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市場区分を導入した米国ピンクシート - 英国 AIM をモデルとした制度改革 - 気配表とは 各地のマーケット メーカー ( 特定の銘柄の売買気配を継続的に提示する証券会社 ) の提示する気配を一つにまとめた新聞のような出版物である ピンクシートという名称は この出版物の印刷に用いられた紙の色に由来する ちなみに 類似のものとして債券の気配を掲載するイエローシートも登場したが こちらは黄色の紙に印刷された ピンクシートは インターネットの普及を背景に 1999 年 9 月 紙の気配表から電子メディアへと変貌を遂げ イエローシートに掲載されていた債券の気配も併せて掲示するようになった 2000 年 6 月には現在のウェブサイト (www.pinksheets.com) を立ち上げている この電子化によって ピンクシート銘柄の気配表示は 従来の一日一回更新 ( それまでのピンクシートは日刊誌だったので ) からリアルタイム更新へと進化した なお 紙形態のピンクシート イエローシートは 過去のデータの参照などに便利なツールであることから 現在も月刊誌として刊行され続けている 2. 市場構造における位置づけピンクシートは しばしば ニューヨーク証券取引所 (NYSE) を頂点とし アメリカン証券取引所 地方取引所 ナスダック市場 OTC ブリティンボード (OTCBB: 全米証券業協会 (NASD) が運営する非上場株の気配表示システム ) と続く米国の株式市場における階層構造の最下部 ( あるいは裾野 ) にあたるものとして紹介されるが そうした理解は必ずしも正確ではない ピンクシートは マーケット メーカーの申し出に基づいて気配を掲載する掲示板であり NYSE に上場された銘柄は掲載されないというようなルールは特に設けられていない さすがに実際に NYSE 銘柄の気配をピンクシートで提示する証券会社は存在しないよう だが ナスダック上場の流動性の低い銘柄や OTCBB 銘柄は 多数ピンクシートにも気配が掲載されている 2007 年 2 月末現在 189 の証券会社がマーケット メーカーとしてピンクシート上で売買気配を提示しており 約 5,000 銘柄の気配が掲載されている 3. ピンクシートにおける情報開示もっとも どんな銘柄でも気配を掲載できるという点だけに着目するならば ピンクシートが 米国株式市場の 最下層 をなすという理解もあながち間違いとは言えないだろう ピンクシートよりも 上層 の市場で取引されるためには 株式の発行会社は 日本の有価証券報告書等に相当する継続開示書類を証券取引委員会 (SEC) に提出しなければならない これはマーケット メーカーの申請によって登録が行われる いわば 勝手上場 の市場である OTCBB についても同じである 1 これに対して ピンクシート銘柄の発行者は 法定の継続開示義務を負わない限り 財務情報等を開示する必要はない 米国証券法の下では 過去に公募 (public offerings) を行っていても株主数が 300 名を下回っていれば継続開示義務は免除されるし レギュレーション D の規則 504 に基づく私募で発行された株式であれば なんら開示義務は課されず かつ転売制限も付されないので ピンクシート銘柄として取引されるケースもある 従って 財務情報等が継続的に開示されていない銘柄は ピンクシートには決して珍しくないのである Ⅲ.OTCQX の概要 1. 満たすべき基準 3 月にスタートした OTCQX は この 玉石混淆 のピンクシートに優良銘柄であるこ 25

とを明示するための区分を設けようとする試みだと言える すなわち ピンクシート銘柄のうち 発行者が監査済み財務諸表を SEC への届出やピンクシート社のウェブサイト上での開示などの方法によって開示し 100 人以上の売買単位 ( 通常は 100 株 ) 保有株主が存在し 既に実態のある事業を営んでいる といった条件を満たす発行者が発行する銘柄を プライム QX として区分する さらに 上の プライム の基準を満たした上で 毎年株主総会を開催し 気配値が 1 ドル以上であり 取引所上場の数値基準を満たす発行者が発行する株式を最上位の プレミア QX として区分する 以上の区分は 米国内企業を対象とするものだが 米国外の 適格取引所 (qualified foreign exchanges) 2 に上場されている株式については NYSE 上場基準を満たし得るものを インターナショナル プレミア QX 満たし得ないものを インターナショナル プライム QX にそれぞれ区分する 2. 登録の状況ピンクシート社は 現在ピンクシート及び OTCBB で取引されている銘柄の 20% 程度が OTCQX に区分されるための以上四つの基準のいずれかを満たしているものと判断しているが OTCQX 銘柄の発行者は 申請手数料 (4 月 30 日以降は 1 万ドル ) 登録維持手数料 ( 同プレミアは年間 2 万 4 千ドル プライムは 1 万 8 千ドル ) を負担しなければならないとされていることから 銘柄区分は 自動的に付与されるわけではなく あくまで発行者の申請に基づくことになっている 3 月 5 日の取引開始時点で OTCQX に区分された米国内の会社はコンピュータ サービス メリテージ ホスピタリティ モロ コーポレーションの 3 社 外国会社は デイ ソフトウェア ホールディング グロー ベックス マイニング エンタープライゼス ウォルマート デ メヒコの 3 社であった その後 4 月 5 日までに 3 社が新たに OTCQX のいずれかの区分に位置づけられている Ⅳ. アドバイザー設置の要求 OTCQX 銘柄として登録されるためには 以上のような形式的な基準を満たしていることに加えて 情報開示その他の証券規制上の要請を発行者に遵守させる役割を担うアドバイザーを指名する必要がある アドバイザーには 国内企業向けの 指定情報開示アドバイザー (DAD : Designated Advisors for Disclosure) と外国企業向けの 米国リエゾン主幹事 (PAL : Principal American Liaisons) の二種類が設けられている いずれも ピンクシート社の承認を受けた投資銀行もしくは法律事務所でなければならず 既に複数の投資銀行や法律事務所が同社の承認を受けている 例えば ADR( 米国預託証書 ) の設定 管理者としてしられるバンク オブ ニューヨークは ADR 管理銀行として PAL の資格を得ている ピンクシート社によれば この DAD PAL 制度は 英国のロンドン証券取引所が運営する株式店頭市場である AIM (Alternative Investment Market) における指定アドバイザー (Nomad : Nominated Adviser ) 制度にならったものだとされる AIM は 形式的な上場基準が設けられておらず ロンドン証券取引所の公式市場とは異なり 英国上場審査局 (UK Listing Authority) による上場審査も行われないなど きわめて規制の緩やかな市場であるにもかかわらず 登録企業数 売買金額ともに近年順調な伸びを示している ( 図表 2) とりわけ 最近は 資源関連セクターなどを中心に英国外企業の登録が増加している サーベイン 26

市場区分を導入した米国ピンクシート - 英国 AIM をモデルとした制度改革 - 図表 2 ロンドン証券取引所 AIM の上場企業数 売買金額の推移 ( 社 ) 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 海外企業国内企業売買金額 ( 右軸 ) ( 単位 : 億 ) 600 500 400 300 200 100 0 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 ( 年 ) 0 ( 注 ) 上場企業総数は 12 月末時点の数値 売買金額については年間の合計 ( 出所 ) ロンドン証券取引所資料より野村資本市場研究所作成 ズ オクスリー法 (SOX 法 ) に規定された内部統制報告 監査制度の適用される米国での取引所上場を避けて 欧州市場に資金調達や株式流通の場を求める企業の中にも AIM 登録の途を選ぶものが少なくないと言われる AIM が規制や監督の緩やかさにもかかわらず 投資家の間で一定の信認を獲得している重要な要因として Nomad の存在があるとの指摘は少なくない Nomad は 契約先企業の株式が AIM で取引されるのにふさわしいものであるかどうかについての審査を行い 登録後は 企業に対して取引所の規則を遵守するために助言する役割を担う また 必要な情報開示のタイミングや内容についても助言や支援を行う Nomad となるのは 取引所の認定を受けたコーポレート ファイナンス分野で実績のある業者だが 業種は証券会社や銀行には限られず コンサルタント会社 法律事務所など様々である Ⅴ. 非 OTCQX 銘柄への区分の導入ピンクシート社は OTCQX スタート後の 2007 年 5 月にも OTCQX 登録以外の気配表示銘柄についても 発行者に関する情報開示が行われている水準に応じて 次のような区分を設ける方針を明らかにしている 第一は エマージング株式リスト (Emerging Equities List) と呼ばれ 法定の継続開示書類を届出ているか もしくはピンクシート社の定める情報開示ガイドラインに従って米国の会計基準 (GAAP) に基づく財務諸表など一定の情報を開示するが 創業時の資金調達を図る会社など 経営実態がないために OTCQX には分類され得ない銘柄群である この区分に属するためには OTCQX 銘柄と同様に DAD を指名し 情報開示の内容に問題がないことを保証してもらわなければならない 第二は SEC 開示が行われている銘柄 (SEC Current) であり SEC に法定の継続開示書類を提出していることが区分の要 27

件である 第三は 開示が行われている銘柄 (Current Information) であり SEC に対する法定開示書類の提出を行わず 米国会計基準に基づく監査も受けていないが ピンクシート社の定める情報開示ガイドラインに沿った財務情報などの開示を行う会社である この区分に属する銀行及び米国外企業については 開示する情報に関する特則が設けられている 第四は 情報が限定的な銘柄 (Limited Information) であり 過去 6 ヶ月以内に一定の情報開示を行っているが それらの情報が現在も有効なものではないという会社である 経営破綻して上場廃止になった銘柄などが属することになる かつてピンクシートでは ワールドコムが最も取引高の大きい銘柄になった時期もあった 日本では 取引所上場廃止となった銘柄は 取引の場が失われてしまうことになるが ピンクシートには そのような銘柄の売買気配も盛んに提示されているのである 第五は 情報のない銘柄 (No Information) であり 過去 6 ヶ月以内に何らの情報開示も行われておらず 取引高の少ない要注意銘柄である また ピンクシート社は スパム メールその他のいかがわしい方 法によって投資推奨が行われている銘柄については システム上で 要注意 の表示を行うとしており この 情報のない会社 に分類される銘柄が同時に 要注意 銘柄に該当する場合には 気配の表示を停止するとしている 以上の銘柄区分が完成すれば 約 5,000 のピンクシート銘柄は 投資家が入手できる情報の質と量の違いに従って 上に示したような区分のいずれかに位置づけられることになる ( 図表 3) Ⅵ. 評価と展望 1. 注目すべき試み OTCQX を始めとする新たな銘柄区分の導入によって 一定水準以上の情報開示が行われている銘柄とそうでない銘柄を容易に識別できるようにすることで ひいては登録銘柄の発行者による情報開示の充実を促そうとするピンクシートの試みは注目に値する 情報開示の充実した銘柄の認知度と流動性が向上し 逆に情報開示が十分に行われていないとされた銘柄が投資家から敬遠されるようになれば マーケット メーカーもそうした銘柄から手を引き 結果的に登録銘柄全体の情報開示の水準が向上するという帰結も期待され 図表 3 ピンクシートにおける銘柄区分 (2007 年 5 月以降 ) 国内株式外国株式プレミア QX 銘柄インターナショナル プレミア QX 銘柄プライム QX 銘柄インターナショナル プライム QX 銘柄エマージング株式リスト銘柄 SEC 開示が行われている銘柄開示が行われている銘柄情報が限定的な銘柄情報のない銘柄 ( 出所 ) 筆者作成 28

市場区分を導入した米国ピンクシート - 英国 AIM をモデルとした制度改革 - るだろう 他方 取引所市場への上場に伴って課せられる広範な情報開示義務によって生じるコスト負担に見合うだけのメリットが十分に期待できないと考える発行者にとっても ピンクシートが導入する仕組みの柔軟性は高く評価できるだろう ピンクシート社は 今回の仕組みが とりわけサーベインズ オクスリー法の内部統制報告 監査制度の適用を嫌ってはいるものの 米国市場で資金調達や株式流通を可能にしたいと考える外国企業に受け入れられることを期待しているようである 3 2. アドバイザー設置の意義また ピンクシートが AIM にならってアドバイザーの指導による情報開示水準の向上を図ろうとしている点も注目に値する アドバイザーは公的な監督機関ではなく また契約先企業による情報開示の不正などに必ずしも法的な責任を負うものではないが 契約先企業が不祥事を引き起こせば 自らの評判を低下させるというレピュテーショナル リスクを負っている 昨今 日本の新興企業向け ( に決して限られないが ) 株式市場においても 有価証券報告書の虚偽記載など情報開示をめぐる不祥事が少なくない 法令上の義務と罰則 監督の仕組みを整えても 不祥事が後を絶たない理由の一つは 開示を行う企業側には情報を偽ることで株価を高く維持する強いインセンティブが働くのに対し 公的なモニタリングを全ての開示会社に徹底して及ぼすことは不可能に近いという構造が存在することである 日本の証券会社の引受関係者の間では 新規公開や増資の際のデュー ディリジェンスは 一定のノウハウを備えた証券会社が関与すればかなり徹底して行われるのに対して 基本的に企業側の判断で行われる株式公開後の継続開示の内容については そこまでの品質管理が及んでいないとの見方が根強い あ る公開関係者は 長期間にわたって公募を行っていなかった公開企業のデュー ディリジェンスを手掛けると 過去の開示内容に問題点が見つかり 有価証券報告書の訂正等を行うことが必要になることは決してまれではないと漏らしている 4 こうした実態を踏まえれば AIM やピンクシートのように 法令上の情報開示義務は緩やかであっても 常時開示内容をモニタリングし 必要な指導や助言を行うアドバイザーを設置させることで 適正な情報開示を確保するという手法の導入は 日本においても検討に値するのではなかろうか もちろん アドバイザーは 企業が指名し契約するものであり 手数料を支払うのも企業である 従って コスト負担者の意向に左右される危険性があるという監査法人や格付け機関をめぐって指摘される問題点は ここにも当てはまる しかし そうした問題点についても アドバイザーが交替する場合にその事実や理由を開示させる アドバイザーが一定期間以上不在となった場合には登録を抹消する (AIM もピンクシートもそうした制度を採用している ) といった対応を講じることで ある程度まで解決することが可能であろう ピンクシートの試み自体は 今のところ登録企業の反応が薄く アドバイザーとなる法律事務所や投資銀行の数も限られているなど 順調に AIM の米国版となることができるという保障はない とはいえ ピンクシートの試みが成功するか否かにかかわらず 市場制度の設計を考える上で その取り組みが示唆するものは決して小さくないだろう 1 米国の証券法上継続開示義務が課されるのは 上場証券の発行者 過去に公募を行い一定数以上の株主が存在する発行者などであり 上場 ではなく株式店頭取引の対象に過ぎない OTCBB 銘柄 29

2 3 4 の発行者には法定の開示義務は課されていなかった しかし OTCBB の運営者である NASD の規則に基づき 1999 年 1 月 4 日以降に OTCBB へ登録された銘柄の発行者は 法定の継続開示義務を負うこととされた この規則改定の経緯や背景については 拙稿 米国における株式店頭市場改革 資本市場クォータリー 1998 年冬号参照 また この規則制定以前から登録されている会社についても 2000 年 6 月以降 継続開示義務が課されている なお 取引所上場銘柄の発行者は 法定の継続開示義務に加えて 取引所の規則に基づく適時開示 ( タイムリー ディスクロージャー ) を求められるが OTCBB には適時開示に関する制度は存在しない ピンクシート社が認定した取引所であり 現在のところ 東京証券取引所を含む世界の 20 取引所が指定されている サーベインズ オクスリー法の適用対象となる SEC 登録銘柄でなくとも インターナショナル プレミア QX やインターナショナル プライム QX 銘柄としてピンクシートを通じて取引される可能性はある 筆者のヒアリングによる 30