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1 花の縁 ) 椿の繁殖椿の繁殖は挿し木もしくは接ぎ木である 挿し木苗は 2~3 年生で 1,000 円ぐらいが標準であるが 接ぎ木苗は少し高くて 3,000 円前後になるものが多い 挿し木苗は比較的伸びるのが早い品種に 接ぎ木苗は成長の遅いものに利用されている しかしどんな品種でも椿は挿し木でよく活着する 鹿沼土や赤玉土に 3 月の彼岸前頃に挿しておけば 半分ぐらいは発根する ところが問題はそこからなのである 特に 黒椿 とか 都鳥 のような いわゆる銘柄品種になると なかなか成長しないものが多い それどころか少し管理を怠ると 枯れてしまうことも少なくない そこでこの苗の成長を早める方法が接ぎ木なのである この接ぎ木は素人ではなかなか難しい部分もあるが 呼び接ぎ という方法なら 100% うまく行く これは 2 年もの程度の挿し木苗と 枝葉の部分を切り落とした台木を用意して 両方の木の側面の樹皮を切り出しナイフで削いで 削ぎ口から現れたそれぞれの形成層を合わせて結束し 継ぎ合わせるものである この方法は一つの穂木に二つの根を付けて 成長を早めようという発想から生まれたものである 活着すると穂木のほうが一気に生長し始めるから 台木の方から芽が出ないように管理すればよいのである 穂木 台木ともに根があるわけだから 失敗してもやり直しがきくし台木もまた使えるので 一度チャレンジしてみるといい 台木の方がいくらか大きめのものを選び 互いの形成層をしっかりと合わせるのがうまく活着させるコツである この他にも素人でも比較的うまく継げる方法はいくつかある V 字継ぎ もその一つである これは台木の方にV 字形の切れ込みを入れて それに合う穂木を用意し 形成層をピタリと合わせて テープで縛っておくという手法で 台木の形成層と穂木の形成層を素人でも合わせやすいという長所がある ぜひ一度どちらかの方法でチャレンジしてみるといい 園芸がいっそう楽しくなること請け合いである どの場合も台木に用いるのは 乙女椿を挿し木により増やしたものか 実生で育てた苗を用いる 接ぎ木の季節は 2 月の下旬から 3 月のお彼岸ごろまでがよく できればしばらく高湿度を保てるようなフレームやボックスの中で育てたいところである 呼び継ぎの場合は 3 月の彼岸の頃に 路地で行なうと良い もう一つ椿の繁殖は実生である これは時間がかかるものの どんな花が咲くか分からないという面白さがある しかもバラやサツキなどに比べると椿の交配は素人でも容易である さきにも述べたように 生物の全ては雄よりも雌のほうが早熟である これを利用して 咲き出したばかりの花の雌蕊に咲き古した花の雄蕊を持ってきて ピンセットで受粉してあげればそれで良いのである こうして受粉が終わったら雨や風の当たらないところでしばらく管理し 実ができればしめたものである しかしすべて実が着くとは限らないので 数多く辛抱強くやる必要がある またどの花に何の花粉をつけたかなどを克明に記録しておく必要もある しかしそんなこと 1

2 花の縁 よりも 自分の花を作ればそれでいいのだという考えのもと 美しい親木の種子をポットに蒔いておくだけでも何となく夢は広がる あまり勢い込まない方が最初のうちはいいかも知れない 種子の発芽率は 4 割から半分程度であるから そのつもりで播種するといい しかし花が咲くまでには 4~5 年かかるから それなりの覚悟は必要だ もしも不幸にしていい花が咲かなかったら その時は接ぎ木の台木にすることをお勧めしたい さて椿を植えるには半日影ぐらいが最も良い 水捌けの良いところであればまずどこでもよく育つ 椿のヒゲネはサツキやツツジなどと比べると 驚くほどに太くて このタイプの根は乾燥には強いが とかく過湿には弱い 水捌けの悪いところでは十分に盛土をするようにしたい また植えた直後は風で倒れやすいので 必ず支柱を忘れないようにする 幼苗のうちは夏には敷き藁を施し 雪の積もる地方では雪囲いを施すことも大事な課題である 肥料は油粕が一番で 化成肥料と半々ぐらいでも差し支えない 椿はとにかく成長の遅い木であるから幼苗の時は一枝一枝を大事にして 剪定などは原則的には行なわないほうがよい 特に幼苗のうちに花を多くつけさせると 翌春の新芽が育たず 枯れてしまうことも多いので 花を見るのは高さ 1m 未満の苗であれば せいぜい 3~5 花ぐらいにとどめておく方が無難である 蕾を落とすのは 9~10 月頃が良いのだが 夏場の暑い時期に水を多めに与えると 花芽が固まらずに葉芽になることも少なくない 苗木のうちは花を焦らないことがポイントといえよう 椿を植木鉢でつくるにはまず風に注意する必要がある 特に植えたばかりの時は 根元の部分と植木鉢とを針金や紐で縛っておくなり よく固定しておかないと 苗木の部分だけ倒れてしまう事が多い また植え土には赤玉が一番で 堆肥を少々と赤玉をよく混ぜた用土を用いる 鉢の直径は苗木の高さの 1/5 ぐらいをめどとし 素焼きのものがよい 鉢底には大ゴロを入れて水捌けをよくするが 水やりは夏場の乾燥期を除けば 週にせいぜい 1~2 回ほどでよく あとは乾いたときにもう 1 回増やす程度でよい しかし肥料やりの方は 常時よく完熟した油粕がおかれているぐらいの状態にする 年に 1~2 回消毒をしてあげたいところだが あまり病気にもならない木であるから 適宜行なう程度でも特に問題はない しかし通風が悪くなるとカイガラムシや 新芽にはアブラムシもよく付くので注意が必要である 鉢で育てるときの欠点は 9 月頃に必ず摘蕾をしなければならない点であろう 高さが 1m に満たない苗木のうちは 心を鬼にして実行することが大切である また花後には花柄を早めに摘んで木を弱らせない努力も忘れてはならない ほおっておくとやがて種子ができ これがまた木の勢いを削いでしまう要因になるからである 鉢は 2~3 年に一度ぐらいで一回り大きなものとするが この時には根をよくほぐして 根の部分も少し刈り込んで 新根の発根を促すようにするとよい 2

3 花の縁 お茶の木の果実にも良く似た椿の果実 烈開した椿の果実石榴 ( サ クロ ) とは異なるが石榴への連想は広がる 3

4 花の縁 紋繻子( モンシ ュス ) は江戸時代から見られる古典品種 八重咲きと蓮華咲の中間的な花形となる 白の雲状斑が入らない種に 繻子重 があり この種も赤色に深みがあって美しい その 繻子重 ( シュスカ サネ ) ( 紋繻子の紅花 ) 丈夫で毎春美しい花をたくさん付けてくれる 4

5 花の縁 春曙光 春先いち早く咲く品種で 桜よりも一足先に春をつれてきてくれる 春の曙の光というにふさわしく 淡いピンクの弁先に底白で蓮華咲に近い花形である 袖隠 は江戸時代からの古典的な品種で 純白色の八重抱え咲 極大輪の花を咲かせる 5

6 花の縁 これは 黒椿 の実生である 黒椿の面影はないが 藻汐 に似た蓮華咲である 次々と秀逸な椿 が誕生し 椿の世界は今やバラと同様 新品種の宝庫になりつつある 草紙洗 ( ソウシアライ ) 吹き掛け絞りが全面に入る八重咲きで 枝変わりで紅色花 白色花も出る 6

7 花の縁 雅 花色は 羽衣 によく似るが 羽衣のような奥行きの深い立体感は乏しい しかし一種独特の味わいがあり 花弁の移り白がやさしい これも雅である ちょうど花が開きかけたところで 名前のとおり優雅である 7

8 花の縁 月になってから咲いた天女の舞の最後の一輪である 花弁の先が内側にカールしており 雅の花形に似ている 蓮華咲の花では花弁の先がしばしば内側にカールした個体を見かける ( 瑞鳥の花を参照 ) 理由はこの季節は乾燥することが多く 水分が十分に花弁の先端まで行き渡っていないためである 花は種々の要素で美しく開花することを忘れてはならない 8

9 花の縁 春の台 蝦夷錦や沖の浪に似るが ずっと華奢な感じがする 縦絞りは多種類が現れる 春の台( ハルノウテナ ) 春の台は通常はこんな絞りが入る 花弁数があまり多くないため 華奢な感じがするが 花形は端正な蓮華咲で 白覆輪の花が咲くこともあり 古典的名花である 9

10 花の縁 プリンセス雅子 イカリ絞りの実生である 弁間の隙間が大きくボリュームがある 一休の実生 花は小輪だが 花形は完璧な蓮華咲で 花つきもよい 交配でこのような秀花が生まれるところが椿栽培の醍醐味だろうか しかも素人でもチャレンジできるところがいい 10

11 花の縁 不如帰( ホトトキ ス ) は蓮華咲に近い八重咲きである 春曙光にやや似るものの 春曙光のような明るいピンクではなく ややサーモンがかかったようなピンクである 唐錦 江戸時代から伝わる名花の一つで 今ではやや珍品に属する 細かい絞りの入る椿は草紙洗 ( ソウシアライ ) 抜き筆を始めとして少なくないが 蓮華咲では極めて稀である 11

12 花の縁 ブラックマジック はアメリカ生まれの獅子咲もしくは牡丹咲で 花弁は大きく波状する 12

13 花の縁 ブラックマジックは逆光線の日陰ではこんな色に見える これもマジックなのかもしれない 緋縮緬 は雄蕊が弁化しやすいものの 江戸時代のカタログに 七木 として掲載されている名花である 花弁の色は緋赤色で 他に緋色は ファイアーダンス しか見ることは出来ない 13

14 花の縁 リリーボンズ はアメリカで開発された白大輪の蓮華咲種である 14

15 花の縁 不二乃華 は最近登場した蓮華咲の大輪種で 全開すると花径は 15cm を超える 15

16 花の縁 不二乃華 は写真のように雌蕊が大きく飛び出しているのが特徴で 他の品種では見られない このため本種を母親にして 新しい品種を作り出すのに 素人でもたやすくなった 目次に戻る 16