卒論研究計画書 国際総合科学部経済学コース 4 年長瀧優衣 非正規労働と公的年金 1. はじめに公的年金には多くの問題がある 消えた年金 漏れた年金 世代間格差などの批判を浴びている 高齢者であれば年金を減らされるのではないかと 若者であれば年金をもらうことすらできないのではないかと不安を抱えている それに加えて 新たな問題が浮上してきた 平成入ってから非正規労働者の割合が増えてきたが そのような状況は想定されてこなかったため 今の年金制度では対応できない可能性が高いのである 卒業論文では いかにして非正規労働者が増えても持続可能な公的年金制度を構築するか検討してみたい 2. 日本の公的年金の構造 日本の公的年金は 1 階部分と 2 階部分に分かれている 1 階部分は全ての国民が加入 する国民年金である 2 階部分には 厚生年金と共済年金がある 1 図 1 公的年金の構造 共済年金 厚生年金 国民年金 1 階部分の国民年金では 国民を第 1 号被保険者 第 2 号被保険者 第 3 号被保険者に分ける 自営業者 学生 フリーター 無職の者は 第 1 号被保険者とされる 第 1 号被保険者は国民年金のみに加入する 会社員や公務員は 第 2 号被保険者とされる 第 2 号被保険者は国民年金と 厚生年金あるいは共済年金に加入する 会社員や公務員の配偶者で 所得が130 万円以下の者は 第 3 号被保険者とされる これまで日本の年金制度は 自営業で家計を支えるか 正社員として企業に勤めることを前提に設計されてきた 自営業者は定年退職がないため 国民年金のみで問題がなかった たとえば農家であれば 60 歳をすぎても農業を続けることができるため 食費を中心にする生活費や食料に困らない 会社員や公務員は定年退職があるが 年金を受け取る 1 平成 27 年 10 月から統合され厚生年金のみとなる 1
年齢になったら国民年金と厚生年金の 2 種類を受給できるようになっている 3. 非正規労働と公的年金 平成に入ってから 非正規労働者が増加してきた 平成 26 年度には 役員を除く雇用 者全体の 37.4% が非正規雇用になった 2 以下は 非正規労働者の推移である 図 2 非正規労働者の推移 ( 厚生労働省 正規雇用と非正規雇用労働者の推移 http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046231.html より作成 ) 非正規労働者は 正社員と同じように年を取ると解雇されるのに 自営業者と同じ第 1 号被保険者になっている かつては非正規雇用で家計を支えるということはなく 夫が会社員や公務員として働くかたわらで 妻などがパートとして働くというようなことが多かった そして 年金を受け取る年齢になれば 夫の国民年金と厚生年金または共済年金に 妻の国民年金を加えた金額がもらえた そのような状況では 非正規労働者が第 1 号被保険者であっても問題はない しかし 現在では家計を非正規労働のみで支える人もいる 非正規労働のみで家計を養ってきた場合 老後に国民年金しかもらえないため 必然的に年金の受給額が低くなる そして 国民年金だけで生活するには 金額が低すぎるという問題もある 現在の国民年金受給額 (1 人あたりの満額 ) は 平成 26 年度で64,400 円 平成 27 年度で60, 508 円である 3 国民年金をもらえない人は 条件を満たせば生活保護を受給することになる 平成 27 年 4 月の高齢者単身世帯 (68 歳 ) の生活扶助基準額の例は 東京都区部等では79,790 円 地方郡部等では64,480 円となっている 4 この例では国民年金よりも生活保護の方が多くもらえることになる 生活保護は最低限の生活を送るために 2 厚生労働省 非正規雇用 の現状と課題 3 厚生労働省 (2015) 平成 27 年度の年金額改定について 4 厚生労働省 生活保護制度 に関する Q&A 2
支給される つまり 国民年金だけでは最低限の生活もできないということになる そして実際に 非正規雇用者のなかには 国民年金を納めていない人が多いという問題もある 1 号期間の滞納者の割合は 常用雇用が35.6% 臨時 パートは29.0% となっている 自営業主は23.1% 家族従業者は16.5% 無職は25.7% なので 常用雇用や臨時 パートの割合が高いことがわかる 5 国では年金を納めやすくすることで年金保険料の徴収体制強化を行おうとしている 法律案に盛り込んだ時候の概要は (ⅰ) 納付猶予制度の対象者を 30 歳未満の者から50 歳未満の者に拡大する ( 省略 ) (ⅲ) 現行の後納制度に代わって 過去 5 年間の保険料を納付することができる制度を創設する (Ⅳ) 保険料の全額免除について 指定民間事業者が被保険者からの申請を受託することができる制度を設ける (ⅴ) 滞納した保険料等に係る延滞金の割合を軽減する となっている 6 これだけで充分かどうか検討しなければならない 滞納を続けると老後に国民年金がもらえなくなり 生活保護を受給することになる 生活保護制度はこれまで様々な問題が指摘されてきた 社会保障費は日本の財政を大きく圧迫している 生活保護費の社会保障費の中での割合は小さいが 生活保護受給者が増えれば事態に拍車をかけることになるだろう それを避けるためには 非正規労働者も年金を納めることができるように制度を変えること そして 保険料を払う意義をなくさないよう生活保護とのバランスをとることが必要だ 非正規雇用者が年金を受け取れるようにするためには 新たに財源を用意する必要もあるだろう その方法としては 厚生年金を拡大する方法と 税金で賄う方法があげられる 厚生年金を拡大する方法は 非正規労働者が保険料を払える分には問題はない しかし実際には 国民年金を払えない非正規労働者がいることから 厚生年金も難しいだろう また 年金が少ない人に所得移転することも考えられるが この方法だと年金を多く納めた人が納めていない人の分まで払うことになる そうなると 納めることができる人にとっては必要以上に保険料を払うことになるため 将来世代が年金を納めなくなる可能性がある したがって 足りない分の年金は税金で賄うのがよい そこで どの税金を上げるかが問題になるが 消費税で賄うという意見が一般的である 国も社会保障費を消費税で賄おうとしている その理由としては 景気に左右されにくく税収が安定していること 経済活動に中立的であることがあげられている 7 また 国民年金は国民全員のものであり国民全員が負担すべきなので その点でもふさわしい 消費税は国の主要な財源のひとつで 充分な税収も期待できる より税収を増やすために 相続税も引き上げるとよいのではないか ここで 相続税の 5 厚生労働省年金局 (2012) 平成 23 年国民年金被保険者実態調査結果の概要 P1 1 6 厚生労働省 (2014) 平成 26 年版厚生労働白書 P368 7 財務省 (2015) 日本の財政関係資料 P21 3
概要を説明しよう 相続税は 死亡した人の財産を相続や遺贈によって取得した配偶者や子などに 財産に応じて課す税である 相続税には2つの機能がある ひとつは 所得税の補完機能で 死亡した人が生前受けた税制上の特典や負担の軽減などを 死亡と同時に清算することができる もうひとつは 富の集中抑制機能で 相続は偶然の富であるので 相続できる人とできない人に大きな差ができないようにすることができる 相続税の良いところは 裕福な人に多く課税できることだ また そもそも年金には保険としての役割があり 寿命の短い人から寿命の長い人への所得移転をする機能がある 相続税であれば 寿命の短い人から税金をとり 寿命の長い人の年金にできる この面でも相続税は適している 4. 卒業論文に向けて非正規雇用者が 老後に生活保護に頼ることのないような制度改革を考えていきたい そのために 非正規労働者が保険料を払いやすくなる方法を考える それでも老後の年金が不足する分を 消費税や相続税でどのように賄っていくかを考える 参考文献 石崎浩 (2012) 公的年金制度の再構築 信山社佐藤博樹 (2011) 有期契約の直用人材や派遣社員など外部人材の活用拡大と人事管理 労働政策の課題 : 企業の人材活用の視点から 年金と経済 vol30 p3-9 永瀬伸子 (2011) 若年非正規雇用の現状と年金を含めた社会的保護のあり方 年金と経済 vol30 p10-22 松丸和夫 (2007) 非典型労働者と公的年金 古郡鞆子編 非典型労働と社会保障 中央大学出版部 p143-157 三木義一 (2012) 日本の税金 岩波新書山崎伸彦 (2011) 非正規労働者の適用 保険料徴収について 年金と経済 vo l30 p23-28 李青雅 (2007) 非典型労働者の年金問題と老後生活 古郡鞆子編 非典型労働と社会保障 中央大学出版部 p159-186 Nicholas Barr & Peter Diamond (2010), Pension Reform A Short Guide, Oxford University Press 参考 URL 日本年金機構 (2014) 公的年金の種類と加入する制度 (2014 年 5 月 11 日アク 4
セス ) https://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=1726 厚生労働省 (2015) 平成 27 年度の年金額改定について (2015 年 7 月 20 日アクセス ) http://www.mhlw.go.jp/file/04-houdouhappyou-12502000-nenkinkyoku-nenkinka/00 00072680.pdf 厚生労働省年金局 (2012) 平成 23 年国民年金被保険者実態調査結果の概要 (2 014 年 7 月 6 日アクセス ) http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/140-15a-h23.pdf 税務署 相続税のあらまし ( 平成 27 年分用 ) (7 月 23 日アクセス ) https://www.nta.go.jp/souzoku-tokushu/souzoku-aramashi.htm 厚生労働省 生活保護制度 に関するQ&A (7 月 23 日アクセス ) http://www.mhlw.go.jp/file/06-seisakujouhou-12000000-shakaiengokyoku-shakai/qa nda.pdf 厚生労働省 非正規雇用 の現状と課題 (7 月 25 日アクセス ) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046231.html 厚生労働省 (2014) 平成 26 年版厚生労働白書 (7 月 23 日アクセス ) http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/ 総務省 (2014) 生活保護に関する実態調査結果報告書 (7 月 23 日アクセス ) http://www.soumu.go.jp/main_content/000305409.pdf 財務省 (2015) 日本の財政関係資料 (7 月 24 日アクセス ) http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201503/201503.pdf 税務大学校 (2015) 相続税法( 基礎編 ) 平成 27 年度版 (7 月 23 日アクセス ) https://www.nta.go.jp/ntc/kouhon/souzoku/mokuji.htm 5