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金融資本市場 6 年 9 月 6 日全 7 頁 変容しつつある証券会社の収益構造 収益源の柱は委託手数料からその他の受入手数料に変化 金融調査部研究員菅谷幸一 [ 要約 ] 証券会社の業績は フロー収益を中心とするビジネスモデルの下 株式市場をはじめとする相場の動きに連動しやすく 変動の大きい傾向が見られる 証券会社の収益は 年度以降 アベノミクス等を背景にした市況や企業業績の回復を受けて 年連続で増加した しかし 直近の 年度には 前年夏場以降の世界的な金融市場の混乱や世界経済の先行き不透明感の高まりの影響を受けて 減少に転じた 純営業収益の推移を項目別に見ると 収益源の中心は 委託手数料からトレーディング損益やその他の受入手数料 ( 手数料収入のうち ブローカー業務 アンダーライティング業務 セリング業務以外の付随業務 兼業業務にかかる手数料 ) に変化しつつあるように見受けられる その他の受入手数料は ラップ口座の普及促進といった 証券会社のストック収益の拡大に向けた取組みにより その比重を増しつつある 証券会社の規模による収益構造の違いを見ると 収益源として 中小証券は委託手数料への依存度が高い一方 大手証券はより分散化しているという特徴がある 同様に費用構造を比較すると 中小証券は大手証券よりも人件費の割合が高い 営業収益対比の費用水準で比較しても 大手証券は中小証券よりも人件費の抑制が進んでおり 相対的に収益性が高くなっている 株式会社大和総研丸の内オフィス -676 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 号グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

/ 7. 証券会社の収支状況の変化 ~ 収益源の柱は委託手数料からその他の受入手数料に変化 ~ 証券会社の業績は フロー収益を中心とするビジネスモデルの下 株式市場をはじめとする相場の動きに連動しやすく 変動の大きい傾向が見られる 証券会社 ( 本稿では 日本証券業協会の会員会社計による業界集計ベースとしている ) の純営業収益および各損益の推移を見ても 市況の変化を受けて 証券会社の収支が大きく変動していることが分かる ( 図表 参照 ) 図表 証券会社の純営業収益と損益の推移..... -. 純営業収益 ( 右軸 ) 営業損益経常損益当期純損益 < 純営業収益の推移 > 証券会社の純営業収益 は 年以降 日本経済がゆるやかな回復局面となる中 増加基調を辿り 年度には 年代以降におけるピークとなる. 兆円に達した しかし その後 米国のサブプライムローン問題の深刻化そしてリーマン ショックを契機とした国際金融危機の発生 さらには欧州債務危機の影響を受けて 年度以降 純営業収益は減少基調となった こうした状況の中 年の東日本大震災の影響もあり 年度には. 兆円を下回る水準に至った このように純営業収益が低迷する状況が続いていたが 年秋以降には 安倍新政権および日銀の経済 金融政策に対する期待感の高まりから 円安 株価上昇の動きが急速に強まるなど 収益環境が改善に向かい始めた 年度には 純営業収益が増加に転じた その後も アベノミクスや日銀の異次元金融緩和政策の展開を背景とする企業業績の回復を受けて 純営業収益は 年連続で増加し 年度には約.8 兆円に回復した しかし 年度には 前年夏場以降の世界的な金融市場の混乱や世界経済の先行き不透明感の高まりを背景に 純営業収益は減少し.7 兆円となっている 年の金融商品取引法の施行により 有価証券関連業を営まない第一種金融商品取引業者も日本証券業協会の正会員として加盟することが可能となった 本稿では 便宜上 外為証拠金取引業 投資運用業 証券化 ファンド組成販売業など 狭義の証券業を営まない業者も証券会社として取り扱っている点に留意 純営業収益は 営業収益 ( 受入手数料 トレーディング損益 金融収益等から構成 ) から金融費用を差し引いた収益のこと

/ 7 証券会社の純営業収益を項目別 に分けて比較すると 最近では 委託手数料 その他の受入手数料 トレーディング損益が収益源として大きいことが分かる( 図表 参照 ) このうち 委託手数料に伸び悩みの様相が窺える一方 その他の受入手数料は増加を続け存在感を高めている ( 図表 参照 ) 図表 純営業収益 ( 項目別 ) の推移 図表 純営業収益 ( 項目別 ) の前年度比増減....8.6... 純営業収益引受け 売出し手数料その他の受入手数料金融収支 委託手数料募集 売出しの取扱手数料トレーディング損益その他の営業収益....... 委託手数料募集 売出しの取扱手数料トレーディング損益その他の営業収益 引受け 売出し手数料その他の受入手数料金融収支純営業収益 ( 委託手数料 ) 委託手数料は 年度をピークに 年度から 年度にかけて減少を続けたが 年度以降には持ち直しの動きが見られる ( 図表 参照 ) しかし 年度が 年度の半分の水準に留まっているように 委託手数料は過去の水準に比べて伸び悩む状況にある 委託手数料は 純営業収益に占める割合で見ると 年度には 割強を占め 構成比で最大であったが 年度には 割弱まで低下している このように委託手数料が伸び悩み 収益源として小さくなっているのは 趨勢的な手数料率の低下が背景にある 委託手数料は 売買代金 ( 数量要因 ) と手数料率 ( 価格要因 ) に分解される ( 委託手数料 = 売買代金 手数料率 ) 東証の総合取引参加者集計 から 株券現物委託手数料 6 を売買代金と手数料率に分けて見ると 手数料率が概ね低下を続けていることが分かる ( 図表 参照 ) これは 999 年 月の株式委託手数料の完全自由化後 インターネット専業証券会社の参入 / 台頭による影響を受けて 競争が厳しくなっていることが背景にある 近年では 年代半ばに比べ 本稿では 純営業収益を 受入手数料の内訳 ( 委託手数料 引受け 売出し手数料 募集 売出しの取扱手数料 その他の受入手数料 ) トレーディング損益 6 金融収支 (= 金融収益 - 金融費用 ) 7 その他の営業収益の 7 つの項目に分類している その他の受入手数料は 手数料収入のうち ブローカー業務 アンダーライティング業務 セリング業務以外の付随業務 兼業業務にかかる手数料のこと 口座管理手数料 投資信託代行手数料 コーポレートアドバイザリー手数料などを含む 日証協正会員 ( 外国法人を除く 9 社 ) のうち 東証総合取引参加者は 9 社 非取引参加者は 6 社 ( それぞれ 年度 ) 純営業収益ベースでは 全体に占める東証総合取引参加者の割合は 年度の 96.% から 年度の 86.6% へと 依然として大宗を占めるものの 低下傾向にある この点からも 日証協会員ベースと東証会員ベースとでは 必ずしも同じ動きにはならない点に留意 6 委託手数料は 株券 債券 投資信託関連等に分けられ うち株式関連が全体の 9.8% を占める また 株券現物委託手数料は 株式関連委託手数料の 9.6%( 委託手数料全体の 87.8% ) を占める ( 年度 )

/ 7 て 売買代金は高い水準にあるものの 手数料率が低下していることから 結果として委託手 数料が低い水準に留まっているということが窺える ( その他の受入手数料 ) その他の受入手数料の動向を確認すると リーマン ショック前の 年度までは 投資信託関連収益 ( 投資信託の代行手数料 ) 等の増加を背景に増加傾向にあったが 年度には 金融危機の影響を受けて大きく減少した ( 図表 参照 ) その後も 年度まで概ね減少していたが 年度以降は増加を続けている 大手をはじめとする証券会社は 投資信託の他 特にここ数年ではラップ口座サービスといった投資一任契約の推進を通じて いわゆる安定収益 ( 預り資産の残高に連動したストック性の収益 ) の拡大に力を入れており こうした取組みがその他の受入手数料の増加に表れてきたものと考えられる このような取組みの例として 図表 に示すラップ口座 ( 投資一任 ) の契約状況を見ると 契約件数 金額ともに 年 月末以降 急速に伸びていることが分かる 同件数 金額は 年 月末までは ~ 万件前後.8 兆円以下の水準で概ね横ばい推移していたが その後に急増し 6 年 月末には 8 万件超 ( 年 月末時点の 9. 倍 ).8 兆円弱 ( 同 7. 倍 ) となっている 証券会社による推進強化が アベノミクスを背景とした相場の好転や投資家心理の改善などと相俟って ラップ口座の大幅な拡大につながったものと推察される 図表 ( 株券現物 ) 委託手数料の要因分解 図表 ラップ口座の契約件数 金額 6 8 6..6%.%.8%.%. ( 万件 ) ( 年 / 月末 ) 6/ 7/ 8/ 9/ / / / / / / /6 /9 / 6/ 6 受託売買代金株券委託手数料率 ( 右軸 ) ( 注 ) 株券委託手数料率 = 株券現物委託手数料 受託売買代金 ( 出所 ) 日本証券取引所 東証総合取引参加者決算概況 より大和総研作成 金額 ( 右軸 ) 件数 ( 注 ) 投資一任のみ 投資助言は含まない ( 出所 ) 日本投資顧問業協会より大和総研作成 委託手数料は 市場動向に左右されやすいことに加え 証券会社間の競争激化による手数料率の引き下げで今後も大幅な拡大は見込みづらいと言える このようなフロー収益を補い 財務の安定性を高めていく上で ストック収益の強化を図る取組みが広がってきたと思われる 今後は ラップ口座の普及 定着等をはじめ 顧客の預り資産の長期保有につなげていけるかが課題となろう

/ 7 < 営業費用 ( 販売費 一般管理費 ) の推移 > 証券会社の販売費 一般管理費 ( 以下 販管費 ) の推移を純営業収益の動きと併せて見ると やや遅行するものの 一定程度の連動性があるように見受けられる ( 図表 6 7 参照 ) 項目別では 人件費や取引関係費においてこのような連動性が高い これは 人件費や取引関係費は その他の販管費 ( 不動産関係費や事務費 ) に比較して 変動費としての性格がより強い ( 変動費割合が高い ) ことを示唆するものと言える 人件費は こうした変動性に加えて 販管費全体に占める割合が高いことからも 販管費の主な変動要因となっている ( 図表 8 参照 ) ただし 年度以降は 取引関係費に比べて抑制的な推移を辿っており 販管費の増加圧力を和らげている 純営業収益を分母 販管費 ( 各項目 ) を分子とする比率 ( 以下 販管費率 ) で見ても 近年 純営業収益の水準に対して人件費が抑制されている状況が窺える ( 図表 9 参照 ) 図表 6 純営業収益と販管費 図表 7 純営業収益と販管費の増減率.......... 取引関係費人件費その他の販管費純営業収益販管費 - - - - 純営業収益 販管費 取引関係費 人件費 その他の販管費 図表 8 販管費の増減図表 9 販管費率 (= 販管費 ( 各項目 ) 純営業収益 )...... -. -. -. -. 販売費 一般管理費 取引関係費 人件費 その他の販管費 販管費 人件費 8 6 取引関係費その他の販管費 なお 年度の純営業収益 (.7 兆円 ) と同水準である 年度 (.7 兆円 ) を比較すると 取引関係費は増加 (+. 兆円 ) したものの 人件費の減少 (. 兆円 ) を主な要因として 販管費は減少 (. 兆円 ) している この点からも 人件費は 過去に比較して抑制されていると言え 証券会社のコスト削減に寄与していることが分かる

6 / 7. 証券会社の規模による収益 費用構造の違い ~ 収益源として委託手数料への依存度が高い中小証券 分散化される大手証券 ~ ここでは 証券会社の規模別に収益 費用構成と収益性を比較する 証券会社 ( 日証協会員ベース ) のうち 大手 準大手や外資系を含む本庁監理会社と 地方の中小証券会社等から構成される財務局監理会社の収益 費用構造の違いを確認する 7 図表 では それぞれの過去 年 ( 年度 ~ 年度 ) 平均の純営業収益 販管費の構成を示している 図表 規模による収益 費用構造の違い ( 左図 : 純営業収益 右図 : 販管費 ) 8 6 本庁監理会社 財務局監理会社 本庁監理会社 財務局監理会社 委託手数料 引受け 売出し手数料 募集 売出しの取扱手数料その他の受入手数料トレーディング損益金融収支 取引関係費 人件費 その他販管費 その他の営業収益 ( 注 ) 年度 ~ 年度の平均収益額 平均費用額それぞれに基づく 8 6 収益の構成については 本庁監理会社はトレーディング損益の構成比が高いものの収益源がより分散されている一方 財務局監理会社は委託手数料への依存度が高いという点で大きく異なる ( 図表 参照 ) また 本庁監理会社は財務局監理会社に比較して ホールセールや投資銀行業務に関連する収益のうち 引受け 売出し手数料や (M&A 等のアドバイザリー手数料を含む ) その他の受入手数料の構成比が高い これは 特に投資銀行業務による収益が大手証券会社や外資系証券会社に集中する傾向の表れと考えられる 費用の構成については 本庁 財務局監理会社の取引関係費の構成比は概ね同程度である一方 人件費の構成比を比較すると 財務局監理会社が本庁監理会社よりも pt ほど高い ( 図表 参照 ) さらに 人件費については 販管費率で比較しても 財務局監理会社が本庁監理会社を上回って推移しており 前者において販管費全体のコスト水準を高める要因となっている ( 図表 参照 ) 本庁監理会社は 規模の経済性も手伝い 財務局監理会社よりも人件費削減などの合理化で先行していると考えられる 7 外国法人を除く日証協正会員のうち 本庁監理証券会社は 8 社 財務局監理証券会社は 78 社 ( これらを合わせた国内証券会社は 6 社 ) 外国証券会社 ( ただし現地法人は国内証券会社に含まれる ) は 社 ( それぞれ 年度 ) 純営業収益ベースでは 全体に占める割合は 本庁監理会社 86.7% 財務局監理会社.8% 外国証券会社.%( それぞれ 年度 )

7 / 7 図表 規模による販管費率の違い 8 6 本庁監理会社 ( 販管費 ) 財務局監理会社 ( 販管費 ) 本庁監理会社 ( 人件費 ) 財務局監理会社 ( 人件費 ) ( 出所 ) 日証協より大和総研作成