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1 防衛研究所では 1999 ( 平成 11) 年から政治 経済 社会 文化等 さまざまな要因に配慮しつつ将来の世界の戦略環境を分析し 日本の防衛戦略構想を検討するため 広く各界の安全保障問題に関する有識者からなる防衛戦略研究会議を開催しています 平成 20 年度までの本会議の経緯につきましては 防衛研究所のウェブサイト < go.jp> 防衛戦略研究会議報告書 をご覧下さい 平成 21 年 9 月 7 日 ( 月 ) グランドヒル市ヶ谷において 防衛戦略研究会議平成 21 年度第 2 回会議が開催された 中国のパワーの総合的分析 を年間の共通テーマとする今年度の同会議の第 2 回として 中国の外交 をテーマとして報告と討議を行った 高木誠一郎委員 ( 青山学院大学教授 ) の報告 冷戦後の米中関係 構造と最近の展開 添谷芳秀委員 ( 慶應義塾大学教授 ) の報告 米中関係と我が国の対応 及び討議の概要は以下の通りであった 1 報告 1 冷戦後の米中関係 構造と最近の展開 ( 高木委員 ) 米中関係は 冷戦後に視野を限定すると 2つの特徴がある 第 1 に 変化がかなり激しいが 変化の幅自体はあまり大きくない 同盟関係のような緊密な関係になることもなければ 非常に厳しい敵対関係に陥ることもない 第 2 に 複雑な関係だということである 協調要因も紛争要因も数多くある しかも どの要因が支配的になるかは安定しない 最近では 米中間の経済的相互依存が進化しており 貿易面のみならず 財務省債券の消化で米国が中国に依存する等の資本の側面もある また 米中関係は 国内政治の主要イシューになることもあり 国内政治が大きな作用を及ぼすことがある 米国にとって 中国との協調要因は 従来 安全保障及び経済が中心だった オバマ政権になってからは 気候変動の問題で中国との協調関係を重視する考え方が出てきた アジア地域の安定のために米国の軍事的存在が重要であるという点は 中国は公式にはなかなか認めないが 戦略問題の専門家は必ず認めることである 台湾問題は 米中間の最大のイシューであるが 最近中国は 台湾の独立勢力を制約する上で 米国の協力を取り付けようとする傾向を顕著に示している 米国も この地域の不安定化は望まず 一方的現状変更には反対という姿勢で 台湾の独立傾向にさまざまなかたちでブレーキをかけている 紛争要因に関しては 安全保障 経済 人権擁護 民主化等 さまざまな面で中国は 米国にとって問題ある存在である ただ こうした紛争要因が協力促進作用を果たすこともある 例えば WMD 拡散に関して 米国は 80 年代以降 さまざまな問題について中国を非難してきた ただ 米国側は そうした中国の行動の要因の一つは輸出管理制度の不備であると考え 管理制度を確立するための人材育成 制度設計の援助を中国に持ちかけ 中国もこれに乗ることになった 人権擁護 民主化についても 米国の要求を中国がそのまま飲むことはないが 法の支配が不十分であることは中国も認めざるを得ず 中国の司法人材育成に 米国が深く関わるということが起きている 中国側も 紛争要因の積極面を認識している 例えば和平演変に関して 平和的手段によって社会主義体制を瓦解に導こうという陰謀を米国が持っているというのが中国側の非難だが 中国の改革派は密かに歓迎している 市場開放や知的所有権に関する要求も 経済改革を促進する一つの梃子として使われる 外圧を使用した国内問題の処理であり WTO 加盟が好例である これを通じて 中国の経済体制を 市場経済として より合理的なものに変えていく という考え方があった 次に 台湾問題に関して 紛争要因の抑制効果についても触れたい 中国が米国に厳しい対 1

2 決姿勢をとれば 米国にとっての台湾の戦略的価値が上がる したがって 米国が台湾に対して深くコミットメントすることを避けたいと思えば 中国は 米国に対してある程度協調的な姿勢をとらざるを得ない 台湾問題があるが故に米中間に紛争が絶えないのは事実だが 他方で 台湾があるが故に 中国による対米柔軟姿勢がもたらされている面もあるのである 米中双方にとって 米中関係はさまざまな国内要因と関わってくる 米国においては まずは対中柔軟対応の政治的危険性である 叩頭 は 清朝が西欧に要求した 屈辱的 儀礼であるが kowtow としてそのまま英語になっており 政府による対中柔軟姿勢を非難する文脈でよく使われる また 対中政策には 人権団体や労働組合を含め さまざまな利益集団も関わっている また 国務省 国防省 商務省等の間にも政治闘争があり 連携を組んだり 対立したりする官僚政治の側面もある メディアの作用は 特に天安門事件以降 一時的にせよ 大きなものになった また 大統領選挙において 野党候補が 与党の対中政策を融和的であると批判することが過去に何度かあった 中国側では 改革開放政策が確立したことが 対米関係重視の根本的 政治的要因になっている ただ 対米柔軟姿勢は 中国においても時として政治的に危険である 99 年 ベオグラードの中国大使館が米国によって誤爆される事件があったが ちょうどその時 中国は WTO 加盟交渉の一環として 米国と市場開放に関する交渉をしており 米国に対して譲歩しにくくなったという状況が生まれた 米中関係を長期的に見る場合に考えなければならない点が 3 つある 第 1 は 経済的相互依存関係が深化しつつあるということである これが 両国関係を根本的に決裂させることを困難にする一方で 低レベルの紛争を頻発させる要因になっている 第 2に 国際関係におけるパワー トランジションの現象が 米中間で起こりつつあるか否かである 中国が米国の圧倒的な影響力にチャレンジする力をつけつつある そうした二国間で平和的に関係を処理することは難しいとの議論がある 他方中国側では 中国の発展は 今後いかに力をつけても 平和的にならざるをえない和平発展の議論があるが どちらが正しいかはまだわからない 米国にとって 対中関係は重要ではあるものの 最重要ではない 中国に関しては 安全保障面でさまざまな懸念があり 90 年代の始めごろには 封じ込めの議論もあったが 最近では 封じ込めは不可能であり 関与することによって 中国を国際システムに取り込み 中国の行動をより合理的なものに変えさせていく というアプローチを捨てるわけにはいかないとの認識になった 責任ある利害関係者 (responsible stakeholder) になれ という議論である しかし それがうまくいかなかった場合の備えにリスクヘッジをしなければならない ということも十分認識されている その文脈で強調されるのが 同盟体制の強化 そして オバマ政権になって顕在化してきた多国的枠組みへの積極的関与であろう 中国から見ると 対米関係は圧倒的に重要である 中国は 対米関係をベースに 全体としての対外情勢認識 対外関係を組み立てているといっても過言ではない それに関しては 江沢民が打ち出した 16 字方針 ( 信頼を増加し トラブルを減らし 協力を発展させ 対抗しない ) がある 90 年代の後半から 中国は 明らかに 米国に対するソフト バランシングというアプローチをとっている それは 軍事的な意味でのバランシングという対応ではなく 米国の力に対して それに見合う力を自らがつけようとするのではなく 米国とは角を突き合せない形で 米国の自国に対する制約を緩和させる さらには中性化 無力化させるための対応をとるということである 具体的には 戦略的パートナーシップを世界の主要国と構築し また 上海協力機構や ASEAN 地域フォーラムといった多国間の枠組みを活用するということであろう 2

3 2 報告 2 米中関係と我が国の対応 ( 添谷委員 ) 米中関係の現状を取り巻くマクロな状況認識から始める まず 短中期的には 経済 北朝鮮問題への対応等で 中国頼み という現実がある 中国は 中長期的には混乱する可能性が高いことを承知で 当面頼らざるを得ないという現実がある 中国共産党政権は 試行錯誤しながら それなりに権力を維持し続けるだろうが 不安定なまま続くことになろうというのが 基本的前提である 米中関係は 同床異夢の戦略的共存 であり これが当面続くだろう お互いに相手を必要としているが 両国の本質的 長期的な戦略的方向感覚は全く異なる そうした情勢認識を前提に 日本の対応をどのように考えるべきか 米中関係に日本が独自に大きな影響力を及ぼすことができると考えると 結局何も出来ない焦燥感だけが募るだろうし そうした前提に立って我が国の対応を議論しても 戦略として形にならない 米中関係のマクロな現実は 日本として所与のものとして捉えざるをえない現実がある したがって 米中関係の狭間に存在し 現実への対応を考え 頭を悩ませている国々は 基本的に日本にとってパートナーであり そうした国々との協力関係を模索しつつ マクロな環境への対応を考えるのが 日本にとっての戦略的対応になるのではないか クリントン国務長官の訪中では 米中の協力分野として 世界経済危機 気候変動 安全保障 ( 六者協議 PKO 軍事対話 台湾海峡 アフガニスタン パキスタン イラン核開発 対テロ 軍備管理 軍縮 WMD 不拡散 ) ビルマ及びスーダンを巡る対話等が列挙された 対立分野としては 人権 チベット 宗教の自由 言論の自由等を指摘した 2009 年 7 月の米中経済戦略対話でオバマ大統領は 米中両国の関係が 21 世紀を方向付ける 世界のどの 2 国間関係にも劣らず重要 この現実が米中関係を下支えする と述べている ガイトナー財務長官は 内需主導型成長の重要性を指摘しているが これは 当面の 中国頼み という現実への認識の反映である 中国に内需主導型の成長を続けてもらい これにより世界経済が中国中心に安定したものになる ということまで言っていないが 米国としてもオールターナティブを必ずしも持っていない ( 米中 )G2 議論について バーグステンが最初に Foreign Affairs 誌に書いたとき 彼は 中国が 世界経済へのアプローチ等でいかに異質であるかを強調した 米中間の違いが大きく本質的であるからこそ 経済問題への対応等で存在感を増した中国と協力しなければならないというのが G2 議論の趣旨である ステークホルダー論は 中国への期待を込めた言い方であるが 米国の対中政策としてかなり大きな転換だったのではないか 従来は 封じ込め か 関与 という図式であった この両者は 中国を アメリカを中心とする国際システムの外の存在とみなしている点が共通であり 外部的存在の中国を封じ込めるのか 関与させるのかという論理構成だった それに対してステークホルダー論は 中国はすでに我々のシステムの中に存在するとの前提に立っている 中国側は ステークホルダー論を 知識人を含めて真剣に検討したようである 中国の暫定的結論は 関与 とあまり変わらないというものだったが ( システムの ) 中にいる以上 ちゃんと役割を果たせ というチャレンジに 中国として受けて立とうという反応をすることにしたようだ しかし それは ワシントン コンセンサスに迎合するということではなく 中国側からも米国に原理原則をぶつけていくということである これは WTO における中国の主張等にもあらわれている 平和的台頭に関して 台頭 という言葉が中国脅威論を生むという現実に中国が敏感になり 中国の台頭は和諧世界につながるという一種の理論武装の試みをしているというのが 対米外交を軸とした中国の当面の対応であろう 3

4 核なき世界 を目指すという長期的方向性とともに NPT 体制のもう一つの側面である原子力の平和利用に関して 新しい国際システムの構築という動きが出てくる可能性がある そうした際に オバマ イニシアティブに中国をどのように取り込んでいくかは 決定的に重要である 地球環境問題での中国の重要性と 性質は異なるが 似たような部分がある グローバル 長期的 論理的に見れば 正しい ことであるが 現実に中国をどのように取り込むかはやはり米国にとっても難しい課題である また 当面の課題として テロ イラク アフガニスタン パキスタン問題等への対応において オバマ政権としては 基本的には国際協調主義で行くことになろうが ここにおいても 中国が協調してくれるという保証はない 世界経済危機での対応においては 当面 中国に頼らざるを得ないが それが そのまま新たな世界システムにつながることもないだろう 中国の対外戦略を考える際に重要なのは 中国が抱えるさまざまな国内問題の困難さについて 共産党指導部が的確に理解し 真剣に対応しているということである 価値や軍事的な問題を含め 米国との協力を前提にしないと さまざまな困難への対応も打ち出せないという側面がある 中国国民も 共産党体制があまり好きではないが オールターナティブが無いという感覚が急速に国民の間に広がっている これは 全面的な支持ではなく 今の政権には何とか持ってほしいという消極的な支持である その前提としてやはり諸問題の深刻さという現実がある チベット ウイグル 台湾等の問題はずっと続く 状況が不透明な中で 綱渡り的対応を 国内的にも対外的にも行っていかなければならない それをさらに複雑化させているのが 中華ナショナリズムである これが 知識人を含めて 国民に蔓延しつつある ただし これは 中国国内における内部矛盾として 中国指導部に跳ね返ってくる危険性の方が大きいかもしれない それらを前提に 米中関係に関する日本の対応として 安全保障面では 米中の同床異夢の戦略的共存を前提とした日米安保の運営 ということに尽きる 経済は 米中が協力するという前提の下に 日本の対応も日中協力ということであろう 次に 対中市民社会戦略 である 中国社会は いろいろな意味で完全に多元化している そうした多元化した社会を一つの塊にしてしまう要素が チベット ウイグル等の民族問題 台湾問題 そして歴史問題をはじめとする日本との問題である 中国社会をできるだけ多元化させるということが 日本の中長期的戦略に適うわけであり 放っておけば中国社会には多元化のベクトルが強力に働いているところを 歴史問題で一体化させるのは 日本の戦略的対応としては最悪ではないかと考えている 最後に 日本外交にとっての中国であるが やはり 対中政策を誤ると日本外交は道を誤るという部分が今日もある 日米安保も東アジア協力にしても 中国の台頭 東アジアの中での中国問題の管理というところに焦点がいく そのためにも 東アジア協力が重要である さらに 米中の狭間での日本の立ち位置ということを考えた場合に 日本の重要なパートナーは 韓国 ASEAN 豪州である 日米同盟を前提にした日本の自立戦略があるとすれば それは 日本が単独で組み上げるものではなく 米中の狭間にある諸国との協力関係を多元的 多層的につくっていく中で そこに 東アジアの秩序の土台を築き上げる それに中国がどう出てくるかは基本的に中国の問題である そうした発想の中に中国を位置づけて考えるのが 結局は 総合的な対中戦略ということになろう 3 討議 (1) 中国の党軍関係と対外政策における軍の影響力 共産党と軍との関係では 基本的に共産党が軍を統制するという伝統が中国共産党の中にはある ただ 4

5 中華人民共和国の成立までは 共産党の指導者がそのまま軍の指導者であったという双方のオーバーラップによって共産党が軍を統制していた しかし 特に江沢民主席以降 軍歴のない人物が共産党の指導者になっている これが可能ということは ある意味で軍に対する共産党の優位を示している 軍歴のない人物がどのように軍を掌握して行ったかというと 江沢民主席の場合は明らかに予算と地位 人事を使っていた 高級将校に任命するとか 予算配分を行うというのがその基本的なメカニズムであった その意味で軍は 中国国内の 1 つの巨大な利益集団として機能しているのは確かだ 国内の重要な決定に 軍が関与している事は否定できないが 対米関係の基本的路線を決めるという観点では 軍が大きな影響力を持ったという事はないと思う 2009 年 3 月に東シナ海で発生したアメリカ海洋観測艦に対する中国の漁船によるかく乱だが この程度の問題は 軍が共産党の意向を無視して行ったということはありうるだろうと考えるが 基本的な対米政策が軍の大きな影響によって決まるという事はあまりなかったと思う 政治主導で話し合われた東シナ海の日中中間線問題に関連して 日中間の防衛協力や信頼醸成措置をもっと進展させようとの約束をしている ところが実際にはなかなか進展しない 事務方が調整をした上で 政府の首脳が指示を出しているのに 軍レベルでは交流等が進展しない 信頼醸成がトップ同士での合意があった後でも進まないのは 軍が抵抗しているという面もあるが 国内的環境の機が熟していないという面の方が大きいと思う このことが露呈したのは 2008 年 5 月の四川省大地震の際に救援物資を航空自衛隊の輸送機で運ぶという計画が 下のレベルでは話が通じていたにもかかわらず 政治の上のレベルに持っていく時点で駄目になったということである (2) 日米同盟と東アジア協力 日米同盟と東アジア協力の関係について言えば 日米同盟がなければ東アジア協力政策というものもないと思っている ただし 東アジア協力政策がなくても日米同盟は成立するが これでは自立戦略にはならない だから 自立戦略のためにこそ日米同盟が必要である 別の言い方をすればアメリカを利用した日本の東アジア協力政策 それをセットにしたところに日本の自立戦略が成立する 2007 年の日豪安全保障協力宣言は 非伝統的な安全保障協力 特に キャパシティービルディング 人間の安全保障 PKO 等に関する協力を日豪で行おうというものだ 現状では双方にその用意がないものの 論理的には 日韓でも日豪安全保障協力宣言と同じことをできないことはないと考える 日豪関係の延長線上の次の段階として 日豪でできた事を日韓でもできないかと考えている この延長線上に日韓豪のトライラテラリズムが出来れば興味深いと考えている 日韓豪が同じようなアジェンダ 見識の下で どの様に東アジアを作っていくか ということが論議できれば そこから地域秩序が生まれてくると考えている 構築された地域秩序に米中がどのような対応をするのか というのはその後の問題だと考えている そのときに 我々は知恵を出して米中に対応していけばよいと考えている このようなイメージが 自立戦略 の基盤である豪州 ASEAN 韓国との安全保障であると考えている 出席委員 : 秋山海洋政策研究財団会長 ( 主査 ) 浅野同志社大学教授 伊奈日本経済新聞社論説副主幹 小此木慶応義塾大学教授 加藤朝日新聞編集委員 金田岡崎研究所理事 志方帝京大学教授 添谷慶応義塾大学教授 ( 報告 ) 高木青山学院大学教授( 報告 ) 谷野元駐中日本国大使 5

6 福島国際交流基金特別研究員 山本青山学院大学教授 防衛省側出席者 : 黒江防衛政策局次長 6

86 また南シナ海での領有権をめぐりベトナムとならんで中国と激しく対立す るフィリピンでは オバマの同国訪問を機会に同年4月28日 米軍がフィリ ピンで向こう10年間軍事基地を使用できるようにする軍事協定が調印された この協定によって 1992年 米軍がスービック海軍基地 クラーク空軍基地 など在フィリピンの基地から全面撤退していらい はじめてフィリピンに大 規模に軍事的復帰を遂げる道が開けた 中国が南シナ海への進出を加速させ

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