Tohoku Univ./FA/06.07.27 1 東北大学工学部電気情報 物理工学科 オープンキャンパス模擬授業 進化を続けるワイヤレス通信 ~ 携帯電話のつながる仕組み ~ 工学研究科電気 通信工学専攻コミュニケーション工学安達文幸 1. 普及する携帯電話 2. 携帯電話のつながるしくみ 3. 携帯電話の目指す先は?
あらまし 今から25 年ほど前に, 走行中の車中から電話できる自動車電話が登場しました. これが携帯電話の前身です. いまでは, 車や電車で移動していてもどこにいても電話ができ, また電子メールのやり取りやテレビ電話, そして世界中のホームページをインターネットへアクセスして閲覧できるようになりました. なぜ, どこにいても電話できるのでしょうか? どうして, 移動中でも途切れずに電話をし続けることができるのでしょうか? 音声をどのように送っているのでしょうか? ここでは, 携帯電話のつながるしくみについてお話しします. 全無線帯域幅 周波数 F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7 広いサービスエリアを多数の無線セル ( 細胞 ) に分割し, 限られた数の無線チャネルを繰り返して利用しています 無線セル 0.75~5km F6 F7 F2 F6 F7 F1 F2 F1 F5 F3 F5 F3 F4 F7 F4 F6 F7 F1 F1 F2 F6 F2 F7 F6 F2 F5 F3 F1 F5 F3 F4 F5 F3 F4 F7 F4 F7 F6 F2 F6 F2 F1 F1 F5 F5 F3 F4 F3 Tohoku Univ./FA/06.07.27 2
普及する携帯電話 Tohoku Univ./FA/06.07.27 3
限りない便利さの追求 誰もが願っているのが いつでも, どこでも, 誰とでも, どんな情報をも瞬時にやり取りできること ユビキタス社会とは, 通信手段, 情報があらゆるところに存在 ( 偏在 ) する社会 これを可能にするのは, ワイヤレスを使う携帯電話しかない. ワイヤレスはこれからの社会にはなくてはならないものになる 限りない便利さの追求 10 年毎の通信革命を引き起す 1980 年代 : 点から面へ 第 1 世代 ( アナログ ) 携帯電話 ( 移動通信の誕生 ) 1990 年代 : 電話から いつでも, どんな情報も へ インターネット ( マルチメディア通信の誕生 ) 第 2 世代 ( ディジタル ) 携帯電話 2000 年代 :+ どんな情報も 第 3 世代携帯電話の登場 2010 年代 :+ もっと快適に, オフィスなみに 次世代超高速携帯電話 多様な通信システムが協調してシームレス通信 Tohoku Univ./FA/06.07.27 4
携帯電話と固定電話の役割交代 誰もが場所と時間に縛られずに人と人との通信をしたいと望んでいる. 日本では2000 年 3 月末, 携帯電話のユーザ数が固定電話を追い越した. 携帯 : 5114.1 万 PHS: 570.8 万 固定 : 5544.6 万 これから急速に, 移動通信ネットワークと固定通信ネットワークとの役割交代と役割分担が進むだろう. ユーザー数 ( 百万 ) 70 60 50 40 30 20 固定電話 携帯 10 Year 0 1985 1990 1995 2000 2005 西暦 6122 万 @1997 年 Tohoku Univ./FA/06.07.27 7
世界の状況 世界中で固定と携帯の役割交代が進んでいる 1,400 1,200 固定電話回線数移動電話加入数 ユーザ数 ( 百万 ) 1,000 800 600 400 200 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003( 予測 ) 世界の各種電気通信サービス回線数等の推移 ITU ホームページ ITU World Telecommunication Indicators (2003 年 12 月 ) により作成 Tohoku Univ./FA/06.07.27 8
世界の携帯事情 中国が断トツ.2006 年 3 月末にはユーザ数が 4 億を越えた. 1 ヶ月当たりの増加数は 542.16 万. 350 300 335 ユーザ数 ( 百万 ) 250 200 150 100 50 0 中国 米国 153 日本 91 71 63 61 ドイツ イタリア イギリス フランス 45 ブラジル 66 韓国 37 39 38 23 スペイン メキシコ Tohoku Univ./FA/06.07.27 9 台湾 テレコムデータブック 2006 ( 社 ) 電気通信事業者協会
世界の携帯事情 人口浸透率で見るとどうなるか? 120 浸透率 (%) 100 80 60 40 20 0 中国 72 53.2 25 米国日本ドイツ 86 109 103 イタリア イギリス フランス 74 ブラジル 36 韓国 76 94 メキシコ台湾 スペイン 37 100 平成 14 年 7 月総務省統計局の 人口トピックス よりの人口データ (2001 年 ) Tohoku Univ./FA/06.07.27 10
携帯電話のつながるしくみ Tohoku Univ./FA/06.07.27 11
電波による通信 携帯電話の周波数 携帯電話 :800MHz 帯 AM ラジオ (NHK1):600kHz 電波 携帯機 無線基地局 Tohoku Univ./FA/06.07.27 12
セルラーという設計思想 全国サービス提供のためには, 電波の周波数が不足 電波伝搬の特徴 電波の強さはおよそ距離の2~4 乗に反比例して減衰 離れたところから発射された電波は干渉しない 同じ周波数を繰り返して使える 近くの基地局で同一周波数を使うと, 強い干渉を受ける 電波の強さ 強い干渉を受ける 干渉 同一周波数を使っている基地局 基地局 距離 Tohoku Univ./FA/06.07.27 13
充分離れた基地局で同一周波数を使えば干渉が弱い どのくらい基地局を離せば良いかは, 通信品質を確保するために必要な信号電力対干渉電力比 (SIR) に依存する同一周波数を使っている基地局 電波の強さ 弱い干渉 干渉 無線局 距離 Tohoku Univ./FA/06.07.27 14
セルラ - 方式の誕生 広いサービスエリア 多数の無線セル ( 細胞 ) でカバー 限られた無線周波数帯域幅 同一無線周波数の繰り返し利用 無線セル 0.75~5km 全無線帯域幅 周波数 F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7 F5 F7 F1 F4 F1 F4 F2 F3 F6 F2 F3 F6 F5 F7 F1 F6 F5 F7 F1 F4 F2 F3 F1 F4 F2 F3 F6 F5 F3 F6 F5 F7 F1 F7 F1 F4 F2 Tohoku Univ./FA/06.07.27 15
携帯電話システムの構成 交換局 : 信号の行き先を制御 ホームメモリ局 : どこにいるかという情報 ( 位置情報 ) を記憶 無線基地局 : 携帯電話機と直接通信 インタネット 固定電話網 ルータ ゲートウェイ交換局 ホームメモリ局 ローカル交換局 ローカル交換局 無線基地局 Tohoku Univ./FA/06.07.27 16
最も近くの無線基地局と通信する 携帯電話機のまわりには携帯電話機と通信する無線基地局がたくさん配置されている. 携帯電話機は最も近くの無線基地局と電波で接続されるので, 弱い電波で通信ができる. バッテリー充電周期の長期化 電波 無線基地局 Tohoku Univ./FA/06.07.27 17
通話の手順 Tohoku Univ./FA/06.07.27 18
携帯電話機の所在地域の検出 携帯電話機は移動する. 携帯電話機は, 自分が今どの地域に所在しているか常に自動的に検出している. 所在地域が分かるような工夫が為されている. Tohoku Univ./FA/06.07.27 19
全ての無線基地局は, それが所属している地域を表わす信号をいつも送信している. いわゆる, 電波の灯台である. ここは地域 A ここは地域 B Tohoku Univ./FA/06.07.27 20
新しい地域に移行したことが検出されたらホームメモリ局に報告する. 1 今まで地域 A に所在 2 地域 B を表わす信号を受信 3 新しい地域に移行したことをホームメモリ局に報告 4 無線基地局 交換局 5 ホームメモリ局 6 地域 A 地域 B に書き換え Tohoku Univ./FA/06.07.27 21
ホームメモリ局は全ての携帯機の所在地域を記憶. しかし, どの無線基地局の近くにいるかまでは記憶しない. 地域 A 地域 B しかし, どの無線基地局に近いかまでは分らない Tohoku Univ./FA/06.07.27 22
携帯電話機への着信 XX さんの携帯電話に電話する. まず携帯電話番号を送る. 地域 B の無線基地局から xx さんの携帯電話機を一斉に呼出す. 11 桁の番号 090 xxxxxxxx 携帯であることを表わしている Tohoku Univ./FA/06.07.27 23
NTT 電話網 1 ゲートウェイ交換局 2 3 所在地はどこか? ホームメモリ局 6 呼出し信号 5 地域 B ローカル交換局 4 地域 B です 6 呼出し 6 呼出し信号 6 呼出し信号 6 呼出し信号 6 呼出し信号 7 応答信号 Tohoku Univ./FA/06.07.27 24
携帯電話機からの発信 7 NTT 電話網 ゲートウェイ 6 5 交換局 4 確認 ホームメモリ局 ローカル交換局 3 正規のユーザか? 1 通信要求 2 応答信号 Tohoku Univ./FA/06.07.27 25
通話中の追跡接続 新しい無線基地局を探して, 次々と切り替える. ローカル交換局 無線基地局 Tohoku Univ./FA/06.07.27 26
音声を送る仕組み 音声はアナログ信号であるが, これをデジタル信号に変換して伝送している. では, どのように変換しているか? もしもし 音声はアナログ信号 マイク アナログ信号 時間 変換 デジタル信号 ディジタル音声信号 (1 秒間におよそ 4000 個の 0 と 1 を伝送 ) 電波に乗せる 1011010001101 Tohoku Univ./FA/06.07.27 27
音声発生のモデル のどと口腔 ( こうこう ) のモデル化 のどの声帯は音源 : パルス系列と雑音を用いて音源をモデル化 人の声に特徴を与える口腔 : 電気回路でモデル化 話す 音声波形 聞く 発声 ( のど ) 調音 ( 口腔 ) 有声音源 無声音源 + 音源情報 スペクトル情報 音声波形 電力 音声スペクトル 周波数 周波数 Tohoku Univ./FA/06.07.27 28
音声符号化の基本原理 符号帳駆動線形予測 (CELP) 音源を表わすランダム雑音を符号帳に記憶. 相手側も同じ符号帳を持つ 携帯電話で使われているのは簡略化した CELP 相手に伝送するのは, 音源情報と口腔を表わすパラメータ 聞こえてくるのは合成音! 音声波形 #1 雑音符号帳 LPC 分析 ( 口腔 ) LPC パラメータ #2 ピッチ再生 LPC フィルタ + 聴覚的重み付け ( 音源 ) 符号帳番号 #2 32 自乗誤差最小化 2 32 回の符号帳サーチ Tohoku Univ./FA/06.07.27 29
携帯電話機からの電波の送信は断続的 電波が もし見えれば 時々しか電波を出していないことが分る. 6 人まで同時に通信できる. 0.04 秒 時間 A B C D E F A B C D E F A B C D E F ユーザ A ユーザ B 無線基地局 Tohoku Univ./FA/06.07.27 30
携帯電話の目指す先は? Tohoku Univ./FA/06.07.27 31
携帯電話に起きている質的変化 通信情報の変化 最初は音声会話が中心 インターネットの影響が非常に大きい. 最近は会話だけでなく, 携帯電話間のメッセージ通信からインターネットへのアクセスが増えている ( iモード が代表格 ). 通信の目標 いつでも, どこでも, 誰とでも, 瞬時にどんな情報をもやり取りできること に変わってきた. 携帯電話 の名称のままで良いか? 名称変更したほうがよさそうである. しかし, 携帯インターネット, ワイヤレスインターネット, ワイヤレス秘書, いい名前は見当たらない? Tohoku Univ./FA/06.07.27 32
携帯とインターネットの融合 携帯 +PHS ユーザー数 2006 年 4 月末の合計 : 9700 万 5400( 人口浸透率 76.0%*) 携帯 : 9227 万 2100 PHS: 473 万 3300 インターネット利用ユーザ数 ( 携帯のみ ) 2006 年 4 月末の合計 : 8020 万 9400 i-モード : 4658 万 9700 Ezweb: 2073 万 4200 ボーダフォンライブ : 1288 万 5500 インタ - ネット利用ユ - ザ数の割合 ( 携帯 ): 86.9% Tohoku Univ./FA/06.07.27 33
2001 年に導入された第 3 世代携帯電話 第 2 世代携帯電話よりけた違いに速い通信速度 ~2Mbps (2G システムの 30~200 倍 ) DS-CDMA 技術 W-CDMA と cdma2000 周波数帯域 (MHz) 多重アクセス W-CDMA cdma2000 800/1500 800/1800 /1900 CDMA CDMA 2GHz 帯 IMT2000 ネットワーク 搬送波周波数間隔 (khz) チャネル数 / 搬送波 音声コーテ ィック (kbps) 5000 1250 最大 256 ( 下り ) 最大 64 ( 下り ) 8 ( 可変レート ) 8 ( 可変レート ) 屋内環境 ~2M ビット / 秒 移動環境 ~144k ビット / 秒歩行環境 ~384k ビット / 秒 Tohoku Univ./FA/06.07.27 34
第 2 世代と第 3 世代携帯電話との違い 現在の携帯電話が提供するのは低速のビットパイプ リアルタイム音声低速データ ~64kbps(6.4 万ビット / 秒 ) 第 3 世代携帯電話が提供するのは高速のビットパイプ 音声 / ファクス / モデムデータなどから高速インターネットに至るまで, 幅広いデータ速度のサービスを提供できる. マルチメディア 画像 インターネット ~2Mbps(200 万ビット / 秒 ) 音声 Tohoku Univ./FA/06.07.27 35
進む世代交代 第 2 世代 ( 4222 万 4200) PDC: 4138 万 4700 cdmaone: 83 万 9500 第 3 世代 ( 5004 万 8000 ) W-CDMA: 2783 万 4600 CDMA2000 1x: 2221 万 3400 1.E+08 9.E+07 8.E+07 7.E+07 6.E+07 5.E+07 4.E+07 3.E+07 2.E+07 1.E+07 0.E+00 2G 3G/CDMA20001x 3G/W-CDMA 2006.04 2006 年 4 月末の統計 2000.12 2001.12 2002.12 2003.12 2004.12 2005.12 Tohoku Univ./FA/06.07.27 36
進むブロードバンド化 ユーザは居場所, 歩行か高速移動かの環境の違いを問わず, 限りなく速い通信速度を期待している. 通信技術の進展と社会要求の進展に合わせて, およそ 10 年毎に世代が変わる. サービスタイプ音声マルチメディア 0G 音声のみ 1G ~2.4kbps アナログ 狭帯域 AMPS TACS NTT 2G ~64kbps ディジタル IS95 IS136 GSM PDC 3G ~2Mbps IMT -2000 広帯域 30~100Mbps ~14Mbps 高速パケット HSDPA ブロードバンド スーパー / ウルトラ 3G 4G ~1Gbps ブロードバンドモバイル 1980 1990 2000 2010 西暦 現在 Tohoku Univ./FA/06.07.27 37
むすび 携帯電話は進化し続けるでしょう. これからの携帯電話は, これまでの固定電話が担ってきた生活基盤としての役割を担うことになります. 21 世紀はインタ-ネットと携帯電話を中心としたユビキタス通信社会となるでしょう. ワイヤレス通信がその中心技術になります. サービスの中心はインターネット, 画像通信となり, 音声会話はその一部になるでしょう. 私たち東北大学電気情報系では, 社会をより便利にする情報通信技術の教育研究を通して社会に貢献しています. 情報通信を勉強するなら東北大へ! Tohoku Univ./FA/06.07.27 39
Tohoku Univ./FA/06.07.27 40 近未来の携帯電話 ビデオで紹介