4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

平成24年7月x日

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

平成24年7月x日

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

生物時計の安定性の秘密を解明

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

Microsoft Word - all_ jp.docx

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

課題番号 :27 指 1303 研究課題名 : 慢性 B 型肝炎の病態変動を検出するためのT 細胞染色試薬の開発 主任研究者名 : 宮寺浩子 キーワード :B 型肝炎ウイルス (HBV) 慢性 B 型肝炎 ヒト白血球抗原 (human leukocyte antigens; (HLA)), MHC

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository Neuronal major histocompatibility complex class I molecules are implicated in the generation

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています


平成24年7月x日

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

読んで見てわかる免疫腫瘍

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

Microsoft Word - HP用(クッシング症候群).doc

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

Microsoft Word - HP用.doc

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

平成14年度研究報告

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

汎発性膿庖性乾癬の解明

Microsoft Word - 3.No._別紙.docx

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

研究から医療へ より医療への実利用が近いもの ゲノム医療研究推進ワーキンググループ報告書 (AMED) 臨床ゲノム情報統合データベース公募 対象疾患の考え方の方向性 第 1 グループ ( 主に を目指す ) 医療への実利用が近い疾患 領域の着実な推進 単一遺伝子疾患 希少疾患 難病 ( 生殖細胞系列

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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PowerPoint プレゼンテーション

研究の内容 結果本研究ではまず 日本人のクロザピン誘発性無顆粒球症 顆粒球減少症患者群 50 人と日本人正常対照者群 2905 人について全ゲノム関連解析を行いました DNAマイクロアレイを用いて 約 90 万個の一塩基多型 (SNP) 6 を決定し 個々の関連を検討しました その結果 有意水準を超

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免疫タンパク質の不安定さが 自己免疫疾患のかかりやすさに関係 - 定説とは異なる発症機序の可能性 - 1. 発表者 : 宮寺浩子 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学分野助教 ( 研究当時 )) ( 現国立国際医療研究センター肝炎 免疫研究センター上級研究員 ) 徳永勝士 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学分野教授 ) 大橋順 ( 筑波大学医学医療系准教授 ( 研究当時 ))( 現東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻准教授 ) 北村俊雄 ( 東京大学医科学研究所細胞療法分野教授 ) Åke Lernmark( スウェーデンルンド大学 (Lund University) 臨床医科学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 1 型糖尿病のかかりやすさに関連する HLA 遺伝子型が 安定性が顕著に低い HLA タンパク質を 作ることを見出しました 1 型糖尿病などの自己免疫疾患の発症メカニズムが 従来の定説とは根本的に異なる可能性を示 しました 1 型糖尿病などの自己免疫疾患の発症機序の解明に貢献する成果です 3. 発表概要 : 1 型糖尿病 ( 注 1) などの自己免疫疾患は 体の免疫システムが自己の組織を異物 ( 病原体など ) と認識して免疫応答することにより引き起こされます 自己の組織か否かの認識に関与する分子として ヒト白血球抗原 (HLA) ( 注 2 図 1) と呼ばれるタンパク質があります HLA 遺伝子の多型 ( 遺伝子の配列が個人間で異なる部分 注 3) は 1 型糖尿病などのさまざまな自己免疫疾患に強く関連します しかし HLA が自己免疫疾患発症に関わる仕組みは十分に解明されていません 今回 東京大学大学院医学系研究科の宮寺浩子助教 ( 研究当時 ) 徳永勝士教授らの研究グル ープは HLA タンパク質の安定性 ( 注 4) を大規模に解析し 1 型糖尿病のかかりやすさに関連する HLA 遺伝子型が 安定性が顕著に低い HLA タンパク質を作ることを見出しました ( 図 2) 従来の研究では HLA 遺伝子多型と自己免疫疾患との関連は HLA タンパク質のペプチド結合性によって説明されていますが 実際の発症機序については不明な点が多く残されています 本研究で得られた知見は 自己免疫疾患発症の過程に これまでの定説とは根本的に異なる発症機序が働いている可能性を示唆します 研究グループでは この成果を糸口として 自己免疫疾患発症機序の根幹について さらなる解明に取り組んでいます

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 アフリカ系米国人などで報告されています 例えば欧米諸国では 1 型糖尿病に罹患した人の約 9 割が DR3-DQ2, DR4-DQ8 と呼ばれる HLA 遺伝子型の少なくとも一つを持ちます 日本人では別のタイプの HLA 遺伝子型が 1 型糖尿病のかかりやすさに関連します 長年の間 多くの研究者が HLA が自己免疫疾患を引き起こす仕組みを解明すべく取り組んでいますが その発症機序は明らかにされていません [ 研究の内容 ] 研究グループでは HLA のタンパク質の安定性 ( 注 4) が自己免疫疾患のかかりやすさに関わる可能性に着目し HLA タンパク質の安定性を推定するための測定手法を構築しました そして ヒト集団中の主要な HLA 遺伝子型 (HLA-DQ 座位 ) 約 100 種類について HLA タンパク質の安定性を測定し 1 型糖尿病のかかりやすさに関連する HLA 遺伝子型が 安定性が顕著に低い HLA タンパク質を作ること 逆に 1 型糖尿病のかかりにくさに関連する HLA 遺伝子型が非常に安定な HLA タンパク質を作ることを見出しました ( 図 2) 研究グループではさらに HLA タンパク質の安定性制御に関わるアミノ酸残基を変える遺伝子多型を同定し この遺伝子多型が 1 型糖尿病のかかりやすさに強く関連すること そして この遺伝子多型の起源が非常に古いことを明らかにしました [ 研究の意義 ] HLA 遺伝子の多型 ( 注 3) が さまざまな自己免疫疾患のかかりやすさに関連することは長年知られていますが その根本は未だに明らかではありません 従来の研究では インスリンなどの自己ペプチドを結合しやすい HLA が疾患の発症リスクを上げると考えられています 今回の研究結果は HLA のタンパク質安定性という これまで着目されていない特性も自己免疫疾患の発症率に大きく影響する可能性を示しました この知見は 従来の定説とは異なる発症機序が自己免疫疾患に関わる可能性を示唆します 研究グループでは この成果を糸口として 1 型糖尿病を始めとする自己免疫疾患発症の根底にあるメカニズムの解明を進めて行きます 本研究は 文部科学省科学研究費補助金 ( 新学術領域 : 先端技術を駆使した HLA 多型 進化 疾病に関する統合的研究 ) の助成を受けて行われました また 本研究の一部は 国際組織適合性ワーキンググループ (IHWG) および 日本糖尿病学会 1 型糖尿病調査研究委員会の報告を用いて行われました 1 型糖尿病の発症率は 地域や集団間での多様性が認められ 小児 1 型糖尿病の年齢調整発症率 (/10 万人 ) は フィンランドやイタリアのサルディニアでは約 40 と高値であるのに対し 日本では 1.4~2.2 と低値です 日本人での 1 型糖尿病の成因 診断 病態 治療を明らかにするためには十分な症例数を集積することが不可欠ですが 単独の施設での研究では症例数が不足します そのため 日本糖尿病学会 1 型糖尿病調査研究委員会は全国規模での症例を集積し 研究を進めています

5. 発表雑誌 : 雑誌名 :The Journal of Clinical Investigation(2014 年 12 月 8 日オンライン版 ) 論文タイトル : Cell-surface MHC density profiling reveals instability of autoimmunity-associated HLA 著者 : Hiroko Miyadera*, Jun Ohashi, Åke Lernmark, Toshio Kitamura, Katsushi Tokunaga DOI 番号 :10.1172/JCI74961 論文 URL:http://www.jci.org/articles/view/74961 6. 問い合わせ先 : 東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学分野宮寺浩子 ( みやでらひろこ ) 客員研究員 Tel. 03-5841-3692, Fax: 03-5802-8619 E-mail: miyadera-h@umin.net 7. 用語解説 : ( 注 1)1 型糖尿病 1 型糖尿病は主に自己免疫機序による膵 β 細胞の破壊性病変により インスリンの欠乏が生じて 発症する糖尿病です 膵 β 細胞の破壊 消失が進行し 通常 インスリンの絶対的欠乏 いわゆるイ ンスリン依存状態に陥ります インスリン依存状態に陥った場合 生命を維持するためにインスリン 投与が必要となります 1 型糖尿病は 遺伝因子と環境因子の相互作用によって発症し 遺伝因子が複数の遺伝子によっ て構成される多因子疾患です 1 型糖尿病の候補遺伝子として HLA( 注 2) と 1 型糖尿病との関連が 1970 年代に始めて報告されました 一方 1990 年代半ばから罹患同胞対法による遺伝解析が行わ れ HLA 遺伝子以外で 1 型糖尿病との連鎖が示唆された遺伝子座が 20 以上報告されています さらに近年 ゲノム全領域を対象とした疾患関連解析により 欧米人集団では 40 以上の遺伝子座の関 与が報告されています これまで 1 型糖尿病への関与が確認され 遺伝子の本体まで明らかになっ ている遺伝子は少なくとも 5 つありますが その中でもっとも強く疾患に関与するのは HLA 遺伝子で す HLA 遺伝子により 1 型糖尿病発症に関わる遺伝因子の 30-50% が説明できると考えられており HLA 遺伝子多型と疾患との有意な関連は様々な集団で証明されています ( 注 2)HLA(Human Leukocyte Antigens ヒト白血球抗原) 免疫系が病原体などに対して防御反応を行うためには 外から入ってきた異物 ( 非自己 ) を自分の体の器官 組織など ( 自己 ) と区別して見分ける仕組みが必要です この役割を担うのが 主要組織適合性複合体 (MHC:Major Histocompatibility Complex) です ヒトの MHC は HLA( ヒト白血球抗原 ) と呼ばれます ( 詳細は図 1 をご参照下さい ) ( 注 3)HLA 遺伝子の多型 HLA 遺伝子は非常に多型に富む遺伝子として知られ アミノ酸配列あるいは DNA 配列の違いによ って HLA 遺伝子型が区別されます 多型の多くはペプチドの結合に関わる領域に集中していますが

他の領域にも点在しています HLA 遺伝子の多型によりアミノ酸残基が変わると 翻訳されて作られ る HLA タンパク質の性質も異なります ( 注 4) タンパク質の安定性タンパク質はさまざまなアミノ酸から作られており 構成するアミノ酸どうしの相互作用の種類と強さ その数などによって タンパク質の安定性が決まります 安定性が高いタンパク質は生体内で長い時間その機能性を保ちますが 安定性が低いタンパク質では構造の一部が変化したり分解されたりすることで その働きを失いやすくなります

8. 添付資料 : 図 1:HLA タンパク質のはたらき HLA は獲得免疫応答の最初の段階に働くタンパク質です HLA タンパク質は臓器移植や骨髄幹細 胞移植での組織適合性に関わる分子としても知られています HLA タンパク質には短いペプチドを結合する部分があり ここに異物 ( 細菌 ウイルスなど ) に由来するペプチドや 自己の組織に由来する ペプチドが結合します HLA とペプチドの複合体が T 細胞受容体を介して T 細胞に認識されると さ まざまな免疫応答が開始されます HLA に自己のタンパク質に由来するペプチドが結合することもあ りますが 通常は自己の組織 器官に対する免疫応答は抑えられています 自己に対する免疫応答 を抑制する仕組みが何らかの理由で破綻すると 自己免疫疾患が引き起こされます

図 2: 今回の研究成果欧米人 日本人集団が持つ主な HLA 遺伝子型 (HLA-DQ 座位 ) が作る HLA のタンパク質安定性を測定した結果を示します 各 HLA タンパク質は安定性の高さの順に横軸に配置され 各 HLA タンパク質の安定性 ( 相対値 ) が縦軸に示されています 1 型糖尿病のかかりやすさに関連する HLA 遺伝子型は安定性が顕著に低い HLA タンパク質を作ること これに対して 1 型糖尿病のかかりにくさに関連する HLA 遺伝子型の殆どは安定な HLA タンパク質を作ることが分かりました