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器官を持つ種が存在する 眼点は形状の違いから 5 つのタイプに分けられるが 褐虫藻が持つ層状の結晶構造の集合体は 渦鞭毛藻の Gymnodinium natalense に見出された 5 番目のタイプの眼点 (Horiguchi and Pienaar 1994) によく似ている 最近 この褐虫藻の結晶は尿酸から出来ていることが明らかにされた (Clode et al. 2009) 尿酸あるいはグアニン等のプリン化合物は海産無脊椎動物の眼に多く含まれ さらに 図 1 Acropora muricata ( スギノキミドリイシ ) から取り出した褐虫藻サンゴ内で褐虫藻は球形の細胞形態で維持されている それらが層状になる場合もある (Land 1966) 褐虫藻 の眼点を含め このような層状構造は 高反射板や 1/4 波長板と呼ばれる特定の波長帯の光を効率よく反射 胞 球形細胞を詳細に比較することで 維持機構の手掛かりがつかめる可能性がある そこで 透過型電子顕微鏡を用いて 培養時の遊泳細胞 球形細胞の細胞微細構造と Aiptasia sp.( セイタカイソギンチャクの一種 ) Tridacna crocea( ヒメジャコガイ ) Sinularia lochmodes( シゲミカタトサカ ) Ctenactis echinata (= Fungia echinata: トゲクサビライシ ) に共生する動物内の褐虫藻のそれを比較した まず培養時の遊泳細胞と球形細胞を観察した結果 遊泳細胞にのみ結晶構造が規則正しく層状に積み重なった構造が見つかった ( 図 3) この細胞内器官は 細胞の縦溝( 渦鞭毛藻の 2 本の鞭毛のうち縦鞭毛が収まる溝 ) に沿って配置されていた 渦鞭毛藻類には眼点と呼ばれる細胞内 する光学素子に似ている わずか 10 µm 程度の単細胞藻類が工業製品にも似た複雑な器官を有しているのである 褐虫藻の眼点の詳細な構造や光学特性などは Yamashita et al. (2009) を参照されたい さて この眼点は培養時においても球形細胞には存在しない 正確に言うと 結晶自体は存在するが 図 3 のように規則正しく並ぶことはなく 個々の結晶が細胞内に点在する 褐虫藻は眼点を球形細胞へ移行する時に壊すか消化し 遊泳細胞へ変化する時に再構築する これを日周的に行っているのである では 動物内の褐虫藻ではどうだろうか 上記 4 種の動物をそれぞれ朝と夜に固定し 共生する褐虫藻を観察したが いずれの場合でも眼点は発見できなかった ただしヒメジャコガ イの褐虫藻にのみ まれにではあるが結晶の凝集塊をもつ細胞がみられた ( しかし 培養時のような規則正しい配列ではない ) シャコガイ類は他の動物とは異なり 褐虫藻を共生藻管と呼ばれる管で維持する細胞外共生であるため 図 2 サンゴから取り出し単独で培養した褐虫藻 (a) 昼間の遊泳細胞 : 鞭毛 ( 黒矢印 ) を有し活発に遊泳する 遊泳は回転運動が大部分を占める (b) 夜間の球形細胞 : 昼間使用した鞭毛を捨て 動かなくなっている この細胞形態でのみ細胞分裂を行う ( 白矢印 ) (Norton et al. 1992) 褐虫藻 はより自由生活状態に近いの かもしれない 15

さて 培養時の褐虫藻は図 2 で示した遊泳細胞と球形細胞という二つの細胞形態を日周的に行き来しているが 球形細胞へ移行するときに鞭毛は捨てている したがって球形細胞を光学顕微鏡下で観察しても鞭毛は見えないが 透過型電子顕微鏡下で観察すると 細胞内では次の日に使用する新しい鞭毛が用意されている 一方 動物内の褐虫藻は培養時の球形細胞と似ているが 鞭毛は造られない これは眼点以上に 動物内と自由生活状態の褐虫藻の決定的な差異であり 動物内では褐虫藻が本来持つ遊泳細胞への形態変化のサイクルが完全に抑制されている証拠でもある このように 培養時の褐虫藻は複雑な構造の眼点と鞭毛を毎日造っては捨てるという せわしない生活を送っているが 動物内では眼点や鞭毛を造らず 終日球形細胞の状態で維持されている 動物側からすれば パートナーが勝手に目や鞭毛を造って泳ぎだしてしまっては困るわけで 共生というよりは 奴隷化 という言葉のほうが似合う気もする この奴隷化のメカニズムは不明であるが 動物が生産するある種のタンパク質 ( レクチン ) が褐虫藻を認識し 球形細胞にとどめるという報告がある (Koike et al. 2004; Jimbo et al. 2010) 環境中に存在する褐虫藻とはどのような群集か? 冒頭でも述べたが 多くのサンゴは水平伝播により褐虫藻を獲得し共生を開始する これは サンゴが着生した環境に適した褐虫藻を獲得できるから という理由がもっともらしく思える 実際 褐虫藻にはクレードと呼ばれる遺伝的タイプ ( クレード A~クレード I;Pochon and Gates 2010) が存在し それぞれに生理的特徴が異なることが示唆されている ( 例えば Rowan 2004) また 白化後のソフトコーラルが環境中の褐虫藻を獲得し 白化から回復するという報告もある (Lewis and Coffroth 2004) したがって環境中に出現する褐虫藻は 共生開始時のみならず白化からの回復時にも重要な存在であると考えられる 動物と共生していない環境中の褐虫藻は古くから知られている 例えば Chondrus crispus( 紅藻ツノマタの一種 ) の藻体表面に付着していた褐虫藻を単離培養し Cassiopea xamachana ( サカサクラゲの一種 ) に共生していた褐虫藻と比較したところ それらの微細形態に差異はないことや (Loeblich and Sherley 1979) ハワイの海砂から単離した褐虫藻の核 18S rrna 遺伝子を調べたところ パラオの Amphisorus hemprichii ( ゼニイシの一種 ) から単離した褐虫藻と 近縁であったこと (Carlos et al. 1999) あるいはカリブ海の底質中には同所に生息するサンゴ内の褐虫藻と同じクレードの褐虫藻が存在すること (Porto et al. 2008) などの報告がある これらの報告は 環境中には動物内と同一の褐虫藻が存在することを示しているが これらの褐虫藻がサンゴへの共生ソースとなり, また白化からの回復時にも利用さ 図 3 培養株の遊泳細胞で見つかった眼点 (a) 縦断面 (b) 横断面 結晶構造が規則正しく並び 一定の間隔で層状に積み重なっている ( 白矢印 ) 眼点は球形細胞時 あるいは共生時には存在しない れるのだろうか 一方で環境中 には動物内とは異なる独自の 16

系統の褐虫藻がいることも近年報告されている (Hirose et al. 2008; Reimer et al. 2010) これら環境中の褐虫藻とは一体どのような存在で サンゴの共生ソースとして そしてさんご礁生態系においてどのような意味を持つのだろうか? 我々は高知県 長崎県 沖縄県の海藻あるいは海砂の表面に付着する褐虫藻を単離し 多数の培養株を作成した 塩基配列解析の結果 これら培養株はクレードA 内において動物内褐虫藻とは異なる独自の単系統群を形成した これは Hirose et al. (2008) や Reimer et al. (2010) の結果と一致し 環境中には自由生活に特化した褐虫藻群が存在することを示唆する ここでは この褐虫藻を自由生活型褐虫藻と呼ぶこととする 近年 Canary 諸島 Tenerife 島の海水から分離された褐虫藻が 形態学的 分子生物学的研究により他の動物内褐虫藻とは異なる Symbiodinium natans として新種記載された (Hansen and Daugbjerg 2009) 我々が分離した自由生活型褐虫藻の鎧板配列 ( 渦鞭毛藻における分類形質の一つ ) は S. natans と同一であり また核 28S rrna 遺伝子の塩基配列も相同性が高かった したがって 自由生活型褐虫藻は S. natans に代表される褐虫藻群であると考えられる では 環境中に出現する褐虫藻は 動物の共生ソースにはなり得ない群集のみなのだろうか? 沖縄県石垣島及び高知県大月町の海水を濾過し 海水中に出現していた褐虫藻の DNA クローンを得て 周辺に生息する動物に共生する褐虫藻の塩基配列情報を比較したところ 海水中の褐虫藻 DNA クローンはクレード A C D と多様で また比較的変異が大きい ITS 領域レベルでも そのいくつかは周辺の動物内褐虫藻と同一あるいは極めて相同性が高かった 例えば 石垣島で採取した Favites abdita( カメノコキクメイシ ) と Acropora muricata ( スギノキミドリイシ ) には全く同じ塩基配列を持つ褐虫藻が共生していたが これらと極めて相同性が高い褐虫藻 DNA クローンが周辺の海水中から も得られた このことから 培養することは難しいものの 環境中にはサンゴ内と同一 あるいは相同性の極めて高い褐虫藻群が確かに存在しており これらの褐虫藻群は様々なサンゴの共生ソースとしてシェアされている可能性が考えられる 環境中の褐虫藻は共生開始あるいは白化からの回復など 様々な場面において重要な存在であると考えられるため 長期モニタリングによりこれらの出現動態を現在解析中である サンゴは褐虫藻を放出するのか? 前述の結果から 海水中にはサンゴ内と同様の褐虫藻が存在していることが明らかになった これは共生ソースとして重要だが 同時におそらくサンゴ由来 すなわちサンゴから放出されたものが蓄積 ( シンク ) しているのかもしれない またサンゴは褐虫藻を放出して白化すると言われているが 実際に野外のサンゴがどのぐらいの量の褐虫藻を放出しているのか定量的な研究はなかった これは褐虫藻が約 10 µm 程度と小さく また形態的特徴が乏しいため 一度サンゴから放出され環境中のプランクトン群集と混ざってしまうと 顕微鏡下で褐虫藻を発見し 計数することが困難であったためである さらに 上でも述べたように 褐虫藻にはクレードと呼ばれる遺伝的タイプが存在するが これらを顕微鏡下で見分けることも不可能である したがって サンゴから放出される褐虫藻の研究には 顕微鏡観察に依らず なおかつクレードを区別して定量可能なシステムが必要である そのため我々は クレード A~F の褐虫藻を特異的に認識するプライマーを用いた定量 PCR システムを構築した 実験室での定量性の確認後 実際に石垣島浦底湾のサンゴがどのぐらいの量の褐虫藻を放出しているか調査した 調査ではサンゴから放出される褐虫藻を捕らえるために 透明容器を改造した褐虫藻トラップをサンゴに装着した ( 図 4) この容器内に放出された褐虫藻をフィルター上に捕集して DNA を抽出し 定 17

るため 様々な環境に対応できる褐虫藻であるとも考えられる (Lien et al. 2007) サンゴは曝された環境にそぐわない褐虫藻を放出し その環境に適した褐虫藻を増やすとする 適応的白化仮説 が提唱されており (Buddemeier and Fautin 1993) また白化前後のサンゴ内褐虫藻を比較すると 白化後のサンゴ内にはクレード D が多い という報告もある ( たとえば Baker et al. 2004) 今回 我々はクレード C と D が共生するサンゴから C が選択的に放出される あるいは D が選択的に残されることをいくつかのサンゴで確認したが これはもしかするとサンゴ内で褐虫藻組成がシフトする過程を観察したのかもしれない 図 4 スギノキミドリイシに装着した透明容器製の褐虫藻トラップ ( 白矢印 ) 口部分は巾着袋になっており サンゴ枝を容器内にいれ巾着袋のひもを絞ることで容易に装着が可能 容量は 1 L 容器内および巾着袋でサンゴ枝を擦らないよう装着時には細心の注意が必要 量 PCR システムを用いて放出された褐虫藻細胞数をクレード毎に定量した 2007 年から 2009 年にかけて 延べ 7 種 18 群体のサンゴを対象に調査を行ったところ 全てのサンゴがクレード C の褐虫藻を放出しており あるサンゴでは 1 時間あたりにサンゴの骨格表面積 1 cm 2 から約 6000 細胞もの褐虫藻を放出していた ( 他のほとんどのサンゴは数細胞から数百細胞 / 時間程度の放出量 ) トラップ内に放出された褐虫藻を顕微鏡下で観察すると 一部色素の抜けた細胞も観察されるが 大部分は健康な褐虫藻に見えた サンゴ内褐虫藻に目を向けると Pocillopora eydouxi ( ヘラジカハナヤサイサンゴ ) 及び Favites abdita ( カメノコキクメイシ ) にはクレード C の他にクレード D も共生していた しかし 両サンゴからは主にクレード C の褐虫藻が放出されており また調査した 6 群体のヘラジカハナヤサイサンゴのうち 2 群体からはクレード D は全く放出されていなかった ( 詳しい放出量などは Yamashita et al. 2011 を参照 ) クレード D は高温や高照度に強いという報告もある一方 高緯度や深い場所に生息するサンゴからも検出されてい まとめ以上の結果から 実際に野外のサンゴは多量の褐虫藻を環境中に放出していることが明らかとなった 現段階では環境中の褐虫藻が周辺サンゴから放出されたシンクであり 共生のソースとなり得るのかの確証が得られていない しかしながら 放出される褐虫藻には一見健康的なものが多く含まれ さらに 環境中の褐虫藻 DNA クローン解析から 環境中にはサンゴ内と同一の褐虫藻が存在しており それらが全く異なる分類群のサンゴにシェアされていることが示唆された これらを考えると 褐虫藻をめぐるやりとり すなわち サンゴは環境中から褐虫藻を獲得し 一方でコンスタントに褐虫藻を環境中に放出するが 放出された褐虫藻は環境中でシンクとなり これがまた別のサンゴに共生のソースとして利用されるという いわば さんご礁海域における 褐虫藻サイクル が想像できる ここでの環境中の褐虫藻シンクの大きさは 周辺サンゴの褐虫藻放出量と何らかの関係があると予想される 我々はスギノキミドリイシとヘラジカハナヤサイサンゴを用いた水槽実験で 水温を 30 C から 33 C に上げた場合 褐虫藻放出量が 10 倍程度増加することを確認している ( 松岡ら 2009) したがっ 18

て 環境中の褐虫藻細胞密度のモニタリングにより 白化の予測なども今後可能になるかもしれない しかし これにはサンゴからの褐虫藻放出現象をより詳細に観察し 知見を蓄積する必要があるだろう また さんご礁海域には動物との共生とは無関係な自由生活型褐虫藻群が存在する これらの褐虫藻が本当に動物と共生しないのかは今後さらなる追求が必要であるが 褐虫藻とサンゴの共生進化の観点からも興味深い 本研究では 眼点や鞭毛がサンゴによる褐虫藻維持機構に密接に関与している可能性を示したが これらを手掛かりとして維持機構に関する研究が進むことも期待される 現在 白化を含む様々な要因により 多くの海域でさんご礁が衰退しており 早急な原因の究明 そして効果的なさんご礁保護や保全策が求められている よりきめ細やかな保護そして保全のためには さんご礁生態系の土台となるサンゴ 褐虫藻共生系をさらに詳しく理解する必要があるだろう 我々はこの共生のメカニズムを研究する中で さんご礁海域における褐虫藻サイクルの存在を提唱した これは 両者の関係を理解し さんご礁の保全に資するには サンゴ内だけでなく環境中の褐虫藻も併せて調査 研究する必要があることを示唆している 謝辞本研究を行うに当たり 林原毅博士ならびに鈴木豪博士をはじめとする西海区水産研究所石垣支所の皆様 また阿嘉島臨海研究所の皆様に多大なるご協力を賜りました 試料の採取 分析時には北里大学 広島大学の歴代褐虫藻研究班の皆様にご助力頂きました 心より感謝いたします また 本研究の一部は科学研究費補助金基盤 B(21310011 KK) 及び財団法人黒潮生物研究財団の研究助成 (HY) により行われました 引用文献 Baker AC, Starger CJ, McClanahan TR, Glynn PW (2004) Corals adaptive response to climate change. Nature 430: 741 Brown BE ( 1997) Coral bleaching: causes and consequences. Coral Reefs 16: S129-S138 Buddemeier RW, Fautin DG (1993) Coral bleaching as an adaptive mechanism. BioScience 43: 320-326 Carlos AA, Baillie BK, Kawachi M, Maruyama T (1999) Phylogenetic position of Symbiodinium (Dinophyceae) isolates from tridacnids (Bivalvia), cardiids (Bivalvia), a sponge (Porifera), a soft coral ( Anthozoa), and a free-living strain. Journal of Phycology 35: 1054-1062 Clode PL, Saunders M, Maker G, Ludwig M, Atkins C (2009) Uric acid deposits in symbiotic marine algae. Plant Cell and Environment 32: 170-177 Hansen G, Daugbjerg N (2009) Symbiodinium natans sp. nov.: a free-living dinoflagellate from Tenerife (northeast-atlantic Ocean). Journal of Phycology 45: 251-263 Hirose M, Hidaka M (2006) Early development of zooxanthella-containing eggs of the corals Porites cylindrica and Montipora digitata: the endodermal localization of zooxanthellae. Zoological Science 23: 873-881 Hirose M, Reimer JD, Hidaka M, Suda S (2008) Phylogenetic analyses of potentially free-living Symbiodinium spp. isolated from coral reef sand in Okinawa, Japan. Marine Biology 155: 105-112 Horiguchi T, Pienaar RN (1994) Ultrastructure and ontogeny of a new type eyespot in dinoflagellates. Protoplasma 179: 142-150 Jimbo M, Yamashita H, Kioke K, Sakai R, Kamiya H (2010) Effects of lectin in the scleractinian coral Ctenactis echinata on symbiotic zooxanthellae. Fisheries Science 76: 355-363 Koike K, Jimbo M, Sakai R, Kaeriyama M, Muramoto K, Ogata T, Maruyama T, Kamiya H (2004) Octocoral chemical signaling selects and controls dinoflagellate symbionts. Biological Bulletin 207: 80-86 Land MF (1966) A multilayer interference reflector in 19

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