議員は国民の代表ですから より多くの議員に賛成してもらえる案は より多くの国民に賛成してもらえる 民意がよく反映された案である可能性が高くなります この 民意がよく反映されるという点が 二院制に期待される根源的な価値となります また これを達成するために衆参両院には以下のような制度的差異が設けられ

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いる 〇また 障害者の権利に関する条約 においては 障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとされている 〇一方 成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度 ( いわゆる欠格条項 ) については いわゆるノーマライゼーションやソーシャルインクルージョン ( 社会的包摂 ) を基本理念とする成年

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その次の日に内閣人事局が発足して その省庁別に割り振られている常任委員会の所管としては内閣委員 会ということになりますので 平成 26 年 6 月 3 日のこの参議院総務委員会で所管替えを行いましたので 今 国家公務員法制は内閣委員会に移って 地方公務員分はこちらで扱っているということになっています

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4.2 リスクリテラシーの修得 と受容との関 ( ) リスクリテラシーと 当該の科学技術に対する基礎知識と共に 科学技術のリスクやベネフィット あるいは受容の判断を適切に行う上で基本的に必要な思考方法を獲得している程度のこと GMOのリスクリテラシーは GMOの技術に関する基礎知識およびGMOのリス

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社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

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第 19 回 JDA 春季ディベート大会決勝戦 page 2/17 具体例 一橋大学大学院教授 中北 2012 実際 2007 年と 2010 年の参院選の結果 ねじれ国会 に陥ると 政権運営は行き詰まり 総選挙で掲げたマニフェストの実施が困難になった 終わり 2-B また 参議院で多数派を作るため

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( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 法学 ) 氏名小塚真啓 論文題目 税法上の配当概念の意義と課題 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 法人から株主が受け取る配当が 株主においてなぜ所得として課税を受けるのかという疑問を出発点に 所得税法および法人税法上の配当概念について検討を加え 配当課税の課題を明

Transcription:

第 23 回ディベート甲子園高校の部論題解説 日本は国会を一院制にすべきである 是か非か 参議院を廃止するものとする 論題検討委員榊原陽介 (1-3) 極山大樹 (4,5) 竹久真也 (6,7) 1. はじめに今回の論題である一院制は ディベート甲子園の論題としては 2009 年の第 14 回大会以来の採用となります 当時は自公政権に対する国民の不満が高まっていた時期で ディベート甲子園の閉幕直後 民主党を最大与党とする新政権が発足しました それに前後し 2007 年の参議院議員選挙で民主党が第一党となって以降 衆議院と参議院で多数派が異なる ねじれ国会 が頻発し 衆参両院の役割を改めて考え直す機運が高まりました 国会がねじれ状態ではなくなって久しい今日でも それでも国会の役割 機能について見直そうとする動きは常にあり 一院制の導入を公に主張する政党も出現してきています 今回この論題に取り組むにあたっては 皆さんの先輩が第 14 回大会当時に調べていたようなことだけではなく それ以後の時期に発生していた様々な事象についての理解を深める必要があります 2. 二院制の特徴衆議院も参議院も 選挙によって選出さ れた代表から構成され 予算案や法案の可決 ( 否決 ) 条約の承認 内閣総理大臣の指名を行うといった役割を持つ点では共通していますが これらの議決や承認にはいくつかの場面で衆議院の決定に優越性が認められています 例えば予算案であれば 衆議院で可決の後に参議院で否決され 両院協議会でも成案が得られない場合は 衆議院の議決をもって国会の議決とすることができます 法律案であれば 参議院で否決された法案であっても 衆議院で出席議員の 3 分の 2 以上の多数を得て再可決すれば法律となります とはいえ 参議院で否決された予算案 法案を衆議院の優越規定によって通してしまうことは ともすればネガティブな印象を有権者に与えますから 政権与党にとってもおいそれとできることではありません その意味で参議院の影響力はやはり大きく 政権与党には予算案や法案を参議院でも可決してもらえるようにブラッシュアップする動機が生まれることになります つまり 二院制であることで より多くの議員に賛成してもらえる予算案 法案の作成が促されます 1

議員は国民の代表ですから より多くの議員に賛成してもらえる案は より多くの国民に賛成してもらえる 民意がよく反映された案である可能性が高くなります この 民意がよく反映されるという点が 二院制に期待される根源的な価値となります また これを達成するために衆参両院には以下のような制度的差異が設けられ 一元的でない多様な民意を国会の場に反映できるよう工夫されています 第一に 両院は任期が異なります 衆議院議員の任期は 4 年で 内閣総理大臣により任期の途中で解散させられることもあり得ます 対して 参議院議員の任期は 6 年と長く 任期途中での解散もありません このため 衆議院議員と比較して参議院議員は次の選挙を意識する必要性が薄く ともすれば大衆受けに走りがちな衆議院議員に 待った をかけ 腰を据えて長期的な視野に立った審議を行うことが期待されています 第二に 両院は選挙の方式 位置付けが異なります 衆議院議員選挙も参議院議員選挙も 選挙区制と比例代表制を組み合わせた選挙制度である点では同様ですが 衆議院議員選挙は小選挙区制 (1 選挙区につき 1 人しか当選できない ) と全国 11 ブロックでの比例代表制によって実施される一方 参議院議員選挙は一人区と複数人区が混在する選挙区制 全都道府県での比例代表制によって実施されます このような性質から 参議院は少数派の考えを持つ候補 者でも議席を獲得し易く 衆議院議員よりも国民各層の多様な民意を反映する機能に優れるとされます また 先述したように両院は内閣総理大臣を指名する役割を持ちますが 両院で指名された人物が異なり 協議しても溝が埋まらない場合は衆議院の決定が優越します ですので 衆議院での野党が参議院で第一党になっても政権担当政党が変わることは基本的になく 参議院議員選挙は政権選択の選挙ではないと言えます ゆえに 大胆な国政の変革は望まないが 与党にも不満がある といったような有権者は 参議院議員選挙の方が気軽に野党に投票できます この点においても 野党や少数政党は参議院の方が比較的議席を獲得しやすいと言えます まとめると参議院には ともすれば専横に走りがちな衆議院を牽制し 様々な民意を汲んで国政に反映させる役割が期待されます 3. 二院制の弊害しかし 二院制についてはその弊害も古くから指摘されてきました 衆参両院の間で審議の結論が異なったものになる可能性は常にあり もしそうなった場合 国会が法案を決めることができず機能不全に陥りかねません 法案の再可決というやり方もありますが 既に述べた通り簡単にできるものではありません 実際 先に挙げたねじれ国会が頻発していた期間 2

においては 特定の法案の議決が両院で異なる等 与党の思惑通りに事が進まない事態が少なからず発生していました つまり 参議院が強い力を発揮すると国政が遅滞するリスクがあるのです では 国会がねじれていない状態であれば問題がないのかというと そうとも言えません 衆参両院で第一党が一致している場合であっても そもそも参議院に期待されているような 長期的な視点に立った審議なるものは本当にできているのか この点についてもしばしば疑義が呈されます 過去を振り返ってみても 衆議院と参議院で議決が異なった例 あるいは参議院によって法案が修正されたような例は歴史的に見て決して多くはありません つまり 衆議院も参議院も同じようなことをやっているのなら それは時間も費用もかかるし無駄ではないかということです このことを揶揄して 参議院は衆議院の カーボンコピー と言われることもあります 4. 予想されるメリットメリット1: 審議の迅速化二院制の下で法律を制定するには 衆参両院で法案が可決される必要があります また 行政機関等の役職者の人事などについても両院の同意が必要であり これらが審議の長期化を招いています 特にこの問題が深刻化するのは 第一院と第二院で多数党が異なる ねじれ国会 になった場合です ねじれ国会 になった場合 各議 院の多数党で法案 人事などについての見解が分かれることが多く 決定までに多大な時間を費やす可能性が高いです そのため 国民に必要な政策が直ちに実行できないという弊害が生じえます そこで 一院制にすることで 上記の問題を解決すべきだと主張することができるでしょう もっとも 単に審議が長期化するロジックと ねじれ国会 下での実例を述べるだけでは議論の広がりに欠けます 例えば 今後の日本社会において迅速な決定ができないことの深刻性を述べるなど 様々な観点からアプローチすることで 充実した議論を組み立てることができるでしょう メリット2: 政権の安定化 ねじれ国会 になった場合 政権与党が多数派を占める衆議院で可決された法案を 異なる党が多数派を占める参議院で否決し続けることができ 重要な政策の実行を遅らせることができます その結果 国民が政権に対して不満を募らせ 内閣支持率が低下し 頻繁に首相の交代が行われるといった事態が起こりえます 頻繁な首相交代は 長期的な視野を必要とする政策の実現を困難にするなどの弊害を生じます そこで 頻繁な首相交代を防ぎ 政権を安定化させるために ねじれ国会 が起こりえない一院制にすべきだと主張することができるでしょう また 政権与党が参院選で敗北したことの責任をとるため 首相が辞任するといっ 3

たケースもあります そのため ねじれ国会 下で審議の停滞が起こらなくても 参議院の存在自体が首相交代の原因を増やしているといった主張もできるかもしれません メリット3: コストの削減参議院の廃止に伴い 議員の歳費 職員の人件費 立法過程や選挙に必要な費用などを削減できるという主張も可能でしょう 5. 予想されるデメリットデメリット1: 審議の拙速化メリット1の裏返しとなりますが 二院制の下での審議の長期化は 重要な政策に対して慎重な審議を行っていると肯定的に捉えることができます そのため 一院制にすると審議が拙速化され 政策のリスク面の考慮などを怠ってしまい 深刻な影響がもたらされると主張することができるでしょう このデメリットを主張する際も 審議の迅速化 メリット同様 ただ実例を述べるだけでは説得力がありません 例えば その実例が起こった原因をよく分析し 実例が一般化できる理由を述べるなど 説得力を向上させる努力が必要です ここで選手の皆さんに注意してほしいのが 肯定側チームがメリットとして 審議の迅速化 を主張する一方 否定側チームがデメリットとして 審議の拙速化 を主張した場合の論じ方です このように同一の事情について異なった捉え方をしたチー ムどうしが議論する場合によく見受けられるのが それぞれが自身の立場に妥当した実例をアピールし続け 水掛け論と化してしまう展開です 水掛け論となった場合 投票結果がジャッジの主観に委ねられるといった事態になりやすいです そのため 相手の立場を考慮した 立論を作れるか否かが勝負のカギとなるでしょう デメリット2: 参議院独自の役割の喪失衆議院と参議院では 選挙方法 任期 人数等 様々な違いがあります 異なった制度設計がなされている理由は 衆参両院に異なる役割を求めたためであることは 前述の通りです そのため 否定側としては 参議院独自の役割が喪失するというデメリットを主張することができます 例えば 衆議院は 首相の指名について優越規定があること 内閣の不信任が決議できること 逆に内閣が衆議院を解散できることから 立法活動が政権闘争の動向に左右されるという欠点を有しています 他方 参議院は内閣の不信任を決議できず 解散もされないことから 政権闘争から距離を置いて立法活動を行えるという利点を有しています 具体的には 参議院の方が 法案の作成過程において 超党派 ( 政党の枠組みを超えて協力すること ) での議論がなされやすいといった主張等が可能でしょう また 衆議院は選挙によって議員が総入れ替えするのに対し 参議院は半数改選で 4

あることから 政策の一貫性を保持する役割を有しているといった指摘も可能です さらに 両院の議員の選出方法の違いが 国民の投票行動に差を生んでいるため 多様な形で民意を反映させるべきだとの主張もできるでしょう 6. 議論を進めていく上での注意点参議院の廃止を直接に論じた文献は決して多くありません 論題に取り組む当たっては 参議院の機能や衆議院との関係など 現在の日本の国会のあり方を論じた文献を根拠にしつつ プラン後の社会を想像する必要があります それにあたり 以下の三つポイントにぜひ着目いただきたいです まず一つ目は 国会の議決時や 国会の中でだけでなく それ以外の制度や枠組みにも着目いただきたいということです 予算や法律を最終的に議決するのは国会ですが そこに到るまでに 政党や内閣 官僚などの検討プロセスがあります 予算や法律以外にも 参議院の有無によって選挙のタイミングや回数も異なるので 選挙戦略や政権運営にも違いがあるでしょう 国会以外の審議や選挙等も含め まずは日本で政策が決まる際の流れを抑えた上で プラン前後の変化を考えてみてください 二つ目は 海外と日本の制度を比較する際には 制度の要点を抑えた上で 比較していただきたいというものです 今回の論題では 様々な場面で海外と日本を比較する必要があるでしょう ところが 議会や 二院制といっても その制度や役割は国ごとに大きく異なります 引用している事例が なぜ自分たちの主張に当てはまると言えるか 制度や社会背景も合わせて説明できると良いでしょう 最後は 具体的な事物だけではなく 背景にある考え方や あるべき政治的決定のあり方について考えていただきたいというものです メリットには 迅速化 デメリットには 拙速化 を例として挙げたように この論題では同じ物事を肯定的にも否定的に捉えられます この捉え方の違いは 今の政権の方針を早期に実現させるべきか 時間はかかっても多くの立場の意見を反映すべきか といった考え方の違いからきています ただ単に 何が起こるか だけではなく そもそも民主的な決定がどうあるべきかについて ぜひ考えてみてください 7. 終わりにイギリスの国民投票やアメリカでのトランプ大統領の誕生など 民主主義はどうあるべきか 民意と政府の決定はどのような関係であるべきかという問いは 世界各国で今 まさに注目されているテーマです 選手の皆さんには その中でも国会の制度を切り口として この問いについて考えていただくこととなります 今回の論題への取り組みが 民主主義のあり方について改めて考えるきっかけとなることを 委員一同期待しております 5

参考文献 衛藤征士郎 一院制国会が日本を再生する 悠雲舎 2012 年 藤本一美 上院廃止 ~ 二院制議会から一院制議会への転換 ~ 志學社 2012 年 西垣淳子 今回のねじれ国会の経験が残した憲法上の課題 財団法人世界平和研究所 2009 年 寅澤一之 二院制議会における今日の参議院の役割 国の統治機構等に関する調査報告 立法と調査 No. 378 2016 年 竹中治堅 参議院とは何か 1947~2010 中公叢書 2010 年 第 183 回国会憲法審査会第 3 号 2013 年 5 月 22 日 http://kokkai.ndl.go.jp/sentaku/sangiin/183/0154/18305220154003c.html 衆議院憲法調査会事務局 国会と内閣の関係( 国民主権と政治の基本機構のあり方全般 ) に関する基礎的資料 2002 年 6