれら人工島の直上を飛行しなかったとのメディア報道が正確ならば 中国の法的錬金術は成功したことになろう b. 第 2 の問題は 中国のいわゆる 土地の造成 と同じことを ベトナム マレーシアそしてフィリピンも行っていることである 重要な問題は 2002 年 ( 行動宣言 <DOC> 締結年 ) 以降 どのような造成作業が行われ そしてその目的が何であったか ということである フィリピンは パラワンで埋め立てを行った パラワンは自然に形成された陸地で 国際法上 島としての要件を備えている フィリピンはパラワンに主権を有しており 従ってどんな目的であれ土地の造成は合法的に実施できる ベトナムの場合はこれとは異なる 米シンクタンクが公表した ベトナムが占拠する Sand Cay( 敦謙沙洲 ) と West London Reef( 西礁 ) の衛星画像によれば ベトナムは 2010 年以降 これらの地勢を 2 万 1,000 平方メートルと 6 万 5,000 平方メートル それぞれ拡大した 造成規模が問題なのか ジャーナリスト 安全保障専門家そして政府当局者は 中国の造成範囲と規模が他の領有権主張国のそれらを大きく上回ることに注目した ベトナムの造成は 中国のそれの 1.9% でしかない しかし 彼らはいずれも 南シナ海における 土地の造成 を適切な文脈で捉えてはいない カーター米国防長官のベトナムに対する 土地造成 中止要請は 間違いである 問題は 土地造成 の規模ではなく その意図である 中国と他の全ての領有権主張国は 2002 年 11 月の南シナ海に関する行動宣言 (DOC) の署名国である DOC の下で 署名国は 領有権紛争を難しくしたり 激化させたり また 平和と安定に影響を及ばすような行為を自制する ことに同意している フィリピンやベトナムの造成活動がこれらに抵触しないことは明らかであ 72

75 る 他方 中国の造成活動は 領有権紛争を難しくした 中国の人工島の造成は UNCLOS 違反であり 仲裁裁判所の判決を先取りした行動である 中国は 現状を変えて 域内に既成事実を突きつけた 中国は既に この海域における漁船に加えて 海軍艦艇と航空機の航行の自由と上空飛行の自由に挑戦している 例えば 最近 中国のある人工島の近くで フィリピンの漁船が中国の軍艦に発砲されたという報道があった 更に 中国の造成活動は 人工島が防衛目的に叶うという中国の度重なる声明から 地域平和と安定に影響を及ぼしてきた 中国は 南シナ海に防空識別圏 (ADIZ) を宣言し 行使する権利に繰り返し言及している 更に 中国は既に 4 カ所で造成作業を終え 埠頭や港湾 そして高層建物を建設する作業に移っているといわれる Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) の長さ 3,110 メートルの滑走路の建設と 同じような滑走路が Subi Reef( 渚碧礁 ) でも建設されていると報じられており 中国の現有の各種軍用機の配備が可能となろう 中国は 表面上は非軍事で科学的施設を 短時間で軍事作戦用の中継拠点に変換することもできる c. 第 3 の問題は 中国の造成活動が及ぶす海洋環境への影響である UNCLOS の加盟国として 中国は 海洋環境を保護する義務がある 中国当局は 造成活動がもたらす海洋環境への影響を考慮しており 影響を及ぼしていない と繰り返し主張している 中国の主張に対しては フィリピン政府当局や海洋科学者が疑問を呈している 衛星画像を見れば 中国が人工島を造成している周辺海域の珊瑚礁が浚渫されていることは明らかである (4) 要するに 中国は土地を造成しているのではない 中国は 自国の漁船団 石油天然ガス探査船 そして海洋法令執行船舶のために 人工島に前進中継拠点を建設しているのである 中国が長距離レーダー施設の設置を含めた基盤整備を完成すれば そこに軍用機と海軍艦艇が姿を現すのは時間の問題である 結局 中国は UNCLOS を 中国に都合の良い国際法 に変質させることによって 法的錬金術に成功したのである こうした展開が 南シナ海における中国の 議論の余地のない主権 主張を強めている 中国は 東南アジアの海洋の心臓部を ゆっくりとそして慎重に掴み取りつつある 記事参照 :No, China Is Not Reclaiming Land in the South China Sea 6 月 4 日 南シナ海における中国の行動に対する対応の必要性 米専門家論評 (The Diplomat, June 4, 2015) 米シンクタンク The East-West Center の上席研究員 Denny Roy は 6 月 2 日付の Web 誌 The Diplomat に China Is Playing Offense, Not Defense, in the South China Sea と題する論説を寄稿し 南シナ海における中国の行動は 他国の行動に対する相応のリアクションの域をはるかに超えており それへの対応の必要性を強調して 要旨以下のように論じている (1) 多くの専門家が南シナ海における中国の高圧的態度が強まってきていると指摘してきたが 人工島の造成はその最新の そして最も明確な事例である 問題は 中国の高圧的態度が他国による挑発の結果であるか否かである 南シナ海の領有権紛争に対する中国のアプローチに関して 3 つの説明がある a. 第 1 の説明は 北京は完全に防衛的であるというもの 中国が真に願っていることは 主権問題を棚上げにして 係争海域における資源の共同開発を含め 通常のビジネスを継続する 73

76 ことである この説明では 中国の高圧的な行動は 他の領有権主張国による一方的な措置に対する対応措置ということになろう その意味するところは 中国は現状を受け入れることができるが 現状変更を図る他の領有権主張国が中国に及ぼす不利益を黙認するリスクを甘受できない ということである 従って 他の領有権主張国が先に挑発しない限り 中国も対応しないであろうということになる b. 第 2 の説明は 中国は他の領有権主張国を犠牲にして係争領域の支配強化を目指しており これは以前から準備されていた行動だが 高圧的 と見られることを恐れているというもの そのため 北京は 中国の立場を永続的に強化するような 前もって計画していた相手に倍する報復措置をとる口実を得るために 他の領有権主張国の行動を待っている この説明によれば 中国の拡張主義への欲求は アジア太平洋地域諸国間に対中国安全保障協力が促進されることに対する中国の懸念 ( あるいは恐怖 ) によってバランスがとられるということになる c. 第 3 の説明は 中国は自らの時間表に従って 南シナ海における自国の最大限の領有権主張の実現に向かって前進しているとするもの 北京は 抗争を最小限度に抑えながら 自国の目標を達成することを望んでいる そのため 中国の政策は 中国との 2 国間交渉 ( 当然ながら 大国であり 強国の中国に有利 ) が自国の要求を中国に伝える最良の手段であることを 他の領有権主張国に納得させる狙いを以て 長年に亘って自国の立場を徐々に強化していくことである この説明では 北京は 他の領有権主張国の行動に関係なく 現状を中国有利に一方的に変更していく自らの計画を遂行していくということになろう (2) 一部の専門家は フィリピンによる南シナ海問題の仲裁裁判所への提訴や 人工島周辺に対する米海軍機の哨戒飛行が中国の高圧的態度を抑止するよりも 強化させる要因になっている と指摘している こうした指摘は 北京の南シナ海における行動が防衛的で受動的なものであるとの説明を受け入れるなら 正当化できる しかしながら こうした見方を疑わせる幾つかの理由がある a. 第 1 に 国際システムにおける現在の中国の地位は 北京が現状維持ではなく 自国に有利なように現状を変更しようとしているとの推測を招いている 中国は アメリカの不合理な影響力下に置かれている この地域における自然なリーダーと自認する 台頭する大国である 中国は 他の大国がしてきたように 自国領域周辺における影響圏の確立を目指している 係争中の島嶼や中華民国政府から相続した地図は 中共中央が南シナ海における領有権を主張する口実となっている 強大国は 法的根拠の有無に関係なく 自国の意志で行動するのである b. 第 2 に 中国は今やポスト鄧小平時代である 鄧小平は 国際問題における指導的な役割と担うことなく 不利な出来事に対する過剰な対応を自制し そして可能な限り西欧列強との抗争を回避するよう 彼の後継者に助言した 域内からの強い巻き返しに対する恐怖は 中国の行動を強く抑制した しかしながら 今や中国は相対的に強くなり 自信を持っている 中国の外交政策立案者にとって 中国を新しい地域のリーダーとして押し上げようとする熱意の方が 域内諸国の反発に対する懸念に勝っているようである c. 第 3 に 中国の政策は 忍び寄る拡張主義 (the creeping expansionism ) といわれる様相を益々呈するようになっている 南シナ海における他の領有権主張国はいずれも 他国を犠牲にして自国の主張を強化するような一方的な行動をとってはいない しかしながら 中 74

77 国の行動は 他国の行動に相応した対応の域を遙かに超えている d. 最後に 中国の行動に対する受動的姿勢は 軍事衝突にまで至る可能性を低下させるよりは むしろ高めることになるかもしれない 南シナ海沿岸諸国が自国の管轄海域に対する中国の支配を受け入れず そしてアメリカが国際的海空域と見做されている領域における中国の門衛としての権限を受け入れないのであれば これら諸国は 放置すればこうした望ましくない状況をもたらしかねない 中国の政策に対する断固たる反対の意志を誇示し始めなければならない 対応が遅れれば 中国は 強い反対がないと見て 自国の立場を一層強化できると確信するだけである 南シナ海における中国の土地造成を物理的に阻止するために直接介入するのは不可能だとしても アメリカや他のアジア太平洋地域諸国は 歓迎できない中国の活動に対して強要する代価を高めるための間接的な手段を検討できるし またすべきである (3)1980 年代や 1990 年代に比較して 中国は 南シナ海での自国の地位を急速に強化しつつある 中国は 海洋法令執行機関の哨戒活動や人工島の造成といった物理的な活動だけでなく 外交や法律戦までも動員している 中国が自国に有利な条件で南シナ海問題の解決を図る努力を加速している最大の理由は 北京における外交政策策定の雰囲気の変化を反映しているということである 大国として中国の新しい地位を言祝ぐ中共中央にとって 近隣に中国の意志を強要することは 国内の期待に応えるとともに 中国の 再興 を誇示し 中国大衆の目に共産党政権を正当化し そして困難な経済的再建のための政治的保証を提供するという 習近平主席の課題を果たすことにも役立っている 南シナ海が中国の湖になれば 海洋資源へのアクセスを失ったり 航行の自由を制限されたり あるいはアメリカによって支えられてきた地域秩序の弱体化を招いたりすることで 一部のアジア太平洋諸国の利害が損なわれることになろう これら諸国は 中国のあからさまな意図に抵抗すべきである 一方的な拡張主義に対して中国に強要する代価を吊り上げる抵抗は 緊張を激化させる行動を中止し 南シナ海を協力的かつ平和的に共有する方法を模索することに 全ての領有権主張国が改めて目を向ける機会となる 記事参照 :China Is Playing Offense, Not Defense, in the South China Sea ina-sea/ 6 月 8 日 南シナ海問題に対する中国の認識 印専門家論評 (South Asia Analysis Group, June 8, 2015) インドの Jawaharlal Nehru University の The Centre of Chinese and South Asian Studies 教授 Dr. B.R. Deepak は インドの 6 月 8 日付の South Asia Analysis Group に Sino-US Rivalry in South China Sea: A New Norm? と題する論説を寄稿し 要旨以下のように論じている (1) 南シナ海は 古くから中国と東南アジア諸国との係争海域であった 現在 西沙諸島と中沙諸島はほぼ中国の そして東沙諸島は台湾の それぞれ管轄下にある 南沙諸島の西部 北東部そして南西部はそれぞれベトナム フィリピン及びマレーシアの事実上の管轄下にあるが 島嶼 岩礁 環礁については 中国が 8 カ所 台湾が 1 カ所 ベトナムが 29 カ所 フィリピンが 8 カ所 マレーシアが 5 カ所 そしてブルネイが 2 カ所 それぞれ占拠している 中国が南シナ海をどのように認識しているかについては 以下の諸点が指摘できる a. 第 1 に 中国は アメリカがインド洋太平洋地域のチョークポイントのほとんどを支配していることに加えて 重要な海域や航路帯の支配も企てており 従って アメリカがより大き 75

78 な行動の自由を持つことになるのに反して 中国が封じ込められることになる と認識している これに対して 中国による埋め立ては アメリカの戦略空間を拒否することになろう 更に 長期的には いわゆる マラッカ ジレンマ は 一帯一路 構想 特に中国 パキスタン経済回廊によって克服されるであろう 従って アメリカが南シナ海における姿勢を強めてきているのは不思議ではない b. 第 2 に 中国は アメリカが域内国家でもなければ 中国と他の域内国家との領有権紛争の当事国でもない域外国である と認識している 従って アメリカは この地域に対する覇権の維持や中国の封じ込め以外に 南シナ海問題に口出しする何の利害も持っていない c. 第 3 に 中国は アメリカがフィリピン ベトナムや日本 そして最近では韓国やインドまで中国封じ込め政策に荷担するよう慫慂することで 南シナ海紛争の煽動者となっている と認識している 中国は アメリカの干渉がこの問題を国際化し 複雑化するとともに より重要なことに中国の国際的イメージを貶めている と感じている d. 第 4 に 中国は 中国が領有権を主張している島嶼や岩礁を違法に占拠している国々に対して アメリカは 選択的に沈黙し ており これをダブル スタンダードだとして非難している 中国は アメリカが全ての領有権主張国に埋め立ての中止を求めているのはリップサービスに過ぎず 南沙諸島の最大部分を 占拠 しているベトナムなどの他の領有権主張国の埋め立てには決して反対していない と考えている e. 第 5 に 国連海洋法条約 (UNCLOS) の加盟国でもないアメリカは UNCLOS は 12 カイリの領海以遠の海域への外国軍艦や航空機の自由なアクセスを認めているなどと主張している アメリカの PA-8 哨戒機はこの主張に基づいて飛行したが 中国から当該空域から離れるよう警告された 中国は 外国の軍用機が 200 カイリの EEZ に許可なく立ち入ることはできない と主張している アメリカは 中国が浚渫と埋め立てによって この地域における航行の自由に有害な影響を及ぼすことになる既成事実を作り上げることを 危惧している アメリカは UNCLOS の加盟国であれば 航行の自由に関して仲裁裁判所に提訴していたかもしれない f. 第 6 に 中国は アメリカが主権に関わる問題に関する限り中立を維持してきたことを承知している しかし アメリカは いずれにも与してこなかったが 埋め立てた環礁に対する中国の主権には反対してきた このことは 5 月末のシャングリラ ダイアローグにおける 水面下の岩礁を飛行場に作り替えただけでは 主権を認められない とのカーター米国防長官の発言に明らかである g. 第 7 に 中国は 楽観的であり 成功に自信を持っているが アメリカを含む世界のほとんどの国が前記の 主権を認めない との見方を共有していることを知っている h. 最後に 中国は アメリカがこの地域において中国と深刻な対立になることを望んでおらず 従って その哨戒飛行も ( 埋め立て環礁から )12 カイリ以内に入ることはなく もし 12 カイリ以内に入れば 予期せぬ事態が生じ 地域の安定が脅かされることになろうということを 承知している (2) 南シナ海には 70 億バーレルの石油と 900 兆立方メートルの天然ガスが埋蔵されていると見られる 700 以上の島嶼や 岩礁 環礁あるいは砂州が散在していることを考えれば そこにおける領有権紛争に比べて 航海の自由は深刻な問題でないかもしれない 領有権を主張する ASEAN 加盟 9 カ国の全てが反中国に傾き 外交的にも軍事的にもアメリカに依存している 76

79 しかしながら これら諸国は その経済が中国経済と深く関係しており 従って中国と表立って しかも単独で対立することを望んでいないかもしれない 中国は 南シナ海を チベットや新疆と共に 交渉の余地のない核心的利益である と宣言している 中南海から出る強硬路線は 中国は埋め立て工事を続行し 様々な心理戦 報道戦 政治戦あるいは法律戦などによってアメリカに抵抗していく というものである アジアへの軸足移動 を進めるアメリカとしては 米海軍が南シナ海における中国の領有権主張に挑戦し 12 カイリ以内に進入するかもしれない そうすることは 中国をして 南シナ海における新たな防空識別圏 (ADIZ) の設定に向かわせることになり 米中の対立は 予期せぬ事故や誤算に繋がることになるかもしれない 中国は大陸国家から海洋国家へ徐々に移行しつつあり 従って インド洋太平洋地域における既存の世界大国と台頭する大国間との対立は これからの時代の 新たな常態 (a new norm) になるかもしれない 記事参照 :Sino-US Rivalry in South China Sea: A New Norm? 6 月 12 日 南シナ海における中国の主張は曖昧か 中国人専門家論評 (Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 12, 2015) 中国の Joint Institute for Maritime Law and History, East China University of Political Science and Law(ECUPL) 所長の Dr. Zheng Zhihua は 6 月 12 日付の米シンクタンク CSIS の Asia Maritime Transparency Initiative に Why Does China s Maritime Claim Remain Ambiguous? と題する論説を寄稿し 要旨以下のように述べている (1) 南シナ海に対する中国の主張が曖昧であるとする批判が多い 例えば 中国は国連海洋法条約 (UNCLOS) の加盟国であるにもかかわらず UNCLOS とその他の海洋に関する国際法を遵守していない と批判されてきた 中国は 9 段線 に何が含まれ あるいは含まれないかについて 決して明らかにしてこなかった 一部の専門家は 隣接水域 ( adjacent waters ) や 関連水域( relevant waters ) といった UNCLOS にない用語を用いて 南シナ海における領有権主張を故意に不明瞭なものにしている と非難している 何故 そしてどの程度まで 中国の主張は曖昧なままなのか 客観的な分析者は その海洋境界に対する主張にはある程度曖昧さが見られるが 中国が南シナ海における一部の島嶼や岩礁 環礁に対して明確かつ一貫した領有権を持っている と結論づけるであろう 実際 中国は 南シナ海における一部の島嶼や岩礁 環礁に対して明確かつ一貫した領有権を持っている 事実 このことは 以下の 3 つの公文書 即ち 国民党政府が公表した 1947 の南シナ海諸島地図 1958 年の領海に関する新中国の宣言 そして 1992 年の領海と接続水域法に明確に規定されている これらの文書は 東沙諸島 西沙諸島 中沙諸島及び南沙諸島とその他の島嶼が中国の主権下にある領土の一部であると規定している (2) 一部の国は 南シナ海における中国の海洋境界の主張を 歴史的な理由から曖昧と見なしている 第 1 に UNCLOS は歴史的権原に関する問題に適切に対処していないということである 第 15 条と第 298 条 (1)(a) での歴史的権原への言及 第 10 条 (6) の歴史的湾の規定及び第 51 条の伝統的な漁獲権の認知があるが UNCLOS には 歴史的権原の定義 あるいはその具体的な意味について如何なる規定もない 第 2 に 歴史的権原に関して 国際法上一貫した理解に達することはなかったということである 世界最古の文明国の 1 つである 中国の観点からすれば 南 77

80 シナ海は伝統的なアジアの秩序体系 ( 中華秩序 ) の一部であり 従って ウェストファリア体制下の国民国家システムだけから 9 段線 を理解しようとするのは不適当であろう (3) 南シナ海の 9 段線 地図は UNCLOS より 50 年も前に そして 4 つのジュネーブ海洋法条約 ( 領海及び接続水域に関する条約 公海に関する条約 漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約 及び大陸棚に関する条約 ) の 10 年前に 中国の国民党政府よって公式に発表されたものである 従って 9 段線 内における中国の歴史的権原は 無視されるべきでない 1947 年に国民党政府によって引かれた 9 段線 は 中国が領有権を主張する南シナ海の島嶼や環礁と 沿岸諸国の海岸線との間のほぼ中間に引かれており 従って 中国の領有権主張の範囲を反映するものである この領有権主張の一貫性は 1949 年以後 新中国によって継続されてきており しかも中国の主張は長い間 境界を接する沿岸諸国によって認められるか あるいは黙認されてきたのである 従って 9 段線 は 国際法の下で証拠能力と歴史的重みを持つといえる (4) 中国の 9 段線 地図とその線内の水域に対する主張についての曖昧さは 主として UNCLOS の欠点から生じるものである 歴史的権原に関する国際法は 理論と教義においてかなり不完全で 統一された基準が欠如している 中国は 南シナ海における領有権主張を明確化することに努めてきた しかし 歴史的権原に対する理解を明確にするためには 新しい国際条約や議定書に同意することによって UNCLOS を補完し改良する 国際社会による合同努力もまた必要である 記事参照 :Why Does China s Maritime Claim Remain Ambiguous? 関連記事 南シナ海における中国の主張は曖昧 米専門家反論 (Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 16, 2015) 米海軍大学の Peter Dutton 教授は 前記 Dr. Zheng Zhihua の論説に対して 6 月 16 日付の Asia Maritime Transparency Initiative に China s Claims are Unambiguously Ambiguous と題する論説を寄稿し 要旨以下のように反論している (1) 前記論説の最初のパラグラフで Dr. Zheng Zhihua は 2 つの問題 即ち島嶼に対する主権の問題と 海洋資源に対する管轄権とそれらを区切る海洋境界に関する問題とを 基本的に混同している 領有権主張 とは 島嶼やその他の陸地に関するもので 国連海洋法条約 (UNCLOS) によって規定されるものではない 隣接水域 や 関連水域 といった用語に対する批判は正当化できる 何故なら これらは陸地に対するものではなく 中国が主張する水域や境界に関する用語だからである 中国は南シナ海における一部の島嶼や岩礁 環礁に対して明確かつ一貫した領有権を持っている という言い方は正確だが このことは正に我々が中国に対して疑義を呈してきたことである 中国の主張を合理的と見る人は ほとんどいない 第 2 パラグラフで 中国の国内法や 9 段線 地図の公表によって 中国は南シナ海に陸地に対して一貫して主権を主張してきたという しかし 中国政府の海洋に関する主張と 9 段線 の性格については 依然疑問の余地なく曖昧である 残りのパラグラフは 歴史的権原に関する言及である 中国は 歴史的権原を要求するか もしそうするならば どんな権原か 何処についてか そしてどんな論理で要求するのか (2) 海洋に関する歴史的権原について 法的欠陥に言及しているが しかし 筆者 (Dutton) の考 78

81 えでは UNCLOS が歴史的権原に 適切に対処していない と言うことは あまり正確ではない 第 1 次から第 3 次までの海洋法会議は 幾つかの条約を成立させた 第 1 次会議終了後 1958 年のジュネーブ海洋法条約が成立した UNCLOS(LOSC または LOST ともいわれる ) は 第 3 次会議が終了した 1982 年に成立した これらの会議を通じて 海洋資源の管轄権に関する歴史的権原問題は しばしば論議された 第 2 次会議は 成立条約なしに終わったが 1962 年に海洋における 歴史的権原 の現状に関する有益な報告書が作成された 1962 年には 海洋資源に関する 歴史的権原 について 非常に多くの異なったアプローチがあったので 海洋資源の管轄権に関する国際的なコンセンサスができなかった 1958 年の時点でも この問題は非常に困難なものであった 1958 年の領海に関するジュネーブ条約では この問題の存在が認められていたが その範囲を巡って合意に至らず 未解決のまま先送りされた 1958 年から第 3 次会議が終了した 1982 年までの間における 国際社会が取り組むべき課題は 海洋資源の管轄権の割り当てに関する秩序だったプロセスを確立することであった これは簡単な仕事ではなかった 何故なら 海洋に面した沿岸国の権限を海洋に向けて拡大することと 航行の自由や多くの国にとってのその他の固有の自由との間で 相克があったからである 1982 年までに EEZ という新たな管轄海域を設けることについて十分なコンセンサスが確立され 第 3 次会議は新しい条約の成立を以て終了した 筆者は EEZ が非常に成功したレジームであったと指摘しておかなければならない 1982 年以後 更に 12 年の年月を要したが 1990 年代半ば頃までには 1994 年に発効した UNCLOS に多くの国が加盟した 中国は 1996 年に加盟したが EEZ については如何なる保留や声明も出さなかった アメリカのように UNCLOS に加盟していない国を含め EEZ はほとんど全ての国に受け入れられた 国際司法裁判所とアメリカは 慣習法でも EEZ の存在を認めた (3) 従って UNCLOS が歴史的権原に 適切に対処していない と言うことは 不正確である UNCLOS は 領海を超えた海域における海洋資源に対する歴史的権原の存在を不要なものとし 領海基線を引くプロセスの一部に歴史的権原を含めた 従って 国際社会は UNCLOS のプロセスを通じて 歴史的権原について包括的に 議論してきた のである 歴史的権原に関するあらゆる学術的な記述は UNCLOS と 領海基線と歴史的湾に対する規制と矛盾するものではない それにもかかわらず Dr. Zheng Zhihua の議論は 今日の中国人学者の間での標準的な知識となった 端的に言えば 中国は 航行の自由とその他の公海における自由を含む EEZ が現在の中国の利益と目的に合わなくなった と認識しているのである 従って 中国は EEZ からそれらを除こうとしているのである これは 法律の欠陥や曖昧さというものではない 中国の利益が変わったのである 海洋資源に対する管轄権と公海における自由との妥協の産物であることを含め EEZ レジームは グローバルに受け入れられている しかも 中国は 直接的に あるいは間接的に EEZ から多くの利益を得てきた 中国は 世界中の多くの沿岸国家から漁業権を購入しており 世界最大の商業漁業国である 通商航行に対する国家や非国家集団の脅威を制圧するために各国海軍がグローバルに EEZ にアクセスできるため 中国のシーレーンは 安泰である EEZ レジームを破壊することは恐らく不可能であろうし それは如何なる場合でも近海を超えた海域における中国の利益に反するであろう 従って 中国にとって最高のオプションは こうした特別な権利を擁護することである 記事参照 :China s Claims are Unambiguously Ambiguous 79

82 6 月 15 日 中国の人工島造成と国際法 (Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 15, 2015) 南シナ海問題の専門家 Huy Duong は 6 月 15 日付の米シンクタンク CSIS の Asia Maritime Transparency Initiative に Massive Island-Building and International Law と題する論説を寄稿し 中国の人口島造成による国際法上の問題点について 要旨以下のように述べている (1) 中国はこの 1 年で 南沙諸島に人工島を急速に造成し 南シナ海の地政学的そして安全保障環境を大幅に変えてしまった 造成された人工島は 係争領域である南沙諸島のみならず 海洋境界確定に関する国際法の如何なる解釈によっても合法的に他の国に属していることが明白な EEZ に深く入り込んだ南シナ海の大部分の海域に対しても 中国の戦力投射と支配の強化を可能にする基盤となろう 何十年にも亘ってこれら諸島と EEZ に対する関係国の主張が重複してきたが 1 つには中国の最も近い軍事施設が係争海域から数百カイリも離れた北方にあったことから 現在まで不安定ながら均衡が維持されてきた しかしながら 他の領有権主張国の防衛計画立案者は 今や 距離の壁がなくなった状況に対処しなければならない (2) もう 1 つの懸念は 中国が新しく造成した人工島を新たな領有権主張の根拠にするかどうかである 第 1 に 中国は Mischief Reef( 美済礁 ) と Subi Reef( 渚碧礁 ) の周辺に 現在これら海域に公認されている国際社会の航行の自由と上空飛行の自由を侵害することになる 12 カイリの領海を主張するか あるいはある種の漠然とした 軍事警戒ゾーン ( military alert zone ) を設定するかもしれない 第 2 に 中国は 他の領有権主張国が部隊を駐留させている島嶼に近接した人工島周辺に領海を宣言するかもしれない このことは 他の領有権主張国との間で 直接的な紛争の種となるであろう 第 3 に 人工島の造成によって 中国は南沙諸島全域に対する EEZ を主張する気になるかもしれない このことは この海域の海洋紛争を一層激化させることになろう (3) 中国は 南沙諸島の島嶼や環礁における中国の活動は 完全に中国の主権に基づくもので 完全に合法的である ( 外交部報道官 2014 年 9 月 9 日 ) と主張することで 人工島の造成を正当化している しかしながら こうした主張には幾つかの瑕疵があることを指摘できる a. 第 1 に Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) Johnson South Reef( 赤瓜礁 ) Cuarteron Reef( 華陽礁 ) Hughes Reef( 東門礁 ) 及び Gaven Reef( 南薫礁 ) はいずれも 領有権紛争の対象となっていることである 従って これらの環礁の地勢的形状を完全に そして復元困難な形で変更することは 領有権主張国として不誠実である もし領有権紛争の解決が国際法廷に委ねられ そこでこれらの環礁が中国以外の国に属すると裁定された場合 現在の造成活動によってこれら環礁に加えられた損傷は 領有国の権利を取り返しができない程損ねたということになる b. 第 2 に Mischief Reef( 美済礁 ) と Subi Reef( 渚碧礁 ) は 原状では満潮時には海面下にある 低潮高地 で 他の島嶼や環礁から 12 カイリ以上離れており 慣習国際法ではどの国もこれらに対する主権を主張できない 従って これらの環礁で行われている造成活動による人工島は 中国の主権下にあるとはいえない 更に この海域で造成された人工島に対して主権を主張することは 中国であれ 他の国であれ 違法である c. 第 3 に 国連海洋法条約 (UNCLOS) は 中国が Mischief Reef( 美済礁 ) と Subi Reef( 渚碧礁 ) に 12 カイリの領海やそれを超える EEZ を宣言することを認めていない 人工島は 最大 500 メートルの安全水域が設定できるだけである 80

83 d. 第 4 に 中国は 特に南シナ海のような閉鎖海や半閉鎖海における海洋環境の保護に関する UNCLOS 第 192 条と 123 条に違反している 192 条は いずれの国も 海洋環境を保護し 保全する義務を有する と規定している 123 条は 海洋環境の保護及び保全に関する自国の権利の行使及び義務の履行を調整すること と規定している 当然ながら 南沙諸島の紛争当事国のいずれも 係争島嶼や環礁に建造物を構築する権利を有していると考えているであろうが これら紛争当事国の全てが半閉鎖海で脆弱な環境の南シナ海における海洋環境を保護し 保全する義務を有していることは 否定できない 中国は 独立した専門家による環境評価や 他の沿岸国との調整や協議もなく 海底から数億トンの砂と珊瑚を浚渫して 魚類の不可欠な産卵場所である珊瑚礁を埋め立て 800 万平方メートルの陸地を造成することで UNCLOS の義務を完全に無視している e. 第 5 に 南沙諸島が領有権や海洋境界画定紛争の対象になっているという事実から もう 1 つの UNCLOS 違反を指摘できる UNCLOS 第 74 条と 83 条は EEZ あるいは大陸棚の境界画定に関して 関係国は 理解と協力の精神により 実際的な性質を有する暫定的な取極を締結するため 及びそのような過渡的期間において最終的な合意への到達を危うくし 又は妨げないためにあらゆる努力を払う と規定している ガイアナとスリナムの海洋境界画定に関して 常設仲裁裁判所 (PCA) は 2004 年の判決で上記条項に関して 当事国が係争領域において一方的に恒久的な変更を加えることは認められない と解釈した Mischief Reef ( 美済礁 ) が係争中の EEZ 内にあることは明白で また Subi Reef( 渚碧礁 ) も係争中の EEZ あるいは大陸棚の延長上にあると見られ 従って UNCLOS 第 74 条と 83 条 及びガイアナ スリナム判決が適用できることは明らかである これらの環礁における人工島の造成は明らかに これらの条項に違反する これらの環礁と異なり Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) Johnson South Reef( 赤瓜礁 ) Cuarteron Reef( 華陽礁 ) Hughes Reef( 東門礁 ) 及び Gaven Reef( 南薫礁 ) は いずれも満潮時でも海面上にあるか あるいは他の島嶼から 12 カイリ以内に位置している UNCLOS によれば これらは領海に取り囲まれている 従って これらの環礁における中国の人口島造成は領海内で行われているということになり UNCLOS 第 74 条と 83 条 及びガイアナ スリナム判決 (EEZ 及び延伸大陸棚に対してのみ適用 ) は直接関連がないように思われる しかしながら 子細に観察すれば 別の見方もできる 良く知られているように 珊瑚礁は海洋における重要な魚類の産卵場所であり これらを破壊することは これら珊瑚礁の周辺海域を大きく越えて海洋の漁業資源量に影響を及ぼしかねない 従って 珊瑚礁に大きな人工島を造成することは これらの珊瑚礁の領海を越えて EEZ に恒久的な影響を及ぼす可能性がある 南沙諸島の場合 EEZ が係争海域であるため 当事国の行為が領海内であっても EEZ に恒久的な変更を加えることは違法であり 従って UNCLOS 第 74 条とガイアナ スリナム判決が適用できる (4) 要するに 中国の大規模な人工島の造成は 南シナ海の安全保障環境に対する挑発的な変更であることに加えて 海洋環境に対する破壊行為である 中国の行為は 完全に中国の主権下にある とか 海洋法に従っているといった口実では正当化できない 実際 Mischief Reef( 美済礁 ) と Subi Reef( 渚碧礁 ) に対して もし中国が主権を主張するとすれば それは国際法を書き換えようとする大胆な試みということになろう 記事参照 :Massive Island-Building and International Law 81

84 6 月 18 日 南シナ海での造成活動 どの国が活発か (The Diplomat, June 18, 2015) ニューヨークの The East West Institute の専任研究員 Dr Greg Austin は 6 月 18 日付の Web 誌 The Diplomat に Who Is the Biggest Aggressor in the South China Sea? と題する論説を寄稿し 最近まで南シナ海の占拠カ所における造成活動で最も活発であったのはベトナムだったとして 要旨以下のように述べている (1) ある情報源によれば ベトナムは 1996 年時点で 南沙群島で 24 の島嶼や岩礁を占拠し 中国は 9 カ所占拠していた シーア米国防副長官が 5 月 13 日に上院外交関係委員会で明らかにしたところによれば ベトナムは 48 カ所 フィリピンは 8 カ所 中国は 8 カ所 マレーシアは 5 カ所そして台湾は 1 カ所である それによれば 中国は過去 20 年間 新たな島嶼や岩礁を占拠しなかったが 対照的に ベトナムは占拠カ所を 2 倍にした しかもそれらは最近数年間で増えたもので この 6 年間でベトナムの占拠カ所は 30 から 48 に増加している (2) シーア国防副長官は 外交委員会での証言で 中国は他の領有権主張国が占拠カ所に有していたような滑走路を保有していなかったとして 以下のように述べた 全ての領有権主張国は 一様にそれぞれの占拠カ所で建設活動を行ってきた 拡張の形態は各国によって異なるが 埋め立て 構造物の建設と拡張 そして防衛施設の設置まで多様である 2009~2014 年の間 ベトナムは 最も活発に占拠カ所の拡張と埋め立てを行った国であり 約 60 エーカーを造成した 中国とブルネイを除く 他の全ての領有権主張国は 既に係争海域の島嶼に様々な規模と機能を持つ滑走路を建設していた 現在では中国が Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) に滑走路を建設していることに加えて 他の占拠カ所でもベトナム以上に活発な造成活動を行っている シーア副長官は 特に 2009 ~2014 年の間 ベトナムが最も活発だったと述べている このことは 中国の軍指導者達が 我々はかなり自制してきた と主張する意味を理解するのに役立つであろう 記事参照 :Who Is the Biggest Aggressor in the South China Sea? 関連記事 南シナ海での造成活動 群を抜く中国 セイヤー反論 (The Diplomat, June 21, 2015) 東南アジア問題専門家の Carl Thayer は 6 月 21 日付の Web 誌 The Diplomat に Who Is the Biggest Aggressor in the South China Sea?(A Rejoinder) と題する論説を寄稿し 前記 Dr Greg Austin の論説に対して 要旨以下のように反論している (1) 前記論説で Dr Greg Austin が挙げた数字は間違いで ベトナムの占拠島嶼や岩礁の大部分は再統一後の 1970 年代に占拠したとするのがより正確で それ以降 占拠カ所を倍増することなどあり得ない 筆者 (Carl Thayer) は 米海軍大学第 66 回現代戦略フォーラムに提出した論考で 米政府当局者も ベトナムが南シナ海で 48 カ所の島嶼や岩礁を占拠していると主張した カーター国防長官は 6 月のハノイ訪問時 ベトナムに対してこれら占拠カ所における全ての陸地造成活動を永久に停止するように求めた これに対して ベトナムのタン国防相は 陸地造成活動 は土壌の侵食を防止するために行なっていると主張するとともに ベトナムが 9 カ所の 浮島 と 12 カ所の 低潮高地 の合計 21 カ所の地勢に軍要員を配置していると述べた と発表した なお 筆者は 論考の脚注に 浮島 とは 海面より上にある地勢 あるいは海面下の地勢に鋼材 土 岩石及びコンクリートで補強することで造成された地勢を言い 低潮高地 は海面下にある地勢を言う と記した アメリカは ベトナムが占拠しているとする 82

85 48 カ所全てのリストを公表しなければならない 事実を確認する前に結論を急がないように注意すべきである ベトナムのいわゆる 陸地造成活動 は 中国の新しく造成した人工島の総面積の 1.9% でしかない ベトナムは中国のような浚渫機械を持っておらず 本国から土を持ち込んで使用している (2) 筆者は 2012 年に発表した論考で 中国は 占拠した幾つかの地勢に構造物を建設し 南シナ海における軍事プレゼンスを強化した と指摘した 中国は 1995 年に Mischief Reef( 美済礁 ) を占拠し 南シナ海で最初の構築物を建設した 1998 年 10 月には 3 つの八角形の木造構築物と 2 つの 2 階建てのコンクリートの塔を環礁の両端に建造した 塔には 通信のための衛星通信施設 (SATCOMM) と HF アンテナが林立している 塔は 電子情報 (ELINT) 器材とレーダーを収納するためのものと見られる Mischief Reef( 美済礁 ) の施設には その後更に 2 つの新しい埠頭とヘリコプター離着陸場が建設され 海軍の航行用レーダーと幾つかの対空砲と対艦巡航ミサイル システム (HY-2 か C-801) が配備された 長さ 200 フィートのコンクリート構築物が Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) で建設された これには 海軍用高周波 (HF) 八木レーダーンテナ (Bean Sticks) と 2 つの電子妨害装置 (ECM) レドームと各種の通信用垂直アンテナとマスト アンテナが装備されている それぞれのアンテナは 異なる要求 例えば無線信号の監視や長距離通信といった機能を支援している ここにも 衛星通信 (SATCOMM) と気象用のパラボラアンテナが配備されている Johnson South Reef( 赤瓜礁 ) には 4 つの八角形の建屋と長方形のコンクリートの上に 2 階建ての建屋があり 2 基のタワーが付随している 1 基の衛星通信と 3 本のマスト アンテナが屋根に取り付けられている Hughes Reef( 東門礁 ) は 同じような構築物に加え 木造の兵舎がある Subi Reef( 渚碧礁 ) は 木造の兵舎と SATCOMM アンテナとヘリコプター用離着陸場を備えた 2 階建ての建屋が建っている (3) 要するに 南シナ海における中国の施設は 中国海軍がこの海域で主権主張を誇示する能力を強化している 中国は最近になって Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) の電子 レーダー施設を使用して 南シナ海を飛行するフィリピンの軍用機 ( そして米海軍の Poseidon 8) に対して 軍事安全保障ゾーン (a military security area ) や 軍事警戒ゾーン( military alert zone ) から離れるよう 繰り返し警告している また 中国は Luconia Shoals( 南北康暗沙 ) と Erica Reef( 簸箕礁 ) でマレーシアの領土標識を取り去り 中国の領土標識と取り替えた 中国は現在 マレーシアの EEZ 内の James Shoal( 曾母暗沙 ) に 1 隻の中国海警局巡視船を常駐させており 海面下 22 メートルにある暗沙に対して主権を主張している 中国の主権主張の根拠は 地図作成の手品に基づいている 国民党政府作成の 1947 年の南シナ海地図を修正した時 中国は James Shoal の名前を暗沙に書き換えたのである 中国はまた インドネシアの EEZ 内で密漁していた中国人漁民を逮捕したインドネシア警備艇の合法的な法令執行活動を妨害するために 電子妨害を実施した (4)1974 年 1 月に西沙諸島の永楽群島 (Crescent group) に侵攻して南ベトナムから奪取し 1988 年 3 月にはベトナムの Johnson South Reef( 赤瓜礁 ) と周辺の環礁を武装占拠した 中国のこれまでの行動の軌跡を見れば 他の全ての領有権主張国のそれとの違いは際立っている 中国は今や 保有するあらゆる軍用機が使用可能な 3,110 メートルの滑走路を Fiery Cross Reef ( 永暑礁 ) に建設した 中国は将来 Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) に最大 30 機の戦闘機と戦闘小艦隊を常駐させることが可能であろう 中国が海南島の海軍基地を拡充するとともに 南シナ 83

86 海で造成した人工島に前方作戦拠点の建設を完了すれば 南シナ海は 軍事的により激しい抗争の場となろう 記事参照 :Who Is the Biggest Aggressor in the South China Sea? (A Rejoinder) -a-rejoinder/ 6 月 18 日 モディ首相 インド洋におけるインドの影響圏確立を目指す インド人専門家論評 (Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 18, 2015) インドの The Observer Research Foundation の研究員 C. Raja Mohan は 6 月 18 日付の米シンクタンク CSIS の Asia Maritime Transparency Initiative に Modi and the Indian Ocean: Restoring India s Sphere of Influence と題する論説を寄稿し モディ首相のインド洋におけるインドの影響圏確立を目指す動きについて 要旨以下のように述べている (1) インドのモディ首相は 2015 年 3 月 セイシェルとモーリシャスを訪問した際 この半世紀の間 インドがとってきたインド洋地域に対する政治的アプローチをひっくり返す 大胆なフレームワークを提案した 1960 年代後半 ガンディー首相は 非同盟の第三世界国家という立場から 全ての大国がインド洋から撤退し 大国間の抗争がインド洋に及ばないよう要請した インドが経済のグローバル化政策をとり 軍事的孤立から脱し始めた 1990 年代に ガンディーのアプローチに変化が現れた しかしながら インドの新たな海洋空間への対応は 国家戦略に組み込まれなかった インドのアプローチは 大陸指向のデリーの国防エリートの抵抗に阻まれた トップの政治リーダー達は 未だにインド洋やそれを超えた海洋空間における明確な目標を設定する時間も意向も有していなかったのである インドと同様に 中国も長年 大陸指向に囚われていた しかし 中国が遠洋海軍の建設に着手し 太平洋とインド洋における自国の海洋ビジョンの実現に力を入れ始めるに従って インドは 自国の海洋安全保障に対する影響を検討せざるを得なくなった (2) インドの統一進歩同盟 (UPI) による前政権は インド洋に関する幾つかの新しいイニシアチブを立ちあげた これは 地域協力を目指して 1990 年代設立されたが 当時休眠状態の環インド洋地域協力連合 (Indian Ocean Rim Association) に新たな息吹を吹き込むことを狙いとしたものであった また 海洋安全保障を促進するために インド洋沿岸諸国の海軍高官が参加する インド洋海軍シンポジウム (The Indian Ocean Naval Symposium) も始まった インド政府はまた インド スリランカ及びモルディブの 3 カ国の国家安全保障顧問レベルの安全保障対話も開始した 最近のモディ首相によるインド洋諸国訪問は 前政権のイニシアチブの実行を促進するものであった 3 月のモディ首相のセイシェルとモーリシャス訪問は インド洋沿岸地域がデリーの最優先の政策課題であることを示す良い機会となった (3) モーリシャスでの演説で モディ首相は インド洋沿岸地域に対するインド海洋関与政策に関して 5 つのフレームワークを提案した a. 第 1 に インド政府は インド本土や島嶼領土の安全を確保し 海洋権益を護るために 必要なあらゆることを行う 2008 年 11 月のムンバイでのテロ事件以降 インド政府は 海からのテロ攻撃の可能性に神経を尖らせてきた インド政府はまた グローバルな政治におけるインド洋の戦略的な重要性の増大にも注意を払っている モディ首相は インド自身の利益が最優先課題だが インド政府は 繁栄の基盤となるインド洋地域における安全と安定を 84

87 確保するために努力する ことを約束した b. 第 2 に モディ首相のフレームワークは 域内のパートナー諸国との安全保障協力の深化を重視している インドは長年 セイシェル モーリシャス両国と緊密な安全保障パートナーシップを維持してきた モディ首相は これを一層進化させる意向である セイシェルで モディ首相は 海洋巡視のために 2 機目の Dornier 機を供与し 水路調査のための協定にも署名した 更に 沿岸監視レーダー プロジェクトを立ち上げた レーダー イニシアチブは インド洋全域における海洋情勢識別能力ネットワークを構築するという 野心的なプロジェクトの一環である そのためには モーリシャスとセイシェルに各 8 基の監視レーダー またスリランカに 6 基 モルディブに 10 基の監視レーダーの設置が必要である これらのレーダー網は インド沿岸域に設置された 50 カ所以上のサイトに連結され デリー近郊の統合解析センターに送られる 両国は 防衛能力の強化によって 南西インド洋の重要な場所におけるインドの有益な拠点となりそうである c. 第 3 に インド洋における多国間の協調的海洋安全保障の構築である モディ首相は インドはテロや海賊行為への対処 自然災害への対応における地域メカニズムの強化を支援すると発表し モーリシャス セイシェル及びその他の国も モルディブとスリランカとの間の 3 カ国間安全保障イニシアチブに参加するよう期待していると語った これは インドを中核として インド洋沿岸域諸国との非常に生産的な多国間海上安全保障協力へのステージとなるものである 一部のアナリストによれば セイシェルとモーリシャスの戦略的施設へのインドのアクセスは インドの外国の軍事基地に対する伝統的な反対から逸脱意味するという これらを 基地 と呼ぶのは時期尚早かもしれないが これらが将来的に インド洋沿岸域におけるインドの戦略的な足がかりを拡大する端緒となる可能性がある d. 第 4 に 持続可能な経済発展である モディ首相はセイシェルで 持続可能な海洋利用を目指す インド洋沿岸域における ブルー エコノミー の協力拡大のための合同作業グループの設置を発表した e. 第 5 に モディ首相は インド洋における他の大国との協力に躊躇するという インドの長年の方針を破棄した モディ首相は インド洋沿岸諸国が当該海域の平和 安定と繁栄のための第一義的な責任を有すると主張しながらも アメリカが対話 演習 経済的パートナーシップ そして能力構築努力を通じて 域内で果たしてきた役割を評価した オバマ米大統領の訪印中に モディ首相とオバマ大統領は 防衛枠組み合意の更新を発表し インド洋とアジア太平洋地域における協力を拡大するための幅広い枠組みに合意した (4) モディ首相は アメリカに対する新しいアプローチを打ち出しながらも 中国に対するドアは開けたままにしている アメリカに対するアプローチは 実際には北京との交渉に当たってデリーの戦略的な立場を強化することになろう 要するに モディ首相がインド洋においてより野心的な外交政策に着手したことは間違いない モディ首相は インド洋沿岸域におけるインドの自然地理的優位を確立する決心である モディ首相のインドは インド洋の安全を確保し 集団安全保障と経済統合のための地域メカニズムを促進するために より大きな責任を果たすことにもはや躊躇することはない 記事参照 :Modi and the Indian Ocean: Restoring India s Sphere of Influence 85

88 6 月 19 日 マレーシア 対中政策転換の要因 RSIS 専門家論評 (RSIS Commentaries, June 19, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の上席研究員 Oh Ei Sun は 6 月 19 日付の RSIS Commentaries に South China Sea Disputes: KL s Subtle Shift on China? と題する論説を寄稿し 南シナ海の領有権紛争に対するマレーシアの最近における姿勢の変化に見られる背景要因について 要旨以下のように述べている (1) 南シナ海における領有権紛争に関して マレーシアは 自国の 200 カイリ EEZ 内にある一連の島嶼や環礁の 1 つである Luconia Shoals( 南北康暗沙 ) 付近の海域に 1 隻の中国海警局巡視船が滞留していることに対して 中国に公式な抗議を行うといわれる ある閣僚によれば マレーシアのナジブ首相は ホットラインや他の手段で中国の習近平国家主席に直接この問題を提起することになろう 中国はマレーシアの最大の貿易相手国であり 一方中国にとってもマレーシアが東南アジアで最大の貿易相手国であり クアラルンプールはこれまで 南シナ海における中国との領有権紛争では この実りの多い互恵的な経済関係を念頭に対応してきた これは ASEAN の他の 2 国の領有権紛争当事国 ベトナムとフィリピンの強硬な態度とは極めて対照的であった 従って 南シナ海における中国の高圧的行動に対して マレーシアがより声高な対応を示すということは 中国の領有権主張に対するクアラルンプールのこれまでの控え目な対応からの明らかな決別のように思われる (2) マレーシアの態度が変わった要因として 以下の 5 点が指摘できるかもしれない a. 第 1 に この 1 年あるいはそれ以上の間 中国は 自国が南シナ海で占拠する岩礁や環礁で前例のない大規模な埋め立て活動を行っていることである この短期間での急激な人工島の造成は 関係当事国の疑念を高めることになった マレーシアを含む他の領有権主張国はそれぞれ抗議の声を上げたが 中国の埋め立て活動を中止させるには至らなかった この中国による 現状変更 の動きが マレーシアの明らかな姿勢変換の引き金になった と見られる b. 第 2 に マレーシアが管轄権を主張する海域に対する海域への中国政府公船 大部分は非武装だが 時に軍艦あるいは準軍事組織の船舶 (Luconia Shoals のケースはこれに当たる ) による侵入が クアラルンプールを警戒させるレベルにまで増加したということである こうした侵入は 最近では日常化している その都度 マレーシア側は侵入船舶に付きまとい 中国側に外交上の抗議を行ってきた 明らかに こうした対応では 中国側の侵入を中止させるには至らなかった 中国政府公船の侵入の頻度とそのレベルの増加が クアラルンプールに その抗議を最高首脳レベルにまで上げる決意をさせたと見られる c. 第 3 に 多くの他の国際紛争と同じように 関係当事国は 非公式の警告 外交的抗議 更には武力行使に至るまで 多様な戦術を駆使してきた 埋め立て活動について 中国が他の国もやっていることに倣ったと主張していることから フィリピンとベトナムも 係争海域の島嶼への観光団を組織したり 占拠島嶼における観光施設を建設したりする計画を相次いで発表した 最高首脳レベルで不快感を表明することによって マレーシアもこうした先例に倣ったとしても 驚くには当たらないであろう d. 第 4 に アメリカによるこの地域に対する戦略的コミットメントの再確認は 中国との領有権紛争に対して 一部の当事国を勇気付けたということである 5 月末のシンガポールでのシャングリラ ダイアローグで カーター米国防長官は 南シナ海における航行の自由を維持する決意を繰り返し表明するとともに 中国による大規模な埋め立て活動を非難した その 86

89 上で カーター長官は 中国の行動が域内の隣国をしてアメリカによる安全保障を求める方向へ突き動かしている と明言した マレーシアが南シナ海における領有権紛争で態度を強めたとしても 意外ではない e. 最後に マレーシアの態度が硬化した背景には 国内要因もある ナジブ首相は 前任者の 1 人 マハティール元首相との政治抗争に巻き込まれている マレーシア政府は 政敵による攻撃材料にならないように 特にマレーシアの南シナ海における領有権を主張するに当たって 国際場裡で弱みを見せられないのである (3) クアラルンプールの姿勢の転換が 中国との 2 国間関係の実質的な変化に繋がるかどうか あるいは東南アジア諸国間に南シナ海問題についての一致したコンセンサスをもたらすことになるかどうか 衆目の注視するところである 記事参照 :South China Sea Disputes: KL s Subtle Shift on China? 6 月 19 日 インドの アクト イースト政策 におけるアジアでの海洋活動 (Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 19, 2015) 米海軍予備役将校で 米シンクタンク The Center for International Maritime Security (CIMSEC) の創立者兼会長 Scott Cheney-Peters は 6 月 19 日付の米シンクタンク CSIS の Asia Maritime Transparency Initiative に India s Maritime Acts in the East と題する論説を寄稿し 東アジアにおけるインドの海洋活動について 要旨以下のように述べている (1)5 月半ば以降 インド海軍東部艦隊所属の最新鋭国産艦を含む 4 隻の戦闘艦は 東南アジアとオーストラリア海域で パートナー諸国との合同演習を行うとともに タイ カンボジア マレーシア シンガポール インドネシア及びオーストラリアの港湾に友好訪問した 特にインド政府は この艦隊派遣を 新しい アクト イースト政策 ( Act East Policy ) に対するインドのコミットメントの具体化としている モディ首相は 2014 年の ASEAN インド首脳会談で アクト イースト政策 を発表し 東アジア諸国との経済 戦略関係を強化していくことを表明した 1990 年に始まった ルック イースト政策 に代わるものとして この政策表明は 突然の政策転換ではなく この地域の長期的な発展動向を見据えたものである これはまた この地域との関係が新たな局面に入り インド政府として更なる関係の深化を目指すというシグナルでもある 新たな局面において 海洋安全保障への取り組みは 極めて重要な役割を果たす 東部艦隊による東アジア全域への年次 作戦展開 は その具体化である この 10 年間で 東部艦隊のプレゼンスは常態となった (2) 海軍力のプレゼンスに加えて アクト イースト政策 は 東アジア諸国との一連の関与政策によっても具体化されている インド海軍はこの数年 域内諸国との合同演習を強化している 例えば 年 2 度行われていたインドネシアとの合同哨戒訓練 (CORPAT) は 2015 年から内容が強化された演習となり 2012 年から日本との間で行っている演習 (JIMEX) や 1999 年からシンガポールとの間で行っている演習 (SIMBEX) など アジア諸国との 2 国間年次演習並の演習になるであろう インドは 6 月に オーストラリアとの間で初の 2 国間海軍演習を 2015 年後半に実施することに合意するとともに 日本及びオーストラリアとの間で初めての高官レベルの 3 国海洋安全保障対話も行った 日本との関係は 特別戦略的グローバル パートナーシップ であり 3 国間関係は 発展強化されれば 地域的に大きな影響力を持つことになろう 87

90 インドはまた 例えばミャンマーやベトナムなどに対して アクト イースト政策 の一環として海洋能力構築に取り組んでいる 加えて 国内ではインドは マラッカ海峡への出入り口であり 東アジアと東南アジアへの窓口 である アンダマン ニコバル諸島に陸 海 空軍部隊で構成する アンダマン ニコバル コマンド (ANC) に対して国防予算を優先的に割り当てており 2015 年度予算では同諸島の海空軍基地が拡張されることになっている ANC は この地域への関与政策のハブであり 多国間海軍演習の拠点ともなっている (3) インドの自国の能力強化は アクト イースト政策 における海洋安全保障重視のもう 1 つの動機付けとなっている インドは ロシア以外からの軍事装備調達を拡大している これは特に防衛装備製造の国産化と防衛技術移転取引の迅速な拡大を狙ったもので 最近のインドの日本への友好的態度は 2016 年における US-2 哨戒機購入の見込みと 可能性は比較的低いが そうりゅう 級潜水艦の取引を含む 幾つかの能力強化への支援の可能性が 1 つの理由かもしれない インドの 東方 がアメリカに拡大された場合にも 同様の可能性が浮上する インドのパリカル国防相とアメリカのカーター国防長官は 6 月 3 日 今後 10 年間の新たな 米印防衛関係のための枠組み 協定に調印した この協定には 海洋安全保障に対する協力の強化と シーレーン全域における合法的な通商の自由と航行の自由を確保するために相互の能力強化が含まれている このような協力は 2009 年に実現した P-8I 海洋哨戒機の供与という実績を踏まえて 当初はインドの空母技術の開発に重点が置かれることになろう インドの初の 4 万トンの国産空母 (IAC) INS Vikrant は 6 月 10 日 ドライドックを出 2018 年に就役する予定である 米印両国は 1 月に空母技術に関する作業部会を設置したが これは 6 万 5,000 トンの国産空母 2 番艦 (IAC-II) を視野に入れたもので 恐らく原子力推進システムと 米海軍の新しい艦載機発艦システム (Electromagnetic Aircraft Launch System: EMALS) に関心があると見られる 発艦システムは米海軍艦載機の購入に繋がることになろう (4) しかし こうした能力強化は何のためか 中国の海軍力の強化とインド洋におけるプレゼンスの増加に対する対応は アクト イースト政策 のもう 1 つの推進力となっているようである 中国の習近平主席による海洋シルクロード構想や中国潜水艦のスリランカへの寄港に加えて タイのクラ地峡運河構想と中国政府との結びつきといった単なる噂も インドのシーレーンを締め付ける いわゆる 真珠数珠つなぎ ( String of Pearls ) に対するインドの懸念を煽っている しかし 東方での互恵的なインドのプレゼンスは インド洋が中国の軍事活動の定期的な戦域になることや 東アジアがインドの軍事活動の定期的な戦域になる兆候よりも脅威度は低い インドの東方での海洋活動の背景にある最も重要な要素は 恐らく経済的なものである インドのベトナムに対する関与政策は ベトナム沖の油田に対するインドの投資を護る狙いからということで 大方説明できる またインドは 特に中国を困惑させるような多くの問題を避け 経済的利益のために友好的な関係を維持している インドは アクト イースト政策 を推進する一方で 他のほとんどのアジア諸国と同じように 中国を選択する (a China choice ) ことを強いられることを望んでいない 記事参照 :India s Maritime Acts in the East 88

91 6 月 19 日 米中両国とも南シナ海で軍事対決を望んでいない 中国人専門家論評 (The Diplomat, June 19, 2015) 中国社会科学院の The Institute of World Economics and Politics の国際戦略部長 Dr. Xue Li は 6 月 19 日付の Web 誌 The Diplomat に The US and China Won't See Military Conflict Over the South China Sea と題する論説を寄稿し 米中両国とも南シナ海で軍事対決を望んでいないとして 要旨以下のように述べている (1) 米中両国は 平和の維持という点で利益を共有している 南シナ海における領有権紛争に関して 筆者 (Dr. Xue Li) は 域外の大国が舞台中央に立っており ASEAN の領有権主張国はほとんど舞台裏に佇んでいる と見てきた 最近の南シナ海問題の動向を見れば アメリカは 演出家 であるだけではなく アクターとしても振舞っている このことは 北京が実効支配する 3 カ所の島嶼上空に 米軍が 5 月 20 日に偵察機を派遣した事実に見出すことができる しかしながら この出来事は 南シナ海における米中軍事衝突の誘発を必ずしも意味しない グローバルな覇権国家としてのアメリカの主たる国益は 平和と安定だけでなく 現在の国際秩序を維持することにある 南シナ海におけるアメリカの国益には 平和と安定 商業航行の自由及び EEZ における軍事活動が含まれる 現在のパワーバランスを維持することは これらの国益を確保するための必須の要件と考えられ 従って 南シナ海の占拠島嶼や岩礁における態勢を強化するという中国の強い決意は 現在のパワーバランスを脅かす脅威と見なされている これに対応すべくアメリカが打ち出したのが アジアにおける再均衡化戦略 である 実際 アメリカは アジア太平洋地域における軍事プレゼンスを強化する一方で ASEAN 諸国 特に南シナ海における領有権主張国を支援している (2) この戦略には 米政府高官による高姿勢の発言が伴っている 2010 年には 当時のクリントン国務長官は ハノイで開催された ASEAN 地域フォーラムで 領有権紛争に関して ASEAN のアプローチに与する発言をした 2012 年のシャングリラ ダイアローグでは 当時のパネッタ国防長官は アジア太平洋地域において より積極的かつ永続的なパートナーとしての役割 を果たしていくために アメリカが如何にこの地域の戦力態勢を再均衡化していくかについて説明した 2014 年には 当時のヘーゲル国防長官は 中国の 南シナ海における領有権を主張する 安定を乱す一方的な行動 に言及した 2015 年には アメリカは 南沙諸島における埋め立て活動を縮小するよう中国に公然と圧力を加えるとともに 中国が実効支配する同諸島の島嶼の上空に偵察機を派遣した こうした言動は 世界の耳目を南シナ海に集めた しかしながら こうした発言の実際的な意味合いを考えれば そこには幾つかの制約要因があることが分かる 南シナ海に関わるアメリカの国益は アメリカにとって核心的なものではない その上 米比同盟関係は日米同盟関係ほど重要ではなく アメリカと ASEAN 諸国との結び付きも依然として弱いものである 米中間の経済的な相互依存関係や中国の総合的な国力の増大を考えれば 現在のところ アメリカは 南シナ海において中国との軍事的な対決を望んでいるとは思えない (3) この地域におけるアメリカの国益に関して ワシントンは 中国がこれまで南シナ海における商業航行の自由に何ら影響を与えてこなかったことを十分承知している 北京は 自らのスタンスを修正しつつあり いずれ他国の EEZ における軍事活動の合法性を認めることになろう ( 例えば 地中海における中ロ合同軍事演習を見よ ) しかしながら 南沙諸島( 及び西沙諸島の Woody Island) における中国の大規模な埋め立て活動が明らかになるにつれて ワシントンは 89

92 北京が防空識別圏 (ADIZ) を設定したり それら島嶼を基点する 200 カイリの EEZ を主張したりすることで 南シナ海における領有権主張を強化する一連の措置を取り始めるのではないかと懸念し始めた その一方で 2014 年の中国の石油掘削リグ設置を巡る動向から アメリカは ASEAN の領有権主張国や ASEAN が全体として中国の埋め立て活動に対して何ら有効な対抗手段を取れないであろうことを知った 従って アメリカは この問題に直接首を突っ込む以外に有効な選択肢を持っていない ワシントンは インド 日本 ASEAN G7 そして EU などに対して 北京に国際的な圧力を懸けるよう慫慂してきた そしてアメリカ国内では 様々な部局の様々なレベルの高官が この地域における中国の現状変更に反対の意を表明するようになった 2015 年以来 ワシントンは中国に対する圧力を強めているが 南沙諸島における中国の埋め立て活動阻止が困難なことを認識してきた それ故に アメリカは 中国を現状に対する挑戦者として印象づけることで 中国による南シナ海の ADIZ 設定や人工島周辺海域への 200 カイリ EEZ 設定を阻止しようとしている これが アメリカが P-8A 対潜哨戒機に記者を同乗させて 中国が構築した 3 つの人工島周辺海域に派遣した背景にあるロジックである その後 米国防省報道官は 人工島の 12 カイリ以内にも 航行の自由 を誇示する行動をとる可能性に言及した こうした行動をとれば 中国をコーナーに追い詰めることになり 従ってオバマ政権はこうしたアプローチを採用しないであろう (4) 南シナ海におけるアメリカの関与がよりアグレッシブに そしてより高姿勢なものになるにつれ 米中関係の力学は 南シナ海の領有権紛争における別の次元 ( 例えば 中国と ASEAN の領有権主張国との あるいは全体としての ASEAN との関係 ) に影響を及ぼすことになろう ある程度まで 南シナ海の領有権紛争は アメリカと中国とのパワーバランスを巡る綱引きになってきたが 米中両国とも軍事対決のリスクを冒すことはないであろう しかし もし中国が ( アメリカが恐れる )ADIZ を設定し 200 カイリの EEZ を宣言することになれば ASEAN の領有権主張国のみならず 他の ASEAN 諸国もアメリカ側に押し遣ることになるであろう 明らかに こうした成り行きは 中国の 一帯一路 戦略と矛盾することになろう 中国にとって 一帯一路 戦略が今後数年間の優先戦略であることから 中国は ASEAN の領有権主張国が抱く安全保障上の懸念を緩和しつつ 他方では ASEAN 諸国との経済関係の強化を進めていくことが肝要である 従って 中国は 南シナ海の領有権紛争に対する立場を明確にし 紛争解決のための青写真を提示することで 南シナ海政策の修正を加速していくべきであろう 記事参照 :The US and China Won't See Military Conflict Over the South China Sea e-south-china-sea/ 関連記事 米中両国は南シナ海問題で対決すべきでない 米国人専門家論評 (The Diplomat, June 19, 2015) 米シンクタンク The Cato Institute の Doug Bandow 上席研究員は 6 月 19 日付の Web 誌 China US Focus.com に Is the South China Sea Worth the Risk of War for Anyone? と題する論説を寄稿し 最近の南シナ海における中国の動向に対して戦争を危惧する声が上がっているが 米中双方とも対決を避ける努力をすべきであるとして 要旨以下のように述べている (1) 米中間には 対立要因が多くあるが 特に深刻なものではない しかしながら 南シナ海 ( そ 90

93 してその北方の海域 ) における領有権問題は 米中関係全体を脅かしかねないものである 戦争の可能性については ワシントンでは深刻な問題となってきている 米中両国とも 益々危険性が増大してきている チキン レースから手を引くべきである 領有権問題には単純なものもあるが 幾つかの歴史的な領土問題は歴史的な経緯や条約などが複雑に絡み合っている ほとんどの専門家は 中国の領有権主張は度が過ぎたものと見ているが それらは前代未聞といった類のレベルのものでもない 南シナ海で問題となっている地勢のほとんどは価値のない岩礁であるが これらの岩礁はそれに付随する水域とその下に地下資源を有している そして 恐らくそれらと同等に重要なことは 当該国家の威信が反映されていることである (2) ワシントンは 南シナ海に領有権を主張しているわけではないが この海域における航行の自由を主張している 重要なことは 中国の拡張主義的行動に対して 多くのアメリカ人が北京を封じ込めることを望んでいることである 最近のある報告書は ワシントンは東アジアにおける軍事的優位を維持するとともに 中国を弱体化させるよう主張している このことは 条約上の同盟国だけでなく 実際上 中国と領有権を争っている国をも支持すべきことを意味する 事実 中国の高圧的な行動に対して 代価を支払わせるべき という意見も強まっている アメリカは 中国が領有権を主張する島嶼上空に航空機を派遣したことで 新たな論議を巻き起こした 問題は アメリカが航行の自由を主張していることではなく 相手の挑発を誘発するような方法でそうしていることにある 2001 年には 似たような状況で生じた軍事的駆け引きによって 米中両国の航空機が衝突し 中国側のパイロットが死亡し 米軍の偵察機が緊急着陸するといった事件が発生し 米中関係が緊張した 今日 北京は封じ込め作戦と見られるものに屈するつもりはないし アメリカは世界で張子の虎と見られることを恐れている このことは 軍事的対決がエスカレートする真の危険性を内包している しかしながら 政府当局者 専門家 アナリストのほとんどは 最終的に事態がエスカレートすることを阻止するために努力するよりも そうした事態になることがほとんど不可避と見ているようである (3) 筆者 (Doug Bandow) は最近 退役軍人や元政府高官 現役の政治評論家や研究者などが参加した会合に出席したが そこでの議論の大半は 中国の挑戦と南シナ海における最近の出来事であった この会議にはいわゆるネオコン ( 新保守主義者 ) はいなかったが 中国はそうした挑戦を止めるべきだし アメリカは対応していくべきだということについては 大方の合意ができた そこでのコンセンサスは ワシントンは迅速にそして断固として 例えば船舶の撃沈や滑走路の破壊といった行動をとらなければならないであろうということであった そこでは 北京に対して当然の懲罰を加えれば 対決はそれで終わるであろうという 暗黙の前提があった しかしながら 当然の疑問は もし中国がアメリカと同じような計算を働かせ かえって事態をエスカレートさせた場合は どうなるかということである アジア太平洋地域における 破滅的な愚かな行為 が 米中両国間の戦争の引き金になるかもしれない ワシントンは 軍事的優位を維持しているが 世界中に戦力を分散配備させなければならない より重要なことは 中国は 自国の近海における国益を 死活的ではないとしても重要と見なしていることである 対照的に アメリカはどの地域でも どの国に対しても優位にあるが それはアメリカの防衛にとって必要不可欠ではないということである 北京は このことを承知しており 従って 自国近海の領土問題に対しては アメリカ以上にリスクを冒す意思があろう (4) 誤算や誤判断の可能性は 全ての当事国が対決から一歩引き下がることの重要性を示している 中国は主権問題には極めて敏感であり 北京の対立国はアメリカが支持してくれると考えてお 91

94 り ワシントンは自国部隊に対する攻撃を容認することはないであろう どの国も弱みを見せたくないものである 戦争へのヒューズは長いかもしれないが 誰もそれに点火するリスクを冒すべきでない 全ての当事者は 領土問題に対して創造的な解決策を模索するべきである 主権問題を棚上げして 資源の共同開発を目指す方法もある 隣国同士は 主権と資源の共有が可能かもしれない 北京は 係争島嶼の最終的な解決とは関わりなく 航行の自由の確保について保証することができよう 西太平洋における領土問題は重要だが 戦争に訴えるほどの価値はない しかし 危険な動向は続いている 中国は 南シナ海の島嶼は合法的に北京のものであり 強固に主張することで実現できると考えている 一方 アメリカは 自らが北京の主張を積極的に阻止しない限り 係争領土は征服によって中国のものになるであろう と考えている 米中両国は 相手が引き下がるであろうと想定して無用な振る舞いをする代わりに この領土問題から平和的に信管を抜くための決意を新たにすべきである 記事参照 :Is the South China Sea Worth the Risk of War for Anyone? f-war-for-anyone/ 6 月 24 日 南シナ海問題は米中間の問題 米専門家論評 (The Diplomat, June 24, 2015) 米シンクタンク The American Foreign Policy Council の Asian Security Programs 主任 Jeff M. Smith は 6 月 24 日付の Web 誌 The Diplomat に Let's Be Real: The South China Sea Is a US-China Issue と題する長文の論説を寄稿し 南シナ海問題は全体的な米中関係において次第に中心的な課題になっているとして 要旨以下のように論じている (1) 米国務省のラッセル東アジア太平洋担当国務次官補は 6 月 18 日 ワシントンでの米中戦略経済対話に関する記者ブリーフィングでの質問に答えて 重要なことは 南シナ海問題は 米中間の根源的な問題ではない と述べた ワシントンは長い間 南シナ海における複雑な領土紛争に対する関与を避けてきた しかし 中国による南沙諸島での人工島の造成は 航行の自由に関するアメリカの新しい懸念を生み ワシントンをかつてない程強く南シナ海問題に引き込むリスクを招いた (2) 中国の南シナ海の 8 カ所における人工島の造成は 経済的動機からでは説明できない 中国は 中国本土沿岸から 700 カイリも離れた係争海域とそこにおける地勢に対する領有権主張を強化するとともに 南シナ海における軍事的拠点として要塞化することを望んでいる このプロジェクトを正当化するに当たって 北京が常に 必要な軍事防衛所要を充たすため と主張しているのは偶然ではない 中国は既に Fiery Cross Reef( 永暑礁 ) に滑走路を建設し 最近の人工衛星の映像では 2 門の移動式火砲が配備されている これらの人工島の拠点は 戦時には攻撃に対して脆弱だが 戦力投射のプラットホームとしては多くの戦略的優位を中国にもたらす そこにおける港湾と滑走路は 中国の航空機と艦船の活動範囲を広げるとともに ヘリパッドは 中国の脆弱な空からの対潜戦能力を強化するであろう また 海警局の巡視船にとっては 新たな補給ハブとなるであろう 更に これらの拠点は 年間約 5 兆ドルに上る海運ルートであり 域内の中国の経済的ライバルである日本の重要な生命線でもある 世界で最も重要なシーレーン上における中国の足場ともなろう (3) 中国はこの 1 年間で 海面下にあるか あるいはわずかに海面上に出ている岩礁や環礁を浚渫した砂で埋め立てることで 南シナ海に 8 つの新しい人工島を造成した 国連海洋法条約 92

95 (UNCLOS) では それぞれの海洋地勢に応じて各種の権利が認められている 自然に形成された島は 12 カイリの領海と 200 カイリの EEZ を有する 常に海面上にある ( が 人間の居住や経済活動が不可能な ) 岩は 12 カイリの領海のみ認められる 満潮時に海面下に沈む 低潮高地 は 500 メートルの安全水域が認められるのみである 最大限肯定的に見積もっても 中国が造成した 8 カ所の人工島の内 4 カ所は元々岩礁であり 他の 4 カ所は 低潮高地 であった しかし 北京は 埋め立てによって これらの地勢を島の地位に 格上げ し UNCLOS で認められる権利をこれらに主張しようとしている と見られる これは UNCLOS で認められないことは明らかである 問題は当該地勢の原状であって 岩と島は 自然に形成された 地勢でなければならない 海面下の地勢を岩や島に造り替えることはできない 更に UNCLOS 第 60 条は 人工島 施設及び構築物は 島の地位を有しない これらのものは それ自体の領海を有しない と明確に規定している (4) 中国のこうした新たな戦略は アメリカの安全保障利益に直接関連する 何故なら それは 領有権紛争とは別だが 今や密接に関連している アメリカの調査活動のための航行の自由を巡る中国との対立を激化させているからである 全体で 200 カ国近い加盟国の内 中国と他の 20 カ国余りの少数派は UNCLOS は自国の 200 カイリ EEZ 内における外国調査船の活動を規制する権利を当該沿岸国に与えている と主張している アメリカと世界の大多数の国は それに同意せず UNCLOS の下では こうした活動は 沿岸国の同意 を必要としない と主張している こうした活動を沿岸国が規制する権利は 第 19 条で 当該沿岸国の領海についてのみ言及されている EEZ に関する UNCLOS 第 5 部でも 規制については言及されていない 国際法に関する一般的な原則では 特に条約において禁止されていないどんな活動も容認される しかしながら これは単なる法解釈の問題ではない 2001 年以来 中国軍は 中国の EEZ 内におけるアメリカの調査活動を何度も妨害してきた 現在までのところ こうした妨害行為は平穏に処理され 危険な事態に至らなかった 南シナ海に出現した新しい ( そして非合法の ) 中国の EEZ が 調査活動を巡る米中 2 国間の緊張を一層激化させ 誤算や紛争のリスクを高めかねないことは 想像に難くない 従って オバマ政権としては UNCLOS によって許容される法的制限内での上空飛行や航行を米軍に命じることで 人工島に対する権利の拡大を目論む如何なる主張に対しても 迅速かつ直接的に異議を申し立てる責務がある (5) 南シナ海を巡るワシントンと北京の新しい キャット アンド マウスゲーム は アメリカが 5 月に公然と P-8 海洋哨戒機を人工島の 1 つの周辺 (12 カイリ内ではないが 中国が主張する 軍事警戒ゾーン 内 ) に派遣した時から始まった 本格的なゲームは 原状が海面下にあった地勢の 12 カイリ以内に米軍が航空機や艦船を派遣した時に始まるであろう カーター米国防長官は最近 米軍は 現在 世界中で行っているように 国際法で許容される場所なら何処でも飛行し 航行し そして作戦活動を行う と繰り返し言明しているが 実施命令は未だ発令されていない 新たな挑戦に対する対応を何時までも待っていると 平和的な現状として出現したものを妨害することになり 紛争の可能性を高め 将来の対立で中国にワシントンを非難する機会を与えることになろう しかも 対応の遅れは アメリカのアジアに対する 軸足移動 が実質よりも象徴的なものとの印象を与えることになろう アメリカの不作為は既に オバマ大統領を任期末の決断力を欠く大統領と見なす 域内のパートナー諸国間に懸念をもたらしている 日本 インドそして ASEAN 諸国の多くの専門家は オバマの後継大統領によるより厳しい姿勢を恐れる 北京が今後 18 カ月間 一層の高圧的な行動の限界を試す行為を繰り 93

96 返すであろう と予測している 北京もそう考えていることは確かである 中国の外交部長は 中国の 島嶼と環礁 周辺におけるアメリカの偵察活動は 当該水域と空域において 誤算と予期せぬ事態を引き起こす可能性が非常に高く 従って完全に危険で無責任な行為である と警告した また 国家主義的な環球時報は もしアメリカのボトムラインが 中国はその陸地造成活動を中止しなければならないということであるなら 米中戦争は不可避である と豪語した もしアメリカがこれまで南シナ海で中国と問題を抱えていなかったとしても 今や南シナ海で紛れもなくそれが起こっていることは明らかである 記事参照 :Let's Be Real: The South China Sea Is a US-China Issue 6 月 24 日 一帯一路 構想 中国内論議のクールダウン必要 中国人専門家論評 (The Diplomat, June 24, 2015) マカオ大学の Dingding Chen 准教授は 6 月 24 日付の Web 誌 The Diplomat に One Belt, One Road, One Frenzied Debate と題する論説を寄稿し 中国内で過熱する 一帯一路 構想を巡る論議のクールダウンが必要であるとして 要旨以下のように述べている (1) 習近平主席が 一帯一路 (OBOR) 構想を打ち出して以来 中国の学者は 先例のない関心とエネルギーをこの構想に集中してきた あらゆる側面から OBOR 構想を論議するために 多くの会議が開催され これまで幾つかの成果が強調されてきた しかしながら この構想を詳細に論じるには訓練不足の多くの学者が 自らの学問的あるいは非学問的利益を追求するために この構想を利用しており 全体として OBOR 構想に関する調査研究の現状は健全なものとはいえない こうした現状は変えなければならない そうしなければ 長い目で見れば OBOR 構想自体が危ういものとなろう (2) 具体的には OBOR 構想に関する現在の熱狂的な論議には 3 つの主要な問題がある a. 第 1 に 中国には 発展途上国に関するアカデミックな専門家がいないということである アメリカとは異なり 専門分野としての地域研究は政府から重要分野として扱われてこなかったために 中国には南アメリカや中東などの地域研究の著名な学者はほとんどいない 中東の専門家と称する者の多くは アラビア語を話せず またアラビア語文献も読めない また 中国のアフリカ専門家の多くは アフリカで現地調査したことがない 専門家自身が各地域について十分な知識がないのに どうして政府に健全な助言ができるのか これは中国にとって大きな問題であるが 全てが専門家の責任ではない 政府は長い間 地域研究を無視してきた これには理由もあった 中国企業と個人がアフリカや中東地域で商売を始めたのは わずか 10 年程前からであった 地域専門家が不足しているために 教育機関はこの現実を迅速に修正する術を知らない b. 第 2 に 中国の学者は OBOR 構想のリスクに言及することなく この構想を称賛する傾向があることである 現実には 各種のリスク 特に政治的リスクがミャンマーやパキスタンなどの一部の国では 深刻な問題となっている 中国政府がこうした側面に重大に関心を払わなければ 中国の大規模投資プロジェクトの多くは失敗するかもしれない 既に ミャンマーでは 政治的理由から失敗したプロジェクトがある アメリカなどの大国が経験してきたように 弱小国でも 国有化によって強大な進出企業の利益に損害を及ぼすことができる それでも 政治的に不安定な国が中国だけを特別扱いすることを期待しているのか これま 94

97 で 中国政府はこうした潜在的危険性を認識してきたが こうした問題に対処するために 中国の学者による詳細な調査は行われてこなかった これも 専門家がいないためかもしれない 中国の学者とシンクタンクは 中国の投資に関わる あらゆる社会的 政治的そして経済的リスクに関心を向けるべきである c. 第 3 に 中国の学者は OBOR 構想の戦略的意義を誇張すべきではない 現在 あまりにも多くの中国の学者は 中国が今にも世界の新しい覇者としてアメリカに取って代わるかの如く OBOR 構想の潜在的な戦略的利益を吹聴したがる傾向がある これは間違っているだけでなく 戦略的に賢明ではない アメリカは既に 南シナ海における中国の長期的な戦略的意図について懸念を抱いている また 多くのヨーロッパ諸国は EU への中国の影響力の拡大を懸念している 何故 中国の学者は 米欧の 中国脅威論 に火を付けるために アメリカや日本やヨーロッパのタカ派に多くの火種を与えなければならないのか これは 誠に近視眼的やり方である しかも OBOR 構想は成功するとは限らない 中国政府が正しくカードを切らなければ 現実に失敗するかもしれない 現時点では 中国政府はカードを正しく切っていないと見られる 幾つかの証拠がある (3) 要するに 中国政府は 手遅れになる前に OBOR 構想を巡る現在の不健全な状況をクールダウンしていかなければならない そして 中国の学者は 彼らが政府に十分に考えていない助言を与える前に OBOR ルートに沿った地域事情を理解する真剣な努力をしなければならない さもなければ 我々はまもなく OBOR 構想の失敗を目撃することになるかもしれない 記事参照 :One Belt, One Road, One Frenzied Debate 6 月 27 日 インドは海洋シルクロード構想に参加すべき インド人専門家論評 (East Asia Forum, June 27, 2015) インドのシンクタンク The Observer Research Foundation の Geethanjali Nataraj 上席研究員は 6 月 27 日付の East Asia Forum に India should get on board China s Maritime Silk Road と題する論説を寄稿し インドは中国の海洋シルクロード構想に参加すべきであるとして 要旨以下のように述べている (1)2013 年 10 月にインドネシアを訪問した中国の習近平主席は 今は 一帯一路 と知られる 海洋シルクロード(MSR) 構想を発表した MSR は 古代の貿易ルートであった海上シルクロードを復活させ 経済協力と地域間の連結を促進するための試みである この目的のために 中国は ルートに沿ってインフラを開発するための 400 億ドル規模のシルクロード基金を立ち上げた 一帯一路 構想の主たる目的は 西部の内陸地域を開発し これら地域の東南アジアや中東市場へのアクセスを可能にすることで 経済的 文化的そして政治的影響力を行使する 中国の地域勢力圏を形成することにある MSR は 中国の福建省泉州から南方のマラッカ海峡に向かい クアラルンプールからインドのコルカタを経てインド洋北部を横断し ケニアのナイロビに向かう 中国の見解によれば MSR は 海洋を通じた地域間の連結と 災害協力 そしてインド太平洋 東アフリカ 地中海に至る海域の漁業の発展を促進する (2) インドでは MSR に対して多様な見解が見られる 一部の者は MSR の隠された軍事的側面に注目して慎重な姿勢を示しているが 他方では インドが積極的な協力者になることに賛成する意見も多い 多くの者は MSR を アジアを再編し この地域におけるアメリカの影響力を 95

98 弱体化させることを狙った 中国の試みの一環として理解している こうした見方の背景には アメリカの アジアへの軸足移動 戦略を 環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) とともに アメリカとアジアの同盟国による中国封じ込め戦略の一環とする認識がある 中国は 南アジアにおいてインドに対抗して小切手外交を展開してきた伝統を持つ この最新のイニシアチブとして 中国は バングラデシュ スリランカ及びパキスタンにおいて港湾を開発し ベンガル湾とアラビア海において経済力を背景に影響圏を拡大しようとしている 従って MSR は インド洋における中国の商業 軍事施設の建設を目指す 真珠数珠つなぎ (the string of pearls ) 戦略の経済的な偽装に過ぎないかもしれない 中国は インドの隣接諸国に巨額の資金を投資している より多くの南アジアや東南アジアの国々が中国の影響圏下に集まることは インド亜大陸周辺に特権的な影響圏を維持してきたとする インドの伝統的な観念に対する深刻な打撃を意味しよう (3) 中国の 一帯一路 構想は 経済的 戦略的合理性を持っている この 35 年以上にわたり 中国の経済発展と進歩は ほとんどがその東部と沿岸部に集中していた 一帯一路 構想は この地域的偏差を解消するとともに アジア太平洋地域の大国としてだけでなく グローバルパワーとしての中国の確立を目指すものである ユーラシア大陸における シルクロード経済ベルト を通じて 中国は 西部地域の経済発展を促進することを計画している 経済ベルトは 中国製品と資本のための新たな輸出市場を提供するであろう この構想を通じて 中国は 中産階級の急成長に伴う巨大な国内需要を持っている 中央アジアや東アフリカの多くの国に輸出市場を見出すことを期待している (4) 以上のような背景から インドは MSR への参加機会を見逃すことができない 枢要な地理的位置にある 海洋と大陸のシルクロードの両方が インド周辺地域を通る インドは この構想の積極的なパートナーとなることで 多くのものが得られよう インドは 中国の投資を誘致することを期待しており そのために MSR の一部になることは確かに有効な方策であろう またインドの参加は インド北東部の開発を促進するとともに 東アジア諸国との関係を優先する アクト イースト政策 ( Act East Policy ) の推進にも役立つ 更に インドの参加は インドが地域的及び 2 国間協力を強化するための最適のプラットホームになり得ることを実証することにもなろう インド洋の近隣沿岸諸国に対するインドの投資は 南アジアにおける中国の影響力と支配をある程度減殺することにもなろう そして何よりも インドが MSR への参加を拒否し 他の南アジア諸国や ASEAN 諸国が参加を決めた場合 インドは孤立することになりかねない こうしたことから 一方でアメリカ主導の TPP に参加するためにあらゆる機会を捉えながら MSR 参加への招請を受け入れることが インドにとって最善の選択であろう 記事参照 :India should get on board China s Maritime Silk Road e-silk-road/ 96

99 4. 国際関係 4 月 3 日 中国が語る領有権紛争についての 説話 その真意を読み解く 前米軍情報分析官 (China Brief, The Jamestown Foundation, April 3, 2015) 前米太平洋特殊作戦コマンド情報分析官で 東アジア安全保障問題専門家の David Millar は 4 月 3 日付の Web 誌 China Brief に What s in a Story?: Chinese Narratives on Territorial Conflict in the Pacific と題する長文の論説を寄稿し 両岸関係 東シナ海そして南シナ海における領有権紛争について中国が語る 説話 ( narrative ) の真意を検証して 要旨以下のように論じている (1) アメリカでは 中国の対外関与を 注意深く調整された軍事的 外交的行動 即ちアメリカの関心を分散させるとともに 近隣諸国をして中国の台頭するパワーに順応させることを狙いとした 漸進的な高圧的行動 (an incremental assertiveness ) の一貫と見なす人が多い しかし中国では 近隣諸国との如何なる対立も アメリカの干渉 特に交渉よりは対立を促し 中国の台頭を妨害する意図を秘めた アジアにおける再均衡化 に根ざしたものである と主張するのが大勢である こうした認識の違いは 危機において誤解や誤算の可能性を高める こうした誤解や誤算の要因となる 中国が語る 説話 ( narrative ) の真意を検証するため 米テキサス州の The Bush School of Government and Public Service(Texas A&M University) の研究チームは 中国の領有権問題を論じるために中国の内部で使われている 特殊な用語 比喩そしてイメージ作りについて調査を始めた これはその最初の報告である (2) 我々は 説話 を 個人や組織が自らを取り巻く環境を説明するとともに 戦略や行動方針を正当化するために使用する物語と定義している 戦略的 説話 は概して 共有された歴史的経験を反映し 同じような挑戦を受けた時にこれに如何に対処するかを説明する手っ取り早いロジック (a casual logic) となる 中国共産党の核心的 説話 は 共産党だけが 国辱 から中国を救い出し そして共産党だけが中国を 復興 させることができるというものである この 説話 は 定期的にこれを裏付けていく必要がある 歴史教育 プロパガンダ 記念館 ( 共産党の事績を描いた ) 演劇の再演 そして何よりも ( 共産党の指導体制を覆そうとする ) 陰謀や危険に対する意識を覚醒させるための象徴的な政治的 軍事的紛争が 説話 を定期的に裏付けていく役割を果たしてきた 中国人はこのような 説話 の単純な受け手ではないが 中国共産党は 重要な分野において 説話 を創作し 人民をして党の課題を脅かす 非愛国的 考え方に反対するよう刷り込むという面で 依然指導的立場にある 特に領有権紛争に関しては このことは事実である 汚職 環境汚染そして生活水準といった国内問題とは異なり 領有権紛争に関しては ほとんどの中国人は その情報 ( そして認識 ) を自らの直接的体験というよりむしろ政府の報告から得ているからである 我々研究チームは 説話 の真意を検証するため 公式発表 メディア報道 会議禄などを含む様々な資料源を渉猟した (3) 海洋領有権紛争に対する中国の支配的な解釈は この問題は西洋と日本の帝国主義による不正義の後遺症であり 中国 復興 のリトマス試験紙であるというものである 外国の侵略者に割譲された領域に対する中国の法的主権は第 2 次大戦の終了によって確立されたが アメリカの干渉 冷戦の影響そして人民解放軍の限定的な戦力投射能力のために これらの領域に対する支配は後回しにせざるを得なかった かくして 中国政府は長期的なアプローチをとり 中国が弱体の間は 領有権紛争を 棚上げ してきたが 中国は最早弱体ではなく 従って政府 97

100 は 正当に中国に帰属する領域に対する主権を再び主張するために 自らの外交的 経済的 軍事的力を活用すべきである これが海洋領有権紛争に対する中国の包括的 説話 である この論理の含意は 他国は力で強要された時にのみ中国の主権を承認するのであって 外交 法律 条約 歴史的根拠そして国際的関与などは全てこの目標を実現するための道具に過ぎないというものである 人民解放軍の孫建国副総参謀長は 抗争なしに アメリカが中国の核心利益を尊重することはないであろう と述べている 軍事力の適用ということになると 論議は複雑になる 中国の公式の 説話 は 領有権紛争の解決の方策としての平和的交渉に対する中国のコミットメントを引き続き強調するものであるが 同時に中国の正当な権利を護るための軍事力の強化を正当化している 中国の指導層は長い間 軍事紛争は中国の台頭を可能にしている地域の安定を脅かしかねないと認識してきた (4) 我々が検討した 3 つの紛争領域の内 台湾については 説話 は最も統一されており 軍事紛争の可能性が最も遠い紛争である 台湾の陳水扁前政権時代 (2000 年 ~2008 年 ) の混乱を成功裏に切り抜けた後 中国の 平和的再統一 という 説話 は 再び息を吹き返し 馬英九現政権下での最近の両岸関係のデタントで強化されてきた しかし 中国政府が押し進める解釈では 領有権紛争は 2 つの主権国家の存在を前提とするが 台湾との関係は領有権を巡る紛争では全くなく 統一の問題である 他の 2 つの紛争 ( 東シナ海と南シナ海での紛争 後述 ) とは異なり 台湾に関する中国政府の 説話 は 台湾の人々の個人的 家族的義務を強調している 台湾の人々は 血を分けた兄弟 と性格付けられており 用語的にも また隠喩的にも 台湾は首尾一貫して家族の問題として性格付けられている 2014 年に習近平国家主席は 我々が提唱する民族再統一は形だけでなく 重要なことは 両岸の人々の精神的結び付きである と強調している 従って 1 つの中国 という 説話 の核心は 人口が多く他民族からなる中国の統一を保持する家族的紐帯を維持することであり その最大の脅威は 中国の文化的アイデンティティの拒絶を正当化する動きである 従って 台湾の人々の自己認識が 軍事力行使の可能性を高める手っ取り早いロジックを生むかどうかの重要なマーカーとなる 平和的再統一 が台湾の人々をより強固な団結の下に導くものと認識されているのであれば 忍耐が肝要であり 如何なる犠牲を払っても軍事紛争を回避しなければならない もし北京の認識が こうした忍耐は台湾に 非中国 アイデンティティを育む時間を与えることになるだけ という考え方に変わることになれば その時には 待つことは戦略的失敗となり 軍事力の行使を検討しなければならなくなる (5)2 つ目の東シナ海での紛争は 古い敵との長年に亘る抗争である 東シナ海の紛争に関する 説話 は 日本の 20 世紀における歴史的悪行と中国本土の占領を思い出させることで アジアにおける自然な勢力均衡を可能なら再び覆そうとしている 反省のない軍国主義への郷愁を持った国家として 日本を性格付けることに力を入れている 釣魚列島 ( 尖閣諸島 ) を 古代からの ( 中国の ) 固有の領土 と位置付けたことで この島は 日本の軍国主義復活と戦うための必然的な闘争の象徴となっている この闘争はまた 国内的に中国の勇気を試すものでもある 中国の指導者にとって この前は日本の侵略に対して準備が不十分だったが 今度は日本の威嚇に大人しく従うと見なされるわけにはいかないからである 歴史を忘れるな 軍国主義の復活 そして 母国の防衛 といった言葉は 領有権を巡る日本との論議で頻出する用語である しかし一方では 日本の国民を疎外させることになるとの警告もある もし日本が協調的な姿勢をとり 中国の 大国 としての地位と過去の過ちの重大さを共に認識するようになれ 98

101 ば 交渉の余地が生まれる もしそうでなければ 中国は 次の戦争 岩礁の支配を回復するためではなく 安全保障環境を維持し 日本の軍国主義的傾向の無益さを証明するための闘い を戦う用意がなければならない (6) 南シナ海を巡る 説話 は全く異なる 他の 2 つの紛争とは異なり ここでの主権に関する中国の無数の主張には 広く知られた記録や歴史的認識の何処にも根拠がない このことが問題である 専門家は 中国が 海洋国家 になるには 危険なまでに欠如している 藍色国土 に対する 海洋意識 を高めるための制度 地図 教育そしてイメージを創出していかなければならない と強調している 究極的には 南シナ海の紛争は 復興した中国と周辺の小国群との間の適切な力関係を徐々に再編していく手段として この地域における中国中心秩序を確立するためのリトマス試験紙と見なされることになりそうである あらゆる 説話 は 中国が東南アジアにおいて純粋に平和的互恵関係を望んでいることを強調している しかし 明らかに こうした関係は 中国を頂点とするヒエラルキーに そして必要なら 十分な高圧的手段 をとるという中国政府の意志とに基づいているのである もしアメリカがこれらの紛争に介入すると主張しても 中国は 軍事力の行使は回避すると見られるが アメリカの介入は過剰な対応であり 南シナ海における紛争がアメリカの核心利益ではないことを思い知らしめるために 外交的 軍事的圧力と世論戦を総動員すると見られる 軍事力の誇示は 中国の求める条件での 2 国間直接対話を強いるために正当化されるかもしれないが 地域における中国のイメージを損なわないように十分に制御されたものでなければならない (7) 中国の台頭はアジア太平洋における勢力均衡を変えつつあるため 中国の意志決定層が過去の歴史に対する文化的に特殊な解釈からどのように影響されているかを理解することは 益々重要になるであろう 説話 を 常套句 ( clichés ) にさせないために大いなる関心が求められるが 同時に 中国国内における議論の特徴に対する洞察は 中国の意志決定者の世界観についての新たな知見をもたらし 将来の紛争を未然に防ぐための中国と域内の他の諸国との交渉に資することになり得る 記事参照 :What s in a Story?: Chinese Narratives on Territorial Conflict in the Pacific &tx_ttnews%5BbackPid%5D=25&cHash=33cd8a74abaeef150731e724898bf54 9#.VSs1rxOJjmQ 4 月 8 日 中国による パックス アメリカーナ への挑戦 アメリカは如何に対応すべきか 米専門家論評 (Banyan Analytics, April 8, 2015) Web 誌 Banyan Analytics のアナリストを務める Eric Weiner は 4 月 8 日付の同誌に China s Challenge to Pax Americana と題する長文の論説を寄稿し 1 中国はアメリカによる戦後秩序 パックス アメリカーナ(Pax Americana) に対する挑戦を加速しており もはや パックス アメリカーナ の後塵を拝しているわけではない 2 従って アメリカは アジア太平洋地域における戦略的 経済的な卓越的地位 (supremacy) を維持していくために 中国の動向に真剣に対処しなければならないとして 要旨以下のように論じている (1) 南シナ海におけるアメリカの安全保障上の利益は 中国の侵略的行為によって益々脅威に曝されるようになっている ベトナムやフィリピンを含む 一部の ASEAN 諸国の主権は それら諸国の EEZ 内における中国の不法操業やエネルギー資源探査活動によって侵害されており 域内全体 99

102 の海洋は 南シナ海のほぼ全域を網羅する中国の 9 段線 主張によって不安定化している そして最近では 中国の南沙諸島における埋め立て工事による脅威がある 中国は 域内における戦力投射能力を強化するとともに 軍事力によって南シナ海で操業する自国漁船団や石油 天然ガス資源探査を支援するために この 1 年間だけで 6 つの島嶼や岩礁を埋め立てた (2) アメリカは ASEAN 諸国の主権が中国によって脅かされている事態に対処するに当たって 外交的な葛藤に直面している 理想的には 当事国が自ら対処すべきだが それに必要な能力や政治的意志を持っていないかもしれない しかしながら もし当事国が積極的に対応した場合 アメリカの介入が必要となる状況にまで 緊張がエスカレートするかもしれない 海洋におけるアメリカの介入による軍事的 外交的コストは 中国を勇気づけ アメリカのリーダーシップに対する域内の信頼を損ねることになりかねない 不介入によるコストとの間で慎重に計算されなければならない (3) 中国の高圧的な行動に直面して ASEAN 諸国は フィリピンとベトナムの 2 国間協力や アメリカや日本などの大国間との協力関係の強化を追求してきた こうした最近の域内及び域外国との 2 国間協力強化の風潮は 海洋安全保障に対する中国の脅威についての太平洋諸国間の懸念の共有と 中国によって脅かされつつある域内の平和と安定を維持するために共同しようとする新たな政治的意志とを反映したものである しかしながら ASEAN 諸国間の 2 国間協力を促す領有権問題は 一方では特に南シナ海問題に関係しない国家との間で ASEAN 分裂の種ともなり得る アメリカは 安全保障目的を促進するために ASEAN を活用する最善の方策を模索してきたが ASEAN の 2015 年議長国 マレーシアが提案する 合同海洋平和維持軍 (a joint maritime peacekeeping force) 構想の具体化は 1 つのチャンスになるかもしれない この構想は 領有権問題への対処に当たって ASEAN 諸国の団結を強めるとともに 海洋の秩序維持という運用上の問題に特化することで ASEAN 地域フォーラムなどの既存の機構よりも有益であろう 既に米海軍第 7 艦隊司令官は ASEAN がこうした組織を編成し 主導するなら 支援すると言明している (4) 中国は 自らの高圧的行動が逆効果になることを認識し 新たに設立する アジアインフラ投資銀行 (AIIB) の資金などによる ASEAN に対する魅力化施策とパッケージにしてバランスをとっている AIIB は 域内のインフラ整備の資金調達方法を変えようとする中国の試みであり アジア開発銀行 (ADB) や世界銀行などの西側の影響下にある既存の国際金融機関に対する挑戦でもある アメリカと日本は AIIB には参加していない また 中国は アメリカが進める Millennium Challenge Corporation(2016 年度米予算で 12 億 5,000 万ドルの支出額 ) と競合する 400 億ドル規模の シルクロード基金 の設立を発表している アジア太平洋地域における金融やインフラ整備に影響力を及ぼすことで 中国は 例え ASEAN 諸国に対して海洋での高圧的行動を繰り返しても インフラ整備資金を必要としている これら諸国に対して影響力を維持できよう (5) 中国は アジア太平洋地域における長期的な戦略的 経済的趨勢を支配すべく よく考えられた動きを見せている しかし アメリカは この動きに対応できるし 国益が侵されれば戦うという意志を明確にした戦略によって この地域における強力なプレゼンスを維持することができる 平和と安定 国際法の遵守 航行の自由そして妨害のない合法的な通商は 南シナ海におけるアメリカの国益である こうしたアメリカの核心利益を 中国は全てではないが その一部を侵害しつつあるが アメリカの対応は 中国と近隣諸国との域内における海洋紛争に 100

103 巻き込まれることを恐れて 音なしの構えである アメリカは 南シナ海の島嶼を巡る領有権紛争にはいずれにも与しない としばしば言明してきたが アメリカの長期的な国益からすれば 立場を鮮明にし アジア太平洋地域の同盟国に対する支援と防衛を強化していくことの方が賢明かもしれない (6) アジア太平洋地域におけるアメリカの同盟国や友好国を防衛するという より積極的な戦略が有効であり得ることを示す実例がある それは 日中の尖閣諸島を巡る紛争に対して オバマ大統領が 2014 年に日米安全保障条約第 5 条の適用について再確認したことである この意味するところは明確で アメリカは日本を防衛するということであり 中国はこれを拒絶したが 口頭での批判以上のものではなかったのである 長期的に見れば 中国が自国の軍事力増強や埋め立て行為を正当化するために 日本に対するオバマ大統領のコミットメントや域内の他の同盟国に対する暗黙のコミットメントを口実にするといった影響が見られるかもしれないが 中国の高圧的な行動はオバマ大統領のコミットメント以前からのものである 中国は アメリカと近隣諸国によって強要される対価の故に あるいは中国による目標達成を理由に 拡張主義的行動が自らの国益にもはや益するところがないと判断するまで こうした行動を続けるであろう (7) アメリカは日本に対しては防衛義務を負っているが 南シナ海におけるアメリカの同盟国や友好国に対するコミットメントはそのようなものではない 米政府当局者の一部には アメリカのプレゼンスが安定を提供し 南シナ海における紛争のエスカレーションを防ぐ安全保障環境の醸成に貢献しているという認識がある しかし 中国による挑発的行為はこれまでになくエスカレートしており アメリカがこれまでの対応を改める必要があることを示唆している 恐らく 域内の他の同盟国との間で新たな安全保障条約を締結することは 中国を抑止するとともに これら諸国の主権を護る上で有益であろう 米比両国は 2014 年に新たな防衛協定に調印したが この協定によって 自然災害やその他の緊急事態に対処するために 米軍がフィリピン軍施設にローテーション展開ができるようになり 今後 更なる措置がとられることになるかもしれない 近年の良好な米越関係も中国の挑発行為によるところが大きい 今後の関係進化には時間がかかるが アメリカは ベトナムや域内の他の国との関係強化に向けて こうした好機を逃すべきではない こうした同盟関係構築のプロセスは 冷戦時代の 2 極対立を彷彿させる このような瀬戸際政策への回帰は好ましいものではないが 中国はもはや平和的に台頭しているわけではない 中東問題がワシントンの関心の大半を占めているが アメリカは 新たなアジア太平洋地域の実態を認め この地域における自国の国益を擁護し そしてこの地域の同盟国や友好国の主権を護らなければならない さもなければ 中国中心秩序 (Sino-centric system) が パックス アメリカーナ とそれが支えてきたものに 取って代わることになろう 記事参照 :China s Challenge to Pax Americana 4 月 28 日 ASEAN 3 つの課題 RSIS 専門家論評 (RSIS Commentaries, April 28, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) の上席研究員 Yang Razali Kassim は 4 月 28 日付の RSIS Commentaries に South China Sea: Time to Change the Name と題する論説を寄稿し ASEAN は中国による硬軟両様の攻勢の中で 少なくとも 3 つの課題に直面している 101

104 として 要旨以下のように述べている (1)4 月下旬にマレーシアで開催された ASEAN 首脳会議における緊急課題の 1 つは 南シナ海問題であった 南シナ海では 領有権主張を巡る対立から潜在的なフラッシュポイントになっているが 緊張緩和の兆しがほとんど見えておらず 楽観視するにはほど遠い状況である 中国は 最も強力な領有権主張国だが ASEAN による長年の辛抱強い外交にもかかわらず 益々敵対的姿勢を強めている 最近の南シナ海における北京の行動は 一層緊張を高めている (2) 最近の最も挑発的な中国の行動は 南沙諸島のサンゴ礁を人工島に作り替える性急な埋め立て工事であり その一部はジェット戦闘機用の滑走路を建設するに十分な大きさである 明らかに 中国は 係争海域の中心部から軍事力を投射する準備を進めている この埋め立て工事は 南シナ海における行動宣言 (Declaration of Conduct: DOC) の精神に反している DOC は 関係当事国に対して緊張を高めるような行動を自制するよう求めている DOC は 2002 年に署名され 最終的には法的拘束力のある行動規範 (Code of Conduct: COC) の締結を目指しているが 北京がその実現を目指す交渉を故意に長引かせ 先行きが見えない ASEAN 事務局長 Le Luong Minh は 中国の埋め立て工事を 現状を変更するものと指摘しているが この工事は 南シナ海問題の解決を間違いなく難しくする ゲームチェンジャーといえる この間 中国は 経済的にも 軍事的にも益々強力になり 一方 東南アジア諸国は 領有権問題が内部亀裂を生み 益々脆弱で 内部対立が激しくなっていく可能性がある こうした状況は既に 2012 年に見られたことで この時 ASEAN はその歴史で初めて カンボジアでの年次外相会議で共同声明を出すことができなかった それ以来 2012 年のカンボジアでの悪夢の繰り返しを恐れる雰囲気が ASEAN を覆っている (3) 南シナ海問題は ASEAN の脆弱性を露呈させた かつての ASEAN の一体性と団結というイメージは崩れた 中国がその強さを見せつけるにつれ 一部の ASEAN 加盟国は 連携して ASEAN の団結を追求するよりも 自国の国益を優先するという誘惑に再び駆り立てられることになろう こうしたシナリオは 中国が小切手外交 その膨大な資金を梃子に友人を獲得する また一部の人が言うように 影響力を金で買う外交 を展開するようになっても 予想される アジアインフラ投資銀行 (AIIB) は 中国が外交ゲームを転換する時の古典的な手口である 今や 東南アジア諸国 あるいは一体としての ASEAN は 中国が押し進める 2 正面の圧力に直面している 即ち 南シナ海問題で激しく対立している最中に 微笑を浮かべたドラゴンが AIIB 関連のインフラ建設資金を皿に盛った経済外交を展開しているのである 一部の ASEAN 加盟国 特に経済的に脆弱な加盟国にとっては こうした中国のアメとムチの両面アプローチに対処するのはタフな課題であろう (4)ASEAN は 少なくとも 3 つの重大な課題に直面しており 真剣に対応していかなければならない a. 第 1 に 南シナ海問題を巡って ASEAN の統一と団結を如何に維持するかである この問題は ASEAN の団結を蝕むことなく解決できる 例えば 南シナ海問題の専門家 Carl Thayer は ASEAN はまず 東南アジアの海洋コモンズを対象とした行動規範 Code of Conduct Treaty for Southeast Asia s Maritime Commons を結ぶことを提案している これは 中国との COC に向けた第 1 歩として考慮する価値がある そして ASEAN 加盟国は個々に 自らの領有権問題と海洋境界画定問題を他の当事国との間で解決すべきで そうすることで ASEAN の団結が強化されるとしている 102

105 b. 第 2 の課題は この地域が北京とのより深い経済的結び付きを追求する一方で 中国の更なる侵略的行動を如何に抑止するかということである ASEAN が南シナ海における航行の自由と上空飛行の自由に利害関係国を有する貿易相手国との間で 海洋協力を促進することは時宜を得たものであろう このような海洋協力は まずアメリカとの間で始めることができ それに続けて日本や韓国を含む他の国との間にも拡大できよう c. 第 3 の課題は 長期的な視点に立って 心理的な側面から南シナ海問題の緊張を如何に和らげるかということである 恐らく 今が南シナ海の名前を変える時である 1 つの適切な選択肢は 東南アジア海 と改称することである 南シナ海はかつて 7 世紀に今日のベトナム領域に チャンパ王国 が成立して以降 チャンパ海 (Champa Sea) と呼ばれていた 要するに 常に 南シナ海 として知られてきたわけではないということである 名称を 東南アジア海 に改称しようとする動きは 既に始まっている フィリピンは 西フィリピン海 と呼称し始めた フィリピン軍の広報官は 人々が 南シナ海 に言及する時は何時も この海が名称に示された国に属しているという 潜在意識を持つ と指摘している ベトナムの財団が 2010 年に始めた オンラインによる改称嘆願運動は 76 カ国から少なくとも 1 万人の支持が寄せられ これらは 東南アジア 10 カ国の首相や大統領 そして国連や幾つかの国際機関にも提出された このような大衆による嘆願運動は 現在の ASEAN 議長国 マレーシアが強調するビジョン 人間本位の 人間中心の ASEAN とも合致する こうした運動が ASEAN10 カ国の政府だけでなく その総人口 6 億人の総意にまで発展するならば それは正にこのビジョンに相応しいものとなろう 記事参照 :South China Sea: Time to Change the Name 4 月 28 日 中国の国益の拡大 アメリカ 包括的な対応戦略必要 米専門家論評 (The Heritage Foundation, April 28, 2015) 米シンクタンクのへリテージ財団アジア研究センターの中国問題担当上席研究員 Dean Cheng は 同シンクタンクの 4 月 28 日付の Web 上に America Needs a Comprehensive Strategy for Countering China s Expanding Perimeter of National Interests と題する長文の論説を発表し 様々な領域で国益を拡張しようとする中国の動きに対してアメリカは包括的な対応戦略が必要であるとして 要旨以下のように述べている (1) 中央アジア 南シナ海 インターネットそして宇宙 これらは全て 中国が国益を拡大している領域である 中国は 国益を拡大し 防衛するために 軍事的手段に加えて 経済的 外交的 政治的そして文化的手段までも動員し 包括的で調整された統合戦略を展開している 中国がこの戦略を何処まで成功させることができるかは アメリカにとって最大の関心事項である アメリカは 中国の挑戦に直面する国内外において 経済的自由を増進させることを重点とした計画によって対応していく必要がある (2) 中国の行動が示しているのは 自国の国益に対する広義の見方だけでなく それらの国益に対する統合的で総体的な見方である 中国指導部にとって 包括的国力 ( comprehensive national power ) 概念とは 中国の安全保障は軍事力によってのみ あるいはほとんど軍事力によって では実現不可能であり むしろ経済的 外交的 政治的そして文化的な手段までも必要とするということを意味する 更に これらの手段は 協同することによって 調整され 103

106 統合され 相互に補完し合うのである 中国がどの程度 これらの手段を特定の国家戦略的利益に動員し 意図した成果を達成できるかどうかは アメリカの最大の関心事である (3) しかしながら このような中国の手口を模倣することでは アメリカは中国の挑戦に対応できない 明らかな外交的 政治的違いを無視して 包括的な国力に対する国家による指導や方向付けを強調することは アメリカができることではないし またそうすべきでもない アメリカの最大の経済資産は民間によるものである 政府は これらの資産を 国家の政治的目標に向けて動員することはできない こうした試みは アメリカの政治的自由と経済的自由を根本的な危機に晒すばかりでなく 産業政策 重商主義 非効率性 政府資産の浪費 更には経済的伸び悩みの原因となるであろう アメリカは 全てのプレーヤーに最大限の機会を与えるために 国内外における市場開放を含む 経済的自由を重視した政策を精力的に推し進めることによって 中国の経済的な動きに対抗することができる もしアメリカ人や他国の投資家が 拡大された自由市場によってもたらされた機会を利用するようになれば 中国がその経済的投資 国民に利益をもたらすよりも大抵の場合成長に固執した投資 から得られる政治的影響力は 弱められ 制限されたものになるであろう (4) そして アメリカは 具体的には以下の政策を追求すべきである a. 地域貿易の自由化の奨励 : 中国の近隣諸国に対する影響力の源泉は 経済力であって 軍事力ではない しかし アメリカは 依然として圧倒的な世界最大の経済大国であり 経済的自由を促進するための強大な力となり得る 経済的自由とは アメリカのためだけでなく インドからチリに至るアジア太平洋全域における貿易障壁の撤廃を意味する しかし これは排他的なものではない 真の自由経済圏の確立は 地域全体に利益をもたらし 全てのプレーヤーが従う相互に合意したルールを確立することで 全てのプレーヤーのために 関税障壁 助成金そして非関税障壁を軽減することである 中国が同じルールで行動する意思がある限り 中国がこうした自由経済圏から排除される如何なる理由もない b. 米政府関係諸機関の調整の改善 : アメリカは インド太平洋地域の国々と交流するための膨大な資産を持っている 多くは民間のもので その交流範囲は学術交流から商取引にまで及ぶ それらの交流関係においてアメリカ政府の役割はわずかしかなく 干渉すべきではない しかし 人身売買 麻薬密売 そして知的所有権の侵害に対する警察活動のような分野は 政府の管理権限内であり 政府はそれらの分野における内部調整を改善する必要がある 連邦議会に望まれる措置は 域内の様々な国との米政府による非軍事的交流の全面的な概要と それらの取り組みがどのように調整され どの程度成功を収めているかに関する定期的 ( できれば 2 年毎に更新 ) なレポートを要請することかもしれない 国別の調査に加えて このレポートは 米政府の取り組みが全体として地域にどのような影響を及ぼしているかについて より広範な評価を含む必要がある 2 国間関係だけに焦点を当てていては より広範な相乗効果の可能性を無視することになる c. 防衛関係の強化 : 国防省は 太平洋軍を通じて ハワイ以西からイスラマバード以東の地域に関する情勢を最も包括的に掌握している 米軍は 基地ネットワークを有し この地域の国々と多様な 2 国間演習を実施している こうした軍事プレゼンスと RIMPAC 演習のような多国間軍事演習は 日常的な基盤に基づいた広範な視野を維持する機会となっている アジアへの軸足移動 (the pivot to Asia ) に込められた意図は防衛領域の重要性を示してはいるが 国防予算の強制的削減によって 充当すべき資源が不足している 104

107 (5) 中国が対抗意識を露わにしていることから アメリカは 安全保障領域を含め より深く より強力に広範な関与を押し進めていくことが不可欠である これには 日本やオーストラリアなどの主要同盟国 そしてインドなどの友好国との関係強化が含まれるべきである これら 4 カ国による 4 カ国間安全保障対話 は 2007 年に公式会合が開かれて以来 中断されているが この 4 カ国対話の再開が関係強化への第 1 歩となろう もし必要であれば アメリカは軍事力の行使も厭わないということを明示することが極めて重要である 記事参照 :America Needs a Comprehensive Strategy for Countering China s Expanding Perimeter of National Interests trategy-for-countering-chinas-expanding-perimeter-of-national-interests 5 月 7 日 中国の国際法理解の重要性 米専門家論評 (The Diplomat, May 7, 2015) 中国での 3 年間の研究歴を持ち 現在 米シンクタンク CSIS の非常勤研究員の Patrick M. Renz と Frauke Heidemann は 5 月 7 日付の Web 誌 The Diplomat に China's Coming 'Lawfare' and the South China Sea と題する論説を寄稿し 最近中国は国際法に関する専門知識の向上などに力を入れているが 中国が国際法を理解することは 国連海洋法条約 (UNCLOS) をはじめとする国際法に基づいた南シナ海の紛争解決に繋がる可能性があるして 要旨以下のように述べている (1) 香港紙 South China Morning Post によれば 中国外交部は 2015 年初め 条約や法律の規定を通じて国益を増進させることを期待して 法律の専門家で構成される国際法委員会を設置した 国際法規範に関するより多くの専門知識を身につけることは 台頭する大国としての中国に必要なステップである 中国が新しい専門知識を政策面で如何に活用していくかについては 特に海洋法規の面で注目していく必要がある 中国は 国連海洋法条約 (UNCLOS) に署名し 批准しているが 南シナ海における領有権紛争に関しては ベトナムやフィリピンが求めている国際仲裁手続に参加しない方針をとっている 何人かの専門家は 中国が法的手段を行使せず その一方で 2 国間の紛争解決を主張し 南シナ海の環礁を埋め立て 軍民両用の建造物を建設していることを批判している もし中国が新しい専門知識を使って法的手段をより重視するようになれば こうした状況は変わる可能性がある (2) 西側の紛争解決の視点からすれば 法的知識の重視は中国が仲裁手続に参加する自信を高めるものとして 歓迎されるものかもしれない 中国南海研究院の呉士存院長は このような問題に関する専門知識を有する人材を揃えることができれば 我々も仲裁裁判所に対して自国の主張を提出できることになるかもしれない と強調している 更に呉士存は 中国は 国際法に従って国益を維持したいと考えている と述べる一方で もし既存のルールが機能しないのであれば 中国はそのルールの変更を要求することになろう と警告している 中国による仲裁手続への参加は 相互不信とハードパワーを背景とした領有権主張という負のスパイラルに陥っている 南シナ海における緊張緩和に役立つことは確かであろう しかしながら 全ての当事国がこのような仲裁手続の法的効力を信頼するには 合意は拘束する の原則 (principle of pacta sunt servanda) を 全ての当事国が尊重するかどうかにかかっている 中国は UNCLOS の交渉が始まった時には 今とは異なり弱い影響力しか有していなかったことは確かだが 既に国連加盟国であった 未だに UNCLOS を批准していないアメリカと違って 中国は 1982 年という早い時期に署名し 1996 年には批准している 重要な事実は 既に中国は UNCLOS 105

108 を批准しており 同条約の規定に拘束されるということである しかしながら 前出の 中国は既存のルールの変更を求めるかもしれない という呉士存院長の発言は UNCLOS 批准国として同条約の規定に従うべきという考えとは反対の認識を示している この過度に現実主義的なアプローチは 国際規範の履行にとって必要な信頼を壊してしまう もし既存の法的手段に従って問題解決を図るという中国の言明に確信が持てなければ 関係当事国は 将来の中国の仲裁手続に向けて努力を 環礁を埋め立てたり 軍民両用の建造物を建設したりして 現状変更を変更する間の 単なる引き伸ばし戦術に過ぎないと理解することになろう (3) 南シナ海における領有権紛争の解決に UNCLOS を適用する上での主たる障害は 中国による UNCLOS 第 298 条に関する書面宣言である 中国の宣言は UNCLOS の規定に従い 海洋境界画定に関する法的効力を伴う解決条項を受け入れないと宣言している 中国の宣言は 中国が UNCLOS を批准してから 10 年後の 2006 年に提出されたもので 批准書に添付された文書ではない この書面宣言は UNCLOS の規定に従って全面的に受け入れられるものだが 中国の近隣諸国から見れば 特に中国が過度に現実主義的なアプローチを取り続ける場合には この書面宣言は 中国の国際法解釈とその履行における首尾一貫性に関して疑念を生じさせるものとなる 中国の法律専門家の間での 南シナ海の占拠島嶼や環礁の法的位置付け 何人かの専門家は 岩礁や環礁まで 島 であると主張している に関する現在の議論は 中国の国際法の重視の姿勢に疑念を抱かせるだけである (4) 国際法の専門知識を積極的に活用していくためには 中国は 国際法を 単なるガイドラインや外交政策の別の手段を超えた存在であると見なしていることを示さなければならないであろう そうなった時に初めて 国際法は 緊張を緩和し 現在の南シナ海における紛争の解決の道筋を示すツールとなり得る 長い間論議されてきた 行動規範 (Code of Conduct) のような解決策は 中国が実際に国際法的知見を十分身につけた場合には より実行可能な選択肢となろう しかしながら それ以上に もし中国が身につけた国際法的知見を活用していくことを決意すれば それは 中国の外交政策に頻繁に見られる ゼロサムゲーム的思考の有用な代替案となろう 記事参照 :China's Coming 'Lawfare' and the South China Sea 5 月 12 日 中国におけるは日米同盟の見方と地域安全保障に対する中国の狙い 米専門家論説 (The National Interest, Blog, May 12, 2015) 米シンクタンク 戦略国際問題研究所 (CSIS) のシニア アドバイザー Bonnie S. Glaser は CSIS のインターンである Brittney Farrar と共に 5 月 12 日付の米誌 The National Interest( 電子版 ) のブログに Through Beijing's Eyes: How China Sees the U.S.-Japan Alliance と題する長文の論説を寄稿し 日米同盟に対する中国内の様々な見方と地域安全保障に対する中国の狙いについて 要旨以下のように論じている (1) 日米安保条約締結から 55 年となる 2015 年 4 月 28 日 日米両国は 平和維持活動から情報収集活動にまで及ぶ より統合された軍事行動と共同作戦を可能にするための 日米防衛協力のための指針 の改訂に合意した 中国の観点からすれば ガイドラインの改訂は 過去の日本による海外侵略に直接的な影響を受けた全ての国にとって懸念 である かつては 中国にとって 日米同盟は日本の地域覇権に向けた野望を抑制する機能としての価値があったが 現在では脅威と 106

109 見なされている 日米同盟は その耐久性と戦略的目的を巡って 中国国内で長い間活発な議論の対象となってきた この議論は 日米同盟に対する 2 つの異なる見方 即ち 1 日本は秘めた動機の隠れ蓑として日米同盟を利用している 2 アメリカは中国を封じ込める障壁として日米同盟として利用している との見方に類別される 双方の議論において 中国の分析者は 日米同盟内において何が日米両国の行動の動機となっているかについては意見が異なっているが 日米同盟は常に持ちつ持たれつの関係であった とする点では一致している (2) 日米同盟に対する中国人専門家の見解は 幾つかのグループに分けることができる a. 第 1 のグループは 日本自身が自らの防衛政策のドライバーであると強調するが 一方で 日本の防衛政策の見直しの背後にある動機となる要因に関しては意見が分かれている 最も一般的な説明は 東京は恐怖心によって動機づけられているというものである 中国社会科学院日本研究所の高洪所長は 日本が 中国の台頭を受け入れることと 歴史を正視することができなかった故に引き起こされた真の不安感に苛まされている と説明する 解放軍報に掲載された中国軍事科学院の袁楊の説明によれば 日本では日本を防衛する日米同盟への信頼感が低下しており そのため日本は 自主防衛にあこがれている という 国際問題専門家の思楚は 中国脅威論 は日本がアメリカから離れて自主防衛能力を強化するための 軍事力増強の言い訳に使われていると主張している 中国の専門家の間では 日本のイデオロギー的 文化的な基盤が日本固有の軍国主義を生むのかどうかについては 見解が分かれている Global Times の記事で中央社会主義学院の Wang Zhanyang 教授は かつての軍国主義を支配的イデオロギーとした社会的基盤はなくなった と見 日本には平和主義が深く根付いてきたと述べている しかしながら 他の専門家は 軍国主義を指向する日本の性向は日本民族固有ものと見なす こうした専門家は 日本が安倍政権下で右傾化し 過去の侵略行為を否定し 地域の安定にとって脅威になりつつあり 従って 全ての東アジア諸国は警戒すべきである と警告する b. 第 2 のグループは 日本が軍事的に 普通の国 になろうとしていることに対して アメリカが傍観者か あるいはその支持者となるどうかを 注視している これらの専門家のほとんどは アメリカはアジアに対する再均衡化戦略 彼らのほとんどは中国封じ込めを偽装するものと見なしている の一環として 日本に対して 中国に対抗する攻撃的な軍事力と政策をとるよう慫慂する と見ている 中国現代国際関係研究院の任卫东副研究員は アメリカのアジアに対する再均衡化戦略の過程で 日米関係の新たな動向に見られる危険性は 中国封じ込めという目標を達成するために アメリカが日本の右傾化傾向を黙認していることである と述べている こうした見方をする専門家は 集団的自衛権行使の容認や ガイドラインの改訂などを通じて アメリカは 中国と対抗させるために日本の束縛を 解き放った と主張する c. 少数意見として アメリカは日本の再軍備を危惧しており 中国だけでなく日本自体も封じ込めようとしている という見方もある 前出の Wang Zhangyang は アメリカは 自国領土を攻撃した唯一の国 ( 日本 ) に対する警戒を決して怠ることはない と述べている 彼や他の同調者たちは アメリカは同盟を口実に日本を中国と対抗するよう促すことで 実際には日中双方が相互に牽制し合うように仕向ける 両睨みの封じ込め戦略を遂行している と考えている 彼らは 日米同盟における軋轢の証拠として 日本の兵器級プルトニウムの貯蔵に対するアメリカの調査をしばしば取り上げている 107

110 (3) 習近平政権下では 北京の日米同盟に対する反対姿勢は 声高で明確なものである 習近平主席は 2014 年 5 月 アジア信頼醸成措置会議 (CICA) における基調演説で 中国が主導するこの地域の安全保障アーキテクチャにアメリカの同盟関係は必要がないとした上で 第三国を対象とした軍事同盟は この地域のコモンセキュリティには役に立たない と述べた 更に彼は アジアの安全保障問題は アジア諸国自身によって解決されるべきだ とし アメリカの同盟は不適切であるし アメリカ自身もアジア地域の安全保障問題に首を突っ込むべきではない と主張した これまでのところ ガイドラインの改訂に対する中国当局の反応は穏やかなものである 中国外交部報道官は 4 月 30 日 日米同盟は冷戦時代に形成された 2 国間同盟である アメリカと日本は 第三国の国益と アジア太平洋地域の平和と安定が日米同盟によって損なわれないようにする責任を負っている と述べた (4) 安倍首相の訪米を経て 中国は 少なくとも安倍政権が続く間は 日米同盟を強固で中国の圧力に屈しないものと見なすであろう しかしながら こうした評価にもかかわらず 中国は依然として この地域のアメリカの同盟網を廃棄させようとする努力を恐らく諦めることはないであろう 当面 中国は 中国の影響力を受け入れやすいと見なす アジア地域におけるアメリカの影響力を削ぐことに注力するであろう この試みは既に 韓国への 終末段階高々度地域防衛 (THAAD) システム の配備に対する中国からの圧力に窺われる また 北京は ワシントンとキャンベラとの友好関係を弱めるため オーストラリアに対して経済的インセンティブを利用することを模索している 一方で 中国人は現実的で また辛抱強い 彼らは 中国が自らに有利な新たな安全保障アーキテクチャを以て アメリカの同盟関係に取って代わることはできないことも理解している しかしながら 中国は簡単には諦めないであろう 習近平主席は 自分の任期中にこの最終目標に向かって可能な限り前進していくことを望んでいよう 記事参照 :Through Beijing's Eyes: How China Sees the U.S.-Japan Alliance n-alliance 抄訳者注 : 本稿の原典には 本稿で紹介した中国専門家の論考について 注として URL が示されている ( ほとんどが中国語 ) 関心のある向きは参照されたし 5 月 23 日 南シナ海の緊張緩和に向けて中国に必要な 3 つの措置 マカオ大専門家論評 (The Diplomat, May 23, 2015) マカオ大学准教授 Dingding Chen は 5 月 23 日付の Web 誌 The Diplomat に 3 Things China Can Do to Reduce South China Sea Tensions と題する論説を寄稿し 中国は南シナ海における緊張緩和に向けて 3 つの措置を取ることが必要であるとして 要旨以下のように述べている (1) 米海軍の P-8A 対潜哨戒機が南シナ海で進められている中国の埋め立て活動に対する警戒監視飛行を行ってから 中国がこれに対して次にどんな行動をとってくるか そして状況が米中対立を危険な水域にまでエスカレートさせるかどうかに あらゆる関心が集中することになった 米当局者も認めているように この埋め立て活動が国際法に違反していないにもかかわらず アメリカによるこの挑発的な行動は ワシントンが南シナ海で進められている中国による埋め立て活動を容認するつもりはないということを明確に示している 南シナ海における中国の拡張主義的な行動に歯止めをかけるべく何らかの行動が必要だということで ワシントンの政策決定サークルの中でコンセンサスができたようである 中国をアメリカ主導の自由主義的秩序 108

111 に加え 信頼できるステークホルダーになることを期待するという かつての 中国コンセンサス は姿を消した (2) 重要な問題は では 我々はどこに向かうのかということである 攻撃的現実主義者 (offensive realist) の戦争不可避論を信奉しない限り 米中両国が戦争を回避し 協力関係の強化を望むのであれば 両国にとって話し合いの余地は多く残されている アメリカには 中国の脅威を煽り 中国がアジアにおけるアメリカの覇権に取って代わろうとしているとして 反中国機運が高まっている 他方 中国には アメリカのあらゆる行動を 中国の不可避的な台頭を封じ込めようとする証拠と見なす 反米意識がある 両国の分別のある人々は この両国の現状を憂い お互いにその考え方を改めるべきだということで一致している 現在の微妙な状況下では 相互に批判を抑え 緊張を高めないことが極めて重要である 米中両国が緊張緩和に責任を有している 米海大の Lyle Goldstein* 教授が提唱するアプローチ 即ち 米中両国は 緊張激化への急激な下方スパイラル (a rapid downward spiral of tensions ) に代えて 協力のスパイラル ( cooperation spiral ) を指向すべきである (3) 中国は 協力の意思を示すために 次の 3 点について考える必要がある a. 第 1 に 中国は アメリカを安心させるべく 今以上の努力をする必要があるということである ジョンズホプキンス大の David Lampton** 教授が正しく指摘しているように アメリカは グローバル化の時代において primacy ( 優越あるいは首座 ) が意味することについて再考する必要があり 一方 中国は自らの強さと能力について現実的でなければならない 何より 中国がアジアにおけるアメリカの覇権に挑戦するという見方は 大いなる神話に過ぎない アジアからアメリカを追い出す (pushing the U.S. out of Asia) といった類いの議論をする者は 現実を知らないか あるいは他に意図があって論じているかのいずれかである 当然ながら 中国が強くなるにつれて 中国の地域への影響力も増大しよう しかし このことは AIIB( アジアインフラ投資銀行 ) の設立に見るように アメリカにとって必ずしも悪いことばかりではない アジアは平和と安定を維持するためにアメリカも中国も共に必要としているというのが 明快な真実である 習近平国家主席は 9 月の訪米を 中国はアジアにおけるアメリカのリーダーシップを尊重しているという重要なポイントを再確認する機会として利用すべきである b. 第 2 に 中国は 近隣のアジアの小国に対しても安心感を与える努力が必要である 中国の夢 を実現するためには 平和で安定したアジアが必須の要件であることを 中国は心に留めておくことが重要である 中国と周辺諸国との間の領有権紛争は困難な問題ではあるが 平和的な解決が期待できる まず 中国は 紛争当事国と 2 国間あるいは多国間の協議を始めるべきであり 他方 外部の非当事国は 公平な立場を維持し 一方に与するようなことがあってはならない c. 第 3 に 中国がいずれ南シナ海を支配し 中国の内海にしてしまうのではないかという最大の懸念に対しては 中国は 南シナ海における行動の意図について よりオープンで透明でなければならない 特に 埋め立てによる人工島の造成に関しては 中国は これらは平和的かつ防衛目的のみに使用するということを確約すべきである 条件が整えば 中国は これら人工島に海外の専門家やジャーナリストを招待すべきである また 中国は 他国との合同で捜索救難活動や資源の共同開発をスタートさせることもできよう (4) 要するに 米中両国は 南シナ海の緊張状態をクールダウンさせるために やるべきことがあ 109

112 るということである 今こそ 世界の 2 大経済大国が 真剣にその責任を考えるべき秋である 記事参照 :3 Things China Can Do to Reduce South China Sea Tensions sions/ 備考 *:Lyle Goldstein, Is It Time to Meet China Halfway?, The National Interest, May 12, ( この論説は 同教授の近著 Meeting China Halfway (2015) からの抜粋 ) 備考 **:David Lampton, A Tipping Point in U.S.-China Relations is Upon Us, US-China Perception Monitor, May 11, n-us-part-i/ 5 月 28 日 アメリカのパワーの限界 豪専門家論評 (The Strategist, May 28, 2015) Australian Strategic Policy Institute(ASPI) の上席アナリスト Andrew Davis は ASPI の公式ブログ The Strategist に The limits of [American] power と題する論説を寄稿し アメリカのパワーの行使がもたらす結果の見極めに用心が必要であるとして 要旨以下のように述べている (1) 最近 米オバマ政権への保守派の批判が強まっている 例えば 保守系豪紙 The Australia の外交担当論説委員 Greg Sheridan は 5 月 23 日付の論説 * で 次のように述べている オバマは アメリカの影響力の低下を招いている 彼は あらゆるところで弱気な 弱体政権を率いている この弱体政権は 必ずしも長期的なアメリカの衰退を象徴しているわけではなく この政権だけの弱さである アメリカの敵と 一般的に暴力的で無秩序な勢力が至る所で勢いづいている 東ヨーロッパでのアメリカの立場は弱まっており オバマがシリアで明快なレッドラインを引いた上で しかもそれを実行しないと決定したことから プーチンは ウクライナで攻勢を強化した オバマは 中東全域と アフガニスタンや中央アジアでも影響力を失いつつある 世界がアメリカ ( そしてオーストラリア ) の利益に不利な方向に向かっているわけではないとは言えないかもしれないが オバマ大統領に批判の全てを押し付けることが正しいかどうかはまったく確信がもてない むしろ本稿の筆者は パワーの有用性がしばしば過大に評価されていると思う そして パワーの行使に失敗した場合 ベトナム戦争を遂行した米政権がそうだったように パワーを行使した人間を不当に タカ派 呼ばわりするのである (2) オバマ政権がイラクの安定に対するアメリカのパワーの効果を過小評価したために 今日のイラクは安定とは正反対の状況となっている この手の失敗は 当該政権を弱く見せる 米軍撤退という大統領選挙公約の実行がこうした結果を招いたことは疑いない イスラム国 による最初の攻勢に抵抗する場所に米軍部隊が留まっていたならば 結果として生じた流血と混乱は恐らく回避できた そして現在では 彼らを打倒するのは一層困難でコストもかかるであろう しかしながら イラクでのオバマの誤りは 2003 年のイラク侵攻後の国作りに対するアメリカのパワーの能力を過大に評価した ブッシュ政権が犯した誤りを悪化させただけである 要するに この 10 年間の ネオコン に突き動かされた過大介入が導いた結果は 現在のアメリカがパワーの行使を控えることによって起こる結果と 少なくとも同じように酷いものであった しかし この 2 つの事例は ハードパワーの行使が実際にどのような結果をもたらすかを見極めることが 如何に厄介なものであるかを示している Sheridan が指摘するウクライナの事例 110

113 については 少なくとも本稿の筆者には プーチンのウクライナ領土強奪に対する正しい対応政策は明確には思い浮かばない クリミアにおけるロシアの国益は アメリカのそれよりはるかに直接的で大きなものである 従って ロシアには 国益相応により高いリスクを冒す意志があった アメリカは ウクライナを巡ってロシアとの戦争のリスクを冒すべきであったのか 南シナ海における問題も これと同じである 中国は 南シナ海を最重要な戦略的利益と見なし そこにおける自らの行動に対する国際的な非難に向き合う覚悟ができており それ故に非常に好ましい成果を上げつつある ウクライナと同様に 南シナ海においても アメリカの南シナ海における国益に相応しい しかも潜在的な成果を上回るリスクを冒すことがないような方法で アメリカのパワーを南シナ海問題において如何に行使するかについて 本稿の筆者には 明確な考えが浮かばない (3) ウクライナと南シナ海の 2 つのケースは 最も強力な国家ですら 自国の中核的国益の周辺が少しずつ削り取られていく戦術に対して脆弱であることを示している ロシアと中国の国益は それぞれの地域においてアメリカよりも深く関わっており 不利なリスクが潜在的な成果を上回るところまでアメリカによる介入のリスクを高めていくだけの十分なパワーを 両国ともに持っている パワーには利用価値がないと言っているわけではない 敵対国が強い得るコストを上回る成果が得られるという正しい状況下では パワーを成功裏に使用することができる 例えば 1990 年代のコソボ紛争では セルビアは 本気で NATO に抵抗することができなかった セルビアのパトロンであったロシアは大して役に立つ立場にはなく 従って西側同盟の賭け金は低く抑えられた それ故 アメリカと欧州のパワーは 戦闘を終結させるために使用された もし賭け金が十分に高額であったならば 第 2 次世界大戦がその好例であるように 正しい結果を得るまでには 深刻な損失を被ることになったであろう ベトナム戦争は これら事例の間のどこかに位置していた 局地的な抵抗が高まるにつれて アメリカは 成果とコストのバランスが受け入れられないようになるまで 次第に大量のハードパワーを投入するようになった ( もっとも 冷戦期のアメリカの全戦力よりも遥かに少ないが ) それ以降 今日見られるように 他国がより以上に関わっているという単純な事実を パワーは相殺することができなかった それがどのように変化していくかを予想することは難しい 記事参照 :The limits of [American] power 備考 *:Greg Sheridan, US President Barack Obama s pivotal absence in Asia, The Australian, May 23, votal-absence-in-asia/story-e6frg76f 月 12 日 米中関係の行方 米紙論評 (The Wall Street Journal.com, June 12, 2015) 米紙 The Wall Street Journal のコラムニスト Andrew Browne は 6 月 12 日付の同紙電子版に Can China Be Contained? と題する長文の論説を寄稿し 米中関係の緊張が高まって行くにつれ アメリカの外交政策専門家の間では 北京との長年に亘る関与政策に対して疑問が投げかけられているとして 米中関係について 要旨以下のように述べている (1) 今日 多くのアメリカ人は 中国の習近平政権がアジアにおけるリーダーシップを巡ってアメリカに挑戦する一方で 国内では不満分子に対する抑圧的政策をとっているのを見て ニクソ 111

114 ン政権以来の対中関与政策に込めた期待が遠のいている と感じている 関与政策が中国の自由化を促す唯一の方法であるとする考えは ニクソン政権以来 現オバマ政権まで 8 代の政権に引き継がれてきた レーガン ブッシュ ( 父 ) 政権時代の国防省に勤務したアジア専門家 Michael Pillsbury は 近著 The Hundred-Year Marathon で 中国に対する我々のバラ色の期待はほとんど全て裏切られた と書いている 政治的立場を超えて多くの専門家は 冷戦時代の思考を蘇らせ 中国に対する封じ込め政策の必要性を論じ始めており アメリカの外交政策は転機に差し掛かっている 北京に対する 建設的な関与 の成果に期待する長年のワシントンにおける強固なコンセンサスは 失われてしまった 最近数カ月 数多くの対中政策に関する論説や報告書が見られるが そこにおける対中政策の処方箋は多様でも 米中関係の現状に対する悲観論が議論の出発点になっているということでは皆同じである (2) 第 2 次世界大戦直後にアメリカがソ連の行動と意図に疑念を持ったと同じように 中国の行動と意図について 多くのアジア人が懸念を共有している 習近平の中国が海軍力を増強し 外洋に進出し 領有権主張を押し進めるにつれ この地域のアメリカの友好国や同盟国は 保護を求めてアメリカに擦り寄ってきている オバマ大統領の アジアへの軸足移動 戦略は 友好国や同盟国の懸念を宥めるとともに 21 世紀におけるこの地域の死活的な戦略的重要性を認識したものである これに対して 中国は アメリカが封じ込め政策を押し進めようとしていると確信している 米中関係における新たな緊張は 超えてはならない一線を挟んで NATO 軍とワルシャワ条約軍の戦車が対峙した 数十年間に及ぶヨーロッパの冷戦状態とは同じでない しかしながら 1 つの重要な点において 歴史は繰り返している 即ち 中国もアメリカも共に 互いをパートナー 競争者あるいはライバルとしてではなく 敵として見始めたということである (3) では アメリカは 具体的に何をすべきか ジョージ W. ブッシュ大統領の国家安全保障担当副補佐官 インド大使を勤めた Robert D. Blackwill と The Carnegie Endowment for International Peace の上席研究者 Ashley J. Tellis は 中国に対する関与政策は中国を競争者として強化するのに役立ったと指摘し 関与を減らし アメリカのグローバルな盟主 (primacy) としての地位を維持するという 中核的な目的 (the central objective ) を確かなものにするため 均衡化 ( balancing ) をより重視する 新たな大戦略を採るべき時である と主張する 就中 アメリカは アジアにおける軍事力を強化し 軍事技術に対する中国のアクセスを阻止し ミサイル防衛網の配備を促進し そしてアメリカの攻撃的サイバー能力を強化すべきである という 同じ The Carnegie Endowment for International Peace の研究者 Michael D. Swaine は アメリカが東アジアにおける盟主の座を譲り この地域の多くを 安全保障態勢を強化した日本を含む 力の均衡によって秩序が維持される緩衝地帯 (a buffer zone) に変えるという 包括的な処方箋を提示している それによれば 全在韓米軍は韓国から撤退し 一方 中国は台湾に対して武力を発動しないことを保証する こうした処方箋は 例え実現可能であっても 数十年を要するであろう 他方 The Johns Hopkins University s School of Advanced International Studies の David M. Lampton 教授は 米中関係は転機にあり 関係正常化以来 どの時期よりも 米中とも相手に対する恐れが期待値を上回るレベルに近づいている と警告している (4) 中国に対する関与政策は 米中経済関係を強化してきたが イデオロギーの相違は全く埋まらず 今や 習近平は反西欧に大きく舵を切った 西欧に対する反発は 中国国内だけでなく 国境を越えて広がっている 何十年も間 中国は この地域における平和を維持し シーレー 112

115 ンの安全を確保する アメリカの警察官としての役割を受け入れていた しかしながら 習近平は 2014 年に上海で アジアの問題を解決し アジアの安全を護るのは アジア人の責任である と言明した ワシントンは 裏切られた思いである アメリカの解放された市場は 中国の輸出に拍車をかけ その結果 中国を世界の第 2 の経済大国に押し上げ 今や両国経済は完全な相互依存関係にある しかしながら 第 1 次世界大戦前の欧州の状況を見ても分かるように 相互依存関係が必然的に紛争を阻止すると考えるのは間違いであろう オバマ政権は アジアにおける軍事的オプションを強化する一方で 関与政策も継続しようとしている 中国も 類似のゲームをしている 習近平は 台頭する大国が既存の大国に挑戦する時代には戦争が生起するという歴史の先例を避ける狙いから 新型の大国関係 を提案した しかし アメリカは これを拒否した 米中いずれも 戦争を望んでいない 習近平は ロシアのプーチン大統領のような反西欧ではないし これまでのところ ウクライナ併合のような軽率な行動をとっていない 中国は 依然 アメリカ市場とノウハウを必要としている アメリカとの戦争は 中国経済の壊滅を意味しよう (5) 中国を封じ込めようとすれば その代価は非常に高いものになろう どの国も 他の国なしでは 経済的に成り立たない ケナンの対ソ封じ込めが上手くいったのは ソ連経済が弱体で アメリカとの商業的関係がほとんどなかったからであった しかし 今日の中国は経済大国であり しかもその重層的で多様な産業基盤が中国軍事予算の 2 桁の伸びを支えている しかしながら こうした現実とは裏腹に 米中関係がその戦略的な存在理由を失ってしまったという事実もある 即ち 米中両国を結び付けた共通の脅威 ソ連が消滅したということである モスクワとの敵対が 当時のニクソン大統領をして対中関係に乗り出させた論理であった しかし 勢力均衡を重視したタフな現実主義者のニクソンでさえ 対中関係が最終的にどのようなものになるかについては よく分かっていなかった 1994 年のニクソンの死の前に ニューヨークタイムズ紙のコラムニスト 故 William Safire が書いているように 我々は フランケンシュタインをつくったかもしれない のである 記事参照 :Can China Be Contained? 6 月 22 日 アメリカは対中政策を変更すべきか 米専門家論評 (Brookings, June 22, 2015) 米シンクタンク The Brookings Institution の Jeffrey A. Bader 上席研究員は 6 月 22 日付の同研究 HP に Changing China policy: Are we in search of enemies? と題する長文の論説を掲載し アメリカの対中政策の今後の在り方について 要旨以下のように論じている (1) 東アジアは 1970 年代以降 大規模な軍事紛争を回避してきた これは 域内の多くの国の成熟と良識 これら諸国の経済成長の重視 そしてアメリカの同盟体制と安全保障プレゼンスの賜である しかし 結局のところ それは ニクソンとキッシンジャーが手を付け 以後の歴代の米政権と中国の指導者によって育まれてきた アジア太平洋の主要大国 アメリカと中国の和解の結果である 多くのアメリカの海外政策専門家の最近の論説から判断して この和解は崩壊に危機に瀕している 一部の専門家は 崩壊させるべきだと主張している 彼らは 中国沿岸から遠く離れた軍事拠点の構築を目指していると見られる 南沙諸島の係争中の環礁や岩礁における中国の積極的な埋め立て活動への対応として ニクソン以来の 8 人の大統領によって継承されてきた対中政策が時代遅れになった と見なしている そして 彼らは 西太平 113

116 洋における覇権を目指す中国との戦略的な和解が不可能であることを認識する必要があり 我々は 協力関係を脇に置いた 抗争関係を受け入れなければならない と主張している 世界で最も安定し 秩序が維持され 経済的にダイナミックなこの地域を 新たな対立の世界に変えることはアメリカの本意ではない 実際問題として 中国も組み込まれ アメリカの利益にもなっている 重大問題に関して協力を必要とし 時に協力し合っている世界において 全面的な抗争に基づく関係が成り立つかどうか 想定するのは困難である (2) では 南シナ海で進行している事態をどのように評価するべきか そこでは 中国は 土地造成プロジェクトに加えて 国連海洋法条約 (UNCLOS) と矛盾する 150 万平方マイルに及ぶ海洋における諸権利に対して曖昧で不穏な要求をしており フィリピン漁船を彼らの伝統的な漁場から追い出し フィリピンが中国の主張について審判を求めた国際法廷の管轄権を否定し ベトナムが管轄権を主張する海域において海軍と海警局巡視船によって護衛された石油資源の探査を実施し そして南シナ海におけるあらゆる地勢に対して中国の 議論の余地のない 主権を主張している 中国の主張と行動は 他の領有権主張国 ( ベトナム マレーシア フィリピン ブルネイ及び台湾 ) から強い反発を受けてきた アメリカは 外交と軍事の両面で以下のように対応してきた 1 中国の好ましくない行為を公然と非難してきた 2 ASEAN 加盟の他の領有権主張国が前例ない結束を公然と表明するよう 外交戦略を展開してきた 3 ベトナムに対する武器禁輸を緩和するとともに フィリピンとの消滅しかけていた同盟関係を復活させることによって 他の領有権主張国との安全保障パートナーシップを進化させてきた そして 最近では 米太平洋軍は 公海における航行の自由と上空飛行の自由を誇示するために CNN 特派員を哨戒機に同乗させて 中国が造成した人工島周辺での監視活動を実施した 南シナ海において中国に対して行動の代価を認識させ 紛争を抑止し そして国際法と規範を遵守させるために アメリカが外交 軍事の両面でもっと多くのことができる 我々は 中国に事態を沈静化させるための 出口 を用意した上で こうした行動をとるべきである (3) この問題に対処するに当たって 我々は 中国の行動が意味するもの そして意味しないものを見極める必要がある 中国軍は 南沙諸島に対する他の領有権主張国が占拠している島嶼などから彼らを退去させようとはしなかった 一般メディアの通説である 世界の通商の 60% に当たる南シナ海経由の物流が中国によって脅かされているというのは 不条理である 中国は 少なくとも自国の商品の自由な流通のために他国に依存しており それを妨害するような行為はしてこなかった また この広大な南シナ海には居住民がいないことを思い起こすべきだ 南シナ海は ウクライナやズデーテン地方と違って 失地回復主義者が軍隊を使って再統合しようとしても 居住民がいないのである それでも 摩擦を許容できるレベルにまで緩和しようとすれば 中国は 土地造成活動を含め 自国の領有権主張と他国のそれに対する態度を 大幅に修正しなければならない (4) 南シナ海での中国の受け入れがたい行動は もし必要な軍事能力を確保したとすれば 中国が世界でどのように行動するかの予兆なのか 北京は 南シナ海における現在の高圧的行為を 世界の他の地域における将来の行動モデルとするには 依然多くの制約要因を抱えている 世界的な同盟国のネットワークを持つアメリカと違って 中国は 軍事同盟がなく また海外基地もない 中国は 現代戦闘をほとんど経験しておらず 外国の紛争に介入することに根強い抵抗感を持っている 中国は 自らの政治システムを広めようとするより むしろ中国のシステムに対する外部からの脅威と見なすものに対する防御姿勢を固めている そして 中国は 114

117 国際関係の基本原則として 国家主権を尊重している 中国にとって 南シナ海は主権主張に関わる問題である 中国は主権を 核心利益 としており このことは それを護るために必要なら武力行使の用意があることを意味している 台湾 日本との尖閣諸島紛争そしてインドとの国境問題は 中国の主権主張に関わる問題である これら全ての問題において 中国は 解決を求めて頻繁に政治的 経済的圧力や利益誘導に努めてきたが 警告を与えるための軍事的脅威や部隊配備も怠らなかった 最も敏感な主権問題に対して摩擦を覚悟で軍事的脅威を誇示することから 中国の国際的対応の標準的な特徴として 主権に関わらない問題に対しても中国の軍事的好戦性を予測することはかなり無理がある (5) アメリカは 中国の高圧的と見られる行動に直面して 必ずしも受け身ではなかった アジアにおけるアメリカの同盟ネットワークは 近年著しく強化されてきた 再均衡化 政策の軍事的側面は 太平洋戦域へのより多くの最新の航空機と艦艇の配備を実現している 尖閣諸島に対する日本の主張を擁護するアメリカの宣言政策は 東南アジアで南シナ海問題に対するアメリカのより深い関与を担保する 北東アジアにおける後ろ盾として有益であった これらは アメリカと同盟国の利益の護るための 適切で穏健な措置である しかしながら 中国が我々の敵であり あるいは今後必然的にそうなると決め付けるような戦略は アメリカとパートナー諸国の安全保障には役立たないであろう より高圧的になる中国の台頭に直面して アメリカの同盟国やパートナー諸国は アメリカのプレゼンスやその他の安全保障措置を歓迎していることは確かだが これら諸国は 中国に対する敵対的行為を歓迎しない これら諸国は 米中双方が意見の相違を乗り越え この地域における継続的な経済的活力と緊張緩和を促進することを期待している そうするためには アメリカは 地域を不安定にする恐れがある歓迎されない中国の行動に対して 時に対抗していく必要があろう (6) 将来の動向を大きく左右するのは アメリカではなく 中国であろう 将来 アメリカの最善の努力にもかかわらず アメリカの同盟国やパートナー諸国の安全保障が脅かされ 世界的な規範と秩序が損なわれるようなことになれば それは アメリカではなく 中国の行動の結果であろう 従って アメリカは 事態の変化に応じて戦略を調節する必要がある しかしながら アメリカは ニクソン以来 8 人の大統領によって継承されてきたアプローチを放棄すべきでなく 不可避的な敵対関係を想定し 歴代のどの大統領も賛同しなかった 全面的な抗争戦略に移行すべきではない 筆者 (Jeffrey A. Bader) は 米中関係を築き 成熟させ そしてアジアに平和の世代を構築してきた アメリカの政治家が依拠してきた台本を ニクソン以来 9 人目の大統領が 台頭する中国に直面しながらも 廃棄しないことを願い かつ期待している 記事参照 :Changing China policy: Are we in search of enemies? 6 月 25 日 南シナ海問題 米中両国にとって留意すべきこと 中国南海研究院長論評 (China US Focus.com, June 25, 2015) 中国南海研究院の呉士存院長は Web 誌 China US Focus に 6 月 25 日付で U.S. Ambivalence in South China Sea と題する論説を寄稿し 要旨以下のように述べている (1) アメリカの南シナ海に対する政策は 1990 年代末頃から 何度か重要な変化を見 中立的立場 から 限定的な介入 を経て 積極的な介入 へと変化してきた 1 つには こうした変化は 中国の総合国力の継続的な増大と 海洋における相対的能力の強化とによって 中国の南シナ 115

118 海に対する政策が次第に明確になり 中国が支配する南シナ海の海洋秩序が実体を伴い始めたことによる アメリカは アジア太平洋地域への軸足移動を推進しながら 徐々に予防的な中国封じ込めを強化しつつある 他方で アメリカは 南シナ海の海洋紛争に益々深く関与しつつあり その 中立 政策を名ばかりの存在に変えつつある そして この地域における米中間の抗争はこれまでにない程緊張している (2) 振り返ってみれば ここ何年かのワシントンの南シナ海政策の展開は以下の 3 つの成果と 3 つの懸念に要約できる アメリカの 3 つの成果とは a. 第 1 に 中国との海洋紛争を国際仲裁裁判所に提訴したフィリピンを支援することで 国際的な多国間メカニズムによる異議や圧力を中国に向けさせた b. 第 2 に 仁愛礁 (Second Thomas Reef) を恒久的に支配下に置こうとするフィリピンの企てに対して 精神的かつ実質的な支援を断固として実施した アメリカのフィリピン支援は 南シナ海における中国とフィリピンの領有権紛争がアメリカの利益に合致するだけでなく 南シナ海周辺に対する再均衡化を可能にし 中国に対する軍事力の展開を支援することになるからである c. 第 3 に 石油掘削リグ 981 の設置を巡る紛争に乗じて 一方で 西沙諸島において中国との新しい問題を引き起こしたベトナムを支援し 他方で ベトナムに対する致死性兵器の禁輸を事実上緩和した 南シナ海における中越紛争は アメリカに中国封じ込めの機会を提供した (3) 南シナ海における上記 3 つ成果とは別に アメリカは以下の 3 つの予期せぬ懸念に直面してきた a. 第 1 に 中国が南シナ海のルール作りを左右するのではないかという懸念である 1990 年代から 中国と ASEAN は 南シナ海における行動規範について協議を開始することに合意していた 2002 年に南シナ海行動宣言 (DOC) に 2011 年には南シナ海行動宣言ガイドラインに署名した 2013 年には行動規範に関する協議を加速することで新しい合意に達し 2014 年には 中国は 南シナ海紛争は紛争当事国間での協議と交渉によって解決すべきで 南シナ海の平和と安定は中国と ASEAN が共同して維持しなければならない と提唱した 従って このことが 南シナ海の将来のルール作りを中国が断固支配するかもしれないとの懸念に繋がったかもしれない b. 第 2 に 中国が南シナ海で圧倒的なシーパワーを手に入れるかもしれないという懸念である 海洋を中心とした世界的な地政学的駆け引きは益々激しくなりつつあり アメリカがアジア太平洋地域への戦略的軸足移動を推し進め そして沿岸国の海洋資源の開発が沿岸域から公海に拡がっていく中で 南シナ海の領有権紛争は 島嶼や環礁に対する主権と海洋管轄権を巡る主張国間の対立から この地域における地政学的抗争 天然資源の開発そして航路の支配を巡る 領有権主張国と利害関係国との間の激しい駆け引きに発展してきた 従って 南シナ海における米中対立も これまでの航行の自由に関する懸念から 紛争の解決のメカニズム 南シナ海における航行と上空飛行のルール そして南シナ海の 9 段線 の法的地位に関する懸念が高まってきた c. 第 3 に 中国が南シナ海で防空識別圏 (ADIZ) を宣言するかもしれないという懸念である 2013 年 11 月に中国が東シナ海において ADIZ を宣言して以来 アメリカと国際社会は 間もなく南シナ海でも ADIZ が宣言されるかもしれないと懸念 あるいは予測してきた 中国は 差し当たり ADIZ は必要ないと繰り返し表明してきた ADIZ の宣言は中国の主権内のことであるが 新たに ADIZ を宣言するかどうかは 南シナ海における安全保障環境を中国が 116

119 どう評価するかにかかっている ある意味で 南沙諸島のおける埋め立て活動の速度や規模に対するよりも その結果として ADIZ が宣言される可能性の方が懸念されている (4) 南シナ海は 中国の安全保障にとって自然の防壁であり 重要な戦略的シーレーンであり そして中国が海洋大国になるために戦略的に保持しなければならないものである アメリカにとって 南シナ海の支配とそこにおけるプレゼンスの維持は 戦後の形成された 2 国間同盟を基礎として アジア太平洋地域を支配するために不可欠のものである 南シナ海における米中の抗争は 構造的 戦略的で かつ妥協できないものである アメリカのアジア太平洋地域への軸足移動の履行とその南シナ海政策の変更がなされれば 南シナ海問題は もはや島礁や環礁に対する主権や海洋管轄権を巡る 中国と他の領有権主張国との間の紛争ではすまなくなる 米中関係が中核的課題となり 中国と他の領有権主張国との関係が後景に退くことで 問題は非常に複雑となる 南シナ海は 米中関係において重要かつ不可避的な問題となろう 従って 南シナ海を巡る米中間の不協和音を管理するとともに 損なわれた 2 国間関係から派生する紛争を回避することは 両国の政策決定者にとって絶対不可欠のことである (5) アメリカは 南シナ海における中国の懸念と利益を理解し 配慮し この問題に対する中立の立場を堅持し 中国に対する至近距離での監視や偵察飛行を自制し そして南シナ海問題を口実に中国を封じ込める意図がないことを言動によって証明しなければならない 他方 中国は 1アメリカの国際法に基づく南シナ海における航行の自由と上空飛行の自由を尊重し 2 政治的相互信頼と安全保障協力を損ないかねない 南シナ海における一方的な ADIZ 宣言を回避するよう最善の努力をし 3 南シナ海における安全保障と危機管理メカニズムの欠如に対処するために行動規範の協議を加速し そして4 南シナ海における岩礁や環礁での建設工事では民需目的を優先し 防衛目的を越えた軍事施設の建設には慎重でなければならない 記事参照 :U.S. Ambivalence in South China Sea 6 月 24 日 台湾とアメリカの再均衡化戦略 シンガポール専門家論評 (The Diplomat, June 24, 2015) シンガポールの S. ラジャラトナム国際関係学院 (RSIS) のリサーチ フェロー Shang-Su Wu は 6 月 24 日付の Web 誌 The Diplomat に Taiwan, the Final Piece of the Rebalance? と題する論説を寄稿し アメリカの再均衡化戦略における台湾の重要性について 要旨以下のように述べている (1) 台湾は 近年のアメリカのアジア政策の後景にあって 戦略的に大きな重要性を持っている アメリカが 2011 年にアジアにおける再均衡化戦略を発表して以来 台湾は 域内の他の諸国に比較して ほとんど注目を集めてこなかった しかし 最近の幾つかの象徴的な出来事は こうした見方を変えるかもしれない 再均衡化戦略下における米軍と域内諸国との防衛協力の進展とは対照的に 台北は 国際的孤立からこうした動きとは無縁であった しかし 今では様相が変わってきているようである 5 月下旬 台湾の海兵隊司令官がハワイで開催された米海兵隊主催の会議に出席し ほぼ同時期に 厳徳発 参謀総長や李喜明 海軍総司令官が ハワイのパールハーバーで開催された米太平洋軍司令官の就任式に出席している 6 月には 桃園の台湾陸軍航空隊第 601 旅団とハワイの米太平洋陸軍第 25 航空戦闘旅団が姉妹旅団となった 台湾軍は ハワイの米軍陸軍との合同訓練のために機動歩兵小隊を派遣することになっている ワシントンと台北が国交を断絶した 1979 年以降では こういったオープンな動きは稀なことであ 117

120 る 実際には 米台間の軍事的結び付きは 特に 1996 年のミサイル危機以降 ポスト冷戦時代になってある程度復活していた あまり頻繁なものではなかったが 台湾は通常 武器購入に関連して訓練のためにアメリカに軍要員を派遣したり アメリカは台湾の年次 漢光演習 になどに参加したりしてきた (2) 最近のこうした動向は アメリカが 台湾を 再均衡化戦略のパズルを埋める最後のピースとして検討している可能性を示唆しているのではないか 再均衡化戦略に関わる国の中で 台湾は 最も弱い国ではないが 最大のリスクを有する国である 台湾の軍事力は フィリピン マレーシアあるいはベトナムなどより上回っているが これら東南アジア諸国は 中国との限定的な領有権紛争を抱えているだけである 対照的に 中国は 台湾全域の領有を主張しており 海峡を隔てて距離が近接していることから 中国にとって 台湾への戦力投射が容易である 中国は 台湾に対して 弾道ミサイルや巡航ミサイルを含む 多くの攻撃オプションを有しており しかも台湾全土は中国の接近阻止 / 地域拒否 (A2/AD) 戦略の覆域内にある こうした深刻な状況にあって 台北は 潜水艦取得に失敗するなど 防衛力整備に苦労している 限られた国防予算や全志願制への移行に伴う人件費の増加が台湾の防衛投資を制約してきた 更に 台湾への中国本土からの訪問者の増加も有事におけるサボタージュのリスクを高めており 依然として活発な中国のスパイ活動も台湾の軍事力を弱体化させている (3) この地域の普通の主権国家と異なり 台湾の特殊な立場は 非暴力的手段による攻勢を仕掛ける上で 中国にとって理想的な国内環境を育んできた 現地における中国の文化遺産と 1945 年以降の国民党政権による中国化政策による国づくりの結果 中国文化に支配された台湾社会が出来上がった 1990 年代以降の両岸の経済関係の強化は 台湾内部に強力な親中国の政治勢力を生み 2008 年の国民党政権の実現に繋がった この結果 両岸経済協力枠組協議 (the Economic Cooperation Framework Agreement) ) などを通じて 中国は かつてない程 オープンな政策を通じて 台北に対してより影響力を及ぼせるようになった 現在では 中国は 台湾にとって輸出入双方の面での最大の貿易相手国であり 同時に台湾は最大の債務国でもある 北京が経済力を武器に日本やフィリピンに圧力をかけてきたことを考えれば 台北に対して経済力を武器にしても不思議ではない 特に 2014 年の太陽花學運のデモ以降 現国民党政権の親中国政策が不人気になってきており 最近 世論調査で自らを中国人であるよりも台湾人であると考える人の割合が上昇しているように 一部で反中感情の高まりが見られる 野党民進党は 2015 年の台湾総統選挙で優勢が伝えられており ( 勝利すれば ) 中国に媚びない政権が誕生するであろう しかしながら 経済的 政治的影響を考えれば 北京と台北との間の両岸統一に向けた協定は 簡単には破棄されないであろう 民進党の総統選候補者の蔡英文は 両岸関係の 現状維持 を重視してきた 結局のところ アメリカの他のどの再均衡化戦略のパートナーにも見られない 台湾の経済的 政治的脆弱性は 近い将来目に見えて改善される見込みはない (4) 戦略的に見れば アメリカの再均衡化戦略にとって 台湾は重要であろう 2008 年に台北が親中的な立場を取り始めるまでは 北京は 台湾問題を最重要視し 東シナ海や南シナ海の問題で高圧的な戦略を押し進めることはなかった 言い換えれば 強靱な台湾が 中国の関心や資源をある程度引きつける力を持っていたのである 残念ながら それから 8 年が経過した今 特に台北が北京に対して総合的に脆弱であることを考えれば 台北が 8 年前と同じような役割を果たすことはないであろう もしアメリカが台湾海峡における中国有利のバランスを深刻に 118

121 受け止めるのであれば 前述の最近の象徴的な出来事だけでは不十分である 例えば 最先端の兵器システムを含む武器売却などの より実質的な施策が必要であろう しかしながら 単に台湾の防衛力を強化するだけでは 限定的な効果しか持たないであろう 台北が北京への経済的依存を低下させない限り 中国は 何時でも台湾に対して影響力を及ぼす梃子を行使することができよう 要するに 中国にとっての台湾の地理的位置とその重要性が アメリカにとって その再均衡化戦略の最後のピースとして台湾を取り込むべき理由付けとなり得るのである しかしながら 台北に対する北京の圧倒的な影響力が アメリカの再均衡化戦略への台湾の取り込みを阻むことになるかもしれない 2016 年の台湾の総統選挙とアメリカの大統領選挙は 近い将来の米台関係における軍事的協力の実質的進展を不可能にするかもしれない 記事参照 :Taiwan, the Final Piece of the Rebalance? 5. その他 5 月 19 日 タイ政府 カラ運河建設報道を否定 (Ship and Bunker.com, May 20, 2015) タイ政府副首相の Wattanayagorn 上級顧問は 5 月 19 日 中国との間でクラ地峡に運河を開削することに合意したとの報道を否定した 中国外交部報道官も この報道を否定した 中国メディアは 5 月 18 日 タイ 中国両政府は広州で カラ地峡に運河を開削する了解覚書に調印した と報じた この報道によれば カラ地峡に全長 102 キロの運河が見積経費 280 億ドルで開削され 完成には 10 年を見込んでいるという タイ政府筋は 国家安全保障上の理由から タイ政府は運河開削に同意することはあり得ないし 運河計画自体もいずれ具体化するということもない と強調した 記事参照 :Thailand and China Deny Deal on Building Kra Canal to Bypass Singapore ing-kra-canal-to-bypass-singapore Map: Isthmus of Kra and the Strait of Malacca 6. 北極海関連事象 6-1 主要事象 4 月 8 日 ロシア空挺部隊 北極海の海氷に降下 (RT.com, April 8, 2015) ロシア国防省が 4 月 8 日に明らかにしたところによれば ロシアの空挺部隊が史上初めて北極海の北極点近くで漂流する海氷への降下に成功した 空挺部隊は 酷寒地域での作戦に必要な約 50 キロ 119

122 の装備を背負って降下した 部隊は降下後 摂氏 -50 度の気温の中で キャンプを設営し スノーブーツとスキーで北極点までの徒歩行軍を開始した 海氷間の渡渉は 特殊スーツで泳ぐか 架橋するという 記事参照 :Russian paratroopers make history by landing on drifting Arctic iceberg (VIDEO) See Video: Russian paratroopers land on drifting ice block in Arctic, set up base 4 月 15 日 ロシア バレンツ海での SSBN 哨戒活動強化 (Alaska Dispatch News, April 15, 2015) ロシアのチルコフ海軍司令官が 4 月 15 日に明らかにしたところによれば ロシアは 2014 年 1 月から 2015 年 3 月までの間 北極海における SSBN( 潜水艦発射弾頭ミサイル搭載原潜 ) の哨戒活動を 2013 年に比してほぼ 50% 強化した それによれば 北方艦隊の SSBN が常時 1 隻 バレンツ海を哨戒しており 他に 2 隻が警戒待機態勢にある ロシアは現在 15 隻の SSBN を保有しており 内 10 隻が即応態勢にある 更にこの内 2 隻から 3 隻が北方艦隊と太平洋艦隊から哨戒活動に展開できる 北方艦隊は コラ半島のガジェヴォ海軍基地に 旧式の Delta-IV 級と新型の Borei 級 SSBN を配備している 記事参照 :Arctic, Barents submarine patrols up 50 percent over last year ver-last-year 5 月 18 日 北極圏におけるアメリカの課題 元米政府高官論評 (DefenseNews.com, May 18, 2015) Sherri Goodman 元米国防次官補代理と David Titley 米海軍退役少将は 5 月 18 日付の Web サイト DefenseNews.com に Commentary: Ensure Sovereignty, Access, Security in Arctic と題する論説を寄稿し 北極圏におけるアメリカの課題について 要旨以下のように述べている (1) 何故 アメリカ人は 北極で起こっていることに関心を持たなければならないか 3 つの重要な要因 即ち 主権 アクセスそして安全保障が今日の北極圏を我々が経験しなかった地域に変えようとしているからである a. 第 1 に アメリカは北極国家ではあるが この地域における主権を護るために 我々が世界の他の地域で行っているようには行動してこなかった 米沿岸警備隊の Zukunft 司令官の言葉を借りれば 我々は ゲームにさえ参加していない ロシアが最近北極軍司令部を新設し 能力構築のために大規模な投資をしている北極圏で 我々は 1 隻の老朽化した大型砕氷船を保有しているだけで 現実的なプレゼンスを維持するための軍事力も沿岸警備船隊も持っていない ノルウェーとカナダは アメリカよりも大きな砕氷船能力を持っている 北極圏の砕氷は沿岸警備隊の任務であるが 歴代沿岸警備隊司令官の努力にもかかわらず アメリカは この任務を国家的優先事項にすることができなかった b. 第 2 に アメリカは 主要な能力やアセットに対する安定したアクセスを必要とする 例えば ノルウェー領のスヴァールバル諸島は 重要な衛星による観測拠点である スヴァールバル諸島が北極点に近接していることから 同諸島のアンテナは 100 分毎に低軌道衛星からあらゆる情報を補足できる これは地球上のどの地域よりも受信頻度が非常に高い 120

123 c. 第 3 に 北極圏におけるアメリカの安全保障である ロシアのプーチン大統領の北極圏に対する正確な意図は不明だが 大統領は 北極圏をロシアの利益圏の一部と見なし そこにおけるロシアの利益を護り 主権を主張するために 必要な措置をとることを明らかにした 更に 北極圏で予想される事故である エネルギー開発から観光旅行まで 多くの人々が北極圏に出かけるようになるにつれ 遠隔の酷寒の海域における船舶の座礁や石油の漏洩といった事故は避けられない アメリカは この地域により多くの港湾とインフラを必要としているが 深水港も利用可能な十分な砕氷能力も持っておらず また 事実上 ベーリング海峡から北の地域に 捜索救難拠点や石油漏洩対処能力を持っていない (2) では アメリカは この変わりゆく北極圏における課題と機会に対処するために どのような準備をすべきか 北極海の環境保護 気候変動の影響 そしてこの地域に居住する人々の経済や居住環境の改善といった目標とは別に アメリカは 以下の分野に対する投資を優先させる必要がある a. この地域の変化に適切に対応できるようにするために 変化の徴候を捉える早期警報システムを構築するための 北極科学分野 北極海における解氷ペースが状況を大きく左右することから 我々は 自律的な海中と海氷下の観測システム ブイそして衛星データを統合した観測システムを構築し これらデータを集積し 解析するシステムを必要とする b. 北極海で継続的に運用できる能力を持つ 砕氷船隊の整備 c. これまでとは違った 平穏でないかもしれない北極圏の将来に備えた計画 ロシアがノルウェーの上空飛行を増やし 新しい原子力潜水艦を建造し そして北極圏のインフラを強化していることから アメリカとその NATO 同盟国は 北極圏における活動増大時代に備えた計画を立案しなければならない (3) アメリカが北極圏に真剣にコミットするのであれば 我々は 戦略 ロードマップとその実施計画を越えて アメリカが主権を行使し 安全保障と安定を維持し そして同盟国と我々自身のアクセスを確実にするために 将来に備えた投資を始める必要があろう 記事参照 :Commentary: Ensure Sovereignty, Access, Security in Arctic sure-sovereignty-access-security-arctic/ / 5 月 26 日 ロシア 2 隻目の原子力砕氷船起工 (gcaptain.com, May 27, 2015) ロシア国営 Baltic Shipyard(Baltijskiy Zavod-Sudostroyenie) は 5 月 26 日 ロシア政府が推進する大規模な造船計画の一環として 原子力砕氷船の起工式を行った この造船計画 Project は 北極圏開発と北方航路に使用される 3 隻の原子力砕氷船を 2020 年までに建造する計画である この計画のリードシップ Arktika(LK-60) は 2013 年 11 月から建造中で 2017 年 12 月に 今回起工された Siberia は 2019 年 12 月に 3 隻目は 2020 年 12 月にそれぞれ就役する計画である Arktika (LK-60) は 排水量 3 万 3,540 トン 全長 メートル 全幅 34 メートルの 2 重船殻船体である 記事参照 :Russia Lays Keel for Giant Nuclear-Powered Icebreaker 121

124 5-2 海氷状況 以下は 米国の The National Snow and Ice Data Center, University of Colorado の HP に掲載された 北極海の海氷についての衛星観測データ 月間状況分析 ( 英文タイトルを含む ) である 4 月の海氷状況 2015 年 4 月の状況 :Third dimension: new tools for sea ice thickness 実線 (median ice edge) は 新たな基準値 1981 年 ~2010 年の期間における 4 月の平均的な海氷域を示す + は北極点を示す 4 月の海氷面積の月間平均値は 1,400 万平方キロで 1981 年 ~2010 年の期間における 4 月の平均値 1,500 万平方キロを 81 万平方キロ下回った そして 2007 年 4 月の最小記録よりは 8 万平方キロ上回ったが 衛星観測史上 2 番目に小さかった バレンツ海 オホーツク海及びベーリング海における海氷面は平均値を下回ったが ニューファンドランド デーヴィス海峡及びラブラドル海では平均値をやや上回った 4 月を通じて海氷面の縮小が始まったが 月間の縮小面積は全般的に小さかった 4 月第 1 週は速いペースで海氷面が縮小したが 月半ばではほとんど変化がなく 最終週に大幅な縮小が見られた 結局 月間縮小面積は 86 万 2,000 平方キロとなった 4 月の 925hPa レベル ( 海面上ほぼ 3,000 フィート ) での大気温度は 北極海のほとんどの海域で平均値 ( 摂氏 1 度 ~3 度 ) より高かったが グリーンランドとカナダの群島地域では平均値より摂氏 1 度 ~3 度を下回った カラ海では 平均値より摂氏 6 度 ~8 度も高かった 122

125 5 月の海氷状況 2015 年 5 月の状況 :May in decline 実線 (median ice edge) は 新たな基準値 1981 年 ~2010 年の期間における 5 月の平均的な海氷域を示す + は北極点を示す 5 月の海氷面積の月間平均値は 1,265 万平方キロで 1981 年 ~2010 年の期間における 5 月の平均値 1,338 万平方キロを 73 万平方キロ下回った 5 月の海氷面積としては 2004 年 5 月の最小記録よりは 7 万平方キロ上回ったが 衛星観測史上 3 番目に小さかった これは 1 つにはベーリング海の海氷の早期融解によるものである 5 月末までに 幾つかの海域 特にボーフォート海南部のバンクス島 アラスカのバロー沖 そしてカラ海で解氷域が出現し始めた 5 月の海氷面の縮小は 169 万平方キロで これは 1981 年 ~2010 年の期間における 5 月の平均値 141 万平方キロをわずかに上回るものであった 6 月に入って 解氷域が広がり始めると見られるが そのペースは 天候と北極海上空の大気温度に左右されよう 5 月の北極海中央部 東グリーンランド海 東シベリア海そしてラプテフ海の気温は 平均値を下回った 特に グリーンランドの北部氷河の 925hPa レベル ( 海面上ほぼ 3,000 フィート ) での大気温度は平均とより 2 度 ~4 度下回った 一方 ボーフォート海 バレンツ海そしてカラ海の大気温度は 平均値を 4 度 ~8 度上回った 123

126 6 月の海氷状況 2015 年 6 月の状況 :Downwardly mobile 実線 (median ice edge) は 新たな基準値 1981 年 ~2010 年の期間における 6 月の平均的な海氷域を示す 6 月の海氷面積の月間平均値は 1,100 万平方キロで 1981 年 ~2010 年の期間における 6 月の平均値 1,189 万平方キロを 92 万平方キロ下回った 6 月の海氷面積としては 2010 年 6 月の最小記録よりは 15 万平方キロ上回ったが 衛星観測史上 3 番目に小さかった バレンツ海とチュクチ海における海氷面積は平均を下回っているが これは 5 月から続くパターンである ハドソン湾西部も平均を下回っているが 同湾東部は平均を上回っており そしてグリーンランドの東側の海域の海氷面積はほぼ平均に近い 6 月の海氷面の縮小は 161 万平方キロで これは 1981 年 ~2010 年の期間における 6 月の平均値 169 万平方キロから見れば 縮小スピードはわずかに遅い 6 月の北極海の気温はかなり暖かかった 925hPa レベル ( 海面上ほぼ 3,000 フィート ) での大気温度は大部分の海域で平均値を上回ったが 特に カラ海では平均値を 2 度 ~5 度 東シベリア海では平均値を 2 度 ~3 度 それぞれ上回った 一方 ボーフォート海の北部と東部 及びカナダ北極圏群島水域の大気温度は 平均値に近いか あるいはやや下回る気温であった 124

127 Ⅱ. 解説 Ⅱ-1. アジアにおける海賊行為と武装強盗事案の実態 ~ReCAAP 2015 年上半期報告書から~ 上野英詞 ( 笹川平和財団海洋政策研究所研究員 ) アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された ReCAAP Information Sharing Centre(ISC) は 2015 年 7 月下旬 2015 年上半期 (1 月 1 日 ~6 月 30 日 ) にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する上半期報告書を公表した 以下は ReCAAP 2015 年上半期から見た 最近のアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の状況である 備考: 国際海事局 (IMB) の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して ReCAAP の報告書は アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている また IMB が民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して ReCAAP の情報源は 加盟国と香港の Focal Point とシンガポールにある Information Sharing Centre(ISC) とを結び また Focal Point 相互の連結で構成される Information Sharing Web である 各国の Focal Point は沿岸警備隊 海洋警察 海運 海事担当省庁あるいは海軍に置かれている ( 日本の場合は海上保安庁 ) そして各国の Focal Point は 当該国の法令執行機関や海軍 港湾局や税関 海運業界など 国内の各機関や組織と連携している 更に 国際海事機関 (IMO) IMB やその他のデータを利用している ReCAAP の加盟国は インド スリランカ バングラデシュ ミャンマー タイ シンガポール カンボジア ラオス ベトナム ブルネイ フィリピン 中国 韓国及び日本の域内 14 カ国に加えて 域外国からノルウェー (2009 年 8 月 ) デンマーク(2010 年 7 月 ) オランダ(2010 年 11 月 ) 英国 (2012 年 5 月 ) オーストラリア(2013 年 8 月 ) そしてアメリカ(2014 年 9 月 ) が加盟し 現在 20 カ国となっている なお マレーシアとインドネシアは未加盟だが ISC との情報交換が行われている 1. 海賊 と 船舶に対する武装強盗 についての ReCAAP の定義 海賊 (piracy) と 船舶に対する武装強盗 (armed robbery against ships) とは ReCAAP ISC の定義によれば 海賊 については国連海洋法条約 (UNCLOS) 第 101 条 海賊行為の定義 に従っている 船舶に対する武装強盗 については 国際海事機関(IMO) が 2001 年 11 月に IMO 総会で採択した 海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード (Code of practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従っている 125

128 年上半期の発生 ( 未遂を含む ) 件数報告書によれば 2015 年上半期の発生件数は 106 件 (2014 年同期 90 件 ) で その内 既遂が 100 件 ( 同 81 件 ) 未遂が 6 件 ( 同 9 件 ) であった 106 件の内 11 件が海賊事案で 他の 95 件が船舶に乗り込まれた武装強盗事案であった 海賊事案は公海において航行中の船舶に乗り込まれた事案で 武装強盗事案は当該沿岸国の内水 群島水域あるいは領海で発生した事案で 当該沿岸国の主権管轄下にある事案である 表 1: 過去 5 年間の各上半期における地域別発生件数 2015(1-6) 2014(1-6) 2013(1-6) 2012(1-6) 2011(1-6) 既遂 未遂 既遂 未遂 既遂 未遂 既遂 未遂 既遂 未遂 南アジア アラビア海 4 バングラデシュ ベンガル湾 2 1 インド 小計 東南アジアインド洋 1 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール 2 南シナ海 マ シ海峡 タイ 1 ベトナム 小計 計 出典 :ReCAAP 2015 年上半期報告書 10 頁表 1 より作成 表 1 は 過去 5 年間の各上半期における発生件数を地域毎に示したものである これによれば マラッカ シンガポール海峡における事案が前年同期比で大幅増となっており またベトナムでは 13 件も発生しており その急増ぶりが注目される 一方 インドネシアでの発生件数が前年同期比で激減しており また南シナ海でも大幅に減少している 3. 発生事案の重大度の評価 ReCAAP の報告書の特徴は 既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を 暴力的要素 (Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の 2 つの観点から評価し カテゴリー分けをしていることである 126

129 暴力的要素の評価に当たっては 1 使用された武器のタイプ ( ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い ) 2 船舶乗組員の扱い ( 死亡 拉致の場合が最も暴力性が高い ) 3 襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数 ( この場合 数が多ければ多いほど暴力性が高く また組織犯罪の可能性もある ) を基準としている 経済的要素の評価に当たっては 被害船舶の財産価値を基準としている この場合 乗組員の現金が強奪されるよりも 該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる 以上の判断基準から ReCAAP は 発生事案を以下の 4 つにカテゴリー分けしている Petty Theft 事案については 基本的に CAT-3 事案に類別される船舶に対する武装強盗事案と見なされるが 強盗が武装していないか あるいは武器所持が報告されていない そして船舶の乗組員に危害を加えていないか あるいは危害を加えられたとの報告がない事案とされている Category CAT- 1 CAT -2 CAT 3- Petty Theft Significance of Incident Very Significant Moderately Significant Less Significant Minimum Significant 表 2: 過去 5 年間の各上半期におけるカテゴリー別既遂事案件数 2015(1-6) 2014(1-6) 2013(1-6) 2012(1-6) 2011(1-6) CAT CAT CAT Petty Theft 出典 :ReCAAP 2015 年上半期報告書 9 頁チャート 4 より作成 表 2 に見るように 注目されるのは 2015 年上半期の既遂事案 100 件の内 CAT-1 事案が 10 件もあることで 後述するように この内 7 件がタンカーからの積荷の石油や燃料油の 抜き取り (siphoning) 事案で 3 件が 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案であった 報告書によれば 抜き取り 事案は実際には 8 件だが 内 1 件については暫定的に CAT-2 に類別されているが 詳細な情報が得られ次第 再評価されるとしている 報告書によれば 既遂事案 100 件について 襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数から見れば 1~ 6 人が 63 件で 7~9 人が 17 件 9 人以上が 2 件 ( いずれも南シナ海での 抜き取り 事案 ) 報告なしが 18 件であった 使用された武器のタイプについて見れば 100 件の内 3 分の 2 の 64 件が非武装か 報告なしであった 襲撃者がナイフと銃器で武装した事案が 10 件で ナイフや長刀で武装した事案が 26 件であった 被害船舶の乗組員に対する扱いを見れば 100 件中 大部分の 84 件が負傷者なしか 負傷者が報告されなかった しかしながら 残りの 16 件中 乗組員が脅迫された事案が 1 件 人質に取られた事案が 9 件 ( 拘束は一時的なもので 襲撃者が逃亡する際に釈放 ) 暴行された事案が 4 件 救命ボ 127

130 ートに乗せられ 船外に放擲された事案が 1 件 重傷を負った事案が 1 件あった 経済的損失について見れば 100 件の内 44 件が何も盗まれなかったか あるいは報告なしであった 積荷が盗まれた 9 件の事案では 8 件が 抜き取り 事案で もう 1 件はバージからスクラップ金属が盗まれた事案であった 他に船舶備品の盗難が 29 件 エンジン部品の盗難が 9 件 現金や乗組員の持ち物の盗難が 6 件あった そして船舶のハイジャック事案 ( 抜き取り 未遂事案) が 3 件あった 報告書によれば その内 1 件は インドネシア船籍のケミカルタンカー MT Rehoboto で 1 月 28 日に北スラウェッシ沖で ハイジャックされた 長刀で武装した 8 人の覆面の襲撃者が船外機付きの小型木製ボートで接近し 該船をハイジャックした事案で 救命ボートに乗せられた乗組員 14 人は 1 月 31 日に付近のルンベ島周辺海域でインドネシア当局に発見された その後 該船は 1,100 トンのディーゼル油を積載していたが 2 月 23 日 フィリピン沿岸警備隊にミンダナオ島周辺で座礁しているのが発見された 船名の変更や座礁による損傷はなかったが 現地住民に船舶の装備などが略奪されており 沿岸警備隊は一部を回収したが 航法設備と通信装置は発見できなかった 2 件目は 1 月 29 日未明にマレーシア籍船のケミカルタンカー MT Sun Birdie がマレーシアのタンジュン アヤム ( 南シナ海の入り口 ) 沖でコンタクトが取れなくなった事案で その後 マレーシアの海洋法令執行庁 (MMEA) が 1 月 29 日夜に該船を発見し 船上にいた 7 人の襲撃者を逮捕した 2 人が船外に逃亡したが 付近の船舶に救助され MMEA に引き渡された 該船の乗組員は 11 人で 700 トンの MFO(Marine Fuel Oil) を積んでいた 3 件目は 6 月 11 日にマレーシア籍船のケミカルタンカー MT Orkim Harmony がマレーシア東岸のアウル島南西沖の南シナ海でコンタクトが取れなくなった事案で 該船は 6,000 mt の ULG 95( ガソリン ) を積載していた 6 月 17 日に オーストラリアの哨戒機がタイ湾で該船を発見した 該船の船名は前後を消して Kim Harmon に替えられていた 6 月 19 日に マレーシアの MMEA と海軍の艦船が該船を確保した 乗組員 1 人が負傷していた 同日 ベトナム沿岸警備隊が逃亡していた 8 人のインドネシア人ハイジャック犯を逮捕した 更に 5 人が積荷の買い手を求めて該船を去っていたことが判明した 表 3 は 2015 年上半期の既遂事案における襲撃された時の船舶の状況を示したものである 表 3:2015 年上半期の航行中 停泊 / 錨泊中既遂事案のカテゴリー別内訳 CAT-1 CAT-2 CAT-3 Petty Theft 航行中 停泊 / 錨泊中 出典 :ReCAAP 2015 年上半期報告書 39~59 頁より作成 表 3 によれば 2015 年上半期の既遂事案中 航行中の事案が 100 件中 67 件で その内 マラッカ シンガポール海峡での事案が 55 件 ( 他に未遂 4 件 ) で 2014 年同期の 22 件 ( 他に未遂 1 件 ) に比して激増している 既遂事案 55 件の内 CAT-1 が 2 件 ( いずれも 抜き取り 事案 ) CAT-2 が 8 件 CAT-3 が 10 件 残り 35 件が petty theft 事案であった 報告書によれば マ シ海峡での事案での全事案 59 件の内 50 件がマ シ海峡分離通航路 (TSS) の東航レーンを航行中の事案で 5 件が西航レーンでの事案で 4 件がマラッカ海峡での事案であった 報告書によれば 東航レーンでの被害船舶 50 隻の内 ばら積み船が全体の半分強の 28 隻で 次い 128

131 でタンカー 8 隻 コンテナ船 6 隻などであったが 特に特定の船舶が目標になっているわけではない ReCAAP ISC は 42 件の事案が 2130~0530 の時間帯に発生していることから この時間帯の警戒を強めるよう 通航船舶に勧告している 一方 西航レーンでの事案 5 件は 目標となった船舶が全て異なっており タグボート タンカー 補給船 コンテナ船そして精製品タンカーであった マ シ海峡での事案はほとんどが CAT-3 か petty theft 事案で 未遂を含む全事案 59 件中 42 件が乗組員に発見され 何も盗らずに逃亡している とはいえ ReCAAP ISC は マ シ海峡の事案が特に 6 月 24 日から 29 日の 6 日間に 8 件も発生していることに懸念を示し 沿岸国に対して合同哨戒活動の強化を要請している また 航行船舶にも監視の強化を求めている 報告書によれば 襲撃の手口から見て この海域では少なくとも 2 つの襲撃グループが活動しているという 2015 年上半期のマ シ海峡での発生海域 出典 :2015 年上半期報告書 14 頁 停泊 / 錨泊中の事案で注目されるのは 13 件の事案がベトナムで発生していることである 表 1 に見るように 2014 年同期では報告されておらず またそれ以前の発生件数と比較しても 4 倍増となっている 報告書によれば 13 件中 12 件が petty theft 事案で 1 件が CAT-3 事案であった 発生場所を見れば 8 件が南部のヴンタオ錨泊地で発生しており 北部のハイフォンとフォンガイ周辺では 5 件発生している 報告書によれば 南部のヴンタオ錨泊地では 8 件中 5 件が 0630~1610 の昼間に発生しており 3 件が 0030~0430 の深夜に発生している 北部のハイフォンとフォンガイ周辺の事案では 2210~0430 の時間帯に発生しており 襲撃者は ペンキやロープなど 換金が容易な船舶備品を盗む ReCAAP ISC は ベトナムの港湾当局や海洋法令執行機関に対して 監視の強化を求めている 船舶の船長や乗組員に対しても 監視の強化を求めている 129

132 4. 抜き取り(siphoning) 事案の状況タンカーからの積荷の石油や燃料油を抜き取る 抜き取り (siphoning) 事案は 2015 年上半期には 8 件 ( 内 1 件は暫定的に CAT-2 に類別 ) 発生しており 他に 3 件が 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案であった この種の事案は 表 5 に示したように 2011 年 4 月 15 日の事案が初めてだが 2014 年になって異常に増えているところに特徴がある 表 6 に示したように 2014 年の 抜き取り 事案は 15 件で その内 12 件が既遂事案であった 2011 年から 2014 年までの 4 年間で 23 件の 抜き取り 事案が発生しており その内 16 件で各種の積荷油の 抜き取り に成功しており 7 件では関係各国の海洋法令執行機関のタイムリーな介入により 抜き取り を阻止している ReCAAP ISC は 2014 年 7 月に この種の 抜き取り 事案について Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia と題する報告書を公表した 2015 年 1 月には その最新版 Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia(PartⅡ) を公表した 2015 年上半期の発生件数は表 4 に示した通りだが 報告書によれば 3 件の 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案を含む 11 件の襲撃の特徴は 以下のようなものであった まず 目標船舶の大きさについては 1,000GT までの船舶が 2 件 1,001~5,000 GT が 5 件 5,000GT 以上が 3 件 報告なしが 1 件であった 襲撃者の数については 7~9 人が最も多く 6 件で 他に 4 ~6 人が 2 件 9 人以上が 2 件 報告なしが 1 件であった 襲撃者は通常武装しており 銃器とナイフが 7 件 ナイフ / 長刀のみが 2 件で 非武装 / 通報なしが 2 件であった 銃器の発砲は 乗組員の 1 人が負傷した 6 月 11 日の MT Orkim Harmony の事案を除いてなかったが 2 月 13 日の MT Lapin の事案では 襲撃者は乗組員を縛り 爆発物を仕掛けた 動かないよう脅した後 逃亡した 爆発物はタイの爆発物処理チームが調査したが 電気回路のみで爆薬はなかった 乗組員の扱いについては 1 月 28 日の MT Rehobot の事案では 救命ボートに乗せられ 船外に放擲された事案 ( その後救出された ) が 1 件あった 襲撃者が 抜き取り が完了するのを待つ間 乗組員に話しかけ 次のハイジャックに勧誘する出来事もあったという また 多くの事案では 襲撃者は 運航船社や警備当局への通報を阻止するために 逃亡する前に 襲撃船舶の通信設備を破壊している 2015 年 1 月の Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia(PartⅡ) が指摘しているように 抜き取り 事案の襲撃グループの手口は全般的に似通っており 彼らの狙いは各種の積荷油にあり 身代金狙いで目標船舶をハイジャックしたり 人質に取ったりすること自体に関心があるわけではない 従って この点で これらの事案は 2012 年まで猖獗を極めたソマリアの海賊の手口とは異なっている ( なお IMB の報告書では これらの事案は ハイジャック 事案とされている 2015 年上半期報告書は 2015 年上半期に世界で起きた 13 件のハイジャック事案の内 11 件が東南アジア海域で発生した と述べている ) 抜き取り 事案の多発に鑑み ReCAAP ISC は 関係当局者と協同で 対処のためのベストプラクティスに重点を置いたガイダンスを作成するとしている 130

133 2015 年上半期の 抜き取り 事案 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案の発生海域 出典 :2015 年上半期報告書 20 頁 131

134 表 4:2015 年の 抜き取り (siphoning) 事案( 含未遂事案 ) 2015 年 8 月 15 日現在船名 / 船種 /GT 発生日時場所襲撃グループ経済的損失 1. Rehobot Chemical Tanker 2.Sun Birdie Chemical Tanker 742 GT 3. Lapin Product Tanker 1,848GT 4. Pubai Pattra 1 Product Tanker 5,681 GT 5. Singa Berlian Tanker 998GT 6. David Tide Ⅱ Supply Vessel 1,529GT 7. Dongfong Glory Product Tanker 4,347GT 8. Ocean Energy Product Tanker 4,832GT 9. Oriental Glory Product Tanker 2,223 GT 10. Orkim Victory Oil Product Tanker 5,036GT 11. Orkim Harmony Product Tanker 5,081GT 12. Joaquim Product Tanker 1,796GT 北スラウェッシ沖 南シナ海 マ シ海峡 南シナ海 マ シ海峡 南シナ海 南シナ海 マ シ海峡 南シナ海 南シナ海 南シナ海 マ シ海峡 人数 武器 8 Long knives 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案 9 Machetes, Toy pistols Curved knives Hammer 6-8 Pistols, Knives 6 Machetes, Pistols 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案 Diesel 5metric ton(mt), 乗組員の持ち物船舶備品, 通信装備破壊 Gasoline 980mt ビデオデッキ破壊 乗組員の持ち物 7 Guns, Long knives MFO* 1,472mt 通信 航法装備破壊 4 Pistols, Parangs Diesel 20 万リッター乗組員の持ち物 Pistols Gasoline 4,000mt, Diesel 1,000mt 通信装備破壊 8 Guns, Long knives 8~ Pistol, Knives, Axe 8~ Handguns, Machete Gas oil 2,023mt 通信装備破壊 船舶電話 乗組員の持ち物 Ship fuel/oil 2,500mt 乗組員の持ち物 MDO 770mt 通信装備破壊乗組員の持ち物 - - 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案 - - Fuel oil 3,000 mt 出典 :ReCAAP 2015 年上半期報告書 39~59 頁 IMB2015 年上半期報告書 28~39 頁より作成 ReCAAP Incident Report, August 9, 備考 *:MGO; Marine Gas Oil, MDO; Marine Diesel Oil 132

135 注 : 乗組員扱いなど 各事案の特記事項 ( 以下の番号は船名の前の番号を指す ) 1: 本事案は MT Rehoboto が 1 月 28 日に北スラウェッシ沖で 長刀で武装した 8 人の覆面の襲撃者にハイジャックされた 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案である 救命ボートに乗せられた乗組員 14 人は 1 月 31 日に付近のルンベ島周辺海域でインドネシア当局に発見された 該船は 1,100 トンのディーゼル油を積載していたが 2 月 23 日 フィリピン沿岸警備隊にミンダナオ島周辺で座礁しているのが発見された 船名の変更や座礁による損傷はなかったが 現地住民に船舶の装備などが略奪されており 沿岸警備隊は一部を回収したが 航法設備と通信装置は発見できなかった 2: 本事案は 1 月 29 日未明に MT Sun Birdie がマレーシアのタンジュン アヤム ( 南シナ海の入り口 ) 沖でコンタクトが取れなくなった 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案である その後 マレーシアの海洋法令執行庁 (MMEA) が 1 月 29 日夜に該船を発見し 船上にいた 7 人の襲撃者を逮捕した 2 人が船外に逃亡したが 付近の船舶に救助され MMEA に引き渡された 該船の乗組員は 11 人で 700 トンの MFO(Marine Fuel Oil) を積んでいた 3: 襲撃グループは 乗組員を縛り 爆発物を仕掛けたとし 動かないよう脅した後 逃亡した 爆発物はタイの爆発物処理チームが調査したが 電気回路のみで爆薬はなかった 5: 乗組員 1 人 軽傷 本事案は暫定的に CAT-2 に類別されているが 詳細な情報が得られ次第 再評価される 10: 本事案は MT Orkim Harmony が 6 月 11 日 マレーシア東岸のアウル島南西沖の南シナ海でコンタクトが取れなくなった 抜き取り 未遂 ( ハイジャック ) 事案である 該船は 6,000mt の ULG95( ガソリン ) を積載していた 6 月 17 日に オーストラリアの哨戒機がタイ湾で該船を発見した 該船の船名は前後を消して Kim Harmon に替えられていた 6 月 19 日に マレーシアの海洋法令執行庁 (MMEA) と海軍の艦船が該船を確保した 乗組員 1 人が負傷していた 同日 ベトナム沿岸警備隊が逃亡していた 8 人のインドネシア人ハイジャック犯を逮捕した 更に 5 人が積荷の買い手を求めて該船を去っていたことが判明した 12: 船長と甲板員が襲撃者に殴られて負傷 該船は 3,500mt の Fuel oil を積んでいた 133

136 表 5:2011 年 ~2013 年までの 抜き取り (siphoning) 事案( 含未遂事案 ) 船舶名 GT 発生日時 抜き取り量 油種 2011 年 1. Namse Bang Dzod metric ton(mt) Diesel 2012 年 2. Yunita 1, ton Fuel oil 3. Ai Maru 1, 未遂 4. Scorpio 1, 未遂 5. Zafiah 未遂 2013 年 6. Danal ,690mt MGO* 7. GPT 21 1, Not stated MGO 8. Moresby 9 1, 未遂 出典 :Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia, p.9, Annex B より作成 備考 *:MGO; Marine Gas Oil 134

137 表 6:2014 年の 抜き取り (siphoning) 事案( 含未遂事案 ) 船名 / 船種 /GT 発生日時襲撃グループ所要時間経済的損失 1. Sri Phangnga Tanker 929GT 2. Naniwa Maru No. 1 Tanker 3,238GT 3. Orapin 4 Product Tanker 1,924GT 4.Budi Mesra Due Oil Tanker 5,153GT 5. Ai Maru Product Tanker 1,007GT 6. Moresby 9 Product Tanker 1,321GT 7. Oriental Glory Product Tanker 2,223GT 8. V.L. 14 Oil Tanker 1,007GT 9. Orapin 2 Product Tanker 1,598GT 10. Sunrise 689 Chemical Tanker 4,080GT 11. Srikandi 515 Product Tanker 1,975GT 12. Suratchanya Tanker 2,148GT 13. New Glory Tanker 4,268GT 14. Ji Xiang Product Tanker 1,989GT 15. VP Asphalt 2 Tanker 3,118GT NA 人数 武器 16 Swords, handgun 6hrs30min MGO*400metric ton(mt) 乗組員の持ち物船舶備品 5 NA - MDO*2,500mt 10 Guns, knives 26 Knives, swords 7 Pistols, knives 9 Pistols, machetes 10hrs 9hrs41min 4hrs20min 7hrs45min ADF*3,200mt Diesel 940mt 乗組員の持ち物 MGO 620mt 乗組員の持ち物 MGO 2,118mt 25 NA 4hrs05min MFO*1,600mt 現金 乗組員の持ち物 6 Guns 7hrs320min Lube oil( 潤滑油 ) 乗組員の持ち物 8 Pistols, machetes 10 Guns, knives - MGO 現金 乗組員の持ち物 - Gas oil 8 NA 49days Palm oil( ヤシ油 ) 9 NA 8hrs27mi n Gasoline 抜き取り 未遂事案 8 Armed 6hrs40min 現金 乗組員の持ち物 10 Pistols, machetes - 船舶備品 7 Guns 1hrs15min 乗組員の持ち物 135

138 出典 :Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia(PartⅡ), Annex B より作成備考 *:MGO; Marine Gas Oil, MDO; Marine Diesel Oil, ADF; Automative Diesel Fuel, MFO; Marine Fuel Oil 注 : 乗組員扱いなど 各事案の特記事項 ( 以下の番号は船名の前の番号を指す ) 1: 船長軽傷 襲撃グループは該船の船名を書き換えなかったが 船名と船主船社のロゴマークをペンキで消す 2: 乗組員人質 3: 乗組員拘束 船名を Rapi に書き換え 4: 乗組員拘束 食堂に監禁 5: 乗組員拘束 船室に監禁 6: 乗組員拘束 機関室に監禁 9: 乗組員拘束 小部屋に監禁 10: 乗組員 2 人軽傷 11: 乗組員を救命ボートに放擲 船名を Chongli 2 に書き換え 14: 乗組員 1 人 首を撃たれる 15:3 等機関士 死亡 2011 年 ~2014 年までの既遂 未遂 抜き取り事案 発生海域 Source: Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia (PartⅡ), p

エチオピア 2017 年 2 月 エチオピアは FATF 及び ESAAMLG( 東南部アフリカ FATF 型地域体 ) と協働し 有効性強化及び技術的な欠陥に対処するため ハイレベルの政治的コミットメントを示し 同国は 国家的なアクションプランや FATF のアクションプラン履行を目的とした委員会

エチオピア 2017 年 2 月 エチオピアは FATF 及び ESAAMLG( 東南部アフリカ FATF 型地域体 ) と協働し 有効性強化及び技術的な欠陥に対処するため ハイレベルの政治的コミットメントを示し 同国は 国家的なアクションプランや FATF のアクションプラン履行を目的とした委員会 国際的な資金洗浄 テロ資金供与対策の遵守の改善 : 継続プロセス 2017 年 11 月 3 日 ( 於 : ブエノスアイレス ) ( 仮訳 ) FATFは 資金洗浄 テロ資金供与対策の基準の遵守に関する継続的な検証の一環として 今日までに 資金洗浄 テロ資金供与対策に戦略上の欠陥を有し かつそれらに対処するためのアクションプランをFATFとともに策定した国 地域として 以下を特定する これらの国

More information

Taro-文書1

Taro-文書1 新たな日米防衛協力のための指針 ( 新ガイドライン ) 1 防衛協力と指針の目的平時から緊急事態までのいかなる状況においても日本の平和及び安全を確保するため また アジア太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し 平和で繁栄したものとなるよう日米両国間の安全保障及び防衛協力は 次の事項を強調する 切れ目のない 力強い 柔軟かつ実効的な日米共同の対応 日米両政府の国家安全保障政策間の相乗効果 政府一体となっての同盟としての取り組み

More information

<92508F838F578C76955C81408EE88E9D82BF8E9197BF2E786C7378>

<92508F838F578C76955C81408EE88E9D82BF8E9197BF2E786C7378> NHK 平和に関する意識調査 単純集計結果 調査期間 2017 年 6 月 21 日 ( 水 )~7 月 25 日 ( 火 ) 調査方法 郵送法 調査対象 18 歳 19 歳限定地域 : 全国 2017 年 7 月末時点で18 歳 19 歳の国民 1200 人 20 歳以上の成人地域 : 全国 2017 年 7 月末時点で20 歳以上の国民 1200 人 いずれも住民基本台帳から層化無作為 2 段抽出

More information

86 また南シナ海での領有権をめぐりベトナムとならんで中国と激しく対立す るフィリピンでは オバマの同国訪問を機会に同年4月28日 米軍がフィリ ピンで向こう10年間軍事基地を使用できるようにする軍事協定が調印された この協定によって 1992年 米軍がスービック海軍基地 クラーク空軍基地 など在フィリピンの基地から全面撤退していらい はじめてフィリピンに大 規模に軍事的復帰を遂げる道が開けた 中国が南シナ海への進出を加速させ

More information

中国の対東南アジア戦略

中国の対東南アジア戦略 第49回勉強会 ①経済成長に必要な資源の輸入ルート 特に中東からの石油輸入ルートの安全確保 ②インド洋 太平洋の貿易品の海上輸送ルート 特にマラッカ海峡などのチョークポイントの安全確保 ③豊 かになった沿岸部の海上からの脅威に対する防衛等の要因により 戦略的重要性がますます増大 しているとみている 南シナ海は 中国にとり インド洋と太平洋に出るための中枢となる 両洋を通るシーレーンが 集約された要域であり

More information

PowerPoint Presentation

PowerPoint Presentation MSC Flaminia 号事故について海上保安大学校山地哲也 日本海洋政策学会 第 4 回年次大会 平成 24 年 12 月 1 日 [http://www.odin.tc/2012/mscflaminiaen.asp] 1: 船舶の避難場所の概要 年月 事故 IMO( 国際海事機関 ) EU( 欧州連合 ) UK( 英国 ) 99.10 SOSREP 任命 99.12 ERIKA 号 00.6

More information

Microsoft PowerPoint - Itoh_IEEJ(150410)_rev

Microsoft PowerPoint - Itoh_IEEJ(150410)_rev 第 4 回エネルギー輸送ルートの多様化への対応に関する検討会 日本の LNG 原油輸入と 米国シェール革命の現況 2015 年 4 月 10 日於国土交通省 ( 中央合同庁舎 3 号館 ) 伊藤庄一 戦略研究ユニット国際情勢分析第 2 グループ マネージャー 研究主幹一般財団法人日本エネルギー経済研究所 日本の LNG 原油輸入状況 (2014 年 ) 1 LNG 原油 ( 出所 ) 日本貿易月表

More information

前提 新任務付与に関する基本的な考え方 平成 28 年 11 月 15 日 内 閣 官 房 内 閣 府 外 務 省 防 衛 省 1 南スーダンにおける治安の維持については 原則として南スー ダン警察と南スーダン政府軍が責任を有しており これを UNMISS( 国連南スーダン共和国ミッション ) の部

前提 新任務付与に関する基本的な考え方 平成 28 年 11 月 15 日 内 閣 官 房 内 閣 府 外 務 省 防 衛 省 1 南スーダンにおける治安の維持については 原則として南スー ダン警察と南スーダン政府軍が責任を有しており これを UNMISS( 国連南スーダン共和国ミッション ) の部 前提 新任務付与に関する基本的な考え方 平成 28 年 11 月 15 日 内 閣 官 房 内 閣 府 外 務 省 防 衛 省 1 南スーダンにおける治安の維持については 原則として南スー ダン警察と南スーダン政府軍が責任を有しており これを UNMISS( 国連南スーダン共和国ミッション ) の部隊が補完してい るが これは専ら UNMISS の歩兵部隊が担うものである 2 我が国が派遣しているのは

More information

1 自衛隊に対する関心 問 1 あなたは自衛隊について関心がありますか この中から 1 つだけお答えください 平成 30 年 1 月 関心がある ( 小計 ) 67.8% 非常に関心がある 14.9% ある程度関心がある 52.9% 関心がない ( 小計 ) 31.4% あまり関心がない 25.9%

1 自衛隊に対する関心 問 1 あなたは自衛隊について関心がありますか この中から 1 つだけお答えください 平成 30 年 1 月 関心がある ( 小計 ) 67.8% 非常に関心がある 14.9% ある程度関心がある 52.9% 関心がない ( 小計 ) 31.4% あまり関心がない 25.9% 自衛隊 防衛問題に関する世論調査 の概要 平成 30 年 3 月 内閣府政府広報室 調査対象 全国の日本国籍を有する 18 歳以上の者 3,000 人 有効回収数 1,671 人 ( 回収率 55.7%) 調査期間平成 30 年 1 月 11 日 ~ 1 月 21 日 ( 調査員による個別面接聴取 ) 調査目的 自衛隊 防衛問題に関する国民の意識を把握し 今後の施策の参考とする 調査項目 1 自衛隊に対する関心

More information

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ 実務指針 6.1 ガバナンス プロセス 平成 29( 2017) 年 5 月公表 [ 根拠とする内部監査基準 ] 第 6 章内部監査の対象範囲第 1 節ガバナンス プロセス 6.1.1 内部監査部門は ガバナンス プロセスの有効性を評価し その改善に貢献しなければならない (1) 内部監査部門は 以下の視点から ガバナンス プロセスの改善に向けた評価をしなければならない 1 組織体として対処すべき課題の把握と共有

More information

s_prst_2012_24.doc

s_prst_2012_24.doc S/PRST/2012/24 安全保障理事会議長声明 国際の平和および安全の維持 と名付けられた議題に関する安保理の審議に関連して 2012 年 11 月 19 日に開催された 安全保障理事会の第 6865 回会合において 安全保障理事会議長は 安保理を代 表して以下の声明を発した 安全保障理事会は 国際連合憲章に従った 国際の平和および安全の維持に関する安保理の主要な責 任を再確認し また海賊の撲滅における国家の主要な責任を認識する

More information

第 4 回日豪外務 防衛閣僚協議 日本とオーストラリア : 平和と安定のための協力 共通のビジョンと目標 1. 玄葉光一郎日本国外務大臣, 森本敏日本国防衛大臣, ボブ カー オーストラリア外務大臣, スティーブン スミス オーストラリア国防大臣は,9 月 14 日にシドニーにおいて会談し, 地域的

第 4 回日豪外務 防衛閣僚協議 日本とオーストラリア : 平和と安定のための協力 共通のビジョンと目標 1. 玄葉光一郎日本国外務大臣, 森本敏日本国防衛大臣, ボブ カー オーストラリア外務大臣, スティーブン スミス オーストラリア国防大臣は,9 月 14 日にシドニーにおいて会談し, 地域的 第 4 回日豪外務 防衛閣僚協議 日本とオーストラリア : 平和と安定のための協力 共通のビジョンと目標 1. 玄葉光一郎日本国外務大臣, 森本敏日本国防衛大臣, ボブ カー オーストラリア外務大臣, スティーブン スミス オーストラリア国防大臣は,9 月 14 日にシドニーにおいて会談し, 地域的及びグローバルな安全保障問題並びに日本とオーストラリアとの間の安全保障及び防衛協力を前進させるための方策について議論を行った

More information

また 前提となる衝突や紛争といった脅威が不明確であり 在日米軍 海兵隊の出動が見込まれる事例をはじめ 具体的な説明がなく 抽象的である このような内容では 県外移設 ができない理由が説明されているとは言えず 県民の納得のいくものではない 鳩山前総理は 昨年 5 月の記者会見において 何とか県外に見つ

また 前提となる衝突や紛争といった脅威が不明確であり 在日米軍 海兵隊の出動が見込まれる事例をはじめ 具体的な説明がなく 抽象的である このような内容では 県外移設 ができない理由が説明されているとは言えず 県民の納得のいくものではない 鳩山前総理は 昨年 5 月の記者会見において 何とか県外に見つ 防衛大臣北澤俊美殿 知返第 1 3 6 号平成 23 年 6 月 1 日 沖縄県知事仲井眞弘多 在日米軍 海兵隊の意義及び役割 ( 防衛省 ) について みだしのことについて 去る 5 月 7 日の来県の際に 貴職から提供のありました 在日米軍 海兵隊の意義及び役割 のパンフレットについて 下記のとおり 本県の質問等をとりまとめましたので 回答願います 記 1. 総括質問本パンフレットに説明があるように

More information

Security declaration

Security declaration 安全保障協力に関する日英共同宣言 日本国と英国の両首相は, 日英両国は, 戦略的利益並びに自由, 民主主義, 人権及び法の支配といった基本的価値を共有するグローバルな戦略的パートナーであることを認識し, アジア及び欧州におけるそれぞれ最も緊密な安全保障上のパートナーとして, ルールに基づく国際システムを維持すべく指導力を発揮していくことにコミットし, 日英間の歴史的つながりを想起し,2012 年に署名された日英間の防衛協力に関する覚書及び外務

More information

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化 ISO 9001:2015 におけるプロセスアプローチ この文書の目的 : この文書の目的は ISO 9001:2015 におけるプロセスアプローチについて説明することである プロセスアプローチは 業種 形態 規模又は複雑さに関わらず あらゆる組織及びマネジメントシステムに適用することができる プロセスアプローチとは何か? 全ての組織が目標達成のためにプロセスを用いている プロセスとは : インプットを使用して意図した結果を生み出す

More information

の自由 妨げられない通商活動 自制と 1982 年の国連海洋法条約 (UNCLOS) を含む国際法の普遍的な原則に従った紛争の平和的手段による解決を推進することの重要性を強調した 我々は ARF や ASEAN 海洋フォーラム拡大会合等を通じた情報共有や能力構築を含む 海洋安全保障及び海上の安全に関

の自由 妨げられない通商活動 自制と 1982 年の国連海洋法条約 (UNCLOS) を含む国際法の普遍的な原則に従った紛争の平和的手段による解決を推進することの重要性を強調した 我々は ARF や ASEAN 海洋フォーラム拡大会合等を通じた情報共有や能力構築を含む 海洋安全保障及び海上の安全に関 日 ASEAN 特別首脳会議共同声明 ( 仮訳 ) ~ 手を携え 地域と世界の課題に挑む ~ 1. 我々 日本及び東南アジア諸国連合 (ASEAN) 加盟国の首脳は 2013 年 12 月 14 日に東京にて 日 ASEAN 関係 40 周年を記念する日 ASEAN 特別首脳会議を行った この首脳会議には 安倍晋三日本国総理大臣及び ASE AN 加盟国の首脳が出席した 2. 我々は 日本と ASEAN

More information

目次 1. 調査概要 Page 2 2. 回答者属性 Page 3 3. 問 1. 地球儀を俯瞰する外交 Page 4 4. 問 2. 日本の国連安保理非常任理事国としての取組 Page 5 5. 問 3. 東アジアの安全保障政策 Page 6 6. 問 4. 女性参画推進における国際的取組 WAW

目次 1. 調査概要 Page 2 2. 回答者属性 Page 3 3. 問 1. 地球儀を俯瞰する外交 Page 4 4. 問 2. 日本の国連安保理非常任理事国としての取組 Page 5 5. 問 3. 東アジアの安全保障政策 Page 6 6. 問 4. 女性参画推進における国際的取組 WAW 平成 29 年度世論調査 RDD 方式による電話法 報告書 2018 年 3 月 株式会社アダムスコミュニケーション 目次 1. 調査概要 Page 2 2. 回答者属性 Page 3 3. 問 1. 地球儀を俯瞰する外交 Page 4 4. 問 2. 日本の国連安保理非常任理事国としての取組 Page 5 5. 問 3. 東アジアの安全保障政策 Page 6 6. 問 4. 女性参画推進における国際的取組

More information

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一 ディスカッション ペーパー のれんはなお償却しなくてよいか のれんの会計処理及び開示 に対する意見 平成 26 年 9 月 30 日 日本公認会計士協会 日本公認会計士協会は 企業会計基準委員会 (ASBJ) 欧州財務報告諮問グループ (EFRAG) 及びイタリアの会計基準設定主体 (OIC) のリサーチ グループによるリサーチ活動に敬意を表すとともに ディスカッション ペーパー のれんはなお償却しなくてよいか

More information

4

4 4.2 メンバー国での災害の特徴 表 5 メンバー国内の自然災害 ( メンハー国別 2002 年 ) ( 国名 / 災害の種類 / 災害特性 ) 被害額 国名災害の種類災害数死者数被災者数 US$(000 s) バングラデシュ 疫病 1 96 49,904 異常気温 1 700 50,000 洪水 1 10 1,500,000 暴風 4 122 101,400 バングラデシュ合計 7 928 1,701,304

More information

自衛隊の補給支援活動に関する特別世論調査 の要旨 平成 21 年 3 月内閣府政府広報室 調査時期 : 平成 21 年 1 月 22 日 ~2 月 1 日調査対象 : 全国 20 歳以上の者 3,000 人有効回収数 ( 率 ):1,684 人 (56.1%) 1 補給支援活動の認知度 平成 21

自衛隊の補給支援活動に関する特別世論調査 の要旨 平成 21 年 3 月内閣府政府広報室 調査時期 : 平成 21 年 1 月 22 日 ~2 月 1 日調査対象 : 全国 20 歳以上の者 3,000 人有効回収数 ( 率 ):1,684 人 (56.1%) 1 補給支援活動の認知度 平成 21 自衛隊の補給支援活動に関する特別世論調査 の概要 平成 21 年 3 月 5 日内閣府政府広報室 調査概要 調査対象 全国 20 歳以上の者 3,000 人 有効回収数 ( 率 ) 1,684 人 (56.1%) 調査時期 平成 21 年 1 月 22 日 ~2 月 1 日 調査方法 調査員による個別面接聴取 調査目的 自衛隊の補給支援活動に関する国民の意識を調査し, 今後の施策の参考とする 調査項目

More information

ISO9001:2015規格要求事項解説テキスト(サンプル) 株式会社ハピネックス提供資料

ISO9001:2015規格要求事項解説テキスト(サンプル) 株式会社ハピネックス提供資料 テキストの構造 1. 適用範囲 2. 引用規格 3. 用語及び定義 4. 規格要求事項 要求事項 網掛け部分です 罫線を引いている部分は Shall 事項 (~ すること ) 部分です 解 ISO9001:2015FDIS 規格要求事項 Shall 事項は S001~S126 まで計 126 個あります 説 網掛け部分の規格要求事項を講師がわかりやすく解説したものです

More information

平成18年度標準調査票

平成18年度標準調査票 平成 29 年度 チェック式自己評価用 作成日 ( 完成日 ) 施設 事業所名 作成関係者 組織マネジメント分析シートの記入手順 組織マネジメント分析シート 自己評価用 経営層合議用 平成 年 月 日 カテゴリー 1. リーダーシップと意思決定 2. 経営における社会的責任 3. 利用者意向や地域 事業環境の把握と活用 4. 計画の策定と着実な実行 5. 職員と組織の能力向上 6. サービス提供のプロセス

More information

Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ

Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガス 97.2% 鉄 鉱石 100.0% 羊 毛 100.0% 綿 花 100.0% 大 92% 豆 小 88% 麦 木材 72% 注 ) 食料需給表

More information

インド洋におけるテロ対策海上阻止活動及び海賊行為等対処活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱

インド洋におけるテロ対策海上阻止活動及び海賊行為等対処活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱 インド洋におけるテロ対策海上阻止活動及び海賊行為等対処活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱第一目的この法律は 我が国がテロ対策海上阻止活動を行う諸外国の軍隊その他これに類する組織 ( 以下 諸外国の軍隊等 という ) に対し実施した旧平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法

More information

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 利害関係者の特定 QMS 適用範囲 3. ISO 9001:2015への移行 リーダーシップ パフォーマンス 組織の知識 その他 ( 考慮する 必要に応

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 利害関係者の特定 QMS 適用範囲 3. ISO 9001:2015への移行 リーダーシップ パフォーマンス 組織の知識 その他 ( 考慮する 必要に応 ISO/FDIS 9001 ~ 認証審査における考え方 ~ 2015 年 7 月 14 日 23 日 JAB 認定センター 1 説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 利害関係者の特定 QMS 適用範囲 3. ISO 9001:2015への移行 リーダーシップ パフォーマンス 組織の知識 その他

More information

間を検討する 締約国が提出した 貢献 は 公的な登録簿に記録される 締約国は 貢献 ( による排出 吸収量 ) を計算する また 計算においては 環境の保全 透明性 正確性 完全性 比較可能性及び整合性を促進し 並びに二重計上の回避を確保する 締約国は 各国の異なる事情に照らしたそれぞれ共通に有して

間を検討する 締約国が提出した 貢献 は 公的な登録簿に記録される 締約国は 貢献 ( による排出 吸収量 ) を計算する また 計算においては 環境の保全 透明性 正確性 完全性 比較可能性及び整合性を促進し 並びに二重計上の回避を確保する 締約国は 各国の異なる事情に照らしたそれぞれ共通に有して パリ協定の概要 ( 仮訳 ) 協定の目的等 ( 第 2 条及び第 3 条 ) 主に以下の内容を規定 この協定は 世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2 より十分低く保つとともに 1.5 に抑える努力を追求すること 適応能力を向上させること 資金の流れを低排出で気候に強靱な発展に向けた道筋に適合させること等によって 気候変動の脅威への世界的な対応を強化することを目的とする この協定は 衡平及び各国の異なる事情に照らしたそれぞれ共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力の原則を反映するよう実施する

More information

Microsoft Word 特報・インドの海洋進出

Microsoft Word 特報・インドの海洋進出 インドの海洋進出 ~ インド太平洋地域 における戦略的含意 1 ~ 長尾賢 学習院大学非常勤講師 ( 安全保障論 ) 昨今 海洋安全保障の重要性は高まる傾向にある 長く大陸国家だと思われていた中国の海軍力増強と 海軍力を背景とする海洋進出の動きは活発化する傾向にある また 2014 年になって ロシアが併合したクリミア半島については 海軍戦略上重要な地域として知られている ロシアでは北極海の航路やエネルギー開発もあって海洋重視の傾向が出つつあり

More information

Microsoft Word IHO S-66 日本語版(表紙・目次).docx

Microsoft Word IHO S-66 日本語版(表紙・目次).docx - 23 - 第 2 章 : 旗国海事当局一覧 注 : このリストは完全ではない 国名ウエイブサイト アンティグア バーブーダ オーストラリア バハマ バルバドス ベルギー バミューダ カナダ ケイマン諸島 中国 キプロス デンマーク フィンランド フランス ドイツ ジブラルタルギリシャホンコン ( 中国 ) インドアイルランドマン島イタリア 日本韓国リベリアマレイシアマルタマーシャル諸島オランダニュージーランドノルウェーパナマフィリピンポーランドロシアシンガポール南アフリカ

More information

朝日 TV 2015/4/18-19 原発政策安倍内閣は 今後の電力供給のあり方について検討しているなかで 2030 年時点で 電力の 2 割程度を 原子力発電で賄う方針を示しています あなたは これを支持しますか 支持しませんか? 支持する 29% 支持しない 53% わからない 答えない 18%

朝日 TV 2015/4/18-19 原発政策安倍内閣は 今後の電力供給のあり方について検討しているなかで 2030 年時点で 電力の 2 割程度を 原子力発電で賄う方針を示しています あなたは これを支持しますか 支持しませんか? 支持する 29% 支持しない 53% わからない 答えない 18% 朝日 TV 2015/4/18-19 原発政策安倍内閣は 今後の電力供給のあり方について検討しているなかで 2030 年時点で 電力の 2 割程度を 原子力発電で賄う方針を示しています あなたは これを支持しますか 支持しませんか? 支持する 29% 支持しない 53% わからない 答えない 18% 国の原子力規制委員会は 東日本大震災のあとに決めた新たな基準に基づいて 止まって いる原子力発電所の審査を進めています

More information

規制の事前評価の実施に関するガイドライン(素案)

規制の事前評価の実施に関するガイドライン(素案) 総務省規制の事前評価書 ( 電気通信事業者間の公正な競争の促進のための制度整備 ) 所管部局課室名 : 総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課電話 :03-5253-5695 メールアト レス :jigyouhoutou_kaisei@ml.soumu.go.jp 評価年月日 : 平成 23 年 2 月 1 日 1 規制の目的 内容及び必要性 (1) 規制改正の目的及び概要電気通信事業者間の公正な競争を促進するため

More information

の権利 包摂的な貿易 持続可能な開発並びに伝統的な知識を促進することの重要性並びに公共の利益のために締約国が規制を行う権利を有することの重要性を再確認すること並びに他の国又は独立の関税地域のこの協定への加入を歓迎することを決意して 次のとおり協定した 第一条環太平洋パートナーシップ協定の組込み1締約

の権利 包摂的な貿易 持続可能な開発並びに伝統的な知識を促進することの重要性並びに公共の利益のために締約国が規制を行う権利を有することの重要性を再確認すること並びに他の国又は独立の関税地域のこの協定への加入を歓迎することを決意して 次のとおり協定した 第一条環太平洋パートナーシップ協定の組込み1締約 (仮訳文)環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定前文この協定の締約国は 二千十六年二月四日にオークランドで作成された環太平洋パートナーシップ協定(以下 TPP という )の前文に規定する事項を再確認すること この協定を通じてもたらされるTPPの利益並びにTPP及びこの協定の戦略上及び経済上の意義を迅速に実現すること 開放された市場を維持し 世界貿易を増大し 並びにあらゆる所得及び経済的背景の人々に新たな経済的機会を創出することに寄与すること

More information

この長期にわたる紛争に対する政治的解決を達成することとマグレブ アラブ連合の加盟国間の協 力の強化は 安定および安全 同様にサヘル地域の全ての人々のための仕事 成長および機会を導き出 すことに貢献するであろうことを認識し 国際連合西サハラ住民投票監視団 (MINURSO) を含む 全ての平和維持活動

この長期にわたる紛争に対する政治的解決を達成することとマグレブ アラブ連合の加盟国間の協 力の強化は 安定および安全 同様にサヘル地域の全ての人々のための仕事 成長および機会を導き出 すことに貢献するであろうことを認識し 国際連合西サハラ住民投票監視団 (MINURSO) を含む 全ての平和維持活動 安全保障理事会決議 2440(2018) 2018 年 10 月 31 日 安全保障理事会第 8387 回会合にて採択 安全保障理事会は 西サハラに関する全ての安保理の従前の諸決議を想起しまた再確認し 諸決議 1754(2007) 1783(2007) 1813(2008) 1871(2009) 1920(2010) 1979(2011) 2044(2012) 2099(2013) 2152(2014)

More information

撃のリスクが 全ての地域と加盟国に影響する可能性があることに懸念を表明し 民間航空に対するテロ攻撃について深刻な懸念を表明しそしてそのような攻撃を強く非難し 民間航空が 外国人テロ戦闘員による輸送手段として用いられる可能性があることにまた懸念を表明し そして 1944 年 12 月 7 日にシカゴで

撃のリスクが 全ての地域と加盟国に影響する可能性があることに懸念を表明し 民間航空に対するテロ攻撃について深刻な懸念を表明しそしてそのような攻撃を強く非難し 民間航空が 外国人テロ戦闘員による輸送手段として用いられる可能性があることにまた懸念を表明し そして 1944 年 12 月 7 日にシカゴで 安全保障理事会決議 2309(2016) 2016 年 9 月 22 日 安全保障理事会第 7775 回会合にて採択 安全保障理事会は あらゆる形態および表現におけるテロリズムは 国際の平和および安全に対する最も重大な脅威の一つを構成すること並びにテロリズムのどんな行為も その動機 何時 何処でまた誰により犯されたものかにかかわらず犯罪でありまた正当化できないことを再確認し そして地球規模レベルでこの悩みの種と闘う全体的な取組の有効性を高めることに対して更に貢献する決意を残し

More information

れにMINUSTAH 軍事部門司令部において行われる企画及び調整の分野並びに我が国のMINUSTAHに対する協力を円滑かつ効果的に行うための連絡調整の分野における国際平和協力業務を行わしめるとともに 自衛隊の部隊等により ハイチ地震の被災者の支援等の分野における国際平和協力業務を実施することとする

れにMINUSTAH 軍事部門司令部において行われる企画及び調整の分野並びに我が国のMINUSTAHに対する協力を円滑かつ効果的に行うための連絡調整の分野における国際平和協力業務を行わしめるとともに 自衛隊の部隊等により ハイチ地震の被災者の支援等の分野における国際平和協力業務を実施することとする ハイチ国際平和協力業務実施計画 1 基本方針ハイチに関しては 2004 年に入ってからの政治情勢の不安定化及び治安情勢の急速な悪化により 同年 2 月末大統領が国外へ逃亡し 憲法の規定に従い最高裁判所長官が暫定大統領に就任し その要請を受けて 国際連合安全保障理事会 ( 以下 安保理 という ) において決議第 1529 号が採択され 暫定多国籍軍 ( 以下 MIF という ) が設立された この後治安状況は沈静化したものの

More information

仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を

仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国をはじめとするアジア各国との積極的な政策対話や二国間金融協力を継続的に実施してきました こうした対話の枠組みや二国間金融協力をアジア域内の他の重点国との間にも広げるため

More information

briefing

briefing 米海軍戦略の動向 理論研究部社会 経済研究室主任研究官 兼特別研究官付 ( 政策シミュレーション ) 下平拓哉 はじめに 2017 年 11 月 6 日 安倍総理はトランプ米大統領と 5 度目の日米首脳会談を開催し 自由で開かれたインド太平洋戦略 を表明 法の支配 航行の自由等の基本的価値の普及 定着を進めるとともに 重層的な協力関係を構築していくことで一致した 北朝鮮問題に象徴されるような厳しい安全保障環境下

More information

内部統制ガイドラインについて 資料

内部統制ガイドラインについて 資料 内部統制ガイドラインについて 資料 内部統制ガイドライン ( 案 ) のフレーム (Ⅲ)( 再掲 ) Ⅲ 内部統制体制の整備 1 全庁的な体制の整備 2 内部統制の PDCA サイクル 内部統制推進部局 各部局 方針の策定 公表 主要リスクを基に団体における取組の方針を設定 全庁的な体制や作業のよりどころとなる決まりを決定し 文書化 議会や住民等に対する説明責任として公表 統制環境 全庁的な体制の整備

More information

<4D F736F F D208A6A90ED97CD82F08BAD89BB82B782E992868D918A438BF38C522E646F63>

<4D F736F F D208A6A90ED97CD82F08BAD89BB82B782E992868D918A438BF38C522E646F63> 核戦力を強化する中国海空軍 漢和防務評論 20150703 ( 抄訳 ) 阿部信行 ( 訳者コメント ) 中国は米国のトマホークに類似した核弾頭 通常弾頭兼用の長剣 10 型 (CJ-10) 巡航ミサイルを開発し 旧式爆撃機 H-6 に搭載しようとしています この巡航ミサイルは射程が長く 精度が高く H-6 の航続距離と複合するとアジアのほぼ全域が攻撃可能な範囲に含まれます 従来の中国の核戦力は弾道ミサイルが主で

More information

なぜ社会的責任が重要なのか

なぜ社会的責任が重要なのか ISO 26000 を理解する 目次 ISO 26000-その要旨... 1 なぜ社会的責任が重要なのか?... 1 ISO 26000 の実施による利点は何か?... 2 誰が ISO 26000 の便益を享受し それはどのようにして享受するのか?... 2 認証用ではない... 3 ISO 26000 には何が規定されているのか?... 3 どのように ISO 26000 を実施したらいいか?...

More information

Microsoft Word - 20_2

Microsoft Word - 20_2 三井住友信託銀行調査月報 1 年 1 月号 海外資金に揺さぶられる新興国の銀行 < 要旨 > リーマンショック以降 海外からの新興国向け与信残高が増加してきた 中でも経常赤字国では海外金融機関を通じた与信の増加スピードが速く 部門別に見るとこの間特に存在感を増してきたのが銀行部門向け与信である 銀行部門への海外与信残高の増加は その国の経済情勢が悪化して与信減少が始まった場合 国内における信用収縮を引き起こして実体経済への悪影響を増幅する可能性を高める

More information

設問 6: あなたは普段どの程度国際的なニュースや情報に接しているか ( 注 ) この設問は2015 年より実施 (1) 毎日 (2) 週に2~3 回程度 (3) 週 1 回程度 (4) 月 1 回程度 8 8 (5)2~3ヶ月に1 回程度 2 3 (6)6ヶ月に

設問 6: あなたは普段どの程度国際的なニュースや情報に接しているか ( 注 ) この設問は2015 年より実施 (1) 毎日 (2) 週に2~3 回程度 (3) 週 1 回程度 (4) 月 1 回程度 8 8 (5)2~3ヶ月に1 回程度 2 3 (6)6ヶ月に 平成 28 年度 米国における対日世論調査 結果 一般の部 設問 1: 日本に対してどのようなイメージをもっているか ( 注 ) この設問は2006 年より実施 項目 (7) 及び (8) は2010 年から追加 項目 (9) は2010 年に 不可解な国 から文言を修正 ( 項目 (4)(12) は2015 年から追 加 ) 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007

More information

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1 JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1 JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) ( 事業評価の目的 ) 1. JICA は 主に 1PDCA(Plan; 事前 Do; 実施 Check; 事後 Action; フィードバック ) サイクルを通じた事業のさらなる改善 及び 2 日本国民及び相手国を含むその他ステークホルダーへの説明責任

More information

スライド 1

スライド 1 海賊対処のための民間警備要員 (PCASP) の乗船に関する諸外国の対応について 株式会社大和総研調査提言企画室 主席研究員長谷部正道 2012 年 12 月 1 日 第 4 回日本海洋政策学会年次大会 最近 (2012 年 1-9 月 ) の海賊の動向 (IMB: 国際海事局統計による ) 1. 発生件数 : ソマリア 44 件 ( 過去 4 年間で最低 ) 世界全体 233 件 ( 過去 4 年間で最低

More information

新 日米防衛協力のための指針 ( ガイドライン )

新 日米防衛協力のための指針 ( ガイドライン ) 新 日米防衛協力のための指針 ( ガイドライン ) 平成 27 年 4 月 27 日 新たな 日米防衛協力のための指針 ( いわゆる ガイドライン 以下 指針 とする ) が日米安全保障協議委員会 (2+2) で了承されました 新 指針 では 我が国の平和安全法制との整合性も確保しつつ 切れ目のない 形で我が国の平和と安全を確保するための協力を充実 強化するとともに 地域 グローバルや宇宙 サイバーといった新たな戦略的領域における同盟の協力の拡がりを的確に反映したものとなっています

More information

スライド 1

スライド 1 動的防衛力の構築 ( 燃料費等 ) に係る事業について 警戒監視活動その他の活動を実施する上で必要な艦艇 航空機 車両等の燃料費 ( 単価増分等 ) 及び任務に当たる隊員を支える糧食費 ( 単価増分 ) ( 合計 337 億円 ) (1) 燃料費要望額 33,324 百万円 自衛隊の運用及び教育訓練の実施 練度の維持等に必要となる油類の購入費であり 自衛隊の保有する航空機 車両 艦船などの装備品の運行等に必要不可欠な燃料費を要求するもの

More information

2015 2015 ユニセフの地域ごとの事業支出割合 2014年 計41億3,100万ドル 57 サハラ以南のアフリカ 18 アジア 14 中東と北アフリカ 4 ラテンアメリカとカリブ海諸国 3 中部 東部ヨーロッパ 独立国家共同体 残り4 は 地域間にまたがる事業 ユニセフ協会 国内委員会 がある国と地域 ユニセフ事務所とユニセフ協会の両方がある国 この地図は国境の法的地位についての何らかの立場を示す

More information

平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題

平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題 平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題となっている 特に IoT 機器については その性質から サイバー攻撃の対象になりやすく 我が国において

More information

検査若しくは修理又は補給 ( 武器の提供を行う補給を除く ) エ自然災害によって被害を受けた施設又は設備であってその被災者の生活上必要なものの復旧又は整備のための措置オ宿泊又は作業のための施設の維持管理 3 国際平和協力業務の実施の方法 (1) 実施計画及び実施要領の範囲内において 事務総長等による

検査若しくは修理又は補給 ( 武器の提供を行う補給を除く ) エ自然災害によって被害を受けた施設又は設備であってその被災者の生活上必要なものの復旧又は整備のための措置オ宿泊又は作業のための施設の維持管理 3 国際平和協力業務の実施の方法 (1) 実施計画及び実施要領の範囲内において 事務総長等による 南スーダン国際平和協力業務実施要領 ( 司令部業務分野 )( 概要 ) 1 国際平和協力業務が行われるべき地域及び期間 (1) 地域南スーダン共和国及びウガンダ内において 国際連合事務総長又は国際連合南スーダン共和国ミッション ( 以下 UNMISS という ) 国際連合事務総長特別代表その他の国際連合事務総長の権限を行使する者 ( 以下 事務総長等 という ) が指図する地域 (2) 期間平成 23

More information

大綱コンセプトの変遷 初めて策定した 51 大綱 (1976 年策定 ) においては 自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう 必要最小限度の防衛力を保有するという考え方 すなわち 基盤的防衛力構想 を採用 その後 東西冷戦の終結といった国際情勢の変化 より安定した安全保

大綱コンセプトの変遷 初めて策定した 51 大綱 (1976 年策定 ) においては 自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう 必要最小限度の防衛力を保有するという考え方 すなわち 基盤的防衛力構想 を採用 その後 東西冷戦の終結といった国際情勢の変化 より安定した安全保 資料 1 防衛計画の大綱の見直しを行う上での基本的考え方 内閣官房 平成 30 年 10 月 19 日 大綱コンセプトの変遷 初めて策定した 51 大綱 (1976 年策定 ) においては 自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならないよう 必要最小限度の防衛力を保有するという考え方 すなわち 基盤的防衛力構想 を採用 その後 東西冷戦の終結といった国際情勢の変化 より安定した安全保障環境の構築や災害への対応といった国民の期待の高まり

More information

JEGS は英語版が正文である JEGS 仮訳中の用語が日本の関係法令上の用語と同一だとしても その定義は必ずしも一致するとは限らない 2018JEGS バージョン 1.1 日本環境管理基準 国防省 日本環境管理基準 2018 年 4 月 バージョン 1.1 ( 改訂 :2018 年 12 月 )

JEGS は英語版が正文である JEGS 仮訳中の用語が日本の関係法令上の用語と同一だとしても その定義は必ずしも一致するとは限らない 2018JEGS バージョン 1.1 日本環境管理基準 国防省 日本環境管理基準 2018 年 4 月 バージョン 1.1 ( 改訂 :2018 年 12 月 ) 国防省 2018 年 4 月 バージョン 1.1 ( 改訂 :2018 年 12 月 ) 在日米軍司令部発行 ( 仮訳 : 防衛省 ) 配布先に係る覚書 発 : 在日米軍司令部 /J00 件名 :2018 バージョン 1.1 1.2018 (JEGS) の改訂版であるバージョン 1.1 を添 付する 実質的な変更は全て表 C13.T1. に対しなされた 各軍に対し 受領次第 2018JEGS バージョン

More information

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション < 防衛装備移転三原則と企業実務 > 一企業から見た実務的な側面 2014 年 9 月 20 日浜松ホトニクス株式会社製品管理統括部鈴木一哉 2 浜松ホトニクスの概要 主要製品 : 光センサー 光源 ( レーザー等 ) 光学機器 部品 カメラ 計測装置 主要用途 : 医療用途 産業用途 分析用途 売上高 :1,000 億円 ( 連結 ) 輸出比率 :60% 従業員数 :3,100 名 3 防衛装備とその部分品

More information

5. 文書類に関する要求事項はどのように変わりましたか? 文書化された手順に関する特定の記述はなくなりました プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持し これらのプロセスが計画通りに実行されたと確信するために必要な文書化した情報を保持することは 組織の責任です 必要な文書類の程度は 事業の

5. 文書類に関する要求事項はどのように変わりましたか? 文書化された手順に関する特定の記述はなくなりました プロセスの運用を支援するための文書化した情報を維持し これらのプロセスが計画通りに実行されたと確信するために必要な文書化した情報を保持することは 組織の責任です 必要な文書類の程度は 事業の ISO 9001:2015 改訂 よくある質問集 (FAQ) ISO 9001:2015 改訂に関するこの よくある質問集 (FAQ) は 世界中の規格の専門家及び利用者からインプットを得て作成しました この質問集は 正確性を保ち 適宜 新たな質問を含めるために 定期的に見直され 更新されます この質問集は ISO 9001 規格を初めて使う利用者のために 良き情報源を提供することを意図しています

More information

あなたやあなたの子どもが 国外の戦争で殺し・殺される!? 安倍政権の戦争法案

あなたやあなたの子どもが 国外の戦争で殺し・殺される!?  安倍政権の戦争法案 どちらが本当? 国民を守るための安保法制? 戦争するための戦争法? ピース ニュース 5 月 11 日安保法制の与党合意 5 月 14 日には閣議決定 国会審議へ 昨年 7 月 1 日に閣議決定 集団的自衛権 行使容認 日本が攻撃されていないにもかかわらず 海外で自衛隊が戦争できるようにすること 閣議決定に書かれていたこと 切れ目のない安全保障? 武力攻撃に至らない侵害への対処?? 米軍部隊に対して攻撃が発生し

More information

Q4. ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか A4. 北朝鮮から弾道ミサイルが発射され 日本に飛来する場合 極めて短時間で日本に飛来することが予想されます 例えば 平成 28 年 2 月 7 日に北朝鮮西岸の東倉里 ( トンチャンリ ) 付近から 発射された弾道ミサイルは 約 10

Q4. ミサイルは発射から何分位で日本に飛んでくるのでしょうか A4. 北朝鮮から弾道ミサイルが発射され 日本に飛来する場合 極めて短時間で日本に飛来することが予想されます 例えば 平成 28 年 2 月 7 日に北朝鮮西岸の東倉里 ( トンチャンリ ) 付近から 発射された弾道ミサイルは 約 10 北朝鮮から発射された弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合における全国瞬時警報システム (J アラート ) による情報伝達及び行動に関する Q&A Q1. 弾道ミサイルが発射されても J アラートが鳴らないことがあるのはなぜでしょうか A1. 全国瞬時警報システム (J アラート ) は 弾道ミサイルが日本の領土 領海に落下する可能性又は領土 領海を通過する可能性がある場合に使用されます 逆に

More information

Rodrigo Domingues UNDP Borja Santos Porras/UNDP Ecuador UNDP Kazakhstan 2

Rodrigo Domingues UNDP Borja Santos Porras/UNDP Ecuador UNDP Kazakhstan 2 UNDP Empowered lives. Resilient nations. UNDP UNDP 1 Rodrigo Domingues UNDP 2013 5 2008 Borja Santos Porras/UNDP Ecuador UNDP Kazakhstan 2 1 UNDP 2005 UNDP UNDP 50 2 168 177 UNDP 3 UNDP 2000 2012 90 1

More information

テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱

テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱 テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法案要綱第一目的この法律は 我が国がテロ対策海上阻止活動を行う諸外国の軍隊その他これに類する組織 ( 以下 諸外国の軍隊等 という ) に対し実施した旧平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法

More information

経済変動論 0

経済変動論  0 経済原論 Ⅱ(7/31) マンキュー第 10 章 1 第 10 章開放経済下の総需要 1 主要な目的 : 財政 金融政策が開放経済下の総所得にどのような影響を及ぼすかを分析すること 2 マンデル = フレミング モデル (Mundll-Flming Modl): - モデルの開放経済版価格が一定という想定の下で 小国開放経済の総所得の変動を引き起こす要因を分析 (3 最後に 大国の開放経済モデル について若干言及する

More information

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場 コード改訂案および投資家と企業の対話ガイドライン ( 案 ) に対する意見 2018 年 3 月 13 日 メンバー内田章 コードの改訂について 政府も認めているように コーポレートガバナンス コードの策定を含むこれまでの取組みによって 日本企業のコーポレート ガバナンス改革は着実に進展している M&Aや事業売却などを通じて事業ポートフォリオの見直しを加速する企業も増えており コードの主眼である 企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上

More information

している 特に 08 年以降深刻化したソマリア海賊は 各国海軍による海賊対処活動 民間武装警備員の乗船 海賊防止マニュアルである ベスト マネジメント プラクティス (BMP) に基づく各船舶の自衛措置によって大幅に減少したとされる(IMB 海賊レポート ) が ソマリア海賊の指揮命令系統などは依然

している 特に 08 年以降深刻化したソマリア海賊は 各国海軍による海賊対処活動 民間武装警備員の乗船 海賊防止マニュアルである ベスト マネジメント プラクティス (BMP) に基づく各船舶の自衛措置によって大幅に減少したとされる(IMB 海賊レポート ) が ソマリア海賊の指揮命令系統などは依然 ソマリア海賊対策 各国の対応と我が国にとっての重要性 掲載誌 掲載年月 : 日本海事新聞 1308 日本海事センター企画研究部 研究員森本清二郎 ポイント 海賊対処は我が国にとって重要 ソマリア海賊対処活動の継続が必要 民間武装警備員乗船制度の早期導入が課題 1. はじめにソマリア沖 アデン湾での海賊事案 ( 以下 ソマリア海賊 ) の発生件数は 2012 年には 75 件 13 年上半期は 8 件と過去数年の状況と比べて大幅に減少している

More information

ISO9001:2015内部監査チェックリスト

ISO9001:2015内部監査チェックリスト ISO9001:2015 規格要求事項 チェックリスト ( 質問リスト ) ISO9001:2015 規格要求事項に準拠したチェックリスト ( 質問リスト ) です このチェックリストを参考に 貴社品質マニュアルをベースに貴社なりのチェックリストを作成してください ISO9001:2015 規格要求事項を詳細に分解し 212 個の質問リストをご用意いたしました ISO9001:2015 は Shall

More information

強敵中国に対処する列島防衛戦略の復活 ( 米国有名シンクタンク CSBA の新戦略 海洋プレッシャー戦略 ) 元東部方面総監渡部悦和 2019/06/07 ワシントン DC に所在の有名なシンクタンク 戦略予算評価センター (CSBA) が 米国のアジア太平洋地域における戦略として 海洋プレッシャー

強敵中国に対処する列島防衛戦略の復活 ( 米国有名シンクタンク CSBA の新戦略 海洋プレッシャー戦略 ) 元東部方面総監渡部悦和 2019/06/07 ワシントン DC に所在の有名なシンクタンク 戦略予算評価センター (CSBA) が 米国のアジア太平洋地域における戦略として 海洋プレッシャー 強敵中国に対処する列島防衛戦略の復活 ( 米国有名シンクタンク CSBA の新戦略 海洋プレッシャー戦略 ) 元東部方面総監渡部悦和 2019/06/07 ワシントン DC に所在の有名なシンクタンク 戦略予算評価センター (CSBA) が 米国のアジア太平洋地域における戦略として 海洋プレッシャー (Maritime Pressure) ( 注 : 海洋圧力ではなく 海洋プレッシャーを採用する )

More information

チェック式自己評価組織マネジメント分析シート カテゴリー 1 リーダーシップと意思決定 サブカテゴリー 1 事業所が目指していることの実現に向けて一丸となっている 事業所が目指していること ( 理念 ビジョン 基本方針など ) を明示している 事業所が目指していること ( 理念 基本方針

チェック式自己評価組織マネジメント分析シート カテゴリー 1 リーダーシップと意思決定 サブカテゴリー 1 事業所が目指していることの実現に向けて一丸となっている 事業所が目指していること ( 理念 ビジョン 基本方針など ) を明示している 事業所が目指していること ( 理念 基本方針 平成 23 年度 チェック式自己評価用 作成日 ( 完成日 ) 施設 事業所名 作成関係者 組織マネジメント分析シートの記入手順 組織マネジメント分析シート 自己評価用 経営層合議用 平成 年 月 日 カテゴリー 1. リーダーシップと意思決定 2. 経営における社会的責任 3. 利用者意向や地域 事業環境の把握と活用 4. 計画の策定と着実な実行 5. 職員と組織の能力向上 6. サービス提供のプロセス

More information

2007年12月10日 初稿

2007年12月10日 初稿 LNG 価格のこれまでの経緯と将来の展望 ( パート Ⅰ) 世界の3 大 LNG 市場世界の LNG 市場は アジア 太平洋 欧州 北米と大きく3つに区分することが出来る 世界の地域別 LNG 輸入割合は輸入量の多い地域を順に挙げると 1アジア 太平洋 64.0% 2 ヨーロッパ 27.2% 3 北米 8.3% 4 中南米 0.5% となる 図 1 は世界の地域別 LNG 輸入割合を示したものである

More information

研究開発評価会議資料

研究開発評価会議資料 先進技術実証機 開始年度 : 平成 21 年度終了年度 : 平成 28 年度 ( 予定 ) 研究総経費 : 約 393 億円 ( 予定 ) 23 年度要求額 ( 歳出化 ): 約 85 億円 研究の目的 : 将来の戦闘機に適用される機体 エンジン等の各種先進技術におけるシステムの統合化を図った高運動ステルス機を試作し 飛行実証によって システムの成立性を確認し 運用上の有効性を検証する 計画線表 21

More information

研修シリーズ

研修シリーズ info@m-advice.co.jp tel : 03-3356-6551 fax : 03-3356-6563 問題解決と課題形成概要 目的 管理者の役割である問題解決と課題形成の重要性を認識する 問題解決のアプローチの仕方を理解する 部門内の課題形成のステップを理解する 課題形成演習を通じて 自部門の課題形成を実施する 対象 課長 新任課長 同等職位の方 所要時間 2 時間 30 分 教材 シート1

More information

対応すべき行動_0921

対応すべき行動_0921 弾道ミサイル落下時の行動に関する Q&A Q1. 弾道ミサイルが発射されても J アラートが鳴らないことがあるのはなぜでしょうか A1. 全国瞬時警報システム (J アラート ) は 弾道ミサイルが日本の領土 領海に落下する可能性又は領土 領海を通過する可能性がある場合に使用します 逆に 日本の領土 領海に落下する可能性又は領土 領海を通過する可能性がないと判断した場合は J アラートは使用しません

More information

27 2013 6 7 240 5 24.9 GM 3 20 2013 8 40 2014 5 20 2014 OEM 1 2 3 2012 10 545 5 30 70 30 8 40 16 GM GM 24 GM 16 GM 24 20 20 20 10 17

27 2013 6 7 240 5 24.9 GM 3 20 2013 8 40 2014 5 20 2014 OEM 1 2 3 2012 10 545 5 30 70 30 8 40 16 GM GM 24 GM 16 GM 24 20 20 20 10 17 1. 3 2. 5 1 1,000 GDP 13 OECD 13 1965 1994 NAFTA 2011 2005 EPA 2 6 2012 12 PAN PRI 3. 3.39% 288 26 27 2013 6 7 240 5 24.9 GM 3 20 2013 8 40 2014 5 20 2014 OEM 1 2 3 2012 10 545 5 30 70 30 8 40 16 GM GM

More information

社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加 私たちの社会的責任 宣言 ~ 協働の力 で新しい公共を実現する~ 平成 22 年 5 月 12 日社会的責任に関する円卓会議 社会的責任に関する円卓会議 ( 以下 本円卓会議 という ) は 経済 社会 文化 生活など 様々な分野における多様な担い手が対等 平等に意見交換し 政府だけでは解決できない諸課題を 協働の力 で解決するための道筋を見出していく会議体として 平成 21 年 3 月に設立されました

More information

1

1 7 2016 vol.112 1 果たす と断言していたことを思い出します データ IOT AI 等々の技術革新をベースとした そ の 理 念 は この 頃 から始まったグロー バリ 新たな需要創造へと イノベーションの競争が盛 ゼーション時代の共生志向を先導する 人類の在 んに繰り広げられています り方への先進的取り組みであり その後統一通貨 ユーロ導入にまでたどり着いた高邁なる努力と苦 長期投資家の姿勢

More information

<4D F736F F D20328D5A5F926E88E68CA48B8689EF5F31328FCD5F8FAC924A90E690B62E646F6378>

<4D F736F F D20328D5A5F926E88E68CA48B8689EF5F31328FCD5F8FAC924A90E690B62E646F6378> 第 12 章日本の海洋安全保障政策カントリー プロファイル 小谷哲男 1. 海洋法の解釈 (1) 領海における無害通航権についての考え方日本は 1996 年に国連海洋法条約を批准した後 同条約による海域の区分に応じて 領海及び接続水域に関する法律 ( 領海法 ) の改正 ( 新領海法 ) と 排他的経済水域及び大陸棚に関する法律 (EEZ 法 ) の制定を行った これらの法律は基本的に各海域の幅を定めるものであり

More information

Microsoft Word - 【外務省】インフラ長寿命化(行動計画)

Microsoft Word - 【外務省】インフラ長寿命化(行動計画) 外務省 インフラ長寿命化計画 ( 行動計画 ) 平成 27 年度 ~ 平成 32 年度 平成 28 年 3 月 外務省 目次 1 はじめに 1 2 外務省の役割 1 3 計画の範囲 (1) 対象施設 2 (2) 計画期間 2 4 対象施設の現状と課題 (1) 点検 診断 / 修繕 更新等 2 (2) 基準類の整備 3 (3) 情報基盤の整備と活用 3 (4) 個別施設計画の策定 推進 3 (5) 新技術の導入

More information

安全保障会議 ( 現行 ) の概要 ( 構成 ) 委員長 : 内閣官房長官 委 安全保障会議 ( 構成 ) 議長 : 内閣総理大臣 事態対処専門委員会 内閣総理大臣の諮問に基づき 以下の事項を審議 国防の基本方針 防衛計画の大綱 対処基本方針 武力攻撃事態 / 周辺事態等への対処 / 自衛隊法第 3

安全保障会議 ( 現行 ) の概要 ( 構成 ) 委員長 : 内閣官房長官 委 安全保障会議 ( 構成 ) 議長 : 内閣総理大臣 事態対処専門委員会 内閣総理大臣の諮問に基づき 以下の事項を審議 国防の基本方針 防衛計画の大綱 対処基本方針 武力攻撃事態 / 周辺事態等への対処 / 自衛隊法第 3 資料 3 説明資料 国家安全保障会議の創設に関する有識者会議 ( 第 1 回会合 ) 平成 25 年 2 月 15 日 ( 金 ) 安全保障会議 ( 現行 ) の概要 ( 構成 ) 委員長 : 内閣官房長官 委 安全保障会議 ( 構成 ) 議長 : 内閣総理大臣 事態対処専門委員会 内閣総理大臣の諮問に基づき 以下の事項を審議 国防の基本方針 防衛計画の大綱 対処基本方針 武力攻撃事態 / 周辺事態等への対処

More information

のような事象でさえ わずか数分前の警告によって生命を救えることもある リスクの発生を定期的に再検討することが重要である たとえば 気候変動やその他の変化の結果として極端な気象現象 ( 暴風雨 熱波 野火など ) の発生頻度や激しさが高まる可能性があり 新たな地球物理学的データやその他のデータによって

のような事象でさえ わずか数分前の警告によって生命を救えることもある リスクの発生を定期的に再検討することが重要である たとえば 気候変動やその他の変化の結果として極端な気象現象 ( 暴風雨 熱波 野火など ) の発生頻度や激しさが高まる可能性があり 新たな地球物理学的データやその他のデータによって 自然災害および技術的災害に対するレジリエンス ( 回復力 ) の構築 概要と背景災害は社会に甚大な社会的 経済的損害をもたらす 災害発生の機会を減らし レジリエンス強化のための新たな戦略を採用することにより そうした損害を減少させることができる 最近の災害での経験から得られた教訓も有益であるが レジリエンス構築の指針としては 系統的かつ科学的なリスク監視と危険の順位づけに基づいたものの方がより効果的であろう

More information

(日)Brig Gen Cornish Speech (J, final).docx

(日)Brig Gen Cornish Speech (J, final).docx JAAGA 記念講演 平成 27 年 5 月 12 日米空軍第 18 航空団司令コーニッシュ准将 相互安全保障と繁栄への貢献 -- Opening Comments -- 皆様こんばんは 本日は 皆様の歴史ある総会において講話の機会を頂き 感謝申し上げます 日米エアフォース友好協会で専門的知識を持っていらっしゃる皆様の前でお話しをすることを大変光栄に思っており また米国空軍と航空自衛隊の友好親善および相互理解を推進するこの機会に参加できることをうれしく思っております

More information

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション 弾道ミサイルとは 弾道ミサイル 放物線を描いて飛翔するロケットエンジン推進のミサイル 巡航ミサイル ジェットエンジンで推進する航空機型誘導式ミサイル 1,200 1,000 ミッドコース段階ロケットエンジンの燃焼が終了し慣性運動によって宇宙空間 ( 大気圏外 ) を飛行している段階 長距離にある目標を攻撃することが可能 速度が速い 低空飛行が可能 飛行中に経路を変更できるために命中精度が極めて高い

More information

<4D F736F F F696E74202D A F95BD90AC E31308C8E8AFA5F8C888E5A90E096BE89EF81408DC58F4994C530362E70707

<4D F736F F F696E74202D A F95BD90AC E31308C8E8AFA5F8C888E5A90E096BE89EF81408DC58F4994C530362E70707 目次 1. 2015 年 10 月期連結業績 2. 2016 年 10 月期業績予想 3. 今後の展開 Copyright 2015 Kanamoto Co., Ltd. All Rights Reserved. 22 BULL55 Build UpaLegendaryL d Leading company plan for the 55th 現状把握と課題認識新長期ビジョン数値目標 Copyright

More information

目次 4. 組織 4.1 組織及びその状況の理解 利害関係者のニーズ 適用範囲 環境活動の仕組み 3 5. リーダーシップ 5.1 経営者の責務 環境方針 役割 責任及び権限 5 6. 計画 6.1 リスクへの取り組み 環境目標

目次 4. 組織 4.1 組織及びその状況の理解 利害関係者のニーズ 適用範囲 環境活動の仕組み 3 5. リーダーシップ 5.1 経営者の責務 環境方針 役割 責任及び権限 5 6. 計画 6.1 リスクへの取り組み 環境目標 版名 管理番号 4 版 原本 環境マニュアル 環境企業株式会社 目次 4. 組織 4.1 組織及びその状況の理解 2 4.2 利害関係者のニーズ 2 4.3 適用範囲 2 4.4 環境活動の仕組み 3 5. リーダーシップ 5.1 経営者の責務 4 5.2 環境方針 4 5.3 役割 責任及び権限 5 6. 計画 6.1 リスクへの取り組み 7 6.2 環境目標及び計画 8 6.3 変更の計画 9

More information

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数 5 : 外国株式 外国債券と同様に円ベースの期待リターン = 円のインフレ率 + 円の実質短期金利 + 現地通貨ベースのリスクプレミアム リスクプレミアムは 過去実績で 7% 程度 但し 3% 程度は PER( 株価 1 株あたり利益 ) の上昇 すなわち株価が割高になったことによるもの 将来予想においては PER 上昇が起こらないものと想定し 7%-3%= 4% と設定 直近の外国株式の現地通貨建てのベンチマークリターンと

More information

B5

B5 朝鮮戦争における米軍の細菌戦被害の実態 現地調査報告 朝鮮戦争における米軍の細菌戦被害の実態 現地調査報告 中嶋 啓明 キーワード 朝鮮戦争 米軍の細菌戦 被害 実態調査 国際冷戦史プロジェクト ティボ ー ミレイ れた1952年当時すでに 英国やスウェーデン 旧ソ連 ブラジルなどの医学者らからなる国際 科学委員会 ISC の現地調査などによって 自衛隊が戦後初めて 海外の戦地であるイラ 旧日本軍の細菌戦部隊731部隊の

More information

2 マイケル マクデビット加藤洋一 望を持たせる兆候となる しかし その一方で 北朝鮮が長い間にわたり核開発計画を放棄してこなかった長い歴史を振り返れば 今後 北朝鮮が再び深刻な挑発に走ることを なお考えないわけにはいかない とりわけ もし北朝鮮の核とミサイルの能力が 抑制を受けないまま野放しとなれ

2 マイケル マクデビット加藤洋一 望を持たせる兆候となる しかし その一方で 北朝鮮が長い間にわたり核開発計画を放棄してこなかった長い歴史を振り返れば 今後 北朝鮮が再び深刻な挑発に走ることを なお考えないわけにはいかない とりわけ もし北朝鮮の核とミサイルの能力が 抑制を受けないまま野放しとなれ 図上演習 パシフィック トラインデント 北朝鮮の挑発に対する日米韓 3 カ国の対応の検証 2018 年 2 月 14 日 -16 日 東京 最終報告 マイケル マクデビット加藤洋一 要約 2018 年 2 月 14 日から 16 日にかけて 笹川平和財団米国 (SPF USA) は 笹川平和財団 (SPF) との協力のもと 北朝鮮の意図的な挑発行為や予想されない事態に対する 日米韓 3 カ国 および日米

More information

北朝鮮による核実験 弾道ミサイル発射事案 2016 年来 3 回の核実験の他 40 発もの弾道ミサイルの発射を強行〇 2017 年後半は特に 新型を含む長射程の弾道ミサイルを繰り返し発射 近年の北朝鮮による弾道ミサイル発射数 2 0

北朝鮮による核実験 弾道ミサイル発射事案 2016 年来 3 回の核実験の他 40 発もの弾道ミサイルの発射を強行〇 2017 年後半は特に 新型を含む長射程の弾道ミサイルを繰り返し発射 近年の北朝鮮による弾道ミサイル発射数 2 0 北朝鮮による核 弾道ミサイル開発について 防衛省 北朝鮮による核実験 弾道ミサイル発射事案 2016 年来 3 回の核実験の他 40 発もの弾道ミサイルの発射を強行〇 2017 年後半は特に 新型を含む長射程の弾道ミサイルを繰り返し発射 24 22 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 近年の北朝鮮による弾道ミサイル発射数 2 0 11 2 23 17 2012 2013 2014

More information

Microsoft Word 米中東戦略

Microsoft Word 米中東戦略 2009 年 7 月 25 日山口昇 オバマ政権の軍事戦略 : 中東を中心に [ 要旨 : オバマ政権が発足してから半年を経て その安全保障政策が逐次明らかになりつつある いわゆる宣言政策としては 今後 4 年毎の国防見直し (Quadrennial Defense Review: QDR) 核政策見直し(Nuclear Posture Review: NPR) 等の公式文書で明らかにされる予定である

More information

イノベーション活動に対する山梨県内企業の意識調査

イノベーション活動に対する山梨県内企業の意識調査 甲府支店山梨県甲府市飯田 1-1-24 OSD-Ⅲ ヒ ル 4F TEL: 055-233-0241 URL:http://www.tdb.co.jp/ イノベーション活動 企業の 4 割超が実施 ~ イノベーション活動の阻害要因 能力のある従業員の不足が半数に迫る ~ はじめに 日本再興戦略改訂 2015( 成長戦略 ) においてイノベーションによる 稼ぐ力 の強化が掲げられているほか 女性の活躍推進政策のなかで

More information

Microsoft PowerPoint - 資料3 秋元発表資料.ppt

Microsoft PowerPoint - 資料3 秋元発表資料.ppt 北極海の安全保障環境 - わが国の防衛上の観点からの考察 - 資料 3 平成 23 年度第 2 回日本北極海会議 2011 年 9 月 15 日 海洋政策研究財団秋元一峰 結論 北極海を舞台とした戦争は高くつく SLOCには多様な選択肢軍事作戦に多様性 迅速性 柔軟性 1 北極海の融氷がもたらす新たな地政学 (1) 海上交通の変化 1 ショートカット航路の出現 2 シーレーンが一つのサークルを形成

More information

ANNUAL REPORT

ANNUAL REPORT ANNUAL REPORT 218 218 3 31 1 1 2 3 5 9 11 13 13 15 16 17 18 19 21 23 25 26 27 28 28 29 31 32 33 34 35 37 39 4 41 42 43 44 2 214 215 216 217 218 218 483,112 54,153 49,314 451,627 438,26 $ 4,132,32 27,196

More information

第 9 部 宇宙空間における制度的枠組 第 1 章 総 論 国際社会は 宇宙空間における軍事利用を禁止又は制限する幾つかの国際的な枠組みを既に作成してきている 例えば 1967 年に発効した宇宙条約は 宇宙を宇宙空間と月その他の天体とに分け 宇宙空間については 核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ

第 9 部 宇宙空間における制度的枠組 第 1 章 総 論 国際社会は 宇宙空間における軍事利用を禁止又は制限する幾つかの国際的な枠組みを既に作成してきている 例えば 1967 年に発効した宇宙条約は 宇宙を宇宙空間と月その他の天体とに分け 宇宙空間については 核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ 第 9 部 宇宙空間における 制度的枠組 第 9 部 宇宙空間における制度的枠組 第 1 章 総 論 国際社会は 宇宙空間における軍事利用を禁止又は制限する幾つかの国際的な枠組みを既に作成してきている 例えば 1967 年に発効した宇宙条約は 宇宙を宇宙空間と月その他の天体とに分け 宇宙空間については 核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せ ること 及び 他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に配置

More information

過去に官邸対策室を設置した事例 2 平成 18 年 7 月 5 日 北朝鮮による飛翔体発射事案に関する官邸対策室設置北朝鮮による弾道ミサイル発射事案に関する官邸対策室に名称変更 10 月 9 日 北朝鮮による核実験実施情報に関する官邸対策室設置 平成 19 年 3 月 25 日 石川県能登を中心とす

過去に官邸対策室を設置した事例 2 平成 18 年 7 月 5 日 北朝鮮による飛翔体発射事案に関する官邸対策室設置北朝鮮による弾道ミサイル発射事案に関する官邸対策室に名称変更 10 月 9 日 北朝鮮による核実験実施情報に関する官邸対策室設置 平成 19 年 3 月 25 日 石川県能登を中心とす 過去に官邸対策室を設置した事例 1 平成 10 年 5 月 15 日 インドネシア危機官邸対策室設置 9 月 3 日 岩手県内陸北部地震官邸対策室設置 12 月 17 日 イラク空爆官邸対策室設置 平成 11 年 3 月 23 日 日本海における不審船事案官邸対策室設置 7 月 23 日 全日空機ハイジャック事件官邸対策室設置 9 月 30 日 東海村ウラン加工施設事故官邸対策室設置 12 月 31

More information

国際社会の課題海洋をめぐる動向 事案も発生している これらは 不測の事態を招きかねない危険な行為と言える 2 また 中国はいわゆる 九段線 3 の根拠としての 歴史的権利 を主張しているが 16( 同 28) 年 7 月に下された比中仲裁判断ではそのような 歴史的権利 は否定されている ASEAN

国際社会の課題海洋をめぐる動向 事案も発生している これらは 不測の事態を招きかねない危険な行為と言える 2 また 中国はいわゆる 九段線 3 の根拠としての 歴史的権利 を主張しているが 16( 同 28) 年 7 月に下された比中仲裁判断ではそのような 歴史的権利 は否定されている ASEAN 3章国際社会の課題209 平成 29 年版防衛白書第第 Ⅰ 部 海洋をめぐる動向 四方を海に囲まれた海洋国家であるわが国にとって 海洋安全保障 が持つ重要性は極めて大きい 例えば わが国はエネルギー資源の輸入を海上輸送に依存しており 海上交通の安全確保が国家の存立にとり死活的な問題となっている こ のような 海洋 というグローバル コモンズの安定的な利用の確保は 国際社会の安全保障上の重要な課題となっており

More information

 亀岡●4.indd

 亀岡●4.indd 1 等空佐亀岡弘 1. はじめに航空自衛隊 ( 以下 空自 という ) 創設 60 周年と時を同じくして 空自の知的基盤の中枢としての役割を担う航空研究センター ( 以下 センター という ) が新設された これは空自の精強化を図るための施策の 1 つとして 長年 諸先輩方が検討を続けて来られた成果であり 空自の悲願であった事業といえよう 今後 本センターが 国内唯一のエア パワーに関する研究機関としての明確な目的意識の下

More information

ーダーの照射を受け 海自 P-1 哨戒機は 直ちに安全確保のための行動をとりました 火器管制レーダーの照射は 火器の使用に先立って実施する行為であり 他国の航空機に向けて 合理的な理由もなく照射することは 不測の事態を招きかねない極めて危険な行為です 我が国や韓国を含む 21 か国の海軍等が 201

ーダーの照射を受け 海自 P-1 哨戒機は 直ちに安全確保のための行動をとりました 火器管制レーダーの照射は 火器の使用に先立って実施する行為であり 他国の航空機に向けて 合理的な理由もなく照射することは 不測の事態を招きかねない極めて危険な行為です 我が国や韓国を含む 21 か国の海軍等が 201 韓国海軍駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射に関する防衛省の最終見解についてはじめに防衛省は これまで日韓の防衛当局間で緊密な意思疎通を図ってきており この度の火器管制レーダー照射をめぐる問題に関しても 日韓間で累次に及ぶ協議を行ってきました しかしながら 照射の有無を始めとする主要な論点につき 今日まで認識の隔たりを解消するに至っていないことは誠に残念です 防衛省としては 本件事案を重く受け止め

More information

42

42 海外展開に関する特別調査 海外展開に関する特別調査 結果概要... 43 1. 県内企業の海外展開の内容... 44 2. 現在行っている海外展開の相手国 地域... 46 3. 海外展開にあたっての課題... 47 4. 海外展開後に新たに発生した課題... 49 5. 今後の新たな海外展開の関心の高い相手国 地域... 50 6. 今後の新たな海外展開の内容... 51 7. 調査要領... 52

More information

ことを呼びかけます Q4. ミサイルが落下する可能性がある との情報伝達があった場合は どうすれば良いのでしょうか A4. 屋外にいる場合 近くの建物 ( できれば頑丈な建物 ) の中又は地下に避難してください 近くに適当な建物等がない場合は 物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守ってください 屋内にい

ことを呼びかけます Q4. ミサイルが落下する可能性がある との情報伝達があった場合は どうすれば良いのでしょうか A4. 屋外にいる場合 近くの建物 ( できれば頑丈な建物 ) の中又は地下に避難してください 近くに適当な建物等がない場合は 物陰に身を隠すか地面に伏せ頭部を守ってください 屋内にい 弾道ミサイルが発射された場合の情報伝達と取るべき行動に関する Q&A 情報伝達の概要について Q1. どのような場合に J アラートが使用されるのでしょうか A1. 全国瞬時警報システム (J アラート ) は 弾道ミサイルが日本の領土 領海に落下する可能性又は領土 領海を通過する可能性がある場合に使用します 逆に 日本の領土 領海に落下する可能性又は領土 領海を通過する可能性がないと判断した場合は

More information

SGEC 附属文書 理事会 統合 CoC 管理事業体の要件 目次序文 1 適用範囲 2 定義 3 統合 CoC 管理事業体組織の適格基準 4 統合 CoC 管理事業体で実施される SGEC 文書 4 CoC 認証ガイドライン の要求事項に関わる責任の適用範囲 序文

SGEC 附属文書 理事会 統合 CoC 管理事業体の要件 目次序文 1 適用範囲 2 定義 3 統合 CoC 管理事業体組織の適格基準 4 統合 CoC 管理事業体で実施される SGEC 文書 4 CoC 認証ガイドライン の要求事項に関わる責任の適用範囲 序文 SGEC 附属文書 2-8 2012 理事会 2016.1.1 統合 CoC 管理事業体の要件 目次序文 1 適用範囲 2 定義 3 統合 CoC 管理事業体組織の適格基準 4 統合 CoC 管理事業体で実施される SGEC 文書 4 CoC 認証ガイドライン の要求事項に関わる責任の適用範囲 序文この文書の目的は 生産拠点のネットワークをする組織によるCoC 認証を実施のための指針を設定し このことにより

More information

平和安全法制などの整備法整備の経緯 図表 Ⅱ 閣議決定 の概要と法制整備 閣議決定 の項目 概要 法制整備 警察や海上保安庁などの関係機関が それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して対応す 治安出動 海上 1 武力攻撃に 至らない るとの基本方針の下 対応能力を向上させ連携を強化するな

平和安全法制などの整備法整備の経緯 図表 Ⅱ 閣議決定 の概要と法制整備 閣議決定 の項目 概要 法制整備 警察や海上保安庁などの関係機関が それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して対応す 治安出動 海上 1 武力攻撃に 至らない るとの基本方針の下 対応能力を向上させ連携を強化するな 3章平和安全法制などの整備208 平成 28 年版防衛白書第第 3 章 平和安全法制などの整備 法整備の経緯 1 法整備の背景 わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを 増しており 今や 脅威は容易に国境を越え もはや どの国も一国のみでは 自国の安全を守れない時代となった このような中 わが国の平和と安全を維持し その存立を全うするとともに 国民の命を守るためには まず 力強い外交を推進していくことが重要であるが

More information

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場

順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場 東南アジア経済 2016 年 11 月 7 日全 6 頁 順調な拡大続くミャンマー携帯電話市場 2015 年普及率は 77% まで上昇 DMS( ヤンゴン駐在 ) 佐藤清一郎 [ 要約 ] 国際電気通信連合 (ITU) によれば 2015 年 ミャンマーの携帯電話契約者数は 4,153 万人となり 普及率は 77% となった 2014 年 普及率の大幅な上昇が見られたミャンマーの携帯電話市場は 引き続き順調な拡大を続けている

More information

3章国際社会の課題142 平成 28 年版防衛白書第第 Ⅰ 部 わが国を取り巻く安全保障環境 闘機が異常な接近 妨害を行ったとされる事案も発生しているほか 16( 同 28) 年 5 月にも 南シナ海で中国戦闘機が米海軍の偵察機に異常接近したとされている 3 これらは 公海における航行の自由や公海上

3章国際社会の課題142 平成 28 年版防衛白書第第 Ⅰ 部 わが国を取り巻く安全保障環境 闘機が異常な接近 妨害を行ったとされる事案も発生しているほか 16( 同 28) 年 5 月にも 南シナ海で中国戦闘機が米海軍の偵察機に異常接近したとされている 3 これらは 公海における航行の自由や公海上 国際社会の課題海洋をめぐる動向 海洋をめぐる動向 四方を海に囲まれた海洋国家であるわが国にとって 海洋安全保障 が持つ重要性は極めて大きい 例えば わが国はエネルギー資源の輸入を海上輸送に依存しており 海上交通の安全確保が国家の存立にとり死活的な問題となっている こ のような 海洋 というグローバル コモンズの安定的な利用の確保は 国際社会の安全保障上の重要な課題となっており 関連する国際的な規範

More information

P071-088_エッセー07 06.4.14 10:52 ページ 76 エッセー ーである宝国丸 帆船 94総トン 明 1943年春をピークとして活動数は減少 とは 病が危篤の状態に陥って医者を 治40年建造 から昭和20年の終戦まで していった 連合国側の商船損失量も 呼ぶようなものであるが 国家危急存 に就航 建造された全タンカー438隻 これに比例して減少した 大戦中に撃 亡の秋 といっている

More information

現代資本主義論

現代資本主義論 終章世界的金融危機と 薄氷の帝国アメリカ 第 1 節 2008 年秋以降の世界的金融 経済危機と 危うい循環 (1) 世界的金融 経済危機の発生 (a) サブプライム ローンの行き詰まりケース シラー 20 都市住宅価格指数 220 200 180 160 140 120 100 80 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 2006 年半ば 住宅価格低下 住宅価格上昇に依存した景気上昇にブレーキ

More information

日本海 ~ 国際社会が慣れ親しんだ唯一の名称 ~ 外務省

日本海 ~ 国際社会が慣れ親しんだ唯一の名称 ~ 外務省 日本海 ~ 国際社会が慣れ親しんだ唯一の名称 ~ 外務省 1 日本海 は 国際的に確立した唯一の呼称で す このことは 外務省が行った世界各国の古地 図調査でも明らかです 2 こんよ ( 坤輿万国全図 マテオ リッチ 1602 年北京 東北大学付属図書館所蔵 ) Sea of 1) 日本海の呼称が初めて使われたのは 17 世紀初めのイタリア人宣教師マテオ リッチによって作成された 坤輿万国全図 であると言われています

More information

地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会 (UNCE-GGIM) 報告 2012 年 8 月ニューヨークで第 2 回の地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会 (UN Committee of Experts on Global Geospatial Information Ma

地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会 (UNCE-GGIM) 報告 2012 年 8 月ニューヨークで第 2 回の地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会 (UN Committee of Experts on Global Geospatial Information Ma 地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会 (UNCE-GGIM) 報告 2012 年 8 月ニューヨークで第 2 回の地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会 (UN Committee of Experts on Global Geospatial Information Management: UNCE-GGIM) が開かれた 本稿はその出席報告であるが まず国連の地理空間情報管理への取り組みについて紹介したい

More information