的な記憶を使って素早く学習しますが 練習時間が長くなると長期的な記憶を使い 長く記憶を残せるようになります 例えば いちど練習してできるようになった運動のやり方を忘れてしまっても 2 回目に練習するときは 1 回目より早くできるようになります これは 短期の記憶が失われても 長期の記憶が残っているか

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平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

マスコミへの訃報送信における注意事項

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値


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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

ダンゴムシの 交替性転向反応に 関する研究 3A15 今野直輝

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放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する



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領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

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出発前日の早起きで時差ボケを軽減 シフトワーカーのからだに優しい勤務スケジュールの作成に期待 [ 発表者 ] 郡宏 ( お茶の水女子大学基幹研究院准教授 ) 山口賀章 ( 京都大学薬学研究科助教 ) 岡村均 ( 京都大学薬学研究科教授 ) [ ポイント ] 時差ボケの原因を数学的に解明 東向きの長距

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

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報道関係者各位 平成 29 年 11 月 8 日国立大学法人筑波大学国立大学法人京都大学国立研究開発法人理化学研究所 自閉スペクトラム症者のコミュニケーション障害に関する新たな視点 ~ 最新の脳波技術を用いた科学的根拠による理解の促進 ~ 研究成果のポイント 1. 自閉スペクトラム症者 (1) の二

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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Transcription:

短期と長期の運動記憶の画像化に成功 早く学んですぐ忘れる ゆっくり学んで長く記憶その違いはどこに? 1. 発表者 : スムシン キム (Northwestern University Feinberg School of Medicine 研究員 ) 小川健二 ( 北海道大学大学院文学研究科准教授 / 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 認知機構研究所連携研究員 ) ジンチ レヴ (University of Southern California Marshall School of Business 准教授 ) ニコラ シュバイゴファー (University of Southern California Division of Biokinesiology and Physical Therapy 准教授 ) 今水寛 ( 東京大学大学院人文社会系研究科教授 / 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 認知機構研究所客員所長 ) 2. 発表のポイント : 人間の脳における短期と長期の運動記憶を画像で捉えることに成功しました 理論的に示されていた短期と長期の運動記憶の存在を 脳活動計測と数理モデルを組み合わせて実証しました 練習効果が長く残るトレーニングやリハビリテーションへの応用が期待されます 3. 発表概要 : 試験前の一夜漬けのように 早く覚えたことはすぐ忘れてしまいますが 自転車の乗り方のように時間をかけて練習したことはずっと覚えています このように 短期と長期の運動記憶が脳内に存在することは これまで理論的に示されていました しかし 脳のどのような場所が短期と長期の運動記憶に関係しているのかは謎でした 東京大学大学院人文社会系研究科の今水寛教授 (ATR 認知機構研究所客員所長 ) は 北海道大学大学院文学研究科の小川健二准教授 南カリフォルニア大学のニコラ シュバイゴファー准教授らとともに 短期と長期の運動記憶が 脳の異なる場所に保存される様子を 世界で初めて画像として捉えることに成功しました これは 機能的磁気共鳴画像 (functional magnetic resonance imaging: fmri) 法という脳活動の計測方法と数理モデルを組み合わせることで可能になりました 人間の行動を外から観察しているだけでは 短期的に記憶しているのか 長期的に記憶しているのか解りません 表面的にはうまくできているように見えても 記憶は長く残らないかも知れません 今回開発した方法は 脳の内部状態を推定して どれくらい長期に残る記憶なのかを予測することができます 脳の状態をモニターしながら 練習効果が長く残る効率的なトレーニングやリハビリを行うことが期待されます 4. 発表内容 : 背景一般に 短期間で覚えたことはすぐに忘れますが 長期間で覚えたことは長く記憶に残ります スポーツなどの運動学習でも同様ですが 脳内には短期から長期までのさまざまな時間スケールの運動記憶が存在すると言われています このため あることを学習するとき 始めは短期

的な記憶を使って素早く学習しますが 練習時間が長くなると長期的な記憶を使い 長く記憶を残せるようになります 例えば いちど練習してできるようになった運動のやり方を忘れてしまっても 2 回目に練習するときは 1 回目より早くできるようになります これは 短期の記憶が失われても 長期の記憶が残っているからと考えられています このように 時間スケールの異なる記憶が脳に存在すると考えると 運動学習のさまざまな現象が説明できることが 理論的に示されてきました しかし 脳のどの場所が短期の記憶を担当し どの場所が長期の記憶を担当しているのかは解りませんでした 研究内容実験参加者 (21 名 20-50 歳 : 平均年齢 27.6 歳 女性 6 人を含む ) に fmri 装置の中で ジョイスティックを操作してもらいました ( 図 1) 参加者が学習する課題は2つあり 課題 1 は ジョイスティックを 右斜め上 ( 40 ) の方向に正確に動かすことで 課題 2は左斜め上 (40 ) の方向に動かすことです それぞれの課題を9 回ずつ交互に練習することを約 300 回繰り返します 参加者は それぞれのやり方を覚えたり忘れたりしながら やがて両方の課題を正確にできるようになります ( 図 2A) このようにして得た行動データ ( 図 2A) からは 脳の中で短期と長期の記憶が どのように変化していたのか すぐには解りません そこで 数理モデルを使って 行動データを解析します このモデルは すぐに学習してすぐに忘れる 短期的な記憶から 学習は遅いが いつまでも覚えている 長期的な記憶まで 段階的にさまざまな時間スケールの記憶を備えたモデルです モデルを行動データに当てはめることで 練習中に短期と長期の記憶がどのように変化していたかを推定することができます ( 図 2B) 次に モデルから得られたさまざまな記憶の時間変化 ( 図 2B) と 同じような変化をしていた脳の場所はどこにあるかを 回帰分析という統計的な方法 ( 注 1) を用いて調べました その結果 ( 図 3) 1) 数秒で学習して数秒で忘れる非常に短期的な記憶には 前頭前野や頭頂葉の広い場所が関係していること 2) 数分から数十分で学習して忘れる中期的な記憶は 頭頂葉の中でも限られた部分が関係していること 3)1 時間以上かけて学習し ゆっくり忘れる長期的な記憶は小脳が関係すること などが明らかになりました この結果を動画にすると 練習時間とともに 運動の記憶が脳内をダイナミックに移動する様子を見ることができます (www.l.u-tokyo.ac.jp/~imamizu/pbio.mov をご覧ください ) 上記の結果は 記憶の時間スケールに関して 脳の場所ごとに異なるタイプ ( 早く学習して早く忘れるタイプなど ) があることを示しています 最後に 脳の中にいくつのタイプがあるかを 特異値分解という統計的な方法 ( 注 2) で調べました その結果 4つの主なタイプがあることが解りました その内訳は 早く学習して早く忘れるタイプが2つ 遅く学習していつまでも記憶するタイプがひとつ 中間的なタイプがひとつでした このような手法を用いて あることを学習するときに いくつの記憶タイプが脳内に存在するかを定量的に調べることができます 今後の展望 本研究の一部は科研費 新学術領域研究 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 の一環として行われました ( 領域代表 : 太田順 東京大学人工物工学研究センター教授 ) この領域研究

では 数理モデルや脳活動を用いて 脳の状態をモニターしながら 効率的なリハビリテーションを行う方法を開発することを目指しています ( モデル ベースト リハビリテーション ) 今回開発した方法は 脳の内部状態をモニターしながら 練習効果が長く残るリハビリテーションを行うことが期待され モデル ベースト リハビリテーションの実現に向けて大きく前進したと言えます また 運動学習に限らず 外国語や数学などさまざまな種類の学習において 同様の方法で 短期と長期の記憶の場所や時間スケールの違いを解明し 効率的な学習プログラムを開発することに役立つと考えられます 本研究の一部は 日本学術振興会科研費 26120002 から助成を受けました また 本研究の一部は 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラムにより実施された BMI 技術を用いた自立支援 精神 神経疾患の克服に向けた研究開発 および 革新的研究開発推進プログラム (ImPACT) 脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現 の成果です 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :PLOS Biology( オンラインジャーナル ) 日本時間 12 月 9 日 ( 水 ) 午前 4 時公開予定 論文タイトル :Neural substrates related to motor memory with multiple timescales in sensorimotor adaptation. 著者 :Sungshin Kim, Kenji Ogawa, Jinchi Lv, Nicolas Schweighofer *, Hiroshi Imamizu( 共同筆頭著者 * 責任著者 ) DOI 番号 :10.1371/journal.pbio.1002312 アブストラクト URL( 論文公開日時までアクセスできません ): http://www.plosbiology.org/article/info:doi/10.1371/journal.pbio.1002312 6. 用語解説 : ( 注 1) 回帰分析 : 複数の変数の関係性を解析する方法 本研究では ある脳の場所における活動の強さの時間変化 ( 従属変数 ) と モデルから推定した記憶の強さの時間変化 ( 独立変数 ) の関係を解析することに用いています ( 注 2) 特異値分解 : 複雑なデータを 少数の特徴的な要素に分解する統計手法のひとつ 7. 添付資料 : 図 1 3 図 1 実験参加者が fmri 装置の中で行った運動学習課題 学習課題は2 種類あり 課題 1では 正確に右斜め上 ( 40º: 青の矢印 ) 方向にジョイスティックを動かし 課題 2では左斜め上 (+40º: 赤の矢印 ) 方向に動かした 課題 1と2を9 回ずつ交互に練習した

図 2 実験参加者が練習中にジョイスティックを動かした方向(A: 行動データ ) と 数理モデルを使って推定した記憶の形成過程 (B: 脳の内部状態 ) (A) は 21 人の参加者を平均した結果 始めは +40º/ 40º の方向 ( 赤と青の点線 ) に動かせないが 練習が増えるにつれて +40º/ 40º の方向に正確に動かせるようになる 比較のために 0º の方向に動かす条件もあり 灰色の丸はそのときにジョイスティックを動かした方向を示す (B) は さまざまな時間スケールの記憶が形成されるプロセスを示す ( 数理モデルで推定 ) 一番上は 想定した範囲で 最も短期の記憶 ( すぐ学習してすぐ忘れる ) 一番下が最も長期な記憶( なかなか学習しないが いつまでも覚えている ) その間は短期から長期まで連続的に変化する

図 3 短期から長期の異なる運動記憶が脳内に分布する様子 脳を右斜め後ろから見た図 練習時間が増えるにつれて 左の図から右の図へと運動記憶に関係する脳 の場所が変わる 連続的に変わる様子はムービーを参照 (www.l.u-tokyo.ac.jp/~imamizu/pbio.mov)