背景 これまで遺伝子治療には DNA が用いられてきましたが DNA は生体内 DNA への取り込みによる発がんの危険性や 導入に用いるウイルスベクターによる感染の危険性があり 実用化には至っていません そこで DNA に代わって登場してきたのが mrna( 注 1) です mrna は 遺伝子 D

Similar documents
研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

生物時計の安定性の秘密を解明

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

<4D F736F F F696E74202D2095B68B9E8BE68E7396AF8CF68A4A8D758DC D18F4390B3816A2E B8CDD8AB B83685D>


報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

Microsoft Word - PRESS_

診療情報を利用した臨床研究について 虎の門病院肝臓内科では 以下の臨床研究を実施しております この研究は 通常の診療で得られた記録をまとめるものです この案内をお読みになり ご自身がこの研究の対象者にあたると思われる方の中で ご質問がある場合 またはこの研究に 自分の診療情報を使ってほしくない とお

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

Untitled

背景 人工 DNA 切断酵素である TALEN や CRISPR-Cas9 を用いたゲノム編集技術により 遺 伝性疾患でみられる一塩基多型を導入または修復する手法は 疾患のモデリングや治療のた めに必須となる技術です しかしながら一塩基置換のみを導入した細胞は薬剤選抜を適用で きないため 正確に目的

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 新学術用まとめ.docx

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

Microsoft PowerPoint - プレゼンテーション1

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

CiRA ニュースリリース News Release 2014 年 11 月 20 日京都大学 ips 細胞研究所 (CiRA) 京都大学細胞 物質システム統合拠点 (icems) 科学技術振興機構 (JST) ips 細胞を使った遺伝子修復に成功 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの変異遺伝子を修復

-2-

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

Microsoft Word doc

学報_台紙20まで

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

PRESS RELEASE 平成 31 年 2 月 6 日 名古屋市立大学事務局企画広報課広報係 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄 1 TEL: FAX: MAIL: HP UR

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

記 者 発 表(予 定)

遺伝子治療用ベクターの定義と適用範囲

Microsoft Word CREST中山(確定版)

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

Microsoft Word - 01.docx

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

情報提供の例


図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

Microsoft Word - ③中牟田誠先生.docx

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

1. 背景先に述べた通り 炎症は古くから知られる免疫応答の一つであり 放っておいても自然に治まるような軽いものであれば 多くの人が経験しているので 割りと身近であり 深刻には感じられていないかもしれません ただ一方で 炎症がずっと続いてしまうアトピー性皮膚炎や喘息 関節リウマチなどの難病に苦しむ人も

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

Untitled

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

Microsoft Word - tohokuuniv-press _01.docx

教育・研究・資金の三位一体による

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

過去の医薬品等の健康被害から学ぶもの

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

長期/島本1

汎発性膿庖性乾癬の解明

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02 - コピー.docx

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

Transcription:

PRESS RELEASE 平成 30 年 11 月 15 日 厚生労働記者会 厚生日比谷クラブ 文部科学記者会 科学記者会 名古屋教育医療記者会 名古屋市政記者クラブ 岐阜県政記者クラブと同時発表 名古屋市立大学事務局企画広報課広報係 467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄 1 TEL:052-853-8328 FAX:052-853-0551 MAIL: ncu_public@sec.nagoya-cu.ac.jp HP URL:http://www.nagoya-cu.ac.jp/ 夢の新薬 mrna 医薬 を実現に導く mrna 安定化技術を開発 外来性 RNA の分解機構を解明 研究成果は 英国科学誌 Nucleic Acids Research( ヌクレイック アシッズ リサーチ ) 電子版に 2018 年 11 月 5 日 ( 英国時間 ) 掲載 ( 日本時間 11 月 6 日 ) 名古屋市立大学大学院薬学研究科の星野真一教授 細田直講師 野木森拓人 ( 大学院生 ) は 兵庫県立大学 岐阜大学との共同研究の成果として mrna 医薬に用いる人工 mrna の細胞内における分解機構の全容を解明することに成功しました この分解を抑えることで これまで困難とされてきた不安定な mrna 医薬を安定化することを可能にし 夢の新薬 mrna 医薬 の臨床応用実現に向けて可能性を開きました 本研究成果は 英国科学誌 Nucleic Acids Research( ヌクレイック アシッズ リサーチ ) 電子版に 2018 年 11 月 5 日 ( 英国時間 ) ( 日本時間 11 月 6 日 ) に掲載されました 本研究成果のポイント 遺伝子治療には DNA の使用が試みられてきたが DNA は発がんのリスクや ウイルスベクターを使うことによる感染の危険性があり実現には至っていない mrna 医薬は DNA と異なりウイルスベクターを使う必要がなく 発がん等の危険性もない安全な遺伝子治療薬として期待が高まっている 一方で mrna は細胞内において不安定であることが mrna 医薬実現に向けて大きな障壁となっていた 本研究では 生体にとっては異物である mrna 医薬の分解機構の全容を世界に先駆けて解明し この分解を抑えることで mrna 医薬を安定化することを可能にした 1 遺伝子治療の他 2 ウイルス疾患の治療 3 がん免疫療法 4iPS 細胞の作成 5 疾患原因因子の補充療法など 広範な疾患に適用される夢の新薬として注目されている mrna 医薬 の臨床応用実現に道を開いた 1 / 6

背景 これまで遺伝子治療には DNA が用いられてきましたが DNA は生体内 DNA への取り込みによる発がんの危険性や 導入に用いるウイルスベクターによる感染の危険性があり 実用化には至っていません そこで DNA に代わって登場してきたのが mrna( 注 1) です mrna は 遺伝子 DNA から作られる生体分子であり 遺伝子 DNA の情報を保持していますが DNA のもつ発がん等の危険性がありません この mrna を人工的に合成し これを mrna 医薬 ( 注 2) として治療に応用しようという動きが世界的に高まってきています ところが mrna は生体内において不安定である ことが この mrna 医薬の実現に向けて最大の障壁となっていました これまでの研究では 生体内 mrna の分解機構に基づいて これを回避するような構造を mrna 上に付与するといった試みが数多く報告されてきましたが いずれも良好な結果は得られていませんでした その最大の理由は 外から投与する mrna 医薬 も 生体内 mrna と同じ分解機構で分解されるという誤った認識に基づいて研究が行われてきた点にあります 研究成果の内容 研究チームはこれまで 生体内 mrna の分解機構の研究において実績を上げ 2007 年に 生体内 mrna の分解機構 を解明しました ( 図 1) 図 1 生体内 mrna の分解機構生体内の mrna はタンパク質合成装置であるリボソームによって翻訳された後 翻訳因子 erf1-erf3 が mrna から解離します それを引き金として 分解酵素 Pan2-Pan3 と Caf1-Ccr4 が mrna 上にリクルートされ これらの因子によって mrna が末端からゆっくりと分解されていきます この分解機構に基づき mrna 医薬 として用いる人工 mrna の分解を調べたところ 生体内 mrna と同じ構造をもつにもかかわらず 人工 mrna は生体内 mrna とは全く異なる分解機構で分解されるという予想外の知見を得ました 生体内 mrna は 線状の RNA 分子の末端から分解されていくのに対して 人工 mrna は分子中央で切断され急速に分解されていることをつきとめまし 2 / 6

た 研究チームはこの新たな分解機構の全容を解明し ( 図 2) mrna が翻訳 ( 注 3) をうけた後分解されていくというメカニズムの共通性がある一方で 生体内 mrna とは異なる特異的な分解因子 Dom34, OAS3, RNase L が分解に関わっていることを証明しました 図 2 に示すように まず 人工 mrna が生体内に取り込まれるとオリゴアデニル酸合成酵素 OAS3 が活性化し ATP を基質にしてこれを重合した 2-5A という化合物を合成します この 2-5A が RNA 分解酵素 RNase L を不活性な単量体から活性型の二量体へと変換します その一方で 人工 mrna は細胞内においてタンパク質合成装置であるリボソームによって翻訳をうけますが 生体外から入り込んだ人工 mrna 上でリボソームが停止し この停止したリボソームを識別して Dom34 とよばれる翻訳因子が会合して ここに活性型 RNase L を呼び込むことで 人工 mrna が急速に分解されます このような分解機構に基づいて 分解に関わるこれらの因子を阻害剤やノックダウンという手法を用いて阻害することで人工 mrna(mrna 医薬 ) を細胞内において安定化することにはじめて成功しました 図 2 人工 mrna(mrna 医薬 ) の分解機構 mrna 医薬 として用いられる人工 mrna は 生体内に取り込まれると生体内 mrna と同様にリボソームによって翻訳をうけますが 翻訳因子 Dom34 が人工 mrna を外来 RNA として識別します そして RNA 分解酵素である RNase L を呼び込むことで 人工 mrna は分子中央で切断され 急速に分解されていきます 3 / 6

今後の展開 本研究は 日本医療研究開発機構の B 型肝炎創薬実用化等研究事業 [ 個別化医療に対応したゲノム編集技術による肝臓内 HBV ゲノムの完全不活化を目指した革新的治療法の包括的開発 ( 溝上雅史代表 )] において実施したものであり B 型肝炎の治癒を最終的な目標としています 本研究では B 型肝炎の患者の肝臓内に潜伏する B 型肝炎ウイルス DNA をゲノム編集 ( 注 4) という手法により破壊することで根治することを目指しており その際投与するゲノム編集遺伝子 mrna 医薬の安定化に本技術を応用します 今回の研究成果により mrna 医薬の分解に関わる因子を特定し これを阻害することで mrna 医薬を安定化することが可能となりました 現在 東京大学 名古屋大学 製薬企業との共同研究により これら因子を標的としてより効率よく分解を抑える阻害薬の開発を進めています 本研究で開発した mrna 安定化技術は B 型肝炎以外のウイルス疾患治療にも広く応用が可能です ( 図 3) また 山中 4 因子の mrna を使って細胞を初期化する ips 細胞の作製や がん抗原をコードする mrna を樹状細胞に導入して生体内でワクチンをつくらせるがん免疫療法 疾患原因因子をコードする mrna を投与しておこなう補充療法など 今後広範な臨床応用に適用されることが期待されます ( 1 ) 癌免疫療法癌抗原をコードする mrna を抗原提示細胞に導入する癌免疫療法 ( 3 ) ウイルス疾患の治療ゲノム編集遺伝子 ZFN/ TALEN/ CRISPR-Cas9 を mrna として細胞に導入し ウイルス DNA を破壊する ( 2 ) ip S 細胞の作製ウイルスベクター DNA の代りに安全な mrna を使用 ( 4 ) 疾患原因遺伝子の補充療法原因因子に対する人工合成 mrna を用いてその機能欠損を補う 3 図 3 今後の展開 4 / 6

用語解説 1. mrna:dna とよく似た核酸とよばれる生体成分で 生体内において遺伝子 DNA がもつ情報が写し取られて作られる この mrna をもとにタンパク質が作られることで遺伝子の機能が発揮される 2. mrna 医薬 : 生体成分である mrna を人工的に合成し これを生体内に投与することで生体にとって好ましいタンパク質を作り出す次世代の薬 3. 翻訳 :mrna の遺伝情報をもとにタンパク質が作られる反応 4. ゲノム編集 :DNA を部位特異的に切断する酵素であるヌクレアーゼを用いて 遺伝子を自在に改変する技術 原著論文 英国科学誌 Nucleic Acids Research( ヌクレイック アシッズ リサーチ ) 論文タイトル :Dom34 mediates targeting of exogenous RNA in the antiviral OAS/RNase L pathway(dom34 は抗ウイルスシステム OAS/RNase L 経路において外来性 RNA を標的化する ) 著者 :Takuto Nogimori 1, Kyutatsu Nishiura 1, Sho Kawashima 1, Takahiro Nagai 1 Yuka Oishi 1, Nao Hosoda 1, Hiroaki Imataka 2, Yoshiaki Kitamura 3, Yukio Kitade 3 and Shin-ichi Hoshino 1 共同研究 / 協力施設 : 名古屋市立大学 1, 兵庫県立大学 2 3, 岐阜大学 謝辞 本研究は JSPS 科学研究費補助金挑戦的研究 ( 萌芽 )(JP17K19357) の助成をうけ 日本医療研究開発機構 (AMED) 肝炎等克服実用化研究事業 B 型肝炎創薬実用化等研究事業 : 個別化医療に対応したゲノム編集技術による肝臓内 HBV ゲノムの完全不活化を目指した革新的治療法の包括的開発 ( 溝上雅史代表 ) 武田科学振興財団 名古屋市立大学特別研究奨励費の支援により行われました お問い合わせ先 研究全般に関するお問い合わせ先 名古屋市立大学大学院薬学研究科教授星野真一 467-8603 名古屋市瑞穂区田辺通 3-1 Tel: 052-836-3427 Fax: 052-836-3427 E-mail: hoshino@phar.nagoya-cu.ac.jp 岐阜大学名誉教授北出幸夫 E-mail: ykkitade@aitech.ac.jp 工学部化学 生命工学科助教喜多村徳昭 E-mail: kitamura@gifu-u.ac.jp 501-1193 岐阜市柳戸 1-1 Tel: 058-293-2641 Fax: 058-293-2794 5 / 6

AMED 事業に関するお問い合わせ先 日本医療研究開発機構戦略推進部 感染症研究課 ( 肝炎等克服実用化研究事業担当 ) 100-0004 東京都千代田区大手町 1-7-1 Tel: 03-6870-2225 Fax: 03-6870-2243 E-mail: hepatitis@amed.go.jp 6 / 6