Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

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Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

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案1 SIDMR

SIDMR_18-10

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

1 月号は以下の情報を掲載しています 1. 茨城県感染症発生動向調査事業に基づく試験検査 検出状況 1) 全数把握疾患 2) 病原体定点依頼検査その他の検査 3) 集団 ( 施設や学校等 ) 事例 月別検出件数 1) 三類 四類 五類 ( 全数把握 ) 2) 五類 ( 定点 ) その他の検査 3)

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◎ 腸管出血性大腸菌 (EHEC/VTEC)による感染症の発生動向について

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第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

<4D F736F F D E9197BF815B A8AB490F58FC B C982A882AF82E B835895AA97A E A2E646F63>

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熊本県感染症情報 ( 第 14 週 ) 県内 165 観測医の患者数 (4 月 4 日 ~4 月 10 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 10 8 ヘルパンギーナ 6 5 咽頭結膜熱 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

表 2 衛生研究所 保健所別菌株検出数 ( 医療機関を含む ) 内訳 衛生研究所保健所試験検査課県中支所会津支所郡山市いわき市 総計 喫食者 接触者 従事者食品 3 3 拭きとり総計 遺伝子型別解析遺伝子型別解析は, デンカ生研の病

疾患名 平均発生規模 ( 単位 ; 人 / 定点 ) 全国 県内 前期 今期 増減 前期 今期 増減 県内の今後の発生予測 (5 月 ~6 月 ) 発生予測記号 感染性胃腸炎 水痘

Weekly Report on Aomori Prefecture Infectious Disease 青森県感染症発生情報 (2019 年第 3 週 ) 発行青森県感染症情報センター (2019 年 1 月 24 日 ) ( 青森県環境保健センター : 担当微生物部 ) TEL

鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

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Microsoft Word - WIDR201826

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

Microsoft Word - 感染症週報

鹿児島県感染症発生動向調査事業 感染症のホームページアドレス 咽頭結膜熱の報告数は, 前週と同数の 59 人 ( 定点当たり 報告数 1.09) でした 保

Microsoft Word - WIDR201839

Microsoft Word - 感染症週報第48週

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

神戸市感染症発生動向調査週報 1 年 月 11 日作成 全数把握対象感染症発生状況 ( 三類感染症細菌性赤痢 ) 女 5 代 - 1 年 月 5 日 1 年 月 日 sonnei(d 群 ) 分離 同定による病原体の検出 ( 便 ) なし 接触感染 第 13 週報告患者の家族 全数把握対象感染症発生

熊本県感染症情報 ( 第 50 週 ) 報告期間 インフルエンザ 水 痘 突発性発しん ヘルパンギーナ マイコプラズマ肺炎 クラミジア肺炎 ( ロタウイルス ) 第 43 週第 44 週第 45 週第 46 週第 47 週第 48 週第 49 週第 50 週第 47 週第 48 週第 49 週 7

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

10/3~10/9 今週前週今週前週 インフルエンザ 7 1 百日咳 1 0 RS ウイルス感染症 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 急性出

山口県環境保健センター所報第 57 号 ( 平成 26 年度 ) 山口県における平成 26 年度の腸管出血性大腸菌感染症の発生状況及び分離株の細菌学的 分子疫学的調査成績 山口県環境保健センター亀山光博, 矢端順子 *, 尾羽根紀子, 大塚仁, 野村恭晴 * 現山口県周南健康福祉センター Bacte

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Microsoft Word - 案1 week14-21

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Microsoft Word - 届出基準

報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

Microsoft PowerPoint - 51w 梅毒

表 3 衛研番号 複数のウイルスが検出された検体 検出ウイルス採取月日診断名年齢性別住所咽頭糞便 Polio 1 Polio 2 H 腸重積 11 ヶ月女福島市 Adeno 2 Noro virus GⅡ H 急性腸

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Microsoft Word - 【H29-5F】報文 修正版4

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A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

Ⅰ 第 47 週の発生動向 (2017/11/20~2017/11/26) 1. 手足口病については 上十三保健所管内で警報が継続しています 県全体の定点当たり報告数が過去 5 年間の同時期と比較してかなり多くなっていますので注意が必要です 2. インフルエンザについては 東地方 + 青森市保健所管

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東京都微生物検査情報 第37巻第11号 

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第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

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インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症

クチ ワ ン で安心 予防接種は集団生活前に子育て応援券を有効活用 感染症発生動向速報 ( 平成 31 年第 10 週分 3 月 4 日 ~3 月 10 日 ) インフォメーション 予防接種をご確認くださいこの春から保育所 幼稚園に通い始めるお子さんも多いと思います 一般に乳幼児は感染症に対する抵抗

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Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 3 人 弘前 人 八戸市 2 人 五所川原 2 人 上十三 人 (28 年計 :97 人 ) レジオネラ症 ( 四類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (28 年計 :7 人 ) カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 ( 五類全把握対象疾

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

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別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 0-5 ヶ月 6-11 ヶ月 1 歳 歳以上 合計 (

Ⅰ 第 30 週の発生動向 (2017/7/24~2017/7/30) 1. 手足口病については むつ保健所管内で警報が発令されました 東地方 + 青森市保健所管内 弘前保健所管内 上十三保健所管内で警報が継続しています 三戸地方 + 八戸市保健所管内では 定点当たり報告数の増加が続いており 警報レ

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

流行の推移と発生状況 疾病名推移発生状況疾病名推移発生状況 インフルエンザ RS ウイルス感染症 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎 水痘 手足口病 伝染性紅斑 突発性発疹 百日咳 ヘルパンギーナ 流行性耳下腺炎 急性出血性結膜炎流行性角結膜炎 細菌性髄膜炎 無菌性髄膜炎 マイコ

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 弘前 2 人 八戸市 人 上十三 3 人 (28 年計 :87 人 ) デング熱 ( 四類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (28 年計 : 人 ) カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 ( 五類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (2

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表 1. 疾病別の被検者数及び検体件数内訳 疾病名インフルエンザ様疾患麻しん風しんデング熱ジカ熱日本脳炎 SFTS リケッチア感染症無菌性髄膜炎手足口病ヘルパンギーナ発疹症感染性胃腸炎流行性角結膜炎その他計 被検者数 ( 人 ) 検体数 ( 件 ) 咽頭拭い液鼻腔拭い液糞便髄液血液血清尿その他 19


3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

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別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 歳 歳以上 合計 ( 注 ) *

Microsoft Word - H24年報表紙・目次・合紙

第 52 号 (2015) 49 資料 2007~2014 年に石川県で分離された腸管出血性大腸菌について -O157 の発生状況及び細菌学的性状 - 石川県保健環境センター健康 食品安全科学部 北川恵美子 小坂川上慶子 恵 加藤真美 和文要旨 2011 年,2012 年に行われた生食用食肉関連の規

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り. 平成 3 年 2 月 5 日 ~ 3 月 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

東京都微生物検査情報 第37巻第6号

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 5 人 上十三 人 むつ 人 (8 年計 :6 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :35 人 ) 急性脳炎 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :3 人 ) 百日咳 (

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インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症.5 伝染性紅斑 りんご病

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 八戸市 人 弘前 3 人 (8 年計 :65 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (8 年計 :3 人 ) 百日咳 ( 五類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (8 年計 :5 人 ) Ⅳ 病原体

Ⅰ 第 1 週の発生動向 (2018/12/31~2019/1/6) 1. インフルエンザについては 上十三保健所管内で注意報が発令されました また 五所川原保健所管内で定点当たり報告数が 8.71 むつ保健所管内で 8.50 となり 注意報基準値 (10) に近づいています 2. 水痘については


Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 東地方 人 三戸地方 人 上十三 人 (8 年計 : 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :5 人 ) アメーバ赤痢 ( 五類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (8 年計 : 人 ) カルバペネム

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Microsoft Word - kansen1642w.doc

記号の説明 前からの推移 : 倍以上の減少.~ 倍未満の減少. 未満の増減.~ 倍未満の増加 倍以上の増加 流行状況 : 空白発生なし 僅か 少し やや多い 多い 非常に多い 定点当り患者数について 過去 年間の標準偏差値に感染症の種類毎に係数を乗じた値を 等分し 流行状況の目安として 段階で表示し

48小児感染_一般演題リスト160909

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り 2. 平成 3 年 月 29 日 ~ 3 月 4 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

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Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (8 年計 :3 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 八戸市 人 上十三 人 むつ 人 (8 年計 : 人 ) 百日咳 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 3 人 (8 年計 :3 人 ) Ⅳ 病

Ⅰ 第 52 週の発生動向 (2018/12/24~2018/12/30) 1. 水痘については 東地方 + 青森市保健所管内で注意報が発令されました 2. 伝染性紅斑については むつ保健所管内で警報が継続しています 3. インフルエンザについては 県全体の定点当たり報告数が 3.38 となり 前週

Bull. Nagano Environ. Conserv. Res. Inst. No.8(2012) 3. 結果および考察 3.1 長野県における手足口病患者およびヘルパンギーナ患者からのエンテロウイルス検出状況 手足口病患者およびヘルパンギーナ患者 67 検体のうち, が 45 株 (67 %

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東京都インフルエンザ情報 第20巻 第20号

耐性菌届出基準

Transcription:

Ⅲ 病原体情報 1. 滋賀県における三類感染症の検出状況 (2014 年 ) 2014 年は 細菌性赤痢感染者 1 名および腸管出血性大腸菌感染者延べ 88 名の発生があった (1) 細菌性赤痢感染症ア疫学情報 2014 年 11 月に 1 名の細菌性赤痢感染者が発生した 感染者はアジア方面への渡航歴があり 症状は下痢 腹痛および血便が認められた イ分離菌株の性状患者由来の分離菌株は Shigella sonnei で 特異的な生化学的性状は示さなかった 薬剤感受性試験は アンピシリン (ABPC) クロラムフェニコール (CP) テトラサイクリン (TC) ストレプトマイシン (SM) カナマイシン (KM) ゲンタマイシン (GM) セフォタキシム (CTX) オフロキサシン (OFLX) スルファメトキサゾール トリメトプリム合剤 (ST) ナリジクス酸 (NA) シプロフロキサシン (CPFX) およびホスホマイシン (FOM) の 12 薬剤を用いてディスク法で実施した結果 TC SM ST NA の 4 剤に耐性が認められた 国立感染症研究所で実施された遺伝子解析 (Multilocus variable-number tandem-repeat analysis (MLVA)) の結果では 他県に一致する株はなかった (2) 腸管出血性大腸菌感染症ア疫学情報 2014 年 県内で延べ 88 名の腸管出血性大腸菌 (EHEC) 感染者が報告された 月別の発生状況は 4 月 ~12 月にかけて発生がみられ 10 月に 32 名 (36.4%) と最も多く 次いで 12 月の 28 名 (31.8%) であった これは同一保育園において 10 月および 12 月に EHEC O145 の集団感染事例が発生したためである 年齢別では 例年と同様に 0~5 歳が 36 名 (40.9%) と最も多く 性別では 男性が 47 名 女性が 41 名であった 感染者 88 名のうち 有症者は 38 名 (43.2%) 無症状病原体保菌者は 50 名 (56.8%) であった 有症者 38 名のうち 28 名 (73.7%) に下痢 22 名 (57.9%) に腹痛が認められ EHEC 感染者に特徴的な症状の一つである血便は 13 名 (34.2%) に認められた このうち 1 名は溶血性尿毒症症候群を発症していた その他の症状としては 発熱 4 名 嘔吐 2 名 嘔気 1 名であった 保健所が実施した喫食調査では 発症前日 ~12 日前までに焼肉およびバーベキュー等の食肉の喫食歴が約 20% の事例においてみられたが いずれも原因食品は特定できなかった イ分離菌株の性状 EHEC 感染者 88 名由来の 88 株について性状を調べた結果 血清型別は O145:H- が 58 株 (65.9%) O157:H7 が 15 株 (17.0%) O157:H- が 9 株 (10.2 %) O26:H11 および O91:H14 が 2 株 (2.3%) O142:H38 がおよび O183:H18 が 1 株 (1.1%) であった 産生毒素型は O145: H- は 58 株すべて VT2 産生 O157:H7 は VT1&VT2 産生が 9 株 VT2 産生が 6 株 O157:H- は VT1& VT2 産生が 8 株 VT2 産生が 1 株 O26:H11 は 2 株とも VT1 産生 O91:H14 は 2 株とも VT1&VT2 産生 O142:H38 は VT1 産生 O183:H18 は VT1&VT2 産生であった 生化学性状は 血清型により異なる性状を示したが EHEC O145 の 58 株のうちインドール陰性およびソルビトール非分解を示した株が各 1 株認められた EHEC O157 は 24 株すべて ß- グルクロニダーゼ非産生およびソルビトール非分解を示した 薬剤感受性試験は 赤痢菌と同様の 12 薬剤を用いて実施した結果 88 株のうち 69 株 (7 8.4%) に 1 剤 ~4 剤の耐性が認められ 前年の 33.3% より増加していた ウパルスフィールドゲル電気泳動 (PFGE) 法による遺伝子解析 ( 図 1) 同一の PFGE パターンを示した株は 10 グループみられ 詳細は下記のとおりであった EHEC O157 事例 1 グループ A B D および F は 家族内事例でそれぞれ 2~3 株で構成されていた 2 グループ C は 発生番号 14-7 および 14-11 の散発事例 2 株で構成されていた 同一起源由来株である可能性が高いと考えられたが 関連性は不明であり 感染源 - 85 -

の特定には至らなかった また 国立感染症研究所で実施された MLVA 解析結果で 他県において発生番号 14-7 と同一の MLVA 型が認められたため調査が行われたが関連性は不明であった 3 グループ H は 発生番号 14-55 および 14-56 の散発事例 2 株で構成されていた 同一起源由来株である可能性が高いと考えられたが 関連性は不明であり 感染源の特定には至らなかった EHEC O145 事例 1 10 月および 12 月に大津市の同一保育施設で発生した EHEC O145 集団感染事例由来 55 株の PFGE パターンは 8 タイプ認められ 類似度は 92~100% であった 2 EHEC O145 集団感染事例由来 55 株のうち発生番号 14-23 25~32 34~41 44~48 50~54 63 64 66 68 69 72 74~78 80~87 の 46 株が同一の PFGE パターンを示した ( グループ G) 3 EHEC O145 集団感染事例由来 55 株のうち 9 株 ( 発生番号 14-33 61 62 65 67 70 71 73 79) がグループ G の PFGE パターンと 2~4 バンド異なったが 類似度は 92~95% であった その原因は 何らかの影響で遺伝子の変異が生じたものと考えられ グループ G と同一起源由来株である可能性が高いと考えられる 4 発生番号 14-61 および 14-62 が同一の PFGE パターンを示した ( グループ I) これら 2 株は同一家族由来である 5 発生番号 14-67 および 14-79 が同一の PFGE パターンを示した ( グループ J) 6 発生番号 14-58 および 14-60 の 2 株は同一家族由来であり PFGE パターンが 3 バンド異なったが 類似度は 94% で同一起源由来である可能性が高い この 2 株は集団感染事例との関連は認められていないが 発生番号 14-60 はグループ G と同一の PFGE パターンを示したことから同一起源由来である可能性が考えられる EHEC O91 事例発生番号 14-21 および 14-22 が同一の PFGE パターンを示した ( グループ E) これら 2 株は同一家族由来である 表 1. 血清型 毒素型発生状況 ( 件 ) 血清型 毒素型 VT1&VT2 VT1 VT2 計 O157:H7 9 0 6 15 O157:H- 8 0 1 9 O145:H- 0 0 58 58 O26:H11 0 2 0 2 O91:H14 2 0 0 2 O142:H38 0 1 0 1 O183:H18 1 0 0 1 合計 20 3 65 88-86 -

図 1. 2014 年腸管出血性大腸菌の PFGE パターンと系統樹 - 87 -

2. 滋賀県ウイルス検出状況のまとめ (2014 年 ) 滋賀県感染症発生動向調査事業実施要綱に基づいて 病原体定点に指定された 12 および協力医療機関 1( 滋賀県ウイルス感染症実態調査実施要領に基づいて同意の得られた医療機関 ) の合計 13 医療機関より 検体を収集してウイルスの検索を行い 情報の提供を行っている 今回は 2014 年 1 月から 12 月 ( 採取月 ) のウイルス検出状況を報告する (1) 調査検体ア調査材料ウイルス感染が疑われた患者 396 名より採取された 556 検体を検査材料としてウイルス検出を行った イ検体の内訳鼻腔 咽頭ぬぐい液 359 検体 糞便 126 検体 髄液 54 検体 尿 10 検体 血清 5 検体 皮膚 1 検体およびその他 1 検体であった (2) 調査結果アウイルス検出状況ウイルスは 556 検体のうち 293 検体から検出され 検出率は 52.7% であった 内訳は ライノウルイスが 74 検体と最も多く検出され 次いで RS ウイルス 45 検体 コクサッキーウイルス 36 検体 エコーウイルス 33 検体の順であった イ主症状または診断 ( 疾患 ) 名 採取月ウイルス検出状況 ( 表 ) ( ア ) 感染性胃腸炎 ( 嘔吐下痢症等含む ) 65 検体中 35 検体からウイルスが検出された 内訳は ノロウイルス GⅡ が 11 検体と最も多く 次にライノウイルスが 5 検体 A 群ロタウイルスが 4 検体 アストロウイルスおよびサポウイルスが各 1 検体であった 採取月別に見ると 2 から 7 月および 11 月にノロウイルス GⅡ が検出され 主に 3 から 6 月には A 群ロタウイルス アデノウイルスおよびライノウイルスが検出された また 2 月にはアストロウイルス 6 月から 9 月はエンテロウイルス 11 月にはサポウイルスが検出されていた ノロウイルス GⅡ の遺伝子解析を行ったところ 2 型が 2 検体 3 型が 1 検体 および 6 型が 6 検体であった 4 から 7 月には 6 型が優勢であった ( イ ) 上気道炎 下気道炎等呼吸器疾患 244 検体中 140 検体からウイルスが検出された 内訳は ライノウイルスが最も多く 58 検体であった 検出時期は夏期が中心であったが 年間を通じて検出されていた 次に RS ウイルスが 43 検体と多く検出され 9 月から 12 月を中心に検出されていた またエンテロウイルス属が 25 検体 アデノウイルスが 12 検体検出され 5 月から 10 月に多く検出されていた ( ウ ) ヘルパンギーナ 9 検体中 8 検体からウイルスが検出された 内訳は コクサッキーウイルス A 群 2 型および A 群 4 型が各 3 検体 アデノウイルスが 1 検体およびエコーウイルス 11 型が 1 検体であった 8 検体とも 6 月から 9 月の夏期の検出となっていた ( エ ) 無菌性髄膜炎 38 検体中 16 検体からウイルスが検出された 内訳は エコーウイルス 11 が 5 検体と最も多く 次にコクサッキーウイルス A 群 4 型 エコーウイルス 3 型およびライノウイルスが各 2 検体であった 16 検体とも 6 月から 9 月の夏期の検出となっていた 2013 年は E30 が県内では多く検出されたが 2014 年の大きな流行はなかった 無菌性髄膜炎は 起因ウイルスによって症状も異なるため 今後もウイルスの動向に注視する必要がある - 88 -

表 1. 検体提供者の主症状または診断名 ( 疾患 ) 採取月 検体種別ウイルス検出数 感染性胃腸炎消 ( 嘔吐 下痢症等化含む ) 器症状 呼吸器疾患 * 疾患名 腸重積症 インフルエンザ 上気道炎 ( 扁桃炎等 咽頭炎含む ) 下気道炎 ( 気管支炎 肺炎等含む ) 検査検体数 ウイルス検出数 ウイルス検出率 ウイルス型 合計 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 定点 394 27 21 26 37 33 25 45 50 37 26 33 34 協力 115 11 6 4 8 12 22 9 9 16 2 6 10 インフル 47 19 9 4 3 3 1 8 検体種別 293 31 14 12 27 20 26 26 33 26 11 35 32 52.7 67.4 46.7 40.0 67.5 60.6 104.0 57.8 66.0 65.0 42.3 102.9 76.2 ノロウイルス GⅡ 糞便 11 2 2 1 4 1 1 アストロウイルス糞便 1 1 サポウイルス糞便 1 1 A 群ロタウイルス糞便 1 1 A 群ロタウイルス G1 型糞便 2 1 1 A 群ロタウイルス G9 型糞便 1 1 アデノウイルス 2 型糞便 2 1 1 アデノウイルス 40/41 型糞便 3 1 1 1 ライノウイルス糞便 5 2 1 2 コクサッキーウイルス A 群 2 型糞便 2 1 1 コクサッキーウイルス A 群 4 型糞便 1 1 エコーウイルス 11 型糞便 1 1 エコーウイルス 18 型糞便 1 1 エコーウイルス 25 型糞便 3 2 1 ライノウイルス糞便 1 1 アデノウイルス 31 型糞便 1 1 インフルエンザ AH1pdm ぬぐい液 21 12 6 2 1 インフルエンザ AH3 亜型ぬぐい液 18 6 1 3 1 7 インフルエンザ B 型 (Unknown) ぬぐい液 1 1 インフルエンザ B 型 ( ビクトリア系統 ) ぬぐい液 6 2 1 2 1 インフルエンザ B 型 ( 山形系統 ) ぬぐい液 4 1 2 1 RS ウイルスぬぐい液 12 1 1 2 3 5 ライノウイルスぬぐい液 30 2 1 3 7 2 4 3 3 1 4 ライノウイルス糞便 2 1 1 コクサッキーウイルス A 群 2 型ぬぐい液 7 4 2 1 コクサッキーウイルス A 群 4 型ぬぐい液 4 2 2 コクサッキーウイルス A 群 5 型ぬぐい液 3 1 2 エコーウイルス 11 型ぬぐい液 1 1 エコーウイルス 25 型ぬぐい液 3 1 2 エコーウイルス 25 型糞便 1 1 エコーウイルス 30 型ぬぐい液 2 1 1 アデノウイルス 1 型ぬぐい液 1 1 アデノウイルス 2 型ぬぐい液 5 1 1 2 1 アデノウイルス 3 型ぬぐい液 2 2 アデノウイルス 4 型ぬぐい液 1 1 アデノウイルス 40/41 型糞便 1 1 RS ウイルスぬぐい液 31 1 1 4 11 14 ヒトメタニューモウイルスぬぐい液 2 2 ライノウイルスぬぐい液 25 1 2 5 3 2 3 2 2 4 1 ライノウイルス糞便 1 1 コクサッキーウイルス A 群 4 型ぬぐい液 1 1 コクサッキーウイルス A 群 6 型ぬぐい液 1 1 エコーウイルス 25 型ぬぐい液 1 1 エコーウイルス 25 型糞便 1 1 アデノウイルス 4 型ぬぐい液 1 1 アデノウイルス 4 型糞便 1 1 2014 年 - 89 -

2014 年 合計 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 ライノウイルスぬぐい液 2 1 1 皮膚疾患 枢神経系疾患 発疹 紅斑等 手足口病 ヘルパンギーナ 脳炎 脳症 無菌性髄膜炎 けいれん 咽頭結膜熱 流行性角結膜炎 ( 結膜炎等含む ) エコーウイルス25 型 ぬぐい液 1 1 アデノウイルス4 型 ぬぐい液 1 1 コクサッキーウイルスA 群 16 型 ぬぐい液 1 1 エコーウイルス18 型 ぬぐい液 1 1 アデノウイルス2 型 ぬぐい液 1 1 コクサッキーウイルスA 群 2 型 ぬぐい液 2 1 1 コクサッキーウイルスA 群 2 型 糞便 1 1 コクサッキーウイルスA 群 4 型 ぬぐい液 3 3 エコーウイルス11 型 ぬぐい液 1 1 ライノウイルス ぬぐい液 2 1 1 コクサッキーウイルスA 群 4 型 ぬぐい液 1 1 コクサッキーウイルスA 群 4 型 糞便 1 1 アデノウイルス3 型 糞便 1 1 アデノウイルス4 型 ぬぐい液 1 1 サポウイルス 糞便 1 1 A 群ロタウイルスG1 型 ぬぐい液 1 1 A 群ロタウイルスG1 型 髄液 1 1 ライノウイルス ぬぐい液 2 1 1 エコーウイルス3 型 ぬぐい液 1 1 エコーウイルス3 型 髄液 1 1 エコーウイルス11 型 ぬぐい液 1 1 エコーウイルス11 型 糞便 1 1 エコーウイルス11 型 髄液 2 2 エコーウイルス11 型 血清 1 1 エコーウイルス18 型 髄液 1 1 エコーウイルス25 型 糞便 1 1 エコーウイルス30 型 髄液 1 1 コクサッキーウイルスA 群 4 型 ぬぐい液 1 1 コクサッキーウイルスA 群 4 型 糞便 1 1 コクサッキーウイルスB 群 5 型 髄液 1 1 A 群ロタウイルスG1 型 ぬぐい液 1 1 アデノウイルス2 型 ぬぐい液 1 1 アデノウイルス2 型 糞便 1 1 コクサッキーウイルスB 群 5 型 ぬぐい液 1 1 コクサッキーウイルスB 群 5 型 糞便 1 1 コクサッキーウイルスB 群 5 型 髄液 1 1 アデノウイルス3 型 ぬぐい液 5 1 1 1 2 アデノウイルス5 型 ぬぐい液 1 1 アデノウイルス3 型 ぬぐい液 2 1 1 不明熱 その他 RS ウイルスぬぐい液 2 1 1 ライノウイルスぬぐい液 3 1 2 コクサッキーウイルス A 群 2 型糞便 2 2 エコーウイルス 3 型ぬぐい液 1 1 エコーウイルス 18 型ぬぐい液 2 1 1 エコーウイルス 18 型糞便 2 1 1 エコーウイルス 18 型髄液 1 1 ライノウイルスぬぐい液 1 1 ぬぐい液 : 鼻腔ぬぐい液および咽頭ぬぐい液 *: 診断名または臨床症状により分類しています - 90 -

3. 滋賀県におけるインフルエンザウイルスの検出状況 (2013/14 シーズンおよび 2014/2015 シーズン年 3 月まで ) (1) 感染症発生動向調査ア目的滋賀県感染症発生動向調査の一環として 季節性インフルエンザの動向を把握し 監視する目的で インフルエンザ病原体定点よりインフルエンザと疑われた患者から採取された咽頭ぬぐい液および鼻腔ぬぐい液を材料として検査を行った イシーズン別検出状況 2013/14 シーズンは 60 名中 55 名からインフルエンザウイルスが検出された 内訳は インフルエンザウイルス AH1pdm が 32 名と最も多く 次いで AH3 亜型 8 名 B 型 ( ビクトリア系統 ) が 7 名 B 型 ( 山形系統 ) が 5 名および B 型が 3 名であった ( 表 1) また AH1p dm の 32 名についてはオセルタミビル耐性遺伝子変異 H275Y を保有していなかった 2014/15 シーズンは 31 名中 27 名からインフルエンザウイルスが検出された 内訳は AH3 亜型が 18 株と最も多く 次いで B 型 ( 山形系統 ) が 8 株および B 型が 1 株であった 2013/2014 シーズン主流であった AH1pdm は検出されなかった (2) インフルエンザ感染源調査ア目的滋賀県インフルエンザ感染源調査として 県内におけるインフルエンザの流行を早期から監視するとともに インフルエンザ および かぜ の原因を究明する目的で シーズンの最初の地域流行のインフルエンザウイルスの検出を行った イシーズン別検出状況 2013/14 シーズンは 12 月に大津市保健所管内の小学生 8 名中 7 名から AH1pdm が検出された また同月に 長浜保健所管内の小学生 3 名中 3 名から B 型 ( 山形系統 ) が検出された 2014/15 シーズンは 11 月に 彦根保健所管内の高校生 5 名中 3 名から B 型遺伝子が検出され 内 2 名はインフルエンザウイルス B 型 ( 山形系統 ) であった 表 1. 滋賀県感染症発生動向調査等におけるインフルエンザウイルス検出状況 (2013 年 9 月 ~2015 年 3 月 ) ウイルス型 2013 2014 2015 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 A(H1N1)pdm09 11 12 6 2 1 AH3 亜型 1 6 1 3 1 7 3 4 B 型 (Victoria 系統 ) 1 2 1 2 1 B 型 (Yamagata 系統 ) 1 1 2 1 2 4 2 B 型 2 1 1 陰性 1 2 2 2 1 1 総計 17 24 11 4 4 3 6 8 8 6-91 -