業界 NEWS 株式会社ソリューションアンドパートナーズ info@sap-c.co.jp http://www.sap-c.co.jp 2010/03/29 民主党のパフォーマンス狙いか 改正 労働者派遣法 の骨抜き 3 月 19 日 政府は 登録型派遣や製造業務派遣の原則禁止を柱とする労働者派遣法改正案 を閣議決定した 本案は今国会で成立する見通しだ これによって 1986 年の施行以降 規制が緩和されてきた派遣法が規制強化へと向かう だが 規制強化対象の曖昧さや労働 者保護の視点の欠如から 骨抜き との見方が強い 3 月 12 日 派遣会社の業界団体である日本人材派遣協会の理事長 副理事長が揃って辞 任するひと幕があった 理事長の本原仁志 スタッフサービス社長と副理事長の桑原加鶴 子 ヒューマンリソシア社長の 2 人である 事の発端は 3 月 1 日に 厚生労働省が スタッフサービス ヒューマンリソシアに ヒ ューマンステージを加えた 3 社に対して 労働者派遣法に基づく業務改善命令を出したこ とだ これらの 3 社は 派遣期間に 1~3 年の制限がある業務を 期間制限のない専門 26
業務の一つである 事務用機器操作 などと称して 労働者を派遣していた こうした 偽 装 を当局に指摘され 業界団体のツートップが責任を取ったかたちだ 3 月 19 日に派遣法改正案が閣議決定される寸前に 今まで黙認されてきた 偽装 が白日 の下にさらされた 業界大手を狙い撃ちしたような厚労省の手法に対し 現行派遣法の 厳格運用を印象づけることで それをマイナーチェンジさせた改正派遣法の正当化をアピ ールしたのではないか ( ある人材派遣会社社長 ) と 業界では憶測を呼んでいる では 今回の改正案のポイントはどこにあるのか (1) 仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ 登録型派遣の原則禁止 (2) 製造業務派遣の原則禁止
(3) 日雇い派遣の原則禁止 (4) 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先労働者との均衡待遇 (5) 派遣会社によるマージン率の公開 ( 派遣労働者に 1 人当たりの派遣金額を明示 ) (6) 直接雇用みなし制度の導入 ( 違法派遣が認められた場合には 派遣先が派遣労働者に 労働契約を申し込んだものと見なす ) また 改正派遣法の正式名称には 派遣労働者の保護 という文言が新たに加えられ た 労働者派遣事業を取り締まる 事業者規制法 に加えて 派遣労働者を個人単位で守 る 保護法 の性格を色濃くしたいがためだ 上記の 6 点について規制を強化し 労働者 保護の目的を鮮明にしたはずだった 指導官 1 人で 5000 人違法性チェックの体制不備 だが 改正派遣法は二重の意味において 骨抜きにされかねない 第 1 に 野党時代に民主党が描いていた派遣法改正案とは 似て非なる素案となった その乖離は 規制強化の対象となった派遣労働者数を比較すると一目瞭然だ
当初は 200 万人の派遣労働者のうち 一般労働者派遣の製造業務派遣 48 万人の大半と 専門業務以外かつ常用雇用以外の労働者 17 万人を合計した最大 65 万人を 派遣 の枠組 みからはずす予定だった ところが 規制対象はそれほど拡大することはなさそうだ というのも (1) 登録型派 遣 (2) 製造業務派遣共に 常用雇用 が禁止対象から除外されたためだ ややこしいのは この常用雇用の解釈だ 一般的には 期間の定めのない雇用 とい われるが 派遣法の運用指針として 明確な定義があるわけではない 紆余曲折があり
改正派遣法では 過去 1 年を超える期間について雇用されている者 または 採用時か ら 1 年を超えて雇用されると見込まれる者 とされた つまり 労働者が派遣会社と雇用契約を結ぶときに ( 真偽はともかく ) 向こう 1 年 は雇う見込みだ と 派遣会社が言い張れば その労働者は常用雇用と見なされるため 派遣禁止の対象とはならない 登録型派遣 製造業務派遣を 原則 禁止としながらも 常用雇用の解釈次第で抜け道ができて たちまち禁止の例外に置かれてしまう となれば 改正案の規制対象は 当初の最大 65 万人どころか 一般労働者派遣の常用雇用以外労働者 ( 専門 26 業務を除く )37 万人を大幅に下回るだろう しかも 通常 優良な派遣会社は規制を厳格に守ろうとするし 悪質な派遣会社は規制 をかいくぐろうとするものだ 派遣の対象業務の規制強化は 良質な派遣会社の退場 悪 質な派遣会社の存続を同時に促す危険もはらんでいる 第 2 に 労働者保護 の一環として盛り込まれた項目が機能しない可能性が高い まず (4) 派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先労働者との均衡待遇と記されたも のの 具体的なアプローチについてはまったく触れられていない 次に 違法派遣があった場合に (6) 直接雇用みなし制度が導入されるが 違法性をチェ ックする地方労働局の体制が不十分だ
1986 年に施行された派遣法の対象は 2008 年度には 派遣労働者数 198 万人 派遣元 事業所数 8 万 4000 所 派遣先事業所数 127 万 6000 所へと激増した 違法性を見極める実動部隊は 労働者派遣事業の指導監督を行う需給調整指導官だ 全 国の都道府県労働局に指導官は 404 人配置されており 指導官 1 人が担当する派遣元 派 遣先事業所数は約 3400 所 派遣労働者数は約 4900 人に上る これでは 厳正なチェック などできるはずもない 公務員増加に直結する マンパワー拡充はきわめて難しい状況だ 詰まるところ 今回の派遣法改正は 悪質な派遣会社を締め出すわけでもなく 労働者 の雇用安定にもつながらない いったい何のための改正なのだろうか
派遣の 禁止 よりも 均衡待遇 を ある厚労省関係者は 民主党は マニフェストどおりに派遣の規制強化をやり遂げた というパフォーマンスを狙っているのだろう そこに 労働者保護という思想はない と 手厳しい 実際に 置き去りにされた議論も多い たとえば 登録型派遣禁止の例外とされた専門 26 業務の精査だ 事務用機器操作 ファイリングという とても専門的とはいえない職種 も含まれている 専門業務は政令で定められており 政令変更を伴う派遣法改正ともな ると半年は要する ( 厚労省幹部 ) のだという こうして 昨年 1 月に 民主党自らが廃案にした 自民党による派遣法案 をたたき台 にして それをマイナーチェンジさせた改正案が まもなく国会を通過する 八代尚宏 国際基督教大学教授は 政府は 派遣 = 悪い働き方と決めつけて 規制を 強化して派遣労働者を締め出すのではなく むしろ 派遣対象職種を拡大すべき と主張 する その際には同時に 派遣先企業への規制強化 派遣元企業への教育訓練の強化とい った 労働者個人の利益につながる項目を盛り込むことが必須条件だ
改正案のように 派遣の対象業務を禁止しようにも 例外という抜け道ができるのなら ば いっそのこと 派遣の対象業務を拡大して土俵を広げ かつ 派遣労働者の処遇改善 につながる方向へ 法改正をするのも一計だろう その第一歩は 同一価値労働 同一賃金に向けた均衡待遇 の考え方の導入だ これ は民主党が掲げる雇用 人材戦略にも盛り込まれている 派遣労働者にとって 正社員と 同じ仕事ならば同じ賃金が欲しい というのは切実な要望だ 実際には 正社員と派遣労働者とでは いかほどの格差があるのだろうか 日本労働組 合総連合会はこの 3 月に 初めての試みとして 傘下の産別組合ごとに職種別賃金 ( 正社 員 月収 ) を調査し それを基に本誌が時給換算を行った 年齢 35 歳前後で 正社員は時 給 1400~2300 円の賃金を得ている 一方 派遣労働者の時給は 1000 円台前半がほとん どだ
派遣先が派遣会社へ支払うマージンを考慮したとしても 電機 精密製造で 931 円 医療 事務で 635 円ものギャップがある 正社員と派遣とのあいだにある時給ギャップのうち 合理的に説明できない 格差 は是正すべき ( 小林良暢 グローバル産業総研所長 ) だ もっとも 企業別賃金が残る日本では 欧州のように職種別賃金市場が確立しているわ けではない そのため 同一価値労働 同一賃金の前提となる職務の明確化 細分化が必 要だ 山田久 日本総合研究所ビジネス戦略研究センター所長は 派遣の専門 26 業務を廃 止する代わりに 能力資格認定のある新たな専門職制度を導入すべき 均衡待遇の浸透に は 単純業務派遣から専門職派遣 専門職派遣から正社員へと スムーズに転換できる仕 組みが不可欠だ という 民主党が本気で 均衡待遇 の浸透を進めるならば 拙速に派遣法改正を行う前に 緻密 な制度設計の構築が必要なはずだ ( 週刊ダイヤモンド )