気象庁数値予報の現状と展望 再生可能エネルギー発電導入のための気象データ活用 ワークショップ 2014 年 3 月 25 日 気象庁予報部数値予報課数値予報モデル開発推進官多田英夫 1

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1 気象庁数値予報の現状と展望 再生可能エネルギー発電導入のための気象データ活用 ワークショップ 2014 年 3 月 25 日 気象庁予報部数値予報課数値予報モデル開発推進官多田英夫 1

2 目次 気象庁数値予報の現状と展望 1. 気象庁の数値予報システム 2. 数値予報の計算例 3. 数値予報開発を取り巻く環境 2

3 1. 気象庁の数値予報システム 3

4 数値予報モデル 現在の大気の状態 ( 気温 風 湿度など ) から 物理法則に基づいて数値計算を行い 未来の大気の状態を予測する 力学過程主に力学 ( 大規模な大気の流れ ) を扱う 数値予報の骨格 移流 コリオリ力 気圧傾度力 収束発散 物理過程力学以外 方程式系の時間変化率のうち非断熱加熱 加湿項 放射 雲水 積雲 乱流 陸面 重力波 複雑で未解明な要素を含む 大気を記述する方程式 時間変化率 t F t t 未来の値 t F t 現在の値 t 4

5 観測資料 気象予報業務と数値予報 実況資料 航空機 高層観測 衛星観測 船舶 アメダス レーダー スーパーコンピュータ 数値予報資料 予測資料 予警報作業 実況監視 予報作成 警報作成 気象情報等 情報発表 気象庁 HP 民間気象事業者 特定の利用者 関係機関報道機関 テレビ ラジオ等 広く一般 (the public) 5

6 気象予報業務における数値予報モデル 時間スケールニーズ ( 例 ) 気象庁の主な情報数値予報モデル ~1 時間 ~1 日 集中豪雨 都市型水害の減災 大雨 台風に対する備えや避難 1 日 ~3 日 上記の他 交通の安全 効率的な運行 黄砂 スモッグ 太陽光発電 風力発電の量的予測 ナウキャスト ( 降水 雷 竜巻 ) 注意報 警報 天気予報 航空予報 天気予報 3 日 ~10 日 レジャー 農業対策 週間天気予報 異常天候早期警戒情報 10 日 ~1 か月 産業活動の効率化 異常天候早期警戒情報 季節予報 1 か月 ~ 天候の移り変わり 農業対策 10 年 ~ 地球温暖化対策 洪水への備え 季節予報 温暖化予測情報 局地モデル メソモデル メソモデル 全球モデル 物質輸送モデル 全球モデル 週間アンサンブル予報モデル 台風アンサンブル予報モデル 1 か月アンサンブル予報モデル 季節予報モデル ( 大気モデル 海洋モデル ) 気候モデル ( 地球システムモデル ) 6

7 気象庁数値予報モデルの種類 GSM 全球大気モデル スペクトルモデル 1988 年 T63(180km 分解能 ) で実用化後 徐々に高解像度化し 2007 年より TL959(20km 分解能 ) に JMA-NHM 領域大気モデル 格子モデル 現在 5km 格子で運用 2012 年より 2km 格子モデルも運用開始 asuca 領域モデル ( 開発中 ) JMA:NHM の後継となるモデル 計算方法等に工夫 データ同化 GSM 用 NHM 用等 それぞれに対応して開発 変分法 ( 主な業務で利用 ) やアンサンブルカルマンフィルターなど複数の手法を利用 海洋モデル 化学輸送モデル 7

8 広がり ( 空間スケール ) 20,000km 2,000km 200km 20km 気象現象と予測可能性 予測可能な時間の限界 : 予測対象や初期状態によって異なる 大規模 中規模 ( メソ ) メソモデル MSM 積乱雲 雷雨 全球モデル GSM 集中豪雨 梅雨前線 高低気圧 台風 寒波 2km 竜巻局地モデル LFM 現象の寿命小規模 ( 時間スケール ) 200m 0.1 時間 1 時間 10 時間 1 日 100 時間 1 週間 8

9 定時性 数値予報モデルの現業運用 定められたスケジュールによる運用 堅牢性 日々の天気予報等の業務への確実な支援資料の提供 時間内に計算を終わらせるための対策 ( 犠牲にするものも ) 異常終了等による停止の極力回避 障害時の社会的な影響の大きさを考慮 さまざまなバックアップ処理の組み込み 多様なジョブ さまざまな処理の実行 ( 互いに深く依存 ) 前処理 プロダクト ガイダンス等作成処理 統計処理 側面境界値の提供 : 全球予報 メソ予報 局地予報 9

10 短期 ~ 週間予報用の数値予報モデルの仕様 モデル 領域水平解像度 鉛直層数 予報時間 ( 初期時刻 (UTC)) 目的 全球モデル (GSM) メソモデル (MSM) 局地モデル (LFM) 週間アンサンフ ル予報モデル (WEPS) 台風アンサンフ ル予報モデル (TEPS) 地球全体約 20km 日本周辺約 5km 日本周辺約 2km 地球全体約 40km 100 層 84 hours (00, 06, 18) 264 hours (12) 各種予報 ガイダンスの基礎資料 各種数値予報モデルの入力値 ( 波浪, 黄砂, 移流拡散など ) メソモデルの側面境界条件 2014 年 3 月 18 日に 層化 ( モデルトップ hPa) を実施 50 層 60 層 60 層 39 hours (00, 03, 06, 09, 12, 15, 18, 21) 9 hours ( 毎時 ) 264 hours (00, 12) 27 メンバー 各種予報の支援 ( 防災気象情報など ) 各種数値予報モデルの入力値 ( 波浪, 高潮, 火山灰移流拡散など ) 局地モデルの側面境界条件 各種予報の支援 ( 飛行場予報, 防災気象情報など ) 週間天気予報 東南アジア等諸外国の予報支援 2014 年 2 月 26 日に高解像度化 ( 約 55km 40km) 1 日 1 回 51 メンバーから 1 日 2 回 27 メンバー (1 日あたり 54 メンバー ) に変更 地球全体約 40km 60 層 132 hours (00, 06, 12, 18) 25 メンバー 2014 年 3 月 11 日に高解像度化 ( 約 55km 40km) メンバー数を 1 回当たり 11 から 25 に増強 台風進路予報 台風が存在するとき または発生が予想されるときに実行される 10 数値予報課所掌の大気モデルのみ 2014 年 3 月現在

11 11 陸面モデルと同化システムエルニーニョ予報季節予報週間予報気候系監視水文監視 予測植生監視 予測火山灰監視 予測炭素循環オゾン監視 予測大気組成監視 予測海氷監視 予測波浪監視 予測海況監視 予測航空予報海洋汚染物質予測結合モデル気象庁の基盤モデル技術環境緊急対応 ( 放射性物質 山火事等 ) 地球回転監視 予測民間気象事業地球温暖化予測観測システムの評価 設計台風予報台風国際業務将来の応用分野既存の応用分野全球モデルにとって 特に重要な応用分野領域モデルと同化システム海洋モデルと同化システムアンサンブル予報システム波浪モデル物質輸送モデル海氷モデル全球大気モデルと同化システム防災上顕著な現象の確率予測観測データの品質評価量的予報天気予報海上予警報業務降水短時間予報全球数値予報システムとその応用先

12 メソ数値予報の用途 予報作業支援 防災気象情報支援 防災ガイダンス 降水短時間予報 高潮予測 高潮モデル + 高潮ガイダンス 数値予報 GPV 毎時大気解析 メソ数値予報 MSM, メソ解析 有害物質移流拡散予測 大気汚染物質移流拡散モデル 火山灰移流拡散予測モデル 航空気象情報支援 航空ガイダンス 悪天 GPV その他民間気象業務支援メソ気象研究観測データのQC 波浪予測 ( 試験運用 ) 12

13 北半球 5 日予報 500hPa 高度 RMSE の経年変化 (1995 年 1 月 ~2013 年 12 月 前 12 ヶ月移動平均 ) 衛星観測データの利用や 4 次元変分法データ同化手法の導入などによる継続的な精度向上 13

14 メソモデルの予想精度向上と技術開発 前 3 時間積算降水量のスレットスコア ( 閾値 10mm/3h, 検証格子 20km) 15 時間予報までのスレットスコア ( 閾値 10mm/3h, 検証格子 20km) 月平均 12 ヶ月移動平均観測数 スレットスコア 観測数 メソ 4 次元変分法 非静力学モデル 5km 解像度 物理過程改良 GSM 高解像度化 非静力学メソ 4 次元変分法 衛星輝度温度レーダー GPS 可反射強度降水量対流スキーム改良 予報領域拡張 AMSR2 輝度温度 14

15 気象庁におけるアンサンブル予報 1 か月予報の支援を皮切りに 週間天気予報 台風情報の支援を目的とするアンサンブル予報を開発 現業化 台風進路予報 週間天気予報 季節予報 異常天候早期警戒情報 1か月予報 3か月予報 暖候期 寒候期予報 エルニーニョ予測 15

16 初期値の不確実性 予報モデルの不完全性 大気のカオス的な性質の存在 初期値の微小な誤差が 後の予報結果に大きな差を 生むことがある アンサンブル予報 わずかに異なる ( 摂動を加えた ) 初期値を用いて予報を複数行う 起こりうる複数のシナリオの想定 予報の信頼度情報としての利用 ひとつの予報結果だけで判断することは難しい 海面気圧の予報結果 ( 週間予報 :51 メンバー ) 初期値 少しずつ異なる初期値 2 日予報 5 日予報 台風アンサンブル予報の例 9 日予報 % 進路予報 中心の接近確率 先の結果はかなり異なる 16

17 アンサンブル予報システムの仕様 モデル 領域水平解像度 鉛直層数 予報時間 ( 初期時刻 (UTC)) 目的 週間アンサンフ ル予報システム (WEPS) 台風アンサンフ ル予報システム (TEPS) 地球全体約 40km 60 層 264 hours (00, 12) 27 メンバー 2014 年 2 月 26 日に高解像度化 ( 約 55km 40km) 1 日 1 回 51 メンバーから 1 日 2 回 27 メンバー (1 日あたり 54 メンバー ) に増強 地球全体約 40km 60 層 132 hours (00, 06, 12, 18) 25 メンバー 2014 年 3 月 11 日に高解像度化 ( 約 55km 40km) メンバー数を 1 回当たり 11 から 25 に増強 週間天気予報 東南アジア等諸外国の予報支援 台風進路予報 台風が存在するとき または発生が予想されるときに実行される 1 か月アンサンフ ル予報システム 地球全体約 55km 60 層 18 日 ( 土 日初期値 ) 25 メンバー 2 日分 35 日 ( 火 水初期値 ) 25 メンバー 2 日分 異常天候早期警戒情報支援 1 か月予報支援 2014 年 3 月 4 日に高解像度化 ( 約 110km 55km) 実行日を 1 日早め 予報時間を 1 日延長 季節アンサンフ ル予報システム 地球全体大気約 180km 海洋約 100km 大気 40 層海洋 50 層 7 か月 (5 日毎 ) 51 メンバー 3 か月予報支援 暖 寒候期予報支援 エルニーニョ予測 17

18 気象庁現業数値予報モデルの地形 全球モデル (Global Spectral Model: GSM) メソモデル (Meso-Scale Model: MSM) 一般的に 1 つの波動を格子点で表現するには 5~6 点必要 GSM で表現可能な気象現象の最小スケールは 100km 程度 LFM は同様に 10km 程度 格子間隔 ~20km 格子間隔 5km 局地モデル (Local Forecast Model: LFM) 地形に応じた現象の表現 降水 熱雷 風 気温分布等々 格子間隔 5km 格子間隔 2km 18

19 局地モデルの特徴 高解像度化による小規模現象や地形の表現性の向上 より小さいスケールの空間的 時間的変化を格子点値で表現可能 対流性降水は形状やピーク値において観測値に近いものを表現 局地的な地形の影響を強く受けている観測データも同化可能 九州北部豪雨事例 : 2012 年 7 月 11 日 17UTC までの 1 時間積算降水量 2010 年 7 月 24 日 21JST の地上気温と風向 風速 19

20 2. 数値予報モデルの 出力例 20

21 メソモデルによる日射量計算の例 気象庁メソモデル (MSM) による日射量 ( 地表面下向き短波放射フラックス ) 予想の例 広島 2012 年 9 月 13 日 13 時 ( 日本時間 ) ひまわり 7 号可視 特徴 雲の影響のないところは 良い精度で予想できる 雲の影響がある場合も 傾向は比較的良く予想できる 福岡 札幌 仙台 鹿児島 東京 新潟 那覇高松大阪父島名古屋 朝 6 時 ~ 夕 18 時 2012 年 9 月 13 日 観測値予想値 21

22 局地モデルによる日射量計算の例 気象庁局地モデル (LFM) による日射量 ( 地表面下向き短波放射フラックス ) 予想の例 22

23 長期再解析データ (JRA-55) の出力例 気象庁 55 年長期再解析 (JRA-55) から計算された太陽エネルギーと風の分布 23

24 メソアンサンブル予報システム ( 開発中 ) 気象庁次期スーパーコンピュータにおける運用開始に向けて開発中 大規模場 ( メソ α~ 総観規模 ) 積乱雲群 ( メソ β スケール ~) メソアンサンブル予報 ( イメージ ) 各メンバーを基にしたサブシナリオ情報 各メンバのばらつきから得られる信頼度情報 MSM に対する信頼度 確率情報 複数シナリオなどの提供により気象現象の予測可能性に関わる情報が加わる

25 3. 数値予報モデル開発を 取り巻く環境 25

26 全球モデルの国際競争 全球モデルを運用している数値予報センター ( 国 機関 ) イギリス カナダ 韓国 ECMWF ドイツ ロシア アメリカ 中国 ブラジル フランス インド 日本 オーストラリア ヨーロッパ中期予報センター (European Centre for Medium-Range Weather Forecasts) 20 の加盟国と 14 の協力国で構成 (2013 年 4 月時点 ) 予報精度は世界一と言われる 26

27 世界の現業高解像度モデル 格子間隔 5km 以下 試験運用を含む ノルウェー :4km HIRLAM, UM フィンランド :2.5km HARMONIE 香港 :2km JMA-NHM 韓国 :5km WRF (UM も利用 ) 日本 :2km JMA-NHM デンマーク :3.3km HIRLAM イギリス :1.5km UM フランス :2.5km AROME スペイン :2.5km HARMONIE ドイツ :2.8km COSMO スイス :2.2km COSMO イタリア :2.8km COSMO カナダ :2.5km( 国土の一部 ) GEM アメリカ :3km WRF 27

28 数値予報システムの現状と改善計画 スーパーコンピュータシステム更新 (2012 年 6 月 ) H23 H24 H25 H26 H27 H28 TL319L60M51 60km 40km 週間アンサンブルシステム台風アンサンブルシステム TL319L60M11 TL479L60M27 1 日 2 回化 L60 L100 TL479L60M25 全球統合アンサンブルシステム TL479L100M27 水平解像度 20km 10km 全球モデル TL959L60 11 日予報 TL959L100 物理過程改良 メソアンサンブルモデル ( 試験運用 ) 5km 2km メソモデル 5kmL50 局地モデル 2kmL60 1 日 8 回 9 時間予報東日本領域 39 時間予報領域拡張 毎時実行日本域 解像度 メンバ数等検討中 5kmL75 物理過程改良 28

29 数値予報システム開発に係る部内外との連携 気象学会 大学 気象研究コンソーシアム 気象衛星センター WMO 等 モデル提供等 海外気象局等 人材育成 研究機関 JAXA モデル データ 共同研究研究成果の導入計算利用 気象研究所本庁地方官署人材育成 各種国際プロジェクト等 派遣 海外の先進数値予報センター等 29

30 観測データ利用に係る部内外との連携 観測課 日本 観測測器整備運用 気候情報課 長期再解析 気象衛星センター 現業気象衛星機関現業衛星運用プロダクト作成 数値予報課 気象研究所 JAXA 宇宙機関地球観測衛星運用プロダクト作成 試験研究機関同化研究 開発 NOAA/NWS 欧州 SAF NOAA/ NESDIS 米国 JCSDA NOAA/NWS/NC EP 大学 研究機関 大学 研究機関 NASA 観測データ利用のため 多くの協力が行われている その他の国々 EUMETSAT ECMWF, UKMO, MétéoFrance, DWD, ESA 30

31 まとめ モデルの改良 気象予測の高精度化のための更なる高解像度化 力学 物理過程の高度化の必要性 現業モデルとしての運用 運用上の様々な工夫 運用と開発のための高性能計算機の必要性 将来の計算機技術の動向を念頭においた検討 開発 競争と連携 世界の現業気象機関における国際競争や連携の存在 共同研究等における開発レベルアップの必要性 31

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