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Transcription:

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目次 1. はじめに... 1 1.1 背景と目的... 1 1.2 判読対象地すべり... 1 1.3 LP データを用いた調査の位置づけ... 1 2. LP データを用いた地形判読調査... 3 2.1 対象地域の LP データ収集... 4 2.2 LP 地形量図の作成... 5 2.3 LP 地形量図を用いた微地形分布図の作成... 9 2.4 微地形分布図を基にした地すべりブロックの判読... 11 2.5 地すべり地形判読図の作成... 12 3. LP 地形量図を用いた地すべり判読事例... 13 3.1 付加コンプレックス地域の事例... 13 3.2 新第三紀層地域の地すべりの事例... 17 3.3 地すべり災害の事例... 20 引用文献... 24 謝辞... 25 参考資料... 26 参考資料 1 微地形判読に適した LP 地形量図の検討... 27 参考資料 2 その他の LP 地形量図例... 34

1. はじめに 1.1 背景と目的地すべりの空間的分布の把握は 従来 空中写真判読によって行われてきており 予備調査においても空中写真判読が活用されている とくに 現地踏査では把握しにくい大規模な地すべりや複数ブロックから構成される地すべりの分布を把握する上で 空中写真判読は非常に有用な調査手法である しかし 日本の地すべりは多くは森林限界以下に分布しているため 地すべりによる斜面の変状が微小な場合 空中写真判読による地すべり地形の把握が 植生の被覆によって困難になる場合がある また 縮尺 1/10000 程度の地形図の分解能では 不明瞭な微地形を判読することが困難な事例も多い 近年 そのような空中写真判読では地すべりとして認識することが困難な斜面において 地すべりが発生する事例が報告されている 1) 2) 報告事例のように 地すべり斜面と認識していない斜面で地すべりが滑動した場合 事前の対策の実施が困難なため被害が大きくなる可能性 あるいは 地すべり活動が住民の生活やライフラインに多大な影響を及ぼす可能性が考えられる したがって このような地すべり災害を軽減するためには 従来の空中写真判読に加えて これまでよりも精度の高いデータを用いた地すべり地形の抽出手法の構築が必要と考えられる 近年 全国において航空レーザ (LP) 測量が実施されており 高分解能な数値標高モデル (DEM) が作成されつつある LP 測量から取得される DEM は 樹木間を通過し地表面で反射したレーザ光のデータをもとに作成されるため 森林斜面に分布する地すべり形状の把握により適した地形データといえる また LP 測量データから作成された高分解能地形図によって地すべりの詳細な微地形の把握も可能となる そこで 本資料では LP データを用いて 地すべり地形判読調査 を行うために必要な地図の作成と地すべり判読手順について 記載する 1.2 判読対象地すべり本資料は 明瞭な地すべり のほか 空中写真や 1/10000~1/25000 の地形図では判読が困難である 不明瞭な地すべり を判読対象とする また 斜面上部 ~ 中部にかけて緩斜面が広がり しばしば 谷向き 山向き低崖が分布する斜面 ( 重力性変形斜面 ) の判読も対象とする 1.3 LP データを用いた調査の位置づけ地すべり調査における本資料の位置付けを図 1.1 に示す 一般的な地すべり調査では 予備調査 概査 精査を通して 地すべりブロックを認定する 3) 予備調査時の地形判読調査は 従来 主に空中写真や地形図 ( 主に縮尺 1/10000~1/25000) を用いて実施されてきた 3) それらの空中写真や地形図に対して 追加もしくは代替として LP データを用いて地形判読を行うものである 第 2 章には地すべり地形判読調査の手順 第 3 章には具体的 1

な判読事例を示す なお 本資料では取りあげていない地すべりや地形全般の判読方法については たとえ ば 鈴木 4)~7) や大八木 8) などで詳細に解説されているので それらを参考にするとよい 予備調査 文献調査 地形判読調査 LP データを用いた地形判読調査 ( 本資料の内容 ) 概査 現地踏査 精査計画の立案 精査 地形図の作成 地質調査 すべり面調査 地表変動調査 地下水調査 土質調査 物理検層等 地すべりブロックの設定 図 1.1 地すべり調査における本資料の位置付け 左側は 従来の調査手順 9) 2

2. LP データを用いた地形判読調査 LP データを用いた地すべり地形判読調査は 下記の手順に従って実施する 作業の詳細については 2.1~2.5 に記述する なお 本手順は 付加コンプレックス地域と新第三紀層地域に対象地 ( 計 37 km 2 ) を設定し その調査結果を基に提案したものである 本手引き ( 案 ) は 事例研究に基づく提案であるため LP 地形量図や微地形分布図の作成においては 2.2(2) や 2.3 で述べるように 検討対象地域の特性を考慮して 調査を実施する (1) 対象地域の LP データ収集 (2) LP 地形量図 * の作成 (3) LP 地形量図 * を用いた微地形分布図の作成 (4) 微地形分布図を基にした地すべりブロックの判読 (5) 地すべり地形判読図の作成 * LP 地形量図 : ここでは 航空レーザ測量成果の DEM データを基に GIS ソフトウェア等を 用いて作成した地形量を把握できる図を LP 地形量図と呼ぶ 3

2.1 対象地域の LP データ収集 LP データの収集は 以下の (1) (2) の手順に従って実施する ただし LP データを所有している場合は そのデータを用いて 2.2 以降の作業を実施する (1)LP 撮影状況の確認国土地理院の公共測量検索データベース ( 公共測量実施情報 ) を用いて 1~4の手順にしたがって対象地域における LP 撮影状況を確認する 1 国土地理院の公共測量検索データベースにアクセスする http://psgsv2.gsi.go.jp/kouhyou/kouhyou_koukyousokuryou/kensaku10.aspx (2016 年 6 月 1 日時点 ) 2 検索データベースの 測量種別 項目中の 航空レーザ測量 を選択する 3 必要に応じて 都道府県 等の追加条件を設定し検索する 4 対象地域の LP 撮影概況を把握する (2)LP データの入手上記の作業において 対象地域での LP 撮影が確認された場合 検索結果に記載されている撮影機関 ( 計画機関名称 担当部署 ) にデータ提供依頼の問い合わせを行う なお 国土地理院が撮影したデータおよび国土交通省の各地方整備局が整備し国土地理院にその管理が委託されているデータについては 国土地理院 ( 応用地理部環境地理課 ) に利用申請することで LP データを利用することができる ただし データを利用できる機関及び目的に関する要件があるため 詳細は 国土地理院に問い合わせるとよい 4

2.2 LP 地形量図の作成 (1) 地すべり地形判読のために作成する LP 地形量図地すべり地形判読のために作成する LP 地形量図として 等高線図と斜面勾配図の 重ね合わせ図 を作成する 等高線の間隔は 地図の縮尺や対象地の起伏を考慮し 適宜 設定する 図 2.1 の場合 重ね合わせ図では 急傾斜な箇所は 等高線間隔が密で 濃い色調 ( 斜面勾配 ) で表現される 一方 緩傾斜な箇所は 等高線間隔が粗く 淡い色調 ( 斜面勾配 ) で表現される 判読する微地形の種類や判読目的等によっては 斜面傾斜方向図 開度図 固有値比図 ウェーブレット解析図などを作成する 図 2.1 等高線図と斜面勾配図の 重ね合わせ図 の例 LP 地形量図を用いた微地形 ( 地形要素 ) 判読の難易を表 2.1 に示す また 各 LP 地形量図の特徴については 表 2.2 に示す 表 2.1 に示すように 単一の LP 地形量図を用いて 多くの地形要素を判読できるのは 等高線図 斜面勾配図である ただし 等高線図はベクタ形式のため 等高線間隔以下の微地形を表現することはできない 一方 斜面勾配図は ラスタ形式のため グリット単位で地形量を表現できる 残りの LP 地形量図 ( 斜面傾斜方向図 開度図 固有値比図 ウェーブレット解析図 ) は 限られた地形要素の判読に適している傾向がある これらの結果を踏まえると ベクタ形式の等高線図とラスタ形式の斜面勾配図の重ね合わせ図が 微地形判読により適した図と考えられる 表 2.1 を作成するために実施した検討成果については 参考資料 1に記載した 5

表 2.1 各 LP 地形量図を用いた地形要素判読の難易 地形要素. 等高線図 a) 斜面勾配図 a) 斜面傾斜方向図 b) 開度図 a) 固有値比図 ウェーブレット a) 解析図 ( ベクタ ) ( ラスタ ) ( ラスタ ) ( ラスタ ) ( ラスタ ) ( ラスタ ) 起伏 ( 標高 ) 遷急線 遷緩線 ガリー 凹地 : 判読可能. : 単一の LP 地形量図のみでは判読困難 しかし 他の LP 地形量図と重ね合わせることで 判読がより容易になる. : 判読困難. 灰色のハッチング : 推奨される地すべり地形判読用地図の組み合わせ. a) ウィンドウサイズ 1 m の計算条件. b) 見通し距離 50 m の計算条件. 6

表 2.2 LP 地形量図の種類と特徴 LP 地形量図の種類 特徴 等高線図 斜面勾配図 標高の等値線図 斜面勾配の緩急は 等高線の粗密で表現されるため 遷急線 遷緩線などの勾配変化を判読できる 斜面勾配を表現した図 斜面勾配の色調を 緩傾斜は淡色 急傾斜は濃色で表現すると立体感を得られる図面になる 斜面傾斜方向図 斜面の最大傾斜方向を表現した図 開度図 各グリッドから地上 地下の広がり具合を示す図 10) 地上開 度は谷地形を 地下開度は尾根地形の表現に優れている 固有値比は 地表面の単位斜面における法線ベクトルのばらつきを表現する指標である 概念的には 値が大きいほど な固有値比図めらかな斜面であることを示す 11a) 勾配の変化が大きい尾根筋や谷筋が強調されて表現される しかし 固有値比のみでは 尾根筋 谷筋の区別はできない ウェーブレット解析図は 波の関数を連続的に地表の起伏にあてはめ その波と起伏との相関関係の程度を示す図 11b) ウェーブレット解析図尾根部で高い値となり 谷部で低い値を示す 値の変化を 色調の濃淡 ( 低高値 ) で表現すると 尾根 谷や勾配の変化を把握しやすくなる 11a) 地すべり地における航空レーザー測量データ解析マニュアル( 案 ) p16-18 から引用 11b) 地すべり地における航空レーザー測量データ解析マニュアル( 案 ) p11 から引用 7

(2)LP 地形量図の作成方法表 2.1 で取り上げている LP 地形量図の作成方法は 地すべり地における航空レーザー測量データ解析マニュアル ( 案 ) 11) に記載されている マニュアル ( 案 ) を参照し LP 地形量図を作成する LP 地形量図の種類 ( 例えば 斜面勾配 ) によっては 上記のマニュアル ( 案 ) に記載されている方法以外にも 計算方法が提案されている 複数の計算方法がある場合 LP 地形量図の作成者は 各々の目的に適した計算方法を選択し LP 地形量図を作成することが望ましい (3) その他の LP 地形量図本資料で紹介した LP 地形量図以外にも 陰影図 曲率図などの様々な LP 地形量図が考案されている また 例えば 日本測量調査技術協会空中計測 マッピング部会レーザワーキング 12) 等で紹介されているように 複数の LP 地形量図を組み合わせて 判読し易くした図も考案されている 必要に応じて これらの LP 地形量図を活用することが望ましい その他の LP 地形量図例を参考資料 2 に記載した 8

2.3 LP 地形量図を用いた微地形分布図の作成 (1) 判読微地形の種類と微地形分布図の作成判読する微地形は 遷急線 遷緩線 ガリー 凹地を標準とする 微地形分布図の作成では LP 地形量図 ( 重ね合わせ図 ) を基に微地形を判読し それらを図上に記載する 図 2.2 のように 微地形の判読 記載は 等高線の密度と濃淡の色調に表現されている斜面勾配を参考に行う 図 2.2 微地形分布図の作成例 微地形判読結果を等高線図と斜面勾配図の 重ね合わせ図 に記載 地すべりを特徴づける微地形として これまで, 様々な地形が認識されており それらの地形に対応する多くの微地形用語も存在する しかし 本資料では 微地形用語の細分化による混乱を避けるため 必要最小限と考えられる微地形 4 種を抽出対象とした ( 表 2.3) 地すべりに関連する微地形の多くは 傾斜変換線の組み合わせで表現できるため 遷急線 遷緩線 を判読すべき微地形とした また 遷急線 遷緩線の組み合わせでは表現しにくい ガリー 凹地 も判読すべき微地形とした 理由として ガリー は しばしば 地すべり移動体と安定斜面の境界線に対応する場合があるため 判読候補に採り上げた また 凹地 は 地すべり滑動やブロック細分化に伴い形成される場合があるため 判読候補に採り上げた なお 微地形判読を行う際には 対象地域の状況や目的に応じて 微地形の種類を追加する 9

表 2.3 LP 地形量図を基に抽出する地形 地形要素説明地すべり地形 b) 遷急線 遷緩線 ガリー 斜面下方に向かって 緩勾配から急勾配に変化する地点を結んだ線 斜面下方に向かって 急勾配から緩勾配に変化する地点を結んだ線 地表に掘り込まれた急な側壁をもつ小規模な溝状地形 降水時のみ流水をみる a) 頭部滑落崖 末端隆起部 分離小丘 引張亀裂 圧縮亀裂 - 凹地くぼ地湖沼 湿地帯 a) 地形学辞典 13) の 雨裂 から引用 b) 藤原 14) の図 2.1 の凡例に対応 (2) 微地形分布図作成の留意事項微地形分布図作成の留意事項は次のとおりである LP 地形量図は 表 2.1 を基に 抽出する微地形の種類に応じて 適したものを選択する 微地形の抽出作業や分布図作成は GIS ソフトウェアを起動したパソコンモニタ上で行うと 適宜 複数の LP 地形量図の表示切替や倍率変更ができるため 効率的に作業を進めることが可能である 2.4 において 地すべり移動体と地すべり滑落崖を判読するが, 必要に応じて 事前に地形の成因に基づく地形区分 ( 末端隆起部 分離小丘 引張亀裂 圧縮亀裂 崩壊地 崖錐 沖積錐 段丘等 ) に再分類し 微地形分類図を作成することが望ましい 10

2.4 微地形分布図を基にした地すべりブロックの判読微地形と斜面勾配の空間的分布 ( 配列 分布パターン ) から 地すべりブロック ( 地すべり移動体 地すべり滑落崖 ) を判読する 必要に応じて 微地形の明瞭度等を基準に 地すべりブロックを分類する 地すべりブロックの分類は 概査 精査時の地すべりブロック範囲や計測機器の配置等を検討する際に 参考となる場合がある なお 分類基準は 調査目的や調査地の地形的特徴等に応じて設定する 図 2.3 微地形分布図を基に判読した地すべりブロックの例 明瞭度に応じて A B C の 3 つに分類 ( 詳細は 3.1 に記述 ) 11

2.5 地すべり地形判読図の作成 (1) 地すべり地形判読図の作成地すべり判読結果を見やすくするため 微地形データを除き 地すべり地形判読図 を作成する ( 例, 図 2.4) 図 2.4 地すべり地形判読図の例 (2) 地すべり地形判読図の留意事項 地すべり地形判読図 は LP 地形データを基に 机上で地すべりを判読した予察図であ る したがって この予察図は 概査 精査の結果を反映して修正していく必要がある 現地踏査の基図として 地すべり地形判読図 を用いる際には 地すべり地形判読図 に微地形データ (2.3 で作成した微地形分布図 ) や 必要に応じて下記の諸情報を追加することが望ましい ( 例 ) 露頭候補地点 : 概査時に 地質や地質構造 地盤の風化状況を露頭で確認することが重要である したがって 斜面勾配図やオルソ画像等を用いて露頭候補地点を判読し 地すべり地形判読図 に追記し 現地踏査に役立てることが望ましい 湧水の可能性がある地点 ( 湧水地点 ): 概査時に 湧水地点を把握し その分布状況を把握することが重要である したがって ガリーの分布や斜面勾配図等を用いて湧水地点を判読し 地すべり地形判読図 に追記し 現地踏査に役立てることが望ましい 湧水地点を判読する際 戸田 (2012) 15) によって提案されている微地形図を用いると 湧水地点を視覚的に認識しやすい 12

3. LP 地形量図を用いた地すべり判読事例 3.1 付加コンプレックス地域の事例付加コンプレックス ( 四万十帯 ) 地域における LP 地形量図を用いた地すべり判読事例を図 3.1~3.4 に示す (1)LP 地形量図の作成 ( 図 3.1) 判読するための基図として 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ( 以後 重ね合わせ図 と呼ぶ ) を作成した 重ね合わせ図を作成する際 ここでは 立体感の得られる濃淡の色調で斜面勾配を表示した 等高線の間隔は 5 m に設定したが 地図の縮尺や対象地の起伏を考慮し 適宜 設定する 重ね合わせ図では 急傾斜な箇所は 等高線間隔が密で 濃い色調 ( 斜面勾配 ) で表現される 一方 緩傾斜な箇所は 等高線間隔が粗く 淡い色調 ( 斜面勾配 ) で表現される (2)LP 地形量図を用いた微地形の抽出と微地形分布図の作成 ( 図 3.2) 重ね合わせ図を基に 微地形の判読 記載をおこなった ここでは 表 2.3 の微地形のうち 対象地域に分布する 遷急線 遷緩線 ガリー を判読し 記載した これらの微地形の判読 記載は 等高線の密度と濃淡の色調に表現されている斜面勾配を参考に行った (3) 微地形分布図を基に 地すべりブロックを判読 ( 図 3.3) 微地形と斜面勾配の空間的分布 ( 配列 分布パターン ) から 地すべり移動体 地すべり滑落崖を判読した ここでは 判読した地すべりブロックは 明瞭度に応じて A B C の 3 つに分類した ( 表 3.1) なお 1.2 で述べた対象地すべりのうち 明瞭な地すべり が A 不明瞭な地すべり が B 重力性変形斜面 が C に対応する 表 3.1 判読結果の分類 分類 A B C 説明 地すべり移動体 地すべり滑落崖の輪郭が明瞭なもの A に比べ 地すべり移動体 地すべり滑落崖の輪郭が不明瞭であるが 地すべりに関連すると考えられる微地形が認められる斜面 地すべり移動体 地すべり滑落崖の輪郭が不明 ただし 斜面変動によって緩傾斜化したと考えられる斜面や段差地形が発達した斜面 13

1 図 3.1 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 1 は, 図 3.5 の位置を図示 1 図 3.2 微地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 1 は図 3.5 の位置を図示 14

1 図 3.3 微地形を用いた地すべり地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 1 は図 3.5 の位置を図示 図 3.4 地すべり地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 15

(4) 地すべり地形判読図の作成 ( 図 3.4) 地すべり判読結果を見やすくするため 微地形データを除き 地すべり地形判読図 を 作成した たとえば 明瞭度 A の地すべりブロック1( 図 3.1~3.3) の判読手順は 次のとおりである 斜面上部 ~ 中部に比較的平滑な急斜面 (> 約 40 図 3.5 の a) が分布する そして 斜面中部から下部付近は 主に緩斜面 (< 約 20 図 3.5 の b) が広がり 地表面には凹凸が認められる 斜面末端は 急斜面 (> 約 40 図 3.5 の c) を示し 最末端部は現河床と接する これらの斜面勾配の変化点 ( 線 ) や地表面の凹凸を 微地形として遷急線 遷緩線で記述したものが図 3.2 に該当する このような微地形と斜面勾配の空間的分布から 斜面上部 ~ 中部の急斜面は地すべりの滑動により形成された滑落崖 ( 図 3.5 の a) であり 斜面中部 ~ 下部は 滑動した移動体 ( 図 3.5 の b と c を併せた範囲 ) をなすと判読した なお 1の対岸の谷壁斜面には 現河床から 20~30m 付近に 幅 (10~15m 程 ) の狭い緩斜面 ( 図 3.5 の d) が存在する この緩斜面と1の移動体緩斜面の末端付近の標高はほぼ同等である したがって 地すべり移動体が対岸 ( 右岸 ) まで到達し 現在 右岸に移動体の一部が残存している という可能性も考えられる 図 3.5 地すべりブロック 1 の拡大図 1 の位置は 図 3.1~3.3 に図示. 16

3.2 新第三紀層地域の地すべりの事例 新第三紀層地域における LP 地形量図を用いた地すべり地形判読事例を図 3.6~3.9 に示 す 地すべり地形判読図を作成した手順は 前述の 3.1 と同様である (1)LP 地形量図の作成 ( 図 3.6) 判読するための基図として 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図を作成した (2)LP 地形量図を用いた微地形の抽出と微地形分布図の作成 ( 図 3.7) 重ね合わせ図を基に 微地形の判読 記載をおこなう ここでは 表 2.1 の微地形のうち 対象地域に分布する 遷急線 遷緩線 ガリー 凹地 を判読し 記載した これらの微地形を判読する際には 等高線の密度と濃淡の色調に表現されている斜面勾配を参考にした (3) 微地形分布図を基に 地すべりブロックを判読 ( 図 3.8) 微地形と斜面勾配の空間的分布 ( 配列 分布パターン ) から 地すべり移動体 地すべり滑落崖を判読した ここでは 判読した地すべりブロックは 明瞭度に応じて A B C の 3 つに分類した ( 表 3.1) (4) 地すべり地形判読図の作成 ( 図 3.9) 地すべり判読結果を見やすくするため 微地形データを除き 地すべり地形判読図 を 作成した 17

図 3.6 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 図 3.7 微地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 18

図 3.8 微地形を用いた地すべり地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 図 3.9 地すべり地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 19

3.3 地すべり災害の事例近年の地すべり災害の事例として 平成 26 年 8 月に発生した高知県鏡的渕地すべり周辺地区を図 3.10~3.13 に示す また 滑動した地すべりの範囲を 図 3.12~3.13 に示す ここで示している滑動した地すべりの範囲は 現地踏査やボーリング調査を基に設定されたものである 地すべり地形判読図を作成した手順は 前述の 3.1 と同様である ここで用いた LP データは 地すべり発生前に撮影されたものである 対象地域の地質は 付加コンプレックスからなる 発生した地すべり移動体の頭部周辺は いくつもの段差地形が認められ 崖高が 3-4 m 程の小規模なものも認められる このような小規模な段差を判読できることも LP 地形量図の利点の一つである ただし 発生した地すべり移動体の頭部周辺は耕地になっているため LP 地形量図のみでは地すべり滑落崖を厳密に判読することは困難であった 前述の 3.1 3.2 の地域と異なり 対象地域は 滑落崖が不明瞭な地すべりが多い そのため 対象地域の地すべりの明瞭度 ( 表 3.1) は すべて B とし 明瞭度 A C に該当するものはないとした なお 鏡的渕地すべりの災害概要については 国立研究開発法人土木研究所土砂管理研究グループ地すべりチーム 16) 等を参照するとよい 20

21

図 3.10 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 図 3.11 微地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の複合図 ) 22

図 3.12 微地形を用いた地すべり地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 図 3.13 地すべり地形判読図 ( 等高線と斜面勾配の重ね合わせ図 ) 23

引用文献 1) 藤澤和範 野村康裕 (2004): 奈良県大塔村で発生した地すべり災害 ( 災害速報 ), 土木技術資料,Vol.46,No.9,pp.4 5. 2) 藤澤和範 池田学 樋口佳意 水野秀明 (2006): 岐阜県揖斐川町東横山地区で発生した地すべり, 土木技術資料,Vol.48,No.7,pp.4 5. 3) 国土交通省砂防部 独立行政法人土木研究所 (2008): 地すべり防止技術指針及び同解説, 社団法人全国治水砂防協会. 4) 鈴木隆介 (1997): 建設技術者のための地形図読図入門 第 1 巻 読図の基礎, 古今書院. 5) 鈴木隆介 (1998): 建設技術者のための地形図読図入門 第 2 巻 低地, 古今書院. 6) 鈴木隆介 (2000): 建設技術者のための地形図読図入門 第 3 巻 段丘 丘陵 山地, 古今書院. 7) 鈴木隆介 (2012): 建設技術者のための地形図読図入門 第 4 巻 火山 変動地形と応用読図, 古今書院. 8) 大八木規夫 (2007): 地すべり地形の判読法 - 空中写真をどう読み解くか-, 近未来社. 9) 日本河川協会 (1997): 建設省河川砂防技術基準 ( 案 ) 同解説調査編, 山海堂,pp.199-218. 10) 横山隆三 白沢道生 菊池祐 (1999): 開度による地形特徴の表示, 写真測量とリモートセンシング,Vol.38, No.4, pp.26-34. 11) 藤澤和範 笠井美青 (2009): 地すべり地における航空レーザー測量データ解析マニュアル ( 案 ), 土木研究所資料第 4150 号. 12) 日本測量調査技術協会空中計測 マッピング部会レーザワーキンググループ (2013): 航空レーザ測量による災害対策事例集, 日本測量調査技術協会. 13) 町田貞 井口正男 貝塚爽平 佐藤正 榧根勇 小野有五編 (1981): 地形学辞典, 二宮書店. 14) 藤原明敏 (1979): 地すべりの解析と防止対策- 特に土木工事に関連する地すべりの発生予知 -, 理工図書. 15) 戸田堅一郎 (2012): 航空レーザ測量データを用いた微地形図の作成, 砂防学会誌, Vol.65, No.2, pp.51-55. 16) 国立研究開発法人土木研究所土砂管理研究グループ地すべりチーム (2015): 地すべりによる災害とその考察高知県高知市鏡的渕における地すべり災害, 平成 26 年土砂災害の実態, 砂防 地すべり研究センター,pp.36-40. 24

謝辞本資料で扱った LP データは 国土交通省国土地理院が管理する航空レーザ測量データおよび国土交通省近畿地方整備局紀伊山地砂防事務所 国土交通省四国地方整備局四国山地砂防事務所から提供いただいたものです 現地調査に際しては 新潟県 奈良県にご協力頂きました 土木研究所土砂管理研究グループ地すべりチームの杉井良平交流研究員には 現地調査にご協力頂きました また とりまとめにあたり 地すべりチームのメンバーからは有益な意見を頂きました ここに感謝の意を表します 25

参考資料 26

参考資料 1 微地形判読に適した LP 地形量図の検討 手引き ( 案 )2.2 で記載したように 微地形判読に適した LP 地形量図を検討するため 表 2.2 に示した計 6 種の地形量図 ( 等高線図 斜面勾配図 斜面傾斜方向図 開度図 固有値比図 ウェーブレット解析図 ) を取り上げた これら 6 種の LP 地形量図を用いて 付加コンプレックスと新第三紀層の2つの地質地域 ( 計 37 km 2 ) を対象に 微地形の判読に適した LP 地形量図を検討した 本文の表 2.1 に 検討結果をまとめた一覧表を示す また 各 LP 地形量図で微地形がどのように判読されるか その例を図 A.1~A.3 に示す 遷急線 遷緩線の判読は 図 A.1a~A.1c に示すとおり 等高線の疎密 ( 等高線図 ) や色調に表現される斜面勾配の変化 ( 斜面勾配図 ) をもとに 可能である また ウェーブレット解析図は 明瞭な遷急線の判読が可能である ( 図 A.1c) その他の LP 地形量図では 遷急線 遷緩線の判読が困難である ガリーは 図 A.2a~A.2c に示すとおり 等高線図 斜面勾配図 開度図 ( 地上 地下開度 ) ウェーブレット解析図を用いることで 判読が可能である 斜面傾斜方向図は 単一の図のみではガリーを判読するのは困難である 別の地形量図等で尾根 谷が把握できれば ガリーを挟んで斜面方向が変化する情報をもとに判読が可能な場合がある 固有値比図は 小さい値が線状に連続する場合は ガリーの可能性があるが 単一の図のみではガリーを判読するのは困難である 凹地は 図 A.2a~A.2c に示すとおり 等高線図を用いることで判読が可能である 斜面勾配図は 凹地を形成する斜面の勾配が同程度の場合 とくに判読が困難である ( 図 A.2a) 斜面傾斜方向図では 凹地 ( すり鉢状の場合 ) の斜面方向は全方位 (360 ) 存在するため 360 方位の色調を示すが 単一の地形量図のみでは判読が困難である ( 図 A.2b) その他の LP 地形量図では 凹地の判読は困難である 27

等高線図 ( 微地形未記入 ) 等高線図 ( 微地形記入 ) 斜面勾配図 A( 濃淡表現 ),( 微地形未記入 ) 斜面勾配図 A( 濃淡表現 ),( 微地形記入 ) 斜面勾配図 B( 段彩表現 ),( 微地形未記入 ) 斜面勾配図 B( 段彩表現 ),( 微地形記入 ) 図 A.1a LP 地形量図における遷急線 遷緩線の見え方 (1 m DEM 使用 ) 28

斜面傾斜方向図 ( 微地形未記入 ) 斜面傾斜方向図 ( 微地形記入 ) 開度図 A( 地上開度 ),( 微地形未記入 ) 開度図 A( 地上開度 ),( 微地形記入 ) 開度図 B( 地下開度 ),( 微地形未記入 ) 開度図 B( 地下開度 ),( 微地形記入 ) 図 A.1b LP 地形量図における遷急線 遷緩線の見え方 (1 m DEM 使用 ) 29

固有値比図 ( 微地形未記入 ) 固有値比図 ( 微地形記入 ) ウェーブレット解析図 ( 微地形未記入 ) ウェーブレット解析図 ( 微地形記入 ) 図 A.1c LP 地形量図における遷急線 遷緩線の見え方 (1 m DEM 使用 ) 30

等高線図 ( 微地形未記入 ) 等高線図 ( 微地形記入 ) 斜面勾配図 A( 濃淡表現 ),( 微地形未記入 ) 斜面勾配図 A( 濃淡表現 ),( 微地形記入 ) 斜面勾配図 B( 段彩表現 ),( 微地形未記入 ) 斜面勾配図 B( 段彩表現 ),( 微地形記入 ) 図 A.2a LP 地形量図におけるガリー 凹地の見え方 (1 m DEM 使用 ) 31

斜面傾斜方向図 ( 微地形未記入 ) 斜面傾斜方向図 ( 微地形記入 ) 開度図 A( 地上開度 ),( 微地形未記入 ) 開度図 A( 地上開度 ),( 微地形記入 ) 開度図 B( 地下開度 ),( 微地形未記入 ) 開度図 ( 地下開度 ),( 微地形記入 ) 図 A.2b LP 地形量図におけるガリー 凹地の見え方 (1 m DEM 使用 ) 32

固有値比図 ( 微地形未記入 ) 固有値比図 ( 微地形記入 ) ウェーブレット解析図 ( 微地形未記入 ) ウェーブレット解析図 ( 微地形記入 ) 図 A.2c LP 地形量図におけるガリー 凹地の見え方 (1 m DEM 使用 ) 33

参考資料 2 その他の LP 地形量図例 ここでは 手引き ( 案 ) の 2.2 で取り扱わなかった他の LP 地形量図例を示す (1) 陰影図陰影図は 光源方向 高度の条件によって 地形の印象が変わる このため 陰影図を用いた地形判読は ある特定方向の斜面のみを対象にする場合には有効であるが 広範囲の斜面 ( 不特定の斜面方向を含む ) を判読する際などは斜面の向きで地形の印象が変わるので不向きである 図 B.1 図 B.2 は同じ方向から光源の高度を変えて作成した事例である 光源の高度が低くなると白黒の濃淡が大きくなる 図 B.1 光源方位 315 光源高度 75 図 B.2 光源方位 315 光源高度 15 34

図 B.3 から図 B.6 は光源の高度を 45 とし 光源の方向を 90 度ずつ変化させた事例であ る 図 B.3 図 B.5 は陰影が反転しており 中央の稜線が明瞭に表現されている 同様に 図 B.4 図 B.6 でも陰影が反転しており 北向き斜面の起伏が判読しやすい 図 B.3 光源方位 315 光源高度 45 図 B.4 光源方位 225 光源高度 45 図 B.5 光源方位 135 光源高度 45 図 B.6 光源方位 45 光源高度 45 35

(2) さまざまな LP 地形量図の重ね合せ 斜面勾配図の重ね合わせ( 濃淡表現 + 段彩表現 ) 図 B.7 は斜面勾配の白黒濃淡図に段彩図 ( 透過率 70%) を重ね合わせた図である 段彩図は 緩勾配を寒色系 急勾配を暖色系に設定した この事例では 地すべり移動体や重力性変形斜面と考えられる場所は 水色から黄色で表現される 一方 地すべり滑落崖や崩壊斜面は 赤茶色から黒色に表現される 色調の変化に着目すると 微地形を認識しやすい 図 B.7 斜面勾配図 ( 濃淡表現 + 段彩表現 ) 36

固有値比図と斜面勾配図の重ね合わせ図 B.8 は斜面勾配の白黒濃淡図に固有値比図 ( 透過率 50%) を重ね合わせた事例である 堰堤や人工法面 崖の縁辺部など 固有値比の値が低い ( 法線ベクトルのばらつきが大きい ) 部分は青色で表現されている 一方 道路や川幅の広い河床 凹凸の少ない斜面などは固有値比の値が高く ( 法線ベクトルのばらつきが小さく ) 暖色系で表現されている 図 B.8 固有値比図と斜面勾配図の重ね合わせ図 固有値比図の作成は 検索距離 1m に設定 37

ウェーブレット図と斜面勾配図の重ね合わせ図 B.9 は斜面勾配の白黒濃淡図にウェーブレット図 ( 透過率 50%) を重ね合わせた事例である 凸型の斜面が赤色系 凹型の斜面が青色系で表現されている このため 尾根 谷が暖色系 寒色系として強調される また 凹凸の変化が明瞭である人工構造物や露岩域は 狭い範囲において色が赤から青に変化する 図 B.9 ウェーブレット図と斜面勾配図の重ね合わせ図 ウェーブレット図の作成は 検索距離 1m に設定 38

土木研究所資料 TECHNICAL NOTE of PWRI No.4344 October 2016 編集 発行 国立研究開発法人土木研究所 本資料の転載 複写の問い合わせは 国立研究開発法人土木研究所企画部業務課 305-8516 茨城県つくば市南原 1-6 電話 029-879-6754