JSM Mycotoxins, 64 (1), 63-₆₈ (2014) プロシーディング 63 T- HT- * 吉成知也国立医薬品食品衛生研究所 ( 東京都世田谷区上用賀 ) デ

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きのこのあき
5 years ago
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1 JSM Mycotoxins, 64 (1), 63-₆₈ (2014) プロシーディング 63 T- HT- * 吉成知也国立医薬品食品衛生研究所 ( 東京都世田谷区上用賀 ) デオキシニバレノールをはじめとする, いわゆるフザリウムトキシンによる食品の汚染は世界中に広がっており, 食の安全の観点で大きな問題となっている. フザリウムトキシンのうち, デオキシニバレノール, ニバレノール及びフモニシンを対象とした実態調査については, 厚生労働省や農林水産省によって既に実施されてきた. しかし,T-2 トキシン,HT-2 トキシン及びゼアラレノンについては,JECFA による毒性評価がなされているにもかかわらず, 我が国における汚染実態の情報はほとんど得られていない. そこで, 2010 年度より厚生労働科学研究補助金 - 食品の安全確保推進研究事業 - において国内市販食品や輸入食品におけるそれらカビ毒の汚染実態調査を 3 年間通年で実施した. : 汚染実態調査 ; フザリウムトキシン ;LC-MS/MS (2014 年 1 月 27 日受理 ) フザリウム属真菌は, トリコテセン類, ゼアラレノン (ZEN), フモニシン類などの多様なカビ毒を生産する. それらは総じてフザリウムトキシンと呼ばれており, 小麦, 大麦, トウモロコシなどの農作物中に頻繁に検出され, 人や家畜の健康への影響が懸念されている 1). 我が国におけるフザリウムトキシンの暴露量を調べるために, これまで実態調査が行われてきた. タイプ B トリコテセンのデオキシニバレノール (DON) とニバレノール (NIV) については,2004~2004 年に厚生労働科学研究班により, 小麦, 大麦, 米などを対象とした調査が,2002 年より農林水産省による国産麦を対象とした調査が現在も継続して行われている. フモニシン類については,2004~2007 年に厚生労働科学研究班により, トウモロコシ加工品などを含む 16 種計 831 品目を対象としたフモニシン B 1,B 2 及び B 3 の汚染実態調査がなされ, その後も国立医薬品食品衛生研究所において調査が継続されている 2). しかしながら, タイプ A トリコテセンである T-2 トキシン (T-2) と HT-2 トキシン (HT-2) や,ZEN( 図 1) の汚染実態についての情報はほとんど得られていない. T-2 とHT-2 は,Fusarium sporotrochioides や Fusarium poae などによって生産され, 哺乳動物に対して食欲減退, 消化器系症状, 免疫抑制などのトリコテセン類に共通した毒性を示す 3).2001 年の * 東京都世田谷区国立医薬品食品衛生研究所電話 : , 電子メール :t-yoshinari@ nihs.go.jp WEB

2 64 吉成知也 JSM Mycotoxins 図 1 ゼアラレノン,T-2 トキシン,HT-2 トキシンの化学構造 FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議 (JECFA) において, 耐容一日摂取量 0.06 μg/kg bw/day(t-2 又は HT-2 単独もしくは合量での値 ) が提唱されたが,2013 年現在において食品や飼料中の T-2 トキシンや HT-2 トキシンに対して規制値を定めている国は少なく, ロシアや一部の欧米諸国に限られている 4). 諸外国における汚染実態については,2005~2010 年にかけてヨーロッパで実施された大規模調査を初めとして, 近年情報が蓄積されてきている. ヨーロッパの調査では,22ヶ国が参加し, 麦類, トウモロコシ類, コメやそれらの加工品, 計 20,519 サンプルが対象とされた. 例えば小麦においては, 計 4,738 サンプルが調査され, 検出されなかったサンプルが 73%,T-2 とHT-2 の合算値の平均値が 4.9(lower-bound)~15(upper-bound)μg/kg, 最大値が 1,165 μg/kg という結果が報告されている 5). ZEN は,Fusarium graminearum や Fusarium culmorum などによって生産され, 致死性の急性毒性は強くないものの, 女性ホルモン用作用を示すことが知られている 6).2000 年の JECFA においてリスク評価が行われ, 暫定一日耐容摂取量が 0.5 μg/kg bw/day とされた 7). 食品中の ZEN の基準値については,Codex やアメリカでは設定されていないが,EU では穀類やトウモロコシ及びそれらの加工品について設定されている. 日本においては, 飼料においてのみ最大値 1 ppm が定められている. 汚染実態の調査は, 小麦, 大麦, トウモロコシなどを対象に世界中で行われている. 日本における調査も 1990 年代に報告されており, 日本産の小麦や大麦における汚染が確認されている 8). 以上のように,T-2 トキシン,HT-2 トキシン及びゼアラレノンについては国際的に毒性評価を受け, 汚染実態調査が世界各地で実施されているにもかかわらず, 我が国における汚染実態の情報は十分に得られていない. そこで, 日本へ輸入される小麦, 大麦や国内に流通する市販食品を対象に, 2010~2012 年度の 3 年間の汚染実態調査を実施した.

3 Vol. 64, No. 1, (2014) 65 食品中に含まれるフザリウムトキシンの分析については, 様々な方法が開発され, 汚染実態調査に用いられている. 精製については, フロリジルカラムと陽イオン交換カラムを組み合わせた方法やトリコテセン系マイコトキシン用の多機能カラムを使った方法などが海外で実施された調査で使われているが, 最近ではイムノアフィニティーカラムを用いた精製法も使われ始めている. 今回の調査では, 小麦やトウモロコシに加え, それらの加工品や, 小豆, 大豆などの豆類, ゴマなどの種実類といった多種多様な試料の調査を実施するため, 試料マトリクスの影響を比較的除去しやすい方法を選択する必要があった. そこで,DON,T-2,HT-2 及び ZEN を同時に精製することが可能なイムノアフィニティーカラム DZ MS-prep を使用することにした. 定量分析については, 高感度分析が可能な LC-MS/MS を用いた. 標準品のクロマトグラムを図 2 に示した. 感度の問題から, T-2 とHT-2 はESI ポジティブモードで,DON と ZEN は ESI ネガティブモードで測定している. 試料を分析する前に, 添加回収試験を行い分析法が各試料に適応可能かどうかを調べた. 例として, 図 3 に, 国立衛研で実施された小麦と大麦における添加回収試験の結果を示した. この 2 試料図 2 標準品 (DON 40 ng/ml, ZEN, T-2 と HT-2 はそれぞれ 10 ng/ml) の LC-MS/MS クロマトグラム

4 66 吉成知也 JSM Mycotoxins 図 3 小麦 (A) と大麦 (B) における添加回収試験の結果. 白バーは低濃度添加 (DON 20 μg/kg,zen,t-2 及び HT-2 はそれぞれ 5 μg/kg), 黒バーは高濃度添加 (DON 200 μg/kg,zen,t-2 及び HT-2 はそれぞれ 50 μg/kg) の回収率を示している. については,4 種のカビ毒の回収率の平均値は 80~110% に収まった. 麦加工品などのその他の試料についても概ね同様の結果が得られた. 3 年間において,10 種類合計 557 サンプルの調査を実施した. その結果については現在論文発表の準備を行っている段階であるため, 本プロシーディングスにおける掲載は控えることをご理解いただきたい. 国立衛研で実施した小麦粉の調査結果を一例として表 1 に示した. 日本産の小麦を原料とした小麦粉 36 点と海外 ( 主にアメリカ, オーストラリア, カナダ ) 産の小麦を原料とした小麦粉 25 点を調査した.DON についてはこれまでに報告されているように日本産と海外産のいずれにおいても検出率は 80% 以上と高い結果が得られた.ZEN の検出率は, 日本産で 19.4%, 海外産で 16.0% と,DON と比較して低い結果で, 最高濃度は日本産の 2.5 μg/kg であった.T-2 とHT-2 は,

5 Vol. 64, No. 1, (2014) 67 表 1 小麦粉における DON,ZEN,T-2 及び HT-2 の汚染実態小麦原料の原産地調査数カビ毒定量限界値 (µg/kg) 陽性数検出率 (%) 陽性平均値 (µg/kg) 最大値 (µg/kg) 日本 36 海外 25 DON ZEN T HT DON ZEN T HT 日本産と海外産のサンプルのいずれにおいても検出され, 検出率は日本産で T-2,HT-2 共に 8.3%, 海外産では T-2 が 12%,HT-2 が 20% であった. 最高濃度はカナダ産の小麦由来の小麦粉中の HT-2 の 3.5 μg/kg であった. 今回結果を示した小麦粉を含め,3 年間の調査において日本産の農作物や輸入食品に ZEN,T-2 及び HT-2 の汚染が確認された. 今回得られた結果を踏まえ, これらトキシンの汚染率, 汚染濃度が高い食品に対象を絞った調査をさらに続ける予定である. このような汚染実態調査により, 日本における ZEN,T-2 及び HT-2 のリスク評価に重要な結果が得られることが期待される. 本研究は, 厚生労働科学研究費補助金食品の安心安全確保推進事業食品汚染カビ毒の実態調査ならびに生体毒性影響に関する研究により行われたものの一部である. 1)DʼMello, J.P.F., Placinta, C.M., Macdonald, A.M.C.: Fusarium mycotoxins: a review of global implications for animal health, welfare and productivity. Animal Feed Science and Technology, 80, (1999) 2)Aoyama, K., Nakajima, M., Tabata, S., Ishikuro, E., Tanaka, T., Norizuki, H., Itoh, Y., Fujita, K., Kai, S., Tsutsumi, T., Takahashi, M., Tanaka, H., Iizuka, S., Ogiso, M., Maeda, M., Yamaguchi, S., Sugiyama, K., Sugita-Konishi, Y., Kumagai, S.: Four-year surveillance for ochratoxin A and fumonisins in retail foods in Japan. J. Food Prot., 73, (2010) 3)Bennett, J.W., Klich, M.: Mycotoxins. Clinitical Microbiology Reviews, 16, (2013) 4)Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives. Safety evaluation of certain mycotoxins in food. Fifty-sixth meeting of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA).WHO food additives series: 47. Geneva: World Health Organization (2001)

6 68 吉成知也 JSM Mycotoxins 5)European Food Safety Authority. T-2 and HT-2 toxins in food and feed. EFSA Journal, 9, 2481 (2011) 6)Zinedine, A., Soriano, J.M., Moltó, J.C., Mañes, J.: Review on the toxicity, occurrence, metabolism, detoxification, regulations and intake of zearalenone: an oestrogenic mycotoxin. Food and chemical toxicology, 45, 1-18 (2007) 7)Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives. Safety evaluation of certain mycotoxins in food. Fifty-third meeting of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA).WHO food additives series: 44. Geneva: World Health Organization (2000) 8)Sugiura, Y., Fukasaku, K., Tanaka, T., Matsui, Y., Ueno, Y.: Fusarium poae and Fusarium crookwellense, Fungi Responsible for the Natural Occurrence of Nivalenol in Hokkaido. Appl. Environ. Microbiol. 59, (1993) Occurrence of deoxynivalenol, T-2 toxin, HT-2 toxin and zearalenone in retail foods in Japan Tomoya YOSHINARI National Institute of Health Sciences, Kamiyoga, Setagaya, Tokyo , Japan Fusarium toxins are a group of mycotoxins produced by many kinds of Fusarium species, and frequently detected in field crops such as wheat, barley, maize and corn. They cause mycotoxicosis, a serious health hazard to humans and domestic animals. Therefore, collecting the information about fusarium toxin contamination in daily foods is crucial. Occurrence data of deoxynivalenol, a major fusarium toxin, have been collected in worldwide, but that of other toxins is limited. In this study, we examined foods from Japanese retail shops for contamination with four kinds of fusarium toxins, deoxynivalenol, T-2 toxin, HT-2 toxin and zearalenone. Key words: Fusarium toxin; LC-MS/MS; surveillance

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