大学と学生第541号大学生薬物事犯の現状_警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課(小野田 博通)-JASSO

Similar documents
H26_第4章.indd

大学生と薬物乱用 ~最近の大麻等違法薬物

< F2D EC090D1817A C C82502E6A7464>

第三次薬物乱用防止五か年戦略

報道発表平成 29 年 2 月 23 日東京税関 覚醒剤の押収量 過去最高! 覚醒剤の摘発件数は 50 件 押収量は約 447kg ~ 平成 28 年の東京税関における不正薬物密輸入事犯の取締り状況 ~ 東京税関において平成 28 年中に摘発した不正薬物 1は 合計で241 件 / 約 485kg

Microsoft PowerPoint - 平成30年度 薬学講座講師研修会【資料Ⅰ 最近の薬物情勢】(4

平成 9 年不正薬物の種類別摘発実績 不正薬物摘発数 不正薬物摘発押収量 6kg % kg % kg 1% 6 3% 6 11% 6 6% 4 18% 1 4% 16kg 3% 83kg 68% 覚醒剤大麻麻薬向精神薬指定薬物 1 覚醒剤密輸入事犯の概況 この資料における表記について 押収量の とは

第四次薬物乱用防止五か年戦略(本文)

各薬物事犯における密輸入事犯や営利犯等の違反態様別の数値には 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律 ( 以下 麻薬特例法 という ) 違反を適用した検挙件数 人員は含まない 平成 26 年 11 月 25 日 薬事法の

Microsoft Word - 【修正後(H )】鳥取県薬物濫用対策推進計画(全文)

H26_トピックス.indd

Microsoft Word - 005_巻末資料.doc

( 件 / 人 ) 12, 交通事故の推移 (S4~) ( 人 ) 18 1, 8, 6, 4, 2, 死者数 人身事故件数 負傷者数 S4 S45 S5 S55 S6 H2 H7 H12 H17 H 約 2 倍 6 人身事故件数及び負傷者数は 平成 14 年以降減少傾

1 覚醒剤密輸入事犯の概況 押収量は 過去 1 年で最高の約 374kg であった 摘発件数 118 件は 過去 1 年で最多の平成 23 年 (148 件 ) に次ぐものであった 覚醒剤摘発実績 ( 全国税関との対比 ) 1 kg 全国押収量東京押収量全国件数東京件数 件

Microsoft PowerPoint - 九州厚生局業務概要【平成30年版】

「治安に関する特別世論調査」の概要

大学と学生第559号「大学生における大麻乱用の現状と予防対策」_鳴門教育大学(吉本 佐雅子)-JASSO

合 ( 6 割強 ) と比較しても際立って高く, 特に, 万引きの占める割合が約 8 割にも及び, 男子 ( 5 割弱 ) に比べ著しく高い 図は, 交通法令違反 ( 平成 15 年までは交通関係 4 法令違反に限る ) を除く特別法犯について, 女子の送致人員等の推移 ( 過去

県下の非行情勢 1 平成 29 年中における少年非行の情勢 ⑵ ⑶ 概況 少年非行の主な特徴 少年非行情勢の推移 刑法犯少年, 触法少年の検挙 補導人員の推移 (H2 年 ~H29 年 ) 特別法犯少年, 触法少年の検挙 補導人員の推移 (H2 年 ~H29 年 ) 不良行為少年の推移 (H2 年

平成 9 年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況. 不正薬物等不正薬物全体の摘発件数は 件 ( 前年比 % 減 ) 押収量は約,9 kg ( 前年比 % 減 ) といずれも減少したが 摘発件数については過去 番目 押収量については過去 番目と 依然として深刻な状況となっている ( 摘発件数

no_drug_01-08_

同窓会報22jpg.indd

PDF用CS同窓会報24.indd

平成 年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況. 不正薬物等不正薬物全体の押収量は約, kg ( 前年比約. 倍 ) と大幅に増加し 平成 年 ( 約,kg) に次ぐ過去 番目を記録するなど 深刻な状況となっている また 摘発件数は 件 ( 前年比 % 減 ) と 指定薬物の大幅な減少を要因

資料2 「第四次薬物乱用防止五か年戦略」及び「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」フォローアップ<薬物乱用対策推進会議>2

第 3 章埼玉県の薬物乱用対策の現状と課題 1 予防啓発 2 回復支援 3 取締指導 11

【広報資料】【H27上】コミュニティサイト等に起因する事犯の状況

薬物乱用の現状と対策

untitled

道警最前線 ~ 現場からのメッセージ~ 25 第 4 北海道警察の組織と公安委員会制度 27 1 北海道警察の組織 27 (1) 組織の概要 (2) 警察署の機能強化に向けた再編整備計画案 (3) 平成 29 年 4 月 1 日統合の警察署における結果 ( 平成 29 年 4 月 ~ 平成 30 年

Taro HP


Microsoft Word - 1245.1.4.doc

乱用の低年齢化の背景 1 薬物乱用の危険性に対する認識の欠如 2 薬物乱用への抵抗感の低下 (1) 使用方法の簡便化 ( 注射から吸引へ ) (2) 薬物名称のファッション化 3 薬物の入手の容易化 (1) 不良外国人による無差別な密売 (2) 携帯電話 インターネットの普及 (3) 国内での不正栽

我が国では 過去 1 年間に 銃器犯罪により の尊い命が奪われ の拳銃が押収されています 銃器を使用した凶悪事件は まさか こんなところで というところでも発生しています 身近に迫る凶悪犯罪 事件ファイル 1 事件ファイル 2 パチンコ景品交換所における拳銃使用の強盗事件 居酒屋におけるライフル使用

第節 暴力団対策 暴力団情勢 暴力団は 近年 伝統的な資金獲得活動や民事介入暴力 行政対象暴力等に加え そ織 実態を隠ぺいしながら 建設業 不動産業 金融証券市場へ進出を図るなどし 企業活動 を仮装した一般社会で資金獲得活動を活発化させている また 公共工事に介入して資金を獲得したり 公的融資制度等

暴追やまぐち

(2) あなたは選挙権年齢が 18 歳以上 に引き下げられたことに 賛成ですか 反対ですか 年齢ごとにバラツキはあるものの概ね 4 割超の人は好意的に受け止めている ここでも 18 歳の選択率が最も高く 5 割を超えている (52.4%) ただ 全体の 1/3 は わからない と答えている 選択肢や

輸入差止件数及び点数の推移 輸入差止件数は 前年に比べ 61.4% 増加の 7,923 件であり 年ベースでは過去 7 番目となりました ( 年ベースの過去最高は平成 25 年の 10,468 件 ) 輸入差止点数は 前年に比べ 31.0% 減少の 165,804 点であり 年ベースでは過去 16

生活安全管理官から 昨年の管内情勢と今年の活動重点 について 1 犯罪の検挙活動等について身近な犯罪の盗撮や痴漢等は ゆめタウン ツタヤ ドンキホーテ等若者のい集場所で多発傾向にあるが 女子便所内にカメラを仕掛ける事案も発生し 今後も同種事案が懸念される 2 少年警察関係等 (1) 少年関係事案の特

1 鹿児島県の治安について ( ) は, 前回アンケート結果 ( 平成 29 年 1 月実施 ) 問 1 あなたは, 現在の鹿児島県が治安が良く, 安全で安心して暮らせる県であると思いますか どちらともいえない ( 変わらない ) 27% (27%) そう思わない 6% (8%) 1% (5%) そ

sotaiki

111211しながわ-1.indd

過去の暴力団の典型的な活動は 伝統的な資金源とされる覚醒剤の密売 みかじめ料の徴収などでしたが 平成 4 年の暴力団対策法の施行後の取り締まりの強化により 暴力団の資金活動は巧妙化していきました 暴力団自らは表に出ることなく 企業活動を仮装するなどして資金活動を行っており 暴力団関係企業と知らずに取

Microsoft PowerPoint - 5.ppt [互換モード]

薬物乱用防止高校生会議リーフレット

表紙

<4D F736F F D E9197BF C A8DC494C696688E7E8E7B8DF482CC8DA18CE382CC93578A4A2E646F63>

仕出国別 中国来の知財侵害物品の差止件数は 1,131 件であり 仕出国別の構成比では 前年に続き全体の約 8 割 (78.7%) を占めるに至っています 一方 2 位のフィリピン来が構成比 9.7% 3 位の香港来が同 4.8% を占めるにとどまっており 中国来への一極化の傾向にあると言えます な

親と同居の未婚者の最近の状況(2016 年)

平成 30 年 1 月から 6 月までの名古屋税関における知的財産侵害物品の差止状況 輸入差止件数は 936 件で 前年同期比 30.4% の減少となったものの 6 年連続で 900 件を超えました 輸入差止点数は 14,893 点で 前年同期比 46.2% の減少となりました 知的財産侵害物品の輸

 

C. 研究結果 考察 1, 全国統計にみた自殺の次推移 ( 表 1 図 1) 1899~23 以降の全国人口動態統計からの推移をみてみると 第二次世界大戦前の自殺死亡率は 12~22 前後で大戦後よりも低値であった 一方 毎の全 人当たりのについても大戦前は 6~13 と大戦後に比較して低かった 全

交通関係 過失運転致死傷等検挙人員 49 万 4,306 人 ( 前年比 6.9% 減, 平成 17 年から連続して減少 ) 危険運転致死傷検挙人員 593 人 ( 前年比 4.7% 減 ) うち致死事件 45 人 道交違反取締件数 ( 送致事件 ) 30 万 8,116 件 ( 平成 12 年から

暴力団対策 暴力団情勢 暴力団は 近年 伝統的な資金獲得活動や民事介入暴力 行政対象暴力等に加え そ織 実態を隠ぺいしながら 建設業 不動産業 金融証券市場へ進出を図るなどし 企業活動 を仮装した一般社会で資金獲得活動を活発化させている また 公共工事に介入して資金を獲得したり 公的融資制度等を悪用

2 大麻取締法 1948 年に制定された法律 以下は条文の一部である 第四条何人も次に掲げる行為をしてはならない 一大麻を輸入し 又は輸出すること ( 大麻研究者が 厚生労働大臣の許可を受けて 大麻を輸入し 又は輸出する場合を除く ) 二大麻から製造された医薬品を施用し 又は施用のため交付すること

(4) 被害金交付形態別の認知状況 現金手交型及び現金送付型は 認知件数 被害額がいずれも減少し 対策の効果が見られた 振込型の認知件数が増加し 還付金等詐欺の増加の影響が見られた 交付形態別認知件数 ( 既遂のみ ) 交付形態別被害額 27 年 4,884 4,787 2,67 27 年 91.1

-171-

Ⅰ. 児童の権利条約 1. 主な青少年相談機関の概要 機関名 ( 所管官庁 ) 設置主体 相談業務の内容 ( 相談に応じている者 ) 設置状況相談受理 件数 法務局 国 人権擁護委員や法務局職員がメ ール, 電話又は面談により被害 相談に応じている 児童相談所 都道府県指定都市児童相談所設置市 児童

県民の期待と信頼に応える力強い警察 ~ 安全で安心して暮らせる石川の実現 ~ としたものである 2 重点目標の策定 運営の指針に基づき 具体的な業務を推進する上で県警察が重点的に取り組むべ き目標として 次のとおり重点目標 7 項目を策定した なお それぞれの設定趣旨 重点推進事項等については 別添

特許庁工業所有権保護適正化対策事業

SPOT ストップ金密輸 緊急対策について 図 1 金地金密輸の仕組み ( 例 ) 金国際市場ロンドンシンガポール香港等 輸出 5kg 2,500 万円輸出免税 (200 万円 ) 商社等 金買取店から商社等に転売 金地金 5kgの密輸 利益 200 万円香港等密輸入消費税分 200 万円を脱税 金

第 1 部 ペップトークとは 第 1 章 新時代のマネジメントを築く起爆剤 1.1 今を肯定し 未来を描く発想 8

平成29年度「青少年の非行・被害防止全国強調月間」実施要綱

<4D F736F F D FCD81408FEE95F197CC88E682C68FEE95F18CB92E646F63>

平成 26 年 11 月 コミュニティサイトに起因する 児童被害の事犯に係る調査結果 ( 平成 26 年上半期 ) 警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課

平成30年度「青少年の非行・被害防止全国強調月間」実施要綱

ネットワーク犯罪の現状と 不正アクセスの動向

平成24年度「安全安心まちづくり等推進事業(公1)」事業計画

Ⅲ 調査対象および回答数 調査対象 学校数 有効回答数児童生徒保護者 (4~6 年 ) 12 校 1, 校 1, 校 1,621 1,238 合計 41 校 3,917 ( 有効回答率 96.3%) 3,098 ( 有効回答率 77.7%) Ⅳ 調査の実施時期


警察署長又は本部捜査担当課長は 犯罪の検挙状況 被害者等からの相談 関係機関からの通報等により再被害防止対象者に指定する必要がある被害者等を認めるときは 再被害防止対象者指定等上申書 ( 様式第 1 号 ) により警察本部長に再被害防止対象者の指定を上申するものとする この場合において 警察署長は

お高い水準にあり 再犯者の占める割合も近年漸増傾向にある また 若年者 (20 歳以上 30 歳未満 ) の一般刑法犯検挙人員の人口比は少年よりも低いものの 成人一般に比べると高くなっている 一方 20 歳代に刑事処分を受け 保護観察付執行猶予となった者のうち約半数 刑務所に入所した者のうち約 4

3 睡眠時間について 平日の就寝時刻は学年が進むほど午後 1 時以降が多くなっていた ( 図 5) 中学生で は寝る時刻が遅くなり 睡眠時間が 7 時間未満の生徒が.7 であった ( 図 7) 図 5 平日の就寝時刻 ( 平成 1 年度 ) 図 中学生の就寝時刻の推移 図 7 1 日の睡眠時間 親子

親と同居の壮年未婚者 2014 年

表 6.1 横浜市民の横浜ベイスターズに対する関心 (2011 年 ) % 特に何もしていない スポーツニュースで見る テレビで観戦する 新聞で結果を確認する 野球場に観戦に行く インターネットで結果を確認する 4.

平成24年度「安全安心まちづくり等推進事業(公1)」事業計画

問 3 全員の方にお伺いします 日頃 サイバー犯罪 ( インターネットを利用した犯罪等 ) の被害に遭いそうで 不安に感じることがありますか この中から1つだけお答えください よくある % たまにある % ほとんどない % 全くない 全

平成30年版高齢社会白書(全体版)

2

違法配信に関するユーザー利用実態調査 【2010年版】

ヤングテレホンコーナー 警察では 少年や保護者等から 非行 家出 いじめ等少年問題に関するあらゆる相談を受け付けています 北海道道警ホームページ内東北地方都道府県名称電話番号 メールアドレス都道府県名称電話番号 メールアドレス 北海道 青森 岩手 宮城 秋田 山形 福島 東京 茨城 栃木 群馬 埼玉

1 平成28年度概算要求の概要(表紙)

< F2D906C8CFB93AE91D48A77322E6A7464>

DSM A A A 1 1 A A p A A A A A 15 64

2

仕出国別 来の知財侵害物品の差止件数は 660 件であり 仕出国別の構成比では 前年に続き全体の 8 割 (79.6%) を占めるに至っている 一方 2 位の来が構成比 9.0% 3 位の来が同 4.9% を占めるにとどまっており 来への一極化の傾向にあると言える なお 前年同期 2 位であった来は

第○学年 ○○科指導計画

留学ジャーナル『2016年夏休み留学動向』を発表

の間で動いています 今年度は特に中学校の数学 A 区分 ( 知識 に関する問題 ) の平均正答率が全 国の平均正答率より 2.4 ポイント上回り 高い正答率となっています <H9 年度からの平均正答率の経年変化を表すグラフ > * 平成 22 年度は抽出調査のためデータがありません 平

< F2D8DC494C696688E7E82C98CFC82AF82BD918D8D8791CE8DF42E6A>

図 3. 新規 HIV 感染者報告数の国籍別 性別年次推移 図 4. 新規 AIDS 患者報告数の国籍別 性別年次推移 (2) 感染経路 1 HIV 感染者 2016 年の HIV 感染者報告例の感染経路で 異性間の性的接触による感染が 170 件 (16.8%) 同性間の性的接触による感染が 73

平成 28 年度予算の概要 ( 目次 ) 平成 28 年度予算の概要 ( 総表 ) 1 第 1 テロ対策と大規模災害対策の推進 4 第 2 サイバー空間の脅威への対処 5 第 3 客観証拠重視の捜査のための基盤整備 6 第 4 組織犯罪対策の推進 7 第 5 生活の安全を脅かす犯罪対策の推進 8 第

平成 27(2015) 年エイズ発生動向 概要 厚生労働省エイズ動向委員会エイズ動向委員会は 3 ヶ月ごとに委員会を開催し 都道府県等からの報告に基づき日本国内の患者発生動向を把握し公表している 本稿では 平成 27(2015) 年 1 年間の発生動向の概要を報告する 2015 年に報告された HI

調査結果の概要 1. 自社チャンネルの加入者動向については消極的な見通しが大勢を占めた自社チャンネルの全体的な加入者動向としては 現状 では 減少 (50.6%) が最も多く 続いて 横ばい (33.7%) 増加 (13.5%) の順となっている 1 年後 についても 減少 (53.9%) 横ばい

< F2D E AD488C4>

スライド 1

ごあいさつ 埼玉県警察本部長 杵淵智行 埼玉県警察本部長の杵淵でございます 公益財団法人埼玉県暴力追放 薬物乱用防止センター賛助会員を始め 県民の皆様には 警察活動各般 とりわけ暴力排除 薬物乱用防止活動に関し 深い御理解と御協力を頂いておりますことに対しまして 厚くお礼申し上げます さて 暴力団は

目的状 況予算の 資金の流使れ途 事業所管部局による点検 評価項目評価に関する説明 広く国民のニーズがあり 優先度が高い事業であるか 国が実施すべき事業であるか 地方自治体 民間等に委ねるべき事業となっていないか 不用率が大きい場合は その理由を把握しているか の選定は妥当か 競争性が確保されている

けいしちょう安全安心モニター制度

Transcription:

40 大学と学生 2009.5 はじめに昨年来 大学生による薬物事件が大きく報道されており 大学生に薬物乱用が拡大しているのではないかと懸念されている 本稿では 大学生による薬物事犯の現状を中心に我が国の薬物事犯の現状について説明することとしたい なお 本稿中 意見にあたる部分は私見である また 平成二〇年の数値については暫定値である 一薬物事犯の現状我が国の薬物問題は 薬物検挙者の約八割を占める覚せい剤の乱用の歴史である それは 戦後の混乱期に始まり 戦後六〇年以上を経た現在も沈静化することなく続いている しかしながら 近年は 覚せい剤のみならず 違法 合法を問わず 薬物の乱用は益々多様化 巧妙化している現状にある (一)覚せい剤事犯歴史的には これまで三回の乱用期が断続的に発生している 第一回目は 終戦直後の昭和二〇年代から三〇年代にかけての流行 第二回目は 昭和四〇年代に始まり 昭和五九年にピークを迎えた流行 第三回目は 平成に入ってから現在まで継続している流行である 覚せい剤事犯の特徴は 再犯率が五〇%以上と非常に高 小野田博通(警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課課長補佐)

41 大学と学生 2009.5 いこと及び暴力団員の検挙の割合が五〇%前後と高いことが挙げられる 再犯率が高い要因は 覚せい剤の精神的依存性が高いこと 暴力団員の検挙の割合が高い要因は 他の薬物よりも利益幅が大きく その密輸 密売が資金源になっていることが挙げられる (二)大麻事犯我が国の大麻問題のはじまりは 戦後外国軍隊の基地周辺で軍人が使用したことによるものであった その後 現在まで概ね増加の一途を辿ってきている 特に 平成一三年以降は 増加傾向が顕著になっており 平成二〇年は 検挙人員二七七八人と前年比二二 三%増と過去最悪を記録した 特に大麻栽培事案が前年比約五〇%増加するなど リスクの高い海外からの密輸入から自己栽培へとシフトしてきている状況がうかがえる 大麻事犯の特徴は 初犯率が八〇%以上と非常に高いこと及び三〇歳未満の検挙人員の割合が六〇%以上と非常に高いことが挙げられる これらの要因として 覚せい剤と違い タバコ感覚で簡単に使用することができること 若者が好む繁華街の飲食店等及びインターネット等で簡単に入手できることが挙げられる 近年の傾向としては イン 暴力団の資金源としての密輸 密売 ( 仕出地は主に韓国 台湾 ) 青少年の乱用と中毒者による凶悪犯罪 徹底取締りにも完全に沈静化せず 暴力団に加え イラン人等密売組織による街頭密売 携帯電話を利用した密売 中 高校生のファッション感覚による乱用急増昭和 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62 1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 折れ線グラフは検挙人員 縦棒グラフは押収量 ( 覚せい剤粉末 ) を表す (g) 暴力団に加え イラン人等密売組織による街頭密売 携帯電話を利用した密売 中 高校生のファッション感覚による乱用急増 大量密輸入事件の続発による大量押収 ( 仕出地は主に中国 北朝鮮 ) 国内での密造 戦後の荒廃した社会にヒロポンが流行 罰則強化 徹底取締り 国民運動の展開により沈静化 暴力団の資金源としての密輸 密売 ( 仕出地は主に韓国 台湾 ) 青少年の乱用と中毒者による凶悪犯罪 徹底取締りにも完全に沈静化せず 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 ( 人 ) 図 1 覚せい剤事犯検挙人員 押収量の推移 ( 昭和 26 年 ~ 平成 20 年 )

大学と学生 2009.5 タ42 ーネット等を利用して大麻の種子を入手し その種子を発芽させて大麻を栽培する事案が急増しているほか レイブ と称する野外音楽パーティ等の若者が集う機会を利用して集団で大麻を吸引する事案も見られるなど 乱用者の裾野の広がりが懸念される状況にある ( 人 ) 2,778 2,288 2,209 1,104 2,003 1,464 1,173 1,070 487 185 6 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 33 35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 平 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 検挙人員図 2 大麻事犯検挙人員の推移 ( 昭和 33 年 ~ 平成 20 年 ) 図 3 押収した大麻及び栽培用具

43 大学と学生 2009.5 (三)MDMA等合成麻薬事犯MDMA等合成麻薬事犯は 平成一六年に初めてMDMA事犯が検挙されて以降 特に若年層の間に急速に広まっている その特徴は 大麻事犯と同じく初犯者の割合が八〇%以上及び三〇歳未満の割合が六〇%以上と非常に高いことが挙げられる 二大学生の検挙状況(一)刑法犯(交通業過事犯を除く)の検挙状況平成一九年の総検挙人員三六万五五七七人のうち大学生は一万三八六二人(三四%)であり 高校生四万二五七九人 中学生三万五六四人よりも少ない 主な犯罪としては 検挙人員の多い順に自転車等の占有離脱物横領七四七一人 窃盗四六六五人 詐欺三五二人となっている (二)薬物事犯の検挙状況平成二〇年の薬物事犯に占める大学生の割合は 総検挙人員一万四三二六人のうち 一一七人で〇 八%となっており 過去一〇年間でも六九人(〇 三%)から一四七人(一 〇%)とその割合はあまり高くない状況となっている ア覚せい剤事犯平成二〇年の覚せい剤事犯に占める大学生の割合は 総検挙人員一万一〇四一人のうち 一八人で〇 二%となっている 大学生の覚せい剤事犯は 過去一〇年間でも最高は平成一三年の四一人であり その割合は〇 二%と低い状況で推移している イ大麻事犯平成二〇年の大麻事犯に占める大学生の割合は 総検挙人員二七七八人のうち 八九人で三 二%となっている 大学生の大麻事犯は 平成一六年に一一四人(五 二%)が検挙されたのがこれまでの最高であり 翌一七年には検挙人員が六三人と大幅に減少したものの それ以降は増加傾向にあったが 平成二〇年は前年に比べ若干減少した しかしながら 大学生の大麻事犯については 大学内で売買が行われる 大学の仲間同士で吸引するなど 乱用の拡大が危惧される状況にあり 実際に検挙されている者は氷山の一角に過ぎないと思われる ウMDMA等合成麻薬事犯平成二〇年のMDMA等合成麻薬事犯に占める大学生の割合は 総検挙人員二八二人のうち 一〇人で二 〇%となっている

44 大学と学生 2009.5 三大学生大麻事犯検挙後の供述内容大学生の薬物事犯としては 平成二〇年に一一七人が検挙されているが そのうち大麻事犯が八九人と検挙者の四分の三以上を占めている 大麻事犯として検挙された大学生の供述内容は概ね次のとおりである (1)動機 薬物に興味があった 友人から誘われ断れなかった 海外で簡単に使用でき やめられなくなった (2)使用場所 自宅 友人宅 大学構内(3)購入先等 友人から 売人から インターネットで注文(4)購入場所 路上H16 H17 H18 H19 H20 全薬物検挙人員 15,048 15,803 14,440 14,790 14,326 大学生 147 102 114 122 117 構成比 (%) 1.0% 0.6% 0.8% 0.8% 0.8% 覚せい剤検挙人員 12,220 13,346 11,606 12,009 11,041 大学生 18 29 27 23 18 構成比 (%) 0.1% 0.2% 0.2% 0.2% 0.2% 大麻検挙人員 2,209 1,941 2,288 2,271 2,778 大学生 114 63 73 92 89 構成比 (%) 5.2% 3.2% 3.2% 4.1% 3.2% MDMA 等合成麻薬事犯 417 403 370 296 282 大学生 15 10 14 7 10 構成比 (%) 3.6% 2.5% 3.8% 2.4% 3.5% H 20 の数値は 暫定値である 図 4 薬物別検挙人員 ( 平成 16 年 ~ 平成 20 年 )

45 大学と学生 2009.5 大学構内 繁華街の飲食店内以上の供述内容の中で 特に大学生に限って見られる大学構内での売買及び使用についての理由として 警察に捕まる心配がなく安全 吸引していても周りが全く関心を示さない等 大学が薬物密売 使用の場所として 最適であったとしている また 大学生に大麻を密売していた売人を検挙した事件では 路上や電話注文による宅配で密売するよりも大学構内で密売する方が安全に売買できたと供述している 四警察の対策(一)供給の遮断警察は ほとんどの薬物が海外から流入していることから これを遮断するため 外国の取締機関や国内の関係機関と連携し 密輸入事件の摘発と供給ルートの壊滅に努めるとともに暴力団等の薬物密売組織の壊滅を推進している (二)需要の根絶警察は 末端乱用者の検挙に努めるとともに 乱用をしない規範意識を高めるための広報啓発活動を積極的に実施している 特に 中学生 高校生に対しては 薬物の危険性 有害性を正しく認識するための薬物乱用防止教室を開催している また 大学生に対しても各大学と連携して 薬物乱用防止のための啓発活動を実施している 五おわりに薬物を乱用する大学生の動機については 先に述べたとおりであるが 安易な動機による結果は非常に重い 安易な動機によって薬物に手を出し 検挙されて はじめてことの重大さに気付く 検挙後の彼らを待っているのは悲惨な未来である 将来のある大学生や若者たちを薬物から守るために 警察は供給の遮断 需要の根絶に向け 関係機関と連携しながら これからも各種施策を推進していく